俺らはあの日、聖霊皇になった。   作:すぺありぶ

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船旅〜前編〜

〜大地 side〜

 

 

 

俺たちは今、魔導船の甲板の上で景色を眺めていた。

 

「うわぁ〜!すごいよ大兄!思ってたよりもずっと速いよ!」

「そうだな。帆船だから…なんて言って遅いものだと思っていたが、どうやら俺たちは魔法を見くびってたみたいだな」

 

俺の言葉は嘘偽りのない本音だ。見た目が完全に豪華な中世の帆船なのに反して現代の船並みかそれ以上のスピードが出ている。

中世ヨーロッパくらいの文明度に対してそぐわない技術と魔法による生活様式は、はるかに発展しているはずの日本から来た俺らを驚かせるには十分だった。

 

「ガッハッハッハァ!どうだニィちゃん!スゲェだろう!この船は船大工共の仕事だが、動力や客室なんかはワシらが作ったんじゃ!」

「へぇ〜、おっさんが作ったのか。おっさん、武器だけじゃないんだな」

「ケッ!あったりめぇよ!こちとら天下のドワーフだ!そんじょそこらの人間共や高慢ちきなエルフなんかにゃ負けやしねぇよ!」

 

そう言ってジハッドのおっさんは小さな樽に入った酒を浴びるように呑む。

 

お?向こうで薫がこっちに手を振ってるな。

 

「大地〜!こっちで釣りしましょ!船長さんが釣竿を貸してくれたのよ!」

「わかった!今いくよ!」

 

釣りかぁ、久しぶりだなぁ。

小さい頃は、近くの川や朝早くに車で海まで行ってよく親父と釣りをしたっけなぁ…

しみじみと昔を思い出しつつ薫たちの方へと向かう。

 

そこにはパラソルの下にイスとテーブルを置いてジュースを飲みながら釣りを楽しむ薫とさとみがいた。

 

「なんだか2人とも『優雅な休日』って感じだな」

「そうねぇ〜、ここ最近は忙しかったしねぇ〜」

「そうですねぇ〜、わたしも大変でしたぁ〜」

 

早くもとろけ始めてる2人を横目に、俺も近くにいた船員さんから釣竿とイスを受け取って釣りを始める。

強すぎない程よい太陽が暖かく照らす海の上で、ゆったりと釣糸を垂らして魚を待つ。

波の音、甲板を歩く音、時折聞こえる海鳥の声。

 

ああ、本当に穏やかだ…

なんだか少し眠たくなって来たな…

 

これまでのゴードンさんやソルトさんとの鍛錬の日々を思い返しつつ、その鍛錬で疲れた身体が俺自身に一時の休憩を求めてくる。

瞼が重くなってきて、ゆっくりと椅子に体を任せていく。

 

 

その時だった…

 

 

「わ!わわ!引いてるわ!何か食いついたわ!」

 

薫の叫び声で俺の意識は柔らかな空間から引き戻される。

 

「かかったのか!?」

「うん!こんなに竿がしなってるわ!きっと大物よ!」

 

確かに薫の竿は船の下に向かうように大きくしなっている。

俺も薫と共に竿を持ち、引きずり込まれないように踏ん張る。

 

(な、なんだこの魚!?俺らの筋力はこの世界では怪力の部類なのにそれに対抗してきやがる!?…………いや、考えてもみろ。ファンタジー世界だぜ?パワーインフレなんぞ望むところだぁ!!)

 

これまでに無いような力を受けて俺は動揺するも、すぐに冷静(?)に考え直して竿を引く。

 

「う、うぐぐぅ…なんなのよコイツぅ!!」

「踏ん張れ薫!!魚が見えてきたぞ!!」

 

そう、水面にはもうそこまで来ている魚の影が見えていた。魚影からして人間より大きいのは間違いないだろう。

 

「も、もう少し…だぁ!」

「わ、わかってる…わよぉ!!」

 

もう少しとか言ってるが状況は結構ヤバい。

そうしてるうちに俺らの様子がおかしい事に気がついたのか船員さんやジハッドのおっさん、ミサたちが駆けつけてくれる。

 

「わたしたちも助太刀するわ!」

「大兄頑張って!美沙も手伝うから!!」

「おう頼む!!」

「ニィちゃん!!踏ん張りな!揚げたら後はワシに任せろ!」

 

ミサとさとみが竿を持って加勢する。それと同じくして、ジハッドのおっさんの声が後ろから聞こえた。

 

 

「いい加減にィ…しなさぁい!!!」

「とっととォ…あがぁれェ!!!」

 

 

そう言って引き上げた魚はジンベエザメのようなサイズをして、頭が鎧のようになった巨大魚だった。

 

「良くやった!ニィちゃん、後は任せろぉ!!」

 

ジハッドのおっさんの声が聞こえたと思った次の瞬間だった。

 

 

 

ズパンッッッッ!!!!

 

 

 

まるで丸太でも唐竹割りにするような音が聞こえたと思うと頭上にいた魚の頭と胴体が切り落とされる。

 

 

スパンッッッッ!!!

スパンッッッッ!!!

 

 

続けて2回、同じような音が聞こえると魚の胴が三枚に卸された。

 

 

「フゥッ………まぁ一丁、こんなもんじゃわい」

 

 

そして魚が落ちてくると同時にジハッドのおっさんが後ろに現れる。

その肩には、おっさんの身長程の大きさだろう「大鉈」が担がれていた。

 

「「「「…………」」」」

 

みんなが呆然として、モノも言えなくなる。

 

「ん?どうしたんじゃオメェら。ボケっとしよってからに」

「…お、おっさん。今の…おっさんがやった、のか?」

 

何事無かったかの様にそう言うおっさんに俺は聞いた。

 

「なーにを当たり前の事を聞いとるんじゃ!これだから最近の若いモンはいかん。自分の目で見たモンすら信じられんか?」

「い、いや。おっさんを疑ってるんじゃ無いんだが…一応…な?」

「ハッ!笑わせよるわ、何が『一応…な?』じゃ。一応も何もワシがやったんじゃよ!」

 

肩に担いだ大鉈を背中に背負った鞘に納めながらジハッドのおっさんは酒を飲み始める。

 

「ホレホレ!ま〜だボケっとしよる!野郎ども!とれたての酒の肴を持ってきやがれ!」

「ウ、ウッス!少々お待ちください!!シ、シェフ!とびきりの魚が入った!早速料理してくれ!お前らはノコギリで切り身を作れ!腐る前にありったけの樽に油漬けにするぞ!」

 

あ〜あ〜、船長さんまでこき使っちまって…

 

にしても、さっきの技は凄まじかった。甲板の上で船員さんが運ぼうとしている巨大魚の切り身を改めて見れば、その力量がバカでも分かるだろう。

 

あれだけの大きさの鉈を軽々と振るう力量、尚且つ魚を三枚おろしにするだけの技量がある。

これだけでも相当な事だ。胡散臭いアスおじさんの言う事だったから半信半疑だったが、かなりやるみたいだ。

 

「凄いわね、コレ」

「ああ、あれだけの武器を扱えてることもだが、この切り身の断面を見ればただの力業じゃないことは一目瞭然だな」

「ほぇ〜、ミサはよくわかんないけど、スゴイってのはわかった!」

「わたしも、よくわからないけど凄い事だっていうことはわかったわ」

 

さっすがファンタジー…とでも言うべきだろうかね?

正直言って、魔法を見せられた時よりもこっちの方が衝撃的だ。

 

物理法則に真正面から喧嘩を売ってるとしか思えないような鉈の軌道、150cmほどしかないだろう小さな身体ながら自らの背丈ほどもあるだろう大鉈を扱う怪力、そしてアホらしくなるほどに卓越した技量。

 

いくら俺たちが異世界からで身体がとても強化されてるとは言え、真似できるとは到底思えなかった。

 

(これはもしかして、このくらいの実力がないとこの世界ではやっていけないのでは?)

 

俺の頭はこればかりが埋め尽くしているのではないかと言うほどに混乱していた。

 

「おう!ニィちゃん!ちょっとこっち来な」

「え?わ、わかったよおっさん」

 

不意に俺の方を見たおっさんが俺を呼ぶ。

その顔はまるで「俺はお前の心を読んでいる」と言わんばかりのいやらしいニヤけ面だ。

 

(嫌な予感しかしねぇ…)

 

俺がおっさんの近くまで寄ってくると、おっさんは突然こう言い出した。

 

「ニィちゃん、勇者だからってあそこまでやろうとは思わなくてもいいぞ」

「やっぱりおっさんは読んでたか」

「ああ、わかりやすいくらいだったぜ!」

 

ジハッドのおっさんはそう言うと酒にかぶりつきながら「ニシシシッ」と笑う。

しかしその直後にジハッドのおっさんは真剣な表情で俺に話しかけてきた。

 

「あれは俺の80年近い鍛錬による成果だ。力も、技も、動きの一つ一つが地道な鍛錬の賜物よ。そのためにゃ血反吐だって何回吐いたかわかりゃしねぇ。だかなニィちゃん、まだニィちゃん達はここまで来る必要はねぇさ。まだ20年も生きてねぇんだろ?」

「ああ、まだ俺は18だよ」

「な?まだそれっぽっちだ。自慢じゃねぇが俺はもう200くらい生きてる、俺の若い頃は弱肉強食が当たり前でな。こんな文明的な世の中になってきたのはほんの最近。だからニィちゃん達はゆっくり己を磨け」

 

おっさんは俺にそう言い聞かせるとまるで漫画みたいなイビキをかきながら寝始めた。

 

おっさんが寝始めた頃、俺たちは甲板で先ほどの魚を味わっていた。

これはさっき船員さん達が、釣り上げた魚を暇な人員総出で料理したために乗客全てに無償で提供されているものだ。

メニューは案外豊富で、カルパッチョ、フライ、ステーキ、スープ、トマトやクリームで煮込んだ魚や、ムニエルにソテーと船員さん達のレベルの高さが窺える。

 

俺はステーキとカルパッチョを、薫とさとみはスープとソテー、そして美沙はステーキとスープを頼んだ。

いざ料理が来ると、広めのテーブルいっぱいいっぱいに魚料理がならぶ。

 

「さて、それじゃあ食べてみようか」

「そうね、それじゃあ……」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

俺はまず魚のステーキから手をつける。

フォークを刺し、ナイフを入れてみると肉厚の魚はかなりの重厚感がある。肉質はマグロと言うよりもクジラが近いだろうか?

そして一口分を切り分けて、食べる。

 

ソースはどうやらデミグラス系のようで、こってりとした味わいが淡白な魚とマッチしている。肉質は食べて驚いたが、かなり締まっていて肉とも魚ともつかないような柔らかさの中にホロっと崩れる不思議な食感をしていた。

 

うむ、美味い。

 

俺はステーキの興奮冷めやまぬままに、カルパッチョに手を伸ばす。

マグロに近い赤身のこの魚は、見た目に反してそこそこ脂が乗っているようで、酢をベースにしたカルパッチョソースには魚からと思われる脂が乗っていた。

 

まずは周囲の野菜を除いて魚を一切れ。

口に入れたその瞬間、甘い魚の油と酸味の強いソースとの見事なハーモニーを奏でだす。

生ではややコリコリとした弾力があるため魚が香りの強い野菜に負ける事なく口の中で混ざり合う。

 

「う、美味い……!?」

 

周りを見てみると、他のみんなも魚のあまりのうまさに驚いたようで、無言で料理を食べている。

こうして俺らは黙々と魚料理を食べたのだった。

 

 

それからしばらくは甲板や船室で各々の時間を過ごしていた。

 

その時だった。

 

 

 

「『神渡り』だぁ!舵を切れぇ!『神渡り』にぶつかるぞぉ!!」

 

 

 

船中に焦ったような大声が響き渡った。

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