【完結】*君がいるから*   作:ラジラルク

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Final episode.2 “巧く”ではなく“心”を込めて

 思わず見入ってしまっていた。

 ステージ上で高らかに"ØωØver!!”を歌い上げるみくの姿は、私がずっと隣で見てきたみくとはまるで別人のように違っていたのだ。

 私たちアスタリスクがデビューする時に、私たち二人で作詞をしたこの“ØωØver!!”はもともと二人で歌うために作られた曲だった。その曲を、みくはまるで一人二役をこなすかのように幅広い音域を使い分け巧みに歌い上げている。

 

 

 

 

「これが“声優”の力なのかなぁ」

 

 

 

 

 私自身、あまり声優には詳しくはない。でも声優と同じく“声”を使う職業のアイドルとして、ここまでの音域を一人でカバーするのがどれだけ難しい事なのか私には分かっていた。

 声優はよく色んな声を出せると聞いたことがある。自分が演じるキャラに応じて様々な声を使い分ける必要があるから、その為のトレーニングをしているのだと。

 だとしたら今みくが見せてる幅広い音域を使い分ける技は、みくが声優として努力をして得た代物と言えるのだろう。あれだけの音域を一人でカバーするのは普通のアイドルが受けているレッスンじゃ不可能に近いのだから。

 

 

 

 

「やっぱ凄いよ、みくは」

 

 

 

 

 昔からどんな事があってもストイックに努力を続けて来たみくの成長した姿を舞台袖から私は眺めていて、思わず心打たれてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――Final Episode.2 “巧く”ではなく“心”を込めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージでみくが歌っている“OωOver!!”、何度も何度も私たち二人が歌った曲でどの曲よりも思い入れが深い分、歌詞の一つ一つに懐かしい想いを感じるのと同時に胸の奥から何か熱いものが込み上がってくる感じがした。曲はあっという間に二番のサビを終えて間奏に突入している。

 

 

 

 

――最優先事項はチャレンジすること、か……。

 

 

 

 

 みくの歌声を聞いて、私はふと昔のことを思い出した。

 アスタリスクとしてデビューすることになったものの、音楽性や価値観の違いで数分に一度は口論になるほどに喧嘩をしていた私たち。そんな私たちだったが、ある日シンデレラプロジェクトに歌えるアイドルを探しに来ていたクライアントの話を盗み聞きしていたみくが武内プロデューサーに自分たちにやらせてほしいと立候補したのだ。

 

 

 

 

“二人で歌ったことなんて一度もないのに、何であんな事言ったの!?”

 

 

 

 

 クライアントが帰った後の暗い部屋の中で私は思わずみくにそう言った。その時、私たちは目前に控えたアイドルフェスに出るため、お互い納得ができないままながらユニットを組むことになっていたのだ。数日前から仲良くなるためにと莉嘉ちゃんの提案でみくの住む346寮で一緒に生活を始めたのものの、私たちの仲はずっと平行線を辿ったままで、あの時の私はみくとの共同生活の中でもうどうしてもみくとは分かり合うことはできないと、そんな諦めの気持ちが生まれ始めていた。それはきっとみくも同じだと思っていた。だからこそ、突然無責任に仕事を引き受けてしまったみくの言動は理解できなかったのだ。

 

 

 

 

“ごめんなさい……。でもチャンスを無駄にしたくなかったの。みくたち、まだ一度もまとまれてないでしょ? アイドルフェス、みくだって出たいよ。でもだからって無理やりユニット組むなんてやっぱ駄目だよ……。プロデューサーが組ませてくれた意味、今、納得しておきたい。もしこれでやっぱり駄目だって分かったら、李衣菜ちゃんに先にデビューして欲しいの!”

 

 

 

 

 私にそう言ってくれたみく。みくはずっと私と同じことを考えているのだと思っていたが違ったのだ。

 例え分からないことや理解できないことがあったとしても、みくは第一にチャレンジすることを選んだ。それは何もしないまま理屈だけで片付ける事ばかり考えていた私にはない選択肢だったのだ。

 

 結局私たちはそれから二日でそれぞれの主張を尊重しあう形で“ØωØver!!”の歌詞を作り上げ、その勢いのままステージに立って無事に成功を収めた。

 あの時、みくが強引にでも仕事を引き受けなかったらきっと今の私はいなかった。例え今はソロで活動することとなってしまっても、今の私が存在するのはあの時のみくのお陰なのだと、今でも私はそう思っている。みくが私のパートナーで本当に良かった。本当にあの時、みくが逃げ出さずに私に向き合ってくれたからこそ、アスタリスクが生まれたのだから。

 

 

 

 

「変わらないね、みくは」

 

 

 

 

 自分の夢に真摯に向き合うところ、何事にもチャレンジする勇気、遠い昔のことを思い出しながら私は静かにみくのステージを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 みくの歌う“ØωØver!!”が終わり、会場は再び大歓声に包まれた。満足気に、何度も何度も観客席に向かって頭を下げては力いっぱいに手を振るみく。そして名残惜しそうに観客席に何度も何度も手を振りながらみくはゆっくりと舞台袖へと向かっている。

 いよいよ私の番だ。背中に背負ったギターが重く感じ、私は足腰に力を入れ直した。心地よいくらいに動いている私の胸が、私の背中をシャキッと伸ばしてくれる。

 

 

 

 

「前川さん、完全に捌けました。照明が落ちて二分後……、た、多田さんっ!?」

 

 

 

 

 気が付けば私は舞台袖を飛び出していた。後ろから私を引き留めようとするディレクターの声をも無視して、私は抑えきれない衝動の赴くままに無意識にステージへと駆け出していたのだ。

 もう待ちきれなかった。今すぐにも、みくの元へと走って行かなければいけない、そんな思いに駆られていた。今ここで飛び出さなかったら、武内プロデューサーの送別会があった次の日の朝のように、またみくが私の知らない遠いところへと行ってしまう気がしたのだ。

 

 みくの退場から間髪入れずにステージ上に現れた私。そんな私の姿を見てみくが残してくれた会場の熱が、再び息を吹き返したかのように勢いを取り戻す。耳が張り裂けんばかりの大歓声が私を温かく迎えてくれた。

 私はステージの真ん中で足を止めると、ゆっくりと呼吸を整える。ギターを背負って走って来たせいか、背中が熱を帯びていて首元に冷たい滴が流れ落ちる感触がした。視界を広げるように、前髪を掻き上げる。私の瞳に映っているのは先ほどまでのみくの為に振っていたピンク色のペンライトと、私のカラーである青色のペンライト、二つの色が入り混じった二万人の大観衆たちだ。

 

 

 

 

 

「いやぁ~、みくのステージ、凄かったね!」

 

 

 

 

 開口一番、私の口から飛び出したのは目の前の二万人もの観客たちの心の声のような言葉だった。

 ねぇ、みんなもそう思ったでしょ? 私の煽るような声に再び拍手と一際大きな大歓声が巻き起こる。自分のステージではなくみくのステージに対する反応なのに、そんな大観衆の反応がまるで自分のことのように嬉しかった。

 

 

 

 

「やっぱ凄いよ、みくは。あれこそまさにロックだよね!」

 

 

 

 

 今度は会場に爆笑の渦が巻き起こった。

 何処からか「にわかっ!」なんて野次のような声が聞こえる。そんな野次に「にわかって言うな!」と返すと、再び会場の大観衆たちは大きな声を上げて笑ってくれた。

 私がロックと言うと、観客席の誰かがいつも必ず「にわか」と叫ぶ――……、シンデレラプロジェクトのいた頃、私とお客さんがやっていた恒例のやり取りだ。この感じも随分久しぶりだな、と思わず懐かしんでしまう。

 

 

 

 

「えーっと、あんな凄いステージ見せられたら歌いにくいよ、まったく……」

 

 

 

 

 私はそう言うと思わず苦笑いをして右手の人差し指で頭を掻いた。

 

 

 

 

「今日はね、このライブの為に新曲を用意してきたんだ!」

 

 

 

 

 そう言うと私は背中に背負っていたギターを私の腹の前まで持ってきて、軽くギターを鳴らして見せた。ちょっと心配だったけど、会場のマイクの音が拾った私のギターの音はまるで私のギターではないのかもと疑ってしまうくらいに、良い音を奏でている。

 新曲と聞いたせいか、それとも私のギターの音が予想以上にスムーズだったせいか、観客席はどよめき交じりの歓声が沸き起こっていた。

 

 

 千早さんが招待してくれた765プロの定例ライブから帰ったその日の夜、私は作詞をしようと決めた。千早さんの歌だけで自分の全てを曝け出す姿を見て、私もこうなりたいと、そう思ったのがキッカケだったのだ。

 私自身作詞は初めてではなく、アスタリスクのデビュー曲となった『ØωØver!!』もみくとの共同作業だったとはいえ、自分たちで作詞をしていたのだから多少はスムーズに進むものだと思っていた。

 でも思ったように作詞は進まなかった。どれだけ着飾ったフレーズを並べても、私が紙の上に書き記していた歌詞はどれも薄っぺらく感じられたのだ。こんな歌詞では本当の自分を曝け出すことができない――……、何度も何度も紙に頭に浮かんだフレーズを書き記してはグチャグチャに丸めてゴミ箱に捨ててまた新しい真っ白な紙を机の上に置いて睨めっこして、私はずっとそんな事を毎日のように繰り返していた。

 

 

 

 

――どうしてこんなに私が書いた歌詞は薄っぺらく感じられるのだろう。

 

 

 

 

 ゴミ箱に丸めた紙が増えていく度に、私はそんなことを考えながら頭を抱えていた。

 あの時の私はまだ“本当の自分を曝け出すこと”の意味を理解していなかったのだ。“カッコ良くありたい”、“こんな自分でありたい”、そういった自分の憧れだけを掲げて、私はずっと本当の自分を隠して生きていた。少しでも自分の理想とする自分を演じて弱い自分を隠して、そうやって私は本当の自分を否定し続けていたのだ。

 

 でも復活ライブの二週間前のあの日、なつきちに誘われてかつての仲間たちと再会して、私はようやく気が付くことができた。『弱い自分』も大切な自分の一部なのだということに。そしてそんな『弱い自分』を抱えた私が好きだと言ってくれたなつきちは、本当の自分を受け入れないことには本当の意味で変わることは出来ないのだと教えてくれた。

 

 

 それからというもの、今までずっと停滞していた作詞はそれまでの停滞が嘘のように捗り始め、なんとか期限ギリギリまでに終わらせることができたのだ。

 今振り返っても、私が作った歌詞はとてもじゃないけど私の憧れるロックとは程遠い歌詞になってしまっていると思う。でも、今の私を何よりもよく表現できている歌詞だと、私は自信を持っていう事ができる。

 

 ほんの最近まで私は最後まで必死に足掻こうとしていた。私も変わらないといけないのだと、新たな世界で頑張っているみくの話を聞いてそう思っていた。

 だけど今は違う。ちゃんとケジメを付けて、それが例え寂しがり屋で臆病でかっこ悪かったとしても、そんな私を全て受け入れて復活ライブのステージに立とうと決めたのだから。

 私はジッと二万人の大観衆を押し込んだライブ会場の天井を見ていた。室内だから空は見えないけど、今の私には無限に広がる大きな空が見える。そしてそんな空の下、あの頃ずっと感じていた何処へでも飛んでいけるような根拠のない自信が生む高揚感が私を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

「着飾った私ではなく、本当の私をみんなに見て欲しいから! そんな想いでこの曲を作りました!」

 

 

 

 

 私の声と共に大歓声が鳴り響きピンクと青色のペンライトが左右に激しく揺れている。不思議とあれだけ嫌いだった寂しがり屋で臆病な私を、今は自然と受け入れることができるようになっていた。

 変わることは確かに難しいのかもしれない。でもなつきちの言ったように、変わらずにあり続けるのはもっと難しいと思う。大人になるにつれ色々な物が見えるようになって、当然だけど純粋な想いだけでは生きていけなくなって、人間の汚い部分も沢山見えるようになって、子供のように純粋無垢に生きるのは難しいのかもしれない。

 

 それでも私はいつまでも変わらずに居続けたいと思う。ロックが好きでみんなの前で好きな歌を歌うことが好きで――……、そんな単純かもしれないけど私をアイドルの道へと誘ってくれたあの頃の純粋な想いを、いつまでも抱えていたいと思う。

 そうすればきっと、私がずっと探していたアイドル活動を通して何をしたいのかが、いつか見えてくる気がするから。

 

 

 

 

 一瞬だけ私はみくが去っていた舞台袖へと視線を移した。その視線の先には先ほどステージを終えたばかりのみくが、アスタリスクとして二人で並んで活動していた頃に何度も私の隣で見せてくれていた笑顔で私を見つめていた。

 

 

 

 

――私の本当の自分をしっかり見ててよね。

 

 

 

 

 心の中で静かに呟くと、再び私は視線を前に戻す。観客席は先ほどまで見えていたピンク色のペンライトの色が消え、青一色のペンライトの海が幻想的な光景を創り出して私の歌を待ち望んでいた。

 よしっ、私は気合を入れるようにしてギターピックを握り締める。

 

 

 

 

 

「それでは聞いてください! 新曲で『Twilight Sky』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “巧く”とか“カッコ良く”歌うんじゃなくて、“心”を込めて歌うよ。

 世界でたった一人の、大切な君に伝わりますように――……。

 

 そして幾千幾億無限と流れていく時間の中で、自分の本当の気持ちを見逃さずに出会うために。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一応これにて本編は終了です。

あとは短い後日談となるエピローグで最後となります。
短い間ではありましたが、読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。

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