【登場人物】
提督(208)
主人公、外道
天海中佐
主人公、邪道
「下にアンタの死体が転がっていたよ、自分は死んだ事にして後は身を替え名を替えるつもりだったんだろう?」
「なるほどな、察しがいい生徒だ………しかし今は、君のような優秀な弟子をもてた事を師として喜ぶべきか、それとも苦々しく思うべきか…」
第五特務部の長であった男は己が育て上げた優秀な生徒を前にし苦笑を浮かべている…
参謀司令部直轄機関、第五特務部の室長、山原迅…
かつての俺を拾い、復讐の智と力を教えた師である山原は軍内部の暗諜に携わる者として極めて有能な男だ、そして、その有能ゆえの野心なのか、それとも俺の知らない何かがあるのか……俺はそれを知りたいと思わないし、思う事もない…
今、俺と山原は銃口を突きつけ合う関係になった、それだけの話だ…
「妹の事はもういいのかね?」
「………あぁ、世話になったよ」
俺が忠実な犬として働く事を条件に、眠り続ける妹にかかる莫大な治療費をみてくれた事には感謝している、これは本音だ
「そうか………ではキョウヤ、最後の授業だ」
両手の二丁拳銃……“教授”と呼ばれた山原の最も得意とするスタイル、その技は既に全盛期を過ぎたと自嘲しているものの、並の使い手なら苦もなく圧倒する
並の使い手なら、だ…
◆◆◆
天海を追い、とりあえず上層階へと進む途中、俺はイングリッシュペラペラのマスクマン達と遭遇していたた…
「うぉー!このド外道がーッ!!」
『Fuck!』
『Kill!Kill!Kill!!』
「うるせェーッ!外道に人権はねぇー!!」
愛銃のスタームルガー・ニュースーパーブラックホークを上着から取り出し、目につくマスクマン達を殴る、蹴る、そして殴る、たまにアイアンクロー、そして蹴るのウルトラコンビネーションアーツでブチのめす
え?銃は使わないんですか?アレですよ、なんでわざわざ苦手分野を使う必要があるんですか?
「クソッタレがーッ!!」
…手にしたスタームルガー・ニュースーパーブラックホークの銃身でおもいっきり頭をぶん殴ってカチ割る………なるほど、コイツの使い方がだんだんわかってきた
目につく5人目をブチのめすと、マスクマンではない高級仕立てスーツの男が髪をガリガリと掻きながら俺に銃口を向けてきた
「チッ…なんなんだテメェは?テメェがヤマバラの言ってたキョウヤとか言う野郎か?」
「…なんだ、日本語OKのヤツもいるのか?」
「仕事柄色々取り引きがあるからな」
「なるほど、テロ屋もインターナショナルだ」
コイツが天海の個人的ブッ殺すリストNo.1のなんちゃらとかゆーヤツか、あの野郎…こーゆー因縁の宿敵的なのはアイツの相手だろ?フツー
「悪いが人違いだ、俺はそのキョーヤくんじゃねぇよ」
「あ?じゃ、誰なんだ?テメェは?」
まぁ、何と問われれば、今日の俺はBG、お嬢様の身辺警護人、ボディーガードなんだが………せっかくだし、ここは主人公らしくカッコ良く名乗ってみるか、主人公らしく!
「フッ、外道に名乗る名はねぇが、人は俺をドーベルマンと呼ぶ…」
「ドーベルマン…?っーかテメェに外道とか言わたくねぇぞ外道ヅラが」
「外道ヅラじゃない、特佐だ」
◇◇◇
さすがに教授………満身創痍とは言わないが手負いで勝つには難しい相手だ
「ハァ……ハァ……」
弾も尽きたか、対して教授は予備も十分、こっちの手札を一つづつ確実に潰してくる、教えられた身とは言え、まだこれ程の差があるのか…?
「さぁどうするキョウヤ、次は徒手空拳でくるかね?」
「…」
「この場合、私は君が体術は些か不得手と判断し、それ以外を伸ばしたのが功を奏したと言えるかね」
「そうだな…」
銃口を向ける教授を前に、この次に打つべき手が浮かばない、いや、浮かぶだがそれは全て教授には読まれているだろう…どうする?何か教授の予測を超える何か……いや、考えれば考える程ドツボにハマる
「これにて授業は終了だ、キョウヤ…」
どうする?
「君は卒業だ」
教授の引鉄を前に、とにかく一か八かの勝負しかないと思考停止染みた選択肢を選んだその時、甲高い音でガラスを突き破り、ズタボロになったスーツの男が床に転がり落ちて来た!
「!」
「…なんだ?」
そして、スーツの男が落ちて来たガラス窓から見覚えある彼がヌッと姿を現した
「よぉーう!天海クゥゥゥゥン、元気しとるかねー?」
「…特佐?」
特佐は、オマエがチンタラしてるからそこのテロ屋は俺がブチのめしちまっぞ!もー!しっかりしてよ!もー!とか言いながら窓枠をよっこらせいと飛び越えて歩いて来た
「どうして戻って来たのですか…?」
有馬嬢の件以外には関わり合いになる必要はないハズなのに…?って、え?この人、ガレムソンを倒したのか…?いや……あれ、ガレムソンだよな?俺がこの手で殺したくて殺したくて何度でも殺したいと願った復讐の対象、ガレムソン・グリーバー…
「仲間だから!!」
…ナニ言ってるんだ?この人
「………はぁ?」
いや、わからない……ホントにわからない
「あー……悪い悪い、間違えたわ、やっぱナシ、今のナシな」
「は、はぁ?」
「では改めて………友達だからっ!!」
特佐は少し照れくさそうに鼻の下を拭い、なんか言えよと言わんばかりの目をしている…
嗚呼なるほど、これがアレですか、ツンデレってやつですか?なるほどなるほど……これが、友達か
「なるほど………持つべきものは、友ってワケですね」
「どうだ?燃えるだろ?」
「えぇ、燃えてきましたよ…」
正直、友達なんて言葉はただの方便だったが………特佐は本当に人が良いんだな、俺と違って…
だが……それでいい
「さっさと用事片付けて帰るぞ天海、明日はお嬢様とお買い物の約束してるんでな、お前にゃ運転手兼荷物持ち兼財布っー重要な役目があんだよ」
この借りは、ハゲしくアツくなりそうだ…
教授に勝つ、それは俺だけでは無理だ、だが彼となら…
「ほぉ……友達かね?キョウヤ」
「あぁ、アンタには一人で勝てそうにないからね」
「ふむ…」
教授はなるほどなるほどと言いながら苦笑している、どうやら教授には俺に友人が居るのが大変意外らしい、正直、自分でも意外だが…
「相手は銃か……よし、天海、お前が前で盾になって走れ、で、俺が近づいて金的かましてやる」
「何サラッとド外道な作戦言ってるんですか」
「ド外道じゃない、特佐だ」
たぶん勝てる、たぶん……っ!
──────────────────
ところどころ、爆発と煙が立ち上るビル…
既に脱出している来場者や関係者、そして警察や軍関係の者達が大勢居るビルの周りには、先ほどまでその渦中に居た有馬優の姿もあった
「有馬嬢、ここはまだ危険です」
「で…もっ!」
「とにかく危険なんです!」
第五特務部美音少佐はこの扱いに困る少女にかなり困っていた、ただでさえ子供は苦手であり、どう扱って良いのかわからないのに、このお嬢様は最優先とも言える護衛対象にあたる超VIPだ、こーゆーのは私の仕事じゃないと内心でぼやきつつも可能な限り危険域から脱しようとしていた
「カッカッカ!あやつ、なかなか派手にやりおるのぉ」
「まぁ、本人的には冗談じゃないと吐いてるでしょうけど」
有馬優と美音少佐の居る場所に、海軍の上級将校であろう壮年の男と、青髪ロングの少女がやって来た
「なんだオマエらは!?」
「あ?ワシは名乗る程の者ではないが、参謀司令部将校の梶輪だ」
「私は名乗る程の者ではありませんが白露型六番艦の五月雨です」
「梶輪ァ…?五月雨ェ…?」
美音少佐はナニ言ってるんだこの野次馬はと思いつつ、いい加減にしろよクソがと内心で毒吐いていると、青髪ロングの五月雨と名乗った方が有馬優に、まぁ、あのメガネならなかなかしぶといから大丈夫ですよと言っていた
「……?」
「たぶんアレですよ、そのうち窓でもカチ割ってハリウ●ドアクションばりに大脱出でも…」
五月雨の言葉を遮り、一際大きな爆発音が鳴り、それと共に上階から落ちて来たズタボロスーツの男、そして………一台のハーレーダビットソン的なバイクが何度か地面にバウンドし、強烈なスピンターンをして停止した
「はー………死ぬかと思ったー」
「えぇ、今のは死んだと思いましたよ、ナニが今、お前に生命を吹き込んでやる!ですか!」
「まぁそーゆーな、ちゃんとコイツの魂が応えてくれたじゃねーか」
「まったく…」
男達はゴチャゴチャと文句を言い合いながらバイクから降り、メガネのない特佐は天海中佐に肩を貸し、目の前でなんだこれと呆然としている知り合い達に片手を挙げた
「よぉ」
次回は後始末編、さらば天海中佐