彼は使い魔?   作:ヒタク

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第4話

 俺が召喚されてからだいぶ時が経ち、陽が落ちた空。赤の色から黒の色を濃くしたそれを眺める。そこには月が二つ浮かんでいた。

 いつもの俺ならありえないなんて言いながら、驚き騒ぐのかもしれない。

 しかし、今俺には思うことがあるのだ。

 腹が減ったなあ、と。

「それでキュルケはどうするのよ」

 ……分かっているさ。所詮、これが現実逃避なんだってことぐらい。

 ルイズが聞いてきた言葉に一つため息をついた。

 噂の人物であるその人、キュルケはルイズのベッドでのほほんとしていた。

「いや、少しは慌てろよ」

 思わず、言葉が口をついて出る。

「そう言われてもねえ……」

 なんだかお茶があれば、すすっているんじゃないか、そんな様子だ。実に落ち着いている。

 キュルケの様子が気に食わないのだろうか。若干、ルイズの眉が吊り上った。

「つまんない」

「つまんないってお前……」

 キュルケがこうなったのはルイズのせいだろうに。あまりの理不尽な物言いに俺が呆れているとルイズが言葉を続ける。

「だって、キュルケがこのままだと私の記憶が取り戻せそうにないじゃない」

 もしかすると、今までに変な行動をしてきたが、それは記憶を取り戻すためにキュルケに行動を促すためだったのかもしれない。

 ルイズが手の中で杖をいじる。

 そういえば、今更ながらに思うが、ルイズっていわゆる魔法使いなんだろうか。

「えいっ」

 ルイズがごにょごにょと何か呟いたかと思うといきなり窓の外に向かって杖をふるった。

 唐突に爆音がとどろいた。

「は?」

 驚きのあまり口が開いたまま閉じない。

 そんな俺の前でルイズがにやりと笑った。キュルケを見ながら。

「ル、ルイズ、お前……。もしかしなくても……」

「面白そうだわ」

 その言葉を聞くとすぐに、俺は問答無用でルイズの杖を奪った。

「ちょ、何するのよ!?」

「今、お前に杖を持たせていたら、危ないにもほどがあるだろ!」

「二人とも落ち着きなさいな」

 俺たちの争いを見ているだけだったキュルケが声をかけた。

 いつの間にか、キュルケはベッドのそばにきていたトカゲ――キュルケ曰く、サラマンダーという種族らしい――を撫でながら、こちらに目を向ける。

「今、二人で争っても何も意味がないわよ」

「いや、争っている内容はキュルケに関係しているんだけどな」

「もっと建設的なことを話しあった方がいいわ」

「建設的なことってなによ?」

 ここで何故か、キュルケは息を吸い、間を開ける。

「恋愛のことよ!」

「何言っているんだ!」

「そうよ! あんた、一体何を言っているのよ!」

 珍しく俺とルイズの意見が一致し、二人でキュルケを問い詰める。

 そんな俺たちのことを見ながらもキュルケは分かっていないわね、なんて言いながら首を振る。

「今、私とルイズは記憶を失っているのよ? それなのに付き合っている人がいたらどう説明するのよ?」

「そ、それは……」

 俺は言葉に詰まった。確かに二人は美少女といっても差し支えない。ならば、付き合っている人がいてもおかしくはない。もし、今この場にその相手が来てしまえば面倒なことになることは間違いないだろう。キュルケの不安も妥当なものだった。

「私は恋の情熱に燃えなければならないのよ! 恋をしないなんて微熱の名が廃るわ!」

「あれ……? キュルケって本当に記憶ないのか? よく分からないけど、記憶を失っていないような気がするんだけど……」

「ええ。私も思うわ。記憶がないから、わからないけど」

 キュルケの落ち着き払っていた姿が今はもう消えていた。後ろに炎が燃えているような気さえしてくる。

 手はしっかりと握りしめられ、やけに説得力のあることを力説された気がする。

 途中から聞く気が失せた俺はまともに聞いていなかったが。

「もう勘弁してよ……」

 やけに弱気なルイズの言葉がひどく印象的だった。

 

 一体、何時間話は続いたのだろうか。

 俺はあくびをしながら、そう考えた。外では二つの月がキュルケの話が始まる前の位置からだいぶ動いていた。

「もういい加減に寝ましょう」

 俺と同じく話に飽きていたのだろう。ルイズが提案した。

「……まだ話したりないのに。……分かったわよ」

 キュルケは不満げな顔であったが、俺とルイズがまともに話を聞いていないことにようやく気付いたのだろう。しぶしぶといった様子で賛成してくれた。

 その言葉に俺はようやく寝られる、と安堵の息を漏らした。

 どこで寝ようか、そんなことを考えて俺がルイズの部屋を見回すと驚きの光景を目にした。

「ル、ルイズ! お前、何してるんだよ!」

「何って? ただ服を脱いでいるだけじゃない」

「俺がいるんだぞ!?」

「だから?」

 なぜかルイズは俺という男がいることを全く気にせず、服を脱ぐことができるらしい。

 キュルケまでもよく分からないようで、首を傾げている。俺ばかり慌てふためいている状態だ。ひどく理不尽な気がした。

「あっちを向くから、俺が見ていない間にしてくれ!」

「変なサイトね」

 意味が分からないといった様子であったが、ルイズは手をかけていた服を脱ぐのをやめてくれた。

 俺はルイズの姿を見ないよう、窓の外を見やる。大きな月に小さな月が寄り添うように浮いていた。幻想的で美しいその姿は後ろから聞こえてくるごそごそという音をかき消してくれる。

 あ、今服を脱いだな、服の落ちる音が……いや、聞いてない、聞いていないんだ。

 必死に自己暗示をするかのように心の中で言葉を繰り返す。

「終わったわよ」

 しばらくするとルイズから声がかけられた。

 急に声をかけられた気がして俺の心臓がドクンと強く跳ねた。自身の頬が熱を持っている。そのことをひどく自覚してしまい、余計に赤くなった気がする。

 俺はゆっくりと後ろを振り向いた。

 そこにはネグリジェを纏ったルイズがいた。

「な、な……!?」

 中が透けて見え、裸よりも余計にたちが悪かった。

「どうしたのよ?」

 ルイズの言葉に反応ができなくなるほど、俺はうろたえた。

 俺はルイズの姿を見ないよう手で自身の目を覆い隠す。

 隠す前、ベッドの中にキュルケの姿が見えなかったのは服を取りに戻っているのだろうか。いや、そもそも自分の部屋に戻ったのだろう。

 そんなことを考え、必死に自分の思考を今見た光景から遠ざけるように飛ばしていく。

 しかし、いくら考えても先ほど見た光景が目から離れなかった。

「さっきからずいぶん変だけど、大丈夫なの?」

 すぐそばからルイズの声が聞こえた。

「う、うわ!」

 目の前にルイズがいた。心配そうにサイトの目を覗き込んでくる。

「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」

「そうなの?」

 必死に言う俺にルイズは然して気にしていない様子でベッドへ移動した。

 結局のところ、ルイズも疲れていたのだろう。すぐに寝息が聞こえてきた。

「はあ……」

 そのことに安心しつつ、俺はルイズの部屋を見渡す。

 どこで寝ようか。そう考えたのだが、さすがに外で寝る気はなかった。思いのほか、外は寒かったのだ。

 部屋の中でソファのようなものがあれば良かったのだが、さすがにルイズの部屋には置いていないらしい。仕方なく、なぜか置いてあった藁束の上で寝ることにした。

 藁束は予想していたよりも暖かく、これなら十分寝られそうだ。

 俺は藁束の中で目を閉じ、睡魔に身を任せた。

 

         ◇

 

 朝日が目にまぶしい。

 俺は目を擦りながら、身体を起こす。すると、やけに身体が痛いことに気が付いた。藁束の上とはいえ、床の上で寝たのがまずかったらしい。

 俺は身体の痛みが少しでも減るよう、適当にほぐしていく。

 その途中でルイズの方を見てみた。

「……よく寝てるなあ」

 よほど疲れていたのだろう。

 本当に幸せそうな寝顔をしていた。

 この寝姿を見ていると、あの天然外道なルイズの姿が想像つかなくなる。

 思わず、頬を指でつつきたくなる。いや、すでに手を伸ばしていた。

 きっとやわらかいんだろうな。そんなことを考えながら指を近づけていく。

 後、数センチのところでルイズの目がカッと開いた。

「…………おはよう」

「サイト。何しようとしていたの?」

 俺の挨拶に反応することなく、ルイズに尋ねられた。ひどく答えづらい。

 二人の間に沈黙が満ちる。

 その時、俺の腹からぐうと腹の音が鳴った。

「あははは。き、昨日から何も食べてないからな!」

 恥ずかしさから、声を大きくして言った。

 ルイズはそんな俺の様子を見て、呆れたようにため息をついた。

「私も食べていないし、朝食を食べに行きましょうか」

「そうだな! 行こう行こう!」

 俺は恥ずかしさから逃れるようにやけくそに笑い、ルイズはそんな俺がおかしかったのか、くすくすと笑った。

 その後、二人してどこで朝食を食べればいいのか、それが分からずに悩むことになるまで笑い続けたのだった。

 




うむむ。原作が手元にないせいで、細かい場面がどうやって進んでいくのかわかりません……。
もし、よろしければメッセージか感想で細かい場面移動について教えてくださると助かります。
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