【完結】*君がいるから*   作:ラジラルク

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episode,15 アスタリスク

 

 私は遠くからみくの名を叫んだ。見覚えのある忘れるはずもない後姿は短い髪を揺らして振り返った。東京駅内を行き交う大勢の人たち――……、みくはその人混みの大波の中で一人だけその場で足を止めて立ち尽くしている。

 大勢の人の波の中で立ち尽くす私たち二人を無視するかのように周りの名も知らぬ人たちは足早に私たちの傍を過ぎ去っていく。そんな大波の中で立ち尽くす私だったが、私の目には傍を過ぎ去っていく人たちは映っておらず、遠くの懐かしい面影のみくだけが私の目に映っていた。まるでこの世界は私とみくの二人だけしかいないかのような錯覚に陥りそうになってしまう。

 ドキドキする胸を抑え込むように、私はギュッと目を細めた。

 

 

 

 

「李衣菜……ちゃん?」

 

 

 

 

 久しぶりに懐かしい声を聞き、思わず胸の奥が熱くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――Episode.15 アスタリスク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の声に振り返ったみくは驚いたような表情をしてその場で固まっていた。先ほどまでキャリーバックを握っていた右手はキャリーバックから離れていて、ピンクのキャリーバックはみくの隣に立つようにして並んでいる。当の本人は自分の右手がキャリーバックから離れていることにすら気付いていないようで、ただただ見開いた瞳でジッと私だけを射抜くようにして見つめていた。

 そんなみくの元へと、私の足は無意識に進んでいく。ゆっくりとゆっくりと、みくだけを見つめて一直線に歩み寄っていく私を、みくは依然として固まったまま立ち尽くして見つめていた。

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、みく」

 

 

 

 

 色々と言いたい事、伝えたい事、聞きたい事、沢山あったはずなのに。当の本人を前にすると何故か恥ずかしくなって無難な言葉しか出てこなかった。

 ほんの少しばかり熱を帯びる頬の私を見つめるみくはようやく金縛りが解けたのか、固まっていた頬の筋肉を緩めて静かに笑った。

 

 

 

 

「久しぶり、李衣菜ちゃん。元気してた?」

 

「あ、うん。まぁまぁかな」

 

 

 

 

 なんだか妙に落ち着かなくて、私は左手の薬指で熱くなった頬を掻きながら視線を泳がせる。その泳がせた視線が、みくの隣で放置されたままになっていたピンクのキャリーバックを捕まえた。その視線に気が付いたのか、みくも自身の隣のキャリーバックに目をやった。

 

 

 

 

「大阪に帰ってたの」

 

「え?」

 

「あー、違うよ。一泊二日だけね。ちょっと用事があったから」

 

 

 

 

 思わず安心したような溜息をついた私を見てみくは静かに笑っていた。

 

 

 

 

「李衣菜ちゃんは? こんなとこで何してたの?」

 

「私? 私は夜の仕事まで暇だったからぶらぶらしてただけだよ」

 

 

 

 

 そっか、相変わらず仕事大変そうだね。みくは苦笑いをして呟く。

 みくは――……、みくは今何をしているのだろうか。千早さんから声優として活動していると聞いて、私は必死にみくの詳細を調べたが声優の月刊誌にもネットにも何処にも今のみくの詳細は載っていなかった。何度調べても出てこなかったのに、それでも私は暇さえあればずっとみくの情報を探し続けていた。何度もネットで検索をかけたり、既刊の声優雑誌を漁って見たり。 

 それでもいざこうして本人を目の前に会ってみると、そんなことはどうでもよくなってしまった。ただただみくが元気に生きているという事が分かっただけで、今の私には十分だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京駅から出た私たちは駅の裏側にある公園に来ていた。夕暮れ時を迎えた綺麗なオレンジ色の空の下、勢いよく吹き上がる噴水が夕焼け色に染まっている。生暖かい風が吹き抜けるこの公園で、私たちは隣り合うにして座っていた。

 

 

 

 

「そっかぁ、芸名を使ってたんだね。だから分からなかったんだ……」

 

 

 

 

 

 私はプロデューサーの送別会からの半年を李衣菜ちゃんに話した。大阪に帰る直前にプロデューサーから声優の養成所を紹介してもらったこと、住む家がなくて菜々ちゃんの家に居候していること、今は養成所に通う傍らコンビニバイトで生計を立てていること――……。

 シンデレラプロジェクトにいた頃とは比べ物にならないくらい苦しい生活を送っている今の私の生活を、何処まで正直に話そうか迷った部分もあった。だけど李衣菜ちゃんになら包み隠さず話してもいいかなと、そう思った私は今の私の全てを包み隠さず話すことにしたのだ。

 李衣菜ちゃんはずっと夕焼け色に染まる噴水を見たまま、私の話を聞いてくれた。途中に言葉を挟むこともなく、ただただ相槌を打ちながらずっと噴水だけを見つめていた。

 

 

 

 

「私ね、実は千早さんから聞いてたんだ。みくが声優として活動してるってこと」

 

「千早さんって、あの如月千早さん?」

 

「うん、アニメの収録スタジオでみくを見たって教えてくれたの。だからずっとネットや声優雑誌でみくの名前を探してたんだよ」

 

「あー……」

 

 

 

 

 如月千早が私を見たというのは、おそらく初めて声優としてスタジオに立って何も出来ずにクビ宣告を受けたあの日のことだろう。あの日の事を思い出して思わず苦笑いをしてしまう。

 

 

 

 

「その収録なんだけどさ、実は色々あって私、結局出れなくなっちゃんだよね」

 

「え? そうだったの?」

 

「うん、だからホントはね……。私、まだデビュー決まってないんだ」

 

 

 

 

 

 自分でも思っていた以上にあっさりと言葉に出来てしまい、内心驚いてしまった。私以外のシンデレラプロジェクトの皆が輝ていることに劣等感を感じて、あれだけデビューに拘っていた自分がまるで嘘のように、すんなりと言葉にして出せてしまったのだ。

 李衣菜ちゃんは、「そっか」とだけ呟くとそれ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

「本当は復活ライブまでにデビューを決めたかったんだ。もしデビューが決まらなかったら今度こそ大阪に帰ろうって思ってた」

 

 

 

 

 ほんの少しばかり私は焦っていたのかもしれない。声優の世界が半年ちょっとで極めれるほど簡単なものではないのだと分かっていながらも目先の結果に拘り過ぎて――……。でも一度立ち止まって自分の生まれ故郷である大阪に帰って本当の自分を見つめ直すことができた。それと同時にどれだけの人が私の事を応援してくれていたのかも、今更ながら知ることができた。

 “才能がない”とか“自分には無理だった”とか、そういった事を理由にして止めるのではなく、自分が納得できるかどうかまで私は夢を追いかけ続けてみようと思ったのだ。

 

 

 

 

「でもね、やっぱり私は諦めたくないから……、もう少しだけ、もう少しだけ頑張ってみようかなって思ってるの」

 

「良いんじゃない? みくらしくてロックだと思うよ」

 

 

 

 

 李衣菜ちゃんはそう言って笑ってくれた。

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

「本当は復活ライブまでにデビューを決めたかったんだ。もしデビューが決まらなかったら今度こそ大阪に帰ろうって思ってた」

 

 

 

 

 みくの言葉を聞いて、私の胸の奥が締め付けられたような気がした。『諦めて大阪に帰る』、この言葉だけは私がみくの口からは絶対に聞きたくない言葉だと思っていたからだ。

 少しでも平静を装うと、私は動揺を隠すように口元に右手を当ててみくの次の言葉を待っていた。だけど激しく動き続けている私の胸の音は、隠しきれずに私の耳にまで響き渡っている。

 

 

 

 

「でもね、やっぱり私は諦めたくないから……、もう少しだけ、もう少しだけ頑張ってみようかなって思ってるの」

 

 

 

 

 そう言って少しだけ苦笑いを受けべたみく。私の胸の鼓動は一気にペースを落とし、私は心の中で思わず安堵の溜息をついてしまった。

 良かった――……、そう思ったのと同時に全身の力が抜けていくような気がする。みくは苦笑いを浮かべながらも、だけど決意のこもった迷いの瞳で私を見ていた。

 

 

 

 

「良いんじゃない? みくらしくてロックだと思うよ」

 

 

 

 

 私はみくの瞳に応えるように、この時初めてまじまじとみくの顔を見た。半年前とは見間違えるほどに、みくは逞しい表情をしていた。何がどう変化したのか、そう問われると私は言葉に出来ないかもしれない。だけど、明らかに半年前のみくとは見違えるほどに変わっていたのだ。

 その変わり果てたみくの表情から、この半年で物凄く大変な想いをしてきたんだろうなと察する。声優の養成所で再出発をすることになり、生計を立てる為に夜にコンビニでアルバイトをしたり、何度オーディションに落ちても受け続けたり――……、みくは笑って話してくれたが、きっと私が思っている以上に過酷な道を歩んでいたのだろう。そしてストイックで負けず嫌いなみくの事だから、きっと他のシンデレラプロジェクトのメンバーたちが輝いている現実に苦しむ日もあったはずだ。

 だけどみくはそんな逆境に屈せず、『もう少しだけ頑張ってみる』と言った。半年前とは見間違えるほど逞しい大人の表情になったみくだが、その中身はアスタリスクとして一緒に並んで歌っていた頃と何も変わっていなかったのだ。

 その事が嬉しくて、何故だが泣きそうになってしまう。

 

 

 

 

「……みくは変わったね」

 

 

 

 

 大事な部分はそのままに大人になったみくを見て、私は独り事のように呟いた。それと同時になつきちに言われた言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

“それが本当の自分を理解したうえでの行動なのか、ただ単に何かから逃げているだけなのか、どっちかで全然意味は変わってくると思うんだ”

 

 

 

 

 

 みくはきっと本当の自分を理解したうえで変わることができたんだなと思う。それが例え無意識だったとしても、結果としてみくは良い方向に変わっているのだから。

 

 

 

 

「そうかな? 自分じゃあんまり分からないよ」

 

 

 

 

 そう言ったみくは少し俯いていた。恥ずかしいのか、俯いたまま前髪を整えるようにして触っている。

 

 

 

 

「李衣菜ちゃんは……。あまり変わってないね」

 

「やっぱり? よく言われるよ」

 

 

 

 

 暫く前髪を触っていたみくがようやく顔を上げ、そう言った。

 やっぱりね、と私は思う。数週間前まであれだけ無理矢理にでも変わろうと焦って色々と試行錯誤していた自分からは信じられないくらい、私はみくの言葉をすんなりと受け入れられていた。

 

 

 

 

「でもほんの数週間前まで焦ってたんだ。みくが頑張ってるって聞いて私も変わらなきゃって思って、似合わないのにエクステ付けたり黒に染めて三つ編みとかしてたし……」

 

「えぇ!? 李衣菜ちゃんが黒髪で三つ編み!? なにそれ、全然ロックじゃないじゃん……」

 

「だよねぇ……」

 

 

 

 

 

 数週間前までは色々な想いが私の胸の中で交錯していた。みくが声優として頑張っていると聞いて私だけが置いて行かれている気がして、圧倒的だった千早さんのステージを見て自分も千早さんのように本当の自分を曝け出せるようになりたいと思って、ごちゃごちゃになったまま自分を見失いかけていた。だけど、あの日なつきちが私を昔の仲間たちに会わせてくれて、そこで歳を取っても変わらない仲間たちを見て『変わる事』の本当の意味を知って、私はもう足掻くことを止めたのだ。

 

 

 

 

「でもね、今は違うんだ。寂しがり屋で弱くて、全然私の理想のロックなアイドルには程遠いかもしれないけど……。私は今の私を受け入れて生きていこうと思う」

 

 

 

 

 私の言葉に隠された覚悟を確かめるかのように、みくは私の瞳をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 私の事を「変わった」と言った李衣菜ちゃん。正直、自分ではどうかあまり分からない。面と向かってそう言われ、私はどのようなリアクションを取るべきか分からずに無意識に俯くと前髪へと手が伸ばした。

 

 

 

 

 

「李衣菜ちゃんは……。あまり変わってないね」

 

「やっぱり? よく言われるよ」

 

 

 

 

 初めてシンデレラプロジェクトで会った時、アスタリスクを解散することとなった半年前、そして今――……。これまでのことを今更ながら振り返っても、今私の目の前に立っている李衣菜ちゃんはあまり変わっていないような気がする。

 そう言って笑い飛ばした李衣菜ちゃん。それからほんの最近まで色々と迷って慌てて変わろうとしていたのだと静かに話してくれた。エクステを付けたり髪を染め直して三つ編みにしてみたり、試行錯誤を繰り返していたことを。

 だけど李衣菜ちゃんは、一通り話すと一度深呼吸をして私の目を真っすぐに見つめたまま、こう言った。

 

 

 

 

「でもね、今は違うんだ。寂しがり屋で弱くて、全然私の理想のロックなアイドルには程遠いかもしれないけど……。私は今の私を受け入れて生きていこうと思う」

 

 

 

 

 初めて見た、李衣菜ちゃんの迷いのない瞳だった。“諦め”ではなく、“答え”を見つけたその瞳は真っすぐに私を見つめている。その瞳は私が知ってる多田李衣菜らしい瞳だった。

 

 

 

 

「李衣菜ちゃんは今のままが一番だよ」

 

「……ありがと」

 

 

 

 

 せっかくだから黒髪でエクステを付けた李衣菜ちゃんも見てみたかったけど。私の茶化すような言葉に李衣菜ちゃんは「もー止めてよ。ホントに似合ってなかったんだから」と言って私の肩を軽く叩いて笑った。

 

 遠くに行ってしまったと思っていた李衣菜ちゃんがずっと私の事を気にかけていてくれて、そして私が声優として活動していることを知って私に置いて行かれないようにと慌てて変わろうとしていたことを聞いて――……、私は嬉しかった。李衣菜ちゃんは私の知らない遠くの世界に行ってしまったと思い込んでいたのだから。

 でもこうして久しぶりに会って話をしてみて、アスタリスクとして活動していた頃と何も変わらない李衣菜ちゃんを見て安心した。誰よりも私が知っている李衣菜ちゃんが、あの頃と変わらぬ姿で私の横に座っていることが、私は嬉しくて仕方がなかったのだ。

 

 

 

 

「なんか私たちって、もしかしたら似た者同士なのかもね」

 

 

 

 

 ロックと猫キャラであんだけ嫌というほど喧嘩をしてきて、絶対に分かち合えないと思っていたはずなのに。私たち二人は揃いも揃って相手に置いて行かれるような気がして焦って自分を見失っていたのだ。

 そう考えると可笑しくて思わず笑みが零れてしまう。李衣菜ちゃんにも伝わったようで、私たちはお互いに向き合ったまま笑っていた。

 

 

 

 

「あれだけ喧嘩しまくってたのにねー」

 

「ホント、よく李衣菜ちゃんは『もう解散しよう』って言ってたし」

 

「ちょっと、それ先に言い出したのはみくでしょー!?」

 

「そうだっけ? もう覚えてないよ」

 

 

 

 

 私たち二人は声を上げて笑った。

 

 巡り合わせってとても不思議だと思う。あれだけ価値観が合わなくて喧嘩ばっかりして、何かあればすぐに『解散する』って言い合って、絶対にこの人とだけは分かち合えないって思ってたはずなのに――……。でもいつの間にかそんな相手が私の一番の理解者になっていて、私にとってかけがえのない大事な存在になっていた。

 独りだったらとっくに私はギブアップしていたと思う。例え私だけ進路が決まってなくても、掴みかけたデビューのチャンスで心折られるくらい挫折しても、最後の最後までデビューが決まらないまま復活ライブのステージに立つことになっても、どれだけボロボロになっても私を最後のところで踏み止まらせていたのは李衣菜ちゃんの存在だった。頑張っている李衣菜ちゃんに負けないように、いつか胸を張って昔のように隣に並べるように、そういった強い想いがあったからこそ私はここまで諦めることなく来れたのだと思う。

 

 ホントに李衣菜ちゃんとアスタリスクとして活動出来て良かった。この人とじゃなきゃ私はここまで絶対に来れなかったのだから。

 恥ずかしくて言葉には出来なかったが、私は隣で笑う李衣菜ちゃんに心の中でそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 それから私たちは暫く世間話をした。運転中にガードレールに突っ込んで車を廃車にしたことを話すとみくは手を叩いて笑って、765プロのライブに行ったことを話すと心底羨ましそうに唇を噛みながら私の話を聞いてくれた。

 そんな感じで他愛もない会話を続けていると辺りはいつの間にか真っ暗になってしまっていた。夕焼け色に染まっていた噴水も今は白いライトでライトアップされており、いつの間にか私たちが並んで腰かけていたベンチの横の街灯には黄色い灯りが灯されている。

 

 

 

 

「そろそろ行かなきゃ……」

 

 

 

 

 腕時計を見て時間を確認すると、ラジオ収録の時間まで残り僅かとなっており、そろそろ向かわないと間に合いそうにもない。

 名残惜しそうに私がそう呟くと、みくは「途中まで送るよ」と言って私の隣で元気よく腰を上げた。みくの提案に私は黙って頷くと二人肩を並べてゆっくりと歩き始める。

 

 

 

 

「復活ライブ、もうすぐだね」

 

「うん、あと一週間」

 

「なんか久しぶりにみんなに会えると思うとワクワクするなぁ」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 そう呟くと私は空を見上げる。まだ赤みをほんの少しだけ残した空は、昼と夜の入れ替わりの瞬間を迎えようとしていた。

 一週間後、シンデレラプロジェクトのメンバー全員が集まることになっている。アイドルを辞めた卯月ちゃんも、普通の生活へと戻って行った杏ちゃんとかな子ちゃんをも含むシンデレラプロジェクトの十四人全員が揃うのだ。ずっと遠くの話だと思っていたシンデレラプロジェクトの復活ライブが一週間後に迫ってきて、今更ながらようやく実感が沸いてくる。

 みんなはどうしているのだろうか。みんなシンデレラプロジェクトの頃と変わらぬまま、頑張っているのだろうか。

 今までそんな事を考える度に、自分はどうなのだろうかと考えていた。私はあの頃から何か変われたのだろうかと。未だにアイドルを続ける意味を見出せていない私は別々の道で頑張っているみんなに胸を張って会うことができるのだろうかと、ずっと思っていた。

 

 

 

 

「私ね、今でもどうしてアイドル活動を続けているのかよく分からないんだ」

 

 

 

 

 夜の世界の始まりを告げようとしている大空を見上げながら私は静かに呟いた。

 

 

 

 

「アイドル活動を通して何をしたいのか曖昧なままの自分がずっと嫌だった。なんか中途半端な気がして、目標や夢を持って頑張ってる他のメンバーに比べるとカッコ悪い気がしてさ」

 

 

 

 

 だから私は必死になって変わろうとした。千早さんのように、未央ちゃんのように、みくのように、そうやって誰かの真似をして何かしら無理矢理にアイドルを続ける意味を見つけようとしていたのだ。そうでもしないと私はみくを蹴落として手に入れた今の生活の罪悪感に押し潰されてしまいそうになっていたのだから。

 

 

 

 

 

「でもこの前なつきちに誘われてカラオケに行ったんだ。瑞樹さんや美嘉さん、あと美波ちゃん、ちひろさんと美穂ちゃんと一緒にね。仕事とか上手く歌おうっていう虚勢とか、そういうの一切忘れて歌ってさ……、ホントに楽しかった」

 

 

 

 

 だからさ、私はそう言うと足を止めた。

 

 

 

 

 

「私、やっぱり歌うのが好きなんだ。ロックな曲とかを歌うのが好きなの。だからアイドルを続けたいと思う! ……これって理由になってるかな?」

 

 

 

 

 

 一度きりの人生なんだから、例え間違ったとしても自分が好きなものを追求していきたいと思う。“上手く”とか“カッコ良く”とか、そんな人目ばかり気にするのではなく、自分の好きなことをもっと好きなようにしていきたい。だって心の底から歌うことはホントに楽しい事なんだって改めて気付いたのだから。

 

 私の隣に立つみくはジッと私の眼を見つめていた。

 

 

 

 

「李衣菜ちゃんらしいと思うよ。それも、ロックなんじゃない?」

 

「……ありがとう! ねぇ、あれ見て!」

 

 

 

 

 私が指さした先、みくの後ろに一つの白い点が見えたのだ。闇に染まる世界に抵抗するかのようにして僅かに残った赤みの空、その空に目立つ小さな小さな白い光。

 何よりも光輝く一番星は世界の移り変わる瞬間の空で、小さいけれど壮絶な存在感を放っていた。

 

 

 

 

 

「今更だけどさ……」

 

 

 

 

 

 私の指さした先を見つめ、私に背中を向けたままのみくが静かに呟く。

 

 

 

 

「“アスタリスク”って私たちにピッタリだよね!」

 

 

 

 

 光り輝く一番星を見ていたみくは、振り返ると屈託のない笑顔でそう言ったのだった。

 

 





次はいよいよ最終話となる復活ライブです。

遅れましたがお気に入り100件突破、誠にありがとうございました。
拙い文章ではありますが、残り3話お付き合い頂けたら光栄です!
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