伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚 作:OTZ
今回は解説がかなり長いです。暇な時以外は読まない方がいいっちゃいいかもしれないですね。
―2014年(平成25年) 某月某日 某所―
男ははたと気が付くと、灰色の地面が見えている事に気が付いた。
それに風を感じる。強い北風だ。いつの間にか外に居たようだ。
訳も分からないまま、屋敷に戻ろうと後ろを向いてみると、見たこともない高い建物が己が眼中に入る。
「こ……ここは天界か!?」
自らが、信長公の安土城に登城した時……いやそれ以上の衝撃をこの男は感じていた。
参陣した覚えも無いので本当に死んだわけでもない。何も把握出来ないので目を卵のように見開かせて首を上下左右に回していると、次から次へと初めて見るものが目に入る。
そして、首を右にやると漸く見覚えのある人影か見えた。
「宗匠……?」
そこには、禿頭に苦労の証がみてとれるホウレイ線の多い老顔。
何より"宗匠"の特徴といえる黒衣。
それで男はあれが宗匠こと千利休であると確信し、喜びのあまり声を上げながら駆け寄った。
「宗匠! 宗匠ではありませんか!」
「古織様…貴方もこの場におられたのですね」
利休も同じくこの状況に当惑しているようだ。
「おや、宗匠、襟に何か挟まっておりまするぞ」
織部はめざとくも、利休の服装に違和感を覚え、それを指摘した。
「これは豆です。童に豆を撒かれましてな……、どうやら今日は節分のようですな」
「豆をぶつけられたのですか!? 宗匠になんと不届きな……、その小童どもを叱りつけて」
織部はそう言いながら北の方向へ向かおうとするが、ふと織部は気付く。
「む!? そもそもどうしてそんな路傍にいるような糞餓鬼が豆まきなぞ……」
「どうやら、ここの世界は我々とはちと慣習が異なるようです」
「そ……宗匠!? 一体それはどういう……」
世界という単語に引っかかった織部は思わず利休に尋ねる。
「少なくとも、我々の知らぬ存ぜぬ世界に居るという事は間違いないでしょうな」
あまりの断定口調だったので、それが心に突っかかった織部は利休に聞き返す。
「私は、古織様より少し前にこの世界に着き、色々見聞き致しました。すると、ふと”かれんだあ”なるものが目に付き、そこの年を見ると……2014年と書かれておりました」
織部はその一言に驚嘆せざるを得なかった。
「右近殿より聞いたことがありますぞ。確か、南蛮では我々とは違う暦を使っているとか……」
「恐らく私と古織様が今居る所はその、”南蛮”。そして我々の居た頃とは随分と後の時代に居るという事となります」
利休は、織部とは反対に淡々とした口調で喋る。
「
「それは皆目検討もつきませんな……」
織部の心中は、元の時代へ戻るという事より今の状況に対しての疑問が強かった……。
―少し前 ヒウンシティ プラズマフリゲード 甲板―
プラズマフリゲード。それは大時代の帆船と見せかけたプラズマ団のアジト。
大航海時代に活躍した
さて、そんな甲板の右舷で一人釣りをしている黒服の男が居た。
その男に変わった格好をした、派手な装飾の眼帯をつけた男が数人の部下を連れ話しかける。
「釣果はどうですかな。サカキ殿」
サカキと呼ばれた男は苦々しい顔をしながら
「
と釣り糸を上げながら答えた。
「そちらはどうだ」
と続けてサカキがもう一度釣ろうと釣り針にオキアミをつけながらゲーチスに尋ねる。
「アクロマが何やら面白いことを考えてますな」
「ほう、如何なる事だ」
サカキは、オキアミをつけた釣り糸をもう一度水中に沈め、興味深げに聞き返す。
「先人達の知恵を借りるとか」
「君主論でも読み返すのか」
「違う。ディアルガとデオキシス等の時の力を利用して、先人達をこの場に引き摺り出すのだそう」
「酔狂なことを考えるな……」
サカキは溜息をつく。アクロマに対しての物なのか、それとも本日ゼロ匹という散々な釣果に
「酔狂かどうかは見てから決めてやるつもりです。あの男の知識と技術力は神業と言うべきものですからな」
「オーキドも同じことを言っていたが……、二人で徒党でも組むつもりなのか」
「ワタクシは別に構いませんよ。あの二人中々に上手くやっていきそうですしな。天才二人が組んでくれれば我々の計画も更に盤石になるというものです」
ゲーチスはそういうと静かに笑う。
「しかし……、徒党を組むならまだしも、もしも我々の敵に回れば手が付けられなくなるぞ」
サカキは釣り糸を垂らし水に波紋を作るウキを見守りながら、そう二人を警戒する。
「アクロマとワタクシはそれ程仲良くありませんが、我々と組むロケット団に与しているオーキド殿が彼を引き留める限り、何も恐れる事はありますまい」
「ふむ、それもそうか……おっ、これは……」
サカキが納得しかけたその時、釣り竿に力が掛けられる。立ち上がって思い切り竿を引き上げようとするが、水面にバスラオの頭が見えたかと思いきや逃げられてしまったようだ。
「チィ……」
サカキは悔しげな目線を海に送り、イス代わりにしている空のクーラーボックスに座りなおした。
「ルアー付の竿、お貸ししますよ?」
ゲーチスはそう提案するが、サカキはすぐさま
「馬鹿をいえ、私はいつでも一本気だ。自分の腕で釣り上げにゃ、欲しいものは手に入らないと思ってるんでね」
啖呵を切って、ゲーチスの提案を却下した。
「悪の組織の長が一本気……」
「悪いか?」
「いえ。殊勝な心がけだ事で……。ロケット団は良き主をお持ちですね……」
そう言ってゲーチスは艦内へと戻っていく……。
「にしても……逃がした魚はでかいな……。1メートルは超えてたな」
サカキはぶつぶつ独り言を言いつつ、また釣り針にオキアミをつけるのであった。
―2月3日 午後3時 ヒウンシティ プライムピア―
レッドとエリカはタチワキを出発して、ホミカの父と名乗る船長の船でおよそ三十分ほどでヒウンシティに到着した。
「うわあ……!」
船上からでもそことなく大きさは伝わったが、実際に目の前に現れると迫力は段違いである。
二人は街のあまりの大きさに圧倒されていた。
「う……噂に違わない大都市ですわ……」
「タマムシよりも大きいな!」
レッドは意地悪半分にわざと大きな声で言って見せる。
「そんな事……い、いえでも、タマムシと同じくらい大きな街って事は認めてあげてもいいですわ!」
エリカは上ずった声で言った。流石の彼女もこの摩天楼の前には自信を喪失してしまうようだ。
いつもより少し弱気だが、意地っ張りな彼女を見て満足したレッドは
「さてと……こんなに大きいんじゃジムも探せないよ」
「貴方、トレーナーの歩き方に書いてあるのでは」
「おっと、そうだな」
と言ってレッドはトレーナーの歩き方をリュックから取り出す。
取り出している間、エリカは周りの風景を見、ある事に気付く。
「まあ! 貴方! 見てくださいよ」
「えーと……あ、これだこれ。で、どうしたんだよ」
歩き方を見つけ、リュックを背負い、珍しくはしゃいでいるエリカに反応する。
「ほら」
エリカが指示した先には、大きな黒い帆船があった。
「い……今時帆船? 時代遅れじゃ」
「そんな事ありませんわ! サスケハナ号にメイフラワー号……色々ありますけど風に任せながら様々な期待と不安を積みながら進む船……それが帆船というもののロマンですよ!」
「いや、多分だけど別にこれその船じゃねーだろ……ってか風に任せるって、サスケハナ号って蒸気船じゃ無かった?」
レッドは小学校の時に何故か覚えていた歴史の授業の一幕を思い出し、そう言う。
「あら、良くご存知ですわね。ですが、それは高度なボケですわよー」
とエリカはおどけたように言ってみせてさっさと先に進んでいく。
「ああ! もう、待てよー」
通路に上がると、一人のピエロが話しかけてきた。
「ようこそ! ヒウンシティへ!」
挨拶すると、ペラペラとヒウンラリーの説明を受け、自転車を受け取ったが……
「いや要らないっすよ。俺持ってるんで」
エリカと旅して以来全く使ってないが、事実なのでそう言った。
「そーですか! ではそちらのビューティフルなお嬢様は!?」
「え……あの、私は……」
エリカは唐突に尋ねられたので、当惑している。
「そういやエリカは持ってないんだっけ?」
「え、ええ」
「じゃあ貰っときなよ。今度ツーリングしようぜ!」
という訳でエリカ用に女子仕様の色の自転車を貰うのであった。
ジムに向かうので、その旨を伝えてピエロと別れる。
「それにしてもラリーする為とはいえ自転車を気前よく、くれるとは……」
「あのー、貴方」
「ん? 今すぐにでも一緒に走りたいって?」
「それは是非とも出来るならばしたいですけど……、私、乗れませんよ?」
エリカの口から衝撃の事実が発せられる。
「はぁ!?」
レッドからは図らずもそんな言葉がついて出た。
「私の両親、自転車なぞ危ないからやめなさい! という方針だったもので」
「うう……じゃあ、返しに行ってくるか」
レッドは頭を抱えながらそう提案する。
「いえ。折角ですし持っておきますわ。折り畳みですからそこまでスペースとりませんし」
と言ってエリカはバッグの中に自転車をしまい込む。
「そか……、にしても残念だなあ」
「はい?」
「エリカと一緒に道路を駆け抜けてみたかったなあって」
エリカはその言葉を聞くと、申し訳無いような表情をする。
「……」
「ああ、そんな気に病むな。あくまで願望だから。じゃ、ジムに」
「あ……しかし、ホミカさんの依頼は?」
「ついででも良い。って言ってただろ。先にジムに行こう。プラズマ団はその後だ」
という訳で二人はまず、歩き方通りにジムにへと向かう。
―午後3時半 リバティピア北―
この先ポケモンジムという看板を見つけ、道なりに先へ先へと進んでいくと今度は結構派手に、そして分かりやすくモンスターボールの看板が見えた。
ポケモンジムだと目星をつけ、いざ行かんと入口へ向かうとガイドーが入口を阻んでいる。
「あのー、すみませんけど
レッドは少し不愛想な口調で、ガイドーに話しかける。
「あ、お二人さんじゃないすか! いやー、ごめんなさいね。今ちょっとリーダーが」
ガイドーはかくかくしかじかとアーティが居ない理由について話してくれた。
どうやら、事件だ。などと言って風来坊の如くどこかに
結局、リーダーが居ないのではどうしようもないな。仕方ないのでポケセンで時間を潰そうか等とレッドが考えていると、褐色の少女がガイドーに話しかける。
「あれあれ、またアーティどっか行っちゃったの?」
「おー、アイリスさんじゃないですか! 実はかくかくしかじかで……」
アイリスと呼ばれた少女は、ガイドーから事の次第を聞くと呆れた表情をしながら
「アーティっていつも何処かに消えてない? 創作に行き詰ったーとだけ言ってどこかに行っちゃったりさぁ……。あれ……あ! これはこれはようこそイッシュへ、伝説のお二人さん!」
そう言うと、アイリスは深々と頭を下げる。
二人もつられたように頭を下げて、そしてエリカは何かに感付いたように
「もしかして貴女は……。若くしてワタルさんと
「お前はどこまで物を知ってるんだよ……」
今更の事だが、エリカの知識の多さは尊敬を通り越して呆れるぐらいである。等とレッドが思っているとアイリスは
「おー……。噂には聞いてたけどやっぱり凄い人なんだ。宜しくね、エリカさん」
「光栄ですわ。こちらこそ宜しくお願い致します」
エリカとアイリスはそう言って握手する。
「つーかなんでお前そんな事知ってるんだよ!」
「何か月か前にテレビか何かでやっていた記憶がありましたので……。“蒼龍”の異名を持ち、イッシュでも最強のドラゴン使いと名高いシャガさんの手解きを受けた……のですよね」
「そーそー。シャガおじーちゃんには本当お世話になってるよーうん。まだまだあたしより何倍も強いと思うし、厳しいけど、時々は優しいし!」
レッドはシャガという言葉に反応する。
「シャガってあの……ヤナギさんと同じかそれ以上との噂もあるジムリーダー……ですか!?」
それに対して、ガイドーが横やりを入れる。
「ええ。何でも、ここ何年かは本気で戦う相手すら居ないようで……。ヤナギ……さんとかいう人も相当の手練れという話はここまで届いてますけど、自分的にはそれよりも上な気がしますけどねー」
レッドはヤナギの名前がここまで轟いている事に畏敬の念を強め、その上シャガへの恐ろしさが臓腑の汗となって滴り落ちる。
「あはは、そんなに怖がらなくても、シャガおじーちゃんのジムはまだまだ先だと思うよー。あーでも……」
「で、でも?」
レッドは少し上ずった声になりながら尋ねる。
「おじーちゃん、貴方たちが来るって話が来てから相当に気合入れちゃって……。今日もずーっとソウリュウのどこかで修行しまくってるだろうなー」
「!!」
そのアイリスの発言でレッドの体には図らずとも電流が流れる。
「まーだから頑張ってよ。で、貴方たちはアーティを捜している」
「いえ、事件の匂いとか言っているのでしたら、恐らくプラズマ団も……」
「いやーでもプラズマ団は一昨年壊滅……いやでも関係ないか! おにーちゃんおねーさん困ってるものね。助けてあげる!」
と言ってアイリスは少し考えたかと思いきや、「ついてきてー」とだけ言って二人の先を進む。
行っている最中に目端に侍が映った気もするがレッドは気にしないことにする。
―サムビア―
気が付くと、街の端から端へと移動していた。
サムビアと看板には書かれてあったが、確かに怪しい雰囲気はする。
さて、そこにたどり着くと、アイリスは
「ここの台から降りて、まっすぐ行くと入り口がみえるんだけど、そこから下水道に入れるんだ! ね、なんか怖い雰囲気はするでしょ?」
「確かに、なんだかおどろおどろしい感じはしますわね……」
「おどろ……おどろ?」
アイリスはそう言って首をかしげる。
「あー、こいつ時々訳の分からない事言い出すから」
レッドが言い切る前にエリカは
「人を変質者みたいに言わないでください! おどろおどろしいというのは、どこか気味の悪い感じがするときに」
「うーしじゃ行くか」
とレッドはエリカを無視して、台を降りていく。
「無視しないでくださいよ! あなたぁ……」
エリカはレッドに見えない糸にでも引っ張られるように追従していく。
「うーん、これでも仲睦まじい……っていうのかな?」
アイリスはそう首をかしげながら二人の過ぎた階段の辺りを見つめるのであった……。
―ヒウン下水道―
中に入って、奥に行くと、やはりプラズマ団が潜伏していた。
とりあえずウォーミングアップ代わりにと3人ほど倒すと、下っ端たちは
「ちい、センセイに強くしてもらったポケモンでも歯が立たないとは……」
「くそっ、俺たちが想像してたよりも何倍も厄介そうな奴らだ……とりあえず俺たちは撤収!」
プラーズマーと掛け声の如く言いながら出ていく。
「ふっ、他愛もない」
「それにしてもタチワキでも聞きましたがセンセイとは一体誰なんでしょうか?」
「んな事、大した事でもねーだろ。どうせヘタくそな先生が戦い方教えてるだけだってば。それよりも奥にもまだいるかもしれないし……行ってみるか?」
レッドが提案すると、エリカが頷きかけたところで奥から声がする。
「その必要ないよー」
どこか気の抜けたような声の主は、何とも形容しがたい髪をした中年と青年の間ぐらいの男だ。
「もしかしてジムリーダーの……アーティさんですか?」
歩き方で見た記憶で、レッドは尋ねる。
「アーティさんじゃないですか! 貴方の絵、拝見させて頂きましたが中々に良いインスピレーションを感じました!」
エリカはそれ以上に興奮しているのか、感激した風にアーティに話す。
「おー、嬉しいねー僕の絵のファンがこんな所にいるだなんて。さて。そーだよ僕がアーティ。で、奥も探したけど特に怪しい人影とかは無かったよー」
「探していただいたのですか。有難うございます」
レッドに続いてエリカも頭を下げる。
その後もアーティの話が続いて、通りすがりで来たとばかりに去って行った。
さて、アーティが去ってしばらくすると見覚えのある髪形をした男が出てくる。
「やはり貴方たちはすばらしい! ポケモンの力を最大限に引き出した見事と言う他ない戦いぶりでしたね」
男は素っ頓狂な声で話しだしたので、レッドは肩を震わせて驚いてしまう。
対してエリカは旧知の友人に再開したとばかりに嬉しそうに話しかける。
「あら、アクロマさんではないですか」
「貴方たちとはタマムシで会って以来ですね」
アクロマは声調を整えて言った。
「え? ああ、アクロマさんか……。帰ってきていたんですね」
アクロマの来歴を覚えていたレッドは、この人物がイッシュ出身だったことを思い出してそう言う。
「はい。少しここに用事があるもので」
「左様ですか……。どの位居られるのでしょうか」
「それは分かりかねますね。もしかしたらずっとここに居るかもしれませんし……。さて、貴方がたの戦い、とても良い! そしてなるほどです」
と言って、アクロマはつかつかと下水道の出口へと向かっていく。
「何だったんだ」
「掴みどころが分からない御仁ですわ……。さて、ジムに向かいますか? ここはどうもジメジメしてて危険な雰囲気ですし」
という訳で二人は地上に出て、ヒウンジムへと向かった。
―午後4時30分 ヒウンジム―
ジムに入ると、何とも幻想的な白い
「うわ」
「へえ……これがアーティさんの世界ですか……」
エリカは何とも言えない恍惚とした表情になっている。
アーティの芸術を目の前にしていると、ガイドーが話しかけてくる。
「やあ二人とも。プラズマ団だったりジムリーダー探しでこの広いヒウン中をあっちらこっちら南船北馬のように駆け巡って大変だったでしょ! という訳でワンドリンクどうぞっす」
ガイドーは二人においしい水を手渡す。
「南船北馬ですか……。この場合は東奔西走の方があっている気が致しますが」
エリカが注釈をつけようとしたので、レッドが無理やりおさえる。
「どもです! ところでこのジムはどうやって行けばいいんです?」
「驚いたでしょう! このジムはアーティさんが改装時に物凄い注文をつけまくって、大工泣かせの仕掛けという異名もついている所っす」
ガイドーは喜々としながら語るがレッドは
「いや、そういうのいいですから、行き方をですね」
「おっと。でですね、ここは目の前の繭が出ている方向に従って……」
という訳でジムの仕掛けを教わって、繭から出てくる人に驚いたりなんなりしているうちにアーティの所にたどりつく。
―ヒウンジム 繭の上―
そこは下とはかなり異なる、カラフルな塗料で床を覆っている不可思議な場所であった。
なんとも奇妙な雰囲気に呑まれながらも、レッドはアーティに話しかける。
「やーやー。下水道ではお疲れー」
「いえいえ、こちらこそ」
「ところで、さっきからなんか僕の虫ポケモンが騒いでいるんだよね。君たちと戦いたいって! 僕の虫ポケモンたちはいいよー。ちょいと紹介がてら自慢しちゃうよ」
自ら手の内を晒すという行動にレッドは内心苦笑しながらも聞き、いよいよ四つ目のバッジをかけての戦いが始まる。
アーティはビークインとイワパレスを、レッドはリザードンを、エリカはダーテングを繰り出す。
「ダーテング! 日本晴れ」
天候は晴れになり
「リザードン! ビークインに大文字だっ!」
「問題、ザマの戦いでハンニバルを撃ち破ったローマの将軍の名前」
「ビークインー。リザードンに攻撃指令!」
問題を出しているすきに、ビークインの僕が一斉にリザードンに飛びかかる。
「つれないなー! 返答ぐらいしろバカヤローーー!!」
と言いながら、リザードンは僕ごとビークインを焼き払いましたとさ。
「やるじゃない。イワパレスー、リザードンにロックブラスト」
ロックブラストは運悪くも5回あたり、リザードンは岩の前に散った……。
……
こうして、レッドは完勝。エリカは2体失う勝利を収める。残ったポケモンは無論、体力は緑である。
「ううう……。分かりきったこととはいえ、やはり君たちは強いねえ。負けても特に異論は無いなぁ。そーだ! このビードルバッジ。君たちに似合いそうだから、あげるよ」
レッドとエリカは、4つ目のバッジ、ビードルバッジを手に入れる。
「有難うございます!」
エリカはいつも通りのお辞儀をし、レッドもつられて会釈する。この流れはもう定番どころか無意識にやっているものと化しつつある。
「うんうん。やはりお似合いだね! 心なしかより輝いて見えるよ。ところで今二人はバッジいくつなの?」
「四つです」
レッドの返答に、アーティは緩んだ表情を変えずに
「半分か。やるねぇ。ここから一番近いジムはライモンで、あそこは手強いけど二人なら悠々と勝っちゃいそうだね」
その後は長々とアーティの芸術論を聞かされ、レッドは退屈そうに、エリカは
レッドにとって何より意外だったのはアーティもまた美術史に明るい人物であった事だ。気だるい口調ながらも的確に返答する姿は関心すると同時に中々に滑稽でもある。
という訳で1時間ほど討論し続けたのだった。
―午後5時30分 ヒウンシティ ジム前―
繭に一階まで連れ戻され、二人はジムの前に戻る。
「ふう……中々に
「印象派って……落穂拾いとかああいうの?」
「そうです。よく御存知ですわね」
エリカは意外だとばかりに驚いている様子だ。
「ああ、教科書で見た記憶があるしな。さて、もう夕方……っつか夜みたいになってるしポケセン行こうぜ」
2月は冬至より1か月以上経過しているとはいえ、やはり秋と変わらず
という訳で二人は南へ下り、リバティピア付近に出る。
するとエリカは、海を眺めている二人の男に気付く。
「……」
「どしたエリカ?」
立ち尽くしているので変に思ったレッドは、エリカに尋ねる。
「いえ、何だか気になる御仁が……!」
エリカは、何かに気付いたのかそう言うと俄に
「肩衣の背に丸と地紙紋の家紋……。これはもしかして……」
エリカは二人に気取られないように忍び足で移動して右に左に横顔を見た。
「ま、間違いない……ご先祖様ですわ」
エリカは小さな声で呟く。
「は!?」
レッドはその発言にそう答えるしかなかった……。
「お静かに。私も信じがたいのですが……。あまりにも肖像画に酷似していますし、その上ご先祖様の隣の方……古田織部様は帯刀もしていらっしゃる。このご時世に帯刀なさっているという事はタイムスリップしたとしか思えません。周りにテレビカメラも御座いませんから、時代劇の撮影とは思えませんし」
「織部って誰だよ……。つーかさお前、自分が何言ってるのか分かってんのか? タイムスリップなんていうのはSFとかそういう作り話の中の概念でだな」
レッドが彼女を冷静にさせようと試みんと冷静な意見を言うが、エリカは潤んだ瞳と胸の前に両手を組み、
「ハァ……、こんな所でご先祖様と会えるだなんて、感激ですわ! 私、話しかけて参ります!」
エリカは最早恍惚とした表情となり、矢の如く二人の元に駆けよる。
「おい! 俺の話を……たくしょうのない奴だ」
レッドは渋々、エリカの後を追う。
「あの! 千利休様と……古田……
エリカは二人の所にたどりつくと、息を切らせながら二人に話しかけた。
「そうですが」
利休はこう答え
「左様だが……」
織部はこう答えた。二人とも、自らを知っている人物に出会って安心したのか表情が緩む。
「良かった……。私の見立て違いでしたらどうしようかと……。いえ、お二人はどうしてここに居られるのですか?」
「それがよく分からぬのだ……。何か存じておるか……ええと、ところでお主等は何奴だ。見慣れぬ
お前に言われたくないわとレッドは思ったが、ここは堪えようとレッドは抑えて
「全国を旅しているレッドです。それでこいつは」
「供をしている妻のエリカです」
レッドとは対照的にエリカは声の調子がいつもより明るい。
「旅の者か。しかし日の本中を回るとはひょうげた事をするのう」
織部はそう言いながらフッと少しだけ笑う。
「貴方達の時代とは少し意味合いは異なりますが……。しかし、大変ではありますわね」
「話を元に戻しますが、旅の方よ、ここは一体何処で如何様な場所なのです?」
利休はやはり、商人という身分だからか武人の織部とは反対に敬語で話す。
「はい、貴方達の時代からはおよそ500年程後の、平成という時代です。そしてここは貴方達のいう南蛮の……そうですわね、集大成といえるアメリカという国の一地方イッシュ地方の中心都市、ヒウンシティという場所ですわ」
「ほう、500年後……その上異国でござるか。信じられぬ事ばかりだが、日の本はどうなっておるのだ」
織部は当然の質問をエリカに投げかける。
「貴方達武士階級の時代は終焉を迎えて、現在は我々市民による国家が作られる時代になっております。それは日の本だけではなく、明国(中国)も、朝鮮も、そして南蛮も……大体の国は斯様な仕組みとなっております」
それを聞くと、織部は目を見開かせて2,3歩後ろに下がる。
「か……斯様な大事が起こっていくというのか! 信じられぬ、下々の者供が我々に成り代わって
「千変万化とは申しますが、成る程、民が国を営む……。中々に面白そうな世ではありますな」
「しかし、結局日の本ですとお上に従う傾向が強い故、結局、朝廷や幕府等が政府に変わっただけ……いえ、そのお話は置いておきましょう。織部正様、帯刀はお止め下さい。廃刀令が出されており、腰に刀を差すのは禁じられております故」
エリカは織部にそう勧告するが、当然の如く織部は怒り
「何を申す! 刀は武人の魂なるぞ! それを解けなどというのは」
「古織様。もし正しければこの世は最早武人の世ではないのです。この世が民の世だというのならば郷に入りては郷に従え……。その法に従った方が良き道かと」
師匠の説得に織部は渋々太刀を置く。脇差は発覚する前に懐に隠したが……。
エリカは太刀を取って
「貴方達が元の時代に戻る際、この刀はお返しいたしますのでご安心召されるよう」
と言うが、レッドはすかさず
「おいおい、そんなでかいものどこにしま」
と言うと、エリカはすかさず免状を見せる。
「私、幼少のころ武道は居合と弓道をやっておりましたのでイッシュ含む全国で使える免許証を持っているのです。これが有るとケースに入れておれば咎めは受けませんわ。まさか使う機会があるとは思いませんでしたが、これを機に使わせて頂きましょうか……」
とエリカは静かに頬を緩ませながら言う。
レッドはエリカの弓道している姿の妄想に耽るのだった……。
「刀を使うにも一々許可を取るとは……。関白様の刀狩より厳しうなっておりますな宗匠」
「本当に、武人の時代は終わりを告げておる訳ですな。信じ難くはありまするが」
という訳で、レッドとエリカは二人を元の時代に戻すために取りあえずアクロマを探すことにした。
東奔西走し続けたが見つかる事はなく、二時間たった19時半の頃にはモードストリートに居た。とはいえ、エリカと利休と織部の話が弾んで進まなかったのも要因と言えば要因である。
―モードストリート―
この時間の通りは帰宅する人々のピークが過ぎて、段々と人が少なくなっていく。
とはいえ人はそれなりに居る為静かという訳ではない。
「うーむ、疲れましたな。エリカ殿」
織部はエリカにさも疲れたという調子で話す。
「通りを上へ下へと行きましたものね。仕方がありませんわ」
「ところでエリカ殿は高山寺の
織部の質問に対し、エリカは少しだけ考えて
「烏滸絵と言いましたら色々種類はございますが……、高山寺でしたら鳥獣人物戯画の事でしょうか?」
「それにござる。それがしにはどうも筆の使い方が達者で、自慢が鼻について笑う事が出来ませぬで」
「そうですか? 私にはなかなか面白い発想だと思えて中々に興味深く、一笑をもたらしましたが。それにあれは無名の僧侶が書いたとのお話が……」
そんな会話をレッドは三人の後ろより見続けて溜息をつく。
自分には全くついていけない次元の話の上に、エリカは俺と話しているよりも楽しそうだ。とレッドはエリカに疑念を持ち始める。
もしかして、エリカは俺と話しているときは無理して明るくしているんじゃないか……とも思い始める。
さて、そんな疑問をレッドが抱き始めたころ、エリカは行列が並んでいる出店を見つける。
エリカが行列の人に尋ねると、これはヒウン名物のヒウンアイスを求める列だと知り
「そういえばナギさんとかが申しておりましたわね……」
と独り言を呟く。
「エリカ殿、アイスとは如何なるものでござるか」
「アイスと言うのは、日の本にはイタリアという国から舶来で伝わった牛の乳を主原料とした氷菓子の一種ですわ」
「い、”いたりあ”?」
エリカは織部の当惑した表情を見て、少し考えた後
「えっとですね……。南蛮の国の一つです。この国と同じく、貴方達の時代よりもかなり後に出来た国ですわ。お三方は如何でしょうか?」
と言ってなんとか織部達は納得出来た様なのでお茶を濁す。
「それにしても牛の乳ですか……。古の公家の方々は飲まれていたようですが、アイスなるものでそれに浸るのも良いでしょう。古織様は如何致しますか」
「それがしは気になりますな。そもそも牛の乳など飲んだことが無い上にそれを凍らせたもの……如何なる味がするか気になりますな」
レッドは一回だけ頷いて承諾の返事とした。考え込んでいたせいもある。
さて、エリカは並んでアイスを4つ買い、それぞれに渡して食す。
織部は早速と言わんばかりにコーンの上に載っているアイスを半分ほど食べる。
「ほう! これはなんと申すか……冷たい上に
織部は謀ったなと言わんばかりの目線をエリカに向ける。
「そんなにがっついて食べるからですよ……。暫くすれば収まる故、ご安心ください」
とエリカは言って織部を安心させる。
利休は織部の先例を見たせいか、恐る恐る少しずつ食べる。
「い、如何ですか?」
エリカは利休に先祖の前であるせいか、少し
「古織様の言われた通り、確かに美味ではございますが……、ちと甘すぎにございますな、私はもう少し渋うすれば尚宜しいと思いました」
と、何とも茶人らしい感想を残す。
「そ、宗匠! 良いことを思いつき申した! これを茶の中に入れればアイスに渋さが加わる上に、中々に良い味になるかと思われますが……」
「中々の妙案ではございますが……。
利休は織部の提案を現実的に返す。
「エリカ殿。我らの時代にこれは出来ておるか?」
織部は燃えるような目つきでエリカに尋ねる。
「これとは少し違いますが、シャーベットならば。もしかするとヴァリニャーノという宣教師がヴェネチアというイタリアの地域出身なので、もしかすればご存知かもしれませんわね……シャルバート若しくはソルベットと言えば通じるかと」
「良くわからぬが……。ともかくこれは良い……! アイスを抹茶に溶かし込んだものを菓子として売り出せば、人気を博すに違いない……さすれば我が瀬戸屋も潤うに違いないのだ! よし、やってみせるぞ!」
織部の大金時が爆発し、同時に金儲けに燃えている中、レッドは一人孤独感に包まれながらアイスを食す。心の中の感想は美味しいなぁ……だという。
アイスを食べている最中、レッドの疑念は段々と確信にへと変貌を遂げる。
何しろ、こんな時でもエリカは全くレッドに話しかけないのだ。やはりエリカは自分と話しているときよりも、こういう教養のあってユーモアのある人と話している方が楽しい……。
織部や利休は非現実的にしても、マツバのような人がもっとエリカの近くに居れば俺とは旅どころか相手にさえしなかっただろうな……とレッドは思う。
それと同時にもう一つの疑念が浮かび上がる。
はたして俺は、エリカの相手に相応しいのだろうか? という疑念だ。家柄も財力も知力も全く敵わない。そんな奴を相手にして本当にエリカは楽しいのか。そして俺は本当にそれでいいのか……様々な思惑がレッドの脳内を駆け巡る。
そして、アイスを食べ終わったレッドはひたすらに溜息を吐き続けるのだ……。
さて、一行がアイスを食べ終わり、最早今日は絶望的かと思いながら最後の希望とばかりにセントラルエリアにたどり着く。ヒウンシティ最北の広場である。
―午後8時 セントラルエリア―
空はすっかり紺色となって、夜となる。そんな空を見て利休が一言。
「随分と空が明るいですな」
「左様にござるな。エリカ殿の言うとおり、電灯なるものの光が空に届いているからでしょうなぁ……」
そう言う二人の顔はどこか寂しげである。
さて、四人の姿を見たからか否か、一人の人物が近づく。
そう、お目当ての人物アクロマである。後ろには白衣を着た人が2人程いる。恐らく彼の助手か友達だろう。とレッドは思った。
「アクロマさん! 探しましたよ……」
エリカはアクロマにそう話しかける。
「? どうされたのです?」
エリカはかくかくしかじかとここまでの概略を話す。
「ほう、成る程……。この着物を着たお二方は過去から迷い込んでしまった……と。で、名前は千利休と古田織部……ふむ」
こういう感じでアクロマはエリカの話を熱心に聞き入っている。
一通りアクロマは聞き終ると
「失敗に終わりましたか……」
と誰にも聞こえないような声で言う。
「え? 何でしょうか?」
「いえ。なんでも。そういう事でしたら何とか致しましょう」
「ま……誠にござるか!?」
織部は歓喜に満ちた声でそうアクロマに叫ぶ。
「はい」
と言ってアクロマは後ろの助手らしき人物二人にアイコンタクトを取って指示する。
「色々とお世話になりました。見聞きせぬ物を多く知れて新鮮でした」
利休に続いて織部が
「いやいや、本当に二人には感謝しておる! これは礼だ。宗匠と俺からの贈り物と思って大事に使うと良いぞ」
と言ってエリカに竹の筒と一緒に
「何すかこれ……、フワフワが無い耳かき?」
「違いますわよ! それは」
エリカが慌てて訂正しようとすると、織部は
「良い良い。それは
「ええ!? 本当に宜しいのですか!?」
エリカはかなり驚いた調子で織部に念を押したように尋ねる。
「茶杓など、竹があればいくらでも作れる。問題はあらぬ。さて、戻ったらなるべく早くアイス抹茶の茶会を開かねば……では、これにて御免!」
こうして、安土桃山を代表する茶人、そして
「はぁ……今日はなんて素晴らしい日なのでしょう」
「ハハハ……」
レッドは苦笑していた。
「ところで、お二人さんっ!」
アクロマは急に少し大きな声でレッドとエリカに呼びかける。
呼ばれた二人は驚いたが、すぐにアクロマの方に向き直る。
「差支えなければお二人のポケモンを見せて頂けないでしょうか?」
その後、アクロマにポケモンを見せ、やたら褒められたのち、二人は翌日に北の道路で行う勝負を半ば一方的に約束されて帰って行った……。
なんだったろう等と二人は言葉を交わし、そして漸く今日の羽休めをすることが出来た。
―午後9時30分 ヒウンシティ ポケモンセンター―
エリカが風呂に入っているとき、レッドはまたも先ほどまでの事を考え込んでいる。
そこでレッドは一つの方策を思いつく。フウロにライブキャスターを介して電話することにしたのだ。
どのようにしたらエリカともっと親密になれるかなどを相談する目的である。
レッドの周りには斯様な事を相談できる程の親密な女子がいない為、一番親しいと思っているフウロに相談すれば何かが見えるのではないかと思ったからだ。
それにフウロは番号を教えてくれるとき『だいたい夜は暇しているから、いつでもかけてね!』と言ってくれていたのだ。
エリカに誤解されないように、今のうちにという事でレッドはフウロに発信する。
「フウロさん?」
暫くするとフウロが画面上に現れる。画質が高いせいもあるのかフウロの顔が一層可愛く見える。
「わわ、本当にレッド君だー! 久しぶりー!」
フウロはレッドの電話に対して快活に、そして暖かく受けた……。
―第五十四話
次回は、ライモン、そしてvsカミツレ戦です。
バッジもいよいよ後半戦。しかしレッドフウロも段々と……?
こうご期待。