【登場人物】
提督(138)
愛が重い面倒くさいタイプ
五月雨(47)
愛無き強さは無に等しい
夕張(26)
愛とはくだらないデータに過ぎない
「…なんだコレ?」
爽やかな朝、普段はコーヒーとパン1で済ませるところだが今日は珍しくモリモリ食べたい気分なので食堂でモリモリ食べ、喫煙所で一服し、トイレに行ってモリモリ出した俺は洗面所の姿見で今日も惚れ惚れするほどハンサムである事を再確認し、執務室へとやって来るとなにやら見慣れないダンボール箱が置いてあった
「上からのお届け物です」
「上だぁ?大本営様からか?」
「いえ……もっと上です」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、グラスに注いで俺の机に置いた五月雨は件のダンボールについてイヤな回答を返してくれる
「イヤな予感しかしねぇな」
まぁいいや、とりあえず見なかった事にしよう、そうだ、配送中のトラブルって事で俺には届かなかった事にするのはどうだろう?俺の知らない間に海軍を揺るがしかねない大事件は起きて俺の知らない間に正義感溢れるラストアクションヒーローが事件が世に出る事なく解決する、実に完璧な流れだ……そうだよ、これだよ!ピュアな読者や視聴者ってのはこーゆーヒロイックな展開をいつだって絶賛お求め中だしな、約2時間尺の時間内でヒーローが巨乳なヒロインとのちょいちょいロマンスとアハーンを入れてラストは情熱的なKISSで締めるッ!これだよ!
「よし…」
俺は長くてハンサムな足でダンボール箱を部屋の隅にずらし、執務席に座り基地スポを読むことにした
「…アイオワは3HRか、やっぱメジャーはハンパじゃねぇな」
「いいんですか?開けなくて?」
「いいんだよ、どうせ1日2日開けなくも腐るモンとか入ってねぇだろ」
「まぁ、ナマモノではなさそうですけど」
イヤな事はとりあえず先延ばしにする、日本人特有の悪い癖だがまぁアレだ、とりあえず今日は気分じゃないし、見なかった事にする
「それが大人の特権だよ」
「はぁ…?」
五月雨はそうですかと言ってアニマル柄のファイルを閉じ、クロスワードパズルの雑誌を取り出した
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「……ん?」
午前のしょーもない書類仕事中、机の引き出しに入った朱肉を取ろうとしたら何かがガツガツと引っかかった、おもしろい……たかが引き出し如きがこの俺に楯突くとは、力業には力業に対抗しようという俺のプライドに火を点けちまったよ
「ハアアアァァァァ!!!」
たかが引き出し如きが!この俺の前には無力と知れいッ!俺は全力で引き出しを引き抜いた
バギッ!!!
「ん?」
やべ、なんか壊れた音がした…
「…なんだコレ?」
とりあえず、取り出してみるとなんか小さな箱みたいなヤツの蓋が潰れただけらしい
「なんか見覚えのない箱だな、中身はなんだ…?」
とりあえず、潰れた箱を開けてみると中には微妙にひしゃげた指輪的な物が入っていた………指輪?
「なにやってるんですか」
「ナニじゃない、提督だ、ってかサミダミンくん、コレはなんだ?」
「五月雨です、あぁ…それ、かなり前に大本営から送られてきたケッコンお試しセットのヤツでしょ」
「あぁ~…あったな、そんなの」
そう言えばかなり前に上の事務局みたいな課から着払いで来たな、着払いで!なんか限界突破がどーのこーので試供品ですとかなんとか…
「失くしたと思ったら、こんなところにあったのか」
「試しに誰かにあげたらどうですか?」
「やだよ、俺はケッコンは幸せで幸せで幸せで幸せの絶頂の時って決めてるし」
「乙女ですか」
「乙女じゃない、提督だ」
まぁそれは小粋なテイトクジョークとしてだ、とりあえず嵌めるだけで限界を突き破れ!リミットブレイク!とか言われても胡散臭ささしか感じない代物だが、一応効果はあるらしい
ゴン!ゴン!
執務室の内部から犯行に備える為に無駄に強固にした重厚な扉がノックされたので、入れと応えると今日もヘソ丸出しのアヘ……アホ顔軽巡、夕張がやって来た
「失礼します、先週の開発日報を持ってきましたー」
「サミーに渡しとけ」
「了解です!はい、五月雨ちゃん」
「どうも」
夕張は五月雨にかわいい小動物の装丁されたファイルを手渡すと、俺が持っている物体に目ざとく目を光らせた
「あ、それって例の指輪ですよね?」
「ん?あぁ、かなり前に貰った試供品だがな」
「そんなヤバいアイテムどうするんですか?使うんですか?」
「ナニがヤバいアイテムだ、ケッコンカッコカリに謝れ」
ナニ言ってんだコイツ?イカレているのか?
「またまたぁ~!私知ってるんですよ?たしかその指輪って指輪を嵌めた人間を盲目的に愛してしまう呪いのアイテムなんですよ」
「マジか!?」
夕張曰く、限界突破するが副作用があるらしく、実際はこの人の為にもっと役に立ちたい!もっと役に立ってもっと愛されたい!と言う些か病んだ欲望を刺激して理性のタガを無理矢理外す、ある意味、洗脳装置のようなアイテムらしい
「そんな恐ろしいアイテムだったとは…」
そんな人の心を弄ぶ恐ろしいものを全国の明石チェーンに平然と流通させて販売するとは………海軍の闇は深いな
「もう嵌めただけで性奴隷確実ぅ!ですよ、どんなに嫌がっても抗えません、将来を誓った良人が居ても女の心変わりは恐ろしいのぉ~!ですよ」
「なるほど…まぁ、どのみち今までも今のトコも使う予定ないし、金庫にでもしまっておくか…」
「あ、いらないんなら私にくださいよ!実際どんなアイテムなのかちょっと興味あったんです」
夕張は呪いの指輪に別の意味で興味があるらしく、使わないならくれと言い出した、なんだろうな、このロマンティックの欠片すら感じない指輪のお求めは…
「悪いな、俺、童貞なんだ……テメェに俺の純潔は渡せねぇな!」
「えー!じゃ…じゃ!ちょっとだけ!ちょっとだけ触らせてくださいよ!」
「やだよ、明石の店で買えよ、量産品が売ってるだろ?」
「…あるんですかね?」
「…あるだろ、たぶん」
主力商品は二次元キャラアニグッズ、アカシメイトにはきっとそんなものは入荷してないだろう
「じゃ、私の持ってる指輪と交換してください」
「やだよ、っーかなんだそのゴツい指輪?」
「インフ●ニティーリングです」
「お前が最後の希望なのか!?」