Fate/Grand order 虚構黄金都市ウルク   作:Marydoll

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能登が結婚したショックで更新が遅れてしまった(大嘘)


暗躍、それと悋気

冷たい瞳が、また此方を向いた時には、既に俺たちの態勢は整っていた。

いつでも戦える__マシュの陰に隠れて、ダ・ヴィンチちゃんやシャムハト、師匠の力に頼らざるを得ない弱い俺でも、けれどこの場から逃げようという考えは毛頭存在しなかった。

それは長い旅路で培った自信と、なによりも『男』としての矜持があったからだった。

『彼女』が俺を守ろうとしているのに、俺がその覚悟に応えないわけにはいかないのだから。

 

「…………それにしても」

 

乾いた声だった。

独り言つようにして__事実、俺たちに向けての言葉ではなかったのだろうけれど__女神は空気を弾いた。冷ややかな視線は未だに此方を穿つように、しかし焦点が定まっていないように、俺たちの方を向いていた。それはまるで、風景の一部に眼を凝らすようであった。灰色に塗れた景色に、意識の丈を注がなければいけないほどに、イシュタルは俺たちへの興味が薄かったのだ。

マシュが身動ぎするのをぼんやりとした視界の端で捉えた。ダ・ヴィンチちゃんが、彼女の肩を優しげに撫で、慰めた。モノのように扱われる、というのは、彼女には少し堪える体験であろう。

イシュタルに応えたのは、落ち着いたように俺たちのそばまで歩み寄ってくるシャムハトだった。

 

「どうかなさいましたか、神イシュタル」

「ふふ、取り繕う必要はないのよ。無礼と言わないわ。ワタシはこれでも、あなたには感謝しているんだから」

 

シャムハトは眉根を潜めて、イシュタルに振り返った。気に障った、というよりはそもそもイシュタルの言動に理解が及ばなかった、というように。

くすりと笑みを浮かべたイシュタルに、言葉をぶつけたのは、彼女の後方で胡乱げに肩を潜めた萌黄色の『彼』だった。

 

「お前にそんな『機能』が存在していたなんて驚きだよ。嘘はつかないんじゃなかったのかい」

「嘘ではないわ。ホントのこと。あの娘を、あんな風に育てられるなんて、ワタシには出来ないもの」

「お前はそもそも、ナニにも慈愛を与えることなんてできないだろうに……」

 

エルキドゥの辛辣な言葉にも、ただ首を竦めるだけであった。女神というには、少しばかり人間味に溢れた仕草に感じられた。

「当然ね。神が人に感じ入るのは愛ではなく嘆きよ。慈悲を持って、ワタシたちは人を慰めるの__そうでなければ……ふふ、うっかり壊してしまうもの」

「その無遠慮さが、『彼女』に嫌われる理由だろうに」

「失礼なこと。嫌われてなんかないわ。ただ、恐れられているだけ」

 

イシュタルの微笑みに、シャムハトは幾ばくか陰を感じる声音で問いかけた。

 

「…………それで?」

「そこの人間に伝えておきなさい。あなたはワタシの巫女なんだから」

「____彼には関係のない話です」「そうかしら? ならば、なおのこと伝えておくべきね」

 

なんのことか。

そう尋ねるよりも先に、イシュタルは言った。

 

「____この世界は、それが手を出さずとも、勝手に消滅するわ。所詮ただの、痴話喧嘩なのだから……ね?」

 

 

 

 

「痴話喧嘩で国を破壊するのは、如何なものかと愚考しますが、王よ」

「貴様は一々差し出がましい女郎だな、シドゥリ」

「それが私の役目ですので」

 

玉座に腰掛ける僕の膝で、ギルガメッシュは欠伸をした。猫のように伸びをしてから、静かに喉を鳴らす。

あの女神の祭祀である女の言葉を右から左、左から右と聞き流しながら、彼女は僕の肩に頭を擦り付けていた。

彼女の甘えたがりは、かねてより片鱗を見せていたけれども、まさかただ一夜を経るだけで、これ程露骨になるとは、誰もが思いもしないことであっただろうか。呆れたように目を細める女に、ギルガメッシュは唇を突き出して、己の言い分(言い訳ともいうけれど)を主張する。

 

「そもそもあれは痴話喧嘩などではない。痴れ者に誅を下さんとする、私の責務だ」

「口先だけの言葉は、いずれ貴女の信ずるものさえ疎かにするものですよ。はっきりとこう仰ればよろしい。『恥ずかしさのあまり、思わず手が出てしまった、初心にすぎる私の責任だ』」

「…………あそこは、もとより取り壊した後に、再興を図る予定の区域だ」

「廃墟の群れを更地にするのが貴女のいう『取り壊し』なるものであるならば、私から言うことはありませんが」

「……………………私は悪くない」

「善きか悪しきかを問うているわけではありませんが」

「…………………………………………うるさい」

 

悪気はなくとも、悪い気はしていたのか、徐々に勢いを失していくギルガメッシュは、最後に一言だけ萎む言葉尻を引き絞ってから、また僕の首筋に顔を埋めた。

思い返してみれば、僕としても、やりすぎたのではないかという思いがあったため、彼女の擁護をすることはなかった。

実際として、聴衆の面前で頭を撫でられたのが恥ずかしくて街を破壊したのだ、と説かれても、納得する人間の方が少ないのではないだろうか。

 

「ただでさえ国の存亡が掛かっているこの時期に、あまり粗相をなさらぬようにお願いしたいものですね____エルキドゥ殿」

「…………えぇ?」

 

完全に傍観に徹していた最中に、突然声をかけられて、頓狂な返事をしてしまう。女はそんな僕に、溜め息を堪えるように肩を揺らしてから、続けて言う。

 

「朋友にしても、恋仲にしても、貴女が王と共にあるというならばこその話です。宥めるのならばともかく、煽り立てるのであれば、些か以上に問題であるかと」

「黙っていればシドゥリよ、随分な物言いではないか」

「そのまま暫くお静かに願えますか。後が支えておりますので」

 

ギルガメッシュがぐっと、堪える様を抱きすくめた躯から察する。傍若無人を気取るギルガメッシュも、毅然とした彼女の物言いには押されている。

その上、事実、報告に赴いた兵士たちが今か今かと待ちわびる様子を、彼女の背後に臨むためか、口を閉ざして大人しくすることを選んだようだった__尤も、彼女の存在が胡乱ならば、その場から除けば良いものを、ギルガメッシュも、彼女のような趣の者を相手にするのは苦手らしい。必要ならば恐れと権威よりも実益と信念を重視する彼女の有り様には、さしものギルガメッシュも、多少の忖度は許してしまうようだった。

道理に叶えども、常に正義であることが出来るとは限らないということを知るその女は、小さくため息をついてから、かぶりを振る。

 

「それでは、私はこの辺りで。そもそも我が神の言伝を済ませたならば、慎ましやかに退散するつもりでしたので」

「慎ましやか……?」

「随分好き勝手に言っていた気がするがな……」

「それでは」

 

何か言いたげであった女は、けれど一切を呑み込んでから出口へと向かう。ギルガメッシュは、その背中をじとりと見つめて、はあと息をつく。

そんなありふれた日常が、終わりを迎えるまで、幾ばくも時間は残されていなかったけれど。

僕は、ギルガメッシュの髪の毛を撫でつけながら、猫のように身をよじらせる彼女の薫りを、噛み締めていた。

イシュタルがこの国を攻めて来る、四日前の出来事であった。

 

 

 

 

「いやはや、困ったこまった。年寄りをここまで働かせるなんて、あの女王様も人使いの荒いものだ、まったく」

 

「私のことを最初から勘定に入れて物事を進めようとするのは、まあ妥当といえば妥当かな。私も、こんなつまらない寄り道のせいで、バッドエンドになっちゃうのは本望ではないからね」

 

「あとは君の気力次第だよ、ギルガメッシュ__ふふ、それとも◼︎◼︎と呼ぶべきかな」

 

「君の物語も、この幻想の都から見届けるとしよう。悪くは思わないでくれよ、覗き見るのも夢魔の特権のようなものなんだからね」

 

 

 

壮大な連邦を遠巻きに眺めてから、ギルガメッシュは小さく舌打ちをした。それから苛立つ様相を隠すこともなく、私を胡乱げな視線で射抜く。

 

「お前は、つい数刻前の命さえも憶えていられないような愚かな女であったか? 魔女めが」

「あら、監視も対策も万全の状態で執行されているわ。貴女ならば解っていることでしょう?」

 

ギルガメッシュは鼻を鳴らし、また山々を望み始めた。しかし、先とは違い、次に睨めつけるのは高くたかくへと上り詰める噴煙を撒き散らす、巨大な火山の__そこに聳え立つ神殿の方であった。

彼女が思うのは、かの神か、それともかの『盟友』か。

とはいえど、為さねばならぬことは変わらぬ以上は__結局、どちらも討ち倒さねばならぬというのならば、その感傷はきっと余計なものであるのだろう。

ギルガメッシュの痛ましい躯を嘆きながら、そのような冷徹な思考を為してしまう己の陰鬱さには少しばかり悲しみを抱かざるを得ないが、死した今となってはそれこそ無駄な感傷である。

 

「………………」

「………………どうぞ?」

「仮にも太陽の神格たるあのバカさえも、犬の躯を嫌ったというならば、私の策も無謀とは言えまい。はっきり言わせてもらうが、イシュタルなど私にとっては障害にすらなり得ない。最も警戒すべきは、あの泥人形だ」

「ええ、そう」

「仮にもエルの遺骸を擁した機能を有するならば、間違いなく私に匹敵する。あの施しめであっても時間稼ぎがやっとであろう」

「…………そう」

 

彼女の慧眼を疑うことは勿論ない。しかしそれにしても、だ。いちいち物事の規模が私の想定を容易に超越してくるせいで、彼女の言葉にどうにも引っかかりを覚えないのである。端的に言えば、理解不能である。

とりあえず、ギルガメッシュとエンキドゥが、かの施しの英雄よりもはるかに強いと、つまりはそういうことであろうか。

 

「まあ、良い。まずはつまらぬ余興を終わらせる。抜かりなくやれよ、裏切りの魔女」

 

私たちに求める余興とやらのハードルが高すぎることに、多分気づいてないないあたり、ある意味信用の証なのであろうが。

無茶を強いられるこちらとしてはたまったものではないのだ。

 

 

 

 

「これは少し困りましたねえ。形振り構わず、とはまさにコレのことでしょうか?」

 

「獣を狩るのはこれでも得意でね。まずはその醜い皮を剥ぐことにしたよ、太陽の顕れ」

 

「あらあら、自虐も過ぎれば哀れなものですねぇ。その醜い『身』を、他人の『側』で取り繕った獣風情が、私によくもまあそのような口を聞けたもの」

「それに、君なら死んだところでギルも怒りはしないだろう? 神性の輩をそばに置いておくだなんて、形振り構わずというなら君達の方こそだろう」

 

「…………本当に哀れな人形だこと。その頭蓋、あの娘に見せる必要もありません__その泥に塗れた醜悪な亡魂、妾の威光で焼き尽くすこととしよう。さあ、言祝ごうか、その儚い命の躍動も…………なんたる無様であろうか、とな」

 

「それが、慈悲……それとも嘆き、かな。どいつもこいつも、本当に自分勝手なことだね、ギルガメッシュ」

 

 





一年ぶりに更新したと思えば短い上に中身もない文章を書く作者がいるらしい。

ところでいつになったらマーリン復刻するん?

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