戦争、ただそう呼ばれている神・堕天使・悪魔の三つ巴の戦い。
人々の信仰によって力を得た神、神によって排泄され、存在をゆがめられた悪魔、神に離反・定められた戒律を良しとしない物達堕天使。
戦争は拮抗していた。神によって生まれ続ける天使。
生まれた天使の中から、戦争によって様々な思想を得て堕天する者、人と交われる堕天使。
出生率や、戦争における絶対数は少ないながらも魔王一人一人が一騎当千であり、それ以外の悪魔も精鋭と呼べる悪魔達。
だがその拮抗も少しづつであるが崩れかけていた。
長期の戦争により、地上は荒れ果ててしまい、信仰を得られなくなった神。
聖光が毒となり、一撃が致命傷となりうる悪魔。
長い間続いた拮抗は、少しづつ・・・確実に堕天使側へと傾いていた。
「勝利は目前だッ!神を!魔王共を打ち取れ!!」
「おいコカビエル!突っ走るんじゃねぇ!」
黒い髪と紅い目を携えた4対の黒翼の男が味方の士気を煽りながら戦場の中へと仇敵でも見つけたように飛び出していく。
コカビエルと呼ばれた男の放つ光の槍は天使と悪魔を撃ち抜き、瞬く間に10の敵を滅していた。
「アレに何を言っても無駄、あの脳筋は何も考えちゃいないわ」
「うおぉぉ!ティルカナ!?いつから居やがった!!」
「アレが突っ込む前くらい」
ティルカナと呼ばれたのはドラゴンの洞窟に居た堕天使だった。
彼女は何でもないだろうという風に黒と金が混ざった髪をしている堕天使に言った。
「ったく、何処行ってやがった。戦争中だってのに。お前がグリゴリの最大戦力と言っても過言じゃあ無いんだぜ?」
「あ、そう。私は戦争になんか興味ないし、グリゴリが負けてもいいからさっさと終わってほしいわ。それに魔王を一人を戦闘不能にしたのだからお硬いのは抜きにして頂戴」
「あらまあ冷めてらっしゃいますこと・・・っておいマジか」
軽口を叩きあっている二人ではあるが、その実グリゴリという組織の3大トップの内二人が並んでいる状況であり、引っ切り無しに迫ってくる敵を2割を男が、8割をティルカナが吹き飛ばしていた。
「っち、本当にどんだけ沸いてくるんだよ・・・こちとら少数精鋭だってのに」
「まだ神側が人間を使ってないだけでいい方でしょう。」
「あぁ・・・神器か・・・弄りてぇ!!」
「それならば神と和解でもしたらいかがでしょう、か!」
「そいつは断らせて、もらうぜッ!・・・あんなところに居たら頭が狂っちまう」
二人は"何時も通り"軽口を叩き合いながら、"何時も通り"敵を薙ぎ払っていた。
だが、"何時も通り"ではない事が起こった。
虹色の閃光が地表から放たれ、戦場のど真ん中を消し飛ばしたのだ。
『・・・私の気が触れぬうちにこの地より去れ・・・この地を荒らすことは何人も許さん』
竜が、ドラゴンがその顎を開いていた。おそらくブレスであろうものが通った道筋には何も残っておらず、余りにも強大な力故か、一部時空が捻子曲がっていた。
「ば・・・かな・・・ドラゴンだと・・・何故…こんな場所にいやがる・・・!?」
「アザゼル、軍を撤退させなさい」
この世の理を超越せしもの、それが目の前に居る事に愕然としているアザゼルに対し、憮然と言い放つティルカナ。
「・・・は?あ、あぁ。グリゴリは戦闘行為を即刻中断し本陣へ戻れ!!」
『馬鹿な!!何をほざくかアザゼル!怖気づいたか!我らがドラごあぁぁ!?』
遠方から魔力に乗せた怒りに満ちた咆哮が聞こえたが、その言葉は最後まで発することなく、一人の堕天使によって止められた。
「全軍撤退しなさい。撤退しないものは離反者として、すべからく私が処断します。前線のものはそこの馬鹿を連れて行きなさい」
その一人の堕天使とはティルカナであり、コカビエルは七本の光鎖によって体を貫かれ雁字搦めにされていた。あまりの情け容赦の無さに前線に立っていた他の堕天使たちは顔を青くしながら次々と撤退する。
「私が殿を・・・アザゼル、貴方も下がりなさい」
「・・・わかった」
有無を言わさぬ目に負けたアザゼルは他の者達同様転移によって本陣へ戻る。
撤退しているのは堕天使だけでなく、悪魔側もであり、その殆どが撤退を完了していた。
しかし神の陣営は撤退をしておらず悠々と前線へと身を出してくる。
『竜、理を背負いしドラゴン・・・ここに来て我の邪魔立てをするか』
『この地を荒らすことは許さん』
神の言葉に対しては、言う事はないと突き放すように、先と同じ言葉を繰り返し投げ返すドラゴン。
静かに、だが確かに神は怒りを覚えているのだろう。神の周りを力が巻き始める
そしてその光景を見て頭を抱える堕天使ティルカナ。
仕えていた神ながら阿呆だ。神は確かに潔白且つ、崇高であろう存在ではあるが、それは危うさの上にギリギリで成り立っているものだ。
それ故に神がこう暴走することは何度かあった。
(今回に限っては・・・まずい、非常にまずい。三大勢力によって戦争が集結するのは構わないですが、それ以外によって集結するのは・・・)
『下らん。ドラゴンよ、その言を我が聞き入れる意味が無い・・・』
その言葉と同時にミカエルとガブリエルがその隣で武器を構える。
(あの盲信者共がッ・・・)
『そう・・・か・・・』
少し、ほんの少しだが無機質に宿った淋しげな声が聞こえた。
そしてその光景を追えたものはどれ程いたか、恐らくはルシファー、ベルゼブブ、ティルカナが少し認知できたであろう。
神を含めた四天使内二体と多くの天使達が吹っ飛ばされるのを。
比喩ではなく吹っ飛んだのだ。
殺傷能力はなかったようだが、その体は一瞬で見えなくなり、残された天使も何が起こったかわからず呆けていたが、すぐに次々と消えていった。
「・・・あぁ、もう戻ったのね・・・」
ティルカナが地表を見下ろすと、そこにいたドラゴンは消えようとしており、その柔らかな羽毛に包まれた尾が洞窟へとスルリと入っていくところだった。
ドラゴンがいなくなったことを確認したティルカナは残った悪魔達が全員戻ったのを確認した後、グリゴリの総本山へ・・・・・・戻らずにドラゴンの元へと飛んでいった。
「全く・・・何故あのような事をしたの?」
『・・・貴方がこの地を美しいと、そう言った』
洞窟に入るやいなや『怒ってます』雰囲気を振りまきながらティルカナはドラゴンに問う。
その問にドラゴンは彼女の目を真っ直ぐに見ながら過去ティルカナが言った言葉故にとそう答えた。
「・・・?・・・・・・ッ~!」
ティルカナは一瞬呆けた顔をした後、頬を赤く染め、黒翼を出し洞窟を物凄い勢いで後にした。
『貴方がこの地を美しいと、そう言った』
その後グリゴリに戻ったティルカナが、自身の目を見つめながら発された言葉を頭の中で反芻させ、顔を真っ赤に染めながら美しい黒と銀の髪をブンブン振り回すという奇行を行う、『冷血戦鬼』と呼ばれるティルカナにグリゴリ全体が驚愕し、アザゼルが『おっおっ?』と煽ろうとしてコカビエルと同じ目にあった。