もう1人の主人公 作:おもち
トキワシティのジム。運が良ければジムリーダーが居て、さらに運と機嫌と都合が良ければジム挑戦ができるという、なんとも公私混同した最初のジム。此処を最後にするという手もあるが、残り数%の希望を捨てたくはないので、街の中心部へ向かう。
貼り紙には、案の定ジムはお休みと書かれている。
そんなに某マフィアの頭首というのは忙しいのか。というより、
まあ、R団の考えることは永久にわからないだろうし、今のうちにレベル上げとイーブイとの初対面を済ませてしまおう。
そう考え、最低限の荷物を持ってトキワの森へ向かう。
太陽が輝き、手にじっとりと汗を掻くような暑さの中、トキワの森は生い茂った木々で心地よい日陰を作り出していた。
タオルで汗を拭きながら、人間が通れるよう定期的に草刈りがされている道から外れ、獣道(ポケモン道?)に足を踏み入れる。
住み着いているポケモンを、レオンの圧だけで牽制しながら奥へと進むこと、10分後。ツタのカーテンが垂れ下がるところをくぐり抜けると、太陽の光が程よく差し込んだ広場に出た。
「久しぶりだな、レオン。よく此処で修行したっけ」
「ピカー」
フレアとアクアを出し、中央に円を描くように座る。
「さて。イーブイとの顔合わせだ。そのあとは、最近新入りが立て続けに入っていたからな、とりあえず中断していた修行をする。メニューはだいたい決めた、あとは気合いだけあれば充分だ。行けるな?」
返事を聞き、準備は整っていることを確かめる。
「よし。じゃ、出すぞ」
モンスターボールを真ん中に置き、ロックを解除して大きさを戻す。もう一度、カチリ、という音がするまでセンタースイッチを押し込み、展開する。
光のエフェクトの中から現れたイーブイ。そいつは、こちらを見た瞬間森の中へと駆け出した。
「おい、待て!」
「ピカ!」
俺が立ち上がるより早く、レオンがでんこうせっかで加速してイーブイを追い掛ける。
「レオン!」
「ピッカー!」
頼むぞ、という思いを込めて声をかけると、遠くから返事が返ってくる。とりあえず、フレアは早いうちに訓練し、主人公ズにいじめられないようにした方がいい。リュックサックの中から一枚のレポート用紙を取り出し、2体に渡す。
「すまん、これやっといてくれ! 俺は追いかけてくる!」
返事を聞くより先に、俺は駆け出していた。
あのイーブイは、もともとトレーナーに飼われていた。
一瞬見たところ、まだ体も小さかったことから、あまり生まれてから間もない頃に捨てられたと考えられる。捨てられてから俺に引き取られるまでは、ほとんどの時間をモンスターボールの中で過ごしていたそうだから、野生ならば知っているべきことを知らないはずだ。
レオンも野生ではないが、小さい頃から俺とトキワの森に入り浸り、草むらで遊んでいたから、野生の勘や知識は持ち合わせている。だから、トキワの森にたったひとりで放つこともできる。
だが、イーブイはそうもいかない。毒にやられたらどのきのみを使ったらいいのかわからない。野生の危険なポケモンの縄張りがある可能性も知らない。
それをわかっていたから、レオンはすぐ追いかけた。
「ゲッコウガがいたら良かったんだが、居ないしな。こちらシアン、レオン、追跡だ。絶対逃すなよ」
『ピッカ』
当たり前だよ、という頼もしい答えがスピーカーから流れる。
俺が持っているポケギアは、レオンが隠し持っている無線機と繋がっており、GPSによって位置も特定できる。
俺は、もう一度レオンに呼びかけた。
「いいか、そのまま頑張ってくれ。俺は何か良い手がないか探してみる」
「ピ———ビ!」
レオンが急加速した音を聞き流しながら、俺は戦略を練り始めた。
「おーい、スピアー! コクーンが道端でラッタにひかれそうになってたぞー! 怪我の応急処置はしといたから、引き取ってくれないか?」
たまたま見つけたコクーンを抱えて、俺はスピアーの縄張りに足を踏み入れた。
すぐに下っ端と思われるスピアーが現れ、コクーンを回収していく。そして、新たに来たスピアーに案内され、更に奥へと進んでいく。
その先には、一体のスピアーが———死線を潜り抜けたと思われる傷を身体中につけ、更に普通のスピアーよりふたまわり以上大柄なスピアーが、待っていた。
「やあ、俺はシアン。コクーンを一体助けたついでに、協力して貰いたいことがあるんだが、いいか?」
スピアーは動かない。話の続きを待っているように見えたので、続ける。
「まあ、ちょっとお手間を借りるだけだ。実はな———」
俺の言葉に、スピアーはゆっくりと頷いた。