伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第十五話 自然からの刺客

─5月27日 某時刻 某所─

 

 この時、黒ずくめの軍団がある場所に集っていた。

 会議室のような場所で白い服を着た男が淡々と計画を話している。

 

「以上が作戦の全容です。ホウエン各地に潜入させている団員に事の次第を伝えすぐさま準備に取り掛かるよう司令をお願いします」

 

 話している男はロケット団最高幹部のアポロである。

 

「それにしてもよくオーキドが承知しましたね……。あれだけレッドを生きて残酷な目に遭わせることにご執心だったというのに」

 

 と言ったのは脇に座っている幹部の一人、ランスだ。

 

「エリカ拉致を計画の主目的の一つにすることでどうにか呑んでくれましたよ……」

「ほんとあの爺さん懲りないわねぇ……。そらあの子はちょっとばかし可愛いかもしれないけど、あたくしにはとんと理解できないわ」

 

 と、ランスの反対側に居たアテナが毒づいた。

 

「ま。いいじゃねえか。あの女がこっち側に捕らえれれば少しは敗戦の苦味も和らぐってもんだ」

「ラムダ。言葉には気をつけなさい。あれは敗戦などではありません。あれも壮大なサカキ様の戦略の一つなのですよ」

 

 アポロは一点の曇もない目でラムダを見咎めている。ラムダは指摘されて小さくなっている。

 

「とにかく、レッド殺害は我々の計画において必ず成功させねばなりません。いくらあの男を抱き込んだとはいえ、この夫婦がいては水泡に帰す可能性があります。総員、心してかかるように。解散」

 

 そう言うと団員たちはぞろぞろと散っていった。

 

─6月4日 午後2時 トウカの森─

 

 カナズミジムを破った二人はポケモンセンターで一泊した後、トウカの森へと戻っていた。

 トウカの森を抜けた先の砂浜からムロタウンへ抜ける行程である。

 昼食を食べた後二人はさらに南の方向へ歩いていた。

 

「はぁ……。なんか月かわってから露骨に蒸し暑くなった気がするぜ……」

 

 レッドは手で風を仰ぎながらぼやいた。

 

「ホウエンは昨日梅雨入りしたそうですわ。あそこに咲いている花菖蒲のようにこの季節だからこそ見れるお花も多くあるのですが、やはりじめじめしているのは身にこたえますわね……」

 

 エリカも時折顔や首筋などをハンカチで拭いている。花に指した指も汗ばんでいるのに気付いたのかすぐさま拭いていた。

 そうこうしていると大樹が中心にある地帯に入る。

 この時はレッドが先に歩き、数歩遅れてエリカがいた。

 梢のふれあいや風にたゆたう木の葉の音に紛れて何かが軋む音がした。

 

「貴方! 走って!」

 

 エリカは突如大声を出す。レッドは反射的に10mほど走った。

 すると次の瞬間先程までレッドがいた場所に大木が倒れ込んだ。衝突の瞬間轟音が辺りに響き、近くに居たポケモンたちが驚いてあちこちに逃げ出した。

 

「うおっ! 危ねえ……」

 

 大木は見事に地面にめりこんでいる。当たっていれば如何にタフな体を持つレッドとはいえとてもただではすまなかったであろうことは想像できる。

 エリカは注意した時に立ち止まり、餌食になることは免れた。彼女は倒れた木の切り株を経由してレッドの元へ行った。

 

「あら?」

 

 彼女は一旦着いたと思うとすぐに振り返り切り株に戻った。

 

「どうした」

 

 レッドはエリカについていく。

 

「やはり……どうも違和感がありますわ。自然に倒れたにしては腐食の仕方がどうも不自然で……」

 

 彼女はかがんで木の断面を注視している。

 

「そうなのか?」

「農薬か……そうでなければ急にポケモンを大量に木の中に入れて食べさせたか……」

「はぁ? 何のためにそんなことするのさ」

「間引きならば一本だけということはないでしょうし……。私には分かりませんわね」

 

 彼女は断面から目を離した後首を傾げた。

 

「意味分かんね……。まあいいや。行こう」

 

 レッドが先に進むとエリカはもう一度切り株に視線を遣り少し遅れて続いた。

 その後、トキワの森を抜け水道を通ってムロタウンへたどりつき、ポケモンジムへ向かった。

 

―ムロタウン。

 海に囲まれた小さな町。

 しかし町には常に流行語があるというなんとも地域密着性の高いところでもある。

 釣りの界隈ではホウエン地方の中でも欠かす事の出来ない程の名所が多くある。

 そしてジムリーダーのトウキはサーファーで波に熱い思いがある人物で

 ビッグウェーブに乗る為にわざわざジムの無かったムロにジムを構えたという都市伝説がある。

 

─6月8日 午前10時 ムロタウン ポケモンジム─

 

 トレーナーを倒して奥に進むとリーダーと思しきガッチリした体格の青年がいた。

 二人が名乗った後、自己紹介をはじめる。

 

「やあ! よく来たね。僕はこの島のジムリーダーのトウキ! 君たちのような伝説の夫婦と戦うのはとても心が躍るよ。暗い洞窟と荒波の中で鍛錬した僕の手持ちが君たちにどこまで通用するか。楽しみだね! 行けっヘラクロス! ハリテヤマ!」

 

──

 

 レッドは1体、エリカは2体を失ったもののトウキを下した。

 

「うん。流石の強さだったね! ようし、このバッジを持っていきな!」

 

 トウキは爽やかな笑顔を浮かべながら、ナックルバッジを手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

 受け取った後、エリカとレッドは礼をする。

 

「トウキさん。この町に何か名所はございますか?」

 

 エリカが世間話の要領で話しかける。

 

「この北に、石の洞窟という場所があって僕はそこで鍛えてるんだ。立派な壁画もあるし是非行ってみるといいよ」

 

 その後も二言三言話してムロジムを立ち去った。

 ポケモンセンターで回復した後、石の洞窟へ向かう。

 

─午後2時 石の洞窟─

 

 散策と修行がてらで歩いていると、見覚えのある人物に鉢合わせした。

 ダイゴである。どうやら石集めをしている最中だったようだ。採集用のつるはしやピックが側においてある。

 

「おや。君たちここに来たのか」

 

 彼は額の汗を拭きながら話す。

 

「はい。修行のついでに……」

 

 レッドが答える。

 

「ふん……。じゃあ僕と勝負してみないかい?」

「いいですね。リーグチャンピオンクラスともなればこっちも気合入りますよ!」

 

 レッドは気分を高揚させて言う。

 

「ハハハ。僕も伝説の夫婦が相手ならば不足はないよ。それじゃあ行こうか! 行け、エアームド! ネンドール!」

 

 レッドはカメックスを、エリカはモジャンボを繰り出した。

 

「エアームド、モジャンボにドリルくちばし!」

 

 エアームドが先制し、くちばしを回転させてモジャンボに痛撃を与える。

 しかし存外堅く、体力は三分の一程度の減少でとどめる。

 

「カメックス。ネンドールにハイドロポンプだ!」

 

 ハイドロポンプは運良く直撃したが削りきるには至らず、わずかに体力が残った。

 

「よし! ネンドール! ひかりのかべだ!」

 

 ネンドールは前面に見えない壁を張った。エアームドの弱点である特防の脆さをカバーする魂胆だろう。

 エリカはすぐに狙いを察知していたのか、少しだけ表情を歪ませた後

 

「モジャンボ! 剣の舞です!」

 

 彼女はネンドールを封じ込めるよりも相性が不利な中でどうにか戦闘に寄与することを優先するためか積み技を使用したようだ。

 

「エアームド、吹き飛ばせ!」

 

 モジャンボは即座にエアームドに吹き飛ばされ、積み技を解消された。

 

「そうそう一筋縄ではいきませんわね……。おいでなさい! ダーテング!」

「カメックス。ネンドールにラスターカノンだ」

 

 とにかくネンドールを生かしておくのはまずいとばかりにレッドはとりあえずラスターカノンを放った。流石にハイドロポンプで大分削れていたため倒れた。

 ダイゴはすぐに戻した後 

 

「そうこなくっちゃね。行け、プテラ!」

「ダーテング。日本晴れです」

 

 フィールドは日照りになった。

 

「エアームド! ダーテングに凍える風!」

 

 ダイゴは素早さで勝るダーテングに枷をつける目的からか凍える風で素早さを下げた。ダメージそのものは大事なかったが順番で優位を取られたままには違いない。

 

──

 

 レッド、エリカそれぞれ二体を失い、相当に削られたがどうにか辛勝した。

 

「うん! 流石だね。久しぶりに本気で勝負出来たから楽しかったよ」

「いえいえ。ダイゴさんもやっぱりチャンピオンをやってただけありますよ……。リーダーとは格が違うっていうか。色々と勉強させられる戦いでした」

 

 ダイゴ、レッドはそれぞれ互いを賞賛した。

 

「ところで君たち、フエンジムについての話は聞いているかい?」

 

 ダイゴはついでとばかりに話す。

 

「えぇ。ツツジさんやセンリさんからお話は伺っておりますわ」

「うん。今はリーグの素行調査の最中だが……まぁじきにアスナさんへ辞令が下るだろう。それはいいんだけど……」

 

 ダイゴはふと遠い目をする。何かを案じているようだ。

 

「何か気がかりなことでも?」

「うん。ちょっとね……。あのジムはエリカさんのところと同じく世襲形式のジムであそこの場合は代々長兄が継ぐことになっているんだ」

「へぇ……あれでも」

 

 レッドが気づく。

 

「そうアスナさんは女性。しかも兄妹の妹の方なんだ」

「あら。どうしてそのような事が」

 

 彼女が顎に手を遣っている。

 

「アスナさんがあまりにも強かったからなんだよ。先代のリーダーは非常に実力を重視する方でね。兄の方も決して弱いわけじゃなかったんだろうけど、才覚は彼女の方が遥かに上だったらしい。だからアスナさんにリーダーを継がせた……」

「そりゃあ仕方ないけど……兄の方は納得いかないのでは?」

「そうなんだ。だから三年くらい前だったかな。その時に兄妹が父親の前で戦ったが兄が完敗した……。それでリーダーの職はアスナさんに継承するという形で落ち着いたんだ」

「ならばそれで決着はついているではありませんか」

 

 エリカがそう返す。

 

「そう。だから僕も大丈夫だろうとは思っているんだけど……何だかね。いやーな予感がするんだよね……」

 

 ダイゴは顔に影をのぞかせている。

 

「ダイゴさん。それは杞憂ではありませんか? たとえそのお兄様が不服であったとしても実力差が明らかで先代のお墨付きがあるとなってはどうすることもできませんわ」

「うん……まぁ僕のただの思い過ごしならそれに越したことはないんだが……」

 

 その後ダイゴとは数分ほど話して別れた。

 

──

 

 それから彼らは水道を渡り、カイナシティを経由、110番道路に出た。

 

─7月10日 午後1時 110番道路─

 

 時期は盛夏を迎え、この日は34度と猛暑に迫っている。

 猛き烈日は地面を灼き、行く者の体力を確実に奪っていく。そしてそれは二人にも例外ではなかった。

 

「暑い……。梅雨が明けたと思ったらこれか」

 

 ホウエン地方は一昨日梅雨が明け、その日以来快晴が続いている。

 

「まるで釜の中に閉じ込められているような暑さですわ……。こまめに休憩をとらないとすぐに熱中症になりますわよ」

 

 その言葉の通り、木陰や日陰を見つけては小休止をとっている。そうでもしなければ本当に倒れてしまいそうな暑さであった。

 

「分かっちゃいるんだがな……。これじゃあいつまで経っても次の街につかないぞ」

「夕刻になれば少しは和らぎますわ。今は辛抱しましょう」

 

 野生のポケモンたちもあまりの暑さに寝ているか息を潜めていた。

 

─午後4時─

 

 進み続けているとにわかに曇り始めた。

 

「これは……」

「夕立の気配がしますわ! すぐに雨をしのげる場所を探しませんと」

 

 幸いにも視界の果てにサイクリングロードとの交差点を見つけた。

 

「よし、走るぞ!」

 

 レッドにつづいてエリカもその場所に急行したが、あともう少しのところで間に合わず傘も役に立たない程の大雨の洗礼を受けた。

 

─サイクリングロード下─

 

 先刻までの炎天下はどこへやら、篠突く雨が地面を叩いていた。

 ゴウゴウザーザーとやかましいくらいの雨音の中に二人はいる。

 

「はぁ……最悪だ」

 

 レッド、エリカともに服がずぶ濡れである。

 

「典型的な驟雨……にわか雨ですわ。数十分もすれば止むと思いますけれど……」

 

 と言いながら彼女は自らの上着を見た。この日の彼女の服装は上はつばの広い白帽子に若葉色のブラウス。下は白のチュールロングスカートであった。

 

「替えの服は持っているのか?」

「そ……それは持っていますけれど……」

 

 彼女は途端に頬を赤らめている。

 

「あ……そうか」

 

 と言いながらレッドは背を向け、上着を脱いだ。すると彼女の方も安心してバックから替えの服を出した。

 

「たく……もうそういう関係でもないだろ」

 

 レッドがそうぼやくと彼女は即座に

 

「そ、それとこれとは別ですわ。まだ貴方に……素肌を見せるのは気恥ずかしいものなのです」

「そういうもんかね……。するのは良くて着替えの時はだめなんておかしくないか?」

 

 レッドは替えの服を出して、袖を通しながら言った。

 

「そこが女性の性というものですわよ。貴方」

「うーん。そうかね……」

 

 レッドはどうにも納得のいってない表情である。

 

─7月11日 午前2時─

 

 彼女の言うとおり20分ほどで雨が止んだ。

 夕刻になってからも進み続け、日が完全に暮れた19時半頃に二人は野宿する。

 それから夕飯と世話を済ませた後二人はテントの中で床についた。

 寝静まっているとその間にも雨が振り始めた。折しも雷もまじり始め、雷鳴があたりに響きはじめた。

 エリカとレッドは雷鳴に気づいて起きた。

 

「たくうるせえな……」

 

 レッドは上体を起こし、寝癖をかきながら呟く。

 

「今は大気が不安定な時期でもありますから……それにしても雷が近いような気がしますわ」

 

 エリカはテントのファスナーを開け、雷を見る。

 雷が光り、雷鳴が聞こえるまでの時間を測った。

 

「2秒……! 貴方! ここは危険です。すぐに逃げましょう!」

「なんでだよ。下手に外に出たらそれこそ雷の餌食に……」

「ポールを伝って電撃がくる可能性があります! とにかく荷物をもって出ますわ!」

 

 二人は数分ほどで支度を整え、テントは撤収させずに外に出る。

 昨日の夕立よりはまだ少ない雨量だったため傘でどうにか前のように濡れるのは防げた。

 ちょうど近くに高木があったため、少し距離をあけてそこに立つ。すると凄まじい雷鳴と共に先程までいたレッドのテントに雷が直撃。瞬く間に火がついた。

 

「うわ……危なかったな」

 

 テントは雨など知らぬとばかりに燃え続ける。もし中に居れば命が危なかっただろう。

 

「ふう……。それにしても随分と早く当たりましたわね……」

「おいおいまさか誰かの仕業とか言わないだろうな」

「まさか。天候を左右させることなど神でなければ無理なお話です。しかしどうもこの前の倒木といい……不気味な事態が続いてますわ」

 

 その後、一時間ほどで雷は収まったが雷鳴が耳に残りどうにもその日は寝付けなかった。

 

―キンセツシティ ホウエン地方の中央にある街。

 テッセンが電気タイプな為か自身が学長を務めるキンセツ電機大学がある。

 その他にもゲームコーナーやサイクルショップなどなかなかに発展している町である。

 来年度の完成を目処に大規模な再開発計画を進めている。

 

─7月14日 午前10時 キンセツシティ─

 

 キンセツシティに入るとそこかしこに白い鋼板の囲いがあり、重機や工具の音がけたたましく響いている。

 

「うわぁこれまた大工事だな……」

「歩き方にもありましたが今キンセツは全国で初めて全部をビルに改造する計画を推進しているようで……。来秋の完成を目指して日々工事が行われているようですわ」

 

 彼女は時折耳を塞ぎながら話す。

 

「そりゃあ結構な話だけど……こんだけうるさくちゃあ住んでる人が大変だな」

「街の為にもなることなんでしょうけど……あら?」

 

 エリカは交差点近くの囲いで工事責任者と思われる人物と話している老人に気づいた。

 レッドはその老人とジムリーダーの写真を照らし合わせている。

 

「あの人がテッセンって人かな?」

「ええ。どうやらそのようですわね」

 

 老人の方が気づき、責任者と別れてこちらに笑いながら近づいてきた。

 

「わっははは! ようきたのうご両人! わしはこの街のジムリーダーのテッセンじゃ! 宜しくのう」

 

 テッセンはすかさずレッドと握手した。

 

「いえいえこちらこそ。それにしても本当に大掛かりな工事ですね……」

「うむ。近年ホウエンは首都(カントー地方)への人口流出が深刻でのう。ここで一発挽回するのじゃ! ホウエンはおろか全国でも類を見ないこの都市計画は全国から注目を浴び、移住の希望者も続々と出てきておる。ホウエンの再生はここキンセツから始まるのじゃ!」

 

 テッセンは目を輝かせながら言う。キンセツの改造都市計画は新聞やテレビなどで昨年以来大々的に報じられ、ここ数十年における一極集中を解消させる大目玉として注目されている。

 

「地震の際には都市ごと浮かせるエアー断震。緊急時には完全内装化によって豪雨や噴火からも住民を守れる……。まさに近未来都市と言うべき風貌ですがこれだけの騒音ですと色々と問題を抱えているのでは……」

「そこよ……。度重なる訴訟でこれでも本来の7割程度まで計画を縮小しているのじゃ。だがのう。それでもワシはめげぬぞ。是が非でもキンセツに往時の賑わいを取り戻してみせるわい。ホウエン一の大都会と呼ばれたあの頃からこの街に住んでおるのじゃぞ」

 

 戦前までキンセツは古くからの城下町であることや鎮台が置かれた場所などという背景からホウエン最大の街として名声を誇っていた。しかし、戦後になって以降はカナズミやカントー地方への流出が目立ち、現代においてはカナズミの後塵を拝してしまっている。

 

「テッセンさんはかなりお年を召していらっしゃるようですが……その頃のここを見ているとなれば」

「今年で83じゃ。もう先は長うない……。だからこそ、これがワシの人生最後の大仕事じゃ。キンセツの再興を見ずしては死ねぬぞぉ! ワッハハハハ!!」

 

 テッセンは高らかに笑い飛ばしたがどこか寂しそうな気配も感じ取れる。

 

「おっと……。こんな話をしてすまなかったの。ではジムに行こうか。ワシの後についてくると良い」

 

─午前10時30分 キンセツジム─

 

 二人はテッセンの後に続きキンセツジムの奥に居た。

 

「ようしでは早速戦うとするかの! 火花と電光走るワシの技を前にして仰け反るでないぞ! 行け、ライボルト、デンリュウ!」

 

──

 

 エリカは一匹、レッドも一匹失い、そこそこ体力を失って勝利した。

 

「ワッハハハ! うむ。期待通りの実力じゃ! これを持っていけい!」

 

 テッセンはダイナモバッジを二人に手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

 二人は恭しく頭を下げてバッジを受け取った。

 

「それだけの力があればきっとホウエンも大過なく行けるじゃろうて。これだけ頼もしい夫婦がいるならばリーグも安泰じゃのう!」

 

 テッセンは満面の笑みで二人を送り出した。

 

―正午 ジム前─

 

「次のジムはどこだったかな……」

 

 レッドは歩き方を取り出してジムの場所を探す。

 

「この地方の順番通りにいくのであれば次はフエンタウンですわね……。ダイゴさんもああ仰せになっていましたが大丈夫なのでしょうか」

 

 エリカは懸念するダイゴに否定的な返事をしたもののやはり内心では穏やかではないようだ。

 

「ま、着いてみなきゃ実際どうなってるかなんて分からないし。行ってみるしかないだろう」

 

 レッドはそう返すとポケモンを休ませるためにポケモンセンターへ向かった。そしてテントをまた買い直してキンセツを発った。

 

──

 

 二人はフエンタウンへ向かう前に修行と散策がてらでハジヅケタウンやカナシダトンネルに立ち寄った。その後112番道路からえんとつ山に登り、そこから下山してフエンタウンへ向かうことにした。

 

─8月15日 午後3時 デコボコ山道─

 

 上記の行程を全て歩きで行ったのと草花を摘んだり、ポケモンを育てながら進んだ為月はかわりお盆に入っていた。

 その上、活火山のえんとつ山の近くであるため非常に蒸し暑かった。幸いにもこの日は曇っていた為日差しがないだけ暑さは和らいでいる。

 すると、片方が切り立った崖の道にさしかかった。

 

「こりゃあまた急な崖だな……」

 

 反対側は森林となっている。

 

「急激な侵食で出来たものですわね……。とにかく慎重にいきましょう」

 

─崖の上─

 

「いいか。ここが最後のチャンスだ! 何が何でも仕留めるぞ」

 

 木陰に身を潜めている黒づくめの少し位の高い団員が下っ端にけしかけた。

 

「はっ!」

 

 すると、団員たちは次々とゴローンやゴローニャを繰り出す。

 

─崖下─

 

「たく暑いなぁ本当……」

 

 崖上の出来事など露知らずレッドはぼやく。

 

「日差しがある時も困りますけど曇の時は曇で湿度が下がりませんから……。この季節はなんとも苦労しますわ」

 

 そんなことを話しているとにわかに崖から大量の岩石が転げ落ちてきた。

 

「貴方!」

「うわなんだこれ……。まずい!」

 

 前後左右逃げ場がなく、崖の近くにいたレッドが助からないことは明白だった。

 しかしその時、天佑とばかりに上空からエアームドが二匹鋼の翼で思い切り石を切りつける。すると岩は見事に砕け散り、レッドとエリカは上手く難を逃れた。

 

「あのポケモン……もしかして」

 

 レッドはすぐに背後の空を見た。

 

─崖上─

 

「なんだあのアマ! 邪魔しくさってからにこらしめてやる!」

 

 一人の団員がモンスターボールを持って打って出ようとした時

 

「待ちなさい! よく見るのですあの人は……」

 

 現場責任者であるランスが止めにかかる。

 

─崖下─

 

「危ないところだったわね。怪我はない?」

 

 岩が止まるとエアームドを戻してからゆっくりと下降し、乗っていたポケモンから降りた。

 彼女は降りると装着していたゴーグルを取る。

 

「は、はい。無事です! ありがとうございます。なんとお礼を申せば宜しいやら……」

 

 彼女は何度か頭を下げながら感謝の言葉を述べた。

 

「そう……よかったわ」

「貴方何をしているのです! ほら頭をお下げに……」

 

 突っ立ったまま何もしないレッドを見てエリカは注意したが

 

「貴女……もしかして」

「何かしら?」

 

 レッドは改めて声を聞いて確信した様子だ。

 

「やっぱりそうだ! ほら数年くらい前にシロガネ山で助けてくれた」

 

 彼女は少し考えた後に思い出した。

 

「ああ……。あの子貴方だったのね……レッドさん。シロガネ山に居たから強そうなのは分かっていたけど、まさかここまでとは思わなかったわ。ああ、申し遅れました。私はナギ。ヒワマキシティでリーダーをしているの。以後宜しく」

 

 彼女はそう言って頭を下げた。二人も返礼で頭を下げる。

 

「俺、あの時貴女がくれたゴーゴーゴーグルで前の戦争の時すごく助かったんです! それだけどうしても礼を言いたくて……本当にありがとうございました!」

「らしいわね。意外な物が役に立ったものだわ……。こっちとしてもお役に立てたのなら何より」

 

 ナギは少し笑みを浮かべて返す。

 

「こちらとしてもリーグの一員として、レッドさんの妻としてお礼申し上げますわ。それにしてもあの落石は何なのでしょう……。先日までこの辺りは台風が直撃して地盤が緩んでいるとは聞いていましたが、それにしても……」

「不自然ね。見て分かるように崖の上は深い森よ。あんな落石があったとしても木に押しとどめられるか、木ごと落ちてこないと理にかなわない」

 

 とナギは淡々とした調子で否定した。

 

「ここ最近どうもこんなことが起こっているのです。トウカの森では不自然な倒木にあい、110番道路では都合のよすぎる落雷……そしてこの落石」

「それは災難ね……。お祓いでもしてもらえば?」

「ええ。お祓いで済むような天災ならば宜しいのですが……」

 

 そう言うと彼女は遠い目をする。

 

「何、もしかして人災だと思ってるの?」

「あるいは……」

「おいエリカよせよ。んなことある訳ないだろ」

 

 レッドは即座にそう否定した。

 

「何か心当たりでも?」

「い、いいえ……。ありませんわ。そうですわね。近く、お祓いでもしてもらいましょうか……」

 

 無論、彼女も、レッドも心当たりはあった。あったが必死にその可能性を否定しているのだ。

 

「その方がいいわよ……。そういえば二人はいくつバッジを持ってるの?」

 

 ナギは空気を読んだのか話題を転換した。

 

「3つです」

「そう。確か二人はここに来て三ヶ月よね。……、フフ。期待しているわ。ヒワマキに来たら宜しくね」

 

 そう言うと別れの挨拶をしてナギは北東の方角に飛び去っていった。

 

「ふう……良かった」

 

 レッドはホウエンに来た目的の一つを達成したからかほっと一息ついている。

 

「あのお方……手強そうですわね」

 

 彼女が去っていく姿を見ながらふとそうつぶやいている。

 

「え?」

「それとなく、そんな雰囲気がしただけですわ。さて貴方いきま……あ」

 

 エリカは前面を見て先程までの事を思い出した。

 嫌になるほどの岩石が並び、道が塞がってしまっているのだ。

 

「はぁ……骨が折れるなこりゃ」

 

 その後、レッドはカイリキーなどを用いて前後の岩を砕き進んでいった。

 

─崖上─

 

「あれは……ジムリーダーでしたか」

「だから言ったでしょう……。他のリーダーまで事の次第が知れれば大事になり、この国での内偵に支障が出ます。さて……過ぎ去ったことはやむを得ません。戻りましょう」

 

 ランスはそう言うと踵を返し、他の下っ端を連れて撤収する。

 

─8月16日 某時刻 某所─

 

「何ですって? 失敗した?」

 

 この日の会議はアテナのこの一言で始まった。

 

「全く悪運の強い連中です。事ここに至ったならばもはや自然に事故に見せかけて殺すのは不可能ですね……。前段階すら失敗してるのでは言うに及ばず」

 

 アポロは肩を落としながら言う。

 

「で、どうすんだよ。やっぱりやめんのか?」

「口を慎みなさいラムダ。暗殺はやめざるを得ませんが……そもそもそれは手段にすぎません。サカキ様の崇高なるお考えを遂行しないなど有り得ません。こうなればまたあの男に頭を下げるしかありませんね」

 

 アポロは顔を渋らせている。ラムダはやはり小さくなっていた。

 

「しかしよう。本当にそれであの夫婦倒せるのかよ? 俺らの渾身のバンギラスだってぶっ倒したんだぜ?」

「あれとは格が違うのですよ。とにかく、手を打っておきますか……」

 

 そう言うとアポロは苦い顔をしながら会議室を去った。

 

 二人はデコボコ山道を下りきり、112番道路を通ってフエンタウンに到着した。

 

 

 

―フエンタウン えんとつ山のお膝元の街、フエンタウン。温泉宿が立ち並ぶが異色はポケモンセンターが無料で温泉や砂風呂を開放していることである。

火山が近いということもあってか、フエン地質地理大学もここにある。ここは火山研究の総本山の異名を持つ。

 

─8月18日 午前7時 フエンタウン 入口付近─

 

「温泉街って聞いたけどそれにしちゃなんだかいやに静かな街だな……」

 

 レッドは街の民家を一瞥して言った。

 

「ええ……。なんだかひと波乱ありそうな予感がしますわ」

 

 街は極めて張りつめたような雰囲気が漂い、今までの街とは異質なものである。

 とりあえず二人はポケモンを休ませるためポケモンセンターに向かった。

 

―第十五話 自然からの刺客 終―

 

 

 

 

 

 

 

 

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