不健全鎮守府   作:犬魚

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お前はまた、走り出すしかないんだヨ…

【登場人物】

提督(148)
更新前と更新後に定期的にしょっぴかれてる青色ドライバー


香取先生(13)
安全運転の金色ドライバー

鹿島先生(13)
この車がいいんだよ!この車じゃなきゃダメなんだ!


提督と鹿島先生とミッドナイトB

季節は未だアツかりし夏を感じるには些か早いジメっとした梅雨、湿気を含んだ生温い風がビュービュー吹いてやがると感じつつ、俺はタバコを買いに行くついでに基地の施設内をブラブラと点検して回っていた…

 

「あら?提督、お疲れ様です」

 

「あ、お疲れ様です、提督さん」

 

駐車場の付近を歩いていると、今日も眼鏡がエレガントな香取先生と、珍しくニコニコと陽気なオーラを放つ鹿島先生と会った

 

「お疲れ様です、先生方、こんなところで奇遇ですなぁ」

 

「そうですねぇ」

 

香取先生は口元を手で隠してエレガントに笑う、まったく…香取先生はいつだってエレガントでいらっしゃる、ウチのバカどももこんな素敵でエレガントな先生に時に厳しく、時に優しく指導して貰えて羨ましい限りだ

 

「実は先日、鹿島が車を購入しまして、今日はこれから鹿島の車で初ドライブに行くんですよ」

 

「ほぉ…車を」

 

駐車場には俺のM●2の他に、妙高のDQNシー●、高雄のDQNセル●オやら些かアレな車種が並ぶ中、異彩を放つ香取先生のムースピンクパールの可愛いらしい軽自動車も駐車されている

 

「あははは、私は香取姉……香取姉さんと違って中古なんですけどね、値段も手頃だし、なんか気に入っちゃいまして」

 

たぶん、鹿島先生のコトだからきっとウチのバカどもと違って見た目の可愛い軽か、人生を守りに入った堅実な車種だろうか?………いや、案外鹿島先生もお若い方だから真っ赤なスポーツカーに憧れる世代かもしれないな

 

「ちなみに、どの車ですかな?」

 

「アレです」

 

ニコニコ笑う鹿島先生が指さす先に停まっているのは加賀のDQNヴェル●ァイア………の横、なにやら見慣れない車がある、鮮やか……と言うよりどことなく禍々しさを感じるミッドナイトブルーの車体

 

「ふぇあれでぃ?って車です」

 

鹿島先生はニコニコ笑いながら買ったばかりの愛車、ミッドナイトブルーのS30型フェア●ディZを紹介してくれた………あかん、コレ、ヤバいヤツや

 

「なんか過去に事故歴があるみたいですけど、今は綺麗に修理されてますし、それに…安かったし」

 

「あ、あぁ…うん、そうですか」

 

「鹿島ったら“淑女”って名前も気に入っているみたいで…」

 

「あははは…そうですね」

 

香取先生も妹の初の愛車に鹿島に淑女なんて洒落が効いてますねぇとエレガントに微笑んでいる、しかし……大丈夫かコレ?素人どころか玄人も乗っちゃダメな車な気がするんだが…

 

「じゃ、香取姉さん、行きましょうか!」

 

「えぇ、では提督、ちょっと湾岸線を走ったらすぐに戻って参りますので」

 

「あ、はい、とりあえず事故だけには、うん、事故だけには気をつけて下さいね」

 

2人の先生はそれではと頭を下げ、車に乗り込み、悪魔の咆哮が唸りを上げ、今、狂おしく身をよじるようにミッドナイトブルーの悪魔が野に解き放たれた!!

 

「………」

 

発進した車を眺めながら、俺は胸元のポケットからタバコを取り出して火を点けた

 

「一応、後を追ってみるか…」

 

正直、嫌な予感しかしないのだがこれを放置しておくとさらなる嫌な予感を加速させる事になるかもしれん

たしか湾岸線を走ってくるとか言ってたし…まぁ、香取先生も御一緒してるなら安全運転してるだろ、俺は車の鍵を取りに行くべく部屋に戻る事にした…

 

◆◆◆

 

「あ、姉さん、なんか前にヤ●ザみたいな車が居ますよ!」

 

「ホントねぇ、車間距離を開けましょう」

 

たしかロールスなんとかって凄い高級車だっけ?変に当てたりしたら怖いし、距離を取らないと…距離を…

 

「………姉さん」

 

「なんですか?」

 

…いや、今夜でなければダメなんだ、同じ夜は二度とやってこない…!

 

「鹿島、なんかスピード上がってますよ?鹿島?」

 

仲間でもなく、親友でもない、同じ感覚を求め合うのに、ケリをつけなければ気がすまない…!速さだけが全てでいい!

 

「鹿島?ちょっと鹿島、聞いてます?鹿島、減速減速」

 

「…行きます」

 

「鹿島?ねぇ聞いてる?鹿島、もしもし?ねぇ鹿島、もしもーし?」

 

ーーー

 

俺はこのM●2のミッドシップ、2シーターと言うところに無意識にカウン●ックの影を見ていたのかもしれない…

 

「オイやべぇぞ!悪魔のZとブラック・バックバッジがヤり合ってやがる!」

 

「クソッ!なんて夜だ!」

 

湾岸沿いのコンビニで缶コーヒーを買い、車に戻っていると近所のニイちゃん達が興奮した様子で大声を上げていた

 

「…」

 

俺は缶コーヒーの蓋を開け、胸ポケからタバコを取り出して火を点け、紫煙を吐き出した

 

「フーッ〜……お前はまた、走り出すしかないんだヨ」


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