とある騎空団の日常   作:XEI

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ミュルグレス終身刑にかかりました。く~疲wこれにてグラブル引退です!

……フィンブル掘り嫌だなー


トリプル美少女錬金術師(カリオストロ、クラリス)

 どうして本拠地の船の中で、こんな思いをする羽目になっているのだろう。乾いた笑いが口をついて出るのを、止めようとは思わなかった。

 

 グランはとある部屋の片隅でドナドナを口ずさんでいた。頰は心なしか痩けていて、さながら様相は真っ白に燃え尽きたボクサーのよう。命の危機に瀕しようとも決して鈍ることのない眼光は色を無くし、どこか虚空を見つめている。撤退スタンプにそっくりだった。

 

 ランスロット達のように普段のグランを知る、信頼する者が見れば目を疑うような光景。それを作り出しているのは、部屋の主たる錬金術の開祖、カリオストロに他ならない。ちょっとばかりヤバい秘密が握られた結果、グランはカリオストロの実験台(おもちゃ)にされることになったのである。

 

 ある意味で最年長の美少女錬金術師はとても上機嫌な様子で、「団長さーん、カリオストロが選ばせてあげるね? 右にー、左にー、真ん中ー。どのお薬をキメちゃうのかなっ☆」様々な毒々しいポーションを掲げた。

 

「その言い方はやめてくれ……」

 

 何もされていない内から疲れきった様子でグラン。カリオストロの持つ3種類の薬は改めて見ると、どれもが見るからにドギツいピンクや紫色をしている。飲んだらタダでは済まないことは請け合いである。

 

「ちなみに順番に性転換薬、女体化薬、グランくんがグランちゃんになるお薬だよ☆」

 

 やっぱりタダでは済まなかった!

 

「どれも一緒じゃないか!」

「ほぉ、よく気が付いたな。察しの通り、実は全部同じ薬だ」

「色が違うのは?」

「着色料のぉー、ち・が・い☆」

「無駄な凝り方!」

 

 同じ薬を三つも、しかも色だけ変えて用意した理由を尋ねれば、こーいうのは雰囲気なんだよ雰囲気、とカリオストロはのたまった。その雰囲気とやらで今まさに女体化を経験させられそうなグランとしてはたまったものではない。

 

 というか、

 

「なんで性転換……?」

「その方がぁー、面白いかと思って☆」

「ハッハハハハ、全然面白くないんだけど!?」

「オレ様が楽しめればいいんだよ」

「このナチュラル外道男幼女!」

「好きなんだろぉ? こういう女の子がさぁ~」

「ああ、嫌いじゃないのは認めるさ! でも自分がなりたくはない! そんな変態趣味なんて持ってないし! ……あ」

 

 会話の流れに乗せられて、全く言わなくてもいい事を口走ってしまったグランは慌てて口を抑える。が、もう遅い。

 

「ほぉう?」

 

 温度が感じられない言葉である。カリオストロは先ほどまでのからかい半分美少女モードを脱ぎ捨てて、その鋭い視線でグランを睨め付ける。ごくり、と唾を飲み込んだ。事実、いつも以上にカリオストロは本気だった。

 

「変態趣味、とのたまいやがったか。お前はもう少し、分かってるやつだと思ってたんだがなぁ? こりゃ明日にはお前の性癖が船中に知れ渡ってるかもしれないな? やーん、団長さんったら可哀想☆」

「男に産まれた以上、大きな胸に惹かれるのは仕方がないじゃないか! エロ本については勘弁してくださいマジで!」

「あんなのただの脂肪だ脂肪、直に揉んだこともないエロガキがおっぱいを語るんじゃねぇよ。ヤダ、面白そうだし」

「ぐ……中身なんて関係ない、おっぱいはそれだけで魅力なんだ! カリオストロだって知ってるだろう! そこをなんとか!」

「慎ましさ」

「巨乳!」

「……譲らねぇな?」

「……譲れないさ」

 

 キリっとした表情で実におバカな論争を繰り広げる二人は、もちろん両者ともに大真面目。睨み合いの末、カリオストロはフッ、と笑みを零した。

 

「なるほどな、平行線ってわけだ。やっぱりお前には一度、体験して(ようじょになって)もらうしかねぇか……!」

「誰が! 阻止してみせるさ!」

「オレ様相手によく吠えた! だが、甘いぞグラン……ウロボロス!」

「っ、しまった!?」

 

 カリオストロの指示があるや否や、背後から猛烈なスピードでグランの体を這うウロボロス。カリオストロ本人とその薬を警戒するあまり、ウロボロスの存在を失念していたグランは、呆気なく自由を奪われて締め上げられる。

 

「壁に耳あり障子に目あり、床にウロボロスありってね☆」

「語呂悪くない!?」

「気にするな、錬金術師流の諺さ。さて……それじゃあ団長さんっ、お楽しみの時間だよ☆」

「ちょっと待ってくれカリオストロ! 他の頼みなら優先的に聞く! 聞くから! だからその薬はちょっとほんとにやめてくれあのちょっ……アーーーーーーーーッ!」

 

 野太い悲鳴が、部屋に木霊した。ただしカリオストロの部屋は防音壁なので誰も気づかないし助けにも来ない。現実は非情である。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ほぉれグラン、どうだ? 美少女ボディの心地は?」

「……スースーするんだけど」

「スカートなんてそんなもんだ、いずれ慣れる」

「……ズボンは?」

「ねぇよ。オレ様のパンティならあるが?」

「履かないよ!?」

 

 嗜虐心100%の笑顔で下着をヒラヒラとグランの目の前で振るカリオストロに、グランはたじたじである。勘弁してほしい。たとえ現状女の子同士だからといって、中身は男のままなのだから! ……なんか考えてて死にたくなってきたグランだった。

 

 天才が作ったポーションの効き目はさすがというか、グランは見事に幼女化していた。身長はカリオストロとどっこいのちっこさで、癖っ毛を少し伸ばしたグランが縮んだような印象。中性的でありながら線は丸みを帯びていて、まさに美少女である。

 

 しかも哀れ、着替えまでさせられているときた。体のサイズが違うので、自分の服が着られなくなったからだ。裸でいるわけにもいかず、匠カリオストロの手によって、全身ロリロリファッションに身を包んでいるのである。多分鏡見たら泣くと思う。

 

 とても大事なものを失ったような気分のグランだった。

 

「次は何を着せよっかな~☆」と非常に愉しげなカリオストロと対称的に、気分はどんどん滅入っていく。

 

 というか何そのフリフリいっぱいのアイドル衣装みたいな服。そういうのは巫女さんとかに渡したらいいと思うんだけど。

 

「はぁ……効能はこれで確認できただろ? もうやめにしようよ、カリオストロ」

「あ? 何言ってやがる、まだ一時間も経ってねぇんだぞ」

「俺は一生分の女装を味わったよ……」

 

 着せられた服のフリフリの袖を腐った魚のような目で眺めながら、グランは嘆願する。

 

「明日だって依頼があるんだ。そろそろ備えて寝たいし、元に戻してほしいんだけど」

「え? カリオストロ、そんなの用意してないよ?☆」

「……え?」

 

 それはある意味、最もこの状況で聞きたくなかった言葉かもしれない。

 

 女体化後、グランは初めて顔を上げて視線をカリオストロと合わせた。鬼畜錬金術師の方は「悪くないな……もちろんオレ様ほどじゃないが、中々の美少女だ」などとうんうん頷いている。その発言も改めてダメージなのだが、重要なのはそこではない。

 

「ん? どうした?」

「いやちょ、待……え!?」

「だってぇ、今朝できたばかりのお薬だしぃ☆」

「ははははは、カリオストロは冗談が上手いなぁ」

「えへっ☆」

「……」

「んー?☆」

「……マジ?」

「うん、大マジ」

「……ええー……」

 

 ついにグランの目からハイライトが消えた。ポム、とカリオストロは肩に手を置く。

 

「どんだけ長く見積もっても、半年もあれば元に戻るさ。安心しろ」

「ウソでしょお!?」

「なぁグラン。オレ様と美少女ライフ、楽しもうぜ?」

「カケラも惹かれない誘い文句ありがとう、遠慮します! ……遠慮できるよね!?」

 

 えっこれどうすんのマジで。戻れるよね、戻れるって信じてもいいよね。じゃないと、今まで団長として頑張ってコツコツと積み上げてきた信頼とか威厳とかその辺どうすんの? ……いやまあ、尊厳の方に関しては最近元々揺らいでたところはあるけどさあ!?

 

 この姿で? 先陣切って戦ったり騎空団運用したり依頼人と交渉したりするの? ウソウソそんなの嘘に決まってるこれは夢そう悪い夢なんだヴェトルの悪戯なんだよそうだよなジータハハハええ……。

 

 そして床に突っ伏したまま動かなくなる。グランも色々と限界である。もう何も考えたくない。

 

 さすがにここまでの壊れっぷりを見ると、最初は爆笑していたカリオストロもさすがに罪悪感が芽生えるわけで「グラーン?」と声をかける。もちろん返事はない。

 

「……」

 

 伊達に千年生きていないカリオストロ、グランの心が真面目に折れかけている(というか折れてね、これ?)ことには当然気づく。つんつん突ついても、ウロボロスにはむはむさせても、スカートを捲りあげても、グランは死んだように動かない。重症のようだった。

 

 ここにきて、カリオストロはようやく己の悪辣さに気が付いた。というか気づいてて無視してたけど認めることにした。だってこんなグラン、詰まらないではないか。

 

 それに、趣味は個々人のもの。押し付けるものではないのだ。今回はいささか悪乗りが過ぎたか、と心の中でだけ呟いて反省する。

 

 一つ大きくため息をつく。

 

「……しょうがねぇ、解毒薬、作ってみるか」

「カリオストロ!」

 

 復活。そしてひしっと抱き着くグランに「お、おい!?」と一瞬慌てるものの。グランが男状態じゃないのも相まって、カリオストロはすぐに落ち着いた。ちなみにグラン、解毒薬というワードは聞かなかったことにした。精神安静のために致し方ない措置だ。

 

 カリオストロはポンポン背中を叩いてグランを落ち着かせてから、頬をポリポリと掻いて、「はぁ、今回はオレ様が悪かったよ。だから何とかするのを手伝ってはやるさ」とぶっきらぼうに言い放つ。

 

「うんうん……うん?」

 

 涙ながらにカリオストロの事を見直していたグランは、とある一言に引っかかりを覚える。いま、「手伝ってやる」とかおっしゃいませんでした? 戻してくれるんじゃなくて?

 

「えっと……カリオストロ?」

「聞き間違いじゃねえぞ?」

 

 床に積まれた本の山の向こう側から、カリオストロはぽかんとした表情のグランに白衣と保護メガネを投げつけた。ぱちくりとそれを見つめるグランに、「何してる、さっさとアルケミストになれ」と、試験管やらを準備しながら注意する。

 

「もしかして……」

「せっかく将来有望なやつが、錬金術の深域の一端に触れるんだ。ただオレ様が治してやるってのも芸がないだろ? そう思うよなぁ?」

 

 振り向いたカリオストロは、とてもイイ笑顔だった。ぶっちゃけ今は男に戻れれば何でもいいのだが、バカ正直にそう言ってカリオストロがへそを曲げても困る。グランは勢いよく何度も頷いた。

 

「でしょう? だから、今日は特別講義をしようと思うの☆

 団長さんには是非、錬金術の何たるかを……いや、待てよ」

 

 カリオストロは人差し指を唇に触れさせ、一瞬考え込んでから、「もう一人受講者を増やす。いまから連れてくるから、その辺からペンや羊皮紙でも漁って待っとけ」と言って出て行ってしまう。

 

 声をかける間もなく、一人部屋に取り残される形となったが。

 

 当然、グランに逆らう選択肢はなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「という事で、グランちゃんになった団長さんだよ☆」

「いやどういう事態!? クラリスちゃんさっぱり分かんないんだけど!?」

 

 錬金術の受講生として。まあ予想通りというか、カリオストロが呼んだのは、同じく錬金術師で子孫のクラリスだった。

 

 いきなり引っ張られてきたクラリスはとても困惑していた。突然、師匠に部屋に呼ばれたと思えば、女体化した上にちんまいグランとご対面。クラリスの心境は、まさに「ちょっと待ってほんと意味分かんない」に尽きた。そりゃそうである。適応できる方がおかしい。

 

(というか小さい、可愛い、肌とかすっごいキメ細やかだしもち肌なのかな、えっ何それずるくない?)

 

 案外順応していた。どうなってんだこの一族。

 

 ハッと我に帰る。ついつい女子目線でグランを見ていたクラリスだったが。それどころじゃない、と首を横に振ってから、「それで? ウチはなんで呼ばれたの?」グランの隣に腰掛けて尋ねた。

 

「錬金術の特別実習さ。今回の課題は女体化現象の鎮静化をテーマとする。被験者はグラン。監督役はオレ様。お前ら二人は生徒ってワケだ」

「ふーん、治しちゃうんだ。結構可愛いのに、ちょっともったいない気もするなー」

「……」

「あ、あれ? グラン!? なんで泣いてるの!? えっ嘘ごめんってば!」

「ああ、今グランかなり繊細だから扱いには気をつけろよ」

「その情報もっと早く言ってよーー!?」

 

 さめざめと涙を流すグランに大慌てのクラリスは、「ほ、ほら! 今のグランも好きだけど、いつものグランの方が、うち好きだよ? かっこいいし、頼りがいあるし! だからね? ね? 泣かないでってばーっ!」と盛大に自爆していた。

 

「お前、中々大胆なこと言ってるが自覚あるか?」

「はぅあ!? あ、えっと……違くて、でも違ってなくて……あの、その……あーーもーーっ! 分かった! 最カワ錬金術師のクラリスちゃんも何とかするの手伝うから、それでいいでしょ!? はい、以上! この話は終わり!」

 

 顔を真っ赤にしてぷんぷん怒らせるクラリスに、カリオストロは呆れたような視線を向ける。

 

「当たり前だ。弟子は師匠に絶対服従、前も言っただろ。これも錬金術の一つの結果だ、大人しく勉強するんだな」

「わかってるっ」

 

 クラリスはすーはーすーはーと深呼吸を繰り返して、なんとか意識を切り替えようとする。そして「よし!」の一言とともに、いつもの自信満々な顔を見せられる程度に持ち直したようだった。

 実際はまだ顔赤いけど、そこに触れると話が進まないことぐらい誰もが分かっているのでスルーである。

 

「さて」

 

 カリオストロは主題を切り出す。

 

「まずは情報共有だ。オレ様が開発した「ドキッ! 気になるあの人を性転換☆」ポーションを飲んだグランが幼女化した。以上だ。他に聞きたいことがあるならここではっきりさせておけ」

「うん、これでもかってくらいぶっ飛んでるけどそれはもういいや……ねえねえ質問ー。ししょー、それって何かがグランに影響を及ぼしてるって事でしょ? うちがグランにドッカーン! したらダメなの?」

「失敗したときグランの体が吹き飛んでもいいならオレ様は構わないぜ?」

「……」

「そ、そんな顔しなくてもやらないってば! 冗談だよ冗談、錬金術師ジョーク!」

 

 錬金術師が信用できなくなりつつあるグランだった。

 

「クク、英断だ。元々クリアもディスペルも効かないように設計してあるからな」

「うっわー、無駄のない無駄に洗練された無駄な技術」

「叡智ってのは、その無駄から生まれたりするもんさ……さて、無駄話は終わったな? じゃあまずは、「ドキッ! 気になるあの人を性転換☆」の原理について話していくぞ」

 

 もはやツッコミを入れる気力もない。カリオストロはそんな二人に背を向けて、黒板にチョークを走らせる。

 

「いいか? 錬金術は高度だが、学問であって魔法じゃねぇ。バカじゃなければ誰にでも門戸を開く技術だ。それを頭に入れてから聞け。まず、女性と男性の体の違いは――」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「へー、それが原因だったんだ」

「ああ、いまグランのY染色体は特殊なX染色体に変化している。それが女体化現象の大元の原因だ。……じゃあ問題っ、どうやったら団長さんは元に戻るでしょう?☆」

「はーい!」

「はい、クラリスちゃん、どうぞ☆」

「えーっとね、YがXになっちゃってるのが悪いなら、XをYにする薬を作るのってどう!? これで決まりーみたいなっ☆」

「そしたら全部がYになるじゃねぇか。YY染色体の人間なんていねぇよ、お前はグランを何にするつもりだ……?」

 

 ぶーっ。クラリスは論破されて撃沈する。グランも「じゃあ」と手を挙げた。

 

「ん、グランか。いいぞ」

「Yを保護する薬を作るとか」

「うーん、残念賞☆

 発想は悪くねぇが、変性したYを今さら覆って守ったところでそれがXに戻るわけじゃねぇからな」

「なるほど」

 

 実に理論的な話だった。すかさずメモを取る生徒二人。メンバーがメンバーだ、最初こそハラハラドキドキの心証だったが、グランも意外に思うくらい講義は着々と進んでいた。

 

「うーん、難しいよぉー! いっそその染色体? ってやつ全部入れ替えちゃうとかどう?」

「元に戻りたいって言ってるのに中身とっかえてどうすんだ、アホ弟子。……お前、実はグランが嫌いなのか?」

「え……」

「そそそそんなわけないし! だからグランも真に受けるのやめてってば!」

 

 ……着々と、進んでいた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「じゃあこんなのはどう?」

「それだと結局――」

 

「リィンフォースじゃ治らないの?」

「クリアは無効にするって言っただろ」

 

「……やっぱりドカーンとやっちゃわない? ほらうち、ししょーの時はバッチリ成功したしさ、今回もきっと大丈夫だって!」

「……」

「なんで目逸らすの!?」

「それが信用ってやつだ」

「そ、そんな……グランは、うちのこと信じてくれてるよね? ねっ?」

「……ごめん」

「グランーーっ!?」

 

 ああでもない、こうでもない。四苦八苦するクラリスとグランに、適宜アドバイスを送る形のカリオストロ。

 

 長い夜になった。そして――

 

 

 

 ☆

 

 

 

「……ん」

 

 眩しい。窓から差し込む日の光に、むくりと起き上がるグラン。眼をしょぼしょぼとさせながら大きく一伸びする。そして、ミチィ! とヤバめの音がしたので即座に固まった。徐々に眠気が覚めてくるうちに気づく。

 

 ――目線が、高い。手足も窮屈なことを除けば違和感がなくなっている。こ、これは……!

 

「も、戻ったのか……? 戻れたのか! やったあああああ!」

 

 ヒヒイロカネが手に入った時でもここまでは喜ばないほど、グランは心の底から歓喜の声を上げた。やっぱり男に生まれた以上、男でいることが一番心の平穏にいいのだ。そもそも大半の人間は一生性転換することなど無いのだが、とにかくグランは戻れたことが純粋に嬉しかった。

 

「……うっせーぞぐらん……」

「むにゃむにゃ……やっぱりクラリスちゃんがさいかわだよね、グラン……」

「!」

 

 両隣にはクラリスとカリオストロが寝ていた。しかも全員で一枚のタオルケットを共有している始末である。どうやらカリオストロの部屋の中で夜を明かしてしまったらしい。

 

「そうか……二人とも、付き合ってくれてたんだよな……」

 

 二人の寝顔を見て、グランは心の中が暖かくなった。

 

 眠気との戦いでもあった、詳しく覚えているわけではない。それでも二人が真剣に、親身に自分のために知恵を絞り、時間を割いてくれていたことは間違いない。いやまあそのうち片方は元凶も元凶なんすけどね、と少し遠い目にもなりかけたものの。胸に抱いた感謝の気持ちは、本物だったからだ。

 

 本当にいい仲間に恵まれた、そう実感するグランだった。

 

「にしても、さすがにこの格好は勘弁だ。……生地とか伸びきってるけど、破ったりしない方がいいよな?」

 

 ぱっつんぱっつんになってしまったフリフリロリータファッションの服をどうにか脱げないかと四苦八苦するグランは、何とかスカートを下ろすことには成功した。問題は上半身だが、どれだけ身をよじらせても隙間の一つも作れそうにない。これ切断せずに脱ぐの無理じゃね? と途方に暮れ始める。

 

 そんな時だった。

 

「……これ、どういう、状況……?」

 

 声がする。それも、扉の方から。ギギギ、とグランが油の切れた機械のようにぎこちなく振り返ると、顔面を蒼白にさせたジータが、グランをハイライトの消えた目で見つめていた。その目は冷たいようでいて、それ以上に自分こそが冷水をぶっかけられたような、見ていて酷く心がざわつくものだった。

 

 さて、客観的にグランの状況を分析すると、『着れもしない女児の服を無理やり身に着けて、美少女2人と同じ部屋で夜を明かしたと思われる半裸の男』だ。字面だけでも完全にアウトである。絵面はもっと酷い。

 

 並大抵の件ならともかく、これを誤解だと思える懐の深い人間などそういるはずもない。少なくともジータには十年来の信頼よりも現状のヤバさが勝っていた。

 

 ジータの顔に浮かんだ感情を、グランは正確に把握する。そしてそれが、結構マジで根深そうだという事にも一目で気づいた、気づいてしまった。

 

「違うんだジータ」

「何が違うのか、よく分かんないんだけど」

 

 ジータは一歩下がる。グランは一歩詰める。

 

「とにかく違うんだジータ!」

「わかった、わかったからさ……特殊なプレイは、TPOを弁えてからしてよね」

 

 今度は二歩下がる。グランもまた詰める。

 

「待ってくれジータァ!」

「うるさい寄るな変態!」

 

 最後は踏込だった。追いすがろうとしたグランの鳩尾を的確に射抜く強烈な右ストレートである。精神的ダメージで背水かかってるので気持ち威力高いかもしれない。グランは一発K.O.された。

 

 倒れ伏すヤバい恰好のグラン。目を背けるジータ。深い眠りにつく二人の美少女錬金術師。とてもカオスな状況である。

 

「じ、ジー、タ……」

 

 グランは震える声を振り絞りながらジータへ手を伸ばすが、

 

「ごめん。ごめんね、グラン。でもね……グランのそういう姿、すぐには受け入れられそうにないから……少しでいいの、時間をちょうだい」

 

 バタン、と。言うが早いか扉を勢いよく閉めたジータには届くことはなかった。

 

「いや、だから……受け入れなくて、いいから……」

 

 だってマジで誤解だもの。その一言を告げることすら出来ずに、グランはカリオストロの部屋で床に沈むのだった。ちーん。

 

 

 

 

 

 

 ジータは脇目も振らずに廊下を疾駆した。目的地は自分の部屋である。そのままベッドの中に飛び込んで、何も考えずに布団に包まっていたい。いまは誰にも会いたくない気分だった。

 

 信じたくはなかった。兄妹同然に育ってきた大切な人が、その……口に出すのも憚られる趣味をしていたなんて! しかし、さっきの光景が現実なのだ。グランはきっと、カリオストロたちと夜な夜なピーで自主規制なドッカーンをしていたに違いない。だってそれ以外にどんな事情があればあんな姿になれるのか。

 

 一緒にいた期間なら、私の方が長いのに。なんで、どうして? そんな言葉だけが、ジータの心を埋め尽くした。そんな中、思い起こすのは幼少時代から旅立ちに至るまでの、グランとの思い出である。

 

 ビィとグランと三人(二人と一匹?)で誕生日パーティをした。川に入ってお互いびしょ濡れになった。雷が鳴る夜、一緒のベッドで寝た。そんな懐かしく暖かな思い出が、頭の中を泡のように浮かんでは消えていく。

 

 他人の性癖を悪く言うつもりはないが、さすがに程度があるというか、シャレになってないというか、誰よりも近しいと思っていた人の変貌はジータにそれだけのショックを与えていた。

 

 そして、一つ大きく決意する。

 

 グランがそんな道を選んで秩序絶対守るウーマンにトワイライトソードされるぐらいだったら、私は――

 

 

 

 

 

 

「おっ、よう副団長! どうした、今日は元気――」

「……っ!」

「だな、……って」

 

 朗らかに手を挙げながら挨拶を試みたフェザーだが、ジータはそれに答えることなく走り去ってしまう。速度を一切緩めることなく疾駆するジータはすぐにフェザーの視界から消えていなくなり、彼はそれを見送ってから困惑した。

 

 明朗快活才色兼備のジータが、挨拶を無視するなど尋常な事態ではない。それに何より、その目にはきらりと光る雫があったように見えた。

 

 一体何があったのだろう、と拳を組みながら頭をひねる。フェザーは知っているのだ、拳はすごい、拳で考えればどんな難題でも解決する。拳に間違いはない。拳は最強なのだ。

 

 そしてなぜか、考えが至った。あの副団長が良くも悪くも心を砕いている拳の持ち主といえば、フェザーも認める拳をした彼の団長に違いない。恐らくだが、団長と手合わせをして完膚なきまでにやられたのではないだろうか。

 

 おお、意外といいセン行ってるんじゃないか!? オレも痛い目にあったしな、気持ちは分かるぜ! と全く見当はずれな納得をしたフェザーは、「こういう時こそオレがなんとかしなきゃな!」とテンション高らかに拳を握る。

 

 なにせ稽古や鍛錬こそが実力の不振を払ういい原動力なのだ、伸び悩んでいるだろう副団長を助けなくて何が団員か! それに、壁とぶつかった経験は決してジータに劣るものではないと自負しているフェザーである。アドバイスの一つや二つ出来るだろうと思ってのことだった。

 

「副団長の事はオレがなんとかしてみせる!」

 

 そう息巻いて、彼は自室へ戻って行った。

 

 

 

 ――そして。

 

「……何よ何よ、なんなのよこの状況はーーっ!」

 

 そんな状況を偶然見かけたハッピーエンド好きの作家がいたりして。蒼空を駆けるはずのグランサイファーは、暗雲立ち込める混沌の未来へと飛空する――っ!

 

 

 

「いやいやいや、うちにもししょーにもグランにもそんな趣味とかないからっ!?」

「オレ様でももっと普通の性癖してるっつーの」

「えっ」

 

 そんなこともなく、当人同士の問題は顔真っ赤にしたクラリスとめんどくさそうなカリオストロの弁で解決した。必死に謝ってくるジータをなだめつつ、ほっと胸を撫で下ろしたグランだった。




予定の倍の量になったし、そもそもプロット崩壊したし、グランはいらない傷をたくさん背負うし、カリおっさんは目を離すと錬金術について語りだそうとするし、シヴァもアグニもハデスも引けない

あれれー? おかしいぞー?

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