ふと思いついたネタ集 作:茶々
連載しなかった理由:原作の連載打ち切りもあったが、何よりも多数のIS作品の中でオリジナリティを出し切れる気がしなかったため。
―――拝啓、地球の衛星軌道上の何処かにいると思われる束姉(たばねぇ)様。
日本では間もなく、新学期が始まろうとしています。
僕は無事に進級し、今年は3年生。最上級生としての自覚を胸に、日々努力していく所存です。
今回筆を執ったのは、火急の報告があるからです。
一兄(いちにぃ)が、世界で初めてISを動かしたニュースは既に御存知の事だと思われます。というか、IS関連で束姉が知らない事ってまずないと思うのですが、兎も角それからというもの毎日が大変になりました。
学校や五反田食堂や一兄の自宅にまで報道陣が詰めかけてあれこれ根掘り葉掘りある事無い事あんな事こんな事を記事にしようとして…………あ、今思い出したので報告とは関係ありませんが催涙爆弾あと10セット送って下さい。そろそろ無くなりそうです。
で、本題なのですが。
正直電話の方が早かったんじゃないかとも思ったのですが、それだと怒声が抑えられそうになかったので手紙という方法をとりました。
えー、コホン。
束姉様。
―――――――何をしてくれやがりましたか貴女って人はぁぁぁぁぁっっっ!!!!
◇
織斑千冬は激怒した。必ずかの<無垢なる悪意(天真爛漫)>を取り除かねばならぬと。
切欠は、一本の電話だった。
『はろはろちーちゃん! みんなのアイドル束さんからのラブコールだよ~!』
「そうか切るぞ」
『ちょちょちょミニストップだよちーちゃん!そんな愛情はノーサンクスだよ!』
新学期を直前に控え、書類整理に勤しんでいた千冬の元に一本の電話が入った。
相手は篠ノ之束。
世界中が血眼になって探し続ける天才にして天災。その幼馴染たる千冬は、何時教えたかの憶えもないというのに携帯電話から聞こえてくる束の声音に心底うんざりした様な声音で応じた。
「……何の用だ束。私は忙しいんだ。さっさと本題に移れ」
『むっふっふ~、いーでしょう……まぁ正直“あっち”も時間ないだろうし、早速本題に入っちゃおっか』
問題です、と何処ぞのミリオネアなBGMを流しながら、束が口を開いた。
『今日は何の日? るっる~』
「…………雪(すすぎ)の誕生日だろう。それがどうした」
篠ノ之雪。
千冬の幼馴染である束の従弟で、世界中を自由気ままに逃げ回っている束やその影響で各地を転々としている篠ノ之一家の代わりに神社を切り盛りしている夫妻の息子の顔を思い浮かべ、即座に千冬の脳裏に一抹の不安が過った。
小学生の時分、まだ束が“正常”であった頃の甥っ子のあの可愛がり様を見ていなければ、或いは辿りつかなかった―――もしくは、辿りつくべきではなかったかもしれない可能性。
「…………お前、まさか」
『ほらほら、すーちゃん幼稚園の時に言ってたでしょ?『空を自由に飛びたいなー』って。だから―――』
その瞬間、千冬は駆け出した。
向かいの席で書類に目を通していた後輩の山田真耶が「織斑先生!?」と声を上げた気がしたが、そんな事を気にしている場合ではない。
『―――だから、すーちゃんが毎朝お手入れしているウチの神社のご神体を、ちょーっとすり替えてみました♪』
「雪はお前の従弟(おとうと)だろうが!!」
『そうだよ? だから束さんは、可愛い可愛いすーちゃんのお願いを叶えてあげたのです! ぶいっ!』
束の言葉に、ミシリと携帯電話が悲鳴を上げる。
嘗て“人類最強”とさえ謳われた「ブリュンヒルデ」の異名に恥じぬ恐るべき加速を以て、瞬く間に千冬は学園の敷地を走りぬけ、駅の階段を駆け上がった。
そのまま、出発間近のモノレールに滑り込む。
『ちーちゃん、駆け込み乗車は危ないよー? それと、車内での携帯電話での会話はマナー違反だよ?』
「誰の所為だ誰のっ!!」
新学期目前とはいえ、流石にこの時間帯では誰も乗っていない車両の中に千冬の怒声が木霊した。
深呼吸をして息を整えた千冬は、手近な席に座って会話を再開した。
「お前……雪“にも”ISを使わせるつもりか」
『ぶー、だからアレは束さんにも分からないって前にも言ったでしょー?』
自身の弟もまた、男の身でありながらIS――インフィニット・ストラトス――を動かした。
女性にしか動かす事が出来ない筈の、人類最強の兵器と名高いマルチフォーム・スーツ。
電話の向こう側でいつもの締まらない表情を浮かべている“天才”篠ノ之束が創り出したそれを、何の因果か弟は―――織斑一夏は動かした。動かしてしまった。
それ故に、彼はその身柄の安全の為にもこの春からIS学園への入学が決まっている。
「お前は自分の従弟を、実の妹と同じ目に遭わせるつもりか」
篠ノ之箒。
束の実の妹であり、弟同様にこの春からIS学園に入学する知己。彼女は“篠ノ之束の妹”として政府主導の重要人物保護プログラムにより、幼い頃から各地を転々としていた。
そうでなくとも、“篠ノ之束の妹”というだけで、幾度となく理不尽な監視や聴取を受け続けてきたであろう事は容易に想像できる。
一家と離れ離れになった元凶が実の姉であるその境遇が、果たして彼女にどれだけの負担を強い続けてきた事か。
『でもでも、すーちゃんが実際に動かせるかどうかは束さんにも分かんないよ?』
「……お前にしては、珍しく謙虚な発言だな」
『だってあのISは――――――――――』
続く言葉を聞いて、千冬は今度こそ携帯を握り潰した。
◇
「どうなるんだろうね……ちーちゃん」
画面上に浮かぶ『交信中断』の文字に語りかける様に、束は呟いた。
「…………これで、いいんだよね?」
誰もいない部屋の中に響く電子音の合間を縫う様に、縋る様な声音で束は呟く。
「うん……大丈夫だよ」
誰もいない虚空をなぞる様に指を奔らせながら、涙を堪える様に束は呟く。
「今度こそ――――――今度こそ、みぃんな取り返すから。そうしたら……」
失ってしまった何かをかき集める様に自分を抱きながら、束は囁いた。
「―――そうしたら、帰ってきてくれるよね? “おにぃちゃん”」
◇
駅を降り、街を駆け抜けて、懐かしい篠ノ之神社の山門を潜り、正面に構えられた荘厳な造りの本堂を開け放った千冬は、驚愕に目を見開いた。
「なっ……!」
息を呑んだ千冬の視線の先には、一人の少年がいた。
いや、正確に言うのならば、“起動状態のISを制御して中空静止している”少年がいた。
「ち、ちふ……千冬、さん…………こ、これ……!」
当事者である少年―――篠ノ之雪ですらも、まるで状況が呑み込めていないといった困惑の眼差しを千冬に向ける。
心なしか、目尻にはうっすらの涙の痕すら見える。
「……雪」
「は、はいっ」
―――一体、何を始めようと云うのだ。束。
千冬には、彼女の考えが分からぬ。だが千冬は、IS学園の教師である。嘗てはISの日本代表として世界の強豪たちと戦い、今は日夜ISを学ぶ少女達を教え導いている。
故に、千冬は手を差し伸べた。
「―――私と共に来い。雪」
ISの有無に関係なく、千冬は一介の教師である。年端もいかぬ子供が惑い悩んでいるというのなら、それを導くのが務めである。
そして、千冬にとって雪は彼が小さい頃から知っているもう一人の弟の様な存在だ。そんな彼が困っているというのなら、助けてやるのが姉貴分としての務めだ。
「今すぐ荷物を纏めて私と共にIS学園に来い。誰かに見つかる前に支度を済ませろ。急げ」
「で、でもお父さん達になんて言えば……そ、それに、神社の事とか、その……」
「午後には一度帰れる。その時に全て話せばいい。兎に角今は時間がない」
新入生の名簿作成は、確か今日の正午が最終確定版の発行だった筈。それまでに諸々の書類を用意すれば、多少強引ではあるが新入生としてねじ込む事は大分容易い。
もし時間を過ぎてしまえば、編入は早くても数日後。それまでの間に、この事が露見しないという保証は何処にもない。
最悪、一夏の時に危惧されていた強制拉致や研究の為の施設へ放り込まれる可能性だってある。
篠ノ之束の従弟とはいえ、世界でも希少な男子IS操縦者――――――いや、“だからこそ”篠ノ之束の反応を見る為に、何かが暗躍しかねない。
「で、でも千冬さん……」
「今度は何だ……!」
煮え切らない態度の雪に苛立ちながらも、努めて冷静に千冬は返す。
と、そんな千冬の張り詰めた気迫におどおどしながらも雪は告げた。
「あ、IS学園って、一応高等学校扱いですよね……」
「それがどうした」
「僕……今年で漸く“中学”3年生なんですけど……」
「………………」
忘れていた訳ではない。
一夏や箒より年下だという事は、以前から承知していた事だ。
だが、千冬は束の言葉と雪の態度に苛立ちを募らせ過ぎて、つい見落としていた。
そう。
世界で二人目の男子IS操縦者にして、“天災”篠ノ之束の従弟、篠ノ之雪は――――――まだ“中学生”なのだ。
篠ノ之一家のIS作品は間々あるが、その中でも中学生の主人公ネタが当時なかったので。後、主人公のISはタイトルから推察できる通り月光蝶搭載の白髭モチーフです。
原作が最終的に小惑星だか隕石だかが地球めがけて落ちてくる宇宙戦になるのかと勝手に予想して大規模兵装を考え、某月が出ている戦略級兵器か月光蝶かで悩んだけど絵的にはこっちのがいいかと思い確定。
その数日後、原作が打ち切りになったという事を知りました。