伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第四十六話 四度目の正直

―1月17日 午後3時 ヤマブキシティ ポケモンセンター―

「これから話すことは関係者以外には他言無用だ。いいかい……、落ち着いて聞いてほしい。ロケット団が、復活した。それも、前よりも大規模な組織として」

 その発言ののち、二人は暫く言葉を失う。サカキが行方をくらましたという事は分かってはいたが、あまりにも早すぎる。それも、カントーに押し寄せる程の力を蓄えているなどと、夢にも思っていなかった事だからだ。

「間違い……ないんですか?」

 レッドは、念を押して言う。

「間違いではないさ。なにしろ、エアームドの空中偵察。それで得た情報が、黒づくめの服装に、Rの文字。これはロケット団だと確信する他無いよ……」

「……、シルフカンパニー……ですよね?」

 エリカがそう、ダイゴに尋ねる。

「うん。そこだ。恐らく、彼らの狙いはマスターボール。最近量産体制が整ったって小耳に挟んでいるものでさ……。今あそこには数千個ものマスターボールが、試作品含めてあるだろう。もしあれが彼らの手に落ちれば、大変な事になる」

 ダイゴは、いつになく真剣な表情で、そして鋭い声で言う。ただの坊ちゃんではない。

「それでは、すぐさまシルフカンパニーに……」

 レッドが向かおうとするも、ダイゴが呼び止めた。

「待って。カードキーは持ってるのかい?」

「四年前に一度潜入したので……」

 レッドは以前の記憶を思い起こし、話すが

「それじゃダメだよ。去年設備が大幅に変わったからそのカードキーはもう使えないよ」

 と、ダイゴに切り捨てられる。

「えっ? じゃ、カードキーはどうすれば……?」

「僕のを貸すよ。あと、カードキーに加えて、社長室に入るには更に暗証番号が必要でね。その番号はこのメモに書いてある。ああ、読み上げないでね。どこに監視カメラがあるか分かったもんじゃないから」

 と言ってダイゴはカードキーを机上に置く。

「よ……宜しいのですか?」

 エリカは、申し訳なさげにダイゴに尋ねる。

「言ったろう? 僕はホウエンの人間だから、これ以上の介入は出来ない。本当はこの情報を教えた時点で守秘義務違反で、免職ものなんだけど……。ま、うまくやるよ」

 その言葉に、理事の威厳を少しだけ感じたのは、恐らく気のせいではないだろう。

「とにかく、君たちは、僕の代わりにシルフカンパニーに潜入して、再起不能なまでにロケット団を壊滅させて欲しい」

「報酬は?」

 レッドは、冗談半分に尋ねてみる。

「おっと、そういえば何も考えてなかったな……。何か資金で困った事があればいつでも頼ってくれよ。出来るだけの融通はする」

 と、ダイゴは爽やかに言ってみせる。デボンコーポレーションの跡継ぎという肩書が、今は輝いてすら見える。

「そ……そんな悪いですわ。金子(きんす)にはあまり苦労して」

 彼女は、手のひらを前に出して断ろうとするが、ダイゴは、

「人間万事塞翁が馬……、何があるかなんて分かったもんじゃないよ。じゃ、頑張って! 僕に出来るだけの事はした。後は、君たちの実力如何(いかん)にかかってるよ……!」

 そう言ってダイゴは立ち去っていく……。

 こうして二人はシルフカンパニーへと潜入する。門番の下っ端は例の如く寝ていた。

 

―午後3時30分 シルフカンパニー 1階―

「うーん、広いな……」

 シルフカンパニーの一階は、大きな広間となっている。中央のオブジェの他には受付カウンターや観葉植物などが置いてある。

「まずは、どう致しますか?」

 彼女はまずそれを尋ねてくる。当然ではあるが……。

「とにかくエレベーターを使って、まずは二階に上が……」

 と言うと、ロケット団と思しき黒づくめの男が二人組で嘲笑ってきた。

「残念でしたー! シルフカンパニーのエレベーターは現在故障中だ!」

「ええ!?」

 無論、俺は驚愕した。ダイゴよ、どうして教えてくれなかったのだ……。

「では、どうやって上に上がられたのです? 故障しているのでしたら行けないハズでは……」

 エリカは当然の疑問を、下っ端に吹っかける。

 すると、もう一人の下っ端が高笑いしつつ、

「そいつは言えねえな! よし、動転している間に侵入者を片付けて決着をつけるぞ!」

「おう! この二人を倒せば、幹部昇進間違いなしだ!」

 そう言って、下っ端二人はモンスターボールを構える。

「……、難儀な連中だ」

―――――――――――――――――――――――

 二人の大勝に終わる。HPは減ってすらいない。

「チィ……、やはりチャンピオン様とジムリーダー様は格がちげえや……」

「だが、俺たちを倒そうと、上には上がれねえよ! ざまあみやがれ!」

 下っ端がそう吐き捨てて、何処ぞに退散しようとするとエリカの手持ちであるロトムが出てきた(第二十三話参照)。

「ロトム?」

「エレベーター、壊れてる……、僕の好物……」

 と言いながら、ロトムはエレベーターの方向へ浮遊しながら向かう。足が無いから恐らく浮遊だろう。

 そこで、エリカは何かに感付いたのか、ロトムの後へ静かに続く。俺も何だろうと思って、エリカを尾行する。下っ端たちはボケーッとしていた。

 エレベーターの前にロトムが止まると、ロトムは手に持っている触媒を操作盤へ届かせようとする……、が、操作盤までの高さは1mぐらいなのに対し、ロトムの体長は30センチ程だ。無論届かない。

「仕方ないですわねぇ……」

 そう言ってエリカは感電防止の為かどこから持ってきたのか、厚手のゴム手袋をカバンから取り出し、ロトムを操作盤の所まで持ち上げてみせる。俺はロトムが少しだけ羨ましかった。

「有難う。よいしょ!」

 ロトムは操作盤の方向ボタンに触媒をくっつけ、電流を送る。ジジジ……という音と共に火花が散る。

 数十秒ほどすると、なんと、エレベーターのドアが開いた。下っ端は口を開け、愕然としていた。

「フフ……、では、貴方! 乗りましょう!」

 エリカはクスリと笑って、レッドをエレベーターに誘う。レッドに続いてエリカが乗って、無事乗る事に成功する。ロトムはエレベーターに憑依(ひょうい)したので消えた。

 

―エレベーターの中―

「おいおい、ロトムのエレベーターだろ? 悪戯(いたずら)するんじゃないのか?」

「ご心配なく。きちんと躾けてありますわ。ロトム! 黒づくめの人が乗った時は絶対に動かさないでくださいね!」

 どこからか、「ワカッタ」と片言混じりの日本語が聞こえる。なるほど、機械に憑りつくと発話能力が下がるようだ。

 と言う訳で、二人は取り敢えず二階に上がった。

 

―シルフカンパニー 2階―

 2階にたどり着くと、事の次第がもう伝わっていたのか(たちま)ち二人は下っ端に包囲された。人数は数十人程だろうか、こうしてみると黒山の人だかりという言葉も納得できる。

「どうします? 貴方」

「一人ひとり、倒していくしかないだろう……」

 レッドが強く言うと、下っ端の一人が

「一人ひとりだぁ? んな、正々堂々とはやらねぇよ!」

「何だ」

 レッドが答える間もなく、一気に数十匹のゴルバットやラッタ等の定番のポケモンが出てくる。

「ほんと、難儀な奴ら……、行け、リザー……」

 レッドがモンスターボールを取り出すや否や、どこからか聞き慣れた(しゃが)れ声が響く。

「ウインディ! ギャロップ! 大文字じゃ!」

 その指示と共に、灼熱の炎が下っ端諸共、ポケモンに襲い掛かる。

「あの声は……、カツラさん!?」

 カツラは案外、耳が良い。80メートル程離れているのにも関わらず、レッドの声が聞こえたようで、

「挨拶は良い! はよう行かぬか! 幹部は社長室におるぞ!」

 と、いつも通りの快活な声で言った。

「やはり、敵は社長室にあり……か! 行くぞエリカ!」

「はい!」

 レッドはワープパネルの配置を四年前に散々試行錯誤を繰り返していたせいか、それなりに暗記していた。その為、社長室にたどり着くまでさほど時間はかからなかった。

 

―シルフカンパニー 最上階 社長室―

 一方その頃、社長室では……

「ヘイ! シルフのCEO(最高経営責任者)サーン! 我々にマスターボールを、ギブしてくれるのならばこれ以上はノータッチにしといてやるヨ!」

「ふざけるでない。誰がロケット団に手など貸すものか……!」

 社長はあくまで毅然と振る舞っている。

「日本語ダイジョブデスカー!? 手をレントしろだなんて誰もセイしてナイヨ!」

 こんなやり取りをしている中、二人がドアを解錠する。

「オーッ!? どうして、ココにインベイダー(侵入者)が!?」

 幹部は突然の邪魔者に、かなり大慌てしている様子だ。

「たく、マチスさんじゃないんだから……」

 レッドは、深くため息をついている。

「チィ……、訳わからないけど、インベイダーはハントするのみヨ! ミーの名前はアレス! 幹部になれてから初のバトル……、ホワイトスターをあげてみせるネ!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 戦果は、言うまでもないだろう。

「オーノォォォォォ!! これじゃ……これじゃサカキ様にスコウルドされてしまうネ……」

 アレスはしょげてしまった。

「おい、エリカ」

「scold……、叱るという意味です」

「察し良いなお前」

 そんな事を話していると、アレスは居直って

「ミーがルース(lose=敗北)しようと、ロケット団が滅びないネ! シーユーアゲイン!」

 と言って、アレスが退散しようと二人の横を通り抜け、ドアを抜けると。

「今ッス! 捕えろッス!」

 いつの間にか警察が張り込みをしていたようだ。アレスは抵抗しようとしたが、ヒゲの刑事のエルボーを喰らって怯み、その隙に逮捕された。

「おい、エリカ、お前いつの間に通報したのか?」

「いいえ、私は何も……」

「私が通報した。ただ、エレベーターが故障していたもので中々来れなかったそうだがの……」

 と、社長は平然とした顔で言う。流石は大企業のトップである、性格が豪胆だ。

「それにしても、本当に助かった! もしマスターボールがあちらの手に渡ったら、悪用されたに違いない……。社員一同に代わって礼を言わせてもらうよ」

 社長は深々と頭を下げる。

「いえいえ、お礼を言うなら私たちではなく、デボンコーポレーションに……」

 エリカが言い終わる前に、社員の一人が

「社長ーーーー!! 一大事です! 研究室に居た研究員が悉くさらわれてしまってます!」

 その報告に、社長の顔は真っ青になる。

「な……、なんだと……。あの者達が居なくてはわが社は生き残れぬ……!」

 シルフカンパニーはボール製造を本業としているため、ボールを研究する人が居なくては立ちいかないのである。

「クソッ……、ロケット団め……、それが真の狙いであったか……!」

 社長はそう言うと、悔しさのあまりか地団駄を踏んだ。

 そんな状況の中、一人の刑事が中に入る。緑色のくたびれたコートを羽織り、その下には赤いネクタイを着け、Yシャツを着ており、容貌は恰幅の良い男性である。

「社長さん! 落ち込まないで下さいッス! この糸鋸圭介! 全力を尽くしてさらわれた研究員も探し出してみせるッス!」

 と、その刑事は社長を励ます。しかし、またも社長室に入ってきた人物の声でその希望は打ち砕かれる。

「無駄だ」

「カツラさん……」

「何スカあんたは……ってカツラジムリーダーがどうしてここに居るんッス!?」

 刑事は大いに驚いているが、カツラは淡々と続ける。

「フジが調べてくれた。ロケット団はイッシュ地方へと本拠地を移している。だから、カントーの警察が如何に頑張ろうと、イッシュに連れ去られた研究員を救い出すことは不可能と言う訳だの」

 その言葉に一同は大いに驚く。

「そ、それで?」

 レッドは、カツラに次の発言を促す。しかし、返答は芳しくなく

「残念だが、フジの情報網だとそれが限界だったらしい……。しかし、この件については既に知っておったから窓を焼き切って先に潜入して、連れ去られる前の捕えられていた研究員をある程度解放することが出来た」

「ほ……本当かね!?」

 社長の目に生気が戻る。

「とはいえ、救えた研究員は恐らく三割ほどしかおらぬ……。他は恐らくイッシュに……。済まぬの社長殿。これが少しでもロケット団の野望の実現が遅れれば良いのだが……」

 ロケット団の野望は、四年前のサカキが言っていた「ポケモンを人間のもとに絶対服従させる」事とおおよそ同じだろう。そう思ったレッドはそれに関して、突っ込むのをやめた。

「それでも良い……、研究員が多少でもおれば再起は可能だ」

 その後も少し話し、刑事たちや社長と別れ、一階に着いたのちにロトムを憑依から解放させる。その後二人はカツラと共にシルフカンパニーを出た。

 

―午後7時 シルフの外―

「カツラさん。包囲の際助太刀して頂き、本当に有難うございました」

 エリカは深々とカツラに礼をする。

「何、大したことではない。しかしどうして、二人はここで事件が起こっている事を知っておったのだ?」

「いや……、たまたま近くを通りかかったので……」

 レッドはすぐ思いついた言い訳をする。

「そうか……。ところでお主等はバッジ全て揃ったかの?」

「はい!」

 と言って、レッドはカツラにカントーのバッジケースの中身をみせつける。

「こんなにも早くグリーンを下しおったか! 流石としか言い様がないのう!」

 カツラは良い笑顔をしている。まるで自分の孫が成果を上げたように喜んでいる。

「その調子ならば、リーグも易々と突破できるだろう! 気張れよ、二人とも! 同じ地方のトレーナーの活躍は一入(ひとしお)嬉しいものだ」

「はい、全力を尽くします!」

 レッドは、カツラに負けじとばかりに明瞭で大きな声で返事をした。

「うむ。さて、イッシュ地方に行った際はロケット団だけでなく、プラズマ団という組織もある。両組織がつながっておるかどうかは分からぬがの……。二人とも、せいぜい気を付けるが良い。それでは、また会おう!」

 そう言ってカツラは、ギャロップに乗って帰るのであった。

「危なくないのかな……」

 レッドはまずその事を心配したが、あまりに気にかけても仕方ない。

「乗馬で帰るとは中々粋ではありますが……、通行人の方がやけどしないか心配ですわ。さて、それはそうとリーグですか……」

「早いなぁ……、でも引き締めなきゃな。四天王変わってるんだっけ?」

 レッドはエリカに確認する。

「ええ、一番目の方はカンナさんからイツキさんというエスパー使いに、二番目の方はシバさんから、ご存知の通りキョウさんに。三番目の方はキクコさんの引退に伴ってシバさんが繰り上がって、四番目には、カリンさんという悪タイプ使いが居ますわ」

「へぇー、結構変わってるんだな……」

 改めて聞いてみると、本当にそうだ。四年の間に随分変わったんだなぁと実感する。

「皆さん、相当に手強そうですわ……。しかしイッシュへの最後の関門。心してかかりましょう」

「おう! だが、もう夜だ。今日は早く寝て、明日は朝一番に行くぞ!」

 こうして、ヤマブキで宿泊し、来たるべき決戦の日に備える。

 

―1月21日 ポケモンリーグ 広間―

 それから二人は、朝一番でトキワシティに移動し、初心に帰るつもりで4日かけてチャンピオンロードを潜り抜ける。そして、いよいよリーグの前に立ち、勇みを盛んにして選挙以来のリーグへ入った。

 ポケモンを回復させた後、精神を集中させながら一段一段、四天王の間へと進む。すると、後ろから俄かに聞き覚えの声がする。

「待てよ!」

 振り返ると、赤毛の少年……、シルバーが立っていた。

「……、何だよ。またやられに」

 最早、定番の切り替えしをするが、シルバーは強情に返す。

「ふざけんなよ。もうやられないぜ。俺は負けた後、もう一度強化されたジョウトのジムリーダーを倒したんだ! 前の俺とは段違いの……」

 シルバーが言い終わるや否や、またも聞き覚えのある声がした。シルバーよりは若干高めである。

「レッドさーん!」

「あら、ゴールドさん……」

 まず気づいたのは、エリカである。そして、シルバーが振り返り、苦い顔をした。

「あ! シルバー!」

 ゴールドは案外、シルバーに好印象を持っているのか、同年代の友達を呼ぶような快活な声で名前を呼んでいる。

「馴れ馴れしくすんな。俺とお前はライバルであっても、友達じゃねえんだ」

 とはいっても、表情は案外満更でも無さそうだ。

「全く……、相変わらず強情だね……」

 ゴールドは深くため息をつく。

「ゴールド。ハナダ以来だな。で、何しに来たんだ?」

 レッドは不愛想な振る舞いでゴールドに接する。

「何しにって……。ジョウトのバッジ揃えなおしたから、四天王に挑戦しに来たまでです! それで、レッドさんを見かけて……、そうだ! 折角だし久々に戦いませんか? ハナダではゴタゴタがあって出来ませんでしたし……」

「ジョウトのバッジ揃え直した……? てことはヤナギさんも倒したのか!?」

 まず驚いたのはそれである。ここまで実力が高まっていたとは思いもしなかったからだ。

「ええ! でも、やっぱり強くて……数回ほど挑戦してやっと勝てました」

「俺は、二回戦って勝った」

 意外にも再戦回数が少ない……。それに面白みを感じたレッドは、

「これは……、戦い甲斐がありそうだ! よし、タッグバトルだ。俺は無論エリカと組む」

 と、いつになくテンションを高揚させながら言った。

「という事は、俺はゴールドとか……」

「宜しく!」

 ゴールドは礼儀正しくも、シルバーにお辞儀をしている。

「フン……、一時休戦だ。ゴールド、一緒にこの夫婦倒すぞ!」

 こうして、伝説の夫婦vsジョウトの二強の戦いが始まるのだ……。

 

―第四十六話 四度目の正直 終―

 

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