伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚 作:OTZ
―2月8日 午後8時 ライモンシティ ポケモンセンター―
レッドはまたもエリカが居ないのを見計ってフウロにテレビ電話していた。
「あ、フウロさん?」
「こんばんはー。今日も寒かったねー……」
少し世間話をした後、レッドは本題を切り出す。
「それであの……、その後なんですけど」
「うんうん」
「どうも、未だにエリカとの距離が縮まらないっていうか……」
フウロは、距離が縮まらないという言葉に反応したのか否か
「あのさー。その事なんだけど」
「はい?」
まさか遮られるとは思ってなかったので、レッドは思わず聞き返す。
「別にエリカさんは、レッド君に対してそんな距離を感じていたり、嫌って思ったりしてないよ!」
フウロは真剣な表情でそうレッドに進言してきた。
「それはヒウンの時にも聞きました」
「うん。君はあたしがそう言うと、エリカさんは演技でごまかしているんじゃないかって言ってたよね?」
「は、はい」
レッドはつい5日前の事なのですぐに思い出して、次の発言に注目する。
「でも、それはレッド君の誤解だよ! エリカさんは本っ当に君の事大好きだし、誰よりも愛してるよ! あたし、君たちをヒワマキからフキヨセまで連れて行って、ヒオウギまで連れて行った時。たった数日間で何言ってるんだと思うかもしれないけど、本当に仲良いなーって。あたしも結婚するならこれぐらい仲の良い夫婦になりたいなって心から思ったもの!」
フウロは真剣に、だがハキハキとした口調で話す。あまりの気迫にレッドは言葉を挟む気すら起きなかった。
「でも……」
にも関わらずレッドは未だに不安を抱いている。具体例がないというのが一番の原因だ。
しかし、フウロはそんな煮え切らないレッドの態度にも腹を立てずに
「それでもレッド君がエリカさんの愛情を疑うのなら、レッド君自身がエリカさんに対して……」
そこまでいうとフウロは途端に言葉を濁す。
「対して?」
レッドは次を促す。
「……、これはエリカさんに悪いし……言いたくなかったんだけど……。冷め始めているっていう事なんじゃないかな?」
その言葉でレッドは雷に打たれるのと同じような感触を覚える。
そう、ここ数日でレッド自身が感じていたエリカに対する疑念の心は、エリカに対する愛情が冷め始めているという事なのだ。
彼自身の潜在意識では気づいてはいた。しかし、フウロの一言で潜在は顕在にへと変貌を遂げてしまったのだ……。
「で、でも、そう感じるという事は、あまりにもレッド君がエリカさんに対して消極的なんだよ! おばーちゃんが言っていたけど、夫婦は飛行機と一緒で飛ばす人と物が息を合わせないと決して上手くいかないって! だから、レッド君もエリカさんに対してもっと積極的に行動したりすれば……」
フウロは半ば必死に先ほど言った「冷めている」という発言のフォローをする。
レッドは一つ疑問に思ったことがあったのでフウロに尋ねる。
「あの、どうしてエリカが俺の事を心底愛しているって分かるんですか?」
「へ? 分かるんだって! 同じ……女の子だもん!」
フウロはそう言って終わらせようとする。
「そういう大ざっぱなものじゃなくて……何か具体的なエピソードとか……」
「そ……それは……」
レッドの突っ込んだ問いに、フウロは途端に口ごもらせる。
それに、心なしか頬が赤くなっている。
「? どうして赤くなるんですか」
「っ……、ほ、ほら! エリカさんの料理はとっても美味しいって!」
フウロは一分程沈黙したと思うと、途端にその場で思いついた話をする。
「……、確かにエリカの料理は店並みと言った記憶はありますけど」
「それは要するに、そう確信する程、多くの回数食べているって事だし、エリカさんが一生懸命レッド君に美味しいものを食べさせてあげようとずっと考えてもいるって事だよ? 愛してる証じゃない!」
フウロはそう言ってエピソードの問いに答えた。が、その表情は何かを隠そうとしている疑ってしまうほどに不審でもある。
しかし、これ以上突っ込んでも答えないだろうとレッドは踏んで
「そうですか……」
と言ってその話題を収める。その後、フウロはレッドを積極的にさせるための案を幾つか出していたがレッドには馬耳東風のようで全く耳に入らなかった。そんなレッドの反応を見て空気を変えようと案じたのか、フウロは話題を切り替える。
「……、あのさ、今どこにいるの?」
「え? ライモンシティですけど」
レッドは急な話題転換に少し驚きながら答える。
「ライモンかあ……。観覧車とかジェットコースターとか行ってみた?」
「ジム挑戦を念頭に置いてたのであんまりそういう所には……。でもジェットコースターは成り行き上行きましたよ」
「そっかそっか。ジムといったらカミツレさんだよね! あたしとは先輩後輩の仲だけれど……。派手な人だったでしょ?」
レッドはカミツレの前衛的な服装を思い出し思わず苦笑しながら言う。
「まあ……、何とも普通の人じゃ考えづらい服装はしてますね」
「それがカミツレさんなんだよ! いつもいつも流行の最先端を行く凄いモデルさんなんだ!」
「モデルね……。なるほど、あのジムや演出にも納得がいきます」
レッドはそう言って腑に落とす。
「改装の落成式の時、あたしも呼ばれたから行ってみたけどあそこを進むのは中々勇気が要ると思うよ……。あたしのジムに来た人とかの話だと負けると容赦なくブーイングが来るとかこないとか」
勝ってよかったなあ……。レッドは心の底からそう思った。しかし観衆の関心は自分よりもエリカの方が高かった気がするのは恐らく気のせいだと思う事にした。
「ライモンの次はどこのジムが近いですかね?」
「ライモンの西にある大きな橋……ホドモエの跳ね橋っていうんだけど、そこを渡るとホドモエシティって街に着くよ! で、そこにジムがあるんだけどそこのリーダーのヤーコンさんって人がまた凄くてね……」
こうして、フウロと世間話をし続けてその調子のまま通信を切る。
電話を切るとレッドはため息をつきながらベッドに倒れこみ
「……、俺、どうすればいいんだろうな……」
と天井を見つめながら寂しげに呟く。
レッドの隣に居たピカチュウがしっかりしろよとばかりにポンポンとレッドの額を叩く。
「ピカチュウ……、そうか励ましてくれてるのか。ありがとな」
と言ってピカチュウの頭を優しくなでる。すると、ピカチュウは可愛い鳴き声を上げて答える。
ご主人様の役に立てて嬉しいのだろうか……そう思いながらレッドは先ほどまでの事を思考し直す。
エリカへの気持ちが冷めているのは動かようの無い事実だが好きという気持ちは未だに変わらない。皆に羨まれるほどの美人だし、料理は上手いし、床上手だしの非の打ちどころのない妻だからだ。
しかし、実際知的レベルが離れすぎているエリカと話すのは頭を使えば気も遣うし、疲れる。それを今まで感じずに居られたのは愛という感情が強く疲れを感じさせなかったからだ。
だが、冷めているという指摘を受け、
その点、フウロと話している時は気が楽だし、疲れない。
もしかしたら俺はフウロと過ごしていた方がいいのではないか……。冗談半分ではあるがそんな事もレッドは思いはじめる。
色々な事で頭を悩ましていると、エリカが風呂から上がり、他愛も無い話と色々な事をして床につくのだった……。
さて、ライモンから離れると、ホドモエの跳ね橋。別名『リザードン橋』を渡り二人はホドモエシティに到着した。
―ホドモエシティ
イッシュの玄関口と言われるが、こちらはどちらかといえば貨物的な意味合いが強い。
イッシュ最大の貿易港があり、ホドモエはヒウンに次ぐ商業繁華の街だ。
ジムリーダーのヤーコンは『現代のセシル=ローズ』と呼ばれるほどの鉱山王で、数々の会社と鉱山を持ちイッシュ第一の資産家・企業家として名を馳せる。地底人にかけて『地帝人』等という異名も持つほどだ。ホドモエ市民からは名士として敬愛されている。
南側はかつて冷凍コンテナだったがヤーコン主導の下再開発がなされ、PWT(ポケモンワールドトーナメント)を旗頭とするバトル施設が建てられている。
―2月13日 午後1時 ホドモエシティ―
二人がホドモエに到着して、街に入る橋を渡ろうとすると黒づくめのプラズマ団が、もう一人の白い頭巾を被った男に話しかけている。
レッドとエリカは気付かれないように遠巻きに動静を伺う。
「なあ! 昔みたいにポケモンを楽しく奪って、こき使おうや!」
黒いプラズマ団員がまずそう言っていた。
いかにもプラズマ団らしい。どうやら勧誘のようである。
「ダメだって。人の物を取ったら泥棒! それが身に沁みて分かったんだ」
「はあ? 何今更マジメぶってんだよ!」
そう言ってプラズマ団員は、頭巾を被った男をドンと突き放す。
見てられないと思ったレッドが守ろうとして前に出ようとするが、エリカは手でレッドを制して
「お気持ちは分かりますが、ここは情報を聞き出してみましょう」
「うう……。分かったよ」
と言ってレッドは湧き上がる気持ちを抑えながら、引き下がる。
「俺らの正義は理解されることなく、世界征服を目論んだワルモノだ! というのが世間の現実だろ? プラズマ団を辞めたお前にも、その事は理解出来ているはず! だからいっその事……」
「プラズマ団に戻れ。だろ? そんな事は出来ない……。N様が悲しまれる!」
プラズマ団員は、Nという名前に反応したのか途端に声量を上げ
「N! あんなのただの裏切り者の最低の王だろうが! 困った俺たちを見捨て、どこぞへと消え去った!」
「違う! N様は、自分のしている事を悔やんで……」
「ケッ、散々加担しておいて何が悔やんでだ! まあそれはいい、俺たちは今すっげーデカい計画をやろうとしてんだよ、何しろあの……」
何かを続けようとしたところで、プラズマ団員はふとレッドとエリカの居る方向に目を向ける。
すると素っ頓狂な声をあげて、
「ゲゲ! 赤い男にやたら綺麗な女!」
「赤い男って何だよ!」
レッドは反射的にそう反論する。
「チィ……、スペシャルインポータント要注意人物がお出ましか……。これは上に知らせないと! あばよ!」
捨て台詞を吐くと、途端にプラズマ団員は西の方角へと脱兎の如く消え去っていく……。
去ると、詰め寄られていた男が二人に近づいて礼を言う。
「あの、大丈夫ですか?」
エリカが男の容体を心配する。
「いえ大丈夫です! あいつ昔はプラズマ団で友だちだったんです……。でも、二年前にポケモンを救いたいと願うN様達のグループと世界征服を狙うゲーチス達の二手に分かれたんですけど……」
男の話に、エリカは敏感に反応して
「そのお話、詳しくお聞かせ願えますか? 私も概要は何となく分かるのですがあまり詳しいところは何分、異国の生まれなので……」
とエリカは
「はい! 高台に私たちの家があるので……」
そして二人は頭巾の男の案内で高台にへと向かう。
―同日 午後1時20分 ホドモエシティ 元プラズマ団住処前―
行ってみると家は立派なロッジ風の建物だった。
男は門を叩いて人を呼ぶ。
少しすると、黄土色の服を纏い、長い顎ひげをたくわえた老人が数人の部下と思しき人を連れて戸より出てきた。
男は老人に会うと
「ロット様! プラズマ団に興味があるという者を連れてきました」
「は?」
レッドは、『連れてきた』という言葉が怪訝に思ってついそんな言葉が出る。
「赤き服装の男に、洋服を着た麗人……。間違いない、伝説の夫婦だな」
「あの……話が把握できないのですが」
エリカは当惑気味の表情で男に尋ねる。
「何言ってるんですか……。私たちはずっと貴方たちご夫婦の到着を待っていたのです」
「うむ。全国の強者を次々と倒し、その強さは天下無双と聞く……。主等ならば以前にもまして強大化したプラズマ団を倒せる。そう確信したのだ」
「確信……ですか」
レッドはその言葉を反芻する。
「だから、私たちからもお願いです! どうか、私たちと共にプラズマ団の打倒に協力してください! ヤーコンさんは土地は貸してくれたけど忙しいし……、N様は行方不明だしで、貴方がたしか頼れる人が居ないんです!」
男と同時にその場にいた全員が頭を下げる。
レッドとエリカは両方とも、これまでの
「本当か! これは誠に有難い……。わしらからは情報を与えてやるぐらいしか出来ぬが宜しく頼む」
「それで、詳しくお話を……」
エリカは本来の目的を思い出したかのように、ロットに言う。
「うむ。大したもてなしは出来ないが、家でわしの知っている限りの情報を話そう。ついて参られい」
―元プラズマ団住処―
部屋の中央でロットの前にレッドとエリカが居る形で対談は始まる。
エリカがまず尋ねたことは
「貴方がたはどういう集団なのですか? プラズマ団と何かしらの関わりがあった事はそれとなく読み取れますが」
「わしらは元プラズマ団だ。二年前、ある少年がプラズマ団を一度壊滅させた件をきっかけにして、せめてもの罪滅ぼしに持ち主と離れ離れになってしまったポケモンをここで世話している」
確かに周りを見渡すと、ポケモン達が周りを走っていたり戯れている。
「左様ですか。それでプラズマ団が強くなったというのはそことなく分かりますが、一体どうしてです? 二年前に壊滅し、しかも分裂しているのならば普通は弱体化しているのでは?」
「それがまた厄介でな……。少なくとも我々から派遣した元団員のスパイの報告によれば、ロケット団等というカントーの組織と結託しているという事。二人の天才的な科学者を迎え、技術力を向上させて、資金はゲーチスの財産とロケット団ボスのサカキの財産、そして二人の科学者が功績によって得た資金等などで賄っているそうだ」
ロケット団という単語に二人は異常なまでに反応する。
そして、ヒオウギでの騒乱で、エリカが疑問に思っていたことは間違いではなかった事が証明されたのだ。
「ロケット団……。まさか本当に復活を遂げていたとは……」
レッドは徹底的につぶせなかった自分に後悔の念を感じている。
「しかしそれ以上の事は分かっておらん。やはり下の者にはあまり情報を開かないようだの」
その後もロットと話をつづけ、ロットは機械に疎いため案内してくれた男と番号をレッドとのみ交換した。
ロットは去り際、二人に向けて最後にこう付け加える。
「最早、今のプラズマ団はジムリーダーの一人や二人が潰そうとしたところで無駄に終わるまでに膨張しておる。イッシュの……否、全国の命運は二人にかかっている。どうか、頼んだ」
二人はそれに対して自信たっぷりに承諾の返事で返す。
そして二人は、6つ目のバッジを獲得するためにジムにへと向かう。
―ホドモエジム―
入ると、受付嬢らしき人が声をかける。
「いらっしゃいませ! ホドモエシティ ポケモンジムへ。こちらのジムはリフトでのご移動をお願いいたします」
目の前にはなるほど、床の模様とは相いれない一つの金属板がある。
二人はリフトを使って地下に下る。
―地下―
リフトから降りると、ガイドーが話しかけてきた。
「どうもー! ようこそ、ホドモエポケモンジムへ! 地帝人に挑みに来た貴方達にこれを差し上げるっす!」
おいしい水を受け取ると、レッドは周りを見渡す。辺り一面真っ暗だ。
「真っ暗ですね」
「このジムは地下にあるもんで、真っ暗なんす! でも、リフトの先に着くたびにどんどんライトが付く仕組みで、先に進む手掛かりになるわけっすねー」
ガイドーの説明を聞き、レッドとエリカはガッチャンガッチャンと進んでいき、ヤーコンの所へとたどり着く。
ヤーコンは小太りな体だったが、威厳は随分とある。地帝人という異名もうなずけるなとレッドは思う。
「フン! 待たせやがって! では、お手並み拝見といくか」
威張った調子で言ったと思うとヤーコンは勝負を始めていた。
ヤーコンはドリュウズとガマゲロゲを、レッドはカメックスをエリカはルンパッパを繰り出した。
「ルンパッパ! 雨乞いです!」
フィールドには、ルンパッパのダンスによって大量の雨が降り注ぐ。
「カメックス! ドリュウズにハイドロポンプ!」
「アイアイサー!」
カメックスの砲塔より、大量の水が猛き一本の束となってドリュウズに直撃する。
タイプ一致、雨乞い、そして相性……、勝負は決したと思われた……。
しかし、レッドの予想に反し、ドリュウズは気息
「!?」
「甘いな……気合のタスキを忘れてもらっちゃ困る! ドリュウズ! ドリルライナーだっ! ぶち抜け!」
ドリュウズは命が下ると、手にある二本のドリルを使って猪突猛進の勢いでカメックスに突撃する。
カメックスは甲羅に籠ってやりすごそうとするが、ドリュウズは甲羅に当たった瞬間、一気にカメックスを地上に出さんばかりの勢いで突き上げる。
急所に当たったため、カメックスは体力の半分を失った。
「くそっ……見立てが甘かった」
「まだまだいくぞ! ワルビアル! ルンパッパにストーンエッジ!」
ルンパッパに鋭い岩が一斉に突き刺さる。しかし所詮は不一致なので、大した傷は負わずに済む。
「ルンパッパ! ワルビアルよりギガドレインです!」
ルンパッパはワルビアルより養分を一気に吸い上げる。一撃では倒れなかったが、体力の三分の二を減らさせて、ルンパッパは先ほどのダメージ分を回復する。
「カメックス、ドリュウズにもう一回!」
カメックスはもう一度砲塔から高水圧の水流を浴びせる。流石にひとたまりもなく、ドリュウズは金属音を立てて倒れた。
「フン。そこそこはやるようだな! 仕事だ! フライゴン!」
……
こうしてレッドは2体、エリカは1体を失い、残ったポケモンはギリギリな状況という辛勝を収める。
「全く。本当、大したもんだ! 噂は嘘じゃなかったようだな」
「いえいえそれ程でも」
レッドは手を後ろにやって照れて見せる。
それが癪に障ったのか否か、ヤーコンは息を強めて
「フンッ! 持ってけ」
こうして二人は6つ目のバッジとなるクエイクバッジを手に入れた。
レッドとエリカがお辞儀をすると。
「ほう。バッジが6つか」
「そういえば……早いもんだな」
イッシュについて二週間。いつの間にバッジは8分の6。7割が埋まった計算になる。いつの間にやら旅の終わりも近づいているんだなあとレッドはしみじみと思う。
「バッジケースを見る限りだと……次はキツいぞ。ま、お前らにとっちゃ造作もない事かもしれないがな」
そう、次はヤナギと並ぶかそれ以上とも言われるジムリーダー、シャガである。 遂にヤナギ以来の強敵と対決するのかと思うとレッドは自然と身震いする。
「貴方。次のジムは確かソウリュウシティ……ですわよね?」
エリカは疑問の目線をヤーコンに向ける。
彼は静かに頷く。
「でしたら、次のフキヨセ、セッカと二つの街と間がありますわ。その間で鍛えればきっと勝てますわ!」
エリカはいつの間にかタウンマップが頭の中に入っているのかすらすらと言って見せる。
「……、セッカは確か、ハチクというジムリーダーが務めていた街だ」
ヤーコンは思い出したかのように二人に話す。
二人はヤーコンの発言に注目する。
「確かあいつは今、ポケウッドで役者をしてるらしいが……。一週間に一回ぐらいはセッカに戻るらしい。その時もしかすれば戦って貰えるかもしれんな。一度たたかったがあいつもかなりの手練れだ。良い訓練になるかもな」
「本当ですか?」
「嘘を言ってどうするんだ……。まあ、特徴的な姿をしてるから見りゃすぐに分かるだろう。着いたら探してみるのも手かもしれないな」
「貴重な情報感謝します!」
レッドはそういってヤーコンに礼をする。ハチクの姿は歩き方で見ているので街中を歩いていれば識別することは可能だ。
「……。そうだな。俺についてこい!」
ヤーコンはそう言ってリフトを上げ、ジムの外に出る。
道中、エリカがどこに行くのか尋ねるが、ヤーコンは良い所だとしか答えない。
疑問を抱いたまま、二人はヤーコンの後に続く。
―ホドモエシティ PWT―
ヤーコンはホドモエ南のゲートを抜けた場所。そこの、真ん中に位置する大きく目立つ建物の前で立ち止まった。
「わぁ……」
中々に立派な建物にレッドは思わず声を上げる。
「フフ、どうだ! 中々立派な建物だろ! PWT(ポケモンワールドトーナメント)の会場……そして」
「そして?」
エリカは次を促すが
「ま、それは後で教えよう。中に入れ」
中に入ると、チェレンが居た。
久々の再会に喜んでいるのも束の間、ヤーコンはPWTのトーナメントの一つ、ホドモエトーナメントについての説明をする。
ルールは特に制限はないが、レベルは25に抑えられるというなんともシンプルなものだ。
特に全員異論は無かったので全員受付を済ませ、トーナメントをした。
レッドにとって意外だったのは、トーナメントの参加者に何故かアクロマが居たことだ。
そして当然の如くレッドが優勝し(レッドとエリカは別々に受付をした)、三人は受付ゲートより出てくる。
すると、ヤーコンが話しかけてきた。
「お前ら! いい勝負だったぞ! これなら、各地の強豪たちが一気に集って更に盛り上がりを見せるだろう」
ヤーコンは嬉々とした顔で語る。
「だが、レッド! お前さんにはもっとここを盛り上げる使命があるぞ!」
「え? どうしてです?」
レッドが当惑気味の表情でヤーコンに尋ねると、彼は不敵な笑みを浮かべながら
「何を隠そう、ここはお前とあと一人……、ゴールドだったか? その二人がバッジを全て集めて、リーグを制し、ポケモンマスターになる資格を得たとき! ここが、その頂点を決める会場になる!」
「ええっ!?」
「天に二日なく、地に二王無しだ。頂きは一人でないと格好がつかんだろ?」
「た……確かに」
「という訳だ。二方両方の状況が揃ったらお前らのリーグの方から通達が来るだろう。その日を楽しみに待っとけ」
そういうとヤーコンは上機嫌な調子で立ち去っていく。
レッドとエリカもそれから少ししてPWTを出る。
―PWTの外―
丁度出るタイミングが一緒だったチェレンが二人に話しかける。
「お二人とも。もうバッジは6つほどですか」
「ええ」
レッドは当然と言わんばかりに悠々と答える。
「あと二つですけど、どうか気を抜かずに頑張ってください。そうそう、この前生徒たちにこの前の勝負の感想を……」
チェレンが話を続けようとすると、レッドエリカの背後を黒づくめの男が通り過ぎる。
何事か気になったのかレッドはすぐさま後を追おうとする。
すると、PWTよりアクロマが出てきて
「およしなさい! 火中の栗を拾うかの如き危険な事……、しなくてもよいではありませんか」
と三人に注意を喚起する。
「悪いんですけど、元同胞の方々に託されてしまったんでね! それじゃ」
レッドはアクロマにことわって、プラズマ団の後を追う。
残った二人もレッドの後に続く。
「全く……。危険なことに首を突っ込む……人、それを蛮勇というのに」
と、アクロマは溜息をつくがすぐにフッとほくそ笑みながら
「しかし……貴方が仰せになられた以上に面白い方々ですよ。我が同志オーキドよ……。これはすぐに伝えなければ」
アクロマはすっと前世代の携帯を取り出し、オーキドに電話するのだった……。
―桟橋―
二人の目の前には、見覚えのある帆船が係留されている。
「まさか……、これがプラズマ団のアジト?」
「貴方! この船は……ヒウンで見かけた帆船ですわ!」
エリカの発言でレッドはそのことを思い出す。
そう、サスケハナだのなんだのと叫んでいた帆船だ。
階段があったので、それに従って三人は駆け上がる。
―帆船内―
エリカは帆船の中に足を踏み入れると
「この帆船……。中はどうして金属の物ばかりなのです?」
と素朴な疑問を呈する。
「それに。古い船とかに擬装しようとしているけど……まさかそんな訳ないよね」
チェレンがそんなことを言うと、何十人ものプラズマ団がやってくる。
「どうでもいいだろ! 俺たちにボコられて、バスラオの餌食になるお前らには!」
一人の団員がそう叫ぶ。よく見るとカタカタ震えている。
「普段だったら逃げ帰る所だけど……。束になっていけばどうにかなる!」
そう言うと、団員は一斉にミルホッグやココロモリ等イッシュでの定番ポケモンを次々と出す。
勿論、ジムリーダーに伝説の夫婦二人だ。およそ10分で全て返り討ちにする。
「チィ……、何なんだこいつら」
「化けものよ……。化け物以外にどう言えっていうの!」
下っ端が負け犬の遠吠えに興じている中、レッドは
「フン、他愛もない……。さあボスを! ゲーチスを出せ! サカキを出せ! 決着をつけさせてもらう!」
「そうですね。僕は調べたいことがあるし」
下っ端たちの一部がたじろぎ始めると、紫色の服を着た男が前に出て言う。
「何事だ」
下っ端たちが道を空けた所を見ると、恐らく幹部クラスだろうとレッドは予測する。
「はあ……確か貴方は冷凍コンテナで寒さでカタカタ震えていた人ですね? 名前は……確かヴィオ! 勝者の権利で、この船で何をするつもりなのか洗いざらい教えてもらいましょうか!」
「……おのれぇ! 我々は今一度伝説のポケモンを覚醒させてイッシュ地方全土を従え、そして全国を手中にする! 伝説の夫婦だなんだと言うが、知ったことでは無い! 好き勝手させてなるものか!」
そういうと、ダークトリニティと呼ばれた白髪に黒い鉢巻を巻いた不気味な集団に全員船外へと連れ出される。
―桟橋―
気が付くと、三人はまた元の桟橋に居た。
帆船は、どこぞへと消え去っている。
「ダークトリニティ……忍者等を彷彿とさせる奇妙な方々ですわね」
「ダークトリニティは超人的な能力を持った、エリカさんの言うとおり忍者のような人たちです。それにしても伝説のポケモンを覚醒させるとか従えるとか……。イッシュにはもうそういうポケモンは居ないはずなのに」
「くっそ取り逃がしちまったか……。面倒な事になりそうだ」
三人はそれぞれの思惑を持ちながら桟橋に留まっているのだった……。
―ヒウンシティ 某ビル 地下室―
殺風景な広めの地下室。
そこに今日もまた一人の老人が入る。そう、オーキドである。
オーキドは黄色い髪の拘束された青年に話しかける。
「マツバ君。今日こそ、その千里眼を譲り渡してもらおうかの」
「何度言えば分かるんですか……。絶対に譲りません! いや譲ってはならないんです!」
マツバはあれから毎日、オーキドに千里眼を求められるが毎回断り続けている。
オーキドはそれに対し、色々説得を試みては帰る日を繰り返してはいたが、今日のオーキドは違う。
「マツバ君……。覚えているか、あまり強情に拒み続けるなら大切な人……、つまりエリカ君を傷つけてしまうかもしれんぞ。と」
「……。そんなこと出来るはずがない。レッド君がついている限り、攫う事すら敵わないというのに」
マツバは確信している表情で、そうオーキドに返す。
「ほう、ならばレッド君が離れれば如何かの?」
「そんな状況、有り得るはずが」
「有り得るんじゃよ。それが」
「……、はい?」
「今、タマムシジムで代理でリーダーをしているナツキ君がおるじゃろう?」
ナツキ……。マツバは定例会で代理として何回か顔を合わせた程度だが、頷く。
「ナツキ君は長く風邪をひいておってのう……。それでも無理しながらリーダーをやっておるのよ」
「……」
「だが、もしナツキ君に原因不明の病が襲い、執務不能になればエリカ君は戻らざるを得まい」
「!」
マツバはキッと面をあげる。
「タマムシジムは女人禁制……。レッド君とて挑戦では無いから入れない。だからイッシュに留まるじゃろう。その上、あの夫婦は今、ホドモエ……航空場のあるフキヨセに近い街におる。すぐに飛んでいく事が可能じゃのう」
マツバはそれを聞くと、拘束台が壊れるのではないかと思うぐらいの勢いでオーキドに詰め寄る。
「貴様! 一体……! どこまで」
「目的を達成するのに手段を選ばぬだけじゃ。マツバ君が千里眼を譲る為なら、ワシは修羅にでもなんにでもなるわい」
「……!!」
「よーく考えい。エリカ君は君の考え次第で救う事も……堕ちさせる事もできるのじゃから……」
そういってオーキドはマツバの元を去っていく……。
―ビル最上階―
「今回もダメだったそうだな」
サカキは、オーキドの表情を見ながらそう尋ねる。
「フ……じゃが砦は陥落寸前よ。今のマツバ君はわしにそんな事は出来ないと思っとるじゃろう……。だが、脅しではないことを証すれば、熟柿は落ちる」
オーキドはそう言うと静かに笑う。
「もう、あの夫婦はプラズマフリケードの正体に気付いたようだ……。事は早く進ませないと」
「うむ……」
オーキドはワイドガラスから目下のヒウン市街を眺めながらそう答えるのだった……。
レッドエリカはあれからチェレンと別れ、ホドモエのポケモンセンターに泊まる。
レッドはまたフウロとテレビ電話をし、フキヨセに行く旨を伝え喜ぶフウロの様子を見て電話を切った。
そして、雹と戦いながら5日かけてフキヨセシティに到着する。
その道中、二人は電気石の洞窟に通りががっていた。
―2月16日 午後2時 電気石の洞窟―
名前の通り、この洞窟には磁力によって浮遊している岩が数多くある。
理系のエリカにとってはなかなかたまらない光景のようで逐次観察していたが洞窟の中盤ぐらいで十分に堪能したのか、漸く止めた。
「中々神秘的な場所ですわね……。あら?」
「どうした?」
エリカは上にポケモンがいる事に気付いたようだ。
そのポケモンは鋼の皮膚を身に包み、緑の棘を護身用の為だろうか、何本もつけている。
「何でしょうか……、貴方、図鑑を」
「へいへい」
レッドのポケモン図鑑はイッシュのポケモンにも対応している。
ポケモン図鑑を開き、ポケモンに向けて、情報を確認する。
どうやらテッシードというポケモンらしい。
「ふむふむ……。それにしても中々可愛いですわ! 捕まえましょう」
「え? 確かに可愛いっちゃ可愛いけど……お前ああいうゴツいの好きだっけ?」
レッドは首をかしげて尋ねる。
「見た所鋼の雰囲気が致しますし……。これで対抗できるタイプが増えるというものです! では」
なるほど、やっぱりちゃんと考えてるのはジムリーダーらしいなあ……と感心するレッドであった。
その後エリカは、捕獲用に持っているナゾノクサとパラスを使って見事一回で捕まえたのだ。
そして2日後、およそ1か月弱ぶりにフキヨセに到着した。
―2月18日 フキヨセシティ―
「漸く、戻ってこれたな」
「うーん、改めて来ると本当、空気が澄んでて宜しいですわね……、あらお電話が」
エリカはライブキャスターのバイブに反応し、液晶を見る。
「ナツキさんから……? 今日は報告日でもないのにどうして」
疑問に思いながらエリカは電話に出る。
―十分後―
エリカは冷や汗をかきながら電話を切る。
「おいエリカ、どうした?」
「ナツキさんが……肺炎にかかってしまったそうです……! 急いでジムに戻らなければ!」
「え?」
―第五十六話 二つの伏魔殿 終―