抜けるような青空。見渡す限りに広がる草原。暖かさは肌に心地よく、風は優しく頬をなでる。倒れこんでいる地面は柔らかく、草の命を感じさせてくれる。
その場にいる人間は二人。一人はこの俺、平賀才人。
そして、もう一人は桃色がかったブロンドの髪に透き通るような白い肌をしているかわいい女の子。目は鳶色でなんというか、ガイジンである。
そんな女の子の名前はというと――――
□
俺は東京に住む、別にこれといって何も特別でもない男だ。とはいってもそんなことはある意味当然。というか普通だろう。それこそ、特別な人間は本当に
でも、そんな俺だって人並みに恋はしてみたかった。だからこそ、俺は出会い系に登録してみた。だというのに、俺のノートパソコンは壊れてしまい、修理に行かなくてはならなかった。
しかし! 今日、やっとノートパソコンは帰ってくる!
俺ははやる気持ちを抑えつつ、アキバの町へと繰り出し、手際よく電気屋へと赴き、パソコンを受け取った。
後は帰ってメールを確認するだけ。
そう思いながらも、パソコンを落としたりしないように走ることなく、早歩きで家へ向かう。
そんな俺の前に何かが現れた。
まるで――光る鏡。高さは二メートルほどで幅は一メートルほどの楕円形をしている。周りの住宅街と合わさり、場違いな雰囲気を作り出している。
一体、何なのか不思議に思いながらも後ろを見てみようと回り込む。
だが、その物体の横を通ったとき、ぎょっとした。
厚みが、ない。
まるでその物体は紙のようにまるで厚みというものがなかったのだ。
正直、こんなもの普通じゃないと思った。
でも、それでも少なからず興味をそそらされた。いや、正直に言おう。俺はこの物体に興味津々だった。
もともと、刺激がほしくて出会い系に登録したぐらいだ。
俺はまずその物体に向かって、持っていた家の鍵を当ててみることにした。
俺の家の鍵は鏡に当たると、なんの抵抗もなく、中に入った。
若干の声を漏らして驚きながらも、鍵を引き抜く。鍵は別に何もついていないし、変わったところはなかった。
次に足元に落ちていた石を投げてみる。
軽く、池に投げ入れるかのように。
当然のように石は鏡の反対側へと突き抜けていくと思った。
なのに。
石は鏡に入ったまま、出てくることはない。
俺はまたもや驚いてしまった。
もしかしたら、俺の勘違いかもしれない。気づかないうちに反対側へ抜けたのかもしれない。
そう思い、俺は急いで石を集めた。幸いにも近くには石の敷き詰められている玄関がある家があった。
さっき投げ入れた時よりも分かりやすいように大きな石を、勘違いしたのかどうかをはっきりさせるために多くを集める。
手のひらに収まらなかったので、服のすそに石を入れる。
そして、準備は整った。
まずは本当に石が出て行っていないのかの確認だ。
俺は鏡の横に移動する。そして、目が両方を見れる位置にあることを確認しつつ、石を投げた。
一個目。出てこなかった。二個目。やっぱり出てこない。三個目。それでも出てこない。
さすがに投げた石の数が十個を超えたあたりから出てこないのを認めた。
でも、まだやることはある。
次に俺は鏡の正面に向かった。無論、石は手の中にスタンバイされている。
俺は石を手の中で握り締める。気分は甲子園の投手。ここでアウトを取れば勝ちが決まる。そんなことを思いながら、足を振り上げ、思い切り投げた。
石は俺の予想を越える勢いで鏡にぶつかり、とぷんと沈んでいった。
急いで反対側へ回り込んでみたが、そこにはやっぱり何もなかった。
そこで、もう一度投げ込んだ。
何度も何度も。石がなくなるまで。二十をあと少しで越えるところで石がなくなってしまった。
なんとなく、気分が悪いのでまた石を探してくる。
そして、また投げる。
何度も繰り返しているうちに、俺はうっすらと汗をかいていた。
ずいぶんといい汗をかいた。
額についた汗を手でふきながらも思う。
そして、今度は鏡に向かって自分の手を入れてみることにした。
あれだけ実験したのに何も起こらなかったんだ。きっと大丈夫。そんな思惑があったのだが、俺の手は鏡に入った後、全く抜けない。
むしろ、どんどん引き込まれていく。手が完全に飲み込まれると腕が。そして、とうとう完全に飲み込まれた、と思った瞬間。強烈なショックが俺を襲った。
まるで、昔に母が買ってきた頭が良くなる装置に電流を流された時と似ているな、そんなどうでもいいことを考えながらも俺は意識を失った。
目を覚ますと周りには多くのガイジンがいた。
学校の制服を着ているようで、みんな同じ格好をしている。黒いマントを着ており、異様な光景だった。
草原の向こうには石造りの大きな城が見える。
まるで、ファンタジーだ。
俺がそう思い、呆然としている中で目の前の女の子に気がついた。
桃色がかったブロンドの髪。透き通るような白い肌。鳶色の目。そして、本当にかわいいと思わせる顔つき。
あまりにも見たことのない、というか見ることがめったにできなさそうな顔だった。
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」
「……」
呼びかけられた女の子――ルイズは困惑しているようで何も言葉を返さない。
「いっつもそうやって失敗しているよな」
「さすがはゼロのルイズだ!」
周りの人がそんなことを言って笑う。
さすがにその様子は耐えられなかったのだろうか。
ルイズは体を震わせ、怒りを耐えているようだった。
「さあ、コントラクト・サーヴァントをしなさい」
そんなルイズの前にずいぶんと頭のさびしい男が近寄ってきた。
「え、い、いや。でも……」
「伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。何度も失敗をしたんだ。早くしなさい」
「……」
ルイズは少しうなだれる。
「……ことなの?」
小さく何かを呟いていたが、頭のさびしい男に言われ、言葉をつむぎ始めた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力をつかさどるペンタゴン。この者に祝福を与えたまえ、我の使い魔となせ」
すっと、杖を俺の額に置いた。
そしてゆっくりと唇を近づけてくる。
「な、なにをする」
「いいからじっとしてなさい」
そんな言葉を最後に俺とルイズの唇は合わさった。
――かと思うと、すぐに離れた。
「終わりました」
「『サモン・サーヴァント』は何度も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
男はうれしそうに言う。そして、
「さあ、次の授業がおしている。早く戻るんだ」
そんなことを言い、生徒たちを解散させる。
生徒たちは何かを言いたそうにしていたが、何も言わずに飛んでいった。
その様子に驚かされたが、すぐにそんなことはどうでも良くなった。
すさまじい熱さが俺の体を襲ったのだ。
「ぐあ! ぐぁああああああ!」
俺は思わず立ち上がった。
「熱い!」
「だ、大丈夫……?」
「大丈夫なわけねえだろ!」
熱さのせいでつい乱暴な口調になってしまう俺。そんな様子を見て、おろおろとするルイズ。
それからしばらくすると熱さはようやく収まった。
「いったい、なんだったんだ……?」
「たぶん、『コントラクト・サーヴァント』のせいだと思う」
「なんでそんなものを……」
俺はそのままルイズを糾弾するため声を大きくしようとしたが、
「ごめんなさい……」
小さな声で謝るルイズを見て気がうせた。
そして、そのまましばらくの間、何も言わないでいる。
一体、何分がたったのだろうか。
ルイズが俺のほうを向いた。
「あなたって誰?」
当然だろう。俺だって少女のことをよく知らないのだ。ルイズが俺のことを知っているわけがない。
「俺は――」
「それともう一つ聞きたいことがあるのよ」
「なんだ」
「ここってどこ? 私って何をしていたの?」
よく見てみると、少女の頭は何かが当たったかのように膨らんでおり、周りには石がいくつも転がっていた。