不健全鎮守府   作:犬魚

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季節感を出涸らしになるまで利用するスタンス

【登場人物】

提督(172)
守護るって…?ダレを?

香取先生(15)
エレガント練巡、いつもエレガント

海風(11)
世話焼き駆逐艦、とにかく世話を焼きたいので妹からウザがられている

足柄(11)
子持ち処●




提督と秋の大運動会

10月10日は体育の日!………そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました

 

ポカポカ日和の秋晴れの空、本日、当基地ではアホな駆逐艦達のアホな駆逐艦達によるアホな駆逐艦DIE運動会が開催されていた…

 

「提督、コーヒーをどうぞ」

 

「やや!香取先生…これはこれはありがとうございます、うん……エクセレンツ!!」

 

3000メートル競争をヒィヒィ言いながら走る駆逐艦のキッズども眺めつつ、俺は運営テントの椅子に座って香取先生の淹れてくれた極上の珈琲を飲む、まったく!香取先生の珈琲は常に上質で最高な味わいを俺に与えてくれるのだよ…

 

「五月雨ちゃんもどうぞ」

 

「はぁ、いただきます」

 

まったく、五月雨のアホンダラも香取先生を見習って欲しいものなのだよ

 

「え〜…次の競技は〜…ツナ引きか」

 

「えぇ、この競技が終わったらお昼休憩を挟んで保護者の方参加型のリレー競技です」

 

「ほぉ、保護者の参加型ですか」

 

イベント進行のプリントを見ながらこれからのプログラムを丁寧かつエレガントに俺に教えてくださる香取先生、そして、運動場に台車に乗ったまま運ばれて来る新鮮なマグロ……これから駆逐艦のアホンダラどもに頭から尻尾からと全力で引き千切られる運命を待つ哀れなる魚よ…

 

「よぉーし!引けーッ!!」

 

「オーエス!オーエス!」

 

「チクショウ!カテェ!なんだこのツナは!?」

 

「もっと気合入れんかいダボ!」

 

ギチギチミチミチと活きたまま裂かれるツナの断末魔が運動場に響く実に凄惨な競技なのだよ…誰が考えたんだよコレ

 

ーーー

 

お昼の休憩時間、様々な場所にブルーシートを貼り、主に姉妹でつるんでお弁当を食べるアホな子供達を遠目に眺めつつ、俺は一応、端っこの方に作られた喫煙所と言う名のバケツの前でタバコを吸っていた…

ちなみに、香取先生は本物の孤独を知る痴女……ではなく、姉妹がいないので1人はつれーってばよとメソメソと菓子パンを食べているかもしれない島風の為にお弁当を作り一緒に昼食を摂っている、まったく香取先生の教育者魂はいつだって俺の心をアツくしてくれる

 

「フーッ〜…」

 

「…あ、いた」

 

「あ?オマエは………ト●コ?」

 

「…ト●コじゃない、山風」

 

激アツの喫煙タイム真っ只中の俺の居る喫煙所に、改白露型の緑のチビと美少女ヒロインみたいな白髪の姉がやって来た

 

「なんか用か?」

 

「…別に」

 

なんだ、ただの通りすがりか、たぶんアレだな、姉妹でツレションにでも行くところだったのだろう

 

「提督ッ!提督ーッ!ちょっと!ちょっと宜しいですかー!ちょっと!」

 

「え?なに!?うえっプ!!」

 

改白露型の美少女ラノベヒロイン顔の姉が凄まじいパワーとスピードで俺の首に手を回し、俺たちはくるりと回りながら地面に座り込んだ、ってか顔が近い、顔が、あとコイツ、やっぱ乳でけーな

 

「提督、午後の最初の競技がナニか知ってますか?」ヒソヒソ

 

「さぁ?なんかリレーとかなんとか聞いた気がするが…」ヒソヒソ

 

「保護者の方参加型のリレーです!保護者の方!」ヒソヒソ

 

「ふ〜ん」ヒソヒソ

 

そういや先生がそんなコト言ってた気がするな…まぁ、保護者と言っても基本は重巡以上のイカレたお姉さん方なんだが…

 

「山風は提督とリレーに出たくてお願いしに来たんですよ、空気読んでください、空気」ヒソヒソ

 

「え?マジで?やだよメンドくさい、ってか海風ねーちゃんが出ればよくね?保護ピッタリじゃね?」ヒソヒソ

 

「私は〜……私はほら!江風!江風の時に出ますからダメなんです」ヒソヒソ

 

「スズカはどーすんだ?スズカは、可愛い末妹だろ?スズカ」ヒソヒソ

 

「あ、涼風も私が出ます」ヒソヒソ

 

「山風のも出ろよ!なんだその歪んだ姉妹愛!?」ヒソヒソ

 

「いいから!提督はとにかく山風の保護者でリレー出てください!いいですね?ね?」ヒソヒソ

 

海風ねーちゃんの、この細い腕のどこから出てくるのかわからない万力のようなパワーに俺の脊髄が悲鳴をあげるのが止まらないので俺は海風ねーちゃんの程良く将来性抜群の胸にタップし、ギバップ!ギバーップ!と伝えた

 

「じゃ、お願いしますね、自然な流れで」ヒソヒソ

 

「任せとけ、自然な流れでな」ヒソヒソ

 

俺と海風ねーちゃんはごく自然な流れで立ち上がり、心なしか不審そのものを見る目をしている山風に向き直り、俺は力強く言ってやった

 

「山風クン」

 

「…なに?」

 

「提督は今、急に走りたい気分になってね、そう…まぁ具体的にはリレーとか出たい気分になのだよ」

 

「…へぇ」

 

「あらあらあら!丁度良かったじゃない山風!提督に午後のリレー出て頂いたらどう?ね?ね?」

 

俺のごく自然な流れをアシストする為か、海風ねーちゃんは手をパンパン叩き、ごく自然なアシストを敢行する、まさしくこれは一切の談合の疑いすら持たれないごく自然な流れを作ったと俺たちは言葉ではなく心で確信し合った

 

「………ものすごく腑に落ちないものを感じる」

 

俺たちの真心が通じたのか、山風は俺のリレー参加を快諾、若干引いているようにも見えたがまぁアレだ、照れていたのだろう、感性が豊かさと同時に気難しさも同居する難しい年頃と言うヤツだろう、うん

 

◆◆◆

 

午後の第1競技、父兄参加型リレー…

参加人数の都合上、1レース6名で走るこの競技、俺と山風は厳正なる抽選の下、Dブロックに振り分けられた

 

「フッ…まさか腰の重い提督がこの競技に出るとは……随分と日和ったわね」

 

「げ、ゲェーッ!お、オマエはーッ!」

 

順番待ちの列!俺たちの行く道を遮るように立つのは礼号キッズの些か口の悪い子、霞と………ワイルドウルフッ!!

 

「ゲェーッ!餓狼・足柄ーッ!!」

 

「フッ、ま、私と霞には勝てないけどね、お互い全力で頑張りましょう」

 

「アナタ達ってホント最低のクズね!」

 

足柄の野郎、そうか…ヤツもまた荒ぶり猛るモンスター保護者ッ!フッ、そうこなくては面白くない、どうやらこのリレー…オレをアツくさせてくれそうだぜ

 

「あぁ!お互い全力を尽くそう!」

 

俺と足柄は互いにアツい握手を交わし、ナイスファイトになる事を誓い合った

 

「おぅ〜?足柄じゃねぇか?オマエもDか?あ?」

 

「げ、ゲェーッ!!オマエはーッ!」

 

「みょ…妙高姉さんーッッッ!!」

 

俺たちの前に現れたのはスポーツだの正々堂々だのには1㎜たりとも縁がなさそうなヤンチャ系重巡!妙高ッ!バカな…何故コイツがここに!?

 

「な…なんで妙高姉さんが?」

 

「あ?あー…アレだよ、アレ、初風に頼まれてなぁ〜…ま、しゃーねぇって感じか?」

 

初風ッ!?な…なるほど、そうか、たしか初風は妙高に懐いていると風の噂で聞いた事があり、妙高もまた、初風を妹より可愛いがっていると何か酒の話で聞いたコトがある…ッ

 

「ま、そーゆーワケだかんよ足柄ァ………ワカってるよな?あ?」

 

「クッ!」

 

足柄にとって長女である妙高に逆らう事は死を意味するッ!長女である妙高に勝つ事など許される筈もない、だが…ッ!今日の足柄は違った

 

「ざ…残念だけど、私にも負けるワケにはいかない理由があるのよ!」

 

「あ?………オイ足柄ァ〜、足柄ァ〜?今なんっつた?あ?」

 

礼号キッズの天使である霞を勝たせやりたい、長女への絶対的恐怖を乗り越え、今、誇り高き狼は初めて長女にその牙を剥いた

 

「ハッハッハ、ジョーダンだよ!ジョーダン!な?足柄ァ…まぁアレだ、フェアに闘おうぜ」

 

妙高の言うフェアな闘いとは血で血を洗うデスマッチを指すのだろう…緊張感漂う俺たちの間に、さらなる挑戦者が姿を現す!

 

「ヘーイ浦風、コイツらデスカー?ワタシがDIEしていいヤツらはー?」

 

「げ、ゲェーッ!お、オマエはーッ!」

 

「戦艦金剛ーッッッッ!!」

 

ば…バカな!金剛まで出るのかこのリレーは!?クッ…!さすがに予想外だ、金剛と言ったらこの基地の影にもう何年も君臨する恐怖の帝王ッ!しかも常日頃から俺の心臓を狙う相当ヤベーヤツだ…そうか、ヤツもまた、浦風を可愛いがっているクチか!

 

「…足柄」

 

「なに?」

 

「どうやらこのリレー、生きてトラックから出られるかの勝負になるな」

 

「えぇ、提督…もし、もし生きてトラックから出られたら飲みに行かない?私、良い店知ってるのよ」

 

「そいつは名案だな」

 

俺と足柄は言葉ではなく心で理解し合い、互いの拳を当てて互いに生きてまた会おうと誓い合った………

 




次回はサンマ持ったアイツとオラついたジャージのアイツ

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