【登場人物】
提督(179)
大尉、五月雨にDVD頼んだらテニ●ュだった
天海中佐(5)
ルックスもイケメンの特務中佐、今の上層部に疑念を抱き、腐敗を一掃したいと考えている
「そう言えばこの病院、でるらしいですよ」
「ふ〜ん」
誰かが持ってきたお見舞いのリンゴの皮を剥き、器用にウサギっぽい感じでカットして紙皿に並べ、天海はどうぞと言ってわざわざ俺に手渡してくれた
「なんだよオマエ、ホモかよ」
「なんでリンゴ切って渡すだけでホモ認定されないといけないんですか…」
大本営直轄第五特務中佐の天海、ルックスもイケメンだ…
しかしコイツ、ちょいちょい俺のトコに顔を出すが、もしかしてワリと暇なんだろうか?
「大尉は見てないんですか?白い影とか」
「バカバカしい、いいか天海、ユーレーだの半透明だのそーゆーふわふわしたモノは存在しないんだよ、いいか?居ないんだ、え?わかってるか?そーゆーのはアレだよ、ビビっちまってるんだよ、ホンのちょびっと心に恐怖があるんだよ、え?わかるか?甘ったれてんだよ、ママっ子なんだよ」
「はぁ?」
天海はカットしたリンゴをサクサク食べながら気のない返事をしやがった、この野郎…イケメンだからってチョーシに乗りやがって、怪我治ったら真っ先に半殺しにしてイケメン特有の謝罪させてくれる
「まぁ、そう考えるのもアリですね」
「アリじゃない、そうなんだよ」
「さすがは大尉、幽霊相手に一歩引かない姿勢に僕も感動しましたよ、あ、そうそう、コレ、大尉宛にアツいお便りがいっぱい来てるので是非読んでください」
「決して嬉しくねぇお便りなのだよ」
先日の海軍喧嘩祭り以降、俺のところには主に若手の将校やら将兵からアツい励ましのお便りがやたらと届いていた…
天海曰く、先日の俺の蛮行は上司や現体制、パワハラに悩む多くの若手達にMORIMORIと勇気を与えたらしく、無理・無茶・無謀!最高の褒め言葉だ!気に入らねぇなら反逆する!そう思うだろ?アンタもッ!!と随分と物騒で野蛮な考え方で広まっているらしい
「今や大尉は反体制の急先鋒ですからねぇ」
「何が反体制だ、俺は現体制の中で植物のように穏やかに生き、たまに“彼女”と公園でまるでピクニックに来ているような気分でサンドウィッチを食べたいだけなのだよ」
「またまたぁ〜、大将4、中将12、少将47を病院送りにした人がよく言えますね」
「やかましい」
しかしあの乱戦でよく死者が出なかったもんだ、俺も小宇宙を爆発させて奇跡を起こさなかったら何度死んでたかわからんし
「大尉、やっぱり特務に来ませんか?大尉向きの仕事いっぱいあるから大尉ならすぐに少佐ぐらいになれますよ、たぶん」
「イヤだね、っーかオマエの部下になるとかマジでBADなのはゴメンだ」
「むぅ……何故か嫌われてますねぇ、僕達友達じゃないですか?」
「誰が友達だ」
「ハハ…まぁ、僕が上に行ったら今の上層部を全員処分して大尉を第五特務の室長にしますよ」
天海の野郎は爽やかなイケメンスマイルでとんでもない事を言いつつリンゴを口に放り込んだ…
コイツといい、ヒメといい、どうしてこう…俺より上に行きたがるのか、俺に仕えて共に宇宙をお手に入れくださいと言う謙虚な気持ちはないのだろうか?いや、むしろ、コイツら今の上層部に何か恨みでもあんのか?
◆◆◆
深夜2:00、草木も眠るUSHIMITSU-DOKI…
「…小便したい」
参ったな、俺とした事が今日に限って寝る前に小便と神様にお祈りを失念しておったわ…
とてもじゃないが、このままではイイトシこいておもらし確実ぅ!のレッテルを貼られる可能性が大だ
「………しゃーなしだな」
悩んでいても仕方がない、俺はとりあえず動く身体を総動員し、折れてる骨はなんとなく関節が増えたようなイメージを働かせ、トイレへと行く事にした…
ーーー
「震えるぅ〜左手にぃ〜マインダァ〜ほ〜え〜る〜ときぃ〜♪」
夜の病院ってのは静かで暗くていかんなぁオイ、思わず歌でも歌いながらじゃないとおしっこ漏らしそうになってしまうよ、なぁオイ、だが誤解してはいけない、俺は決してビビっているワケじゃあない、深夜にトイレに行けなくてビビっちまうのが許されるのは暁ちゃんぐらいで俺は決してビビっているワケじゃあない、そう、決して昼間、天海の野郎が言っていた事を今になって思い出したワケじゃない…
カタッ…
「ヒィィィ!?」
……気のせいか、まったく、ビビらせやがって……いや、決してビビったワケじゃない、ほんのちょっぴりビックリしただけだ
「たしかトイレはこの先だったな…」
まったく、なんでこんな深夜に限って誰もいないのだよ、通りがかりのナースステーションにも誰もいなかったし…
『ォ……ォ…ォォォ……』
「!」
…何か聞こえた気がしたが、気のせいだ、そう、気のせいだ、おそらく風で枯葉が揺れている音だろう
『…ハハッ!』
なんか白いのが見えたし聞こえた気がするが大丈夫だ!たぶんアレだ!灰色の古い柳的なナニかだ!
『ハハ……ツウカイダナァ…』
目をしっかりと閉じたまま立ち止まり、その場で深く、そう深く深呼吸する、深呼吸、そう…呼吸だ、正しい呼吸法で落ち着き、生命のエナジーを感じるんだ…身体の内から溢れ出る生命の波紋!フーッ…スゥー…ハーッ……スーハースーハークンカクンカスーハースーハー!フーッ!よし、整ったッ!!
「くたばれやボケェ!!喰らえ生命の波紋!山●色の波紋疾走ぅ!」
俺は目を閉じたまま目の前にいるであろう白い影的なナニかに俺は人間の溢れるエナジーを込めた掌を叩き込んだ
バアアァァァァァン!!!
「キタァ!まるで分厚い鉄の扉に鉛弾がぶつかったようなこの音ォ!………ん?」
いや…むしろ柔らかいぞッ!!なんだこの弾力はッ!?柔らかいぞッ!!まるで上等な低反発素材のようで、それでいて温かみのある柔らかさッ!!俺は覚悟を決めて目を開いてみると…
「…随分と気易いな、Admiral」
なんか怒った様子の白い顔の幽霊………ではない、よく見知った顔、ドイツから来たおっぱい空母のグラペン…?
そして、この母のような無償の柔らかさは………そうか、なるほど、これがグラッパイと言うものか?うん、実に弾力があり迫力の揉み応えだ、うん
「とりあえず、鷲掴みはやめてくれ」
「お、おぅ…」
俺は努めて紳士的にグラーフのオパーイから手を離した
「…え?ってかナニ?え?オマエ、グラーフだよな?」
「グラーフ・ツェッペリンだ」
…いや、そもそもなんでこのおっぱい空母が草木も眠る丑三つ刻の深夜の病院に居るんだ…?アレか?吸血か?新鮮なヒューマンのエキスを吸いにでも来たのだろうか…?
「フッ、このグラーフ・ツェッペリン、実は深夜のジョギングが趣味でな」
「あぁ、うん、そうなの」
グラーフ曰く、深夜の時間帯は人や車通りも少ないのでついつい遠出しちまうぐらい、ハイ!になってジョギングをしてしまうらしい…
「それでだ、今日もジョギングをしていたらついついAdmiralが入院中と聞く病院の前を通りがかってな、せっかくの機会だし、予告なしにお見舞いでもして日々退屈なベッドで過ごすAdmiralに驚きを与えようと考えたワケだ…」
「や、いらねーよそんなサプライズ、っーか怖えーよ」
ちなみにグラーフのヤツ、見舞いに来たはいいが俺の病室は知らないので各階各部屋をしらみつぶしに回っていたらしい…
「っーか帰れ、マジで、面会時間知らねーのかオマエは?」
「面会時間…だと?」
コイツ……面会時間すら知らんのか
「フッ、まぁいい、ところでAdmiralの部屋はどこだ?このグラーフ・ツェッペリン、そろそろ睡眠の定刻なので一眠りしたいのだが?」
「やかましい、ロビー行って長椅子にでも寝てろ」
「まぁそうツレないコトを言うなAdmiral、なんならこのグラーフ・ツェッペリン、Admiralが眠るまで歌でも歌って構わんぞ、こう見えてこのグラーフ・ツェッペリン、歌には少々自信がある」
そう言ってグラーフはコホンと一つセキ払いをして息を吸い込み…
「Dies iræ, dies illaーッ!Dies iræ, dies illaーッ!Dies iræ, dies illaーッ!solvet sæclum in favillaーッ!」
「うるせぇよ!!っーか帰れ!マジで!お願いだから帰って!!」
この後、無駄に良い声したグラーフの怒りの日に、院内から苦情が殺到、翌朝、朝っぱらから怒りの日を迎えた婦人科局長の神宮寺先生からメチャメチャ怒られた
…でも、神宮寺先生から怒られるのはちょっぴり興奮した
次回
帰ってきた男と、ハッキリ言って自信作です