伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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※改訂版ホウエン編以降、主要キャラ以外の戦闘はジムリーダーなどであっても省く方針にしました。ご了承ください。


第十四話 リーダーの資格

─5月18日 正午 カイナシティ 港─

 

 船はカイナシティの港に錨を下ろした。

 そしてこの日、伝説の夫婦がこの地に降り立つ。

 降りたとほぼ同時に一人の男が駆け寄ってきた。

 

「もしかしてレッド君と……エリカさんかい?」

「え……はい。そうですけど」

 

 レッドは当惑気味に答える。

 男は白衣にショルダーバッグをかけ、やや小太りななりをしている。

 

「あら。オダマキ博士ですか」

「え?」

「ウツギ博士が仰せになっていたではないですか。カイナの港で待っていると……」

 

 レッドは少し間をあけて

 

「そういえば……思い出した」

 

 レッドはここ数日の出来事でウツギの言っていたことを一時失念していた様子であった。

 

「良かったー。どうやら間違いじゃないみたいだね。じゃあ改めて。私はオダマキ。ミシロで研究所を開いているんだ。ウツギ博士から話は聞いてると思うけど、君たちがホウエンに来た記念にうちの研究所から旅立った人間に与えるポケモン……いわゆる御三家のポケモンを渡そうと思ってね」

「ええ。聞き及んでおりますわ」

 

 エリカは澄ました表情で返す。

 

「うん。それじゃあ話は早い。行こうか」

 

 そう言ってオダマキは港の出口へ向かい出て行った。

 出口の横にある壁には『ようこそ 国と人とポケモンを結ぶ玄関 カイナシティへ』と装飾されて書かれた看板がある。 

 これを見てレッドはいよいよホウエンに着いたのだということを自覚し、決意を新たにした。

 

「貴方、どうされました」

「いや、なんでもない。行くよ」

 

 そう言って彼は彼女に少し遅れて続いた。

 

―カイナシティ ホウエンの港町。ポケモンコンテスト会場などの娯楽施設の一方港町であるが故にカイナ市場の経済的な施設もある。しかし、かつては日本海軍の工廠だったという歴史的背景もあり造船所や海の科学博物館等海関連の施設が一番の特徴である。ここまで色々と揃っているがポケモンジムは無い。

 

─カイナシティ 港出入り口─

 

 港から出ると、黒地にAの字をあしらった意匠をしたバンダナを頭につけた男たちが散り散りになって去っていくのが見えた。

 

「なんなんだあのガキ! バケモンみたいな強さだな」

「知るか! とりあえずアジトまで逃げるぞ!」

 

 というふうな事を言っているように聞こえる。

 

「止めたほうがいいでしょうか」

 

 レッドはモンスターボールを持って構える姿勢をした。

 

「いや。待つんだ! 今行くのは危険だ。何をするかわからないぞ」

 

 オダマキはそう言って制する。

 そう言うや否や待機していた別の男に合流したかと思うとバンダナをつけた男たちはその男の持っていたポケモンに乗って飛び去ってしまった。 

 

 

「い、一体何なのですかあの集団は」

「さあ私にも何がなんだか……おや。あれは」

 

 下っ端と思しき男から大きく遅れて白い帽子をかぶった少年が息を切らせてやってきた。

 

「ま、……間に合わなかった……」

 

 少年の速力と持久力では大人の彼らには追いつかなかったようである。飛び去る男たちを見ながら少年は膝を押さえて息を荒くしていた。

 

「ユウキくんかい!?」

 

 博士が心配そうに駆け寄るとユウキは顔を見上げる。

 

「あ、あれ博士! どうしてこんな所に……」

「それはこっちのセリフだよ! ユウキくんこそどうしたというんだい?」

 

 ユウキは先に自らの方を説明した方がいいと察したのか息を整えた後に話し始める。

 どうやら船の科学館でアクア団と名乗る組織が館長を脅し、船のパーツを奪おうとしたところに割って入った所団員たちは蹴散らしたもののパーツはすんでのところで奪われてしまったという。

 それで追いかけてるところを偶然オダマキが目撃したということだ。

 

「そうかそれは災難だったね……」

「あの、こちらの方は……?」

 

 エリカが間に入ってすまなそうな様子で尋ねる。

 

「ん? ああ、この子はね、うちの町から旅をしているユウキって子だよ。数年前にジョウトから引っ越してきたんだ」

「へぇあのジョウトからか……」

 

 レッドは関心ありげに聞いている。

 すると、ユウキがこちらに気付いたようだ。

 

「あ……あれ!? お二方はもしかして……」

「おおユウキ君さすが目ざといねぇ。そう。あの生ける伝説の夫婦、レッド君とエリカさんだよ」

「で、伝説なんてそんな大げさな……」

 

 レッドは謙遜ぶっているが内心は満更でもなさそうだ。

 

「わぁ……! ホウエンに来てくれたんですね! すごく嬉しいです!」

 

 ユウキは目の色を変えて舞い上がっているように見える。

 

「ハハ……。ところでさっきの組織また厄介そうだな……。俺らでよければ手伝うけど」

 

 レッドはユウキに提案するが彼は頭を横に振った。

 

「いえ! お二人の手をわずらわせるまでもありません。僕一人のちからで何とかしてみせます」

 

 ユウキは自信たっぷりな様子で胸を叩いた。

 

「まあ。頼もしいですわね……」

 

 エリカは心の底から感じ入ってるようだ。

 

「へへ……。そういえばオダマキ博士、どうしてここに?」

「これから二人には特典として、君にもあげた最初の三匹のポケモンをあげにミシロまで一緒に行くんだよ。……と、ユウキくんはここに来たってことはバッジは……」

「はい! カナズミとムロで二枚持っています! これから北のキンセツシティに行って次のバッジを取りに行こうかと……。あとアクア団とかいうのも気になるし」

 

 ユウキは二枚のバッジをケースから誇らしそうに博士に見せている。

 

「へぇ……旅立って二ヶ月もしないのに二つだなんて凄いじゃないか! その調子で頑張るんだよ。あと図鑑も宜しくね」

 

 ユウキは返事代わりとばかりに深く頷いた。続いてレッドが言う。

 

「うん……なかなかに見込みあるな。いつかもっと強くなった時にでも勝負しようぜ。ユウキ」

「そうですわね……。その際は私もお手合わせ致しますわ」

「は、はい! その時は是非お願いします。おっと……そろそろポケモンを休ませに行かないと。それじゃあ博士、レッドさん、エリカさん! また!」

 

 そう言ってユウキはさっきの疲れはどこへやらとばかりに駆け出していった。

 

「元気な子ですわね」

 

 エリカが微笑ましいような表情で言うと、博士は黙ってうつむいた。

 

「あれ、博士どうしたんですか?」

 

 レッドが尋ねる。

 

「あ、いやね……。ユウキ君ああ気丈に振る舞ってはいるけど、実はリーダーを務めているお父さんの事で少々気がかりな事があるみたいで」

「へぇ」

「私も彼とは同じ大学の同期だったから色々と親しくしているんだけど。彼、元気がないんだよ」

「そうなのですか……心配ですわね」

「うん……。あとこれは別に悪いことじゃないんだけど、前はもっと仕事人間で家にはそんなに帰っていなかったのが最近……いやここ数週間くらいはよく見かけるんだよ。どうも気がかりでね……」

 

 オダマキはやや顔に影をのぞかせる。本当に心配しているようだ。

 

「差し支えなければその方の御名をお聞かせ願えませんか?」

「センリさんだよ。エリカさんなら多分会ったことあるんじゃないかな。あの人ベテランだし……」

 

 エリカはすぐ誰か分かったようで

 

「あぁ……数年ほど前にコガネでジムリーダーをされていた方ですわね」

「え!? てことはあのじゃじ……アカネさんの先代?」

 

 エリカは頷いて続ける。

 

「ええ。その通りですわ。コガネは商工議会をはじめとする街の意見が強いせいか他の街に比べリーダーが代わりやすいのですけれど、それにしてもセンリさんの異動は突然で驚いた記憶がございますわ……。リーダーになったばかりの頃ご指導をいただいたり何かと気にかけてくださいましたわ。そんな方が今そういうことになっているだなんて……」

 

 彼女はショックを隠せない様子だ。かつて同じリーグに所属していた人間の変化を知って心の中に刺さるものがあったのだろう。

 

「あぁこんな話をしてごめんね。それじゃあ、行こうか」

 

 こうして博士のオオスバメに続く形で二人はミシロタウンへと向かった。

 

―ミシロタウン 森に囲まれた緑豊かな所。

ポケモンと人々がのんびりと過ごす町である。

ユウキ、オダマキの家があり、ホウエン第一のポケモン博士、オダマキの研究所もここにある。

 

 

─午後2時 ミシロタウン 研究所前─

 

 研究所の前で三人は降り、そのまま中に入っていった。

 モンスターボールの入ったカバンを持ってきて、それを二人の前で開けた。

 説明の後二人はそれぞれキモリとミズゴロウを選んだ。

 

「博士。ありがとうございました」

 

 二人はそう言うと深々と頭を下げる。

 

「いやいや。当然のことをしたまで。ホウエン地方は緑豊かでとても散策しがいのあるところだよ! 君たち二人も是非堪能して欲しいな。バトルもいいけれどそういうところも忘れずにね。それじゃあいってらっしゃい」

 

 そう言ってオダマキは二人を送り出した。

 

─101番道路─

 

「いよいよか……」

 

 101番道路に入るとレッドはふとそう呟いた。

 ここからがホウエン地方の旅の始まりである。

 

「ここからは私たちにとってまさに未知の地方ですわ。不安もありますけれど、やはりとても心躍るものがありますわね」

 

 二人は歩きながらそんなことを話していた。

 上空にはスバメが滑空し、植え込みではケムッソが葉っぱの上を進んでいる。

 いずれもこれまでの地方では全く見かけなかったポケモンである。二人は新緑の風に胸を膨らませつつ歩みを進めていくのだった。

 

──

 

 二人はコトキタウンと102番道路を通り過ぎ、トウカシティへ到着した。

 

―トウカシティ ここもまた森に囲まれた街だが、コトキやミシロに比べれば幾分か発展している。ユウキの父・センリはここにジムを構えている。

 

─5月26日 午前9時 トウカシティ─

 

 トウカシティに到着するとコトキで購入したトレーナーの歩き方の本を取り出した。

 

「確かここだよな……センリさんのジム」

 

 レッドは本を開きながら地図を頼りにジムを探している。

 

「えぇ。左様ですわね。もう少し北をいって……あぁ。そこですわ」

 

 エリカが視線を遣った先にはポケモンジムがあった。

 

「あれ誰かいるみたいだ」

 

 少し歩みを進めるとジムの前に人がいたのが見えた。

 どうやら二人で何か話している。

 

「もしかしてあの人が?」

 

 レッドはジムリーダーの写真とそこの人物を照合した。

 

「ええ。センリさんですわ。数年前と変わらず剛健な感じが致しますわね……。しかしどこか緊迫した雰囲気がしますわ」

 

─同時刻 ジム前─

 

「だからよぉ! 俺はアンタのとこのジムで働きたいんだよ! イチからトレーナーとして自分を鍛え直したいと……」

 

 20代後半くらいの恰幅のいい青年がそうセンリに熱い思いを語っている。 

 

「サキヒサ君……。気持ちはよく分かるが、うちのジムは定員がいっぱいなんだ。何度も来てもらって悪いが君を雇うつもりはない。他をあたってくれないか?」

 

 センリは内心うんざりしているが、平静を装った表情でそう返した。

 

「ホウエンの公認ジムを色々あたったけど、どこも俺を雇ってくれないんだよ! ほらこの通りジムバッジだって揃ってるのにさ! あんただって俺と戦っただろ!?」

 

 サキヒサはバランスバッジを見せつける。

 

「そうだな……」

「その時に俺の強さは分かっているだろうになんでさ! なんで俺を……」

「どのジムも今は色々と大変なんだ。きっと君も時期が来れば必要とされる日が来る……。それをひたすら待つんだ」

 

 この様子でセンリはひたすらサキヒサと名乗るトレーナーを宥めた。10分ほどして

 

「はぁ……俺は諦めないからな!」

 

 そう言ってセンリに背中を向け、地ならししながら帰っていった。

 やれやれとばかりにため息をついたセンリにレッドとエリカが近づく。

 

「あのセンリさん……?」

 

 まずエリカが話しかける。

 するとセンリはエリカと目線を合わせた。

 

「おぉ……エリカか! 随分と久しぶりだな」

 

 先程までの張り詰めた表情とは変わって和やかな表情で接した。旧知の人間と再会してホッとしている様子だ。

 

「えぇ。ご無沙汰しておりますわ。それにしてもそのお召し物は……」

 

 センリは喪服を着ていた。

 

「あぁ。先日、フエンタウンのジムリーダーが若くして亡くなってね……。今日は告別式だ」

「まぁ! そんな時にお呼び止めして申し訳ありま」

「いやいいんだ。時間に余裕はあるから」

 

 センリは謝りかけたエリカをそう言って制した。

 

「あの……挑戦の件なんですけど」

「貴方! このような時になんという」

「あぁいやいやそうじゃなくて……。フエンのリーダーが死んだっていうことは挑戦がしばらくできなくなるんじゃないかって」

 

 エリカは自らの早とちりに顔をやや紅潮させている。

 

「あぁそうか……君たちはそういう旅だったね……。いや。それは問題ないと思うよ」

「え?」

「フエンのリーダーはもう娘のアスナという子にきまっているんだ。一応来週にはリーグの試験を受けることになるが私が一回手合わせした限りだと問題なく通過するだろうと踏んでいる」

 

 レッドはそれを聞いて興味ありげに

 

「へぇ……かなり強いトレーナーなんですね?」

 

 と尋ねる。

 

「うむ。あの方もあの子になら安心して任せられると言わしめたトレーナーだ。ただね……」

「ただ?」

「確かにあの子は強いんだが……。それはリーダーレベルとしての話だ。それより上となると……」

 

 センリの顔が途端に渋くなった。

 エリカはすぐに何かを察したのか

 

「もしかして……先程のトレーナーの方ですか?」

 

 と尋ねる。

 センリは少し間を空け

 

「ここではなんだから中に入ろうか」

 

 とジムの鍵を開け入っていく。二人もそれに続いた。

 

─トウカジム─

 

 センリは応接間に行き、ジムトレーナーにお茶を出させた後続ける。

 

「それで先程のトレーナーが何か……?」

 

 エリカが尋ねる。

 センリは煎茶をすずって言う。

 

「君たち、彼のバッジの数を見たか?」

「い、いえ……」

 

 レッドもつられたように首を横に振る。

 

「12枚だ」

 

 12枚。即ちそれは全力を出したジムリーダーを少なくとも四人は倒した計算になる。

 

「へぇ……それはそれは相当な実力ですわね」

「彼はな……。ああやってジムに来ては雇って貰うためかジムリーダーと戦い、勝負をするんだ」

「ふーん」

 

 とレッドが相槌を打ったところでエリカが眉をひそめて言う。

 

「それは悪手ですわね……」

「え、どうしてさ?」

 

 レッドは当惑してそう答えた。

 

「ジムトレーナーはあくまでリーダーの補助としてジム運営の人足として雇われるものなんだ。まぁ勿論リーダーが病気やスランプだとかの都合で実力を発揮できない時フォローのためにある程度は強くなければならないが……」

「12枚なら十分すぎるほどじゃないですか」

 

 レッドはすぐさまそう返すが、センリは首を横に振って答える。

 

「そこだ」

「え?」

「わかりませんか? ジムトレーナーはリーダーと同等以上に強くあってはならないのです」

「どうしてだよ? トレーナーというのは強さを追求していくものじゃないのか?」

 

 レッドは言わんとしている所が分かっていない様子である。

 

「それは勿論そうだ。レッド君。君の言うことは間違っては居ない。だが……。リーダーと同じかそれ以上に強い部下のトレーナーの存在というのは……運営の上ではどうしても……厄介なんだ」

 

 センリは絞り出すように言う。

 

「そ……そんな」

 

 レッドは現実を目の前にして目がくらむ思いがした。

 

「これは止むを得ないことなのです。あまりにも強い、それも新規のジムトレーナーの存在というのはトレーナー間の派閥争いや統制に支障をきたしかねないのです。最悪の場合はそのトレーナーを御輿に担いでリーダーの位を簒奪しようとしたり……分裂することもありうるのですわ」

「分裂だって? そんな事あんのかよ?」

 

 レッドは目を瞬かせながら尋ねる。

 

「私のジムも……。原因は違えどひいひいお祖母様の時代にジムの方針の違いを巡って数年に亘る分裂騒動を引き起こしたのです。当時のジムの書物を見ると如何にそれが大変なことであったか思い知らされますわ」

「へぇ……よくそれで潰れなかったな」

「当時はまだジムを統括する今のポケモンリーグのような存在がありませんでしたから……。大正の頃のお話ですし」

「大正って」

 

 センリが横切るように答える。

 

「今から大体百年くらい前の話ということ。リーグはまだその頃影も形もない」

「あぁそうですね……」

 

 レッドは歴史の授業をまともに聞いていなかったことを後悔した。

 

「仮にそんな騒動を今起こしたらまず間違いなく理事会議で処分対象になる。まぁ軽くて停職……重くて公認剥奪になりかねない」

「ジムの統制はリーダーにとって最も大事な職務の一つですからね……止むを得ないといえばそれまでですけれど」

「へぇ……」

 

 レッドは自分なりにどうにか腑に落とした。

 

「そういうわけで……」

 

 センリはもう一度茶を啜った。

 

「もしあのサキヒサ君と彼女が戦い、それで敗れたりしたら自信を失ってしまうんじゃないかと……少し心配でな。彼女はどこか不安抱えている節があるから」

「なるほど……」

 

 エリカは納得したようだ。

 

「その……サキヒサってトレーナーですけど」

「ん?」

 

 センリの右眉が少しだけ動く。

 

「やっぱり、強いんですか?」

「あぁ強いよ……。彼はこの街の出身でモラトリアム含めて足掛け12年もの間ホウエンを旅して8個バッジを集め、更に5年かかってジョウトに渡り4つバッジを手にした……。いわゆるベテラントレーナーというやつだ。全力のリーダーを四人も倒してるだけあって相当に手強い」

 

 センリは苦い表情をしながら言う。

 

「センリさんほどの方が言うならば、相当のものなのでしょうね」

「因みに誰を倒したんですか? そのジョウトのジムで」

 

 レッドが興味津々に尋ねる。

 

「バッジから類推するに……タンバ、アサギ、フスベ、エンジュといった所か。君たちも知ってのとおり相当の強者だろう?」

 

 レッドは想像以上のメンバーに戦慄した。いずれもそれなりに苦戦した相手、ミカンに至っては一度負けている相手である。

 

「席さえあればリーダーでも全くおかしくない力量だ……。席さえあれば」

 

 センリは含みのある言い方で言う。

 

「あの人……ホウエンでの着任を望んでいるようだし、そりゃなかなか難しいんじゃ」

「そういうことだ。私はどうにか勝ったがそれでも2体しか残らないギリギリの状況だった……。しかし、さっきも言ったがジムトレーナーはあくまで運営や補助に携わる者であって強さがメインではない……それも彼はいい加減分かっているはずなのにどうしてそこまで」

 

 センリの発言の最中に彼のポケナビが鳴り響いた。

 

「失礼。はいもしもし……え? ああ……そうか。わかった」

 

 と言ってすぐに電話を切った。

 

「すまない。家内こっちに来ているようでね……。そろそろ」

「え……ああ! こっちもつい長居してしまってすみません」

 

 レッドとエリカは頭を下げる。

 こうして三人はジムの外に出た。

 

─ジム前─

 

「やぁ。悪かっ」

 

 センリが言い終わる前に妻と思われる女性は口を開いた。

 

「もう貴方ったら遅いじゃないの! 駅の前で待ってろって言うから居たのになかなかこないし……どうしたの?」

「あぁいや……古い同僚に会ってね。つい話し込んでたんだ」

 

 そう言うと女性は後ろを覗き込んだ。

 

「あら……。これはこれは噂の……。はじめまして」

「こちらこそ初めまして。タマムシシティジムリーダーのエリカと申しますわ。お見知りおきを」

 

 エリカに続いてレッドも名乗った。

 

「いーえー……。あらもうこんな時間! 貴方急がないと式始まっちゃうわ!」

「そうだな。よし行こう。それじゃあエリカ、レッド君。また来たときにでも挑戦を受けよう。楽しみにしているぞ」

 

 レッドとエリカはそれに対して返礼した後、センリ夫妻はそそくさと告別式場への鉄道駅に向かった。

 

「ふぅ……。なんというか色々と衝撃だったな。なぁエリカ」

 

 エリカは考え込んでいたのかやや遅れて

 

「え……ああ! 左様ですわね」

「どうした? 考え事?」

「いえ……行きましょうか」

 

 こうして二人もこの場を去っていった。

 

──

 

 この日はポケモンセンターでポケモンを休ませた後、フレンドリィショップで買い出しをし西の道路へと出た。

 

─同日 午後7時 104番道路─

 

 この日は道路の中盤ほどまで歩き、野宿することにした。

 夕食を済まし、丸太の上に腰掛けたまま珍しくあまり喋らない彼女を見てレッドは話しかけた。

 

「なぁ。今日はどうしたんだ?」

 

 エリカは少し間をあけて答える。

 

「センリさんの様子が気がかりなのです……」

「え? お前まさか……」

 

 レッドはマツバの時のような勘違いを起こそうとしたが

 

「あぁいえ! そういう意味ではありませんわ。貴方も見ましたでしょ? センリさんは所帯もちですわ」

 

 エリカはすぐに察して手を横に振って否定した。

 

「ん……ああそうか……。まあそうだよな。それで?」

「普段はもっとしっかりした印象の御仁なのですけれど……今日のセンリさんはなんというかどこか陰があるというか。抜けているというか……。数年前のあの人とはどうも違う気がするのですわ」

「へぇそうか……。今日葬儀の時間に遅れそうみたいだったけど」

 

 レッドが言っている最中に否定する。

 

「とんでもありませんわ。普段はもっと時間にはきっちりしたお方です。定例会の際はいつも30分前には着いて準備しているような方でしたし……。あそこまでルーズな方ではありませんでした」

「なるほど……それは気になるよな……もしかしてこの前オダマキ博士が言ってたこと?」

 

 エリカは頷いて

 

「ええ。最近何かセンリさんにとってショックな事でもあったとか……。それも何週間もひきずるような」

「うん」

「とにもかくにも次にお会いした際聞いてみる必要がありそうですわね……。あのままだと本業に差し障りがでるかもしれませんわ。ご恩返しも含め何かできれば良いのですが……」

 

 エリカは心の底からセンリの事を心配している様子だ。

 

「恩返しねぇ……そこまでの事してもらってたのか?」

 

 レッドはリーダーの内情に疎いためかそんなことを言った。

 

「勿論ですわ。センリさんはベテランのリーダーで、元は学校の教師をやられていたくらいですから新人リーダーの教育役をしているのです。ジムを運営する上での書類手続きやリーグとの折衝など……。お祖母様からは主にジム内部のことを教わりましたがセンリさんからはそういうジム外での仕事について懇切丁寧に教えて頂いたのです」

「なるほどね……」

「あの方から教わったことはリーダーとしての礎の一部ですわ。その恩には出来る限り報いたかったのですがその前に異動になってしまい……。心残りとなっていたわけです」

 

 レッドは深くかぶりを前に振って

 

「そういう訳か……。いや変な勘違いしかけてごめんな。そういうことなら報いなければね」

 

 と納得した。

 

「ええ。それにしてもセンリさんをあれほど悩ませている種とは一体なんなのでしょうかね……」

 

 さしものエリカもその原因までは突き止められなかったようだ。

 その後、夜更けに至るまで二人はポケモンの世話などをしながら起き、テントに戻って就寝した。

 そして104番道路からトウカの森を抜け、途中立ち寄ったフラワーショップでエリカがジムに飾る花を買い込んだ後最初のジムがある街、カナズミシティへと入っていった。

 

―カナズミシティ デボンコーポレーションをはじめとする商業ビルが立並ぶオフィス街。トレーナーズスクールやポケモンジム等もあり、バトルの初心者向けの街ともいえる。カナズミ大学はホウエン最難関の大学だが、最近はエンジュ大学やタマムシ大学への学生の流出に悩んでいるようだ。

 

―6月3日 午前10時 カナズミシティ―

 

 季節は梅雨を迎え、ここカナズミシティでも蒸し暑い気候がはじまっていた。

 

「はぁ……じめじめしてきたなぁ本当」

「もう6月ですか……。今月は衣替えですし冬や春向けの服はお家に送り返さねばなりませんわね」

「そうだな。ポケセン行ったらすぐジムに行こう」

 

 こうして二人は服の整理を行い、ポケモンを回復させてカナズミジムへと向かった。

 

─午後2時 カナズミジム─

 

 二人はジムトレーナーを倒し、そのまま奥に進んだ。

 すると、リーダーと思われる少女がそこに立っている。どことなく高貴な雰囲気がある。。

 

「ようこそ。カナズミシティポケモンジムへ。私はジムリーダーのツツジと言います」

 

 彼女は大方平然とした様子だがやや緊張しているのか硬い印象も受ける。

 二人も名乗った後、彼女が続ける。

 

「トレーナーズスクールの教師として、貴方たちのようにお強い人と戦えるのは光栄であると同時にどこか恐縮ですわ……。しかし、ここは真剣勝負の場……。ジムリーダーとして全力で挑ませていただきますっ! 行きなさい、ダイノーズ! ゴローニャ!」

 

──

 

 その後、レッドは緒戦でミスを犯し一体を、エリカはダメージを喰らいながらも相性の良さを最大限に活用し三体を温存したまま勝利した。

 

「お二人ともさすがですわね……。多くの事を学ばせていただきました。それではリーグ公認のバッジ、ストーンバッジをお受け取りくださいませ」

「ありがとうございます!」

 

 エリカにつづいてレッドが深く礼をした後受け取った。

 これがホウエン地方で初めてのバッジである。

 ツツジは少し間を空けた後世間話とばかりに言う。

 

「そういえばフエンジムの新リーダーの話は聞きましたか?」

「えぇ。センリさんから少々……」

 

 エリカが答える。

 

「あれそういえばもう決まったんですか?」

 

 レッドが尋ねる。

 

「はい。先日サイユウリーグ主催で試験が行われ、私も試験官として立ち会いましたわ。彼女は炎タイプで私とはちょうど弱点のタイプになるわけですけれどそれでもタイプや特性を駆使して善戦していました。リーダーとしては全く申し分ない実力で一発合格です」

「ということは後は素行調査をくぐり抜ければ」

「晴れてジムリーダーになります。まぁあれで落ちる人は普通にしていればまずないのでほぼ本決まりですね」

 

 ツツジは淡々とした様子で話す。

 

「あのすみません。素行調査……というのは?」

「査察部というリーグの監察……まぁいわばお目付け役の方々が数週間かけて行う行う人格面や経歴などの調査です。リーグに入れて本当に問題ないかどうかを詳しく調べるのですわ」

 

 エリカがすかさず解説する。

 

「え……それにしては……」

 

 レッドはすぐにそんな調査から漏れるリーダーを何人か思い浮かべたが口には出さなかった。

 

「素行調査はあくまで前科がないかだとか経済的、家庭的に何か大きな問題を抱えてないかだとか低いハードルで行われるのです。まぁリーダーというのはトレーナーとしての強さが第一ですから……」

 

 エリカは話した後、ツツジに目配せする。

 

「そういう訳なので普通にしていれば落ちない……という理屈付けなんです。これでも今の副理事長になってからは大分厳しくなったと言われますけどね……」

 

 ツツジはそう言うとため息をつく。

 

「へぇ……まぁとにかく俺たちがフエンに着く頃にはもうリーダーになってるって事ですよね?」

「ええ。それは間違いないと思いますわ。きっと貴方にとっても手応えある相手だと思いますから、頑張ってくださいませね」

 

 それからしばらくしてツツジとは別れ、ジムを後にした。

 

─カナズミシティ 路地─

 

「次はムロか……。マップ見た感じだとまた戻らなきゃいけないのが面倒だな」

「まぁそうおっしゃらずに……。二度目行けばまた違う発見があるかもしれませんわよ?」

 

 エリカはにこやかに笑いながら言う。

 

「お前はやたら森でスケッチしたりしてるもんな……。まあいいか。とにかく行こう!」

 

 こうして二人は2つめのジムのある街、ムロへと向かうのだった──

 

─第十四話 リーダーの資格 終─

 

 

 

 

 

 

 

 

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