伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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※リーグ戦において行間が空いていないところがありますが仕様のようです。ご容赦くださいませ


第二十一話 夏の終わり

─9月12日 午前8時 ポケモンセンター 218号室─

 

 朝食を済ませた後エリカはワタルに電話をかけた。

 挨拶もそこそこに本題に入る。

 

「しかしエリカ君から僕に電話なんて珍しいこともあるもんだ。どうしたの」

「他でもありません。ゴールドさんの事ですわ」

「あぁ……」

 

 ワタルはあからさまに気分の重い声をだす。

 

「やはりお耳に入っているようですわね」

「まぁそれは……ね」

「どうなさるおつもりですか?」

「勿論ゴールド君には自覚を促すけど……結局は彼自身の問題だから」

 

 ワタルの返答はどうも心もとない様子の声であった。

 

「主催者がそれではいけませんわ。もっと毅然とした態度で臨んでいただきませんと」

「エリカ君の言うとおりだ。今夜にでも連絡してみるよ」

「もしゴールドさんがこのままの素行を続けたらどうなさるつもりですか?」

「どうするって……ねぇ」

 

 ワタルは考え込んでしまった。

 

「私としては最悪の場合PWTで戦うことそのものを検討し直す事も触れておいたほうが宜しいかと……」

「え!?」

 

 ワタルはこの提案に耳を疑った様子だ。

 

「ちょっとまって……君は本気でそうしたほうがいいと」

 

 ワタルはやや焦りを含んだ様子で話す。

 

「勿論。本気ではありませんわ」

「だよね……」

「ただ。この際ゴールドさんには冷水を被せるべきだと思うのです」

「冷水ねぇ」

「私はゴールドさんこそレッドさんの対戦相手として相応しい実力を兼ね備えていると思いますわ。しかし、今のゴールドさんでは戦った所でどうなるかは火を見るより明らかです」

「うん」

「ですから、今一度ここで奮起して前のような覇気があり意欲に満ち溢れたゴールドさんに戻って頂きたいのです。その為ならば……多少の脅しもやむを得ないと思いますわよ」

 

 彼女は心の奥底からそう思っているようだ。

 

「君らしくもないやや強引なやり口だが……。それでも彼が変えようとしなかったらどうするんだ」

「その時は私と、ゴールドさんを相手に選んだワタルさんの見込み違いであり、この計画も無駄だった。それだけの話ですわ」

「い、いやしかしだね君」

「ワタルさん。ここは理事長として決断の時ですわ。なあなあで進めれば決して良い結果にはならないと思います。思い切った行動をとるべきです」

 

 ワタルは暫し間を空けた後

 

「分かった。君の言うとおりにしよう。ゴールド君がどの程度PWTを真剣に考えているか……。見極めるとしよう」

 

 それから数分間話した後ワタルは電話を切った。

 

「お前も中々大胆な事言うな……。もしこれでゴールドが本当に変わらなかったら計画自体なくなりかねないんだぞ?」

 

 机の椅子に座りエリカの話を聞いていたレッドがそう言った。

 

「フフ……」

 

 ポケギアをしまったエリカはレッドのすぐ傍に椅子を近づける。

 

「そうなったらタマムシに戻って貴方と一緒に暮らすとしますわ」

 

 彼女は甘えた声でレッドの胸に身を預けた。

 

「ハハハ……。それにしてもお前ゴールドの事見捨ててたわけじゃなかったんだな」

 

 レッドは話題を切り替えた。

 

「当然ですわ。貴方に全力でぶつかって来るトレーナーですもの。それに、あれだけの早さで私含めカントーのリーダーを全員倒した人間を見捨てては敗れた私の立場がありませんしね……」

 

 エリカにはエリカなりの考えがあったようだ。

 

──

 

 それから二人は3日かけてトクサネシティに渡った。

 

―トクサネシティ 宇宙に最も近いと噂される街。本島から切り離された小さな島であるが、ここは宇宙センターやトクサネ天文台など天文学の粋が集まった街である。尚、ダイゴの家もここにある。

 

─9月15日 午前9時 トクサネシティ 浜辺─

 

 浜辺に到着すると、古風な髪型にチャイナ服を着た二人が現れた。

 

「え? 何今の」

「その場に出現しましたわよね?」

 

 二人は目の前まで歩いてやってきた。

 

「やあ!」

「驚いた?」

 

 二人は口々に話し始めた。

 

「あら? もしかしてこのお二人……この街のジムリーダーのフウさんとランさんでは?」

 

 

 エリカはトレーナーの歩き方をカバンから取り出してレッドに見せた。

 

「お、本当だ」

「その通り!」

「僕達が全国ただひとつの双子ジムリーダーフウと!」

「ランだよ! 宜しくね!」

 

 二人はほぼ同時に二人に会釈した。

 

「さてと立ち話もなんだし」

「ジムへ案内するよ!」

 

 そう言うと二人はすぐさまテレポートを使ってレッドとエリカを瞬間的にジムへ移した。

 

─トクサネシティ ポケモンジム─

 

「あ、あれ!?」

 

 レッドはいつの間にか変わった風景に驚いている。

 

「フフフ。こんなびっくりした顔してる~」

「どう? これが僕たちエスパーの力だよ!」

「大したものですわね」

 

 エリカはどこか微笑ましそうな表情である。

 

「あれれなんだかリアクション薄くない?」

「当たり前だよフウ。エリカさんはナツメさんとお友達なんだから~」

「あら。ご存知なのですか?」

 

 彼女は少し嬉しそうな表情をする。

 

「勿論! 同じエスパーとしてナツメさんとはたまにですけどお話ししますから」

「まぁ同じエスパーでもナツメさんに比べれば僕たちは全然なんですけどねー」

「いやそんな事ないと思うけど……」

 

 レッドは超能力を実感したせいかやや恐れた風に言う。

 

「私達エスパーは90%以上生まれた時点で力が決まっているんですけど、ナツメさんはその生まれ持った力が尋常じゃないの!」

「あの人なら本当その気になれば世界を好きに動かせるんじゃないかってくらいとんでもない力を持っているんだ。僕ら姉弟はホウエンの中では一番力あると思ってるけどナツメさんにはとてもとても……」

 

 二人にとってナツメは雲上の人のようだ。

 

「でもそれは!」

「エスパーとしての力量の話!」

「エスパー使いとしての力は決して引けを取らないと思ってるの!」

 

 二人はにわかに表情を引き締めて言う。

 

「僕ら姉弟の以心伝心から成るコンビネーション!」

「お二人には破れるかな?」

 

―――

 

 レッドは二体、エリカも二体を失って辛くも勝利した。

 

「ぼ、僕らの」

「コンビネーションがっ……!」

「でも負けたからには仕方ないよね!」

「負けを認め、このマインドバッジ。お二人夫婦にあげるよ!」

 

 レッドはフウから、エリカはランからそれぞれマインドバッジを受け取った。

 

「ありがとうございます」

 

 7枚目のバッジを二人はまた恭しく受け取った。

 

「僕ら姉弟のコンビネーションよりも」

「伝説の夫婦と呼ばれる二人とポケモンとの絆の方が上だったみたい」

「いえいえ。ナギさんと並び称されるのも納得の強さでしたわ、まだまだお若いのですし精進なさいませ」

 

 エリカはそう二人を励ました。

 

「へへへそう言われると」

「嬉しいなぁ。これからも頑張れる糧になるよ!」

「次戦う時はもっともっと強くなって」

「更に強いコンビネーションで二人と戦うよ!」

 

 フウとランはにっこりと微笑んでそう誓いあった。

 それから二言三言話して、ジムを出た。

 

―午後3時 トクサネ宇宙センター 一階―

 

 ポケモンセンターでポケモンを回復した後、時間が余ったのでとりあえず二人は散策にでることにした。

 エリカが言うにはトクサネはこの国の天文学や宇宙学のトップを走る街だということなのでとりあえずその象徴であるトクサネ宇宙センターへ入った。

 

「へえここでロケットを打ち上げるのかあ」

 

 レッドは目の前に見える発射台とロケットを見て心を躍らせながら言った。

 

「このロケットは天王星や海王星の衛星に探査機を飛ばし、岩石や塵を収集して星の特徴を詳しく調べひいては宇宙の起源や原理を解明することを任務としていますわ」

「なんとも壮大な話だな……」

「私はこちら方面についてはそこまで了見があるわけではないのですがこれからの世界において宇宙探査は人類の未来を広げる大事な鍵になるのは自明ですわ。ここでお仕事している方々には頑張っていただきたいですわね」

 

 エリカがそう所員への激励を言うと、背後から聞き覚えのある声がした。

 

「やあふたりとも。こんにちは」

 

 振り向くとそこにはダイゴが居た。

 

「あ、ダイゴさん! どうも」

「フエンタウン以来ですわね。その節はどうも」

 

 エリカは軽く頭を下げる。

 

「いいよ。当然の事をしたまで……。それはともかく、もうバッジ取ったそうだね。あとひとつかい?」

「はい。お耳の早いことで」

「ご活躍のようで嬉しいねぇ。そんな二人にちょっとしたご褒美があるんだ。僕の家が近くにあるんだけどこない?」

 

 特に悪い話でもないと判断した二人はそのまま家に行くことにした。

 

―午後2時30分 ダイゴの家―

 

 ダイゴの家はデボンコーポレーションの御曹司と言う割には小じんまりとした質素な家であった。

 二人はリビングに通され、椅子に座った。

 

「お茶でも入れようか。何がいい?」

「俺は……お茶で」

「お茶? いいんだよそんな別に遠慮しなくて」

 

 ダイゴはレッドを気遣ってか笑みを浮かべながら言った。

 

「え、じゃあサイダーで」

「サイダーね。エリカさんは?」

「私はそうですね……」

 

 彼女は奥の台所にコーヒーサーバーがあるのを一瞥した後

 

「カプチーノでお願いします」

 

 と返した。

 

「おや。目敏いねぇ。分かった。ちょっと待ってて」

 

 ダイゴは奥にある台所に行った。

 

「意外だな。お手伝いさんとか居ないもんなんだな」

「恐らく一人暮らしだからでしょう。お家が小さめなのも自分一人で掃除などを済ませられるようご自身で手配したのでしょうね」

「なるほどな……」

 

 確かにいつ来客がきてもいいようにする為かリビングは綺麗に片付いている。

 

「ダイゴさんは信頼できる人間以外にお金持ちと悟られるのを嫌いますから……。まぁダイゴさんに限らず本当のお金持ちはそういうものですわよ」

「へぇ。じゃあエリカもそうなの?」

「私もお祖母様から出来る限りそうする事が自らの身を守ると教えられてますから」

 

 そうこう話しているうちにダイゴはカプチーノとサイダーをそれぞれに置いた。

 返礼の後、ダイゴも椅子に座った。

 

「あら……これは良い香りですわね。モカ・シダモですか?」

「おぉ通だねぇ。そうだよ。モカ・シダモのG1。やっぱりこういうエレガントな風味が好きそうだなぁと思ってね」

 

 彼女はコーヒーを一口飲んだ。

 

「旅に出てからはなかなかこう落ち着いて良いコーヒーを飲む機会はありませんからありがたい限りですわ。旅をしながらですと豆や茶葉などを良い状態に保管し続けるのは難しいですし」

「そう。喜んでくれたようで何よりだよ」

 

 レッドはやや気後れした風に三ツ矢サイダーを飲んでいた。

 

「あの、それでダイゴさん。俺たちに渡したいものって」

「ああ。ごめんごめん。これだよ」

 

 ダイゴはカバンから机の上に一枚のCDROMを出した。

 

「これはわざマシンですわね。それも秘伝技の」

「そう。これはひでんマシン。中身にはダイビングが入っているんだ」

「ダイビングってあの潜る技ですよね?」

 

 レッドが尋ねる。ヤナギ戦で見た記憶が有るためどんな技かは知っていた。

 

「そう。この技を使って水中に潜ることができるんだ。因みにルネシティに行くにはダイビングしないと行けないからね」

「あぁ左様ですか……。この街に潜水用の服や道具はありますか?」

 

 エリカはダイゴに尋ねる。

 

「もちろんだよ。ダイバーたちの天国のような街でもあるからねここは。フレンドリィショップには勿論あるし商店街には用品の専門店もある。まぁ好きな所で買えばいいと思うよ」

「ありがとうございます」

 

 エリカは頭を下げて礼を言った。

 

「さて……ところで早いもので選挙まであと三ヶ月だけどエリカさんはどうするんだい?」

「選挙ですか……。12月に私達がどうしているかにもよりますわね。大事な選挙ですし出来る限りリーダーとして出席したいですけれど」

 

 エリカはそう言うともう一口コーヒーを口につけた。

 

「選挙ってどこでやるのさ」

 

 レッドがエリカに尋ねる。

 

「第一回選挙からセキエイ高原のリーグ本部でやるしきたりですわ。恐らく今回もそうなると思います」

「セキエイか……。シンオウからだと大分遠くなっちゃうな」

「あらあと三ヶ月でホウエンを去れるのですか?」

 

 エリカはやや意地悪そうに尋ねる。

 

「おいおいやめてくれよ……」

「フフ……。まぁ冗談はともかく、もし出席できない場合はナツキさんにお任せすると思いますわ」

「別に俺は数日くらいお前がいなくても大丈夫だぞ」

「わ、私が平気ではないんです! それに私の為に何日も旅を止める訳にもまいりませんでしょう」

 

 彼女はやや顔を赤くして言った。

 

「ハハハ……。まあわかったよ。あの。あまり大きい声じゃ言えないことなんだけど」

 

 ダイゴは温和な表情からにわかに眉をひそめ、引き締まった顔になった。

 

「は、はいなんでしょう」

「恐らく今回ワタル君の対抗馬になるであろうシロナさんの事なんだが……よくない噂があるんだ」

「シロナさんにですか?」

 

 エリカはやや目を丸くしている。

 

「彼女がリーグ上層部には珍しく政財界への太いパイプがあることは聞いたことあるだろう」

「えぇ。まあ」

 

 シロナはリーグ上層部ではきっての高学歴であり、そこで得たコネを用いて政治家や官僚に太いつながりがあるとされていた。

 

「彼女のコネのおかげでここ数年における政府からのリーグの直接的介入をすんでのところで免れているのは確かだ。彼女が副理事長になって以来政府からの圧力は目に見えて緩まった。まあ強いていうならこの前の戦争における”脅し”がそうだがまぁなんとか防げている」

「まさかそのつながりとやらに不審な点があるとでも仰せなのですか?」

 

 エリカが鋭い口調でそう言った。

 

「そうだ。これといった証拠はまだあがってないが僕は一応デボンの後継者だからね。そういう話がちらほら聞こえてくるんだ。リーグ支部の改修工事に与党の支持基盤団体の息がかかった企業が受注できるよう手を回したとか、リーグ職員の新規採用に懇意の政治家の知己が有利になるよう細工をしたとかそんな話をね……」

 

 そう言うとダイゴは組んだ足を組み替えた。

 

「それで。ダイゴさんはどうしようと言うのですか」

「さぁ。どうしようかね」

 

 ダイゴは不敵な笑みを浮かべる。

 

「まさかそれにシロナさんが関わっているとでもお思いなのですか?」

「それは詳しく見てみなければわからないことだがこれだけは言えるよ。”彼ら”の支持を得ることは並大抵のことではできない。とね」

 

――

 

 それから10分ほど話して二人はダイゴの家を出た。

 

―トクサネシティ 市街―

 

「なんとも歯切れの悪い話だったな。シロナさんの事」

 

 レッドは開口一番にそう言った。

 

「ダイゴさんのこのままでは済まさない……という言葉。やはりこれにかかってくるのでしょう。だとするならばシロナさんはどうするのか。気になる所です。何にしても次の選挙は類を見ないほどの波乱の展開になりそうなのは間違いないでしょうね」

 

 彼女は複雑そうな表情でそう語った。

 

――

 

 それから二人はダイバー用品を購入してトクサネをたち、5日かけてルネシティへ到着した。

 

―ルネシティ 周りが山、そして海に囲まれた環状の街。街の中心の湖は透明度が高く顔の表面が見えるぐらい澄んだ水である。晴れているときはとても美麗な風景になるが、熱が篭りやすく夏は地獄らしい。

 

 

―9月20日 午前10時 ルネシティ 市街―

 

 二人はポケモンセンターでウェットスーツから着替え、ポケモンを回復させた。

 

「いよいよ最後のバッジだな」

「ええ。過ぎればあっという間の事ですわね。確か8番目はアダンさんという水タイプのリーダーの方と歩き方には書かれていましたわね」

「やっとお前にとって有利なタイプがきたな……。良かったな」

 

 レッドは笑いながらエリカを見た。

 

「ええ。アスナさん以来私にとっては不遇続きでしたから……。得意なタイプの時くらいはリードできるよう心がけたいですわね」

「大丈夫だろ。お前ツツジさんの時はかなり頼もしかったぞ」

「えへへ……そうでしたか?」

 

 かれこれ話しながら二人はポケモンジムへたどり着き、入っていった。

 

―午前10時20分 同所 ポケモンジム―

 

 二人は久々にトレーナーと戦い、その末にアダンの所へたどり着いた。

 

「オー。遂にここまでやって来ましたか……ミスターレッド&ミセスエリカ」

 

 アダンは洒落た水色のコートやクラバットなどを身に着け、軽い香水をつけているのか良い香りもした。中近世の貴族を彷彿とさせる出で立ちである。

 

「君たちは既に聞いているとは思いますがね。私は今のサイユウリーグチャンピオン、ミクリにポケモンを教え、一時は彼に任せてリーダーから引いたのを、ミスターダイゴに代わって彼がチャンピオンになった事で私がここに戻ってきたのです」

「へぇ……そうでしたか。ミクリさんというのがチャンピオンというのは聞いてましたけど……」

 

 レッドは新鮮な風に驚きながら言った。

 

「おやそうでしたか……。しかし、ユーたちのようにレジェンダリーなカップルと戦えるのならば戻った甲斐があったというもの……。さて、そろそろ勝負をはじめましょうか! さあ、とくとご覧あれ。私とポケモンの織りなす水のイリュージョンを!」

 

――

 

 エリカは一体も失わずに完勝した一方、レッドは予想外の展開が続き二体を失った。

 

「たははは! コングラッチュレーション! ユーガイズウィナー! 私の完敗ですな。思った通り、実に楽しいゲームでしたよ。実にエレガントで、インテリジェンスな戦いぶりでございました。この素晴らしき戦いを称し、君たちにはこのバッジを授けましょう!」

「ありがとうございます!」

 

 二人はホウエン最後のバッジ。レインバッジを受け取った。

 

「君たちのように素晴らしいカップルならばこの先のサイユウリーグも決して乗り越えられぬことは無いでしょう。この地方での戦いや思い出をハートに刻み、ファイナルのファイトに向かうのです!」

 

 二人はアダンと別れ、ルネジムを後にした。

 

―同日 午後2時 ルネシティ 市街―

 

「なんとも豪華なお方でしたね……」

「ああ。多分あの姿格好は忘れないよ。さて! 遂にバッジ全部揃ったな」

「ええ。後はサイユウリーグを残すのみですわ! 参りましょう!」

 

 二人はポケモンセンターへ向かい、ポケモンを回復させた。

 

―午後2時40分 めざめのほこら前―

 

 ポケモンを回復させ、ルネシティをたとうとした二人であったが、めざめのほこらで騒ぎが起きているというので二人はそこへ向かった。

 祠に行くと大勢の人だかりができていた。

 

「ここを通せって言ってんだよ! 聞こえないのかい?」

 

 例のバンダナをつけた男や女たちがめざめのほこらの前で立ちふさがる男に向かって通すよう脅しまがいの口調で強弁し続けていた。

 

「何度言われようとここは私と私の許可を受けた者以外は入れない事になっています。お引き取り願おうか」

 

 男はアダンに影響を受けたかのような華美な服装をしており、白い帽子をかぶっている。おそらくあれがホウエン地方チャンピオンのミクリであろうことは推察できた。

 

「聞き分けのない子ね! それ以上続けるならこっちも容赦しなくってよ」

 

 幹部のイズミがモンスターボールを構えた。

 

「まさかとは思いますがあなた方のような人に私が負けるとでも? ここの前ジムリーダーということを知らないわけではないでしょう」

 

 ミクリは自信満々な様子でアクア団を見る。

 

「まぁ待て待てイズミ。手荒な事はよそう」

 

 奥からボスと思しき男が出てきた。

 

「し、しかしリーダー。このまま放っておくわけには」

「今、マツブサとも話がついたところだ。おい」

 

 そう言うとマツブサと共にマグマ団と思しき団員がぞろぞろとやってきた。

 マツブサはアクア団のリーダーとは対照的に理知的な雰囲気を漂わせている。

 

「私も海底洞窟に行ってべにいろのたまを使ってグラードンを起こそうとしたが居なかったのだ。あそこでないとするならばここにいるとしか思えん」

「というわけだ。通してもらおうか」

「そんな馬鹿げた話を誰が信じるものか。あそこに居なければ今頃ホウエン地方中が大騒ぎになっているはず」

 

 ミクリは頑として信じていない。

 

「うるせえ! ごちゃごちゃ言ってねえで通さないか! さもねえとこのアクア団とマグマ団が力づくでも通させてもらうぞ」

 

 マツブサは頷く。どうやら共同戦線を組んだようだ。

 

「例え何人が来ようとも構わない。倒すだけの話だ」

 

 ミクリもモンスターボールを構えた。

 すると群衆を押しのけて一人の少年がその場に現れた。どうやらユウキのようである。

 

「そ、その話は本当です! ミクリさん!」

「君は……ダイゴの言ってた子か。本当とはどういうことだ」

 

 ミクリは当惑した顔でユウキを見る。

 

「僕は海底洞窟でカイオーガを目覚めさせようとしたアクア団を止めようとしたんですが……。確かにあの人……アオギリがあいいろのたまを見せてもカイオーガは全く姿を見せませんでした」

「何!? ということはカイオーガはもう目覚めているということなのか……? しかしそれにしては何も起きてないのが説明がつかな」

「ほれみろ! そこの坊主の言うとおりだっただろ! 分かったらさっさとどきやがれ!」

 

 アオギリは勢いをつけて通ろうとする。しかし、ユウキがその前に立ち塞がった。

 

「なんだ坊主! どかねえか」

「貴方たちはここを通ってカイオーガやグラードンがいたとしたら自らの意のままに動かしてその企みを果たすつもりなんだろうけど。そんなことは僕が許さない! えっと……と、通りたいなら僕とミクリさんを倒してからにしろ!」

 

 ユウキは毅然とした態度で言い切ったが、冷や汗をのぞかせている。

 

「ふっ……大したトレーナーだ。そういうことだ。どうしても行くなら相手になる他ない。さぁ、来なさい!」

 

 こうしてミクリとユウキが二人がかりでマグマ団とアクア団を完膚なしにまで叩きのめした。

 

「ちっ……。負けたからには仕方ねえ。引き上げるとするか」

「このままで済むとは思わないことだ。我々マグマ団は必ず陸を増やす宿願を叶えてみせる」

 

 そういって二人の号令でアクア団とマグマ団は引き上げようとしたが、ルネの周辺の陸地や湖上には警察がひかえていた。

 

「な、なんだこれは! 一体どうしたことだ……」

「くっ……。どうやら嵌められたようだな……」

「マツブサ、アオギリ。あなた方のホウエンの各地で犯した所業は断じて許されるものではなく、正式な法による裁きをうけなければならない! 年貢の納め時だ」

 

 ミクリはそう言って二人及び二つの組織に引導を渡す。

 程なくして暫しの抵抗があったものの30分もすればボスや幹部問わずほとんどが逮捕され、アクア団及びマグマ団は壊滅した。

 

―午後4時30分 同所―

 

 この時間になると野次馬も大体はいなくなりミクリやユウキも一段落ついた。

 

「ありがとう。正直なところを言うと私一人ではやや手に余ると思っていたところなんだ。一匹一匹は大したことはないが何しろ量が多いからね」

 

 ミクリはそうユウキに礼を言った。

 

「いえいえ。それほどでも……。それにしてもアクア団やマグマ団の狙いは本当なんでしょうか……。この祠にあの超古代ポケモンが……」

 

 二人が話している間にレッドとエリカがその場に行った。

 

「やあ。ユウキ。大活躍だったな」

「あ! レッドさん。エリカさんも……見ていたんですか?」

 

 ユウキはやや恥ずかしそうな顔をしている。

 

「ええ。一部始終しっかりと見せていただきましたわ。本当にお強いですね。カントーで旅をしていた頃のレッドさんを思い出しましたわ」

「いやーそんな」

 

 ユウキは照れた表情で人差し指で顔を掻いた。

 そうしているとミクリと思しき男が話しかけてきた。

 

「君たちがあの伝説の夫婦ですね。噂は聞いている。ここにいるということはもうバッジは取ったということだね?」

「はい! この通り」

 

 レッドとエリカはバッジケースを取り出してミクリに見せる。

 

「ほう。私の師匠を一回で破るとは……。どうやら実力は嘘ではないようですね。ポケモンリーグで戦うのを楽しみにしているよ」

「えっ。ポケモンリーグって……」

 

 ユウキが当惑した表情でミクリを見る。一般トレーナー、特にモラトリアム期間中の少年少女トレーナーには基本的に誰が四天王で誰がチャンピオンかは知らされていないのだ。というのも四天王やチャンピオンはジムリーダーと違い基本的にはリーグに詰めており休日を除いてあまり表にでないものであり、9割以上のトレーナーにとっては戦うことすらかなわない雲上の人間という性質もあるからである。

 トレーナー情報誌にも暗黙の了解として四天王やチャンピオンの存在はともかく個々人の情報については載せないことになっている。表に出る時もあくまで理事や理事長としての肩書でしか出ないことになっている。とはいえ極秘情報というほどのことでもない為そこまで厳しい統制が布かれているわけではない。

 

「おっと。これは失言だったか。私はサイユウリーグ理事長。即ちこの地方のチャンピオンのミクリだ。宜しく」

「こ、こちらこそ!」

 

 ユウキは深々と頭を下げた。

 

「君の噂もかねがね聞いてるよ。旅に出てから5ヶ月たたないのにもう7つ集めたとか……。久々にここホウエンでも素晴らしいトレーナーと戦えそうだ。ここのジムにはもう行ったのかい?」

「いえ。ついてすぐここに来たので……」

「そう……。最後のジムになるが、気を抜かずに」

「はいっ!」

 

 ユウキは目を輝かさんばかりの様子で言った。

 

「ところで……。ミクリさん。念のため祠の中を見たほうがいいのではないですか?」

 

 エリカがミクリに言う。

 

「そうだな……。アクア団やマグマ団の言う事を信じている訳ではないが。念のため確認はしておこう。君たちもついてきてくれないか」

 

―めざめのほこら 最奥部―

 

 四人は階段を降り最奥部にたどりつく。

 やはりそこにはカイオーガもグラードンもいない。

 

「いないな……」

「なんだ。やはりアクア団とマグマ団がでまかせを言ってただけ……」

 

 ミクリがそう安心仕掛けた時、ユウキが例の事を言い始めた。

 

「あの……おくりびやまでべにいろのたまとあいいろのたまを守っている二人曰く、あの珠は偽物かもしれないというんですよ」

「な、何!? 偽物だって?」

「詳しく聞いてみるとその二日前くらいに偽物なんじゃないかと勘付いてどうしようか考えているうちにアクア団とマグマ団が来て……という経緯で」

「その二人が言うからには相当精巧な偽物だったということか……。いやしかし、海底洞窟で君は見たんだろう? カイオーガが眠っている所を。本来あそこには眠っているカイオーガがいるはずなんだ」

 

 ミクリが尋ねる。

 

「いえ……僕が見た時はそれすらありませんでした。あのアオギリって男がどこかに隠れているとかそう考えてあの珠をかざしたんですが反応がなく。去った後自分も注意深く見てみたんですがやっぱりそれっぽいポケモンはいませんでした」

「何……? カイオーガすらいなかったというのかい?」

 

 ミクリの顔が見るからに青ざめていく。

 

「はい」

「ということはまさか……」

「誰かによって盗まれた……と考えるべきかもしれませんわね」

 

 エリカがそう顎に手を遣りながら言った。

 

「ぬ、盗まれた!?」

 

 レッドはエリカに注目した。

 

「し、しかし冷静に考えてみたまえエリカさん。相手はあの超古代ポケモンのカイオーガだ。そんな人智を越えたポケモンにそう易々と立ち向かえる人間などいると思うか?」

「そ……そうですわよね。いるわけがありませんもの」

 

 彼女は微笑んで否定してみせたがその目は笑っていなかった。

 

「ね。貴方」

 

 エリカは振り返ってレッドに同意を求めた。その目にはどこかそうだと言ってくれと言わんばかりの切迫した感情が孕んでいるかのようにも見えた。

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 レッドも思い当たる節があったためやや空回り気味の返答になった。

 

「そうだろう? それに盗まれたとしてどうして偽物をでっち上げる必要があるんだ」

「そうですね……」

「うん。その通りです」

 

 ユウキやレッドは納得したがエリカは暫し間を置いて答える。

 

「それこそが狙いだとするなら……。あり得るのではないでしょうか」

「え?」

「今、そうしてお三方を納得させ……偽物をでっち上げるハズがないという論を形成させ……その帰結として盗むことなどありえないという風に誘導するのが狙いだとするなら。わざわざ偽物をでっちあげてまで盗みをする理由としては十分ではないのでしょうか」

 

 エリカは先程までのやや急迫めいた視線からは変わって冷静な様子でそう言った。

 

「お、おいおい待てよエリカ! お前はどっちなんだよ!」

「私はただ偽物をでっちあげる必要はないという論調に釘を刺しただけですわ。この件の追及はやめないでくださいましね。ミクリさん」

 

 その言葉はどこか別の自分にとって納得できる結論を求めている風にも見えた。

 ミクリは事実究明を約束して地上に戻り、そのまま三人と別れ、ユウキともすぐジムに挑戦するということで別れた。

 この日はルネに泊まり、翌日に出立して126、127、128番水道を通過し、チャンピオンロードをくぐりぬけていよいよ最後の難関サイユウリーグに到着した。

 

―――――

 

―10月3日 午前8時 サイユウシティ ポケモンリーグ―

 

「いよいよだな……」

「ええ。ここを突破すればホウエン地方での使命は全て果たせますわ」

 

 二人はポケモンセンターでポケモンを回復させ、薬も十分に買い込んだ後。目の前に見える四天王への入り口を見て言った。

 レッドは入り口を見据えて深呼吸した後

 

「よし、行くか!」

「はい! 貴方」

 

 とバッジチェックを済ませ、簡単なルール説明を受けていざ四天王の階段へと入っていった。

 

―カゲツの間ー

 

 カゲツは二人を見るや否や冷やかし半分の言葉を放った。

「フゥー、これまたいー夫婦が来たねぇ!」

 レッドは尋ねた。

「貴方が最初の四天王ですか」

「おうよ! 俺は一番目のカゲツってんだ! 宜しくな!」

 男は意気揚々に挨拶した。

「こちらこそ」

 二人が返礼した後、カゲツが続ける。

「ポケモンリーグに来るトレーナーはままいるが本気で相手できるのは久しぶりだぜ。なんせ8枚取った記念にここ来るトレーナーばっかりでなぁ。それもお前らみたいに名のある伝説の夫婦が相手ならば遠慮なくいけるってもんだ!」

「なるほど。四天王が手加減せずに戦っていいのはバッジ10枚以上のトレーナーですものね……。それは確かに気が滅入ることでしょう」

 エリカはそうカゲツを気遣った。

「おう。だから俺のテンションは最高潮よ! それじゃあそろそろいくぜ。俺の使うタイプは悪! その狡猾で無慈悲な攻撃は如何なる隙も見逃しはしない! ポケモンリーグでしかできない戦い、三人で楽しもうじゃねえか! 行け! マニューラ! アブソル!」

――

 

 レッドは2体を失い、エリカは全滅してカゲツに勝利した。

「こりゃ大したもんだ……」

 カゲツは本気状態の四天王を撃破した二人を見て感心していた。

「強い……。これが本気の四天王……」

 一方レッドも全力の四天王の実力を目の前にして思わずそう呟いた。

「ま、そう怯みなさんな。俺は四天王の最初の壁にならにゃいけないから途中の四天王よりも強く見せなきゃならんのさ」

「……」

「まぁーそんな顔するなって! 俺はお前らと戦っててすげえ楽しかったし、あんたら二人ならきっとチャンピオンにだって勝てる! さあ、次の部屋に行きな!」

 カゲツは意気消沈気味の二人を励ました。

 レッドは少しだけやる気を取り戻す。

 こうして二人は回復させた後階段を上がり、二人目の四天王の扉を開けた。

 

―フヨウの間ー

「ヤッホー!」

 入るとそこには祭りの催しでも彷彿とさせる格好をした少女がいた。

「さっきとはまた違う雰囲気の子だな……。それになんか子ども……?」

 レッドの第一印象はそれだった。

「あの格好で寒くはないのでしょうかね……?」

 エリカはレッドに小さく耳打ちした。

「やだなー、こう見えても一応あたしは14だよ! ま、それはそうとあのツルピカのおにーちゃんを破ったってことは二人はもっと強いんだね!」

「そうなりますわね」

「やっぱりー! どーしよ本気の四天王に勝った人なんて初めて? だからドキドキしちゃう! あ、自己紹介するね! あたしの名前はフヨウ。ゴーストタイプの使い手だよ! ゴーストは実体のない不思議なポケモン。あたしはおくりびやまで修行しているうちにこの不思議な子たちと心を通わせられるようになったの!」

 フヨウは明るい様子で喋り続ける。

「ゴーストか……。中々手強いな。キクコさんやマツバさんと戦った時でも結構苦戦したし……」

「おくりびやまですか。なるほど霊の本山で修行し四天王になった実力者ですわね。これは侮れませんわ」

「そうでしょー。あたしとこの子たちの絆はとーってもかたいの! 二人の力であたしたちのポケモンに通用するかどうか! ここで試してみなよ! 行って、ムウマージ! フワライド!」

――

 こうしてエリカは一匹、レッドは二匹失い勝利した。

「わぁ、やっぱり強いね! でも正々堂々戦えて本当に楽しかったよ! 次も頑張って!」

 こうして二人は次の部屋へ向かった。

―プリムの間―

「あら……。全力の四天王を前にしてここまで来れるとは。伝説の夫婦というのは誇張ではないようですね」

 3人目の四天王は先の二人とは打って変わり、大人の貴婦人としての雰囲気を漂わせる女性だった。

「綺麗な人だな……」

「貴方」

 エリカはレッドを牽制する。レッドはすぐ帽子を直し、襟も正した。

「私の名前はプリム。氷タイプの使い手です。貴方達が戦ったヤナギさんには少し劣るかもしれないけど……。南国のホウエンという私の祖国とは正反対で、氷タイプには厳しい環境下で鍛え上げた私のポケモンたちは決して貴方たちに引けを取るものではないと自負しています。さて、そろそろ始めましょうか。行きなさい!トドゼルガ!オニゴーリ!」

――

 エリカは全滅。レッドは一匹を失い勝利した。

「やはり、噂通り……いやそれ以上の実力ですね。さあ次は四天王最後の戦いです。そこで四天王の本当の恐ろしさというものを知るのです」

―プリムの次の階段―

 ポケモンを回復させ、二人は次の部屋へ向かおうとしていた。

「次が最後の四天王か……誰だろうな」

「直接面識はありませんけどお母様から聞いたことがありますわ。確か半世紀以上にわたりフスベシティでジムリーダーを務め、ワタルさんやイブキさんを育て上げた人だとか……」

「へぇぇ……。それかなり凄い人じゃないか。強そうだな」

 そう話しているうちに二人は次の四天王の部屋に入っていった。

―ゲンジの間―

「よく来たな挑戦者たちよ! わしがサイユウリーグ最後の四天王のゲンジじゃ!」

 男は見るからに歴戦の勇士といった風貌をしており、老いたといえども衰えを見せない気迫はヤナギを彷彿とさせた。

「あの……今エリカから聞いたんですけど、ワタルさんやイブキさんの師匠だとかで」

「おお。そうじゃ! あの鼻垂れ小僧を理事長にまで育て上げたのはワシじゃ! 70年近くも昔にフスベのリーダーになってから数々のドラゴン使いを育ててきたが、あの二人は特にワシの誇りじゃよ! ガハハハ!」

 ゲンジは本当に嬉しそうに語る。心の底から二人を思っているようである。

「へぇ……え!? 70年!?」

「貴方。ゲンジさんは内国の四天王やジムリーダーの中では最高齢の確か……87歳でしたわね。リーダーだった頃は酔うとよく大和に乗艦していた頃のお話をされていたと母から伺っておりますわ」

「大和……ってあの戦艦大和?」

 レッドにとってはあまりにも遠い時代の話であり当惑している。

「そうじゃ! ワシは青春の頃に大和に乗っておったのじゃ! 戦に負けはしたがそれだけはワシにとっては誇りでのう。上官に怒られたりしごかれたりで嫌なことは多かったが仲間と飲み交わしたりして楽しいこともあったものじゃ。そんなある日にワシは演習の最中に失敗して海に落ちた事があっての。ポケモンに助けられた事が……」

 ゲンジが夢中になって話している最中、エリカが耳打ちする。

「貴方。そろそろ止めませんと……。お母様はこの話になると1時間は止まらないと仰せになっていましたわ」

「え。なんでだよ……お前が言わせたんだろ?」

「そ、それはそうですけど」

 二人がひそひそ話しているとゲンジが睨んできた。

「おい! 聞いておるのか!」

「あぁすみません。あの、そろそろ勝負の方を……」

 レッドが申し訳なさそうにゲンジに言う。

「ん……。おぉそうじゃったの! すまなかった。もう分かっているとは思うがワシの使うタイプはドラゴンタイプじゃ。全てのポケモンの中でも随一の強さを持つポケモンじゃ。そんなポケモンと相対する時、トレーナーとして何が必要か。どうすれば良いのか。伝説の夫婦と呼ばれるお前たちがどこまでそれを理解しているのか、試させてもらう!」

――

 レッドは一体、エリカも二体失いどうにか勝利した。

「うむ。十分にわかってるようじゃの。ポケモントレーナーに必要なのは正しい心! それをなくしては強くはなれん。さあ、先に進むが良い。チャンピオンが待っておるぞ!」

 二人はポケモンを回復させ、いよいよチャンピオンとの決戦に臨む。

―ミクリの間―

 二人がたどり着いた先に居たのはミクリだった。

「ようこそ。チャンピオンの間へ。チャンピオンになってからと言うもの、いろいろな人間と戦ってきたが、君たちのように全力をだしたジムリーダーを16人も破り、そしてわがホウエン地方の誇る精鋭の四天王もあっさりと倒しここまで来るというのは初めてだよ」

「いえいえ……」

 レッドとエリカはそう謙遜する。

「恐らく、君たちはここがホウエン地方における最後の戦いになるのだろう。ここで何を学び、何を見てきたのか、そして、どちらがここでよりエレガントに舞えるのか! サイユウリーグのチャンピオンである私に見せていただこうか!」

――

 レッドは2体、エリカも得意なタイプであるにもかかわらずチャンピオンが相手ともなると実力差がでてしまうのか2体を失った。

「ホウエン地方で頂点に立つ私をも打ち負かすとは……。憎らしいほどエレガンス! そしてとってもグロリアス! 流石は伝説の夫婦だ! 君たちならばきっとどこの地方でも通用するだろう!」

「ありがとうございます!」

「君たちは私を破り、ホウエンでも比類なきものたちの一人となった。その偉業をこのホウエンリーグの殿堂に刻み込もう。さあ、ついてくるといい」

 こうしてレッドとエリカは殿堂入りの儀式を終え、ポケモンリーグを出た。

―午後3時 ポケモンリーグ 入口前―

「終わったな……」

 レッドは五ヶ月近くにも及ぶホウエンの旅を終え、感慨深げにそう言った。

「ええ。過ぎれば早いものですわね……。来た時は蒸し暑くなりつつあったというのに、今では風に秋の気配を感じますわ」

 エリカの言う通り、季節は10月を迎えて冬の準備に入っていた。

「次はシンオウ地方か。この国で一番北にある場所だよな」

「ええ。丁度この時期から本格的に寒くなってきますし、冬物も用意しなければなりませんわね」

「そうだな……。そういえばシンオウの船はどっちの街いきゃいいんだろうな?」

 

 エリカは暫し考えた後

 

「カイナでもミナモでもどちらでも良いとは思いますが、リザードンの負担を考えればミナモの方が近いですし良いと思いますわ」

「そうだな……。よし、じゃあミナモに行くか」

 

 そういうわけで二人はサイユウからミナモシティへリザードンに乗って移った。

 

―午後5時30分 ミナモデパート 一階―

 

 二人はミナモシティに着いた後、ミナモデパートでシンオウで必要になると思われる服以外のゴーグルやカイロなどの防寒具を買い込み、一階の休憩スペースで休んでいた。

 

「ふう。まあこれだけあればなんとかなるだろ」

 

 レッドは満足げな表情で街を歩いていた。

 

「なんとかなるでしょうけど結構買いましたわよね……。いくらシンオウとはいってもやりすぎのような気がしますが」

 

 レッドは紙袋6つほどを満杯にして持っていた。

 

「ハハハ……。まあ買ったものは向こうのポケモンセンターに送るしそこから必要な分だけ持ってけばいいだろ」

 

 ポケモンセンターはトレーナーの補助として全国各地のポケモンセンターに重くてかさばる荷物を配送・保管するサービスを請け負っている。

 

「左様ですわね。まあありすぎて困るものでもありませんし……」

 

 そうこう話しているとある人物が二人の前に現れた。

 

「あ! レッドさんにエリカさん! お久しぶりです」

 

 ゴールドはしっかりと会釈した。

 二人は返礼の後、ゴールドを見た。

 

「あら……ゴールドさん前と随分変わりましたわね。何かあったのですか?」

 

 先月会った時と比べ顔はしっかりと締まっており、精悍な雰囲気もうかがわせる。前のような軟弱な印象は消え去っていた。

 

「え……あぁまあ。聞いてくれますか……いえ。寧ろレッドさんにこそ聞いていただきたいです」

「お……おう」

「実はこの間ワタルさんから電話があって……。そこからいろいろ」

 

 ゴールドは滔々と話し始めた。

 

――

 

―9月13日 午後11時 ハナダシティ カスミ宅―

 

 ゴールドはナギと初めて戦った5月以来毎月ハナダシティに帰ってはカスミと宜しくやっていた。

 この月もまたカスミと数時間に亘って茵を共にし、行為を終えてベットに二人横たわっている。

 

「はぁ……」

「どうしたのゴールド? 元気ないわね」

 

 カスミは心配そうにゴールドに体を向ける。

 

「実はさぁ……ワタルさんにここ最近たるんでるぞってズバッと言われちゃってさぁ。最悪の場合はPWTの件そのものをなしにするぞって」

「まあひっどーい! あのヘタレ理事長がそこまで言うって事はエリカになにか言われたのね! 本人はバレてないと思ってるけどあの子にベタ惚れなの丸わかりなのにねー」

 

 カスミはあからさまに不満を露わにした。

 

「エ、エリカさんが?」

「そーそー。きっと何か思い切ったこと言わないと駄目とかなんとか言ったに決まってんのよ! そんな事言ってゴールドがどんなに傷つくか分かっているのかしら?」

「うう……。そうかもしれないけど……エリカさんも別に間違ったこと言ってるわけじゃ」

 

 ゴールドはそうエリカをかばう発言をしたがカスミはすぐに返した。

 

「あんな遊びもロクに知らない温室育ちのお嬢様の言うことなんてね。筋が通ってたとしても聞く必要なんかないわよ。人には小難しい理屈だけじゃ片付かないことが一杯あるのにエリカはそれを分かってないんだから! ほんっとムカつく」

 

 カスミは心の中ではエリカの事を快く思ってないようだ。

 

「そ、そうかなぁ」

「そうよ! いい? あたしはね。ゴールドはゴールドのペースで自分の目標に向かってほしいの! 誰にとやかく言われる筋合いなんてないわ! あの子の言うことなんて気にすることないから! それともゴールドはあたしよりエリカの方がいいっていうの?」

「い、いやそうじゃないよ。僕にとってカスミは一番の彼女だから」

「へへ嬉しー! ゴールドっ」

 

 カスミはそのままゴールドに抱きつき、もう一度体を交じらわすのだった。

 

―9月14日 午前7時30分 同所―

 

 ゴールドが朝起きるとカスミは朝食を作っていた。

 

「あ、ゴールドおはよー!」

「ん、あぁ……おはよ」

 

 ゴールドは眠い目をこすりながら起き上がった。

 

「朝ごはん作ってるから、その間に顔でも洗ってくれば?」

「分かった……そうする」

 

 ゴールドがベッドから降りるとポケギアが鳴り響いた。

 

「はい……もしもし」

「ああゴールド? お母さんだけど」

「お、お母さん!? どうしたのこんな朝早く」

「ちょっとあんたに用があってねぇ。なんでも今こっち来てるんだって?」

「え? なんで知ってるの?」

 

 ゴールドは不調を悟られるのを避ける為かカントーに戻っていることを母親には知らせていない。

 

「ん。まあ虫のしらせってやつね。なにか相談したいこととか悩みとか。そんなんあるからわざわざこっち来たんでしょ? お母さんだったらなんでも聞いてあげるからいつでも帰っておいでって」

「お母さん……。実はさ……上手く行ってないんだ。ホウエン地方でのバッジ獲得」

 

 ゴールドは少しずつ母親に今日までの経緯を話した。

 

「そらぁあんたがしっかりせんのが悪いんじゃないの! カスミさんやら他のトレーナーやらに甘えて自分を律しようとしないからいつまで経っても勝てないんじゃないの?」

 

 ゴールドの母親は厳しい口調で叱った。ちなみにカスミと付き合っていることは既に承知済みである。

 

「いや、それはそうかもしれないけど……」

「歯切れの悪い言い方すんじゃないの! いい? ちゃんと今自分は何をすべきか考えて行動しないと本当にワタルさんから見放されちゃうわよ? それでもいいの?」

「そ、それは困る」

「そうでしょ? だったらもっとシャンとしなさい! こんな事お母さんしかビシッといえないんだからね?」

 

 それから10分ほど母親からの説教は続いたがゴールドは曖昧な返事を繰り返すばかりだったので呆れた母親はそのまま電話を切ってしまった。

 

―同日 午後2時 ワカバタウン ウツギポケモン研究所前―

 

 ウツギはこの時日課の植栽への水撒きをしていた。

 そこに偶然ゴールドの母親が買い出しの最中に通りががった。

 

「あぁ、ゴールド君のお母さん。こんにちは」

「ああどうもこんにちは……」

 

 母親はいつもに比べ声量が小さかった。

 

「おや? 元気がありませんね。どうしました?」

「それが聞いてくださいようちの子ったらだらしがないんです! なんでもバッジ集めが進まないとかでね。その原因が……」

 

 母親はゴールドの不甲斐なさをウツギに愚痴としてこぼした。ウツギとはゴールドにポケモンを託されてからの付き合いでありお互いの事をよく話し合っている。

 

「へぇ……ゴールド君がそんな事になってるとはねぇ。まぁとにかくお母さん。様子を見ましょうよ。彼は一人前のトレーナーになったとはいってもまだまだ子どもな訳ですしそういう時期もありますって」

「そういう風に甘やかしていたら駄目なんですよあの子は! ある程度の緊張感がないとどんどんたるんで行っちゃうんですから……はぁもう本当どうしましょ……」

 

 母親は相当に考え込んでしまっている様子である。母親である為自分の子どもの事はよくわかっているのだろう。

 そんな話を傍らで聞いている男がいた。

 

―午後7時30分 ワカバタウン ツクシ宅―

 

 ツクシはリーグを辞めて研究員になって以来、リーダー時代の貯金を使ってワカバで中古の家を買っていた。ウツギが用意してくれるとは言ったが当人は集合住宅は困ると断ったのである。何故ならばアカネが同棲することになっていた為、冷やかされたり妙な噂をたてられるのを懸念したからだ。

 それからというもの、アカネは仕事もある為毎日とはいかないが月に数回以上は必ずツクシの家で晩ごはんを作り一緒に食べることにしていた。

 

「もう。食器洗いくらい僕にやらせてくれてもいいじゃないか。そんなにお腹大きいんだしもっと安静にしてないと……」

 

 流石に同棲して数ヶ月も経過すればツクシもいい加減アカネに敬語を使わなくても平気になりつつあった。しかしこれは家の中だけであり、外に出ると恥ずかしさからか以前の口調に戻ってしまうが。

 

「ええのええの気ぃ使わんで。たまにしか一緒に居られんのやからこれくらい好きにやらせてぇな」

 

 彼女は皿を拭きながら言う。アカネはコガネにマンションを借りているがツクシと同棲するようになってからというものあまり帰らなくなってしまった。

 

「そうは言ったって……ほら仕事も全然減らしてないみたいだし、そろそろ大事を取ったら? 生活は僕がなんとかするしさ」

「なーに一丁前に心配しとん。ツクシが心配せんでも銭ならうなるほどあるっての。ウチがなんぼ稼いどるか知らんわけやないやろ?」

 

 アカネはニコニコ笑いながらそう言って見せる。アカネはリーダー以外にも芸能活動やドラマや映画など女優としての活動で途方もない額を稼ぎ出していた。

 

「ま……確かにそうだけどね」

「やろ? まー確かにツクシの言う通りやし。来月くらいから仕事少しずつセーブしよかなぁって事務所やマネージャーとも連絡とっとるし心配せんでええて」

「そう……まあ自分で分かっているならいいけどさ」

 

 アカネの要領の良さは類稀なるものだとツクシはここ数ヶ月特に痛感させられている。

 

「ツクシは今日の仕事どうだったん?」

「うん。今日はフィールドワークで久々に近所の29番道路の野生のポケモンについていろいろ生態調査してたんだ。今日は結構珍しい型の虫ポケモンみつけられたし大収穫だったよ。明日からこれと最近調べた付近のデータを下に東ジョウトのポケモンの生息域における動態の傾向について報告書をまとめるんだ」

「へぇ……。研究者も大変やねぇ。そないなこまい仕事をせなあかんもんな。ま、ぼちぼち頑張ってな」

 

 アカネは皿と食器をまとめて片付けながら言う。

 

「うん。あーそれでさ。ちょっと気になること聞いちゃったんだけど……」

「何?」

「あの……ゴールド君がホウエン地方であんまり上手くいってないんだってさ」

「ゴールドが? なんでなんで?」

 

 アカネは残った皿を拭きながらツクシに興味津々に近づく。

 

「いやそれがなんでも……」

 

 ツクシはウツギと母親の会話から聞けた限りの事を話した。話を聞いていたアカネは時を経るごとに青筋をたてていく。

 

「あのアカンタレ! そないな弱気な事でこれからどないするっちゅうねん!」

「いやそんな怒らなくても……」

「アホ! 怒らんでどうする! あれがそのままジョウトの代表として出て負けでもしたらジョウトの恥! それは即ちコガネの恥やで!」

「ま、まぁとにかく落ち着いてよ。赤ちゃんに悪いよ?」

 

 ツクシに諭された彼女は皿を置いて深呼吸する。

 

「ハァ……。せやな。落ち着かなな……。それにしてもこのままほかしとく訳にもいかんしなぁ……せや! ウチにいい考えがある!」

 

―9月16日 午後1時10分 ワカバタウン ゴールド宅 ダイニング―

 

 ゴールドは昨日母親から一昨日きつく言ったことを直接謝りたいという事で久々にワカバタウンの自宅に戻っていた。彼は久々に母親の手料理を食べ大層満足げな様子である。

 

「お母さん。美味しかったよ! 本当にありがと」

 

 ゴールドは心の底からそう母親に礼を言った。

 

「そう? フフフ。ありがとうねゴールド」

 

 母親は食器を片付けた机を拭きながら言う。

 

「ゴールド。一昨日は本当にごめんね……。お母さんついあの時は熱くなっちゃって……」

「いいんだよ全然別に……。僕は気にしてないから」

 

 母親は拭く手を止めた。そして、ゴールドの目と合わせる。

 

「でも。これだけは聞いて。私は本当にゴールドの将来を心配して言ってるの。このままズルズル行ったら決していい結果にはならないとお母さん思うの」

「……」

 

 ゴールドはやはり痛い所を突かれているのか反射で目を逸らしてしまう。

 

「ゴールド!」

「は、はいっ」

 

 母親はゴールドの両肩を掴む。

 

「お母さんの目を見て! 約束してちょうだい。カスミさんと別れろとは言わないわ。弱音を吐かないでとも言わない。でも。そうやって自分のするべきことから逃げ続けて他の人を心配させるのだけはやめなさい」

 

 母親は真に迫った声色でゴールドの心に問いかけるように言った。

 

「お母さん……」

 

 ゴールドは複雑な表情をしている。

 

「これはお母さんだけが思っていることじゃないわ。ウツギ博士も、ワタルさんも、貴方にそのジムバッジをくれた人。あなたに期待している人皆がそう思っているのよ! だから……。そういう人の期待を裏切るような事はしないでちょうだい! これからは自分を律して、一生懸命自分のポケモンと修行に打ち込む。そう約束して!」

「……」

 

 ゴールドは目を合わせもせず深刻そうな表情で唇を噛んでいた。内心ではこれにうんと言えない自分の不甲斐なさに悔しさを感じているようにも見える。

 

「お母さん……」

「ゴールド! お前大概にせえよ!」

 

 そうしていると階段とダイニングを分ける壁からアカネが憤然とした様子で出てきた。

 

「ア……アカネさん!?」

 

 ゴールドは突然のアカネの登場に目を瞬かせる。

 

「久しぶりやなぁ。ゴールド。あの時はコテンパンにやられたんやったが……思えばワレにジムバッジやったんは間違いやったかもしれへんな!」

「な……何だって」

「何だってやあるかい! 自分の母親にこんなん言わせて恥ずいと思わんのか?」

「そ、そりゃあ思いますよ」

 

 ゴールドは即答する。

 

「ほー。思うんか。せやったらなんでうんと言ぃひんねん?」

「そ……それは。あの心の準備が」

「アホか! 何が心の準備や。結局おどれは自分の彼女と宜しくやり続けたい。なんもせんとただ褒められたい思っとるだけやろ? ちゃうんか?」

 

 ゴールドはアカネの言葉が正に真を突いていたため黙るしか無かった。

 

「フン。黙ったちゅうことはどうやら図星のようやな。ウチなぁ……おどれみたいに人生舐め腐ってる輩見るとどつき回したなるねん! どんなにバトルが強かろうとなぁ。磨かなければどんどん腐ってくだけやで」

「フッ……」

「おい、何わろてんねん!」

「アカネさん……言っちゃ悪いですけど貴女のトレーナーとしての評判は下の下ですよ? 所詮は忙しい副業の合間を縫って有り合わせでしか戦えないつまらないトレーナーだってミナモのトレーナーファンクラブでは散々の言われようでした」

「な……何やと! ウチはこれでもリーダーとして一生懸命やってんねんぞ! あったまきた! ゴールド表に出ぃ! ウソかホントか確かめさせたる! ホウエンの田舎もんにウチの評価決められたらたまったもんやあらへん!」

 

 という訳で二人は表に出た。

 

―午後1時40分 ワカバタウン 広場―

 

 アカネとゴールドが勝負をするということで町の人が集まってきた。その中には母親は勿論ウツギ博士やツクシなどポケモン研究所の所員もいた。

 

「ギャラリーがこんなもんじゃ寂しぃな……。ま、しゃーないわ! ゴールド! 6対6の真剣勝負や! その舐め腐った心に思い切り喝を……」

「アカネちゃーん」

 

 アカネがポーズを決めてゴールドと勝負しようとするとマネージャーと思しきスーツを着た女性が駆け寄ってきた。

 

「え……? もうそんな時間なん? ええ……あと1時間! いや30分……。ええって? スマン! 堪忍なホンマ」

 

 そう言うとマネージャーは離れていった。

 

「オホン! そういう訳や! あんま時間あらへんし、1対1のタイマンで勝負やで! それでええな? ウチが勝ったらミナモでアカネ様は世界で比類なき最高のトレーナーでございましたって言うんやぞ! ええな!?」

「な……なんですかそれ」

「なんですかもこうですかもない! いくで! 行けぇ! ハピナス!」

 

 ゴールドは帽子をかぶり直して一息ついた後

 

「行け、ヘラクロス!」

 

 と、ヘラクロスを出した。

 

「ヘラクロス! かわらわりだ!」

 

 ゴールドはハピナス相手ならばかわらわりで十分だろうと考えかわらわりを指示。

 飛び上がったヘラクロスはハピナスの脳天に手痛い一撃を味わわせた。

 

「へっ……どうだ」

 

 しかし、ハピナスは倒れない。深刻なダメージをくらいはしたがなんとか立っていた。

 

「うちのハピちゃんを甘くみたらしょっぱいでぇ! ハピナス! 火炎放射や!」

 

 ハピナスは至近距離からそのままヘラクロスに火炎放射を食らわせる。ヘラクロスの黒く鍛え抜かれた体が紅蓮の炎に包まれる。

 

「ふっ……。火炎放射か……。僕の計算だったら一撃では倒れないはず! 次こそ……!」

 

 やがてハピナスは吹き終わり、炎もフィールドから消えた。

 

「あ……あれ!?」

 

 炎が消えるとヘラクロスはひっくり返っていた。

 

「嘘だろ……」

 

 ゴールドはその場にへたりつく。

 

「へっ……甘いねんゴールド。ウチのハピナスよーぅ見てみい」

 

 そう言われてゴールドはハピナスの体を見る。よく見ると、ハピナスの頭のロールの最後部にメガネらしきものがかかっていた。

 

「あ……ああ! これは……」

「その面見た限りじゃ知っとるみたいやね。せや。これはこだわりメガネ。一つしか技が出せなくなる代わりに特殊技の威力が1.4倍されるごっつええ道具やで」

 

 アカネは勝ち誇った表情で言う。

 

「き……汚いぞ! こんな所でもかけるというだなんて……」

「アホちゃう? 目にかけてないだけで掛けとるやないの。ヒッヒッ」

 

 アカネは笑ってみせる。

 

「まぁこれに懲りて自分の力に自惚れんことやね。ほな、ウチこれから仕事行かなアカンからゴールド。さいなら~」

 

 ハピナスを戻した後、アカネは上機嫌な様子でその場を立ち去っていった。

 

「そんな……まさか僕が……こんなに弱くなっていただなんて」

 

 ゴールドの心中はアカネの小狡いやり方よりもそれを見抜けなかった自分の勘や実力の衰えへの恥で一杯だった。

 

―10月4日 午後6時 ミナモデパート 一階 休憩スペース―

 

「それから僕は心機一転してホウエンに戻って……死に物狂いで修行して三日前にやっとナギさんを倒し、ここまで来たんです」

 

 ゴールドはそう言うとナギを破った証であるフェザーバッジを見せた。

 

「あら……そうだったのですか」

 

 エリカはかなりホッとした表情でゴールドを見ている。どうやら見込み違いではなかったようだ。

 

「なるほどな……頑張ったなお前」

「ありがとうございます! 僕、今回のことで目が覚めました。もっともっと修行して、強くなって……レッドさんに必ず勝ってみせます!」

 

 ゴールドの目は決意そのものだった。

 

「フフフ……。そう言ってもらえたならば私もワタルさんに進言した甲斐がありましたわ。ゴールドさん。これからも精進してくださりませね」

 

 エリカはにっこりとした心からの笑顔でゴールドを激励した。

 

「はい! と……そういえば今更ですけどレッドさんその荷物はなんですか?」

 

 ゴールドは傍らに置いてある紙袋を指差す。

 

「ん? ああ、明日シンオウに発つからな。その準備でカイロとかゴーグルとか防寒具をいろいろ仕込んだんだ」

「シンオウ地方は北の大地と言われるだけあって寒いですからね……。備えは万全にしておかねばなりませんわ」

「シンオウって事はもうリーグまで行ったってことですよね!?」

 

 ゴールドは目を丸くしている。

 

「そうだ」

「あわわ……こりゃあ僕も急がないとなぁ、まだトクサネとルネがありますし……」

「ま。そこは遅れた分仕方ないわな。早く追いついてこいよ!」

「勿論! 次はシンオウのどこかでお会いしましょう! それじゃ!」

 

 そう行ってゴールドは立ち去っていった。

 その傍ら、物陰で赤毛の少年が一人つぶやいた。

 

「ゴールド……。やっと本気だすつもりになったな。次に戦う時は……必ず俺が勝つ!」

 

 そう言うと赤毛の少年はどこぞへと消えた。

 

―同日 午後8時 ミナモシティ ポケモンセンター―

 

 その後、レッドはシンオウ地方のミオシティのポケモンセンターに荷物を送り、二人はホウエン最後の夜を過ごしている。

 エリカはレッドが風呂に入っている間、アカネに感謝の電話をしていた。

 

「アカネさん。本当にありがとうございました。これでどうにかPWTへつなげられそうですわ!」

「ええてええて。あれでゴールドが本気だしてくれたんなら万々歳やわホンマ」

「しかしアカネさんも随分と今回は思い切りましたわね……。ゴールドさんのお母様まで抱き込んであんなことをするだなんて」

 

 彼女は感心した様子の声で言う。

 

「ま。まぁな。あれ本当はもっと早くでよかなー思っとったんやけどゴールドの母ちゃんによっぽどの事がない限りはと、止められててなー。我慢しとったんやけどどうもああいう煮え切らん奴は好かんくてな」

 

 アカネはやや照れながら当時を振り返っている。

 

「あれくらいの事をしなければゴールドさんは変わらなかったと思いますわよ。本当いい仕事をしてくださいました」

「アイツのために撮影の仕事一つドタキャンして、二つ日程ずらしてもろたんやけどそれに見合うだけの事はしたと思うとるよ。ウチもやっぱりコガネの人間であると同時にジョウトの人間やからな。その代表たるゴールドには期待しとる分しっかりしてもらわんとな」

「まぁそんな事まで……。あれからなにか支障などありませんでしたか?」

「ええのよ別に。他にぎょうさんあるし埋め合わせはいくらでもするがな」

 

 アカネは軽く笑い飛ばしながら言った。

 

「アカネさん。これからもどうかゴールドさんの事見守ってくださいましね」

「これからもは嫌やなー。ウチにはツクシがおるもん」

 

 アカネはまた冗談めかした風に言う。

 それからレッドが上がるまで二人の会話は続いた。

 

―10月5日 午前9時 ミナモシティ 港―

 

『午前10時出港予定のミオ行きのオーベル号に乗船を希望されるお客様はお早めに乗船手続きをお済ませください……』

 

 その船こそが二人がシンオウ地方へ向かう船である。

 レッドとエリカは待合室でホウエン地方最後の時を過ごしていた。

 

「長いようであっという間だったなホウエン地方」

「ええ。そうですわね。いろいろな事がありましたが……いまとなっては良い糧になっていると思いますわ」

「ああ……そうだな」

 

 レッドはホウエン地方のバッジケースを開く。8枚のバッジを眺めながら少しだけその時の事に思いを馳せた。

 

「次はシンオウ地方か……。今までよりも過酷な場所になるだろうけど、頑張らなきゃな」

「ええ。貴方。私はどこまででもついていきますわ!」

 

『オーベル号は只今から乗船可能になりました。乗船される方は乗船口よりお進みください。乗船手続きの締切は……』

 

「よし。行くか!」

 

 こうして二人は待合室を離れ、乗船するのであった。

 

 季節は夏から秋へと移り変わり、過ぎる風は冷気を少しずつ強めていく。

 真夏のホウエンを終え、二人は北の大地シンオウ地方への舵をきるのであった。

 

─第二十一話 夏の終わり 終─

 

 




これを以てホウエン編は完結です。
次回より改訂版のシンオウ編がスタートします。
改訂もいよいよ後半になりつつありますが最後までお付き合いいただけると幸いです。

尚、これをもちまして台本形式の話は完全になくなりました。四年半に亘る台本形式削除作業がようやく終わり肩の荷が下りた気分です。そのため、一部台本形式のタグを消去しました。
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