戦車に関しては随分悩みましたが、火災発生号のパンターDにしました。
日曜日
「フンフフフーン♪」
鼻歌を歌いながら楽子がデッキブラシだタワシだと掃除用具を持って歩いていく。
その先には自動車部に頼んで倉庫から出してもらった二両の戦車、
ナースホルンとパンターである。
「さーてと、やりますか」
隠し倉庫の中のホコリを被った二両を洗車するためだ。
部外者には存在は他言無用だったのだが、動かすにも楽子一人では機材だ車両だでとても無理なので自動車部にお願い、洗浄も含めて整備も全部任せてくれて構わないと言ってくれたが、流石にそれは申し訳ないので辞退した。
日中のうちに外と中を綺麗にして夕方には預ける予定だ。
しかしいざ目の前にすると、大きい。
これに人が四人だ、五人だと乗り込むのだ。
「ま、何とかなるかな」
見ていても戦車は綺麗にならないので楽子は戦車に取り掛かった。
一方、セーフハウス前―――――
「む?」
ハウスに置き忘れていた体操服を取りに来た歩が入口に下げられた札を見る。
ドツカニ居リマス(訳・どっかにいます)
この札が下げられているときは、ハウス内にはいませんが近くにはいますよ、
のサインである。
鍵を開けて入るとロッキングチェアの上に制服があるのが目に入った。
札を下げた主の物であろうが、ここに入る鍵を持つ者はサバゲ部の五人しかいない。
体操服も見つけたが、今は置いて主を探すことにした。
小屋を出て見渡すが目に見える範囲には見当たらない、ならば音で探ろうと地面に耳を付ける。
普通に歩き回って探すより歩はこっちのやり方が好きだ。
精神を集中して聞くと液体が垂れるような音を拾った。
(水音・・・裏の水場か・・・)
場所を特定して行ってみると、そこでは楽子が楽しそうにパンターに水をかけていた。
横にはナースホルンが見える。
「んふふ~♪楽しみだな~皆で乗るの」
鼻歌交じりに独りごちながら。
状況把握。
楽子に声をかけようと思ったが一時その場から離れ、携帯をかける。
「・・・あ、もしもし拙者拙者、先輩今お暇でござるか?
実は・・・」
「光里、今どこに?・・・コンビニ?では一つ頼みが・・・」
「・・・お休みのところ申し訳ない。
・・・気にするな?
・・・て、何を持ってくる気でござるか!?」
「・・・ふぅ、作業用BGM流しながらやろっかな」
実に洗い甲斐のある巨体に楽子も苦戦し、盛り上がる為にラジカセを持ってこようとハウスに向かう。
「ん・・・あれ!?みんな!」
そこで愛しのメンバーに鉢合わせた。
「リ~ダ~!こういうのは呼んでくださいよ~!」
「全くでござるよ、水臭い」
「ワシらとしても戦車にはいつか乗ってみたいと思っとったしのう」
「人数でやったほうが早いですし、あとこれは差し入れです」
光里がコンビニの袋を差し出す。
中には昼間に食べる用のおにぎりやサンドイッチ、栄養ドリンクが入っていた。
「ブラシやたわしももうちょい数がいると思って」
明も道具を買ってきたようだ。
「みんな・・・!」
少しウルッと来てしまう。
「さて、では始めようかというところで・・・」
「言いたいことが一つ」
「最初見た時はツッコミ待ちしていたでござるが」
「時は来たから言わせてもらうぞい」
「「「「何故水着!!」」」」
そう、楽子は水着で洗車をしていた。
学校指定の水着ではなく、間違いなく私物のトロピカルなハイビスカス柄のホルタービキニで。
長身でスタイルの良い楽子が来ていると実に眩しい。
だが、洗車する状況で身に着けるものでは無いような。
「水に濡れることは必至だったからね!
あ、みんなの分もすぐに用意するよ!」
「「「「お構いなく!!」」」」
四人は体操服を身に着けていて、楽子は残念そうにしたがそれは一瞬で、下着が透けることを瞬時に理解したところ、顔めがけてタワシを投げつけられた。
「汚れた戦闘車両がありますけど乗りますかぁ!?」
「その前にボディウォッシュじゃそれぐらい分かるじゃろう!」
「うわっ!ゴキがぁあああっ!」
「森へお帰り」
「計器類は乾拭きでござるか?」
「うん、内部は水入れなくて大丈夫だよー」
「レオD貰うぞーい」
「あ、こっちにも下さい」
「先端に付いてるこの棒は何ですか?」
「車幅棒だよー」
「中狭いのう」
「居住性は考えてもどうしようもないですからね」
「戦うのが仕事、だから戦車だしな」
「オニギリもらーい」
「焼き昆布醤油は私のです」
「某茎わさびとろろ」
「オープントップは洗いやすいですね」
「天気が良い日はナースホルン、悪い日はパンターでお出かけしようね」
「窮鼠猫を噛むかで、戦車対一人やりますか」
「随伴歩兵もいない、援護も無い戦車は壊してくれと言っているような物です」
わあわあと騒がしい洗車は三時頃までかかった。
もう少し早く済むかと思いきや、ここを洗えばそっちが気になる、そこを洗えば
こっちが気になると徹底洗浄の結果だ。
「いやぁ時間かかったけど綺麗になったねー」
「実に爽やかじゃのう」
「はぁーさっぱりさっぱり」
「逆に私達が汚れましたけど」
「必要な代償でござる」
楽子が携帯で連絡を入れると程なく自動車部が運搬車両に乗って現れた。
「わぉ、ピカピカじゃん。それじゃ二両、確かに預かるよー」
「ナカジーヨロシクね」
「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願い致す」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますぞ」
「じゃーねー。あ、らっきー、その恰好風紀に見つかったらうるさいことになるか
もー。委員の部屋に明かりついてた感じだからー」
風紀というの言葉に一同渋い顔になる。
楽子はしょっちゅう怒られていてあまり気にしている様子はないが、他四人はジャッジメントクローンのオリジナルに持ち物を没収されかけたりと良い印象は無い。
この現状を目撃されると恐らく日曜といえど学園をビキニでうろつくこの三年生が粛清の対象になり、身内のこっちにも火の粉は間違いなく飛んでくる。
いや、飛ばしてくるだろう。
忠告も受けたので二両を見送り、取りあえずこの日は終了。
納車は来週の日曜とのことだ。
「シャワー浴びてーよーい」
「日本人は風呂でござる」
「それは同感じゃ」
「大洗学園スーパー銭湯行っちゃう?」
「賛成します」
事前申請で使える合宿所用の地下銭湯なのだが、空いてるなら使っちゃおうと楽子が以前皆を引き連れて行ったことがある。
大浴槽に檜風呂、ジェットバスに打たせ湯、ジャグジー、ミストサウナと行きたい見たい入りたいと思わせる要素満点なのだ。
着替えも持ってきていたので異論無し。
皆で大浴場に突入し、浴場で欲情しかけた楽子を湯船に沈めつつ汗を流して疲れを落とした。
「先輩はもう寮にお帰りで?」
「ちょっと買い物してからねー」
一週間後の日曜日
この日を皆楽しみにしていた。
授業中でも戦車に乗るのを想像して違う教科書を読んでいたり、思わず対戦車ライフルのガンを買ってしまったり、戦車関係の書籍を買いあさったりし、購入した中にあったパンターのマニュアル的な本、「パンターフィーベル」を読んだりしていた。
納車された車両、欠陥号パンターDに乗り込みサバゲ五人は行くことにした。
その後を自動車部がナースホルンを運転してついて行く。
「それじゃぁ乗ってみようか」
「確か役割がありましたな」
「車長、砲手、装填手、通信手、操縦手ですね」
「ちょうど私ら五人だしいいよね」
「さてポジションは・・・車長はリーダー確定として」
「え!?私はなんでもいいんだよ!?他に車長やりたいって人は・・・」
「はーい装填手やりまーす!徹甲弾でも榴弾でもねじ込んでやる!」
「某操縦手を、こう見えて普通、大型、大特、特大免許在り、忍なれば基本」
「ほいじゃワシは通信手を、第一級アマチュア無線技士の免許あるぞい、戦車でやるのは初めてじゃが」
「あとは砲手ですが、まぁ私ですね」
つまり残りは車長のみで、
「わぁい!責任重大だ!」
いそいそと各部から乗り込む。
暗い車内だが、日中でもあるし入っていると目も慣れてくる。
ごそごそと各自が身の回りのチェックをしていった。
「無線機装着、車長シーズンより―各員聞こえますかーどうぞー」
「通信スプリング、感度良好じゃのう」
「操縦オータム、各部異常無し」
「装填サマー、砲弾準備良し、主砲もご機嫌の様子でーす」
「砲手ウインター、ハンドル、テレスコープ等問題無し
・・・車長へ、私のほぼ背後ですが変な真似をすれば私はPPKを抜きます」
「車長より・・・・・・・・・・・了解」
(えらく間があったなぁ)
(やる気じゃったな)
(残念さがあからさまでござる)
「じゃあ、エンジン入れてみてー」
「承知」
スターターキーを引っ張りエンジンが始動する。
騒音と揺れに支配される車内。
「これはやかましいのう」
「ヘッドフォンとマイクが無ければロクな車内の会話ができませんからね」
「エンジンも良好だね、それじゃ目的地の学園裏の小山地帯へ出発―。
あ、ゆっくりでいいからね」
おっかなびっくりと動き出すパンター。
しかし不安げな操縦もだんだん無くなり、安定した速度でカーブも坂道もなんのそのでずんずん進んでいく。
その後を全くぶれない動きでわぁわぁと話し合いながら自動車部のナースホルンが続く。
ほどなく目的地の裏山の中の開けた平地に出た。
「ここで停車、次は・・・・・撃ってみようか?」
「!待ってました」
「何を撃ちますか?何発撃ちますか?」
明と光里が撃つの言葉に反応する。
「本日の目標は・・・あちらです!」
四人が戦車各部から顔を出して見てみると、離れた平地の中の盛り上がった土のところに黒丸の的やT-34の絵の描かれた実物大ボード、大当たりと書かれた的まで色々な物がある。
「いつの間にあんな物まで用意を・・・」
「リーダーが主体になって自動車部のノリノリの協力らしいのう」
前に風呂に入った帰りに戦車用品を扱う店に行ったらしく、砲弾類の手配もその時に済ませていたのだ。
自動車部も貴重な戦車のデータが取れると諸々に手伝ったらしい。
「はいはいこちら中嶋。この先の砲撃にはナースホルンも参加するよー
それじゃスタートで」
その通信に二人が反応する。
「明先輩装填を」
今回積んでるのは徹甲弾のみなので間違えようもなく、装填手の明が砲弾を取り出して装填する。
「徹甲弾装填!・・・装填中!・・・・・装填完了!
吹っ飛ばしちまえ!」
抱えるように持った砲弾を押し込む。
「撃てます、車長、砲撃許可を」
「狙いの付け方は大丈夫?」
「問題ありません、目標は大当たり的です」
「それじゃ・・・発射っ!」
合図と同時に7.5cm砲が火を噴いた。
「うぉっ!」
「ぬぅっ!」
「っ!」
大きく車体が揺れ、砲の排煙で車内が少し曇る。
「・・・確認中・・・・目標・・・目標の撃破を確認!当たりだよ!」
「グッドキル!」
「一撃必殺、見事にござる」
「大したもんじゃよ!」
「問題ありません、パンターの照準器が狙いやすいだけです」
素っ気ない態度をするが、実は光里が内心喜んでいるのは全員分かっている。
「それじゃどんどん撃っていこうか!」
「「「「おーっ!!!」」」」
の、矢先――――――――轟音。
直後、地を揺らす程の爆音とともに的が集まっていたエリアが土を巻き上げて盛大に吹き飛んだ。
「なんだ!?」
一同が身を乗り出すと的が、的があった場所に変わり、盛り土も姿を消している。
小さな窪地が出来上がっていた。
はっとして背後に目をやれば、自分たちからさらに後方に轟音の主ナースホルンが見えた。
今のはナースホルンの8.8cm対戦車砲の生み出した破壊だったのだ。
「ごめん、やっちゃったー」
通信から中嶋の声が聞こえる。
反省というよりはてへ、失敗失敗的な感じに聞こえる。
角度を調節して直撃ではなく、近くに着弾させて的に当てる目論見だったとは思うが。
「ミンチよりひでぇや」
「主砲の格差社会ですね」
「一網打尽にされたか・・・」
「ここまでされると感心じゃよ」
四人の驚きと呆れの感想が聞こえる中、楽子は一人大笑いであった。
その後、新しく設置した的を巡り、双方派手な打ち合いを演じたのは言うまでもない。
書くにあたって色々と資料も買って読んでみましたが、難しいです。
資料にもあっちの本とこっちの本では微妙に違っていたり、器具の言い回しもばらばらだったり
と機械系の物は大変です。
本の中に翻訳版パンターフィーベルが付いていて、それを見てもかなりさっぱりでした。
言い訳ですが、文中に無いわ的な物もかなりあると思います。
自動車部のセリフがアニメでも少なくて口調も難しい・・・。
もし、こんな感じで許していただけたら、次回は大洗に戦車道が復活する話になると思いますので
どうかよろしくお願いします。