【完結】*君がいるから*   作:ラジラルク

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episode,8 壊れたままの時計(後編)

 

 

 

 

「えぇ、今から? ごめん、明日も朝から稽古入ってるから今日は厳しいかも」

 

「わりィ、資格試験が近いんだ。また誘ってくれよな」

 

 

 

 

 会社の駐車場に停めた車の中、私は溜息交じりに電話を切るとスマートフォンを誰もいない助手席に向かって放り投げる。

 千早さんたちとの合同名義で出したアニソンカバーアルバムが発売されてから早二ヶ月、吐く息が白かった頃から季節はあっという間に流れ今となってはもう桜が散り春の終わりを迎えようとしていた。相変わらずみくのその後に関する続報は入ってきていないままだったが、私は千早さんから言われたようにひたすらに歌い続けた。何度も迷って自分自身が何のために歌っているのかを見失いそうになりながらも、“生き残った者の義務”として私は歌い続けた。

 

 

 

 

「二人とも最近は忙しそうだなぁ」

 

 

 

 

 相変わらず新しい会社では馴染むことができず、こうして独りの時間が多い毎日を過ごしている。未央ちゃんもなつきちも最近は忙しいみたいで、こうして頻繁に遊びや食事に誘っても断られることが多くなった。二人とも新たな夢に向かって歩き始めてるのだから仕方ないんだ――……、そうは思ってもついつい孤独を感じてしまう。346を退社して初めて気が付いた寂しがりやな私。だけど私は未央ちゃんやみくのように自分が思っていることや感じたことを言葉や行動で表すことができなかった。カッコ悪いのが嫌いで、いつも斜に構えるようにして少しでも自分をカッコよく見せようとしていたのだ。

 本当は寂しいのに、誰かに傍にいてほしいのに――……。自分を素直に見せることができないからこうして今の会社で友達が出来ず浮いてしまったのだろうと思う。そしてそんなことに気が付き始めてからというもの、楽しかったはずのアイドル活動が徐々に楽しくなくなり始めていた。

 

 

 

 

「……帰るか」

 

 

 

 

 未央ちゃんもなつきちも今日は無理そうだし独りで誰もいないマンションへ帰るか、そう思って車のエンジンをかけて会社の駐車場を出て間もなくだった。

 大きな交差点を通り過ぎた頃、対向車線から走ってくるピンク色の原付に私は目を奪われたのだ。原付を運転しているのは白のハーフヘルメットを被ったショートカットの女性。すれ違ったのはほんの一瞬だったがその女性を見て私は目を見開いた。

 

 

 

 

「みくっ!」

 

 

 

 

 時間にしてほんの一秒にも満たさない僅かな時間だったが、確かに原付を運転していたのはみくだった。思わず車の中で声を上げた私の方を見向きもせず、みくは私の車の横を通り過ぎてついさっき私が通過した交差点を右折し、私の視界から消えて行ってしまった。その原付を追うようにして私は身体を捻りながら後方を振り返る。

 

 そしてすぐに私を襲った大きな衝撃。ハンドルを握ったままの私の身体は横に大きく揺れ、右腕や腰に大きな衝撃が走る。慌てて視界を前へと戻した先には、凹んだ白いガードレールが車のライトに照らされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Episode.8 壊れたままの時計(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りーな! 大丈夫なの!?」

 

 

 

 

 大きな足音と共に声を張り上げて廊下から姿を見せた未央ちゃん。丁度部屋に居合わせた看護師の人から睨まれると未央ちゃんは慌てて開いたままになっていた口を手で塞ぐ。そして足音を立てないように忍び足で私が腰をかけているベッド脇まで歩いてやって来た。

 

 

 

 

「大丈夫だよ、軽い怪我で済んだみたいだし」

 

「そっか……。もうっ、ホントに心配したんだからね?」

 

「ごめんごめん、でもこういうのもロックかな~って……思わないか」

 

 

 

 

 私の言葉を聞いて未央ちゃんは呆れたように大きな溜息をつく。

 あの日、私は確かにみくとすれ違った。ほんの一瞬だけだが、あれはみくで間違いなかった。だがそのみくの姿に気を取られ過ぎたあまり、運転していた車をガードレールに突っ込ませてしまった私はすぐに救急車に乗せられ病院へと運ばれてしまったのだ。入念な検査の結果、幸い事故によっての怪我は軽いむち打ち、右足の打撲だけで済んだようで私は明後日には退院できるらしい。

 

「車の凹み具合を見ても、それだけで済んだのはラッキーだと思いなさいね」

 

 真っ先にお見舞いに来てくれたプロデューサーの言葉だ。私が乗っていた車は結果廃車となったらしい。詳しい処罰は退院後に説明すると言われたがおそらく数ヶ月は減給といった処分が私には下されるのだと教えてくれた。

 

 

 

 それでも、減給になることや事故を起こしたことより、私の頭の中を支配していたのはあの事故を起こした時の直前に見たみくの姿だった。みくはやぱっり東京に残っていたんだ。そう思うと安心したような、でも何処か寂しいような変な感情が私の中で渦巻き始めている。何処かでアイドル活動を続けているのか、それとも普通の生活に戻ったのか――……、それは分からないが確かなのは今のみくは私の居ない世界で生きているのだ。

 あの時、あれだけ近くをすれ違ったのにみくは私に気が付かなかった。確かに運転中で私は車の中にいたのだからみくからしたら分からなくて当然なのかもしれない。だけど、それが物凄く寂しく思えて悲しくなる。もしかしたらみくは私の事など忘れて今の新しい生活をこの狭い東京の何処かで送っているのではないのだろうか。あのすれ違った至近距離が私には物凄く遠い距離に感じられるのだ。

 

 

 

 

 

 それから未央ちゃんと他愛のない会話を数十分ほど交えていた時だった。コツコツと革靴が静かに廊下を歩く音が聞こえてきたかと思うとその足音は次第に近くなり、私たちの前の部屋で止まったのだ。思わず会話を止め顔を見合わせる私たち。そしてゆっくりと開かれたドアの先に立っている人物を見て、未央ちゃんは驚いたように大きな声を上げた。

 

 

 

 

「ぷ、プロデューサー!?」

 

「本田さんもいらしてたのですね。多田さん、お身体はどうですか?」

 

 

 

 

 再び大きな声を上げてしまった未央ちゃんを看護師がまたも睨みつけている。だが私たちはそんな看護師の視線に見向きもせず、送別会の時以来に見た武内プロデューサーの姿を凝視し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 武内プロデューサーはどうやら私の会社に病院の場所を聞き、お見舞いに来てくれたらしい。

 

 

 

 

「そうですか、大事には至らなかったようで安心しました」

 

 

 

 

 私の話を聞き、安堵の溜息をつく武内プロデューサー。相変わらずスーツをキッチリと着て未央ちゃんの横に座る武内プロデューサーはほんの少しだけ痩せたような気もする。今はプロデューサーではなく一人の作詞家として音楽の世界に携わっていて、先日未央ちゃんが主演で出演した映画で自身が歌う主題歌『ミツボシ☆☆★』も武内プロデューサーが作詞したのだと聞いていた。

 あの口下手で無口な武内プロデューサーが作詞家になるとは誰が予想してただろうか――……。だけど現に武内プロデューサーは出会った当初よりゆっくりとではあるが、確実に変わっていた。あんなにぎこちない笑顔しか浮かべることができなかったのにいつしか自然に笑えるようになって、そしていつからか自分の気持ちが私たちアイドルにも伝わるようになって――……、そして今はプロデューサーを辞め作詞家として活動している。

 

 

 

 

――みんなこうやって変わっていくんだよなぁ。

 

 

 

 

 変わったのは武内プロデューサーだけじゃない。あれだけワガママで自己中心的な言動ばかりが目立っていた未央ちゃんがこうして周りに気を遣えるようになって、人見知りが凄くていつも人前ではオドオドしていた智絵里ちゃんが女子アナとして堂々とテレビの前でマイクを握り締めれるようになって、そうやってシンデレラプロジェクトのメンバーたちは皆、プロジェクト始動時からは考えられないほどに成長していた。みんながみんな成長して変わっていく中、私はどうだろうか。みんなと同じように成長して変わることができているのだろうか。

 まるで自信がなかった。私だけ、あのシンデレラプロジェクト始動時のふわふわした感覚のままここまで来てしまった気がしてやまなかった。結局ロックが何なのか、私はアイドル活動を通して何をしたいのか、あの頃から変わらずあやふやな想いを抱えたままみくを蹴落としてここまで来てしまったのだ。

 

 

 

 

「ちょっとお二人にお話があります。よろしいですか?」

 

 

 

 

 そう言うと武内プロデューサーは私と未央ちゃんを交互に見つめ、椅子の脇に置いた鞄からクリアファイルを取り出した。その中に挟まれていた紙を取り出すと、私と未央ちゃんにそれぞれ一枚ずつ差し出す。

 

 

 

 

「まずはこれを見てください」

 

 

 

 

 黙って受け取った紙の一番上の部分、そこには一際目立つような大きなフォントで書かれた文字を見て私と未央ちゃんは思わず顔を見合わせた。そしてほぼ同じタイミングで武内プロデューサーへと視線を向ける。私たち二人の視線を受け、武内プロデューサーは黙って静かに首を縦に動かした。

 

 

 

 

「是非、お二人にも出演して頂きたいと思っています」

 

 

 

 

 紙の上部分に書かれていたのは『一夜限りのシンデレラプロジェクト復活ライブ』の文字。そしてその文字列の最後尾には(仮)とも書かれている。

 

 

 

 

「お二人の会社にはもう既に承認を得て、他にも既に双葉さん、諸星さん、緒方さんと城ヶ崎さん、渋谷さん、そして三村さんの参加も正式に決まっています。私はこの復活ライブでシンデレラプロジェクト全員、十四名を集めるつもりです」

 

「十四人!? ていうことは……っ!」

 

 

 

 

 目を見開く未央ちゃん。その未央ちゃんの眼を真っすぐに武内プロデューサーは見つめると、「はい」とだけ呟いた。

 

 

 

 

「今はまだ交渉中の段階ですが島村さんにも出演していただくつもりです」

 

「しまむーは……、しまむーは今何処で何をしてるの!?」

 

 

 

 

 今にも泣きだしそうな未央ちゃんの絞り出すような声。卯月ちゃんはシンデレラプロジェクト始動から僅か半年で活動休止になったまま戻ってこなかったシンデレラプロジェクトのメンバーだ。逃げるようにしてシンデレラプロジェクトを脱退した卯月ちゃんのその後は二人は勿論、他のメンバーも誰も知らなかった。

 武内プロデューサーはそんな真っすぐな未央ちゃんの視線を受け止め、困ったようにして右手を首の後ろへと運ぶ。昔から困った時にする見せる武内プロデューサーの癖だ。

 

 

 

 

「今、私の口からは教えることはできません。ですが、私は今度こそ必ず島村さんを連れ戻してきます。ですので……、今は私を信じてください」

 

「分かった……。プロデューサーを信じるよ」

 

 

 

 

 

 未央ちゃんの言葉に武内プロデューサーは「ありがとうございます」とだけ言って深々と頭を下げた。  

 そんな二人の様子を横目に私は見つめていた。十四人全員、ということは当たり前だがみくも含まれているのだろう。みくは……、みくは参加するのだろうか。みくも卯月ちゃん同様、今は何処で何をしているのか分からない。だけど、根拠のない“なんとなく”だが武内プロデューサーはみくの行方を知っているような気がした。みくがこの狭い東京の私の知らないところで何をしているのか、この人なら間違いなく知っている予感がしていたのだ。

 だけどもし知ってたとしたら何故私に教えてくれないのか――……。答えは簡単だった。みくが武内プロデューサーを口止めをしているのか、もしくは聞いたら私がショックを受けるような内容か、このどちらかなのだ。真面目で律儀で妙に気遣いをする武内プロデューサーのことだから、きっとこういった理由があって教えてくれないのだろう。だから私は武内プロデューサーにみくのことを聞かなかった。

 

 

 

 

 

――いや、本当は寂しがりやな自分を見せたくないだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 どうせ聞いたところで教えてくれないんだから。そう自分に言い聞かせて無理矢理納得させて、寂しがりやな自分を隠そうとする本当の自分に私は気付いていた。武内プロデューサーも未央ちゃんも、新しい日常を生きてる二人の前で未だに私がみくのことを引きずってる姿や弱音を見せたくなかったのだ。

 何も気にしていないかのように振舞っても本当はあの送別会の日から一日たりともみくのことを考えない日はないほど、私はいつもみくのことを考えていた。だけど、そんな自分が私は嫌いだった。アスタリスクとしてではなく「多田李衣菜」として行うアイドル活動がどれだけ不安で心細いか、そんな弱気な自分が嫌いで嫌いで仕方がなかったのだ。私の描くロックなアイドルは決して一人でも物怖じせず自分の表現したい音楽を奏でることができて色んな人を熱くさせることができて――……。そんな私の理想とかけ離れてる今の自分をどうしても認めたくなかったのだ。

 

 

 

 それから簡単な復活ライブの詳細の説明を受けた。開催は約三か月後の二万収容の東京ライブ会場、会社のいざこざや大人の事情などでユニットとしてステージに立てるのはおそらくほんの僅かだけになりそうで、あとは一人一人のソロになるらしい。こればっかりは皆、今の所属先が違うのだから仕方がないことだった。今現在、交渉中なのは卯月ちゃんと美波ちゃんで、みくとアーニャちゃん、蘭子ちゃん、みりあちゃんの四人は今から交渉に行くのだと教えてくれた。

 

 

 

 

「私は必ず島村さんを含むシンデレラプロジェクトのメンバー全員を集めてきます。なのでお二人は今出来ることを行っていてください」

 

 

 

 

 最後の最後まで、武内プロデューサーは力強くそう言い続けていた。その姿を見て何も言わずに頷く未央ちゃん。未央ちゃんたちニュージェネレーションズが初めてミニライブを行った直後に揉めた二人とはまるで思えない信頼関係が、そこには存在していた。

 

 やっぱり二人とも変わったなぁ。なんてことを改めて感じる。あれだけ我が儘で反発してた未央ちゃんがこうして武内プロデューサーを信じれるようになって、あれだけ口下手で私たちに気持ちを伝えることができなかった武内プロデューサーが真っすぐに内に秘めた想いを伝えられるようになって。

 そんな変わり果てた二人を見て。私は独りだけ取り残された気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 それから武内プロデューサーが部屋を出て未央ちゃんも帰って、私は再び一人になった。病室の窓から見える外の景色は夕暮れ時を迎えており、綺麗なオレンジ色の空が広がっている。このオレンジ色の空の下、同じ東京の何処かにみくもいるのだ。だけどそこには同じ東京のはずなのに私のいない、私の知らない世界が広がっていて、私の知っているみくが生活を送っている。そう思うとみくが何処か遠い異国の地にいるような錯覚さえ感じてしまう。

 

 

 

 

「思ってたより元気そうで安心したわ」

 

 

 

 

 そんなことを考えながら夕陽を見て黄昏ていた私は突然背後から聞こえてきた声に思わず肩を上げて反応してしまった。

 驚いて振り返った先には夕陽の光を真っ向から受けて立つ千早さんが笑ってベッドの上の私を見つめている。

 

 

 

 

「千早さん……」

 

「事故に遭ったって聞いたからお見舞いにきたの。あなたのプロデューサーが此処を教えてくれたのよ」

 

 

 

 

 「これ、良かったら食べて」、そう言うと千早さんは右手に持った色々なフルーツが入ったバスケットをベッド脇の机の上に静かに置くと先ほどまで未央ちゃんが腰を下ろしていた椅子にゆっくりと腰を下ろした。

 椅子に座った千早さんとベッドの上の私の間を夕暮れ時の生緩い優しい風が吹き抜ける。私と千早さん以外の誰もいない大きなこの病室にはただただ吹き抜けていく風の音だけが静かに響いていた。

 

 

 

 

「数週間前のことだけどね、前川さんに会ったわ。大阪には帰ってなかったみたいね」

 

 

 

 

 窓から入ってくる風に綺麗な蒼い長い髪をなびかせ、千早さんは静かにそう呟いた。

 千早さんの言葉に、私は思っていた以上に驚かなかった。みくが東京に残っているとあの日から自分に言い聞かせて続けてきたせいか、数日前にみくと思われる人と運転中にすれ違ったからか、その理由は分からなかった。喉から手が出るほど知りたくて仕方なかった情報のはずなのに、意外にもあっさりとした感情しか生まれずに私自身でも変な感じに包まれてしまう。

 

 

 

 

「正確には『見かけた』んだけどね。でもあれは前川さんで間違いないと思うわ」

 

「それで、千早さんは何処でみくを見かけたんですか?」

 

「収録スタジオよ。あの子、声優としてアニメの収録スタジオに来てたのよ」

 

「せ、声優!?」

 

 

 

 

 予想外の言葉に私は思わず裏返りそうな声を上げてしまった。東京に残っているならずっとアイドルとして活動しているものだとてっきり思い込んでいたため、千早さんの言葉には驚きを隠せなかった。

 それから千早さんはその日の事を教えてくれた。みくは千早さん自身が主題歌を歌うアニメの収録スタジオにいたようで、その日千早さんはそのアニメで使う挿入歌の収録のため偶然みくと同じ収録スタジオでレコーディングを行っていたらしい。そのレコーディングが終わり、帰ろうとした時にたまたまアニメの収録現場で見かけたとのことだった。

 

 

 

 

「前川さん、凄い頑張ってたわよ。色々不慣れな感じはあったけど、必死に頑張ってたわ」

 

 

 

 

 アスタリスクとして活動していた時もみくは何度か声優の仕事を単発でしていたことがあった。だけどそれはあくまでアイドルである“前川みく”の延長線上の仕事であって、“声優”としての仕事ではなかった。

 みくはアイドルを辞めて声優に転向してしまったのだろうか。シンデレラプロジェクトの解散に従い実に半分近くのメンバーがアイドルを辞めてしまっていた現状を考えると、みくの声優への転向も何もおかしな話ではない。それに何度か声優の仕事を経験しているみくなら尚更だ。

 

 だけど、それでも私の中には複雑な想いが渦巻いていた。あの冬の寒い日のあの夜、あの一通の合格通知証が届くまでずっと傍にいたみく。本当にあの日のあの時まで私はずっとみくとアスタリスクとしてアイドル活動を続けていくものだと信じ込んでいた。

 そんなずっと隣にいると信じ込んでいた大事なパートナーは今、新たなステージへと進んで行ってしまった。いつも傍にいて一緒だったみくは私の知らないところで私の知らない世界で頑張っている。どんどん私の知らないみくが増えていくにつれ、私はみくとの間に生まれた距離がドンドン離れていってしまっている感じがするのだ。

 

 

 未央ちゃんもなつきちも武内プロデューサーも、シンデレラプロジェクトのメンバー全員も、そしてみくも――……。みんな変わって行ってしまった。そんなみんなが次第に変わっていく中、私だけずっと立ち止まっている気がする。私の中の時計は、アスタリスクを解散したあの日からずっと壊れたままで止まってしまったままなのだ。

 

 千早さんが持ってきてくれたバスケットの近くに置いたクリアファイルをちらっと見る。武内プロデューサーが置いて行った『一夜限りのシンデレラプロジェクト復活ライブ』の企画書、もしこの企画書通りシンデレラプロジェクトのメンバー全員が揃ってステージに立つことになったとしたら――……。

 私は怖かった。みんながみんな変わっていく中で一人だけ取り残されているような気がして怖くて仕方がなかったのだ。

 

 

 

 

 色々な想いが渦巻く私を、千早さんは風によって乱れた蒼い髪をそのままにずっと私を静かに見つめていた。

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