伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第三十四話 決選

―12月17日 午前7時 ポケモンリーグ 7階 理事長室―

 

 セキエイ高原はこの季節には珍しく、激しい雨が降っていた。

 防音、防風に優れた設計であるこのリーグ本部においても、窓を叩く雨や霙の音が響いている。

 理事長室の展望窓からみえる、壮大な景色も、今日はねずみ色に染まっている。

 

「理事長。本当ですかそれは?」

 

 ワタルから、あることを告げられた秘書は当惑しながら言う。

 

「確かな筋からの話だ。信じたくはないが、調査の余地はある。今日の討論会が終わるまでに、裏をとっておいてほしいんだ」

「分かりました」

 

 秘書はそう言うと、そつのない動きで、その場を辞した。

 

「まさかこんなことくらいで、ボロを出すとも思えないけど」

 

 ワタルは両手で組手を作り、ぽつりとそう呟いたが、雨の音にかき消されていった。

 しかし、ワタルにはそれでもその噂を信じるだけの根拠を、その内心に秘めていたのだ。

 

―午前10時 1階 第一会議室―

 

 三日目の選挙は例年の定刻通りにはじまった。

 三日目は前置きはなしで、そのまま一昨日からの議題を引き継いで討論が再開される。

 討論は相変わらずワタルが防戦一方であったが、その水面下では凄まじい攻防が行われていた。

 

―午前11時5分 3階 廊下―

 

 レッドはトレーニングをそこそこにすませて、再びリーグ内の探索にでていた。

 すると、大柄な体をして、修験者風のなりをした、ライオンを模したかのようなたてがみを特徴とする、壮年の男性がつきあたりより歩いてきた。

 その隣には黒いマントを羽織ったスーツの男性がおり、英語でなにやら会話している。

 当然レッドには聞き取れなかったが、スーツの男性のほうが、メモを取っていたためおそらくビジネス関係の話をしているのだろうことは推察できた。

 少しずつレッドに近づき、すれ違うところまできたが、この廊下は狭く、できるかどうかは怪しいところだった。

 レッドがすべき行動を察して廊下の端によけると、スーツの男が先に礼を言い、少し遅れて大柄の男のほうが

 

「ありがとう」

 

 と、精悍な笑顔を浮かべて、秘書との会話を再開した。

 そこまで流暢に日本語が喋れるなら、英語で会話しなくても。とレッドは思ったが口には出さなかった。

 彼らはもう少し歩いたところの、警備員が立番をしている出入り口のところまで会話を続け、そこにつくとスーツの男は「Thank you」と礼を言って、急ぎ足で更に先の突き当りを曲がっていった。

 大柄な男は、別れたあとそのまま部屋に入っていく。確かあそこの部屋は貴賓室と書かれていたとレッドは記憶している。

 どこかのお偉いさんなんだろうと納得して、レッドもその場を去っていく。

 

―午後0時13分 第一会議室―

 

 午前中の討論会は10分延長したものの、無事に終了した。

 1階にいる投票者は全員議場の外へ出たが、2階の傍聴席につめている千人以上のマスコミはそのまま居続け、午前中の議事録をまとめたり、ノートパソコンなどで記事を作成したりしていた。

 そんな最中、40インチほどの大型ディスプレイが、傍聴席のよく見える要所に、次々と運び込まれ、電気機器の業者によって配線される。

 

「急にこんな大掛かりな設備をやって、どうするんですか」

 

 詰めていた記者の一人が、何気なく、出入り口で設置を見届けていたマントを身に着けている、秘書と思しき、女性に尋ねる。

 

「直にわかりますよ」

 

 秘書は手短にそう答えると、それ以上の関わりを拒否するかのように、議場の中に入って細かい指示を行った。

 

―午後0時55分 1階 第一会議室 出入り口前―

 

 レッドは、2階と3階はあらかた探索し尽くしたので、1階に来ていた。

 どうやら、関係者側のスペースでは、2階の受付しか出入り口はないようで、1階は会議室の集まるところとなっている。

 レッドが来たときには、まもなく最終討論のはじまる時刻となっており、エレベーターが7階から降りてきていた。

 2つあるエレベーターのうち、左側から理事長のワタルを先頭に、秘書が3人ほどついてきていた。

 

「ワタルさん! これはどうも」

 

 ワタルは秘書の1人と何やら言い合いをしていたようで、助かったとばかりにこちらへ表情をむけた。

 

「やあレッドくん。どうしたんだいこんな所へ。ここには会議室くらいしかないよ」

「この3日間ずっと暇なもので、リーグを探索し尽くしてたので、行ってないところにいこうかなと」

「そうか。悪いね、君には関係がないのに無駄な時間過ごさせてしまって」

 

 ワタルはすまなそうに頭を下げた。

 

「おかげで退屈せずにすみましたよ。ところで」

 

 レッドは後ろにいる秘書たちの格好に目を向けた。全員が黒いマントを羽織っている。中はしっかりと、スーツを着ているだけに不気味である。

 

「ああこれかい? やはりこのマントはドラゴン使いとしての証だからね! 僕の秘書になっている以上は、彼らにもその証を分けてあげようと思って」

 

 ワタルは自信満々に語っているが、秘書たちは顔を紅潮させている。やはり恥ずかしいのだろう。

 

「かなり目立つと思いますけど……」

「なかなか一般への理解は浸透してくれないからね。まあ、仕方がないよ」

 

 ワタルはそれもまたやむを得ないとでも言いたげなようである。

 

「さて、僕はそろそろ時間なんだ。レッド君、あともう少しだけだから辛抱してくれよ」

 

 ワタルは微笑みかけて、議場に入ろうとする。

 

「あの、ワタルさん」

 

 レッドはしばし悩んで、ワタルが踵を返して数歩ほど歩いたところで、呼び止めた。

 

「申し訳ありません。理事長は討論会が」

「いやいいよ、なんだいレッド君」

 

 ワタルは、秘書の発言を制し、マントを翻して、レッドの前に歩み寄った。

 

「その。ポケモンマスター計画をシロナさんが中止に」

 

 ワタルはその言葉を聞いて、少し間を開けて言う。

 

「そうか。やはり君が情報源だったのか」

「は?」

「いやこっちのことだから。大丈夫。例え僕がこの選挙に敗れたとしても、責任を持って君たちの旅は続けさせるよ」

「お願いします。俺は、この一年間で本当に様々な人や物に触れました。だから、イッシュにも行ってみたいし、もっと多くのポケモンと、トレーナーと戦いたいんです!」

 

 レッドのその言葉は真に迫っていた。仮にも伝説のトレーナーと呼ばれるだけあって、説得力もあった。

 

「君の熱意は十分すぎるほど伝わったよ。必ず、その願いは叶えてみせるさ」

 

 そう言うと、ワタルはレッドに背を向け、今度こそ議場に入っていく。

 

―第一会議室 討論台付近―

 

「マモル君。アレ、使ってくれ」

 

 ワタルはそれを使うことに、最後まで食い下がっていた秘書に、語りかけた。

 

「理事長」

 

 秘書はようやく決意してくれたかとばかりに、引き締まった表情で言う。

 

「彼のおかげで腹が決まったよ。礼をいわないとね」

 

 そういうと彼は討論台へ登壇し、既に到着していたシロナに向かい合った。

 それを確認した議長のダイゴは口を開く。

 

「これより最終討論をはじめる。定刻は15時とする。両者とも言い残しのないように」

 

 議長がそう言うと同時に、シロナから口火を切った。

 

「それでは、引き続き、日米間のトレーナー渡航問題について討議致したく存じます。よろしいですか?」

 

 ワタルは黙してそれに従った。

 シロナは手元のキーボードを操作して、スクリーンにスライドを表示する。

 

「世界の現状をみるにおいて、外来ポケモンの流入における生態系の破壊は目を覆うばかりで、絶滅を危惧されている種族も少なくないと聞き及びます。また、最近ではトレーナーであることを口実に密猟を行い、マーケットで売りさばく悪質な輩も多く……」

 

 シロナはスライドに表示された、それに対応する数々の統計について説明した。

 ワタルはそれについては特に反論せず、じっくりと聞いている。

 

「確かに、トレーナーにとってより多くの国籍や文化を持つと戦う機会を与える。それは大変に大事なことですし、理念には共感いたします。しかし、渡航禁止後に深刻化した問題とはいえ、我々が考えるべきはまずポケモンたちの種の安全です。理事長のおっしゃるような完全な自由化は時期尚早と考えます」

 

 シロナは長きにわたる主張を、そう締めくくった。

 

「ワタル君」

 

 議長の指名にワタルは少々間をおいて答える。

 

「そもそも生態系や種族の保護という問題は我々リーグの考慮すべき裁量を超えている。そのようなことは、また別の機関が考えれば良いことだと思料します」

「ポケモンリーグの影響力は最早、バトルやトレーナーについて所掌する機関という分を遥かに超えています。ポケモンにおける第一の中枢として位置づけられている現状を鑑みれば、種族について考えることもまた一つの果たすべき役割ではないでしょうか」

「それについて考えることは否定しないが、だからといってトレーナーの利益を軽視してまで渡航自由化を阻もうとするのは行き過ぎだと言っている」

「種の保護がなされなかった結果、種が絶滅してしまうリスクを招来せしめるような、施策を進めるのが果たしてリーグの為すべきことでしょうか?」

「渡航自由化が即ち種の絶滅に繋がるという考え方はいささか飛躍している。我が国の中でも、様々な多様性をもったポケモンたちが全国に分布しているが、トレーナーの通行を制限していない現下において、貴女が示されたほどの危機が起きているのか。説明願いたい」

 

 現状、国の施策によって保護区制度や里親制度はそれなりに整備されており、あからさまな乱獲や孵化、遺棄に対する法的な規制も進んでいる。

 この国においては、生態系問題は育て屋の事実上の保健所化などといった問題もあるため皆無というわけではないが、その深刻さは大きく抑えられているだけでなく、また悪化させている因子もトレーナーというより、ブリーダーやレンジャーなどの他職種であることは公然たる事実であった。

 そのため、シロナはワタルの主張を崩す証拠を持っていなかった。

 

「我が国と同水準の保護政策を行っている国は多いとは言えず、それはイッシュ地方においても例外とはいえません。かの国では州ごとで規制が画一化されておらず、自由化を認めることでそれを悪用され、ロンダリングがなされる可能性もあります」

 

 そのためシロナは、国内における現状の説明を避け、当該国の法整備の疎漏を追及する。

 

「質問に答えていただきたい。私は海外の事例でなく、国内の現状と、その危機についての相関性を証明せよと訊いている」

「お断りします。国内の現状を疎明にしたところで、問題の解決には資さないからです」

「何度も言っている通り、そもそも生態系の配慮やポケモンの絶滅問題などは本来我々リーグの配慮すべき筋ではない。それでも、それを理由にトレーナーの利益を害するような反駁をするのであれば、そちらがまず問題提起の論拠を明らかにする責務があるのではないか?」

 

 ワタルは明らかに2日前より弁論術が巧みになっている。シロナのペースにはのらず、あくまで相手の弱点を突き続けていた。

 シロナが反論に詰まって窮している隙をついて、困惑しているあいだにワタルはさらに畳み掛けた。

 

「そもそも日米間の渡航自由化は、多くのトレーナーにとって利益でしかない。にも関わらず、枝葉末節なところをつついて反駁するところをみると、そちらに何か別の思惑があるのでは?」

 

 シロナはその言葉に、それまで鉄面皮であった表情に、ひび割れを生じさせ始めた。

 

「それは一体どういうことでしょう?」

「周知のとおり、ポケモンリーグは1993年の総選挙における与党の大敗から、断続的に政府からの圧力を受け続け、国民の支持とは裏腹に、政局では我々リーグの権限縮小を求めるものたちが力を持つと聞く」

「話が見えません。そのようなことを今更言ってどうするというのです」

 

 シロナはあくまで平静を保ってワタルと相対している。

 

「つまりは、こういうことだ」

 

 ワタルがそう言うと同時に、ディスプレイが次々と点灯し、ある映像がうつしだされる。

 

――

 

―2013年 2月22日 ヤマブキシティ某所―

 

「先生に、よろしくお願いしますよ」

 

 秘書が、ある女性に一つの封筒を渡しながら言った。

 

「分かりました」

 

 うなずいた方の人物は、明らかに昨日、マルマインによって物言わぬ骸にされた秘書であった。

 彼女の顔は一見して平静を装っていたが、その言葉は重々しかった。

 それから。彼女に語りかけている方の人物は、おそらくこの場の大多数が見覚えがあるであろう、大物の政治家である。

 

「長年、彼女の研究者としての側面しか見てない君にとっては、意外だったかもしれないがね。こういうこともしなければ、リーグは今にも我々の胸先三寸なのだよ」

「分かっています。分かっていますけれど。でもこれは明らかに」

 

 彼女が言いかけたところで秘書が遮る。

 

「我々はあくまで友誼を深めるために、リーグにとって好ましい人物を委員に推薦しているにすぎませんよ。国会の多くはリーグにとって好ましくないでしょうが、我々はあくまで味方ですからね。味方の手助けをするのは当然の道理というものです」

 

 政治家についている秘書はさも道理があるかのように、すらすらと言い立てた。

 まだ封筒には封をしていなかったため、秘書は再び中身を上半分だけだして、氏名と写真を見る。

 そこには、目の前で泰然と着座している政治家と同じ名字で、そっくりな顔をした若い男が、克明にかかれていた。

 

――

 

 映像のやりとりはそれからも数分続き、閉じられた。

 シロナは少し間をあけてこたえる。

 

「一体これは、どういうことですか?」

「覚えがありませんか?」

 

 ワタルは言葉こそ丁寧だが、明らかに声色には非難の色が含まれている。

 

「これを見せたところで、私をどうしたいのかという意図を測りかねていると申し上げているのです」

「ここに映っているのは、貴女の秘書ですよね。いや、正確には秘書だった人ですが」

 

 ワタルは含みをもたせた言い方をする。

 シロナは少しだけ、不愉快そうに眉を動かした。

 

「貴女は、このやり取りの数日後に中途採用という形で、まさに写真の人物を、リーグ本部の委員として雇い入れている。これは明らかに、不公正な斡旋の上に、貴女の掲げている主要な政策である不偏不党の理念に反する行いではないのかと尋ねているのです」

「確かに私はその人物を雇い入れました。ただ、それは決して外圧や高官の推薦だからではなく、採用基準に則り、公正に判断した結果です」

 

 ワタルはその言質をとったとばかりに、語気を強めて反論する。

 

「たとえ貴女の主観がどうであれ、この映像を見た人たちはどうでありましょうね」

「全うな政策議論では歯が立たないからといって、このような汚い個人攻撃に走るような行為こそ、理事長としての鼎の軽重が問われますわね」

 

 シロナはあくまでも毅然に振る舞っているが、あの映像で受けたダメージは深刻なようで、声色からは先程までの余裕に大きな陰りをみせていた。

 

「その判断は、この議場に居る投票人たちに委ねるべきことですよ」

 

 その後、ワタルはこの話を切り上げて、議題は別に移っていった。

 

―午後3時12分 同所―

 

 定刻と同時に討論会は終わり、議長が所定の定型句を言った後、質疑応答がはじまった。

 二つほど質問があった後、エリカが挙手し、指名されて質問を始める。

 

「シロナ候補へ、単刀直入にお伺いします。現在進行中であります、ポケモンマスター計画を中止なさるという噂を耳にしました。まずお尋ねしたいのですが、これは事実ですか?」

 

 シロナは少々返答を考えたのか、間をおいて答える。

 

「そもそもこの計画は時期尚早であると考えます。未だ日米間の政府では渡航再開の交渉すら持たれておらず、政府は関係悪化を懸念してこの計画の存在自体を苦々しく思っている節があります」

 

 ワタルがこれに対し、反論する

 

「ポケモンリーグは政府の御用機関ではなく、独立した組織だ。どうして、そのように機嫌をとらなければならないのか」

「基本的にリーグは超然を保つべきではありますが、政府とリーグのこれ以上の対立は、トレーナーの利益をも傷つけかねないからです」

「国民から篤い信頼を受けている我々は、国もそうおいそれと手出しできない。それはもうわかりきっていることでしょう」

 

 ワタルは、シロナの真意を測りかねているようだ。

 

「我々は国民の信頼にあぐらをかいていてはなりません。リーグが益々の発展を遂げるためには、国家との協調も思案のうちにいれる必要があります」

 

 話が横道にそれだしたためか、エリカが軌道修正を試みる。

 

「シロナ候補。質問に応答願います。ポケモンマスター計画の中止は、事実なのですか?」

 

 エリカはやや声色を強めて、シロナに迫った。

 彼女はしばし考え込むような間をおいた後、威勢は崩さず、毅然とした様子で答える。

 

「事実です。これは私の政策における、より最適化された計画へのファクターですから」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 静かな様子で、そう一言述べたあと、事も無げといわんばかりの様子で席に復した。

 議場は先程よりもいささか騒がしくなり、二階席の報道席からはけたたましくキーボードの音が鳴り響き、議場の外にいそいそと出ていく人も見受けられた。

 討論席に鎮座するシロナの表情は一見、些かも乱れがないように見えて、額にはわずかばかりの汗がみえる。

 その後も質疑応答は続けられたが、それからのシロナは精彩を欠くようになっていた。

 

ー午後3時26分ー

 

「そこまで。これより、候補者同士の対面による、ポケモンバトルを行う。ルールは、リーグ所定の規範に則ったシングルバトルによって行い、3体のポケモンを戦闘不能にした時点で、勝敗を決する。投票者は、勝敗ではなく、どちらの闘いぶりがより理事長として相応しいかを考慮すること」

 

 質疑応答が終了すると、即座にフィールドが切り替わり、討論台は地中に格納され、かわりに中央にモンスターボールが描かれたバトルフィールドが議場にいる全員の前にさらされる。

 二階の報道席は更に慌ただしくなって、実況リポーターや解説者の声が複数飛び交うようになる。普段は静粛を要求される議場ではあるが、このときだけは声をあげたりすることが黙認されている。

 第一回の選挙からの伝統である、このポケモンバトルは、世界でもトップクラスのバトルの実力を持つ者同士の戦いというだけでなく、ポケモン界における最高権力者が実質決定される重要な場面として、非常に高い注目度を誇っている。

 選挙戦については、討論会や質疑応答時間については中継しなくても、このバトルのときだけは、国内キー局のほぼ全てが首を揃えてその番組にするほどである。

 テレビ離れが嘆かれて久しくはあったが、この時だけは昔日に戻っていた。

 5分ほどの小休止をおいた後、二人はフィールドに相対する。

 シロナとワタルは互いに見合って、様子をうかがっていたが、やがてワタルの方からポケモンを繰り出す。審判の試合開始の号令と共に、理事長選挙最大の山場がはじまった。

 

―午後4時3分―

 

 戦況はシロナが一体倒されたら、ワタルが一体倒されるという一進一退の攻防で、観衆に固唾を飲ませ続けた。

 ワタルはボーマンダとキングドラを失い、シロナはミカルゲとミロカロスを。そして、フィールドには2人にとって互いに最大の相棒ともいえる、カイリューとガブリアスがいた。

 この二匹のどちらかが倒れればこの戦闘の勝者が決まる。

 

「カイリュー。龍の舞だ!」

 

 カイリューは大仰に舞ってみせ、きたるべき攻撃に備えた。

 

「ガブリアス。ドラゴンダイブ!」

 

 ガブリアスは、カイリューの体に狙いをつけ、猛然と襲いかかる。

 しかし、すんでのところでかわされてしまった。

 

「シロナ君。そろそろ、観念したほうがいいんじゃないかい?」

「まだまだ。この程度では屈しませんわよ」

 

 カイリューは既に二段階攻撃と素早さが積まれている。対するガブリアスは傷一つおっていないが、ドラゴンダイブが三連続外れている上に、少々疲労がみえてきていた。

 シロナは暫し黙考した後、指示を出す。

 

「ガブリアス! 地震!」

 

 大きく地面が揺らぎ、カイリューにもその揺れが伝わろうとしていた。

 しかし、本来、飛行タイプに地面技は無効であるのにも関わらず、どうして彼女がそんな技を指示したのかワタルは意図を測りかねている。

 カイリューは揺れが伝わる直前に翼を羽ばたかせて上空に飛び上がった。

 しかし、上空に上がりきったとほぼ同時に、カイリューの眼には青い鮫肌の腕が見えた。

 

「ガブリアス! ドラゴンダイブ!!」

 

 ガブリアスはカイリューが飛び上がる少し前に、フィールド上空にあがり、カイリューの頭上をとったのだ。

 カイリューは回避行動を取ろうとしたが、間に合わず、ガブリアスの痛恨の一撃をまともに食らうことになった。

 カイリューは議長席の方向に向かってその巨体をおとそうとしている。

 ワタルはすかさずシロナとは反対方向に体を翻し、声を張り上げて指示する。

 

「カイリュー! 翼だ! とにかく衝撃を和らげろ!」

 

 ワタルの指示を聞くと、すぐに翼を全力で羽ばたかせて、壁への直撃を避けようと試みる。

 議長席には強風がふきつけ、議長のダイゴは身をかがめて飛ばされないように卓の端をつかんでいた。

 試みは成功して、議長席より1mほど上空で態勢を立て直し、フィールドに復した。

 

「……」

 

 しかし、戻ったは良いものの、カイリューは立ってるのがやっとな程の満身創痍の有様である。自慢の白い蛇腹には、痛々しくもガブリアスの腕の跡が赤々と残っている。

 

「く……」

 

 ワタルは一瞬だけ自らの迂闊さを悔いたが、すぐにシロナに正視し、アイコンタクトを取る。

 シロナもそれに気づき、同じサインを送った。

 これは、次の1ターンで最後にしようという合図である。

 

「ガブリアス! 逆鱗!」

「カイリュー! 逆鱗だ!」

 

 ガブリアスとカイリューは指示を受けると、同時に飛び上がって、ガブリアスは鮫肌の腕を、カイリューは鋭い爪を武器にして相手にくらいかかろうとした。

 3分ほど、凄まじい応酬が繰り広げられた後、二匹は主人の敵の前に降り立つ。

 

――

 

 それから更に30秒ほど、静寂がフィールドを、そして議場を支配する。

 静寂の後、先に倒れたのはガブリアスの方であった。如何に不意打ちで体力を削ろうと、敵方の積まれた攻撃の前には無力である。

 

「ガブリアス、戦闘不能! 戦闘ポケモンの全滅により、勝者は、ワタル!」

 

 審判がワタルの方に旗を差し向けると、それと同時に大きな歓声が湧き上がった。事実上、これでワタルの選挙の勝利は決定したのである。これまで、このポケモンバトルの勝者が理事長になるというのが一種の慣例となっているからだ。

 ワタル、シロナ共にポケモンをモンスターボールに戻し、フィールドへ歩み寄る。

 

「いい戦いでした。理事長」

「君こそ。こちらも何度もヒヤリとしたよ」

 

 そう言った後、両者は握手をかわし、そして別れた。

 フィールドは再度格納され、通常の議場へと戻る。

 

―午後4時30分―

 

 この戦闘を以て、選挙までのすべてのプログラムを終え、投票に入る。

 投票は各リーダーや四天王の間に自動で衝立を設けた後、議席に備え付けのボタンで行い、役員は信任するかどうかを、理事はどちらを投票するかを選択する。棄権は認められておらず、これまでも例はなかった。

 この時間になると票の集計が終了し、ダイゴの口から結果が告げられる。

 

「厳正な選考と討論の末、たった今を投票及び集計が終了した。投票結果は、シロナ君、信任票13票、理事票7票、計20票! ワタル君、信任票14票、理事票6票、計20票!」

 

 議場より困惑の声があがった。まさか、まさかの可否同数である。

 立て続けに議長は続ける

 

「可否同数の為、リーグ法148条の規定に基づき、引き続きワタル君を第6代全国ポケモンリーグ理事長とする」

 

 リーグ法148条は、可否同数の場合における評議の取り扱いであり、可否同数の場合は議長の権限として、可否を選ぶことができる。という趣旨の内容である。

 しばしの静寂の後、議場では拍手喝采が鳴り響いた。これが一種の承認の儀式であり、ワタルはそれに応じて立ち上がって頭を下げる。

 一方のシロナは平静を保ってはいるが、内心かなりの怒りに打ち震え、臍を噛んでいるような動静を示していた。

 

「これにて、第六回全国ポケモンリーグ理事長選挙を閉会する」

 

 その言葉で拍手はより一層大きくなり、理事長選挙は毎度こうして閉幕を迎え、ポケモンリーグは新たなる5年を迎えることに成るのだ。

 

―午後4時40分 第一会議室前―

 

「よう、エリカ。お疲れ様」

 

 レッドは三日目午後は大人しく自室のテレビで選挙の様子を見守り、終わったのを見計らって、一階に降りてきていた。選挙を終え、ジムリーダーや四天王たちは次々と一階の廊下に出てきている。

 

「待っていてくださったのですね。ありがとうございます」

「まあ、暇だからな……。にしても良かったよ、ワタルさんが再選してくれて」

「そうですわね」

 

 言葉とは裏腹に、エリカはやや納得行っていない様子である。

 

「すまん。お前はシロナさんのほうがいいんだっけ?」

「いえ。そういうことではないんです。少々気にかかることがありまして」

「なんだそれ」

「これまでの選挙は一票差というのはよくあることでしたが、可否同数というのは今回がはじめてなのです」

「ああなんかそんなこと、ニュースの解説でも言ってたな」

 

 理事長選挙の中継はニュース番組の解説とセットで行われている。

 

「まあでも確かに変なところはあるよな……。俺も昨日、ってか午前中までリーグ内散策してたから、色々耳に挟んだけど、割りとジムリーダーや四天王は一日目の討論でシロナさんに傾いてたんだろ」

「ええ。昨日の定例会でもどちらかといえば、シロナさんが正しいという論調が多数でしたし……」

 

 一日目の討論会におけるワタルの後手に回り続けた弁舌ぶりは、保守派の心情を揺り動かすには十分であった。

 

「それが今日になってワタルさんを支持するようになったと」

「どうにも腑に落ちませんわ……」

 

 レッドはそうかと相槌を打った後、

 

「とりあえずシロナさんのところ行かないか? 選挙終わったんだし、戦う日程の約束くらいはつけないとな」

「そうですわね。まずはそこからですね」

 

―午後4時57分 7階 副理事長室―

 

 混雑が止むまで時間を潰し、2人は7階へあがり、セキュリティを経て副理事長室へ進んだ。

 しかし、副理事長室は物々しい雰囲気で、机の上にはダンボールが積まれていた。

 

「こ、これは一体」

「副理事長からの指図です。シンオウリーグの方へすべての荷物をもっていくとのことで」

 

 秘書の一人が簡潔に応えた。

 

「まさか」

 

 エリカが感づいたかのような、頭をあげる仕草をする。

 

「あら、申し訳ないわね。慌ただしい所に」

 

 奥の方からシロナが靴の音をひびかせながらやってきた。

 

「シロナさん、この度は残念なことで」

 

 レッドがシロナに声をかける。

 

「実力の差よ。仕方がないわ」

 

 シロナは短く答えたが、その表情からはくすぶる不満がうかがえる。

 

「シロナさん、この荷支度はもしかして」

「シンオウに帰るわ。あれだけの事が露見した以上、もう副理事長ではいられないもの」

 

 シロナの意志は硬いようである。

 

「しかし、シロナさんは直接不正に手を染めたわけでなく、あくまで」

「立場を利用した斡旋な以上、その言い逃れは通じないわ。少なくとも、もう不偏不党の言い分はつうじないし」

「シロナさん以外に、理事長を支えられるとは思えませんわ」

「言葉は嬉しいけどね。何よりも理事長自身がもう私なんかを副官としては扱いたくないでしょう。あたしよりもずっと正直で、正義の心に篤い人だから」

 

 シロナはすっかり熱を失った眼で、書類の詰め込まれたダンボール箱を見る。

 

「そんな……」

「そう。仕方ない、仕方のないことなのよ」

 

 そう言っているのとは裏腹に、事務机に置かれた手は拳となり、力が込められていく。

 

「二人は勝負の申込みでしょう? 申し訳ないけど、今日いっぱいは晩餐会の司会とかで忙しいから、明日にしてほしいな」

 

 晩餐会とは毎年恒例の選挙後の大規模な会食である。選出された理事長のお披露目の意味もある行事だが、理事にのみ参加義務があり、ジムリーダー以下は参加自由となっている。

 

「明日ですね。わかりました」

「時間と場所は後で追って知らせてあげるから、今日はとりあえず部屋に戻ってて」

 

 シロナは追い払うかのような冷たさを伺わせる声色で言う。

 レッドが承諾の返事をしようとしたが、エリカが遮る。

 

「いえ。お待ち下さい。私には一つ、今回の選挙で腑に落ちないことがありますの」

 

 シロナは返答はせず、エリカの目をじっと見つめた。

 

「シロナさん。私は昨日、貴女にお手紙を差し上げましたわよね?」

「ええ」

「どうして、あのとき、喫茶室に来ていただけなかったのですか?」

 

 エリカは至極当然の疑問をぶつける。あの手紙の中身には、午後5時に喫茶店で個室の予約をとってあるので、時間は取れないかということが書かれていた。

 

「あたしの目に触れた頃にはとっくにその時刻は過ぎてたのよ」

「そんな! 私は警備の方にきちんと取り次いでいただきましたよ?」

「警備? あのエレベーター前のセキュリティのことよね?」

 

 二十四時間体制で立番し、出入管理を行っている場所である。

 

「はい。定例会が開かれる直前に渡して……」

「ちょっと、ミノル君?」

 

 手近にいた秘書にシロナは声をかけた。ミノルと呼ばれた秘書はダンボールを持ったまま応答する。

 

「昨日のほら、封蝋のついた手紙なんだけど、何時に受け取ったの?」

「えー、確か9時前に警備の方が受け取って、10時頃にミチカさんが受領されたと、記録には残ってたはずです」

 

 シロナは即座に電子手帳を開いて、出入管理記録を閲覧する。秘書の発言と変わるところはない。

 

「昨日、貴方言ったわよね。私が忙しそうにしていたから、渡すタイミングをずらしたと」

「大変な浅慮であったと申し訳なく」

「いや。別に責めてるわけじゃないの。本当にそれだけ? なにか他に思いたることはないの?」

「他に……ですか?」

 

 秘書はダンボールを一旦そばの机に置き、手帳をめくって調べている。

 

「ああそういえば、なんですけど、副理事長から出勤の命令がでて、1時間後に理事会名義で、受け取った手紙はすぐに、副理事長には回さず、外見をよく調べてから閲覧に供するようにという通達が、私達秘書のもとに届きました」

「シロナさんは、もともと命の危険がありましたからね。慎重になるのはうなずけますが……」

「理事会名義ね。あたしは最後まで昨日の理事会いたわけじゃないから分かんないけど、そんなこと決議してたの」

「それで、その手紙を含め、とどいた郵便物全てを厳密にチェックしようと思ってたんですが、なかなか時間が取れずあのようなことに」

 

 秘書は再び申し訳ないと頭を下げた。

 

「いいのよ。あんな事件のさなか、2日で資料再構成しようなんて無茶な仕事いいつけた私にも責任があるわ」

「もしかして、そこにからくりがあるのでは……」

「からくり?」

「前に話しましたが、ダイゴさんが、シロナさんに復讐を果たそうとしていて……」

 

 エリカの話に、シロナは顔に険相をつくった。

 

「そう。やはり貴女もそう思ったのね」

「私も、とは?」

「おそらく、貴女の言うとおりだと思うわ。全てはあの前理事長の仕掛けた策略よ」

 

 シロナはエリカに向き直って話を続ける。

 

「この手紙も、昼のVTRも、全てはあたしに一泡吹かせるための仕業に違いないわ」

 

 シロナは目線を机に落として一言呟く。

 

「デボンの情報力を舐めてたわ。まさかあの人にまで手を回しているなんてね」

「あの人とは。もしかしてVTRの」

「ええ。あの先生なら、大丈夫だと思ってたんだけどね」

 

 シロナは落胆のため息をつく。どうやら完全に計算外だったようだ。

 

「シロナさん、私にもやろうと思えばいくつかツテは、ありますわ。彼らの支持がそこまで必要だと仰せなのであれば、当家がいくらでも」

「いいのよ。もう。すべて終わったことなの」

 

 シロナの眼は最早、諦観めいており、エリカの言葉は響かないようだ。選挙初日に見せた煥発ぶりは、すっかり影を潜めている。

 とりあえず、勝負の約束は取り付けたので、一旦二人は廊下に出た。

 

ー廊下ー

 

「エリカ。もう選挙は終わったんだよ。切り替えないと」

 

 レッドは励ましのつもりで、何度かエリカにそう声はかけたが、彼女の表情は晴れそうにない。

 やがて、エレベーターが到着し、二人は乗り込んだ。

 

「貴方」

 

 エリカは短くそう語りかけると、操作盤のうち真っ先に3を押した。

 

「なんだ。まだ買い足さないといけないもの、あるのか?」

 

 短く彼女は否定の返事をしようとしたが、すぐに言い直した。

 

「そうなのですわ。ですから、先にお部屋に戻っていてくださいまし」

 

 そう言うと、エリカは続けざまに4の数字を押下する。それとほぼ同時にエレベーターのドアが閉まった。

 レッドは4階で降りて自室に向かい、エリカは3階に降りた。

 しかし、向かった先はショップではなく、リーグ職員のワークスペースだった。

 

ー3階 議長室ー

 

 ワークスペース内の、選挙管理委員会が陣取っている場所に彼女はとりあえず向かった。

 選挙が終わったため、職員たちはあわただしく事後処理を終えようとしていた。この委員会は理事長選挙の年にしか設置されず、終わり次第解散されて、それぞれのもとの役職に戻っている。

 彼女はそれを横目にしながら、まっすぐ議長室へ向かう。晩餐会には理事以上には出席義務があるため、ダイゴがまだリーグ内にいることは彼女は理解してるからだ。

 議長室にたどり着いてノックをすると、ダイゴの声が返ってきたため、彼女はことわりを入れた後に室内に入った。

 

「やあ。選挙ではお疲れ様」

 

 ダイゴはにこやかに出迎えるが、エリカの顔には愛想笑いが少し浮かぶのみだった。

 

「ダイゴさん。一つお尋ねしたいことがあります」

「おや。いきなり本題かい? まあ落ち着きなよ、昨日とどいたオータムナルの紅茶が」

 

 ダイゴは備え付けの給湯室に向かおうとする。

 

「いいえ。立ち話で結構ですので」

 

 エリカはきっぱりと断り、話を続ける。

 

「そうか。ま、それもいいか」

 

 ダイゴはなんともなしといった風で、エリカと来客用のテーブルを挟んで対話する。

 

「一体、あのVTRはどこから入手したのですか? 見たところ、普通の人が入手できるような代物には思えませんが……」

「なに、大したところじゃないさ。それより、そんな事僕に聞いてどうするんだい」

 

 入手経路を明かす気はないが、とりあえずVTRの出どころがダイゴなのは暗に認めたため、エリカは話を続ける。

 

「もしかして、あれがダイゴさんの仰せになった復讐だと?」

「復讐なんて人聞きが悪いね。僕はただほんの少し仕返しをしただけさ」

 

 ダイゴは全く悪びれずに返す。

 

「一体あれでシロナさんがどれだけ、内心に辛いものを抱えているのか、ダイゴさんは理解されているのですか?」

「君は知ってるはずだよ。僕はそんなものの比じゃないくらい、苦しみをうけたんだ」

 

 エリカも、前回の選挙におけるシロナの告発で、ダイゴがどれだけの苦境に陥ったかは、ハイソサエティのコミュニティやリーグ経由で入る情報によって、耳にはしていた。

 

「しかし、だからといって私憤にかられてあのようなことをするのは」

「そうだよ。だから僕は彼に選択の権利を与えたよ。あれを渡して、どう使うかは君の自由だってね。秘書に渡しただけだから、理事長当人には会ってないけど、まあまさか討論会の真っ只中に使うとはね」

 

 それについてはダイゴも、少しだけ予想外だったようだ。

 

「言い訳は結構です。理事会議の、シロナさんに対する決議も貴方の仕業ですね」

「おいおい。提議したのは確かに僕だけど、決議するまでのプロセスは全く民主的なものだよ? それにどうこう言われても困るなあ」

 

 ダイゴはにこやかな相好を崩さないまま、困ったふうな声色をして返した。

 

「やはりそうなのですね」

「ポケモンマスター計画中止の噂は、既に実務に近い委員たちのあいだでは、直接的な証拠はなくとも噂にはなってたんでね。リーグを探索するであろうレッドくんの耳には、いずれ入るだろうとは思ってたのさ」

 

 ダイゴは全て計算づくで動いていたようである。

 

「しかし、それでも確実とはいえないから、念のためのつもりで講じた策なんだけど。まあまさか当たるとはね。レッドくんは案の定君の耳に入れ、君は副理事長に真偽を確かめようとしたわけでね」

 

 ダイゴは不敵な笑みをうかべてゆっくりと議長の机に座り直し、紅茶を飲み直す。

 

「先に言っておくけど、最初の爆弾事件は僕は関係ないからね。さすがにそこまで危ない橋は渡らないよ」

「それは分かっておりますわ。あの事件はあくまでリーグの外よりの事象だったと考えています」

「そうか。助かるよ」

 

 ダイゴはもう一口紅茶に口をつけ、コーサーに置いた。

 

「他になにか聞きたいことはあるかい」

 

 ダイゴは汗一つ無い涼やかな顔つきで、エリカに尋ねる。

 

「ダイゴさん。貴方の立場はどちらかといえば、彼ら側の方でしょう。シロナさんが理事長になられたほうが、なにかとやりやすいのではないですか」

「まあ企業家として見る分には、シロナ君の方がいいだろうね。ただ、僕はこれでもモラトリアムからの叩き上げのトレーナーだから、劇的な環境変化は好ましくないとも思ってる。それとね」

 

 ダイゴは、紅茶に再び口をつけ、飲み干してから最後に付け加える。

 

「メンツを潰されたのに、黙ったままのほうが、デボンの後継として許されないことなんだよ」

 

―午後9時30分 7階 副理事長室―

 

 晩餐会を終えるといよいよ、3日間にわたる選挙戦の全てが終わる。

 あれだけいたマスコミの大群も、次々と帰り支度を済ませ、セキエイ高原には元の静寂が戻ろうとしている。

 司会を終えて、副理事長室に戻ると、シロナは荷物整理の仕上げにかかっていた。

 

「あの、副理事長」

 

 秘書の一人が一枚の紙を持って、シロナに話しかけていた。

 シロナが短く返事をすると、秘書が続ける。

 

「その、遺留物の整理をしようと思って、あの机を整理していたんですけど、そのなかからこれが」

 

 あの机とは2日前に亡くなった秘書の机である。

 シロナが目を通すと、その内容に思わず、目線を手紙から外してしまった。

 

「全くあの子ってば、最後の最後に……」

「どうされたのですか?」

 

 秘書は宛名だけみてすぐシロナに渡したため、内容を確認していない。

 

「いえ。あなた達には関係ないことよ。皆、この時間までご苦労だったわね。あとは自分でやるから、順次あがっていいわよ」

 

 そう言われると、秘書たちはシロナに別れの言葉を言って惜しんだ後、次々と家路についた。

 あれから30分ほど荷物や書類整理を行い、ようやく出立の準備が整った。一段落ついたシロナは仮の副理事長の椅子に腰をおろし、改めて渡された手紙を読み返す。

 中身は三行ほどの簡素なもので、まだ先があるかのような記述が見られるため、恐らく書きかけであったものと思われる。クリスマスが近いため、プレゼントにつけるつもりだったのだろう。

 

「セキエイに来てから、そういうこと全くしなかったわね」

 

 シロナはぽつりとつぶやく、シンオウにいたころはまだ時間に余裕があったが、5年前の選挙で副理事長となってからというもの、多忙に次ぐ多忙で全くプライベートなことをしている暇がなかった。思い返せば彼女にはあの秘書に色々と話しかけられてばかりで、自らは業務やその関連以外で話すことは、さほど多くはなかった。彼女を失った今、それを少しずつ後悔しはじめている。

 

「今更、こんなこと悔いてもしかたないのに」

 

 シロナは手紙を畳んで、シュレッダー予定の箱に入れようとしたが、とりあえずファイリングして、自らのカバンに静かに入れた。

 そうしていると、副理事長のドアが静かに二回ノックされる。秘書は既に帰している為、シロナ自らドアへ行き、開くと目の前には、改めて理事長に選ばれたワタルがいた。

 

「やあ。少し良いかい?」

 

 そう言うとワタルはシロナの承諾を待って、副理事長室に入り、ずっと壁を張り続けているハクリューたちの後ろに立つ。

 ハクリューには時折食事を与えており、飢えてはいないが、疲労は相当である。

 

「業者には電話した?」

「ええ。しかし、やはり特注の大型ガラスなので、できるまでに時間がかかると」

「そうか。年の瀬も近いし、こりゃしばらくかかるだろうね」

 

 そう言いながら、ワタルはハクリューを一旦戻し、替えのハクリューたちを繰り出す。同じく、リフレクターを指示し、前面に壁がはられた。

 

「お手数をかけて申し訳ありません」

「君が謝ることじゃない」

「いえ、何にしても私の為した事に起因する事です」

 

 シロナは務めて冷静にワタルに告げる。ワタルは窓の外を見たまま、振り返ろうとはしない。

 

「聞いたよ。シンオウに帰るつもりなんだって?」

「耳の早いことで」

「委員たちがざわめいていたからね。君は委員の事実上の総元締めみたいなもんだから」

「あれだけのことをしてしまった以上、それなりのけじめはつけなければなりません」

 

 シロナはいつもどおりの事務的な声色でそう返した。

 ワタルは不意にシロナに振り返った。

 

「この3日間、君と話し合ってよくわかったんだ。ポケモンリーグには多くの問題がつきまとっている、シロナ君は僕よりも何倍もよく理解しているし、委員への統制も確かだ。君を欠いてはリーグはおさまらないんだよ」

「私などをそこまで評価してくれるのは嬉しいですが、やったことはやったことです」

 

 シロナは頑として首を縦に振らない。

 

「君のやったことを不問にする気はないよ。でも、副理事長として僕を支え続けてほしいんだ」

「理事長、我々がいまだ政府からの口出しに超然としていられるのは、国民からの支持あってこそです。私を処分してなお、その地位にとどめていれば失望につながりますよ」

「確かに、それは避けられないだろうね」

 

 ワタルはそういうと、暫し間を開けて言う。

 

「でも、そんな程度のことで国民の信頼に大きな傷がつくほど、僕と君で歩んできた5年は軽いものじゃないよ。それは君も、十分にわかっているだろう?」

 

 ワタルの声は自信に満ちており、確固たる裏付けがあることを伺わせた。シロナは当然のこととして、言外でリーグ委員たちや役員たちの日頃からの活動や活躍も、信じているからこその、この泰然な居住まいである、

 シロナはなにか反論をしようとしたが、ひっこめてしまった。ワタルの力の淵源はその誠実さと人徳にあることを彼女は改めて確認していた。

 

「それに、君が前から指摘していた通り、僕は甘いところがある。だからこそ、君にきちんと、粛正する役を担ってほしいんだ」

「理事長は飴で、私が鞭と……」

「そうだ。この両輪あってこその、ポケモンリーグなんだよ。だから、どうしても君には」

 

 最後まで言おうとしたところで、シロナは遮った。

 

「全く。前の選挙でダイゴ理事長に対して、うじうじ悩んでいた、あの頼りない子が、よくここまで肝の据わった大人になれたものね」

 

 ワタルは特に何も返さず、ただ、懐かしげに口元をわずかに動かすにとどめていた。

 

「分かりました。不肖ながら、引き続き次の5年の副理事長、務めさせていただきます」

 

 シロナは、襟を正してワタルに正対し、深々と頭を下げた。こうして、シロナは引き続き副理事長に留任することとなった。

 

ー12月18日 午前10時 セキエイ高原 屋外演習場ー

 

 レッドとエリカは、朝起きてしばらくするとセキエイ高原の屋外演習場と名付けられたフィールドに呼び出された。

 リーグ本部の正面口とは反対に位置するこの演習場は、ジムリーダーの試験や、四天王挑戦前の調整をする場所として使われている。

 一番大きな中央のスペースを使って、シロナと戦うことになった。

 

「レッドさん。勝負に入る前に一つ、お願いがあるの」

 

 そのスペース入り口に差し掛かったとき、シロナに呼び止められた。

 

「何でしょうか」

「今回の試合。貴方のみで行ってほしいの」

「ど、どうしてですか?」

 

 唐突なことにレッドは驚いて答える。

 

「シンオウのトウガンさんとか、クロツグさんとかからね。噂を耳にしたのよ」

 

 シロナはレッドの目を見据えて言う。

 

「噂とは」

「あなたの実力が想定されていたほどではない……という話よ」

「なんですかそれは……」

「本来、今回の旅はあなた一人のために向けられたものなのに、エリカさんと戦ってるわよね」

 

 シロナからの確認に、レッドは頷いてこたえる。

 

「まあエリカさんは弱点の多い草タイプ使いだし、実力としては平均的なもので、あなたとは歴然とした力の差があるだろうから、理事長も、私も黙認していたのだけど」

「それが?」

「さっきあげた2人から、内々に話があったのよ。実力は認めるけど、PWTの相手方としては力不足ではないか……ってね」

「そんな馬鹿な。だって俺は2人を、倒したんですよ」

 

 倒したと言う前に一瞬の間があったが、レッドは大きく言い切った。

 

「クロツグさんはそうだったと言い切れるかしら? トウガンさんだって、エリカさんのポケモンと過度に協力して倒していたと聞いているわよ」

「うぅ」

 

 レッドはそこを突っ込まれると黙るしかなかった。

 

「ま、その他からはそういう報告は聞いてないから、逆に言えばその2人くらいでないと気づけ無いほどってことでもあるけど……。ここは一度、失礼ながら実力を確かめたくなったの」

「そうですか……わかりました」

 

 レッドは事情を飲み込んで、とりあえずは同意した。

 

「承知いたしましたわ。貴方、どうか、ご健闘を」

 

 エリカは特に食い下がることもなく、短い言葉でレッドを送り出した。

 シロナとレッドはフィールドで相対し、モンスターボールを構える。

 

「全国ポケモンリーグ副理事長として、そして、シンオウリーグのチャンピオンとして、レッドさん。君と戦います! 行って、ミカルゲ」

「行け、フシギバナ!」

 

 それから、レッドは3体を失い、シロナは4体を失うという一進一退の攻防に終始。

 フィールドにはトゲキッスとカビゴンが立っている。

 

「トゲキッス。エアスラッシュ!」

 

 カビゴンは三連続でエアスラッシュを受け、怯んだため何も出来ずに倒れた。

 レッドは黙ってカビゴンを戻し、モンスターボールを取り出す。

 

「いけ、ピカチュウ」

 

 シロナは黙したまま、ピカチュウをじっと観察している。

 

「ピカチュウ! かみなりだ!」

 

 ピカチュウは瞬間的に最大限の電力を蓄え、トゲキッス目掛けて稲妻を下す。

 しかし、トゲキッスは途端に右側に、回避行動をとり、すんでのところでかわした。

 レッドは一瞬どうして外したのか理解できなかったが、雨ではないため当たり前だと腑に落とす。

 

「トゲキッス。波動弾」

 

 波動弾はピカチュウに直撃し、大ダメージを受けるも、なんとか倒れずに踏ん張っている。

 

「ピカチュウ、ボルテッカーだ!」

 

 ピカチュウは全身に、目の前が白く染まるほどにおびただしい量の電気を身にまとい、渾身の力で突撃を敢行する。

 トゲキッスは目に見えぬほどのその一閃に対応することができず、もろにその一撃を体の中枢部に受けた。

 勿論、この電気タイプ屈指の大技であるこの技の前にはトゲキッスも沈黙する他無かった。しかし、ピカチュウもその反動を受けて倒れ、相打ちとなる。

 シロナは苦虫を噛み潰したかのような顔つきをして、トゲキッスを戻した。そして、それにはトゲキッスを失うとは別の何かがうかがえる。

 

――

 

 レッドは五体を失うも、なんとかシロナを下し、勝利を得た。

 ポケモンを戻して、2人は練習場から、その外にとりあえず場所を移して、エリカと合流した。

 

「大したものね。これだけの実力は全国広しといえども、10人はくだらないわね」

 

 レッドはその言葉に気分を良くしたが、シロナはそれを見たからか、途端に表情を険しく変えた。

 

「ただ。所詮は十指なのよ。意味はわかるかしら?」

「はい?」

 

 レッドは聞き慣れない言葉だったため、思わず聞き返したが、エリカが答える。

 

「10本の指。すなわち夫は、頂上を決めるPWTの相手方として不足と仰せになりたいのでしょうか」

「まあ。早い話がそういうことね。貴方の実力では、とてもではないけど、我が国のトップトレーナーとしてはその舞台にだせないわよ」

 

 シロナは、ためらう様子もなく、はっきりといいきった。

 

「な、なんでそんなこと」

「あのね。貴方が相手だからはっきりいうけど、リーグチャンピオンなんて世界を見渡したら、あたしの言う十指に入るかどうかってレベルなのよ。その本来なら格下といっていい相手に5体もポケモンも失ってるのが一つ」

 

 シロナは更に続ける。

 

「もう一つは、ポケモンの大技に頼りすぎで何も考えているように見えないこと、そして最後に、レッドさん、さっきピカチュウを出していた時、一瞬雷がなんで当たらないか不思議なふうな顔をしていたわね」

「え、いやそんなこと」

「雷が必中になるのは天候が雨なときなだけ、しかし貴方はそれに気づかずに雷を出した。すなわちそれは普段から天候技をエリカさんに頼りきりなことを示してるってわけ。クロツグさんと戦ったときも似たようなミスしてたと聞いてるしね」

 

 シロナは理路整然とレッドの欠点を指摘し続ける。レッドは我慢ならなかった為、反論する。

 

「ま、負けたシロナさんにそんなこと言われたくは」

「そう。たしかにあたしは貴方に負けたわ。でも、クロツグさんには勝てると言い切れるのかしら?」

「シロナさん、少々お言葉が過ぎるのでは」

 

 シロナの追及に対し、エリカは間に入って制止を求める。

 

「エリカさん。私は貴方をみくびっていたわ。色々道中での戦いを聞いていると、貴方のサポートなくしては負けてたケースが無視できないくらい多いのよ」

「そ、それが」

「これでは同じく旅をしているゴールドさんとの公正さとのバランスが取れないわ。だから、これから先はレッドさん一人で」

 

 シロナが発言しているところで、間に男の声が入る。

 

「まあまあシロナ君。そんなに目くじらたてずに」

 

 声の主はワタルであった。彼は右手をやってシロナへ止めるポーズをとった。 

 

「理事長。しかしこれは」

「レッドくん。戦いぶりは見させてもらったよ。とりあえずはシンオウ地方制覇おめでとう!」

 

 ワタルは心からの祝福の笑みをたたえて、レッドの肩を優しく叩いた。

 

「ありがとうございます」

「うん。これだけのスピードで、もう内国の全てのリーグを制覇したのはさすがとしかいいようがないよ。ところでね」

 

 レッドとエリカはワタルに向き直る。

 

「イッシュ行きの件なんだけど、もう少し待ってくれないかな?」

「はい!?」

 

 2人は聞く耳を疑った。シロナは何かを察したような表情をしている。

 

「正直当初想定していたよりもずっと早く、君たちがここを制覇したもんだから、出国の諸手続きが間に合ってないんだよ。だから、本当に申し訳ないけど」

「しかし、リーグ側の手落ちではないですかそれは」

 

 エリカはすかさず追及するが、ワタルは温和な表情を変えずに続ける。

 

「だから本当に申し訳ない。そこでなんだけど、レッドくんはまだ、制限解除状態のカントーのジムリーダーと戦ってないんだよね?」

「制限解除?」

 

 聞き慣れない言葉にレッドは聞き返す。

 

「いわゆる手加減なしの本気で戦う状態のことですわ」

「そう。それで、もう一回カントー地方を回ってジムバッジを改めて取り直すっていうのはどうかな?」

「もしかして、カスミさんとかから何か言われたんですか」

 

 レッドは昨日のカスミの文句を思い出して、そう返した。

 

「ああうん。まあ、そういうことなんだよ。ジョウトのジムリーダーからも、ゴールド君と改めて戦いたいって声が昨日の定例会でもあがってたみたいでね。だからここは、公平性を期してそれぞれの最初の地方のジムバッジをとらせようって事になったんだ」

 

 ワタルの説明に、エリカはとりあえず腑に落ちたようだが、レッドはまだ納得していない。

 

「でもせっかくここまで来たのに」

「まあまあそんな事いわずに。懐かしい地方をめぐって初心に帰るとでも思って、肩の力抜いて旅をしてきてよ。君たちがまた、このセキエイ高原に来る頃には出国準備も整えておくからさ」

 

 ワタルの身振り手振りを交えた、真摯な説得に、2人は折れざるを得なかった。

 

「わかりました。骨休めだと思って、もう一度とってきますよ」

「そうか。受けてくれるかい。ありがとう」

 

 ワタルは深々とレッドに頭を下げて、感謝の意を示す。

 

「私もそろそろジムの様子が気になりますし、丁度いい機会ですわ」

「あーそれでね。エリカくんのこれ以後の旅でのバトル参加についてなんだけどね」

 

 ワタルは話を切り替える。

 

「まあ確かに戦いぶりを見た限りではシロナ君の言ったことは分からないではない。けれども、ジムリーダーくらいの戦いでは影響は出にくいだろうから、バッジをとりおわって、四天王やチャンピオンと戦う時だけ、レッドくんだけ戦うってことでいいんじゃないのかな?」

「え、ということはリーグにもまた挑戦しろってことですか?」

「まあ僕自身としても気にはなってるからね。ジムリーダーだけなんて不公平だろう」

 

 ワタルは曇りのない笑顔でそう返した。こう言われては何も言い返せない。

 

「わかりました。とりあえず、カントーに戻ってもう一回旅します」

 

 レッドとエリカはそれから数分ほど話して、ワタルとシロナから離れようとした。

 

「ああエリカ君、ちょっと」

 

 エリカは肯定の返事をしてワタルに近づいた。シロナやレッドには聞こえない程度の声でワタルは話し始める。

 

「昨晩はありがとう。本当に助かった」

「私はただ情報を与えただけです。勝ちを手にできたのは、ワタルさんの力あってこそですわ」

 

 エリカは心の底からそう言ってるように伺える。

 

「いやいや、情報だけじゃなく、君がシロナ君の論理の弱点とか、論理学的な話とかしてくれなければ、とてもおぼつかなかった。本当に感謝してるんだよ」

「フフ。お気持ちだけありがたく、うけとっておきますわ。それでは」

 

 そう言うと、エリカは今度こそ離れて、レッドのもとへ行き、リーグ裏口へと進んでいった。

 2人が出入り口に消えて、居なくなるのを確認すると、ワタルがシロナに話しかけた。

 

「いやあ、シロナ君。お疲れ様」

「いえ。それより理事長、さっきの件もしかして」

 

 ワタルは暗い表情をする。

 

「アデクさんから許可がおりなかったんだよ」

「やはり先程の戦いをみて?」

 

 ワタルは、少々間をおいて、苦しそうに首を縦に振った。

 

「今のままではPWTの舞台にはあげられないってね。とりあえずは猶予期間を設けることで納得してもらったよ」

「どうしてその事をレッドさんに教えなかったのです?」

「レッド君を低くみてるようだけど、僕にはそうは思えないんだ。マイナスの事を言って傷つけるよりはポジティブめに言ったほうが彼には励みになるだろう?」

「相変わらず、理事長は甘いですね……。次の5年が早くも不安ですわ」

 

 シロナはわざとらしく腕を優しく組みながら、首を横にふる。

 

「君、言ってただろ。僕は飴で、君は鞭なんだよ。次の五年も宜しくね、シロナ君」

 

 ワタルが手を差し出し、シロナは黙ってそれに応じて手を握る。

 リーグの次の五年が、始まる。

 

―第三十四話 決選 終―

 




これで選挙編はおわりです。
カントー及びイッシュ編は校正と矛盾解消、若干の付加を施すのにとどめるので本格的な改編はこれでおしまいです。
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