朝。
今日もラッパが鳴り響き、私たちは今日の支度を始める。
今日も昨日と同じように、ベッドから体を起こし、寝巻きを脱ぐ。下着を着けて制服に袖を通しスカーフを巻く。布団をたたんで指差し確認…………。
昨日も今日と同じ。一昨日は昨日と同じ。一週間前も一ヶ月まえも、どれくらい前かも覚えていない着任した日から、ずっと同じ日々を消耗している。そして、この後も、昨日と同じ『昨日とは違う』ことが起こる。
「おはようございます! 古鷹さん!」
「おはよう、青葉。」
青葉、重巡洋艦娘青葉、古鷹型重巡洋艦娘3番艦、私の姉妹艦、私の大切な妹艦。いつも必ず、私が支度を終えた後に目を覚ます。
今日は機嫌がいい。昨日は夢が見れなかったと落ち込んでいたが、今日はちゃんと夢が見れたようだ。もみあげに寝癖がついている。昨日は後ろ髪で、五日前は反対側のもみあげだった。寝巻きを左足から脱ぐのは彼女の癖だ。ブラは白地に黒のリボン、ショーツは淡い黄色で、上下が合わないのは四日ぶり、この組み合わせは初めてだ。下腹が心なしかぽっこりしている。便秘だろうか、心配だ。4日連続でパンツから、しかも昨日はソックスと一緒にずり上げる荒技を使っていたのに、今日は上着から着ている。……今日はソックスから履いて、後でパンツを履くようだ。最後に髪を結わえるのだが……。
「古鷹さん、お願いできますか?」
き、きたっ!
「良いよ、青葉。」
この胸のツービートを悟られないように、私は彼女の後ろに回った。実に六日ぶりの、『髪を結わえて』おねだりである。
青葉はいつもの日常をささやかに、だけどとても密に彩ってくれる。昨日も一昨日も違う行動、違う感情、違うエネルギーを全方位に叩きつける。その、多数のペンキをぶちまけるがごとき所業によって、私のすべては、様々な『青葉色』に染まってしまっていた。
「ありがとうございますっ!」
青葉が声を上げると、ひょこひょこと髪が揺れて、私の前から逃げていく。名残り惜しさ半分、髪の残り香に陶酔半分で、毛束を目で追っていた。
青葉が振り返る。
「サア、古鷹さん、朝ご飯に行きましょう!」
天使かな?「うん、行こう。」
私は青葉の後ろにぴったりと付き添い、髪から分泌されたアオバニウムを摂取し続けながら食堂へ向かった。
「古鷹さん、今日はパンですって!」
「珍しいね、今日は何かあった日だっけ?」
配給の列に並んで駄弁っていると、私達の会話を聞いていたのだろう、前にいた戦艦娘が振り向いた。
「よく分からないけど、提督の希望らしいわよ。今日は何か伝えたいことがあるから、話を聞く片手間に食べれるものを所望したって噂よ。」
「なるほど、今、本土主要基地で試験されている、パワー・ブレックファストというやつですね。」と青葉が頷く。
お盆を手に取った私は、パック詰めされたジャムとマーガリンを盆に載せた。
「効果大なり、って判断されたら、毎日やるのかな。」
「どうなんでしょ? 司令官、新しい装備なんかには懐疑的ですし。」
私の疑問を聞くと、青葉の前の戦艦娘は肩をすくめた。
「それがね、作戦や規範改定がどうのってわけではなくって、ただ提督の独断らしいのよ。最近の提督、可笑しいったらないわ。」
「そうなんですね。」どうでもいい。青葉を悲しませない限りあの珍宝がどこで裸踊りして捕まろうと関係ない。ああ、でもマイスウィートエンジェル青葉の事だから、あんな人妻持ちの冴えない男でも心配してしまうのだろう。さすが大天使。「どんな事を言うんだろうね、青葉?」
「さあ……?」
青葉は可愛らしく小首を傾げた。青葉のトレーには、マーガリン、それと、三種類のジャムが載っていた。
「あ、こら、青葉、ジャムは一人一つだよ?」
私は怒ったような顔を青葉に向けた。青葉を叱るなんておこがましいとは思うが、それで青葉が怒られないのなら、私は甘んじてその道化役をする所存である。
「あぅ……古鷹さん、見逃してくださいっ。今日の炒り卵、あげますからっ。」
やっぱ今のなし。「もう、しょうがないなぁ。」
やはり青葉には敵わない。地獄の閻魔だろうが審判を告げる天使だろうが、ギンバイに目を光らせる食堂のおばちゃんだろうが、青葉が白と言ったなら、誰であっても白と言うべきなのだ。
長蛇の列を進み、配給物を全て受け取ると、私達は二人で座れる席を探して座る。
「ウフフッ、一度やってみたかったんですよっ、ジャムの食べ比べ!」
手を擦り合わせて舌舐めずりする青葉は、スープを一口含んでから、いただきますっ、と元気に挨拶した。
「本島のパン屋さんとかで、出来そうじゃない?」
「ちっちっちっ。鎮守府の外じゃあ、ばくばく食べられないじゃないですかっ。」
快活な笑みを浮かべながら、青葉はジャムの蓋を剥がす。ロールパンを二つに割って、真っ赤な甘味をそれに載せる。
「いただきまー……って、さっき言ってましたねっ。あむっ!」
歯並びの良い口を大きく使って洋麩を齧ると、たっぷりつけたジャムが口角から溢れ、青葉の口元を彩る。彼女は何も気づかずに、下からの刺激に目を煌めかせた。
「あまーい! とっても甘くて美味しいですよ!」
テーブルの下の足をパタパタ動かしながら、青葉は残りのパンを口に投げ込む。
「さあてお次は……。」
「ああ、待って。」
ジャムを口につけたまま、美味しそうに咀嚼する青葉の姿は事案一歩手前ものである。もっと愛でていたいが、他の艦娘たちから指摘されると、彼女も恥ずかしいだろう。
「口についてるよ?」
大変口惜しく思うが、私は青葉に指摘してあげた。
「えっ、どこですか?」
反射的に彼女は袖で拭うも、見当違いの場所にあたり、彼女の頬の上に、赤いゲルが引き伸ばされた。赤色の半透明が薄いベールのように青葉の絹肌を覆い、隠しながらも赤が煽情的に見せつけてくる。赤い色素が彼女のシェルピンクの唇に繋がっていた。一目で甘酸っぱい果実から作られたとわかるそれは青葉が内包する瑞々しい感性を透かして見せるようで、それでいてジャム本体の色、女豹のように真相を逃している。また、半透明のゼリーで色の変わって見える角質が、下品一歩手前の艶やかさを持って心を揺さぶってくる。
私は生唾を飲み込んだ。わたしの中の爬虫類脳が声高に叫んでいる。三大欲求を満たせ、腹が減っては戦ができぬ、疼きを収めなければ手が震えるぞ。と。
「古鷹さん、とれましたか?」
心の内を隠すため、私は親指で彼女の頬を拭い取る。
「もう青葉ったら。」
なんて、微笑みながら。
消灯時間。
一日二十四時間勤務を基本とする我ら軍属にとって、夜勤警備に務める者以外に、ささやかな安らぎを与える時間。
「……。」私が目を開けると、ぼんやりと二段ベッドの天井が照らされる。古鷹型の体を持って、いまこれ以上にこの光る瞳を嬉しく思ったことはない。時計を見上げると、まだ消灯からそんなに経過していない。
木製のベッドを軋ませないよう、静かに布団からすり抜けた私は、抜き足差し足で冷蔵庫に向かった。
バカッ。構造上どうしても音が出る冷蔵庫を開けた後、私はその場で耳をそばだてた。青葉は規則正しく寝息を立てている。
私は安心して冷蔵庫の扉を開けた。青葉はいらないからと言って使わず、ほぼ私が専有している。冷気がひんやりと首筋に当たって、高揚した私の心を少しばかり落ち着かせてくれた。そして、暖色の灯りの中から、スプーンが突っ込まれたまんまの、中身が使いかけの大き目の瓶を取り出して、さらに同じような瓶を二つ取り出した。
硝子瓶の中身は、果実を砂糖で煮つめた……そう、ジャムだ。スプーンがあるのが苺、未開封の物がブルーベリーとマーマレードだ。瓶を小脇に抱えた私は、ゆっくりと青葉のベッドに忍び寄った。
「青葉……。」
彼女に呼びかけるが、何も反応を示さない。青葉は緊急時の警戒ベル以外、一度寝てしまえば、朝まで目を覚まさない。そう、何をしても。
薄いタオルケットを慎重に捲り、寝間着のボタンを外していく。夜食に本島の街で買ってきたハンバーガーの包みを、誰にも見られないように開いていくような、そんな興奮と背徳感に私は一人で震えていた。
「ふう……ふう……。」
全てのボタンをとって前をはだけさせると、何もつけけていない、日焼けを知らない柔肌が、私の眼の光で照らし出された。
ベッドの縁に開いてない瓶を置き、私は木のスプーンを引っこ抜くと、青葉のお臍の部分にジャムを塗りたくった。
これからやる行為の悍ましさは自分で理解できている。尋常ではない。恥ずべき、と、いうのを通り越し、常識の届かない行動だ。これが彼女や第三者に露見したら、青葉は私に失望するだろうし、他の姉妹艦は私を蔑むだろう。だけど、止められない。
「ごめんなさい、いただきます、青葉————。」
懺悔ののち、深呼吸を一つしてから、私は青葉の臍に顔を近づけて、彼女が壊れないようにそっと舌を伸ばした。舌先に触れた瞬間、
「——————ッ。」
舌から足先まで電撃が走る。そのひゆのとおり、私は背を仰け反らせた。
「あ、あえ……あえ……。」
舌が痺れてうまく喋れない。目の前が真っ白で何も見えない。意識と無意識が曖昧になっていく………………
ハッとして目の前に闇夜がもどり、時計を見ると、もう三十分は経っていた。衝撃に近い刺激で、味蕾がまだ痺れている。まさかここまで強くキクとは、思いもよらないことだった。だが、また味わいたい。衝動がむくむくと音を立てて沸き立つ。まるで、全身の血管に強炭酸のラムネが流れるような、狂おしい刺激が欲しい。脳内議会は満場一致。再び私は青葉の腹部に飛びついた。
「はむっ、んっ、んぇろ……あえ……ちゅっ。」
ジャムの味が味蕾を刺激し、舌先が青葉の柔肌に届くと、少し厚めの皮下脂肪と、その下の腹直筋の二層がふにょんと押し返してくる。外はもちもち、中はがっしりとした彼女の質感がたまらない。臍に舌先を入れると、冷たいジャムの感覚の後に狂おしいほど優しい温かさが伝わってきて、まるで、私の舌が臍の緒になって、青葉と繋がっているような安心感を覚えた。
(ああ、私、青葉のお母さんに……なっちゃった……ごめんね、こんなお母さんでごめんね、青葉。でも、青葉が可愛くて格好良いからっ。ごめんね、青葉、ごめんね!)
青葉の皮膚を舐めしゃぶるたび、私の舌と口は水分量の多い音をだす。ジャムの味がなくなってもそれはしばらく続いた。荒い息で青葉から身体を離すと、彼女のふに腹は私の唾液とジャムの残滓でべとべとだった。天使を汚す背徳感に身を震わせながら、私は枕元の瓶をまた手に取った。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、ジャムを掻き回しながら青葉の身体を眼でまさぐる。
「…………。」なかなか次のポイントが決まらない。パジャマで隠れているからだろうか。
(ぬ、脱がしちゃっても、良いよね? 寝てるし、良いよね?)
もう、人としておかしな事はしているのだから、存分にやれば良いだろうと、私の爬虫類脳が突っ込みをいれる。それもそうかと開き直って、一旦ジャムを置いた私は青葉の前ボタンを開けていった。
二人の息遣いとぷちぷちとボタンを外す音だけが部屋に響く。本島の街で買ったケーキの箱を開けるような期待を胸に、私は彼女を包む物をすべてはだけさせた。毎日潮風に当たっているはずの青葉の肌は、闇夜の中にうっすらと浮かび上がるほどの艶やかなキメを保っていた。そして、寝巻きをはだけさせて写る、その胸部。
「ッ!」
私はベッドからジャムの瓶をかっさらうと、衝動的に内容物を青葉にぶちまけた。一も二もなく、私はそこにしゃぶりつく。青葉の乳腺が多い乳房……ではなく、肋骨と腹肉の境に。
「んぢ、ちゅぱっ、あぐっ、ん、んれろ、うんんれろっ!」
脳内の全てが爬虫類脳に支配された感覚。食欲とも性欲とも、闘争本能ともつかない電圧が筋肉を暴れさせる。
あるときは腹肉から肋骨を舌で強く押し付けて舐めねぶり、ある時は骨の端を唇で食み、ジャムを足しては上の方まで延ばして乳房とからだの境に吸い付いた。もう止まらない。マーマレードを開封して、鎖骨と僧帽筋の間に塗る。ブルーベリージャムを閉めた腋の凹凸に馴染ませる。肘の裏にジャムをのせる。頬に。胸の谷間と胸骨の合間に。膝の上に。脇腹に。腿の付け根に。足の甲に。指の間に。
塗る場所がなくなって私はようやくジャムの瓶を投げ捨てた。
「青葉……ごめんね…………っ。」
それからは、顔中がベタベタになるほど、青葉の身体を舐めしゃぶり、ジャムを舌で伸ばしていった。舌と唇から、青葉の身体の形が脳髄に染み込んでくる。どこも同じ感触はなく、全てが完璧な舌触りで、ジャムの味をいかさず殺さない、完璧で、なおも延び白がありそうな、不思議な奥行きを感じさせる魅惑の代物だった。
「はあーっ、はぁーっ、んくっ、青葉……。」
窓の外がどん深に暗い。朝がもうすぐそこまで来ているのだ。
瓶は二つが空になり、苺ジャムが一掬い程残るのみとなった。最後に、もう一度どこかを堪能しようかと思って、青葉の身体を見回す、と。
まだ、あったのだ。私の舌で穢れていないところが。私の中に尽きたと思っていた理性の欠片が、そこを視界から消し去っていたのだ。
頬に吸い付いた。鼻の頭を舐めた。だけど、そこは触れはしなかった。
腿の付け根に顔を埋めた。臍に下を這わせた。だが、そこに触れる勇気がなかった。
神域とも呼べる場所。青葉の唇と、じょ、じょせ……
「………!!!!」
コード・レッド! コード・レッド!
どうする古鷹。唇はまだ良い、しかしそこを舐めるなんて、なんて、もうそれはセックスじゃないか、性行為じゃないか! そんなことしてはいけない。青葉は純でなければならないのだ。身体中さんざんに汚したからって、そんなこと……。しかも、残ったジャムは、苺……苺!? 赤いゲル状物質を青葉の唇と大事なところに塗る!? チェリーボーイならぬベリーガール?! 暗喩! なにかを暗喩させる表現だ! 文学者、文学者を呼べ!
私の脳内は荒れに荒れ、解散総選挙一歩手前まで差し掛かった。
「…………青葉、こんなとき、どうしたら良いんだろう……。」
当然、答えは返ってこない。
当然、時間も待ってはくれない。
米
朝。
今日もラッパが鳴り響き、私たちは今日も支度を始める。
「おはようございます! 古鷹さん。……くへぇ。」
「おはよう、青葉。どうしたの?」
「青葉昨日の夜、寝ながらパジャマ脱いでたみたいで……。」
「――――昨日は、暑かったもんね。」
「そのようです……うわぁ、汗でベタベタしてる…………。」
「……体、拭いてから食堂行こうか?」
「そうしますぅ。あっ、古鷹さん、先に行って、席を取っておいてもらっても良いですか?」
「……うん、いいよ。じゃあ、先に行くね。」
「はーいっ。…………うわわわわ、腋もベタベタ……あれっ、背中はなんとも……? んんっ、股下の方もさらさらしてる……なんでだろ?」
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ありがとうございます。
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拗らせ鷹さんはへたれ鷹さん。
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あなたの考えた拗らせ鷹さんを送ってみよう!特になにも起きないかもしれませんし、なにか起きるかもしれません。
7.12
青葉のことを古鷹型二番艦と表記していました。正しくは三番艦(青葉型1番艦)です。