【登場人物】
提督(125)
誰か、我が名を呼んでくれ…我が名は提督にあらじ…我が呼ばれたき名は…
夕張(23)
意外とロマンティック
五月雨(41)
意外とアレルギー
磯風(5)
意外と可愛がり
明石(10)
本当に金が好き
山風(11)
明石の店でバイト中
我が輩は猫である、名前は………あるにはあるが、よく考えたら誰も俺の名前を呼ばないのであまり意味はない、とりあえず、スーパーとかで店長の事を店長と呼ぶように、この基地では提督と呼ばれている…
『じゃねーよ!オイコラメロン、オイ!どーなってんだオイ?』
「いやぁ…まさか猫になるとは」
「何故夕張さんはその科学力をもっと地球の為に生かす事ができないんでしょうか…」
朝から激しい雨の降る春の執務室、今、この執務室には俺と五月雨、そして夕張の三人……いや、正確には二人と一匹が集まっていた
『説明しろォ!説明!』
俺の首からぶら下がる防犯アラームのようなチャチな機械からアイドル声優みたいな声が響き、俺は手……いや、今は前脚か?その前脚で机をバシバシと叩いた
「提督、昨日の夜に自販機のところで私と会ったのは覚えてますよね?」
『覚えてるからテメーを呼んでるんじゃねぇか、ブッ殺すぞ』
昨日の夜、たまには紙コップのコーヒーでも飲むかと考え、自販機のところに行くと、丁度、夕張も自販機にココアを買いに来ていたので俺達はベンチでどうでもいい世間話をした…
「実は昨日、提督の飲んでいたコーヒーに隙を見て試作品のクスリをサーッと混ぜたんです」
『ナニがサーッと混ぜただ!殺す気か!?』
「大丈夫ですよ、ラットの実験はワリと大丈夫でしたから」
『ワリとってなんだ?ワリとって…っーかなんのクスリなんだコレは?猫になるクスリか?』
「いえ、知性の低い獣のように本能に忠実になるクスリだったんですが…」
夕張曰わく、飲むとアラ不思議、己の中に眠る獣欲が解放され、男ならギンギンのマグナムオークチ●ポに、女なら絶頂くの止まらない!止まらにゃくて頭バカになっちゃうー…効果をもたらすエ●ゲーやエ●同人でよく見る夢の薬を開発していたそうだ
「まぁ、獣にはなりましたね………ヘックシ!」
「えぇ、失敗かと思いましたが貴重なデータです」
『貴重なデータじゃねぇよクソが』
ちなみに、今の俺は猫なのでニャーしか言えないのだが、俺の声を代弁してくれるニャイリガルと言う名のどっかで聞いた気がする胡散臭い玩具みたいな装置を夕張が作った
『とりあえず今すぐ元に戻せ』
「別にそのままでもいいんじゃないですか?」
五月雨は俺の一大事にわりとどうでも良さそうに冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、二人分のグラスを用意した
『よくねーよ、これじゃ提督じゃないでテレビの前の隊長さんだよ!』
「はぁ?………ヘックシ!」
「とりあえず、元に戻す薬を作ってみますのでちょっと待っててください」
『さっさとしろよ』
「あ…」
そう言って夕張が執務室を去ろうとすると、五月雨がちょっと待って下さいと夕張を引き止めた
「夕張さん、提督も一緒に連れて行ってください」
「別にいいけど?なんで?」
「私、猫アレルギーなんでその猫がいるとクシャミが………ヘックシ!」
『オマエ、猫アレルギーだったのか?』
意外だな、まさかこの青髪ロングにそんな弱点があろうとは…
『そうかそうか、それは大変だなサミーヌよ』
「五月雨です、あと、近付かないでください、蹴りますよ」
コイツの目はマジだ、やると言ったらやる目をしているッ!
『フッ、まぁいい、行くぞ夕張』
俺は華麗にジャンプし、壁を蹴って夕張の頭にヒラリと着地した
「重ッ!!………ちょ、提督、重いんですけど…」
『ガタガタゆーな』
「はいはい、じゃ、行きましょうか」
◆◆◆
夕張の頭に乗り、悪魔の夕張研究室へと廊下を進んでいると、何人かの暇な艦娘どもとすれ違った…
「あ、夕張サン、なんすかそれ?」
「ネコっすか?夕張サン、ネコっすかー?」
「あー…うん、猫なんだけど、実はコレ猫じゃないでテイト………痛ァ!!」
俺は前脚で夕張の目を全力でブッ叩いた
「ちょ……ナニするんですか?」
『余計なコトゆーな』
今の俺が無力な猫だと基地中に広まったりしたら、もしかしたらクーデターを起こす奴も出るやもしれん
「夕張サン、そのネコ触らせてー」
「え?あ~…ダメダメ、実は人には決して懐かない猫なのね、ごめんねぇ~」
「ハラショー、残念だよ」
とりあえず、人目につかない程度にさっさと夕張研究室に行き、とっとと元の美しいボディに戻らなければ、俺は夕張の頭から降り、ネコダッシュで廊下を走ると前方から
パンツが歩いてきた
「む…?」
「あ、猫」
見上げると、パンツの主は浜風ちゃん!………と磯風か
「ほぉ、シャルトリューか…珍しいな」
「なにそれ?」
「フッ、この磯風、猫には少々詳しいのだ」
磯風は俺の首根っこを掴み、ヒョイと持ち上げた
「うむ、チ●コがついてるからオスだな」
「磯風、真顔でチ●コとか言わないで…」
「実はこの磯風、性別問わず、猫を思いっきりギューっとしたい年頃でな」
「そうなんだ」
オイちょっと待て、オマエじゃない、ギューっとしていいのはオマエじゃない、浜風ちゃんと替われ
「こう…ギューっとだな!」
『アガァ!!』
バキッ!!ミシミシッ!メリッ!メリッ!
コ…コイツ!なんて力だッ!?ヤバい死ぬッ!死ぬ!抱き締め過ぎだ………これが、死か
「テイトク、ちょっと待ってくださいよぉ~……って、捕まってるし」
「あ、夕張さん」
「む………そうか、これは夕張さんの猫か?」
「え?えぇ、まぁ、そんな感じ…かな?」
「そうかそうか、飼い主がいたか、では名残惜しいが返すと………いや、その前に浜風も抱いてみるか?」
「いや、私は別に…」
「そうか」
磯風はブランブランに揺れる俺を夕張に手渡し、また触らせてくれと言って去って行った
‐‐‐
『死んだかと思った』
「私も死体かと思いましたよ」
パンツ見放題だが、生命の危機に溢れるので自分で歩くのをやめ、再び夕張の頭に戻った俺は身体の痛みと戦っていた…
「もうすぐ着きますから」
『早く人間になりたい』
一刻も早く、ケモノのような身体と言う名の暗いさだめを吹き飛ばしたくて仕方ない
「あ、夕張だ」
「…こんにちは」
夕張研究室へと急ぐ俺達の前に現れる次なる刺客、明石と台車にダンボール箱を載せた山風
「なにやってんの?ってか、ナニそれ?夕張、猫飼ってたの?」
「いやぁ、まぁ…」
「しかも結構お高そう!餌ならウチで色々取り扱ってるから!色々取り扱ってるから!」
どんだけ売りつけたいんだ、このピンクは…
「…」じーっ
「なにかな?山風ちゃん?」
「…それ、おねえさんの猫?」
「え~…まぁ、そんな感じ?うん」
なんで疑問系なんだよ、コイツ、前々から思ってたが嘘つくのが致命的に下手だな
「…ふ~ん」
「山風ちゃん山風ちゃん、アレたしかシャトーなんとかって名前の高価い猫よ!高価い猫!」
推すポイントが高価いしかねぇのか、このピンクは
「…なんとかなく、テイトクに似てる気がする」
…コイツ、なかなか勘がいいな
「え~?どこがぁ?こっちの方が全然オシャレで価値がありそうじゃない?」
明石の奴がヘラヘラ笑いながら手を伸ばしてきたので全力クローでその手を斬り裂いた
「イタァァァァァ!!ナニこの猫ッ!攻撃してきたァァァ!」
「人には懐かない猫なんですよ」
「っ…先に言ってよ、先に!まったく、山風ちゃん行こ!ジュース買ってあげるから」
「…うん、じゃあね」
まったく、君のような勘のいいガキは嫌いだよ
‐‐‐
神も越え悪魔すら倒せる研究が日夜行われているワリに意外と小綺麗な夕張研究室…
「たぶん、コレで元に戻れるハズです」
『もし元に戻れなかったらオマエの身体を貰うぞ』
「えっ!?え~……エヘヘヘ、それはちょっと照れますね」
『ナニが照れるんだ、バカなのか?』
「私の身体が欲しいとか…」
ナニ言ってんだコイツ?イカレ………あぁ、イカレてるんだったな
「ドストレートに身体目的もいいですけど、私としては人生の半分やるから人生の半分をくれ的なロマンティックなのも憧れます」
『俺の黄金のような人生と貴様の汚物のような人生が等価高価できると思うな、カスが』
俺は夕張の用意した微妙に不味そうな液体をベロベロと舐めた
『う゛っ!!』
この身体の奥底から溢れ出るパワー…っ!!遂に俺本来の若く!美しい肉体へと戻る時がきたッ!
フシュュュュュ!!
「…ようやく戻ったか、我がボディ」
研究室にある姿見で己の身体を確認する
この白く!きめ細かい肌、美しさと力強さを備えた四肢!浜風ちゃんをも圧倒するであろう凶悪かつ暴力的サイズのバスト!まさしく完璧な………
「って!!違ぁぁぁぁぁう!!」
女だよッ!!チ●コついてねーじゃん!いつぞやの美女じゃねぇか!?
「人間には戻れましたね」
「俺は元に戻せって言ったんだボケェ!!」
ビタン!(ビンタ)
「ゴブァ!!!」
俺のビンタが夕張に炸裂し、夕張は首を変な方向に向けて転がった
「あ…ヤベ、やりすぎた」
そういやこの美女フォーム、長門よか強いんだった…
「…」死ーン
「オイ!夕張死ぬな!死ぬんじゃない!死ぬなら俺を元に戻してから死ね!オイ!生きろ!オイ!生きろォォォ!!」
後日、再び現れた万能戦艦女への復讐に燃える長門とのリベンジマッチとか、アメリカからの刺客、アイオワの挑戦など、なんやかんやあったが無事、俺は元の姿に戻る事ができた