伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第四十一話 秘すれば花なり秘せずば花なるべからず

―1月6日 午後1時30分 タマムシジム―

「……、簡単な事ですわ。貴方の……レッドさんのお相手は……私が務めさせていただきますわ」

「え?」

 レッドは当惑した。ずっと一緒に旅してきた相棒を戦うことになるからである。

「……、お前、それ、本気で言ってるのか?」

「先ほども申し上げたではありませんか、ナツキさんには分不相応……、ならばジムの真の長である私が相手せずして如何するのですか?」

 エリカは当然のように、レッドに笑いかける。

「確かにお前のいう事はもっともだが……。長く連れ添った相棒……、それも嫁と戦うだなんて、前代未聞だぞ」

「あら、貴方、発言がなかなかこなれてまいりましたわね」

 彼女は頬に手を当て、驚いたかのように言う。

「お前みたいに博識な奴が居りゃ、俺みたいなバカでも教化されるわ。てか話そらすなよ」

「ごめんあそばせ。しかし、長く連れ添った相棒……、バトルに斯様な私情など不要ですわ。ならばどうして貴方は長年のお友達であられたグリーンさんと一戦を交えられたのです?」

 彼女は鋭く、的を射た事を言った。これにはレッドも観念し。

「……、それもそうか。だが、如何にお前でも戦うのであれば容赦はしない……!」

「当然の事ですわ。さて、私は和服に着替えますので。しばしお待ちを」

 という訳でエリカが和服に着替え、例の最奥部に移動した。

 ジムトレーナーの耳目を集めた中での勝負……、しかも全員10代後半~20代中盤と女の盛りを迎えている人々である。むっつりスケベのレッドの心が躍らないハズが無かった。

 しかし、夫としての威厳を崩さないように、言葉だけはしっかりとするよう努める。

「こうしてまた一戦を交えるとはな……」

 その言葉を受けたのか、彼女は少しだけ物静かに出てくる。

 その様はまるで聖女の如く清らかで、また歴史を揺るがした傾国の美女が如く妖艶でもあった……、そしてレッドにとって黄土色を基調とした和服を着た彼女は眼福そのものである。出てきて間もなく彼の聖女は口を開く。

「塞翁が馬、禍福は(あざな)える縄のごとし……、人生何があるかなど誰にも予測できない事です。なればこそ、人の生というのは面白きものなのです。そして、また貴方と戦えること……、私としては幸悦の限りですわ。そして恐らくは再びと有り得ぬこの機会……、貴方にも失礼のないように、もてる限りの力を尽くさせていただきますわ」

 外は枯れ木ばかりなれど、タマムシジムはツバキやベニチョウジ等の季節の花が咲き誇る。そして、そんな美しさをバックにして毅然として立つ彼女の姿は、言わずとも風格が漂う。

 そんな彼女の風格に少しだけ気圧されながらも、レッドは悠然として答える。

「……、そうだな」

「では、参りますわ! おいでなさい、ダーテング」

「行け、ラプラス!」

 こうして、最強の夫婦同士の戦いが幕を開けた。

「ダーテング! 日本晴れです!」

 ダーテングは、手に持っている葉を自在に動かし、晴れ状態を作る。

「ラプラス、冷凍ビーム」

「凍っちゃえー!」

 ラプラスはその声と共に、ダーテングに向かって氷の光線を放つ。

「無念……!」

 ダーテングは倒れた。

「役目は果たしましたわね……、よく頑張りました。おいでなさい! ロズレイド! ソーラービームですわ!」

「私の光線を以て、焼死するがよい」

 ロズレイドはフィールドに降り立った瞬間、間、髪を入れずに眩い光の束を解き放つ。

「うわああああ!! 熱い! 熱いよおおお!」

 こうして、ラプラスは一撃で倒れた。

「……、行け、カメックス!」

「熱いけど、気張るぞ」

 カメックスは自らの巨体を誇示する。

「ロズレイド、もう一度ソーラービーム!」

「うわああああああ!!」

 無論、カメックスもやられた。

「行け、カビゴン! ……、うまく時間を稼げよ」

 レッドは小声で、カビゴンに呟く。カビゴンは小さく頷く。

「ロズレイド、ソーラー……」

 エリカが言いかける前に、レッドは指示する。

「よし……、カビゴン、守るだ!」

「結界!」

 カビゴンは自らの前に大きな結界を形成する。

 ロズレイドのソーラービームは、当然跳ね返された。

「……、やりますわね」

「これぐらい予期できなくちゃ、チャンピオン失格さ。カビゴン、炎のパンチ!」

 カビゴンは、炎を拳にまといはじめる。しかし、ロズレイドはその前に……

「まだ、日本晴れの効果は切れません……しかし布石は打っておきましょうか。ロズレイド、草笛ですわ!」

「私の美しき笛で、安穏(あんのん)と眠りにつけ」

 ロズレイドは、美しき音色を奏でる。雰囲気もあってか、すぐに眠ってもおかしくはなかったが……

「天津丼……北京ダッグ……麻婆ドーフ……ホイコーロ……」

 と、カビゴンは今日の晩御飯でも妄想しているのか、どこ吹く風だ。今日は中華か。

「所詮は、命中55だな……、よし、カビゴン! そのまま突っ込め!」

「うし! 今日は北京ダッグだ! 決まりぃぃぃぃ!!」

 そう言いながら、炎を(まと)った彼の拳は、ロズレイドの腹を的確に(えぐ)る。

「熱い……! だが、ジェントルポケモンたるもの……、この程度ではやられぬ……!」

 ロズレイドの矜持は凄まじいものである。

 そして、空の状態が元に戻る……ハズだった。

「あれ……、晴れが終わらない……! どういう事だ」

「フフフ……、シンオウで手に入れた、熱い岩……、斯様にも使えるものでしたか」

 彼女は、そう静かに笑う。

「な……! あれは地下通路でしか手に入らないんじゃ……」

 レッドは少し動揺しながら言う。

「探検セットを受け取るための試験……覚えていらっしゃいますか? その時に幸運にも掘り当てたのですよ。何かの機会に使おうと、ダーテングにもたせていたのですわ」

 エリカはそう言うと、にこやかにレッドに笑いかける。当のレッドは歯ぎしりしている。

「これで日本晴れは通常より3ターン程長くなりますわ。さあ、ロズレイド。決着をつけますわ。ソーラービームです」

「今度こそ、安らかに眠れ!」

 その言葉と共に、ロズレイドは光線を放つ。それは、先ほどの光線よりもレッドには眩く見えた。

 カビゴンには急所に当たり、倒れた。

「……、行け、ピカチュウ!」

「ピカッ!」

 ピカチュウはいつも通り、元気に飛び出る。

「例え、か弱きピカチュウであろうと……容赦は致しません、ロズレイド、ソーラービームですわ」

 ピカチュウは、ソーラービームの洗礼を喰らう。しかし、何とか半分くらいHPを残し、耐え切る。

「ピカチュウ……、アイアンテールだ」

「ピカッ!」

 ピカチュウはチャームポイントでもあり、武器の一つでもあるギザギザの尻尾を煌めかせ、鋼鉄と化したその尻尾を思い切りロズレイドの頬に叩き付けた。

「痛っ……、マスター、ここまでのようです……」

 そういうと、ロズレイドは倒れた。

「良く頑張りましたわ……。戻りなさい、ロズレイド。おいでなさい! モジャンボ!」

 モジャンボはのっそりと出てくる。

「さて……、これで最後でしょうか。モジャンボ、ソーラービームですわ!」

 モジャンボは、謎の黒き部位から、それとは裏腹の白く眩き光線を出す。

「チャァァァァァァァ!!」

 ピカチュウはいよいよ耐え切れなくなり、倒れた。

「……、よくがんばった。行け、フシギ……」

「貴方」

 次のポケモンを出そうとした瞬間、エリカに呼び止められた。

「……、どうした」

 少しだけ冷や汗をかきつつも、毅然と答える。

「どうして……リザードンをお出しにならないのですか?」

 エリカが強い口調で言う。

 彼はやっぱり感づかれたかと、思った後口を開いた。

「偶然だよ」

 無論、これが本意ではないが、さも本当に偶然だという口ぶりでレッドは言う。

「偶然なはずがありませんわ。貴方はまず、得意なタイプが出てきたらそのタイプに合わせてポケモンを出す傾向があります……。最近で言うならば、カスミさんの時、最初にフシギバナをだしていたではありませんか」

「……、あんまりお前のポケモンを蹂躙する真似をすれば……、これから先も旅をするわけだ。連携が悪くなっちまうとまずいだろう?」

 レッドは咄嗟に思い付いた言い訳をいう。たどたどしい口調から本意でないことは明らかだったが、彼女は毅然と返す。

「私は貴方の……誰にでもひた向きに、本気で戦う。その姿勢に惚れたのです。最初に戦った際、貴方は勝ちが確定しているにも関わらず、最後の最後までポケモンに全力を出させていた……。レッドさん。どうか私を失望させないでください、どうか存分に、貴方の本気というものを私にみせつけてください……!」

 いつものお嬢様口調じゃないことに、ただ事じゃないと悟ったレッドは慌てて、

「……、お前の覚悟。ハッキリ言って舐めてた……、こんなんじゃ夫失格だな。分かった……、行け、リザードン!」

 レッドは、キッと目を彼女の目へ向けて言い、リザードンを繰り出した。

 リザードンは大きな翼ではためきながら地に降りる。久々の外の空間が心地いいのだろうか。

「リザードン、大文字」

「問題、東条英機が東アジアに作ろうとした」

 リザードンが問題を言い切る前に

「大東亜共栄圏」

 と、モジャンボが即答する。流石エリカのポケモンだ。

「何で知ってんだコンチクショーーー!!」

 そう叫びながら、リザードンは炎の塊を吐き出す。

 大の字になった瞬間、エリカは静かに呟く。

「モジャンボ、まもる」

「ざまあないですわ」

 そう言いながら、モジャンボは結界を張る。大文字はその結界を前にして、火花一つ残さず、消えた。

「ッ……! 出鼻くじいたな……!」

 レッドは歯ぎしりしながらそういった。

「先ほどのお返しです。モジャンボ、原始の力ですわ!」

「リザードン。もう一度大文字」

「問だ」

 リザードンが言い終わる前にレッドは遮り、

「早くしろ。切迫してるんだぞ……」

 と、彼は物々しい口調でリザードンに言う。

「へい……」

 リザードンのテンションが少し下がった。

 炎の塊がまたもモジャンボに迫る。しかし、モジャンボは難なくよけ……。

「モジャンボ、今ですわ!」

 エリカは、僅かに出来た勝機を見極め、ここぞとばかりに指示をする。そして、運悪くもリザードンに尖った岩が突き刺さる。

「いでええええ!」

 リザードンは四倍の大ダメージを食らう。しかし、所詮は不一致である。何とか耐え切った。

「よく耐えたな。よし、今度こそ決めろ! もう一度大文字だ!」

 今度はモジャンボに直撃した。盛んに燃え盛ったが、どうしてだか倒れない。

「嘘だろ……。モジャンボは大した特防でもないのにどうして……まさか、襷か!?」

「フフ……、さすがは貴方。ご明察ですわ。モジャンボ、もう一度原始の力ですわ!」

 モジャンボは、またも尖った岩石をリザードンにぶつける。

「うう……痛い、痛すぎる……。レッドさんよぉ、すまん」

 こうして、リザードンは倒れた。

「あと一体……!」

 まさかエリカ相手にこんな苦戦をするなんて。レッドは舐めてかかったことを深く後悔した。

「フフ、どうですか。貴方。私も成長したものでしょう?」

 エリカは不敵な微笑みをレッドに向ける。

「ああ、俺と戦ったときとは比べようも……、しかし本気とはいえここまで強くなるとは。俺も予想外だよ。一体どうしてここまで」

「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず……。簡単にお話しするわけには参りませんわ。花は秘している所があればこそ美しきもの。バトルも同様に、分からないところにこそ本当の強さの秘訣があるというものです。さて、続けましょうか」

 エリカがそう言うと、彼はすぐに答える。

「そーかい! お前に負けたらシャレにならん……。絶体絶命の状況だが……この勝負、必ず勝ってみせる。行け、フシギバナ! お前にすべてを託す!」

 レッドは目をいからせながら言い、フシギバナを繰り出した。

「うう、緊張する」

 フシギバナは身震いした。

「フシギバナ! ヘドロ爆弾だっ!」

 フシギバナは、紫色の球状の爆弾を、花の穴から噴射する。

 効果は無論、抜群で、巨体が思い切り崩れ落ちた。

「モジャンボ……。よく健闘されましたわね。ここからが本当の戦いですわ! おいでなさい、キレイハナ!」

「押し切られてたまるか……、フシギバナ、もう一度ヘドロ爆弾!」

 フシギバナは再び、毒の塊を噴射する。

「ゲフッ……。こ、こんなもんじゃやられないもん!」

 キレイハナは相当ダメージを喰らったが、精一杯強がりを見せている。

「キレイハナ、めざめるパワーですわ」

 キレイハナは、波紋を作り、フシギバナに衝撃を与える。効果は抜群だ!

「な……、まさか……氷!?」

 レッドは驚愕する。

「何故だかこの技を使うと皆さん、驚かれるのですが……、なるほど、めざめるパワーって氷タイプの」

 エリカがすっかり納得しそうになったので、レッドは慌てて訂正しようとする。

「いやいやいやいやいや、それ大きすぎる誤解だよ!? めざめるパワーってのは……、いいや、説明めんどくさいし……。フシギバナ! もう一度、ヘドロ爆弾!」

 フシギバナは、三回目のヘドロ爆弾を放った。

「ゲフッ……、マスター……、ごめんなさい……」

 キレイハナは倒れた。

「……、キレイハナ。ゆっくりお休みになりなさい。さて、あっという間に追いつかれてしまいましたわね」

 エリカは勿体なさげにそう言う。

「フシギバナは、俺がオーキド博士から貰った最初のポケモン……フシギダネだった頃からの付き合いだ。ヒトカゲとかは、まあ追々で貰った奴らなんだが……。だから、そうそう諦めはしない。何しろ、強い絆があるからな」

 彼は、エリカにはっきりそう言った。

「私の最後のポケモンも……。似たようなものですわ。私が母上から頂いた唯一の……、マダツボミの頃から大事に育ててきたポケモン……。おいでなさい、ウツボット!」

「あー、やっと出番来たよ……」

 ウツボットは嬉しそうに出てきた。

「相棒にしちゃ。随分出す回数少なくないか……?」

「中々出す機会が無かったもので……。しかし、今回は存分に活躍して頂きますわ。ウツボット、ヘドロ爆弾!」

 ウツボットは、大きな口から毒球を噴射する。その様はさながら大砲である。

「フシギバナ、めざめるパワーだ!」

 フシギバナは、大きな波紋を作り、相手に巨大なパワーをぶつけた。

「はちぇぇっぇぇぇぇぇ!!」

「熱い……? さっきは氷でしたのに」

 彼女は深く考え込んでしまった。なかなかにその仕草も可愛いらしいが、勝負が進まなくなってしまうのでレッドは一言でまとめる。

「だー! もう、ポケモンによって変わんだよ!」

 乱暴な説明ではあるが、あながち間違いではない。

「腑に落ちませんが……。分かりました、そういう事なのですわね……、さて、ウツボット! もう一度ヘドロ爆弾です!」

 ウツボットの大砲はまたもヘドロ爆弾を発射する。そろそろ体力が危ない。

「……、フシギバナ。やれるか? 正直に言え」

 レッドは、重い口調でそう尋ねる。

「正直言って……、キツいな。だが、やれる限りはやってやるよ! 同じく長年付き合ってきた相棒だというんだったら、俺の方が勝たなきゃ、レッドに申し訳が立たない!」

 フシギバナは勇ましくそう言った。

「頼もしいな。流石は俺のポケモンだ。よし、フシギバナ! ハードプラントだ! 一か八かだが……、これで打倒せ!」

 レッドは、タイプ一致に加え、新緑の特性発動、素の絶大な威力に全てを賭けた。

「私のウツボットも……、先ほどのめざめるパワーが相当に堪えていますわね。しかし……ここさえきめてしまえば……勝利は私の手に! ウツボット、止めを刺して御上げなさい。ヘドロ爆弾です!」

 ウツボットの大砲、フシギバナの刃の如き(つる)……、やがて互いの武器は交差し、相手に作用する。

 双方が技を出している間の一秒一秒。レッドは自らの名誉。エリカはリーダーとしての威厳。それぞれにかかった一撃で、一ミリ秒たりとも、その軌跡を見逃しはしなかった。

 それから数分は経ったであろうか。片方のポケモンがとうとう力尽き、倒れた。

「……、ウツボット……? 嘘……、嘘ですわよね?」

 エリカは動揺を隠さず、少し安定性を失った口調でウツボットに語りかける。

「……」

 最早、ウツボットには答える気力すらないようで、返答はなかった。

 一方のフシギバナはというと。

「立ってる……立ってるぞ!」

「なんとか耐えきったぜ……、くそ、免疫大変だったんだぞ。感謝しろよな」

 フシギバナは、そうレッドに毒づく。

「おう、よくやったぜフシギバナ!」

 レッドはフシギバナに飛びついていた。

「……、全く、人が落ち込んでいるというのに、随分と楽しそうですわね。貴方」

「……、悪いな。エリカ。だがここまで追い詰められたの……、ヤナギさん以来だったもんだからさ。ついはしゃいじまった」

 レッドはそう言って、彼女に謝った。

「……、そこまで追い詰めたのに勝てないとは……、私もツメが甘いという事ですわね。それにしても、あそこまで追い詰められても、最後は勝たれた……、その粘り強さは称賛に値しますわ! レインボーバッジ。改めてお渡しいたします」

 エリカは、レッドに虹色に輝くレインボーバッジを手渡す。

「……、なんだか。少し妙な気分だが……まあいいか! よしじゃあ、このままセキチクに……」

 と、レッドは旅を続けようとしたが、ナツキが遮る。

「ちょ、ちょっと待ってください! リーダーに植物の仕入れや栽培など色々と尋ねたいことがあるので……。レッドさん、申し訳無いですが、少しだけ待ってもらえませんか?」

「あら、随分とリーダーらしい事を仰るようになりましたわね……。仕方がないですわね。という訳で、貴方。こればかりは前々から約束していた事なので。タマムシデパートの屋上で待っていただけますか?」

 エリカはそうレッドに提言する。

「わ……分かった」

 そう言ってレッドは去っていくのである。

――――――

―タマムシジム 執務室―

「リーダー、いつの間にレッドさんを圧倒するぐらいにまで強くなられていたんですか……」

 ナツキは感心したかのようにエリカに尋ねる。

「伊達に旅路を共にしたわけではありませんわ。それに、今回はレッドさんが最初本気を出していなかったというマイナスがありますわ。一概に私がそこまでの実力を持てているとはいえません」

 と、エリカは謙虚にもナツキの言葉を取り下げる。

「そういうところ……、本当に見習わないと……、あ、リーダーこれが居なかった時期のジムの決算書です」

「どうも有難う。……、ナツキさん。固定資産税が計上されていないのですがこれは……」

 という感じで、二人はジムの経営を話し合うのであった……。

 

 

―同日 午後2時45分 タマムシデパート 屋上ー

「……空が青いな」

 レッドはそう一人呟いていた。旅に出てから一年近くが経過し、ゴールも見えてきた。

 その為、達成後の自分について考えているのである。

 本当にエリカと一生を過ごして良いのだろうか……。彼はそんな疑念を抱いていた。

 ナギサで自らの為に自傷行為に及んでしまったエリカの友達であるはずのミカンに対する彼女の言動。そこで僅かなれどエリカに対する疑念が生じ始めていたのだ。

 エリカの俺に対する執着……俺にとって大変嬉しくはあるがそれと同時に恐ろしい……いつか自分に矛が及ぶのでは……エリカは大変美しく、妻とするには申し分ない……俺にはとても勿体無いぐらいの嫁……しかしどうしても……あのナギサでの言動が……。

 と、レッドは珍しく葛藤していた。

 この頃からレッドのみではあるが、夫婦の間に少しずつ隙が出来始めたのだ。

 何か……非常に悪い予感がする……青天に雲がかかり大雨や雷が下るようにこの関係ももしかすると……

 雲ひとつない冬空を見ながら彼は考え込んでいる。

 そうこうしていると白衣を着た男性がやって来た。オーキドでもウツギでもない。奇抜な髪形をした青年の男である。

「もしかしてレッドさん?」

「!?、誰ですか貴方は?」

「急に話しかけて申し訳ありません。私の名前はアクロマ。ポケモンの力を最大限引き出すためにはどうしたら良いかを研究する為全国を飛び回っているものです」

 アクロマと名乗ったその青年は、深々とお辞儀をした。

「全国……どこ出身なんです?」

「普段はイッシュ地方にいますね」

「へー……そんな人が俺に何の」

 言い切る前に、アクロマは唐突な質問をしてきた。

「貴方にひとつお聞きしたい事があります」

「なんです?」

「ポケモンというのは如何様にすれば力を最大限に引き出せるんでしょうか?」

「……はい?」

 レッドは聞かれたことの意味が理解できず、思わず聞き返す。

「そのままの意味ですよ。どうなんです?」

「……知りません」

 当然だ。そんな事が端的に答えられるんだったら俺は失業しちまうよと。言いたげな顔をする。

「知らない……達磨禅師(だるまぜんし)の如き答えですね。」

 マジで何なんだよこいつ。急に訳のわからないことを尋ねてきたと思ったら、今度は知識自慢ですか。警察に突き出してやろうか。などと思いはじめると、洋服に着替えたエリカがいつの間にやってきていた。

「その昔、中国に達磨という禅の創始者が居ました。」

「うわ、エリカ!」

「皇帝は禅の真髄を知るためにその身で達磨のもとに赴き、真髄を聞いたところの答えが……」

 アクロマは手を数回ほど叩いた。拍手をしているようだ。

「流石は内国一の最高峰、タマムシ大第一の才媛……説明が上手でいらっしゃる。」

「……ヒウン大主席の方に言われるのは恐縮ですわね。」

 ヒウン大は現実で言うマサチューセッツ工科大学やハーバード大学に値するほどの難関大学である。当然のことながらレッドは仰天する。

「しかしどうしてイッシュ地方からこのように……」

「確か……ユナイテッドユニバーサルと呼ばれる大学で上位5%以内の方は自由に出入りできるのでしたわよね?」

 彼女は記憶の糸から探り出したかのように言う。

「その通り……しかし無条件に与えられる訳でなくリーグの審査もありますけどね……」

 さて、と言い彼は話を戻す。

「レッドさんあなたの答えも確かに一つではあるでしょう。しかし私はそのような曖昧模糊な答えではなく明確な答えを知りたいのです」

「はぁ……」

 んなことどうでもいいよ。とレッドは思う。

「今私の仮説としてはそれを出来るのは人間ではないか? という事。しかしそこから先の結論にはなかなか」

「人間……」

「私はそこから先の結論を得る為に最強のトレーナーたる貴方に話しかけたのですが……、どうやら貴方ですら、それが何か知らないと……貴方達二人にはまた会うことになるでしょう」

 そう言ってアクロマは去っていった。

「何だったんだ?」

 とにかく彼の第一声はそれであった。

「答えを求めて動く様はまさに求道者に近いものを感じさせますわね」

 彼女はそれなりに彼の行動を認めているようだ。頭いい人の考えることはよくわからぬ。と心中で毒づく。

「しかしなんだろうあのただならぬ雰囲気……」

「もしかするとその感覚……当たっているかもしれないですわね」

 こうして二人はタマムシデパートで買い物をした。

 

―午後4時半 タマムシデパート外―

「さて、今度こそセキチクに……」

「待ってください。一つ私行きたい所があるのですが……」

 エリカは少し申し訳なさげに言う。

「何処だよ」

 彼はいかにもうんざりした表情で言った。

「タマムシ大学ですわ。恩師の方々の顔見に行きたいので……」

 なんで俺も行かなきゃならんのだと思ったが、反論するだけ無駄だと悟り、ついていくことにした。

 

―午後4時40分 タマムシ大学 講堂内大広場―

 タマムシ大学は、内国一の最高学府として誉れ高い。

 外装はその名に恥じず、赤レンガに赤門等などと、これ自体がこの国の文化なのではないかと思うほどだ。

 そして二人は講堂の玄関に入る。

 すると、ウツギに会った。もう一人、なんだかアラフォー世代に思える女性の博士と思われる人物もいた。

「やあ! お二人とも久しぶりだね!」

 ウツギは相も変わらず、快活に話しかけてきた。

「あ、ウツギ博士! お久しぶりです!」

 レッドに続き、気づいたエリカも深々と頭を下げる。

 頭を上げると、まず彼女は、後ろに居た博士に気付いたようだ。

「あの、後ろに居るお方はもしかして、アララギ博士でしょうか……?」

 エリカは自信なさ気にその女性に尋ねた。

「あら、知っているのね! そうよ、イッシュ地方でポケモンの進化について研究しているアララギよ。エリカさん。貴方の事は散々ここで聞いたわ。相当優秀な学生だったそうね」

「そーそー。僕は、エリカさんが居た頃はまだ駆け出しの研究員だったから、良くは知らないけど……。最年少にして、歴代最優秀の成績で卒業。しかもヒウン大から授業料・入学金全額免除という破格の待遇で呼ばれていたみたいだね! 本当凄い子だよ……」

 と、ウツギはエリカの事を褒め殺しにする。

「そこまで言われると面映ゆいですわね……。単に努力をしただけですわ」

「どうしてヒウン大に来なかったのよ……、もし来ていたら相当良い人脈が出来ていたハズなのに」

 アララギは残念そうにそう言った。

「どうも当時の私は、遠いことが億劫で仕方なかったので……。しかし先ほどアクロマさんにお会いしましたが、ヒウン大にああいう面白いお方が居たんだと、少しだけ後悔いたしましたわね」

「ああ……、アクロマ君ね……。教えてたけど凄い子だったわ。何しろ私ですらタジタジだったもの。何を考えているのか分かりにくい子だったけどね。さて、イッシュ地方に来た際は二人とも宜しくね! 来た際にはイッシュ地方の3匹、あげるわ! それではウツギ博士。私は急ぎの仕事が残っているので。またお会いしましょう」

 そう言って、アララギは3人の元から去っていく。

「なんだか……、自由な人ですわね」

 エリカは口調や話の内容から、そう察したようだ。

「あの人イッシュ地方の人だからね。内国とは気質が違う事を思い知らされるよ……。でも個人的には普通にいい人だと思うけどね」

 と、ウツギはそうアララギをフォローする。

「ところで、お二人はどうしてここに?」

 レッドはようやく口を開き、当然の質問をする。

「あー、今日は3日間かけてポケモンの分布と進化に関係する全国フォーラムをやっててね。今日はその最終日だったんだ。で、全国だからアララギ博士も来てたわけさ」

 と、ウツギは解説する。

「面白そうですわね。末席にでも加わりたかったですが……」

「君がもし、僕の研究所に居てくれてたら連れてきてあげてもよかったよ! 君にとっては非常に興味深い話とかもしていたしね」

「あれ、研究所といったら、ツクシ君居ませんね。もしかしてアカネさんの……?」

 レッドは、そうウツギに尋ねる。

「ご明察。ツクシ君、どうしてもアカネさんが心配だっていうから、年末年始の休暇に加えて2,3週間ぐらい休暇をあげてるんだ。ところで昨日、赤ちゃん産まれたらしいよ」

 ウツギはさらりと重要な事を言った。

「本当ですか! おめでたいですわー。今度出産祝いでもお送りしますとツクシさんに伝えておいてください」

 エリカは突如、声を上げて祝福している。

「う、うん。分かった」

 博士も若干たじろいでいる。少し圧されている感があった。

「名前はもう決まっているんですか?」

 続いてレッドが尋ねる。

「まだ決まっていないんだってさ。ツクシ君、僕も反省してるんだけど、最近忙しくさせちゃったしなぁ……。これからじっくり考えるみたいだ。アカネさんは、産まれた子が女の子だから「トラコ」がいいとか言っているみたいだけど……」

 ウツギはフッと笑いながら言う。

 コガネ人らしいなぁ。とレッドは感慨深くなっている。

「それにしても数週間の休暇とは……、お仕事、滞りは致しませんこと?」

 エリカは単純な疑問をぶつけた。

「いやなに、その分柏木君の仕事を……、ごめんなんでもないよ!」

 言葉は優しいが、言外の意からしてこれ以上突っ込んではダメだと、レッドは悟った。少しだけブラック企業で働く人の気持ちがわかったというのは内緒だ。

「……、ところでオーキド博士無き、ポケモン研究会。大丈夫なのでしょうか?」

「いやなに大丈夫さ。僕はまだ若いし、ツクシ君だっている。オーキド博士のポジションはナナカマド博士が引き継いでいるようなものだから万全だよ。それにしてもオーキド博士どこに行ったんだろうな……。色々と聞きたいことあったのに」

 その時、レッドはシロナの「オーキドが主犯だという事は世間に知らされていない」という発言を思い出し、そういう事なんだと自覚するのである。

「さて、二人はカントーのバッジ集めている訳か……。ゴールド君もジョウトのバッジ集めなおしているし。3人が頑張ってくれれば、ポケモンを研究している身としても励まされるばかりだね! とにかく、応援しているから。期待を裏切らないよう、精進しなよ」

 そう言って、レッドの肩を叩きウツギは「じゃあね、二人とも」と言って立ち去っていくのであった。

 夕日で輝き、北風にはためく白衣の姿は少し格好良かった。

 

 こうして、エリカは恩師への挨拶を済まし、大学の外に居る。

 

―午後5時10分 タマムシ大学 赤門前―

「なんだか、イッシュに行く日近いんだなーって実感させられたな」

 レッドはそう吐露する。

「そうですわね。アクロマさんにアララギ博士……、イッシュ地方もなかなかに面白そうですわね! しかしその前に……」

「目の前の課題を片付けなきゃな。よし、今日はタマムシで寝て、明日はセキチクだ!」

 こうして二人のカントー折り返しのジム戦がはじまるのだ……。

 

 第四十一話 秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず 終―




一応、エリカ戦は強化版HGSSのPTでやりました。
ユキノオーとかキノガッサとか使っちゃうと、本当にレッド負けてしまうので……。
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