【登場人物】
提督(170)
偏ったニホンのマンガ知識の大人、ワインとチーズはよく合う
Richelieu(2)
ネオフランスのカンムスファイター、地元じゃ最強最強言われてたものの喧嘩したコトはなく、ついたアダ名は不戦勝のリシュリュー
「………はぁ」
速吸クンとの朝のダイナミックキャッチボールを終え、自販機で朝のワンダフルコーヒーでも買うかと考え、自販機コーナーへと行くと、朝から爽やかさゼロの深いため息を吐き出しながら色白金髪美女がベンチに座って項垂れていた…
「よぉ、リシュリーくん」
「…あら?amiral、Bonjour……あと、私はRichelieuよ、Richelieu、ま・ち・が・え・な・い・で」
「へいへい、リシュリューくんな、リシュリューくん」
「発音に美しさがないわね、やり直し」
「リシュリュー」
「Richelieu」
「Λucifer」
「Richelieuよっ!ケンカ売ってんの!?」
色白金髪美女のリシュリューくんはエキサイティングに立ち上がって吠えた、どうやら色白なだけあってカルシウムが足りていないらしい
「まぁ落ち着きたまえリシュリューくん、ミルクティーでもどうかね?」
「間に合ってるわ」
リシュリューくんは既に自販機で購入していたミルクティーの缶をずいっと俺の鼻先に突きつけた、っーか近い、缶が近い、しかし、どいつもこいつも何故そんなにズイズイと人の目の前にブツを突き出すのだろうか?流行っているのか?
「で?リシュリューくんは朝っぱらナニをそんな憂鬱ヅラでため息を吐き出していたのかね?」
「誰が憂鬱ヅラよ」
「小粋なテイトクジョークなのだよ」
「何が小粋なテイトクジョークよ………はぁ、まぁいいわ、amiral、少しお時間宜しいかしら?」
「構わんよ、なんなら部屋に来るかね?ミルクティーしかないが」
「ここでいいわ」
小粋なテイトクジョークで場を和ませつつ、俺はリシュリューくんの隣に座り缶コーヒーの蓋を開けた
「実は………このRichelieu、ちょっと自信を失いかけているのよ」
「ほぉ、自信を」
「えぇ、このRichelieu、地元じゃ敵なしの無敵の王者だったのよ、それがここに来てから連戦連敗の日々…」
リシュリューくん曰く、祖国では最強最強とちやほやされてたせいか自らを最強と信じて疑わずにいたのだが、初日のマキシマムキヨシレベル99との歴史的敗戦、翌日、武蔵に挑むもワンパンチ完了、後日、さらに大和さんに挑むも蹴り足ハサミ殺しを突き抜ける大和パンチに反吐をブチ撒け、さらに後日、自信を取り戻そうと挑んだ先がよりによって金剛姉妹からまさかの日に4連敗と言う阿呆ぶりで全治二週間のベッド生活を余儀なくされ、現在に至るそうだ
「なるほど、それでアレか?最強最強と信じて送り出してくれた祖国の皆様に無様なアヘ顔失禁KOが続いている事を報告し辛いと…」
「…アヘガオシッキンって日本語はよくわからないけどバカにされているコトはわかるわ」
「そりゃオマエ、アレだよ、アレ、たしかに地元じゃ敵なしだったかもしれねーけど世間ってのは広いからな」
「…まぁ、たしかに舐めていたコトは認めるわ」
色白金髪美女はその極彩にボリューミーな髪をぶわーっとかき流し、意外にも素直に敗北の事実を認めた
「正直、私の予定では初日にここで1番強いのを華麗に倒してテッペンをとる気だったのよ…」
「ナニがテッペンだよ、ヤン・キーかオマエは」
「ヤンキーじゃない、Richelieuよ」
「それでナニか?もう地元に帰って実家のブドウ畑でワイン作りでも始めたいってのか?」
「Il n’est pas une blague!このまま帰ったりしたら信じて送り出してくれた祖国になんて言えばいいのよ!?そんなコトしたらもうParisの街を歩けなくなるわ!」
「いいじゃねぇーの、パリなんか行かなくても、ボルドーでワイン作れよ、ワイン、で、毎年写真付きで俺宛に送ってくれよ」
「Je ne veux pas!そもそもなんでウチがブドウ農家って知ってるのよ!履歴書に書いてなかったでしょ!?」
「え?あぁ、実はオマエが来た初日にオマエの実家から国際電話があってな、ウチの娘がご迷惑おかけしてないでしょうかとか、見た目だけはパリっ子気分でちょっと高飛車なトコあるけど根は内気で繊細で良い娘なんでよろしくお願いしますって言ってたぞ、お母さんが」
「Mensonge, droite!?」
「良いお母さんじゃないか、お母さん心配してたぞ」
「MAMAN……」ポロポロ…
どんな不良にもやはり親と言うものは絶対らしい、ブドウ農家なんてダセーことやってられねー!私はパリでスーパーモデルになってシャンゼリゼ通りを肩で風を切って歩くんだー!とか言って実家を飛び出したバカ娘の目に涙が浮かんだ
「今度ちゃんと元気にやってますって電話でもしてやれ、な?」
「え…えぇ、えぇ…!」ポロポロ…
これが刑事ドラマならリシュリューくんはここで逮捕、後は俺がなんかちょっと良い話風のコト言って、Cパートのママの店で一杯やりながらイヤな事件だったよとか言ってエンディングの流れなのだが、残念ながらこれは刑事ドラマではなく、俺と言う不世出の英雄が軍で成り上がり、最終的にはカイザーとなって宇宙をお手に入れる英雄譚なのでそれはない…
ーーー
「私、考えたのよ」
リシュリューくんの反省タイムも終わり、ミルクティーを飲み干して空き缶箱に放り投げてリシュリューくんは何やら良い考えがあると言った…
「ここはやはり、シュギョーパートを入れるべきじゃないかと…」
「シュギョー…?あぁ、修行な、修行」
ジャ●プ漫画ではよくある修行パートってやつ……しかしここ近年はその伝統芸能たる修行パートも減っており、最近の子供は最初から最強!ってのを好むらしく、修行パートとか汗臭い行為をイヤがる傾向があるらしい、時代の流れとは哀しいものだ…
「強敵が出てくる→倒す→また強敵が出てくる→シュギョーする→倒す→さらに強い敵が出てくる→シュギョーするって文化をニホンのマンガで学んだのよ」
「まぁ、最近はあんまねぇけどな」
「amiral、このRichelieuに相応しいシュギョーはないかしら?」
「………スクワットとか?」
「Je ne veux pas、そんな汗臭いのゴメンだわ、もっとこう…ナニかないの?こう…ワクワクすっぞ!みたいなナニか」
「そうだなぁ〜、とりあえずパッとは思いつかんが、まぁその心意気と熱意は買おう!よし!戦艦リシュリュー、俺についてきな!………この世で二番目に強ぇ艦にしてやるぜーッ!」
「さすがamiralね、ハナシがわかるわ!」
俺とリシュリューくんはガシッとアツい握手を交わし、これから始まるであろうアツかりし修行の日々に心を躍らせ、とりあえず腹減ったんでメシ食いに行こうぜとメシを食いに行った…