伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚   作:OTZ

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第六十二話 東西相克す

―7月8日 午後3時 ポケモンリーグ ギーマの部屋―

 

 右上の入り口に入ると、赤い爪によって組まれた爪が開かれ、階段を上ると爪は閉じられる。刺されば間違いなく死ぬだろうなとレッドは思う。

 さて、奥のソファにゆったりと腰掛けていた黒いスーツに奇妙な翼の如くはねた髪の男が格好をつけたように地を蹴って立ち、前に出る。

 

「ここで決めるのは、どちらが相手の栄光を奪い自らをより燦然(さんぜん)と光り輝くか……。では誰がその判定を下すのか……それはこの四天王、ギーマだ。さあ、始めよう、勝った者には栄光と賛辞がとめどなく与えられ、敗けた者には何も残らない……、それこそが本当の勝負、生きていることを実感する勝負だ」

 

 うわあなんだこいつとレッドは内心思ったが、口には出さない。

 ギーマはドンカラスとヘルガー。レッドはラプラス、エリカはルンパッパを繰り出す。

 

「ルンパッパ、ドンカラスに寄生木の種です」

 

 ルンパッパはドンカラスに種を植え付けた。

 

「ドンカラス。ルンパッパに燕返し! ヘルガー、カメックスに雷のキバ」

 

 ドンカラスはルンパッパを燕の如くに斬りつけて、元の位置に帰る。

 致命傷を喰らったが、威力不足で倒れるには至らない。

 ヘルガーは電気を湛えたキバをカメックスに噛みつけたが、それほどの威力にはならなかった。

 

「カメックス! ヘルガーにハイドロポンプ!」

 

 カメックスのロケット砲筒から噴射された水流は、ヘルガーに直撃する。

 一撃で倒れる。

 

……

 

 こうしてレッドは一体。エリカは二体失い、残ったポケモンの体力は緑という凡

勝を収める。

 

「ベストを尽くそうと、それまでにどれほどの努力を尽くしていようと……、敗けは負け。それほどの差があってこそ、勝利と言う物は輝かしい価値を持つし、誰もが渇望する……。そう、今の君たち、凄く煌めいているよ。その輝きや力、どこまで通じるか試してみるといいよ」

 

 気障(きざ)な人物であるとレッドは思うのだった。

 その後、最後の四天王に挑むため、左の入り口にへと向かう。

 

―シキミの部屋―

 

 階段が無いので前に出てみると、一斉に燐火が現れ、階段が出る。

 それに従って階段を上がり切ると、電灯がかたかたと動く。そして、散乱していた本が積み重ねられて道が空ける。

 目の前にはどこかあどけなさが残る眼鏡をかけたショートヘアの女性が居た。

 

「『夜着の襟の天鵞絨(びろうど)の際立って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。性慾と悲哀と絶望とが(たちま)ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた』」

 

 エリカは当初、突然話し出したのでレッドと同じく戸惑っていた。しかし、彼女がそこまで言うと、

 

「"蒲団"ですわね!」

 

 と元気よく答える。無論、レッドには何のことか皆目見当がつかない。

 彼女はエリカの返答を聞くと感じ入ったような表情をしながら本を閉じる。

 

「流石ですね。これはあたしの書いている小説の参考にしようかと思っている本なんですけど……」

「小説をかいていらっしゃるのですか」

 

 エリカは興味深げに尋ねている。

 

「はい。まだどうしようかは固まり切っては居ないんですけど……。って、私情を話してもしょうがないです! さて、伝説のお二方。イッシュ四天王、ゴースト使いのシキミ。お相手いたします!」

 

 シキミはデスカーンとゲンガーを繰り出す。レッドはリザードン、エリカはナットレイを出した。

 

「リザードン、ゲンガーにエアスラッシュ」

 

 リザードンは空気の刃をゲンガーに当てるが、一撃では倒れない。

 が、相当なダメージを喰らったようで体力は黄色である。

 

「ナットレイ、デスカーンにアイアンヘッドです」

 

 ナットレイはデスカーンに自慢の鋼鉄頭を使った一撃を見舞う。

 金棺の金属音があたりに響いたが、あまり効いていない。

 

「ゲンガー! リザードンにシャドーボール! デスカーン、ナットレイに鬼火!」

 

 リザードンに一致技のシャドーボールは中々に効いた様子だが、三分の一程しかHPは減らない。デスカーンの放ったいくつもの浮遊せし火の玉はナットレイに悉く当たり、やけど状態になる。

 

「リザードン! ゲンガーに盛大に止めを刺すんだ! 大文字!」

「問題! 内大臣の下、中納言の上の官職なーんだ?」

 

 ゲンガーは少し考えたが

 

「中の上なんだから大納言に決まってんだろうが!」

 

 と悪態をつきながら答える。

 

「ピンポンピンポーン! 大正解! じゃあそんな君にはご褒美にこれをあげよう!」

 

 といいながら、ゲンガーに大文字を喰らわすのだった。

 レッドは最近これを心の中で『問大文字』と呼んでいる。

 

「うぅ……、ナットレイはどうやらあまり活躍できそうにありませんわ。戻りなさい、ナットレイ、おいでなさい! ラフレシア!」

 

……

 

 こうしてレッドは2匹、エリカも2匹失い、残ったポケモンのHPは黄色と辛勝を収める。

 

「言葉を失う……というのがありますが、本当に感動するとこうなってしまうんですね。貴方達、とってもグレートです!」

「いやー、それはどうも……」

 

 レッドの鼻下長(びかちょう)ぶりは相変わらずである。

 エリカはどうとも思ってなさげである。やはりヒオウギの約束を信じ続けているのだろうか。

 

「貴方達を題材にして小説を書いてみるのも面白いかもしれませんね……」

 

 とシキミはふと呟く。

 

「私で良ければお手伝いいたしますよ?」

 

 エリカは乗り気のようである。

 

「エリカさんのお力が頂ければ百人力ですね。もし機会があれば頑張って書いてみます!」

 

 シキミは万年筆を握りしめている。大きく意気込んでいるようだ。

 

「フフ……。楽しみにしておりますわ」

「とと……。本題に戻さなきゃ。ポケモンリーグは四天王全員に勝てば、チャンピオンに挑む事が出来ます。貴方達は今その資格を得ました! 真ん中にある像に触れてみてくださいね」

「何が起こるのですか?」

 

 エリカはシキミに尋ねる。

 

「それは触ってからのお楽しみです」

 

 彼女は含み笑いをして答える。

 二人は、四天王全てを撃破した為、広場に戻る。

 中央の像に触れてみると、像は反応して、けたたましく荘重な音を立てながら二人を地下へ(いざな)うかのように引き込んでいく。

 地下に着くと、前には階段がある。

 その階段はとんでもない段数で、上っていくのに結構な労を要した。

 登りきると、列柱廊が二人の目の前に迫る。

 そしてそのギリシアの神殿を彷彿とさせる建物に入る。

 

―チャンピオンの間―

 

 建物に入ると、石で作られた床の荘厳な雰囲気がする場が出迎える。

 奥には宇宙を描いたスクリーンがある。

 そして、床の真ん中にはヒウンの時ともソウリュウの時とも違う和服を洋風にアレンジしたかのような束帯を着たアイリスが居た。

 

「ようこそ! 挑戦者たち!」

 

 そう言うと前に出てくる。

 

「ねね! エリカおねーちゃん、あたしの和服どーかな?」

「織姫を思い出させますが……、当世にはあらざる御召し物ですこと……」

 

 エリカは愛想笑いのような表情を浮かべながら答える。

 レッドは少女性愛ではないので特に変な感情は持たない。

 

「褒められてるのかどうか分かんないけど……。まあいっか! ここに来たという事はシャガおじーちゃんを打ち破ったという事……。尚更あたしにとってはやり甲斐のある相手! ちょっと不安だけど、精いっぱい頑張る! じゃあ行くよ! イッシュリーグチャンピオン アイリス! 貴方達に勝ちます!」

 

 こうして、本当に最後のチャンピオン戦が幕を開ける。

 アイリスはサザンドラとボスゴドラを繰り出し、レッドはカメックス、エリカはユキノオーを出した。

 ユキノオーの雪降らしであたりはあられ状態になる。

 

「サザンドラ! ユキノオーに大文字!」

 

 サザンドラの放った火の玉は見事、ユキノオーに命中する。

 タイプが違うとはいえ、あのサザンドラでしかも4倍である。耐えきれるはずもなく火だるまになりながら倒れてしまう。

 

「流石はサザンドラ……。中々の名うてですわ。しかし、ユキノオーは十分に役目を果たしましたわ! 貴方」

 

 エリカはレッドを横目にして合図を取る。

 

「分かってる。カメックス! 吹雪だ! ユキノオーの仇を取れ!」

 

 カメックスは砲塔から大量の雪を出す。

 必中となった吹雪に二匹は逃れられる筈もなく、まともに喰らう。

 持たせていた命の球の甲斐あってか、サザンドラは一撃で地に堕ちた。

 ボスゴドラは平然としている。

 

「ボスゴドラ! カメックスに諸刃の頭突き!」

 

 ボスゴドラは猪突猛進といわんばかりにカメックスに突っ込む。

 一致技の大技はカメックスに相当堪え、一気にカメックスは弾き飛ばされたが、何とか体力を三分の一残して耐えきる。

 

「少し参りましたが……このポケモンでこの窮地を潜り抜けてみせますわ! おいでなさい、ナットレイ!」

 

 エリカに続いてアイリスは

 

「こっちも負けてはいられない! 行って、アーケオス!」

 

 アーケオスは雄たけびを上げながら華麗に一度宙返りして参上する。

 

「アーケオス! ナットレイにアクロバット!」

 

 アーケオスはジュエルを飲み込んだ後、ナットレイにアクロバティックな攻撃を決めようとする。

 

「させるか! カメックス、波乗りだ! 一網打尽にしてやれ!」

 

 カメックスは大きな波を作り出して、二匹に襲い掛かる。

 ナットレイは、アクロバティックの餌食になるがなんとか耐えきった。

 そして、カメックスの波乗りは激流の効果もあって絶大な威力を発揮し、二匹を一気に片づけた。

 

「ふむ……。相手が居なくなってしまいましたわ。ナットレイ、鉄壁です。守りを固めなさい」

 

 ナットレイは自らの体内にある原子の結束を強め、硬度をさらに高める。

 

「マダよ! マダマダ! あたしのポケモンたちはもっと頑張れるし、戦えるもん! 行って、オノノクス! ボーマンダ!」

 

……

 

 こうしてエリカは全滅。レッドは一体を残し、残ったラプラスのHPは赤とチャンピオン戦に相応しい辛勝を収める。

 

「ふわああ……。こんなに一生懸命戦ったのに……。負けっちゃったんだあたし達……。やっぱりシャガおじーちゃんを……、ううん、全国を渡り歩いてきたトレーナって凄い! 勝てなくて悔しいけど、ここまで凄いトレーナーと戦って分かり合えたんだからすっごく嬉しいよ!」

 

 アイリスはさっぱりとした表情でそう語る。

 

「お褒めに預かり光栄ですわ」

「いやー。ワタルさんと互角というのも頷けるわ……その実力は」

 

 レッドは頷きながらアイリスの力を褒めている。

 

「うん! じゃあ行きましょ!」

 

 こうして二人はイッシュの殿堂入りの儀を終え、アイリスおよび四天王全員に祝福されてポケモンリーグのポケセンにへと戻る。

 

―午後9時 ポケモンリーグ ポケモンセンター 107号室―

 

 レッドとエリカは今日の疲れをいやす為ポケモンリーグに居る。

 晩御飯を食べ、お互いに風呂も入って、二人は談笑していた。

 

「はーあ……」

 

 レッドは深く溜息をつく。

 エリカは心配そうな声で

 

「貴方、どうされたのですか?」

「いや。本当になんか全部終わっちまったんだな……って。だってバッジも全部手に入れて、リーグも制覇して……。よくよく考えたらすげえ事してるよな、俺たち」

「偉業を成し遂げたという一点においては首肯(しゅこう)せざるを得ませんが……。しかし、まだ全てを終えてはおりませんよ?」

 

 エリカがそういうと、見計らったかのようにレッドのライブキャスターが鳴り響く。

 レッドはすぐさま出る。

 

「はい、もしもし」

「やーやーレッド君! このたびは本当におめでとう!」

 

 この明るい声でレッドは相手がワタルだと分かった。

 

「ワタルさん……。そうです、俺たち本当に全国を制覇したんです!」

 

 レッドは嬉しそうに答える。

 

「うん。まさか本当にやってくれるとはね……。感嘆の限りだよ。で、確かそっちのリーダーのヤーコンさんから聞いていると思うんだけど……」

 

 レッドは特に思い当たらないので思わず聞き返す。

 

「え?」

「あれ、もしかして忘れちゃったかな? ほら、ゴールド君がイッシュリーグ突破したらPWTとかいう施設で戦うって」

 

 ワタルの説明で彼は漸く思いだして

 

「あーはいはい! ポケモンマスターを決める戦いとかなんとかって奴ですね」

「そうだよ。大事なんだから忘れられちゃ困るなー」

 

 ワタルは呆れた様な声を出す。が、その雰囲気はどこか明るい。

 

「すみません」

「宜しい。で、そのゴールド君の状況なんだけど……」

「はいはい」

 

 レッドは慎重に耳を傾ける。

 

「今、イッシュのジム全部制覇して、チャンピオンロード抜けている最中らしいよ」

「は……早い」

「ねー。僕も驚いたよ。ああ、驚いたと言えばエリカさん自転車乗れるようになったんだって?」

「はい? え、まあそうですけど、何で知ってるんですか?」

 

 レッドは思わず聞き返す。

 

「いやー。エリカ君がカントーに戻ってきてどうしたのかと思って、4月の定例会でエリカ君本人から聞いたんだけどね……。にしても乗る練習僕も手伝いたかったなー……」

 

 ワタルは終盤になると小さな声になっている。

 

「理事長が何言ってるんですか」

 

 レッドはすかさず突っ込む。

 

「うわっ! 聞こえてた?」

 

 ワタルは狼狽している様子である。

 

「ええ、ばっちりと。あのもしかしてワタルさん、エリカの事……」

「! そ、そんな訳ないだろ。つき合ってる人にそんな感情抱くわけ」

 

 ワタルの口調はまるで大根役者の如く棒読みである。

 

「恋愛に、状況なんか関係ないですよ」

 

 レッドは達観して、知ったふうな事を言う。

 

「……。レッド君もしかして旅して少し達者になったかい?」

「はは、そうですかねぇ?」

 

 レッドは照れ笑いしながら言う。

 

「ハァ……。まーそれはともかく、頑張りなよ! 僕的には同じ地方のレッド君の方を応援しているんだから!」

「そいつはどうも。そういえばワタルさんはPWTに来られるんですか?」

 

 レッドが尋ねると彼はすぐさま

 

「僕は無理だよ」

「ええっ!? マスター決める戦いにリーグのトップが出席しないって……」

「行きたいのは山々なんだけどね……。シロナ君の報告とかもあってロケット団がどうも怪しくてさ。それどころじゃないんだ」

 

 ワタルは真剣な声で言っている。

 

「プラズマ団とロケット団が結びついているのは知ってますけど……。それ以上の情報があったんですか?」

「……、混乱を招くから誰にも……まあエリカ君ぐらいならいいけど、言わないでよ。近々、本格的に動き出す可能性がある」

「ええ!?」

「あくまで可能性の話だよ! シロナ君がソウリュウシティの上空で妙な帆船を見て……、それでそこのジムリーダーのシャガって人の話を聞いた上での話。だから、もしもの事を考えていつでも号令できるように僕とシロナ君は内国に留まるのさ」

「なるほど……」

「まあ、君たちはそういう事はあまり考えずに……。精いっぱい夫婦生活を満喫して、ゴールド君に勝てるよう精進に勤しむことだね」

 

 その後も少し話をしてワタルとの通信を切る。

 エリカにも話をして、その日は寝るのだった。

 

 

―7月17日 午後3時 ホドモエシティ PWT 受付前―

 

 その後、ワタルの予測が当たったのか否か、一週間後にゴールドがイッシュリーグを制覇し、ワタルの指示を受けて二人はPWTに向かう。

 PWT内部は世紀の一戦を一目見んと何千人もの人でごった返し、会場では埋まり切らず、外のモニターまでも見れるかどうか危ういぐらいの人だかりができる。

 黒山の人だかりとはこの事である。

 さて、そんな状況なので受付前から普通の観客が入る事は出来ない。外の入り口から観客席に入るという寸法となっている。

 レッドとエリカは同時に戦わず、エリカはジムリーダーの立場を守りたいという理由で権利を放棄した。その為、レッドのみが戦う事になる。

 

「いよいよか……」

 

 レッドは受付ゲートを目の前にして固唾を飲みこむ。

 

「左様ですわね。皇国の興廃この一戦にアリ……ではないですが、貴方の突破すべき最後の関門。私は観客席から精いっぱい応援するぐらいしか出来ませんが……。ご武運をお祈りいたしますわ!」

 

 エリカは輝かしい笑顔をレッドに向ける。

 

「エリカ……」

 

 あまりに愛おしいので、レッドは抱きしめようと手を伸ばすが……

 

「レッドさあああん!」

 

 ゴールドが後ろから駆け寄ってきた。レッドはデジャヴに襲われたが気のせいだろうと思う事にする。

 

「……。よう、ゴールド」

「へへ……。セキエイリーグ以来ですね! お久しぶりですレッドさん! エリカさん!」

 

 ゴールドは礼儀正しく二人に最敬礼する。

 エリカが軽く会釈し返すと、ゴールドは頭を上げて

 

「僕も自分で言うのもアレですけど……。強くなったんです! 絶対にレッドさんに引けは取りませんから!」

 

 早速宣戦布告である。

 

「そうか。だからといって俺も負けるわけにはいかねえ。お前よりも三年長くトレーナーやってんだ。お前如きに引けは取らねえよ」

 

 とレッドは軽くゴールドをたしなめる。

 

「フフ……、そう言っていられるのも今のうちですよ! 僕は秘策を」

 

 ゴールドがレッドに挑発をしかけようとしていると後ろからハリセンが飛んできた。

 ハリセンは見事、ゴールドの頭に直撃する。

 

「痛っ! もう、いいところなのに……」

 

 ゴールドが後ろを振り向くとそこには……

 

「何回も呼んでるのに答えへんアンタが悪いんやっての!」

 

 レッドの耳には流暢なコガネ弁が耳に入る。

 

「アカネさん!?」

 

 ゴールドとエリカはほぼ同時に発声した。

 レッドもそれに少し遅れて続く。レッドもエリカもゴールドの話に集中していたのだ。

 

「まーまー、アカネさ……」

「ツクシもいい加減その他人行儀な呼び方やめんかい!」

 

 アカネは夫であるはずのツクシにもハリセンを叩きこむ。

 が、その力はどこかゴールドよりは弱かった。バチンではなくパチンという程度だ。

 

「痛い……」

 

 ツクシが頭を撫でていると、アカネはハリセンを下に向ける。

 

「ふう……。という訳で久しぶりやなー。皆!」

「お二人はどうしてここまで……」

 

 エリカが尋ねると、後ろから更に

 

「おいおい、僕を忘れては困るなあ」

 

 と、年齢の割に毛の量がアレな白衣の男がやってくる。

 

「ウツギ博士……!」

 

 ゴールドは驚きを隠せない様子だ。

 ウツギは三人の目の前で止まる。

 

「僕たちは、ゴールド君を応援しにイッシュの調査がてら研究所皆で応援しに来たんだ! ツクシ君は研究員だし、アカネさんはその妻だって事で」

「なるほど……」

 

 レッドとエリカは深く納得している。他の研究員等はどうやら一般観客の扱いのようである。

 

「は……博士。そんな悪いですよ、僕なんかの為に仕事を止めるなんて」

 

 ゴールドは少し声調を下げて言う。

 

「何言ってるんだ! ゴールド君にポケモンをあげたのは他ならない僕だ。そのポケモンとトレーナーが成長を積み重ねて、その成果が発揮される場所を見たがるなんて、研究者として当然の欲求じゃないか! ねえ、ツクシ君?」

「え? あ、そうですね。でも博士、出るときに柏木先輩に仕事全部押しつ」

「しーっ!」

 

 ウツギは半ば必死にツクシに口止めを要求した。

 

「……、ところでアカネさんお子さんはどちらに?」

 

 エリカはアカネに興味深げに尋ねる。

 

「トラコに見せたいのも山々なんやけどなー。ちとこういう戦いとか見させて泣き叫んだりして周りの客に迷惑かけたらたまらんわ。やから、PWT内部の託児所に預けとるんや」

「PWTにそんな場所があるんですか……。意外ですわ」

 

 エリカがそんな事を言っていると、後ろから

 

「ポケモンバトルは主婦だろうとサラリーマンだろうと誰でも見るからな! こういう場所も作らないといかんのだ」

「あ、ヤーコンさん!」

 

 レッドがヤーコンに気付く。

 

「ヤーコン? このオッサンの事?」

「アカネさん。失礼ですわよ」

「……。見慣れない連中が居ると思ったら、ゴールド繋がりの連中か?」

 

 ヤーコンはゴールドに目線を向ける。

 

「はい! みんな、ジョウトの人たちです」

 

 ゴールドは元気よく答える。

 

「そうか。ワシの名前はヤーコン! この街のジムリーダーでこの大会の主催者だ。お前らは?」

「ワカバタウンのウツギです。ポケモン博士を職業としております」

 

 ウツギは恭しく言う。

 

「同じく、博士の研究所の助手であるツクシです。元ジムリーダーでアカネの妻です」

 

 アカネは初めて呼び捨てで呼んで貰えたのか少し嬉しそうになりながら

 

「コガネシティのアカネというもんです! ジムリーダーをやっとりますー」

 

 と、言いなれたかのような敬語を話す。意外にも人生経験を積んでいるのかもしれないとレッドはふと思った。

 

「そうか。ジョウトの連中とはあまり縁が無いが……。ま、販路拡大にはいいかもしれんな。特にコガネという街は商業繁華の街と聞くが」

 

 ヤーコンはアカネに視線を向ける。

 

「さいです! コガネという街はそれこそ15世紀後半の頃より、その原型の堺いう街が栄えとりましてな! それはそれは要塞かー思うほどにあきんど達が堀をつくうたりして都市を形成しとりましたわ。信長さんが堺を埋め立てるまではまるで一つの都市国家みたいにやっとりましたんで……」

 

 その後、アカネは自らの知識を活かして10分ほどコガネの成り立ちを説明していた。講談風の口調でヤーコンは興味深く聞いていた。

 

「ほう! コガネという街は中々に商売のし甲斐がありそうだな。今度機会があれば取引させてもらおうじゃないか」

「ほんまですか! ほならまずコガネ百貨店いう所を当たうてみて下さぃ。ごっつええものが手に入るで!」

「そうかそうか……。アカネといったか。中々に面白そうだ、気に入ったぞ。コガネに行った際は是非とも仲介役に頼んだ」

 

 ヤーコンは笑いながら言う。

 

「おおきに! そちらさんからもよい手土産、期待してまんねんよ!」

「ハハハ、分かった分かった。じゃあなお前ら! ワシは一足早く会場に行ってくる! 二人とも気張れよ!」

 

 ヤーコンは上機嫌に立ち去って行った。

 ほかに居た人は、アカネの饒舌ぶりに呆気にとられていた。

 

「ふう! これでコガネもまた繁盛するでー! 嬉しいこっちゃ!」

 

 アカネもまた上機嫌な様子である。大きな取引が成立したかのように気持ち良さげに背伸びをしている。

 

「あの、アカネさん?」

 

 エリカが尋ねる。

 

「何や?」

「もしかして商家に勤めた経験でもおありですか?」

「まー、まだ小っちゃいころにな。ちと奉公してただけや!」

 

 ちょっと奉公しただけでここまでの商談が出来るのか……コガネ人畏るべしとレッドはアカネを見直すのであった。

 

 その後、レッドはジョウト勢とエリカと別れ、ゴールドと共に受付に入る。

 

―PWT 受付前―

 

 ツクシとアカネ、ウツギが観客席(挑戦者・リーグ関係者専用席)に入った後、受付前には新たなる客人が来ていた。

 エリカは観客席に入る前にトイレをすましていた。

 トイレの後、観客席に向かおうと受付を横切ろうとすると、エリカはナツメに出くわす。

 

「あらエリカ。久しぶりね」

「ナツメさん!? どうしてここに?」

 

 エリカは驚きながらナツメを見る。

 

「い、いや、ポケウッドで映画を見た後なんだか面白そうなのやるとか言ってたから、ちょっと見に行こうかしらって思ってね」

 

 ナツメは少し焦り気味の様子である。

 

「どうして焦っていらっしゃるのか分かりませんが……。奇遇ですわね! 一緒に観戦しましょう! 夫の雄姿を共に見届けましょう!」

 

 エリカは本当にうれしそうな様子だ。

 

「レッドね……。そうね、じゃ、行きましょうか」

 

 ナツメは意味深長そうにレッドの名を呟くとエリカの先導を切って行くのだった……。

 

―午後4時 PWT バトルフィールド―

 

 挑戦者の紹介、進行が終わり、ゴールドとレッドは相対する。

 熱狂的な雰囲気の中、ゴールドが言い始める。

 

「凄い歓声ですね……。これだけ多くの人に見られているなか、戦うのは少し緊張するけど、レッドさん! 貴方に僕の本気、受けてもらって……世界最強の称号、貰い受けます……!」

 

 その後、少し間を置いて、レッドは帽子を目深に被りながら言う。

 

「望むところだ……。かかってこいゴールド! お前の本気を俺にぶつけるなら……、その気を何倍にも返して圧勝してやるよ! いざ!」

「尋常に!」

「勝負!!」

 

 二人の声は観衆の声に負けることなく、大きく、そして強く、PWTの会場に響き渡るのだった……。

 

 こうして、レッド、ゴールド、互いの名誉を沽券をかけた大勝負が始まる。

 

―第六十二話 東西相克す 終―

 

 

 

 

 

 

 




次回から本当に本当の最終章、結末編です。
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