【登場人物】
提督(最低の屑)
クズの人
Richelieu(実家はボルドー)
オシャレ戦艦、凱旋門?モチロン知ってるわよ?
今日も暑いし昼はざるそばでも食うかと考えながら執務棟の廊下を歩いていると、廊下の先からまるで毒薔薇のような香気が漂ってきたので何事かと思っていたら自販機コーナーの自販機の前で色白キンパツ美女が右手を顎にやって何か考えていた…
「…フムフム」
「よぉ、リシュリューくん、水でも買いに来たのか?」
「…ん?あら、amiralじゃない?Bonjour」
フランスからやって来た自称最強のスーパーモデル戦艦、リシュリューくんは、獅子のタテガミのようなモッサリした金髪をぶわーっと流し、フフッと笑いながら財布をポケットにしまった
「Ça tombe bien……丁度いいわ、amiral、私にeau minéraleを買ってくださる?」
「あ?なんだって?」
「不勉強ね、コレよ!コレ!」
そう言ってリシュリューくんは自販機を指差し、コレコレとディスプレイのペットボトルの辺りをペシペシ指で押した
なんだ?あぁ、水か……水くらいテメーで買えよ、ナニ甘えたコト要求してんだこのボンクラ戦艦は
「お断る」
「オコトワル………?ちょっと待って、Un moment!……エ〜っと」
リシュリューくんはポケットから出したメモ帳、表紙に奇妙な動物が描かれた手書きの日本語丸わかりメモ(その③)なるメモ帳をパラパラとめくり美しい日本語の検索を始めた、わからない事や困った事はメモにとり、後に活かす事ができるこの娘はきっとやればできる娘なんだろう…
「………載ってないわね」
「まぁ、平たく言えば、バカ言ってるんじゃないよこの娘は、だな」
「ハァ!?なァんですって!?」
リシュリューくんはその、豪奢な金髪を靡かせ俺に詰め寄ってきたが、俺はとりあえずノーノー、フランス語ノー、アイドントスピークフランス語と言ってリシュリューくんの胸を押し戻した、なるほどこの柔らかさ……これはいい自由・平等・博愛をお持ちだ
「ちょ!」
「なるほど、さすがはリシュリューくん、自称最強戦艦は伊達じゃないな」
「え…?あ、え、えぇ!Exactement!当然よ!トーゼン!」
相変わらずチョロいなコイツ、これでよくボルドーから出て来てパリで女優にならないとかスカウトされてAV女優にならなかったモンだ、まぁ…パリにAVがあるのかは知らんが
「ところでamiralはこんなところで何してるのかしら?」
「腹減ったから飯食いに行くのだよ」
「メシ…?あぁ、Le déjeunerね!フ〜ン……ヘェ〜…」
「お前も来るか?」
「Ouf……amiral、アナタ、女性の誘い方と言うものがワカっていな…」
「来ないんだな、アバヨ」
とりあえずメンドくさそうなリシュリューくんへの社交辞令を済ませたのでさっさとその場を去ろうとすると、リシュリューくんから猛烈な勢いで肩を掴まれたッ!!痛い!ってか痛い!痛いよ!なんだこの力は…!?このスーパーモデルみたいな細腕のどっからこのパワーが出るんだ!?
「ちょ…ちょっと!待・ち・な・さ・い!Un moment!」
「お…おぉ、おぅ」
「フフッ、amiral、私もご一緒させて貰うわ!」
「あ?あぁ、うん、あぁ、構わんよ」
正直、ただの社交辞令だったのだが、まぁいいや、たまには見た目だけは最高級のブランドものみたいな女を連れて颯爽と麺類とか食べに行くのも悪くないだろう
そんなワケで、俺はリシュリューくんと共に街に食事へと出かけた……
◆◆◆
「それで?今日のLe déjeunerは何かしら?まず今日の気分的に前菜はmarinade acidulée à la kalamansiがいいわね、Crème vichyssoise glacéeも捨てがたいけど、ま、それは次にしましょ?それとfricassée de girollesも外せないわ、amiralもそう思わない?」
上機嫌にペラペラ喋るコイツが何を言っているかまったく理解できないが、ただ一つ、たった一つだけシンプルな事がわかるとすれば、そう、この場に球磨ねーちゃんが居たらブン殴られてフランスまでスッ飛ばされるだろう、それだけだ
「うるせぇよ、俺は今日は麺類の食いたい気分なのだよ」
「メンルイ…?Nouilles……?あ、ワカった!Ramenでしょ?知ってるわよ!」
「ラメーン…?あぁ、ラーメンな、ラーメン」
「田舎のmèreが昔作ってくれたコトがあるのよ!」
「ふ〜ん、いい母ちゃんじゃねーか、今度痩せろって電話してやれよ、あ、それと秋にワイン送ってくれって頼んどいてくれ」
「イ・ヤ・よ!なんで私が…ってか!なんでamiralがMamanの体重気にしてるのよ!?」
「こないだウチのバカ娘は元気でやってますかって電話があってな、そんトキ最近ちょっと食べ過ぎただの腰が痛いだの世間話してな…」
「Tu exagères!!あのババア…!」
「お母さん、田舎はイヤよとか言って飛び出したきりの不良娘が帰ってきて実家の仕事を継いでくれると嬉しいって言ってたぞ」
「……Maman」ポロポロ…
…まったく、お母さんを泣かせるモンじゃないぞこの不良娘が
そんなワリとどうでもいいリシュリュー家の話をしていると、今日の気分はそばからラーメンへと切り替わった俺達はとりあえず近場にある小汚いラーメン屋の駐車場へと入り、ラーメン屋の扉を開いた…
「ヘイラッシャーイ!」
「アラッシャーイ!」
「何名様ですか?2名?カウンター2名ーっ!」
トンコツラーメンが専門のこの店は小汚い、そして狭い、だがそれでいい、オシャレで小綺麗な女性のお客様でも安心して入れますみたいな店はラーメン屋ではない、それはラーメンがメニューにあるだけの店だ(※個人の感想です)
「ラーメン、カタ麺で、お前は?」
「え…?あ、じゃ……じゃ、amiralと同じで…」
リシュリューのヤツは店に入るとなにやらしかめっ面で鼻をフンフンしているが……そうか、コイツ、ラーメン屋に来たコトないんだな
「お待たせしましたー!ラーメン、カタ!」
「はいはい」
そして注文からこの提供までのスピード、忙しい社会人のランチタイムの為にあるような速さなのだよ
「さて、いただき……なんだ?」
俺の隣に座るこの店に似つかわしくない豪奢な金髪美女、リシュリューくんはラーメンのドンブリを手にし、フンフンと鼻を近づけ……
「スンスン!……うぷっ、な、なんて臭いなの!スン!……く、臭い!臭すぎるわ!」
「そりゃオマエ、トンコツラーメンだからな」
「クンクン、ううっ…すごい臭いわ……ンァ…んふぅ、コレは本当に食べていいものなの?」
コイツなんてこの言うのかね、ほら、店員さんちょっと睨んでるじゃねーか、お前が見た目わかりやすい外人さんじゃなかったらもう店員とリアルファイト待った無しだよ
「クンクン、うくぅ…!あ、あ、ああぁ…臭いわ、ホント?ホントにいいの?……クンクン…んっ!臭い!ハァ…ハァ…」
「うるせぇよ、いいから早く食えよ、俺が恥ずかしいだろーが」
店員だって菩薩じゃないんだ、こんなに臭い臭い連呼されりゃ外人だって叩き出さ……いや、なんかちょっと嬉しそうだぞ?綺麗な金髪美女だし仕方ねーなみたいな顔してやがるよ
「クンクン、ううっ…うはぁ……なんて、なんて匂いなの…んふぅ……!最低ェ…最低よ…っ!」
「最低とかゆーな!トンコツラーメンに謝れ!」
俺はカウンターにあったニンニクの瓶を手に取り、リシュリューのラーメンに入れてやった
「クンクン……ううっ…!さ、さっきより全然すごい匂いがするわ……!んあぁ、クンクン、んあぁ……さ、最低よ!」
「スイマセン店員さん、この娘、ニホンに来たばっかで悪気はないんです、ホント悪気はないんです」
俺は店員さんに本当にスイマセンでしたと頭を下げたが、優しい店員さんはにこやかに脂の乗った笑みを浮かべ右手の親指をグッと上げ、麺を茹でている店長らしき男は“まったく、どいつもコイツも仕方ないバカどもだぜ…”と言った顔をしていた
「は……ハフ、ハフ……ぁああ、口の中!口の中に臭いのいっぱい…っ!うぷっ……!んんん!んあぁ…」
「オマエちょっと黙って食おうな!な?もうちょい黙ろうな!?」
こうして、リシュリューくんは初めてのトンコツラーメンを堪能し、店を出る帰り際、俺は本当にスイマセンでしたともう一度頭を下げると、店員さんからいつでも使える割引き券を貰い、また来て下さいとアツくありあっしたーと言われた……
リシュリューくんは臭い臭い言いつつもキチンと残さず食べ、一応、満足したらしく帰りも終始上機嫌だった…
………コイツとは二度とラーメン食べに行かねぇ