ふと思いついたネタ集   作:茶々

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原作:問題児たちが異世界から来るそうですよ?
連載しなかった理由:アニメ放映の影響で考えたはいいものの、原作未読であった為にアニメ終了後の展開が不明。完結のめどが立たなかったため。


終端児が異世界から来るそうですよ?

 

終わりを迎えた場所がある。

何処かの宇宙で、何処かの時空で、何処かの世界で、何処かの星で、今まさにその全てが終わりを迎えようとしていた。

 

 

「爆発感染(パンデミック)、か……まさか、人も草も空気も、ぜーんぶが死んじゃうなんて思わなかったなぁ」

 

 

切欠はなんだっけと思い起こし、そう間をおかず、一人の狂人科学者(クソジジイ)の面貌が脳裏に蘇った。人類の革新だの死徒としての使役だの謳っていたあの顔面皺だらけの老害はこの病魔をばら撒いた挙句心臓と脳みその同時破裂によるショック死で呆気なく死んだが、道連れとばかりに星一つを死に追いやった。

確か十センチ程の小瓶一つが割れてこの様だったか、と少年は思い出し、腰かけていた岩場から立ち上がる。途端、外気に触れた岩が侵食され、呆気なく塵となって崩れ落ちた。

 

 

「『感染』系はもうオリジナル出来てるしなぁ……というか、僕程度に抗体作れる様な玩具で“あの子”がどうにか出来るとは思えないし」

 

 

小憎らしい笑みを浮かべる眉目秀麗の少女の姿を思い出し、少年は小さく笑みを作った。

きっと彼女なら、自分が2000分の1秒“も”かかってしまった抗体作成を、2000億分の1秒もあれば余裕綽々で出来てしまうだろう。しかもそれは彼女の力を限界の限界まで低く見積もった上での計算であり、実際問題この程度の病魔に抗体を作る必要性はなさそうにも感じられた。

 

 

「はぁ……今回は特に収穫はなしかな」

 

 

あの高笑いが鬱陶しい事この上ない老害が作った生物兵器は所詮二流以下の模造品(ガラクタ)だったし、この病魔にしても抗体なしで済まされてしまうなら取り込む必要性は欠片もない。

例え星一つを死滅に追いやろうと、彼女一人殺せないならそれは雑菌以下だ。

 

と、思い出した様に少年は腕に巻いた銀色の時計を見やった。

文字盤は記されている数字こそ1から12までだが、秒針は逆回転している。中央には17.364の数字が刻まれており、その数字をしげしげと見つめていた少年はポツリと呟いた。

 

 

「17年と364日と23時間58分19秒……そろそろかな」

 

 

あと2分足らずで、自分は“また”何処かへ行くのだろう。

自分の意志とは関係なく、何処かの宇宙で、何処かの時空で、何処かの世界で、何処かの星で、この記憶と力を持ったまま、自分は再び――――――

 

 

「……んん?」

 

 

ふと色褪せた空を見上げると、何処からともなく真っ白な便箋がひらひらと舞い降りてきた。

赤蝋で封をした裏面、そして達筆な文体で『叶望様へ』とだけ書かれた表面がそれぞれ顔を覗かせ、やがてふわりと羽の様に少年―――叶(かなえ)望(のぞむ)の手元へ落ちた。

 

はて、記憶が正しければ確か空中から便箋を放り投げる様な郵便システムをしていたのは七つか八つ程前の世界だった筈であり、この世界は一般的な郵便受けへの郵便が主だった筈。そもそもその郵便をする人も紙も機械も組織も機構も既に死滅しており、例え郵便受けへの郵送だったとしてもそんな事が出来る存在は最早この世界にはいない。

 

と、なれば―――

 

 

「招待状、か……」

 

 

手にとってみれば分かる。この便箋自体が『異世界』の産物であり、恐らくは召喚系の術式的な何かが仕込まれているのだろう。

封を切り、中の文章を読めば異世界へ御招待、という訳だ。

 

 

「ふふっ、中々に趣向を凝らしたお招きじゃないか」

 

 

この世界へ来る時、というよりも、前の世界から別の世界へ移る時は、何時でも何処でも唐突だった。時間そのものが質量を持って自分を押し流す様な圧迫感の中で、濁流に揉まれながら下流へと流れていく樹木の様に為されるがままだった今までとは異なった、実に友好的で―――挑戦的な代物だ。

 

 

「どれ、折角だし直接手にとって読んであげよっかな」

 

 

口調が軽く弾んでいる。気分が高揚してきた証左だ。

先程までの鬱屈とした感情は何処かに吹き飛び、今では異世界からのお招きに心躍らせている。こんな気分は久しぶりだった。

 

手紙を読む、という、実に懐かしい行為に僅かばかりの感動を覚えつつ、望は手紙を手に取った。

 

 

 

 

 

悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能(ギフト)を試す事を望むなら

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの“箱庭”に来られたし

 

 

 

 

 

黙読を終え、思考を巡らせたのは一瞬だった。

そしてその一瞬の後に、眩いばかりの閃光が視界の全てを覆い隠し――――――気づいた時には、その身体は中空に放りだされていた。

 

ふと視線を巡らせれば、自分と同じ様にノ―ロープバンジージャンプを敢行する少年が一人、少女が二人、猫が一匹いる。

何が起きているのか、という事を考えるよりも前に、望は眼下に広がる見た事もない景色に目を奪われた。

 

視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。

そして落下地点と思しき泉を囲む森の直ぐ先には、城壁に囲まれ、縮尺を見紛う程に巨大な天幕が幾十百と並ぶ都市と思しき空間。

 

落下による空気圧から来る圧迫感の中で、猟銃に撃ち落とされて地上に落下する鳥類の様に為されるがまま、しかし望はその光景に目を奪われ、胸中に去来する久方ぶりの興奮に胸を高鳴らせた。

 

そう。

此処は、今まで自分が来たどの世界とも違う―――完全無欠に異世界だった。

 

 

 

 

 

 

水というのは、使い様によっては凶器になりうる武器であったりする。

例えば深海何千メートルという水底まで落ちて水圧を上げまくれば鋼鉄すらぺしゃんこに押し潰すし、出力を上げて噴出範囲を絞れば工業用のカッターとしてダイヤモンドすら削り取る。

 

さて、では此処で一つ疑問を投げかけてみよう。

例えば、高度何千メートルという上空から人間を湖目がけて落下させた場合、着水時の衝撃はどれくらいになるだろうか?

 

 

「わぉ」

 

 

ぺちゃんこじゃん、と自問自答した望は、しかし身体が何かを破る感覚を覚えた。

後に着水というより落水し、やがて水面に浮かび上がった望はそれが緩衝材代わりの水膜であった事を悟った。つまりはあれのお陰で、無残な水死体を四つ……いや、今自分の頭上に乗っかって「うにゃぁ」と情けない声をあげている猫を含めれば五つか。五つ浮かべずに済んだという訳だ。

 

 

「大丈夫?」

 

 

と、自分と同じ様にずぶ濡れになりながらも一人の少女が泳ぎ寄ってきた。小豆に近い茶色の短髪が小さな顔にぴったりと張り付きながら、それを気にした様子も無く心配そうな声をかけた。

 

望の頭上の猫に。

 

 

「うにゃあ」

「そう……よかった」

 

 

猫の言葉に理解を示した様に、続けて少女は望を見やった。

 

 

「貴方も、有難う」

「どう致しまして、えっと……」

「春日部(かすかべ)耀(よう)」

「そっか、宜しく耀ちゃん」

 

 

言って、望は猫を耀の頭上に移してやった。

満足げに「にゃあ」と猫が鳴いたのを確認して、耀は川岸へと泳いでいく。

それに倣う様に、望も川岸へと泳いでいった。

 

 

 

 

「全く、信じられないわ! いきなり空に放りだすなんて。下手をすれば地面に激突して即死よ?」

「あぁ全くだ。場合によっちゃあゲームオーバーコースだぜこれ」

 

 

先に陸地に上がっていた金髪学生服の少年と、何処かお嬢様然とした姿の少女が服にしみ込んだ水を絞りながら文句を吐き捨てる。

遅れて陸地に上がった耀は自分の始末もそこそこに猫の身体を拭いてやり、望は学ランの袖をまくって時計を見やった。

 

 

「……っ、へぇ?」

 

 

その文字盤を見た瞬間、笑みが零れる。

別段、防水加工をしていたという訳ではないが、彼女からの“贈物(ノロイ)”である銀色の腕時計はたかが高度何千メートルからの自由落下や水の浸食によって壊れる様なものではない、にも関わらず、中央の電子盤が消失し秒針はしっかりと右回り、つまり“普通の腕時計と同じ”動作をしていた。

 

それが何を指し示すのか―――理解が及んだが為に、望は改めて笑みを浮かべた。

 

 

 

――――――どうやら今回の『御招待』は、中々に楽しいモノになりそうだ。

 

 

 

今まで数多くの世界を渡り歩いてきた直感が、その興奮を裏付ける様に冴え渡る。

 

 

「……で、誰だよお前等」

 

 

金髪学生服の目つきが悪い少年が、ジロリと三人を見据えた。

それに応える様に、不服も露わに口を開こうとした少女を遮って、望は振り返った。

 

 

「いやだなぁ、そんなに怖い目をしないでくれよ金髪くん」

 

 

両手を広げ、如何にも人畜無害そうな笑みを湛えた望の姿に、胡散臭そうな表情を浮かべながらも二人は黙った。とりあえず黙ってやるから続けろ、という意味だろう。

耀は猫の身体を拭くのに集中しており、我関せずと云わんばかりである。

 

 

「まずはそうだね、確認するまでもない事だけど、みんなあの手紙を読んで此処に来た……っていう事で良さそうだね」

 

 

望の言葉に、二人は視線で同意を示した。

 

 

「じゃあ簡単な事だよ。今からチュートリアルを始めようか」

「チュートリアル?」

「そうだよ金髪くん。所謂オーソドックスなRPG的要素で言えば“お約束”、典型的な小説で云えば導入部分に当たる必須要綱の」

 

 

そこで一旦言葉を区切り、くるりと一回転して溜めてから、望は口を開く。

 

 

「―――自己紹介を、始めようか」

 

 

湛えた笑みは、まるで初恋に浮かれる少女の様な朗らかさに溢れ、この世の春を謳歌する様にその声音は弾んでいた。

 

 

 

 

 

 

久遠(くどう)飛鳥(あすか)は混乱していた。

約束された地位や将来、そして自分自身の今後に嫌気がさしていた所に件の投書が届き、中身を確認した途端に空高く放りだされた挙句湖に落とされただけでも信じがたいというのに、その放りだされた土地が“異世界”だというのだから始末に負えない。

 

戦後間もないとはいえ、この身は誉れ高き久遠家の令嬢。その威光は祖国に余すところなく轟き、自身もまたその名に恥じぬ様にと研鑽を重ねてきた。

だが、それら全てが規定事項、予め定められた予定調和であったという事も、聡明な彼女は理解していた。

 

そんな日常に嫌気がさした。

だからあの手紙を手に取った。

 

自分の、この鬱屈した“何か”を変えてくれるのではないか―――と、一縷の淡い期待を抱いて。

 

 

 

――――――その結果がこの応対とは、どうやら招いた主は相当に教養が無いらしい。

 

 

 

思わず、嘆息が零れた。

 

 

「おいおいワインレッドちゃん、確かに僕の顔の造形は君のお眼鏡にかなう様な作りをしているわけじゃあないが、それでも初対面の美少女に出会い頭にため息つかれると、流石の僕も傷ついちゃうぜ?」

 

 

と、如何にも胡散臭そうな笑みを張り付けた童顔の少年が「やれやれ」と肩をすくめた。

 

 

「あらごめんなさい。それと、私は“ワインレッドちゃん”なんて珍妙な名前ではないわ。久遠飛鳥よ、以後気をつけて」

「おーけーおーけー、宜しくね飛鳥ちゃん」

 

 

初対面の美少女に出会い頭にちゃん付けした少年は、続けて視線を自分と、如何にもガラの悪そうな学生の間の少し先―――先程から猫と戯れている少女に向けた。

 

 

「ほら耀ちゃん、二人にも自己紹介しないと」

「春日部耀、以下同文」

 

 

淡々とした口ぶりの少女、耀に飛鳥は儀礼的に「そう、宜しく春日部さん」とだけ返す。

 

 

「で、其方の野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

 

大企業の社長すら平身低頭して受け取る飛鳥の言葉に、しかし金髪の学生は「ハッ」と鼻を鳴らして答えた。

 

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻(さかまき)十六夜(いざよい)です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で、適切な態度で接してくれよ、お嬢様?」

「取扱説明書をくれたら、考えておいてあげるわ」

「ははっ、マジかよ? 今度作っとくから覚悟しとけ」

 

 

挑発的で挑戦的な言動―――元居た場所では決して向けられる事のなかった態度に僅かばかりの高揚を覚えつつも、しかし生来の育ち故にその態度がかなり鼻につく。

 

そのまま睨みあいに発展しそうだった二人だが、とりあえずその場は互いに収める事にした。

 

 

「で、其方の胡散臭そうな笑みを張り付けた貴方は?」

「あっは、いきなり遠慮がないねぇ飛鳥ちゃん」

 

 

ヘラヘラとした笑みを浮かべる少年の態度に、飛鳥は胸中で憤りを感じた。

 

そう。その“顔”は、昔から腐るほどに見せられてきたものだ。

心から自分に向けたものではない。その後ろに透けて見える薄汚い欲望が、この身についてまわる諸々の恩恵を狙ったものである事を彼女は幼くして知った。知りすぎた。

 

だから、その顔を向けるな。その笑みを見せるな。

言外にそう意思を込めて鋭く睨みつけると、少年はやがて表情を消し、軽く吐息を零した。

 

 

「……おいおい、勘違いしないでくれよ飛鳥ちゃん」

「何よ? それと、その“飛鳥ちゃん”っていう呼び方も止めて貰える?」

「―――元居た世界の“久遠飛鳥”がどれだけ偉い人だったかなんて僕は知らない。この世界での君は只の“飛鳥ちゃん”だ、そうだろう?」

 

 

少年の言葉に、飛鳥は息を呑んだ。

世間話でもする様に、彼は何の躊躇いもなく自分の中に踏み込んできたのだ。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

かと思えば一転、まるで子どもをあやす様な口ぶりで、少年は手を広げた。

 

 

「例え何処の世界だろうと、どんな時代だろうと、例え元居た世界で君が大企業の社長でも、千年続く名家の令嬢でも、そこら辺の有象無象でも、スラム街の下っ端でも、僕はありのままの“飛鳥ちゃん”っていう一人の美少女を受け入れてあげるからさ」

「……何よ、それ。もしかして私は今、口説かれているのかしら?」

「存分に自惚れてくれよ。世の美少女は須らく受け入れられて、許されて、愛されて然るべき存在なんだぜ?」

 

 

――――――全く以て、訳の分からない人間だ。

 

 

気づけば、飛鳥は口元に笑みを浮かべていた。

元居た世界では、決して出会えなかったであろう人間に、言われなかったであろう言葉に、向けられなかったであろう好意に、今度こそ、飛鳥はしっかりと感じた。

 

 

 

――――――どうやら、招いた主は相応に粋な性格らしい。

 

 

 

 

 

 

 

で、その招いた張本人である所の人物―――帝釈天の眷属であり、“箱庭の貴族”と呼ばれる月の兎の末裔である黒ウサギは、茂みから四人の様子を窺っていた。

 

 

(うわぁ……何やら一癖も二癖もありそうな方ばかりですね)

 

 

自分から招いておいてアレだが、どう控えめに見ても問題児ばかりである。

 

自ら駄目人間を自称する逆廻十六夜。

冷然として厳粛な性情らしい久遠飛鳥。

我関せずとばかりにマイペースを貫く春日部耀。

不可解な筈の状況下でも笑顔を絶やさない叶望。

 

どう考えても、マトモな神経をしているという可能性は望み薄である。

 

 

(いえ、だからこそ……!!)

 

 

しかし、性格の面で文句を言える程自分達に余裕はないのである。

多少の性格の悪さはどうとでも出来る。問題なのは、その“性能(ちから)”の方だ。

 

主催者(ホスト)が“人類最高クラス”と太鼓判を押したあの四人の力を借りれば、或いは……と、黒ウサギは「むん」と気合いを入れた。

 

 

「ほら、お前で“最後”だろう。さっさと自己紹介しろよ」

(うふふっ……ここにもう一人いますよ?)

 

 

 

―――まぁ、幾ら最高クラスといっても、所詮はまだ年若い子どもという事ですか。

 

 

 

自分の存在に気付かない四人の姿が可愛らしく見えて、黒ウサギは笑みを零した。

 

 

「おいおい十六夜くん、勘違いして貰っちゃあ困るぜ?」

 

 

と、実に余裕綽々な声音で望がぴっと指を立てた。

 

 

「僕はこれでも一端の紳士なんだ。レディファースト、世の美少女は須らく優先されて、優遇されて然るべき存在なんだぜ?」

 

 

そう言って、望はくるりと半身を向けて――――――その双眸に“しっかりと”自分を見据えて、

 

 

「まだ一人、麗しのレディがお声掛けを待っているじゃないか」

 

 

瞬間、黒ウサギはその笑みを引き攣らせたまま固まった。

 

 

「あ? あれって女なのか?」

「あら、貴方達も気づいていたの?」

「当然、かくれんぼじゃ負けなしだぜ。つっても、流石に女かどうかなんてのは分かんねぇけど……そっちのお前も気づいていたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でも分かる」

「へぇ……面白いなお前」

 

 

―――え、な、何ですか? 気づかれていた? というか風上って、黒ウサギそこまで臭いますか!? 確かにギルドの水は貴重ですから無駄遣いしない様に気をつけて使っていますけど、まさか自分でも気付かないくらい臭っていたんですか!?

 

 

不味い。何が不味いって、マスターである少年や自分を慕ってくれている子供達が表面上は笑顔を浮かべつつも、実は裏で「黒ウサギって臭いよね」「うん、臭い臭い」って陰口叩いていたとしたら、もうガラスの乙女がハートブレイクされてしまう。純潔の前に清潔を失うなんて、乙女として余りにも無残だ。二度と立ち直れない。

 

手と膝を地面につけてがっくり項垂れていると、ガサガサと茂みに分け入る様な音と共に、望が歩み寄ってきた。

 

 

「ほら、バニーちゃん。そんな茂みに隠れていたら、花も恥じらう可愛らしさが台無しだよ?」

 

 

少しも躊躇う事のない歯の浮く様な台詞と共に手を差し伸べられ、「うぅ……臭い黒ウサギでごめんなさい……」とブツブツ呟きながら黒ウサギは手を引かれて茂みから出た。

 

 

「なにあれ、ウサギ人間?」

「コスプレ?」

 

 

途端、三人の物珍しそうな視線が黒ウサギに突き刺さった。

頭頂の素敵耳とか、割と扇情的な格好とか、普通に登場しても充分インパクトがあっただろうに、変にタイミングを見計らった為に予想以上にインパクトを外してしまった事を、黒ウサギはひしひしと感じた。

 

 

(うぅ……出るタイミングを完全に外した挙句この様な無様…………ジン坊ちゃん、ごめんなさいですぅ……)

 

 

およよ、と涙が零れてしまいそうな黒ウサギの脳裏を、優しげに微笑むジンの顔が過る。

 

 

『大丈夫だよ黒ウサギ、僕は気にしていないから……臭い以外』

(はうぅっ!?)

 

 

何故か脳内で余りにもリアルに再生された音声に、黒ウサギは胸にぐっさりと何かが突き刺さるのを感じた。

 

と、そんな黒ウサギを励ます様に、望は黒ウサギの肩をポンポンと叩いた。

 

 

「大丈夫だよバニーちゃん」

「ふえぇぇ……?」

 

 

 

――――――ああ、もしかしてこの人は救世主(メシア)の生まれ変わりか何かなのでしょうか。

 

 

 

こんな、年端もいかない少年少女に「臭い」と陰で謗られる様な自分を慰めてくれるというのだろうか。

黒ウサギは、優しく自分の肩を叩いてくれる望に視線を向けた。

 

柔らかく微笑み、湖畔の茂みに隠れていても初対面の少女に臭いを嗅ぎつけられてしまう様な女にこれだけ近づいても嫌な顔一つしない。

 

 

 

――――――そうです。きっとこの人は、神の使いか神の生まれ変わり、いいえ! 神そのものといっても過言ではないのです!!

 

 

 

黒ウサギは、先程まで彼をも問題児と捉えていた自分を蹴飛ばしてやりたかった。

 

彼は問題児なんかじゃない。

この御方は―――

 

 

「臭いのキツイ美少女ってのも、何だか背徳的でイイよね」

「ふえええぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

 

 

―――――――上げるだけ上げて叩き落とすなんて酷過ぎですぅぅぅっ!!!

 

 

 

爽やか過ぎる笑顔でそうのたまう彼は、黒ウサギ的な言い方をすれば、神は神でも悪魔神(ハデス)の使いであり、生まれ変わりであり、悪魔神そのものだった。

 

 





問題児っぽく、チートでセクハラ全開な主人公を脳内CVが(めだか二期と劇場版エヴァの影響で)緒方恵美さん一択の状態で書いていると、気が付けば裸エプロン先輩(偽)の様な主人公が完成していた。
ギフトもそれっぽいものを考えていたら、同名の漫画がスタートしてしまいお蔵入り。

変態だけど紳士、紳士だけど変態な人。
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