不健全鎮守府   作:犬魚

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異端の天才空母、赤城…

【登場人物】

提督(軍人)
基本的にはクズ…っ!救えない…っ!

加賀(青いやつ)
最強空母コンビ一航戦、イヤな先輩

赤城(赤いやつ)
最強空母コンビ一航戦、悪い先輩


提督と閻魔の一航戦

当基地に所属する空母には絶対的な序列が存在するッッッ!!

 

閻魔の一航戦、鬼の二航戦、奴隷の五航戦と揶揄されるその絶対的な空母カースト制度は決して覆ること叶わず、決して変わる事のない不変の掟ッ!かつて、この基地の門をくぐる空母、一切の希望を捨てよとまで言われた事実は既に常識…

 

 

「…はぁ?赤城が町でバイトしてるだぁ?」

 

「そうらしいですよ」

 

「いやいやいや、ありえねーだろ?あの赤城だぞ?あのチンピラ空母が真面目に労働するとかフツーにないだろ?」

 

以前、加賀のヤローがコンビニでバイトを始めるも即日クビ、やりたい放題やらかし、給料どころか請求書を持ち帰って来たんだぞ?そして、その加賀と同類である生まれついてのワル、趣味は五航戦の苦しむ顔を見るコトと言ってのける生粋のドSぶり、その赤城が真面目にバイトするとかあり得るワケがない

 

「で?なんだ?加賀のヤローと同じくコンビニかなんかか?」

 

「いえ、なんでも話では町工場みたいなトコで働いてるらしいですよ」

 

五月雨から冷たい麦茶の入った湯のみを受け取り、んなワケないと麦茶をイッキに飲み干し、湯呑みを執務机にソフトに叩きつけた

 

「だいたい、誰から聞いたんだそんなホラ話」

 

「翔鶴さんです」

 

「翔鶴…?あぁ、五航戦の姉の方か…」

 

「翔鶴さんはウチの所属としては比較的真面目で常識的で嘘を吐くようなタイプでもないですし、まぁ、すぐに吐血しますけど…」

 

「そうだな、まぁ、たしかにすぐ吐血するが」

 

五航戦の姉の方、翔鶴………空母にしては珍しく礼儀正しく真面目でよく気のつく大人しめなタイプだが、病的なまでに妹を溺愛しており、妹の健康の為に日々のお百度詣りをかかさず、妹に最高の食生活を与える為に自らの命を削り続け、たぶん医者に診せたら健康な臓器は一つもないと言われるレベルで病んでいる…

 

「まぁ、なんか問題起こされる前に一応、確認しとくか…」

 

「それがいいと思いますよ」

 

「よし、では昼飯ついでに街に出かけるとしようか……サミダス、今日の昼飯について卿の意見を聞こう」

 

「そうですね………ざるそば、とかどうですか?あと、五月雨です」

 

「ざるそばか……ふむ、卿の意見を昰とする、では行こうか」

 

◆◆◆

 

五月雨と共に街へ行き、小粋でもなんでもない大衆向けうどん屋で昼食を摂り、件の赤城が働いていると噂されている町工場みたいなところへと向かっていると、道沿いにある自販機の前になにやら見知った顔が立っていた…

 

「アレ、加賀さんじゃないですか?」

 

「あぁ、加賀っぽいな」

 

自販機で買ったジュース的なものを購入している目ツキが悪くて性格が悪くて素行が悪そうな匂いがプンプンする女、いつもと違う街行きスタイルではあるが間違いなくアイツは加賀…ッ!赤城と並ぶ空母カースト最上位に立つ一航戦の片割れ!

 

「よぉ、加賀ァ…ナニやってんだオマエ?」

 

「あ゛?………ナンだ、テートクとサミーダレちゃんじゃねーの?そっちこそナニしてんだ?デートか?」

 

「んなワケねーだろ、ここら辺で赤城のヤローが真面目に働いてるとかウワサ聞いてな、ホントかどーか見に来たんだよ」

 

「ふ〜ん」

 

しかし加賀のヤローがこんなところに居るとは、まさか噂は本当だと言うのか…?加賀は興味なさげに缶のプルトップを開け、サイダー的なジュースに口をつけ…

 

「ってか赤城が真面目に働くとかマジありえねーっしょ?ギャハハハハ!」

 

「オマエも知らねーのかよ!ってか、じゃ!なんでオマエこんなトコうろついてんだよ!?」

 

「テメーにカンケーあるかっーの………いや、ま、隠すコトでもねぇか、ここら辺によ、腕の良い足袋屋があるっーから探しに来たワケよ」

 

「足袋だァ〜…?」

 

…そういや空母には足袋愛用者が多いな、コイツ、口と性格は悪いがその実力だけはホンモノだしな、意外とそーゆー繊細なトコには気を遣うのか、なるほど、なかなか感心じゃないか…

 

「自分ら用に何足か……あ、あと可愛い可愛い五航戦に買ってやらねーと」

 

「ほぉ」

 

なんだ、後輩の分まで買ってやるとは……趣味は五航戦いびりのイヤな先輩かと思いきや、なかなか良いところがあるじゃないか、いつまでもただのチンピラ空母ではないと言うことか……

 

「ま、五航戦には一足二十万ぐれーで売りつけるケドな!ギャハハハハ!!」

 

と、思ったけどやっぱちげーわ………ただのイヤな先輩で最悪のチンピラ空母だったわ

 

この最悪な先輩加賀に対し、何故か五航戦の姉の方は妙に慕っているらしく、過去にも幸運のお守りだの、うさんくさい健康食品などをとんでもない価格で売りつけては小遣い稼ぎをしている最悪っぷりだ…

 

「あー…笑った笑った、今度あの白髪ブリーチでピンクに染めるか」

 

「やめてやれよ、ったく…相変わらず最悪なセンパイだなオイ」

 

「あ?ナンだとコラ?アタマにくるぜ」

 

「うるせぇよ」

 

ーーー

 

…とりあえず、暇人の加賀を新たな旅の仲間に迎え、件の町工場へとやって来たワケだが……軍の者とは言え、いきなり中に入ってみるワケにもいかないよな、普通

 

「提督、あそこ、壁のスキマから中が見えそうですよ」

 

「でかした!」

 

たしかに、五月雨の指差した場所には微妙に壊れた壁の穴がある、なるほど.、これなら…

 

「どれどれ…」

 

「そもそも何を作ってる工場なんですかね、ここ」

 

「さぁ?知らね」

 

とりあえず俺と五月雨は壁のスキマから中を覗いてみる、まぁ、そもそもあの赤城がこんなトコで働いてるとは思えな…………って!!居たァァァァァ!!なんか工場のライン作業的な作業に従事する黒髪ロングの芋っぽい女ァ!!

間違いない……作業着的な服を着てはいるが、アイツは赤城だ…

 

「ナニやってんだ…アイツ」

 

「さぁ?ってか、オモチャ工場ですかね、ここ」

 

どうやら、赤城は猿がシンバルをシャンシャンするよくわからないオモチャを組み立てる作業をしているらしい…

 

『お、赤城さん相変わらず早いねー』

 

『仕事モ正確ダシ、赤城サン』

 

『まったく!このぶんだと次期工場長は赤城さんに決まりだなぁ!ガハハハハ!』

 

…そして、仕事仲間達からは妙に慕われているッ!これがあの赤城…?最強最悪の名を欲しいままにし、闇に舞い降りた天才と謳われた異端の空母赤城なのか…?

 

正直、今、目の前にある光景がまったく信じられずにいると、工場の終業時間になったらしく、従業員達は作業を終了し挨拶などかわしていた…

 

『えー皆さん、今月もお疲れ様でした、今日は給料の支給日ですので作業の片付けが終わった方から並んでください』

 

そうか、今日は給料日なのか……キチンと整列する従業員中に、赤城もいる、アイツが真面目に並ぶとは……

 

『はい、お疲れ様でした』

 

『…ウス』

 

この時、赤城が受け取った給料額は一万二千円、現代の貨幣価値に換算すると約十二万円になる(ざわ…っ)

 

「提督、アゴ!アゴ!尖がってますよ」

 

「ん?あぁ、すまんすまん」ざわ…

 

…しかしあの赤城がマジで真面目に働くとは、アイツは本当にあの赤城なのか?アイツは賭け麻雀で五航戦の姉から給料まきあげるどころか下の毛までブチ抜いて永久脱毛する悪鬼の中の悪鬼……

そんな赤城の変わり様を信じられない俺と五月雨は仕事が終わり、工場から出てきた赤城に声をかけるべきか否かを攻めあぐねていた…

 

「まさかあの赤城がな…」

 

「えぇ、私もびっくりです」

 

「まぁ、なんにせよ、真面目になったってなら良いコトだな」

 

「そうですね」

 

アイツに何があったかは知らないが、更生したのは悪い事ではないだろう、もしかしたら、赤城だけでなく他のチンピラ同然のヤツらにも更生する余地があるのやもしれんと希望を抱き、何も言わずに立ち去ろうとした俺の前を横切り、一航戦の青い方が工場から出てきた赤城に声をかけた

 

「ククク…らしくねーじゃねぇか、赤城」

 

「…加賀さん」

 

「似合わねぇコトしてるなよ、赤城、いつまでも遊んでるんじゃねぇ!」

 

チンピラ空母加賀は赤城にオマエならもっと稼げる!掴め!大金を…っ!と声をかけた!

 

「…五航戦に足袋を売りつける、加われ!赤城!オマエならやるハズ…っ!」ざわ…ざわ…

 

「ククク……いくらで売るんだ?」

 

「一足三十万、ビタ一文まからねぇ!」

 

「ククク……一足三十万か、相変わらずだな……加賀さん、いいよ、乗った、その話」

 

「赤城…っ!」

 

加賀はさすが赤城だぜとか言いながらその肩をバシバシ叩き、よし!行こう!前祝いだ!とか言いながら赤城と共に薄暗い町工場の路地へと消えて行った…

 

後に、不世出の天才と謳われた赤城の新たなる伝説の始まりである…

 

「である」ざわ…ざわ…

 

「である、じゃないですよ、アゴ!アゴ!」

 

「む、あぁ、すまんすまん」

 

 

後日、基地の自販機コーナーで缶コーヒーを買っていると、相変わらず青白い顔でゴホゴホ咳をしていた翔鶴に会い、加賀センパイから妹にどうかと素晴らしい足袋を買ったんですと嬉しそうに話していた…


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