とある騎空団の日常   作:XEI

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筆が進めば六時間、筆が動かなければ六か月。
カリオストロはすっげー書きやすかったんだけどなあ。
あ、夏ゾーイもクリセンもマキラもシヴァも来ませんでした()


姉妹のような同僚(ゼタ、ベアトリクス)

「ねえねえ団長さん。今夜、カリオストロに付き合ってほしいな☆」

 

 朝食を食べにグランが食堂へ赴こうとする時。そう声をかけたのは全空一の美少女を自称する錬金術士の始祖だ。

 

 自他共に(外見だけは)認める愛らしい満面の笑顔だが、そんなものには騙されない。それなりの付き合いになるグランはカリオストロの発言の意図を正確に理解して胡乱な顔になる。

 

 ――新薬ができた。お前で人体実験させろ。

 

 要約するとこんなところだろう。なんかこう、色々と台無しだった。

 

「で、出来れば遠慮したい、かな?」

 

 やや顔をひきつらせながら、正直な感想を述べたグラン。いつもの事である。普段はここで少し機嫌が悪くなるカリオストロを何とか説得して、機嫌取りに一緒に依頼に出かけたりするのが通例だったのだが。

 

 今日に限っては、カリオストロは拒絶の言葉を投げかけてもニコニコと笑顔を崩さない。

 

 ……何か知らないが、これはまずい。直感的に悟ったグランは踵を返そうとして「【ドラフ爆乳百選!ファータグランデいいとこ取り】」

「待って」

「【パーイオーツ連峰。聳え立つドラフ山】」

「ちょっと」

「【ドラフ系巨乳幼馴染み。あの子のジョブは俺の嫁】」

「俺が悪かった!! だからやめてください!」

 

 自身でも驚くほどのスピードで、慌ててカリオストロを通路の奥に隔離する。

 

 今挙げられたタイトルは、全てがグランが所持していた、ジータに処分されたブツの名前である。時間(朝だ)、心の傷(全てお気に入りのものだった、もう返っては来ない)、そしてそのタイトルを読み上げるカリオストロの容姿と声(犯罪そのもの)。色々な意味でアウトだった。

 

「どこで知ったんだよ……」

「この船のことで、オレ様が知らないことの方が珍しいぜ?」

「俺は出会った時以上に今のカリオストロの方が怖い!」

 

 ペンは剣より強し。一騎当千の力を誇る戦場のカリオストロよりも、グランが必死に隠していた情報を容易く入手してしまうカリオストロの方がグランにはキツかった。というか個人情報どうなってんのこれ。ねえ、折角つけた鍵の意味は?

 

「鍵? ああ、そんなもん錬金術でこう、ちょちょいと」

「錬金術便利だなぁ! 主に悪用に!」

「オレ様だってやっていい事と悪い事の区別ぐらいしてるさ。お前の部屋にしか侵入してねえよ」

「そういう問題じゃない!」

 

 もはやヤケクソである。

 

「待ってくれ、待とう、いったん落ち着くんだそうしよう」

 

 ハッとしたグランは、急激に脳を回転させる。万一誰かにこの会話を聞かれれば二次災害が起こる。そうなれば、ただでさえ口を滑らせるカリオストロが握っている特ダネは、瞬く間にグランサイファー中に知れ渡るだろう。

 

 まずはこれ以上なくノリノリなカリオストロ。その口をとりあえず手で物理的に塞いでから空き部屋に連れ込んで……などと物騒なことを思い始める。完全に人攫いのそれである。

 

「カリオストロに~、な・に! するつもりなのかな~? ブフッ、やぁん。団長さんこわーい☆」

「笑い事じゃないんだよ」

「これが笑い事じゃなくて、何が笑い事なんだよ。よくもまぁこんだけドラフ本ばっかり集めたもんだなお前。ドラフマニアか? 乳圧のフルチェインが大好きなのか?」

「俺の尊厳とか諸々はどこへ!?」

 

 乳圧のフルチェイン。ドラフのエロ本を二桁以上集めた者に贈られる称号。報酬、10宝晶石。謎の電波を受信したグランだった。乳圧のフルチェイン。これもまた、グランが持っていた至高の一品の名前である。

 

 首を横に振って、電波を振り切る。堪えきれない、とプルプル震えるカリオストロを見つめるグランの目は、今や実戦さながらの真剣そのものだった。しかし、その杞憂も当然のこと。

 

 グランサイファーには気心知れた男連中も多いが、女性団員もかなりの数に上る。そんな中で女性に軽蔑されるような事を積み重ねるわけにはいかない。毎度お咎めなしで済むとは限らないのだ。

 

 特についこの前そういった印象がついてしまったグラン、必要以上に過敏にもなる。誰だって好き好んで社会的に死にたくはない。

 

(タイトルが知れ渡るのはヤバい、本当にヤバい)

 

 具体的にはナルメア辺りが大暴走して、「団長ちゃん団長ちゃん、お姉さん、幼馴染みになってあげようか?」とか、「連峰……お姉さんだけじゃ足りないね、アリーザちゃんやアニラちゃんにも声かけてくるね!」とか。

 

 それでジータやリーシャ辺りから、とばっちりを食らうイメージがありありと浮かぶ。そうならなかったとして、爆笑して済ませてくれるのはユエルやメーテラぐらいのものだろう。

 

 例えばヘルエスやファラ、ジャンヌのような真面目な女性には引かれること間違いなしだし、クムユには泣かれるかもしれない。アンスリアに知られるのはなぜか非常に怖い。ヴィーラなんて言わずもがな。ゴミ虫のように蔑まれること請け合いだ。ミムルメモル速報待った無しの事案である。グランは背筋が凍った。

 

 1つ勘違いとして、カリオストロとてグランとこの騎空団を気に入っている。いくら刹那的な面白さを求めるカリオストロでも、特に理由もなくグランを貶めるような真似はしない。

 

 の、だが。それを理解していないグランの焦り具合がまたツボに入った。だからお前は飽きねえんだよ、とはカリオストロの談である。

 

「ククッ、大勢の団員の前じゃないだけマシだと思え」

 

 一頻り笑いに笑ったカリオストロは、

 

「んじゃ、今日の夜9時、オレ様の部屋に来い」

「……拒否権は」

「あると思うか?」

 

 あるわけがない。一番秘密を知られてはいけない人間に、弩級の秘密を握られてしまったのが運の尽きである。ガックリと項垂れた。

 

「それじゃあ団長さん。夜、楽しみに待ってるね☆」

 

 天使のような悪魔の笑みを浮かべて。元凶は廊下を後にする。朝からどっと疲れたグランもまた、それに倣った。カリオストロは夜の実験へと思いを馳せ、グランは魂の抜けたような顔をしてトボトボと朝食をとりに行く。

 

 二人とも、別のことに気を取られていたり、そもそも気を張る余裕がなかった。だからグランにとっては不幸なことに、青い鎧の第三者がこの会話を盗み聞きていたことを、気づくことはなかったのである。

 

 

 

 

 

「ゼタ、ゼタぁー!」

「……?」

 

 グランの心情とは裏腹の澄み渡った蒼空を、のんびりと駆けるグランサイファーの一室。アルベスの槍を自室で整備していたゼタの元へと涙ながらに飛び込んで来たのは、ゼタと同じ組織の構成員、ベアトリクス。

 

 ノックもなく部屋へ突入して来たかと思えば、呆気にとられるゼタを視界に捉えると一直線に駆け寄って、「ちょ、ベア! 待っ」「ゼタぁぁーっ!」「ウッ」勢いよく飛び込む。

 

 咄嗟に槍をベッドへ投げ、乙女が出してはいけない声を出しながらもどうにか体全体で受け止めたゼタ。

 

 怪我をしそうだったとか、武器の手入れ中に飛び込んでくるなとか、そもそもノックはどうしたとか。色々と常識はずれなベアトリクスへの怒りが湧いてくるものの、「はぁ……」いつも通りのことと諦める。

 

 胸でぐずるベアトリクスを抱きしめてあやす。相談事があるのは明白だが、普段の物怖じしない態度とは裏腹に、変な所では焦れったいのがベアトリクスだ。落ち着かせるのが先決だろう。と、ゼタはそんな妹分を撫でて落ち着かせながら、椅子へと座らせて、

 

「紅茶でいい?」

「あ、あぁ」

「砂糖は2つ?」

「……3つがいい」

「お子ちゃまね」

「な、なにおう!」

 

 据え置きの紅茶を淹れて、ベアトリクスへと差し出した。出されたカップを引ったくるように持つと、豪快に一気飲みするベアトリクス。ゼタは嘆息した。

 

「アンタねぇ……ビールじゃないのよ? お上品に飲めなんて言わないから、もっと味わって飲みなさいってば」

「どうせ私には味なんてわからん!」

「威張るな」

 

 軽くゲンコツを落とす。「痛い!」何するんだ、と抗議するベアトリクス。色々と子供っぽいというか子供そのものだ。元貴族なのだから、やろうと思えば品ぐらいいくらでも出せるだろうに。と思わないでもないゼタではあるが、このままではいつまでも話が進まない。

 

 ゼタはすぐに冷静さを取り戻して椅子に深く腰掛け直した。ベアトリクスもそれを見て、やや不服そうだが佇まいを直す。

 

「そんで、どうしたのよ」

「その……団長の、ことなんだが……」

「グラン? グランが何かやったの?」

 

 グランはゼタから見ても年下とは思えないほど多方面に秀でていて、特に人付き合いの上手さと自身の背中を預けることが出来るほどの強さが印象的な、頼れる団長である。

 

 最近アンチラが不自然なほどの頻度で部屋に入り浸っているとか、センと添い寝をしていたとか。不穏というか、あまりよろしくない噂が立っているが。概ねゼタはグランを好意的に見ていた。そりゃ年頃の男子だし、可愛い子には弱くて溜まるものもあるでしょう、と。

 

 そんなグランが相談の対象で、ベアトリクスは言いにくそうに頬を染めながらもじもじとしている。ゼタは、「ははぁん?」と、ニヤニヤ。ずばりベアトリクスの悩みは恋愛事なのだろう、と予想した。

 

(ベアにも春が来たってこと? いいんじゃない)

 

 元々優れた容姿を持っていて、黙っていれば生まれ持っての気品もある。お菓子作りにかけてはこの船でもトップを争う腕前だ。贔屓目に見なくとも、おっちょこちょいでさえなければ優良物件なのは間違いない。

 

 キューピッドなんて柄じゃないんだけどねえ、などと考えている中。頼れる同僚からこんな評価を受けているとは知らないベアトリクスは、散々「うー……うー!」と唸るだけ唸ってから、

 

「グランが、グランがな」

「うんうん」

「グランが……ど、ドラフマニアだったんだ!」

「うん……は?」

 

 ゼタの期待は一瞬で裏切られる。この子は何を言ってるのだろう、と一瞬理解ができなかった。

 

 会話相手の混乱をさておき、ベアトリクスは言葉を連ねる。

 

「カリオストロとグランが、廊下で話してたんだけどさ」

 

 胸に大きく息を吸って、

 

「その、グランが持ってたって噂のエロ本、全部ドラフのものだったらしくて。カリオストロが、ドラフマニアでにゅうあつ? のフルチェインだとか言ってたな……」

 

 何とも言えない表情で事の顛末を語る。

 

 ようやく話に追いついてきたゼタは思案する。つまりそれはアレだろうか。グランがドラフのエロ本しか持ってなくて、それをカリオストロに散々弄られたと。この子はそれを聞いて、なんでか知らないが非常に焦っていると。

 

(え、何それ。超面白い)

 

 そこまで考えが至った時点で、「ぷっ……くくくっ……くすす……!」笑いが堪えられなかった。

 

 そして、ベアトリクスも同僚の異変にすぐさま気づく。

 

「な、なんだよぅ! 人が本気で相談してるのに!」

「だってベア、それ面白……ぷふっ!」

「もう!」

「ごめんごめん……んで、ベアは何を私に相談しにきたのよ?」

 

 

 

「だ、だって……グランがドラフ騎空団でも作るのかもしれないだろ! そうしたらどうするんだ!」

 

 不意打ちである。今度は、耐えられなかった。

 

「あっはははははははは! ドラフ! ドラフ騎空団って何! ベアそれ本気で言ってるの? っははははは、はーお腹いたっ!」

「な! 笑い事じゃないだろ!?」

「笑い事も笑い事じゃない。くっくくく……っはははははは!」

「ゼタぁ!」

 

 度を越した感情というのは制御が難しい。怒気や悲哀などには慣れているゼタも、さすがに己の笑いのツボには勝てなかった。

 

 すぐには止まらない笑いを収めるために要した時間は数分。ゼタが全力疾走の後のように乱れた呼吸を戻すころには、ベアトリクスはすっかりへそを曲げていた。「つーん」とか言いながら窓の方を向いて、ゼタと目を合わせようとしない。

 

 そこまで不機嫌でありながら、部屋を後にしたりしないのがまた可愛らしくてゼタは笑いそうになるが、これ以上やると怒りを通り越して泣かれるかもしれないので自重。

 

「ベア」

「……」

「ベア、ごめんって」

「……」

「笑いすぎた事は謝るわ、おかしかったからつい、ね?」

「……」

「それにしてもドラフ騎空団かー、ユーステスやバザラガが聞いてたらなんて言ったかしらね」

「お前本当に謝る気あるのか!?」

「あ、やっとこっち向いた」

「はっ!」

 

 ハメられた……となぜか落ち込むベアトリクスをなだめすかして一言。

 

「まあまあ、そんな気にしなくていいってば。多分、グランはただのおっぱい星人よ?」

 

 思わぬ情報だったのか、バッと顔を上げるベアトリクスの表情は驚愕一色である。しかしこれは、別にベアトリクスを元気づけるための嘘とかではなく、恐らく事実だ。というのもゼタの実体験からきている。

 

 グランも団長という立場に責任感を感じているのだろう。女性団員に不躾な視線をやるまいと頑張っているのは分かるのだが、どうしてもたまに視線を感じる時はある。

 

 そもそも水着を着た時はガン見されている。ガン見である。ガン見という言葉はあのグランにこそ相応しいのだろうと思うほどにはガン見である。あまりにも堂々とした態度に、年下の少年相手に取り乱してしまったことまで思い出したゼタは「ォホンっ!」「?」軽く咳払いをして、

 

「あたしだってグランからそういう視線感じたことあるし」

「そう、なのか?」

「そ。だからあんたの不安は杞憂よ杞憂」

「……」

「それでも不安っていうなら、ちょっと落ち着いて考えてみたら?」

 

 ゼタは紅茶を一口。

 

「ベアももう一杯飲む?」

「……飲む」

「砂糖3つね」

「なっ……なしでいい!」

 

 やけくそのように叫ぶベアトリクスに、ゼタは仕方がないものを見るような顔をして、「ったく、本当に負けず嫌いなんだから……」お望みの通りに淹れ直すが、

 

「うええ……美味しくない……」

「砂糖」

「いいい、いらない! このままで飲める!」

「どうせ飲むなら美味しく飲みなさいってば」

「ああっ!」

 

 無駄に高度な駆け引きを繰り広げつつ、ベアトリクスの紅茶に砂糖を入れることに成功したゼタは、「よし」と満足げな表情で、自身の紅茶を一口飲む。ゼタを悔しげに見つめるベアトリクスも、合わせて一口。

 

「……美味しい」

「そ。それはよかった」

 

 ゼタの落ち着いた態度が功を奏したか、それとも気を休めることが出来たのか。大人しくなり、紅茶を飲んではうんうん唸るベアトリクスを、頬杖をついて見つめる。会話はない、静かな時間。静寂がゼタの部屋を包む。

 

 あまり粛々とした雰囲気は好きではないが、今のそれは好きだと言える。緩やかな時間経過はまるで組織に入るよりも昔のことを思い出させて、ゼタは少し笑った。

 

 さて。根っこの部分は子供の頃からまるで成長していないベアトリクスが、どういう結論に至るかを、恐れ半分好奇心半分で待っていると。一度大きく深呼吸をしてから、決意のこもった面差しを向けてくるのに、そう時間はかからなかった。

 

「どう、心は決まったの?」

 

 軽いジャブ。反応はばっちりだ。ベアトリクスは重く首肯して、それを見てうんうんと頷くゼタ。

 

「私、グランと話さないと」

「よかったじゃない。やるべき方針が決まっ「ちょっとグランの所に行ってくる!」って、ちょっとベア!?」

 

 言うが早いか、来たとき同様風のような速さで部屋を出ていくベアトリクスを見て、ゼタはやれやれと首を振ってから、様子だけは見に行こうかと席を立つ。

 

 紅茶を飲ませ、なだめすかし、話をした。ここまで落ち着かせたのだ、もうやらかしたりなんて――大丈夫、よね? あれ、すごい不安になってきた、とゼタは早足になった。

 

 しかし、今回の件は本当に微笑ましい。ベアは本当に乙女なんだから、と口に出さないようにするのが大変だった。

 

 つまるところ、気になっていた異性の趣味が自分から外れていてショックを受けた。ただそれだけの事を、あれだけ騒ぎ立てられるのだから。そんな彼女を愛らしいと思うと同時に、少し羨ましく思う。

 

「恋、か。してみたいんだけど相手がいないのよねー」

 

 これまでの人生で星晶獣を狩り、騎士団に入り、と色濃い人生を送ってきたゼタではあるが、男性との出会いには恵まれていない。自分の肢体や顔にしか目が行かない論外か、組織の男たちのように悪いとは言わないがピンとは来ないものばかり。

 

 気が合う、という条件ならいい意味でグラン、よろしくない意味でバザラガが挙げられるが、両者ともにもう一声ほしいところである。乙女は安売りするものではないのだから。

 

 って、あたしの話はいいんだってば。ゼタは首を振って歩みを進めた。

 

 たどり着いたのは食堂。団員たちの憩いの場であり、自室の次に心休まるところだ。航行中のグランサイファー。今は指揮をジータがとっていることを考えると、グランは自室にこもるタイプでもないし、ベアトリクスの判断は妥当だろう。

 

 さて、と。周囲を見回すまでもなく、一角にグランとベアトリクスの姿が見える。ゼタは「もう少し人が少ないところで聞くべきだと思うんだけど……ま、いいか」と近場のテーブルへ着こうと――

 

「――私はドラフじゃないが、その、胸はある方だと思うんだ……だから、お前の所(騎空団)にいても大丈夫か!?」

「!?」

 

 ――着こうとしたところでずっこけそうになった。

 

 ベアトリクスの用とは、グランも全く予想だにしていないものだったようだ。しかも息を切らせて頬を上気させての一言である。声量を全く気にせず叫ぶように伝えられたその言葉は、当然周囲にも聞こえるわけで。グランやゼタがそっと振り返ると、

 

「おいおい……こんな白昼堂々と」とはラカム。

 

「え、あの……え!?」リーシャは困惑し。

 

「若いのう」ヨダルラーハは眩しいものを見た、とばかりに目を細める。

 

「何やってるのよ、そうよそこで腰に手を回すのよ団長さんほら早く! ああ何慌ててるの女に恥かかせる気!?」耳年増筆頭のコルワは何やら手に汗握ってエキサイトしている。

 

「グラン……さん……?」サラの目からハイライトが消えているように見えるのは気のせいだろうか。

 

 他にもまだまだいる団員の目が、全てグランとベアトリクスに注がれていた。そこまで認識したところで、「俺何かした? 悪いことでもしちゃったのかな? あはははは……」

 

「あのおバカ……」

 

 ゼタは頭を抱えて、本人が気づかないままグランに熱烈な告白を果たしたベアトリクスを今すぐひっぱたきたい衝動と戦う。が、そんなことをしたところでもう遅い。既に何事もない収拾は不可能である。もう燃料は注ぎ込まれてしまったのだ。一度大火が灯ってしまえば、バケツの水程度で鎮火されることはない。

 

「はぁ……」

 

 これの火消は私の仕事か、とひとりごちる。組織でも、ベアトリクスのフォローは大抵ゼタの仕事だった。危なっかしいでは言い足りないのがベアトリクスなのだ。敵には捕まるわ恥ずかしい秘密を自爆するわそそっかしいわ、今も盛大にやらかしているし。今回については、少しだけ焚き付けた自分にも責任はあるが。

 

(あ、でも)

 

 ゼタは浮かしかけた腰をまた椅子に下ろす。普段何事にも動じないグランの、半分諦めたような泣きそうな顔を見ていたら、ちょっとした嗜虐心がむくむくと。珍しい、という驚きや、可愛らしい、とSっ気が顔をのぞかせたのだ。

 

 にんまりと笑ったゼタは、途端にざわつきだした食堂を楽しげに眺める。フォローに回るのはもう少し後でもいいだろう。だってほら、どんどん面白い方向に転がりつつあるし。

 

「お前ってただのおっぱい星人なんだよな? ドラフじゃなくても大丈夫なんだよな!?」

「頼むから黙っててくれベアトリクス!」

「おい団長、その返事はねえだろ」

「けんぞくぅはおっぱいが好きなの? ヴァンピィちゃんは小さくてごめんね……」

「ちょっと待ちなさい。まさかとは思いますがグラン、あなたヴァンピィにまで手を」

「ギャー! 不潔っすけだものっす!」

「グ、グラン……俺は君を信じてもいいんだろうか……?」

「……うちも団長はんの、好みなんやろか?」

「う、う~~~~!! ウチだってまだ成長するんだから!」

「……まあ、年頃の殿方ですから多少は大目に見ますが。その不埒な目でお姉さまを見たら殺します」

「なんとも賑やかねえ」

「本当、みんな楽しそうね」

 

 

 

「――本当に、勘弁してくれーーーー!」

 

 

 

 結局この騒動は、目的地の島に着いてからもしばらく続いた。疲れ果てたグランの顔にシェロすらも驚いたというのは、まったくの余談である。

 

 

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