伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚 作:OTZ
―1月16日 午前10時 グレン島―
グリーンは、快活に挨拶すると、一段一段ゆっくりと階段を降りる。そして降りながら彼はレッドに話しかける。
「随分仲睦まじいな……、羨ましい限りだぜ」
「18股のお前には、遠く及ばないよ」
レッドは冷笑半分に、そう言う。
「……、そうかよ。……、バッジはいくつ揃ったんだ」
グリーンは降り切って、強めの声調で言う。
「ここに来てからは6つだ」
「……、そんなんじゃ俺とはまだ戦えねえな!」
グリーンは、頬を緩ませて嘲笑交じりな風でそう言った。
「大層息巻いてるけどいいさ……、お前とは最後に戦うと決めているからな」
レッドは毅然とグリーンに言い返してみせる。
「ほぉ……、今日のお前は随分挑戦的だな。エリカさんがいるから格好つけてんじゃあ、ねーだろうな?」
割と図星なその意見に、レッドは帽子を目深に被りなおす。
「そんな事はないさ」
が、グリーンの前だけでは己を曲げたくなかったがゆえに、レッドは強情を張る。
「そうか……、話を戻すぞ。ふたご島でカツラ爺を倒してこい。それでバッジが7つ揃ったら、ここに来い。そして、お前との挑戦、受けてやるよ」
そうと言って、グリーンは踵を返して階段を登っていく。
「何処に行くつもりだ」
幼馴染に呼び止められ、グリーンは歩みを止め、振り返らずにレッドに返答する。
「女に囲まれた生活にも段々飽きてきてな……、少し
昼日に照る彼の姿は、明るめの茶髪という色合いもあってか、少し映えて見える。
「……、お前、宗旨替えでもしたのか」
「いやなに、爺さんがあんな事になっちまってから、哲学者ぶりたくてさ……。じゃあな」
グリーンは、そう言い残すと、岩に隠れて見えなくなっていった。
―同日 午前11時 グレンタウン ポケモンセンター―
二人は、二日間野生のポケモンやトレーナーとの戦いで消耗しているポケモン達を休ませる。その為に早めではあるが、泊まる事にした。
しかし、流石に部屋は空いていない為、ポケモンセンター内のソファで時間をつぶすことにした。
というより、センター内に居るのが二人と、ジョーイさん、数人の市民とかなり閑散している状況である。
「……、うーむ、ことごとく前とは違うな」
レッドは、首を廻らせてそう言った。
「私も一度、グレン島まで植栽を買い付けに行った際にここへ参りましたが……、あの時はこの数十倍の人はいましたわ」
「こんなに変わっちまうもんなんだな……、無常を感じるよ」
そう言うと、レッドは、あらかじめ持ってきていたセルフサービスのお茶を飲み干し、ため息をつく。
「無常……ですか。まだまだ貴方が悟るには早すぎる気が致しますがね……」
彼女は、くすりと微笑んだ。母親のつもりの一笑なのか、それとも単にバカにしているのかの嘲笑なのか見分けはつかなかったが、反射的に、
「ほっとけよ」
レッドは間、髪容れずに答える。
「フフ……、さて、これからどう致します?」
「どうするつってもなぁ……、グリーンとまた鉢合わせすんのもやだし」
エリカは大きく頷いている。
「私も同意見ですわ。しかし、このままずーっと部屋が空いてくれるまで、所在無くずーっとこうしているのも……」
「……。そうだ。エリカ、なんか話してくれないか?」
彼は唐突にそんな事を言う。普段はエリカの話など、知識の差があり過ぎて辟易しているのだが、今回は止むを得ない。暇で暇で仕方ないからだ。
「ええっ!? そんな、急に振られましても……」
彼女は珍しく困惑の表情を浮かべている。しかし、すぐに考え込む。話のネタをさがしているのだろう。どんな話が出るのか期待しながら待っていると、
「そうですわね……、グレン島周辺の歴史についてでもお話しいたしましょうか?」
エリカの話題のネタといったら、大抵は歴史である。彼女の専門である理系の話は完全についていけないだろうと踏んで言っているのであろうが、レッドは大の社会科嫌い、いや正確に言えば勉強嫌いだ。しかし、自分から頼んでおいていやだ等とは言えるはずもなく
「あぁ……、分かった。話してくれ」
と、半ば観念してエリカの話を聞くことにした。
「まず、この辺りの島々の地域名として、ナナシマ。という語がありますわよね?」
「そうだな」
レッドは、一応は興味のある返事をする。
「これは歴史のある言葉でして、江戸時代の頃、このナナシマに人が住んでいたことを根拠にして作られた語なのです」
「ほう」
「その中のグレン島は、最大の島です。先ほど、植栽を調達しに来たと申しましたが、ここはツバキの名産地として高名で……」
と、このような調子で15時ぐらいまで話は続いた。
―午後3時10分―
「それで……、3の島には、関ヶ原の戦いで西軍についた宇喜多秀家が流罪になった事も」
と、エリカが淡々と話していると、ジョーイさんが二人の目の前までやって来て
「レッドさーん! お部屋のご用意ができたので」
「分かりましたー」
と言ってレッドはそそくさと席を立つ。エリカは消化不良のようだったが、止むを得ずレッドに続く。そして、二人は部屋に向かう。
―午後9時 同所 個室―
色々と諸事を済ませ、またも二人は談笑していた。
「さてと、次はカツラさんか……」
「あの御方、中々の努力人ですわ。オーキド博士をも超える知能を持っていると囁かれながら、御家の事情でグレン島に引き戻って両親の家業を手伝いして、一念発起してポケモントレーナーの道を志し、1年がかりでバッジを獲得して、タマムシ大に30代で入学して10年がかりで博士号を取得されました。それに加えて在学中にポケモンリーグをヤナギさんとの連名で設立するなど……、功績だけ見れば万人の尊敬に値しますわ」
と、エリカは含みのある言い方をする。
「功績”だけ”……、ああそうか、あの人かなり変わり者だもんな……」
レッドは納得した表情をした。
「特殊な性嗜好に、奇天烈な言動、万年躁状態……、等など。それが故に同じような経歴を持つヤナギさんほどの敬意は集まってませんがね……。しかし、私、そういう御仁も悪くはないと思いますわ。むしろ、そんな好奇な目線を打破する為にここまで努力されたと考えると、凄い人だとは思いませんか?」
「まあな。俺もカツラさん、そんな嫌いなわけじゃねえし……、ただ何回か(雪印)の心配はした事はあるけど」
エリカより目線をそらしながら、遠い目でそう言った。
「そういう意味でいえば私は安全な訳ですが……、さてそれはそうと、グリーンさんなんだかおかしくはありませんでした?」
彼女は、突拍子もない事を尋ねてくる。レッドは少しだけ狼狽したが、すぐに態勢を立て直し、
「確かに、哲学者ぶりたいとかあいつらしい発言じゃねえなあとは思ったが、俺はそこまで変には思わなかったけど」
彼女は、一息ついてこう言う。
「お爺様が、あんな事を起こして亡くなられたというのに、随分と沈着ではありませんでした?」
確かに、グリーンの直情的な性格を考えると憤慨、痛烈な罵倒をしてもおかしくはないな。等と思うと、彼女は更に
「それにお爺様について、あまり深く言及はしなかった……。触れられたくないといえばそれまでなのですが、どうも私には、グリーンさんが何か隠しているような気がしてならないんですよね……」
その発言に、ナナミの言葉―弟はなんだか知っているっぽいけど……―を重ねてみる。なるほど……、女の勘とは案外鋭いものなのかもしれないなぁ。などと思ったがここは親友として、と思い立ち
「お前の考えすぎだよ……。確かにあいつは18股とかしている時点で、色々な女騙しているとか、疑り深くもなるだろうが、そんな件でいちいち隠し事するようなタマじゃないさ」
と、レッドはグリーンをフォローした。
「そうですか……、私の杞憂で終われば宜しいのですが……ね」
そう言ってエリカは追及の手を止める。
こうして、二人は直に床につき、明日に備えるのであった。
―1月20日 ふたご島 入口―
二人は、その後3日かけてふたご島にへと移動した。
ふたご島付近は、岩などが点在する程度で、まさに絶海の孤島といっても差し支えないほどさびれた場所である。
「うーん、一度来たとはいえ、魔窟の雰囲気が漂うな……」
「あら、こんな所に張り紙が」
エリカが見つけた、入り口周辺にはっついていた張り紙には、-ジムは二階にあるよ カツラ―と書かれている。
「な……、なんというか子どもっぽい、丸い字体ですわね」
と、エリカはいつも通りの書評(?)を下した。
「親切でいいじゃないの。よし、行こう!」
そういう訳で二人は二階にへと向かった。
―ふたご島 二階 グレンジム―
「おお……、ほんとにジムだ……!」
まず来た感想はそれだ。なんというか、洞窟の上にタイルを貼るなど、出来あいの感触がプンプンするが、味があるような気がしないでもない。
「なんといいますか、そ」
エリカが続いて感想を言おうとしたら、遠くから耳を
「うおおーーーーーーーーーーーーーす!! よく来た! おい、お前たち何をしている! 早く道を開けてやらんか!」
と、カツラは周りに居たジムトレーナー達を避けさせた。そして、二人は開けられた道に従ってカツラの前まで移動する。
「お久しぶり……と言うほどでもないですわね。こんにちは、カツラさん」
と、エリカは恭しくお辞儀をする。レッドもつられて礼をする。
「うむ、礼をするとは良い心がけだの」
「それにしても、洞窟内にジムを作るとはなかなか……」
と、レッドが言い終わる前に、カツラは
「グレン島の噴火は、ワシにとって一晩で築き上げたものがすっからかんになった大事件だった! 島民を救い出して、マサラまで避難した時はもう三日三晩泣き続けたわい! だがの、泣いた後はけじめをつけて、グレン島に一回はジムを作ろうとしたんだよ」
と、カツラの発言がひと段落すると、エリカは思い出したかのように
「ナツメさんから又聞き致しましたわ。グレン島は、火口付近は入山規制がかかり、用地も傷病人保護や避難場所等としての使命があるポケモンセンターで精一杯だと……」
と言い、カツラに主導権が戻る。
「左様! だから、泣く泣くこのふたご島にジムを作ったわけだ! そして、どうだ見てみろ。このように洞窟の地面を剥し、タイルを貼りつけ、岩を置くなどして改良し、ジムリーダーとしての役目を果たしているのだ!」
レッドは素直に感心し
「流石、カツラさんだ……」
と、感情を吐露する。その言葉が更にカツラをヒートアップさせ、
「有難う! もし二人が見ごとワシに勝てれば、最後より数えて二つ目のバッジ、即ち7つ目のバッジをくれてやろう! うおおーーーーーーーーーす! では、やけど直しの準備は良いか!」
こうして、セミファイナルのカントージム戦の幕が切って落とされた。
「行け、コータス! バクーダ!」
「行け、ラプラス」
「おいでなさい、ルンパッパ!」
陣容は揃った。あとは戦うのみである。
「ルンパッパ! 雨乞いですわ!」
ルンパッパは、雨乞いのダンスをして、雨を降らす。
「甘いのう……、コータス! 日本晴れだ!」
天候は、同時に放った場合、素早さの遅い方に合わせたものとなる。
「チィ……、晴れか……、でもやるっきゃない! ラプラス、バクーダにハイドロポンプ!」
「最大出力でー、消・火!」
ラプラスの放った、太く強い水流はバクーダを戦闘不能にするには十分すぎるくらいである。
無論、バクーダは倒れた。
「うお……、だが、これぐらいは想定内! 行け! ギャロップ!」
ギャロップはけたたましい雄叫びを唸らせながら、フィールドに立つ。
「……、嫌な予感がしますわ……、ルンパッパ、ギャロップに波乗り……」
エリカが指示し終わる前に、カツラは突然声を上げ、
「勘が鋭いのう! 流石! ギャロップ! ルンパッパにメガホーン!」
ギャロップは、
「ぎゃああああ!!」
ルンパッパは絶叫しながら、石にへと叩き付けられた。しかし、やはり不一致だ。半分くらい削れて難なく、所定の位置にへと小躍りしながら戻ってくる。
「ほう、中々にタフだのう! 女史のルンパッパは!」
カツラは感心しているのか、高笑いしながらそう言う。
「全ては夫と旅してきた証ですわ」
と、エリカはにこやかに微笑む。しかし、カツラはほとんど動じずにいる。流石はバラの世界に興じる人だ。女性なぞ眼中の外なのだろう。
「睦まじいのう! しかし、勝負は
コータスは中に入っている、岩をラプラスに仕掛け、思い切り突き上げる。
「グレンで育った火山岩、とくと思い知れ!」
コータスはそう言って、高笑いをする。しかし、やはり所詮は不一致だ。
「大したこと無いよー!」
ラプラスはそれなりにダメージを喰らっているはずだが、割と
「よし、ラプラス! コータスに冷水を被せろ! もう一度ハイドロポンプ!」
ラプラスの放った水流は、防御が強くても、特防に脆いコータスの体を思い切り抉る。コータスは倒れた。
尚、ルンパッパもギャロップに波乗りしたが、ギリギリ倒れなかった。日本晴れ強し。
「まだまだぁ! 行け、ヘルガー!」
……
こうして、レッドは完勝、エリカは全滅で勝利した。なかなかタイプの差が如実に表れている勝負だ。
「うむ! 見事! ワシはもう燃え尽きた……! このクリムゾンバッジ! 持って行けい!」
カツラは、クリムゾンバッジ二枚を、二人に手渡す。
「有難うございます!」
エリカは深々とお辞儀をした。やはり美しい。
「今回はワシの負け……、だが、グレン島を復興させ、ジムを作ったらまた来ると良い。その時は必ず勝つ! まだまだ若い者には負けてられぬからな!」
と、カツラはハキハキと元気に話す。風貌除けば年齢不相応なまでに若々しくも見える。
「そのハングリー精神……、私たちも見習わなければ……。ところでどうして、このような島にジムをおつくりになられたのですか? シオンやマサラ等、ジムのない町に作っても宜しかったのでは……?」
エリカは、カツラに率直な疑問をぶつけた。
「マサラに一時避難用のジムを作ろうと考えたのだがの、オーキドの奴が反対しおったから諦めたのだ」
「オーキド博士が?」
レッドは、その名前に関心を持った。
「左様。昔は仲良かったのだが……、どうもリーグを作って以来ギクシャクしてしまっての……」
カツラは、言葉を濁した体で言う。
「あら、どうしてそこから仲が悪くなってしまったのですか?」
エリカは顎に手をやりながら尋ねる。
「……、詳しい話はヤナギにでも聞くが良い。あいつの方が良く知っとる……、しかし女史にとっては辛い話になるやもしれぬが」
「え?」
彼女は目をパッチリと開いて疑問をあらわにする。
「……、ワシはあまり話しとうないのじゃ。そういえば、ヤナギから聞いたが、過去の話を聞いたとか?」
カツラは二人に尋ねてきた。
「え……ええ」
「あいつが話した内容を聞き出すと、それはまだまだワシら三人が仲良かった時期じゃ。しかしそこから先はお前さんたちに話してはいない……」
エリカが、その発言に対し
「それって……、ヤナギさんの口から話したくないという事では……?」
「……、そういう事かもしれぬな。分かった。時期が来たら話そう。その時が来たら君たちのぽけっちとやらに連絡を入れてやるわい」
カツラの提案に対し、レッドは頷いて
「有難うございます」
と言ったが、カツラは俯いて
「しかし……ワシが話す前に……、知れてしまう事かもしれぬがな」
と言った。
その後は、ポケッチの番号を教え、少し話をしてジムを後にした。
―ふたご島 一階―
「カツラさん……、あの事話しているとき元気なかったよな」
彼はまずそのことに気付いた。エリカも考えている事は同じなようで、
「ええ……、余程に深刻な話なのでしょう……。しかし、私に関わるお話でしたら、聞かない訳にはまいりませんわ」
エリカは
「それにしても、一体どんな話なんだろうな?」
「そういえば……、お祖母様はあまり私に前半生を語ってはくれませんでしたわ。もしかしたらその関連の話しかも……しれませんわ」
エリカは憶測混じりなのを自覚しているのか、自信なさげに言っている。
「そうだな……、丁度、世代同じぐらいだし」
レッドはその意見に同調した。
「……、さて、斯様な話はしまいに致しましょう。グレン島に戻らなくては……」
「そうだな」
という訳で二人は洞窟をでて、グレン島へ空を飛ぶで戻った。
―午後4時 グレン島―
ポケモンセンターの前で降りる。そして、そこからそんの数歩程度の距離に居たグリーンは待ち構えていたかのように、二人に近づいてきた。
「……、お前のリザードン、随分立派になったもんだな」
グリーンの第一声はそれである。
「そいつはどうも」
レッドは悪戯半分に大きな声で、礼を言った。
「さて、バッジだが……」
「ほらよ!」
レッドは、二人分のバッジケースをこれ見よがしにグリーンにみせつける。
「揃ったか……。よし、俺のジムに来い、場所は分かってるだろ?」
「トキワシティだろ!」
レッドは強く言う。
「そうだ。レッド、てめえには絶対負けん……、俺の女を奪った罪はでかいぞ……!」
そう言ってグリーンはピジョットに乗って、北の方向へと飛んでいく。その夕日に映える姿に少しだけ威厳を感じた。
「俺の女……? どういうこっちゃ」
「……、ささ、とりあえずポケモンを休ませましょう! 相当に傷ついてますわ」
エリカは、あまりこの話に触れたくないかのような反応を取る。少しだけ疑問を持ったが、敢えて突っ込む真似はせず。
「うん? ……ああ、そうだな」
こうして二人は、二回目のグレン島宿泊の後、カント―最後のジム戦にへと臨むのである。
―第四十四話
次回はいよいよカント―ジム戦、ファイナルです。
やっとここまでおわった……。