遊び球無しのエコ投球で投げるスタイル
【BAD END】
【Bordeaux rouge】
今回はこちらの二本立て
【BAD END】
かつて戦争があった…
人類と深海棲艦の戦争、それは人類が初めて人類以外の知性溢れる敵性生物と言う存在を相手に人種・国家・宗教の垣根を越えて手を取り合い、人類の力と英知を結集させて勝利し、人と人は互いに分かり合えるのだと予感させた…
しかし、人類は変わらなかった
深海棲艦との戦争の間にも水面下では人類同士の戦いは無くなる事はなかった、そして、深海棲艦の脅威が去った後に、再び人類は互いに武器を向け合った…
「おひさっす、センパイ」
「…ヒメか、誰も近付けるなと警備に厳命していたハズだがな…」
海軍本部より離れ、遠く、キュウシュウの地にある古い海軍基地の一角に設けられた墓地、かつての俺はここを拠点とし深海棲艦との戦いに明け暮れ、上に上がると言う野心に燃えていた時期もあった…
そして、今や中央の実権の大部分をその手に握っただけではなく、全ての大海を手に握れる場所まで上り詰めた…
「海軍元帥に、軍務尚書、統帥本部総長、艦隊司令長官っすか〜…ちょっと役職与え過ぎじゃないんすか?」
「そんな事は無い、これでもまだ少ないくらいだ」
「秘書ちゃん、そんなに仕事したくないんですけど?ってヴァルハラでブツクサ言ってるっすよ」
「だろうな、アイツならそう言う」
手当が付くなら秘書艦ぐらいで丁度いい、とな…
「…それで?何の用だ?無駄話をする為に来たワケではないのだろう?」
「無駄話する為に来たんすよ、たまにはいいじゃねーっすか?ウチのヴェーちゃんがアップルパイ作ったんすよ、コーヒーでも飲みながら一緒にどーっすか?」
「…悪いが遠慮させてもらう、すぐに中央に戻るつもりだからな」
「もー!マジつれねーっすね!」
「つれなくて結構だ」
深海棲艦との戦いは既に遠き日、戦争の終結と共に、戦う力を失った多くの艦娘達だったが、一部ではその力は失われておらず、深海棲艦のようにいつの日か人類に向けるのでは?と声があり、艦娘に軍での過分な地位を与えるのを危険視する声は少なくはなかった…
しかし、歴戦の将校達はその声に対して弁解も反論もなく、無視という形で過分な地位を与え続け重用し続け、それはやがて大きな不満となり、最悪の形で爆発した…
一部の思想に染まった過激派による艦娘の排除運動、それは、俺の半身を奪い、過激にはより過激による報復を是とする復讐鬼をこの世に誕生させた…
「また来る」
ここへ来る度に、まだ足りないと感じ、我が頼れる秘書艦に過剰なまでに地位を与えてきたが、やはりまだ足りないと感じる…
次は何を手土産にすればいいだろうか?この海の王にでもしてやればいいだろうか?いや、アイツのコトだ、きっと何も望んではいない、おそらくは似合わない邁進はなどやめてはどうですか?と言うのだろう
「ヒメ、中央に戻り次第、全ての元帥を呼べ」
「へいへいっす、あ、そうそう、なんか例の連邦政府の高官がセンパイに話があるとかなんとか…」
「斬れ」
「いやいやいや、話ぐらい聞いて………ま、りょーかいっす」
…五月雨よ、俺は邁進をやめんぞ、そしていつの日か、お前は俺を叱るのだろう?その時までに考えた謝罪の台詞をお前が飽きてもう結構ですと言うまで聞かせてやる
それから、コーヒーを淹れてくれないか?舌が火傷しそうなほど、アツいヤツをな…
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【Bordeaux rouge】
かつて戦争があった…
海軍本部頂上決戦、仲間を取り戻しに来た深海棲艦のヘッド、永遠に王になれずにフワフワしちょるだけのミジメな敗北者である中枢棲姫は遂に倒され、深海棲艦達はヘッドを失い、失意の下に海の底へと帰って行った…
戦いの日々は終わり、俺は軍を辞め、退職金を手に、かつての夢であった“西欧文明ドナウ起源論”を証明するべく活動の場を欧州へと移す事にし、かつての部下達に、また会おうッ!ワシのことが嫌いじゃあなけりゃな!マヌケ面ァ!と言って颯爽と去ろうとしたら、欧州組から凄まじいパワーで肩を掴まれ肩を破壊され…
「BOSSは倒す、仲間を守る、そう難しいコトじゃあない…」
イタリア組から逃げ出した
「knight of one、これからも共に女王陛下に忠誠…」
イギリス組から逃げ出した
「ろーちゃんですって!」
ドイツ組から逃げ出した、たぶん総統から殺される
「は?触らないで、訴えますよ」
…ちなみに、
そして、そんな欧州で俺を温かく迎えてくれた国は美と芸術の国、花の都………ではなく、ちょっと都から離れた片田舎だった
フランス、ボルドー地方…
「今年は当たり年ね!」
「そうかぁ?」
今年の収穫祭を終え、晩秋の暗がりは早く、町の火はもう既に各家に灯っている季節…俺は微妙にボロい納屋を改装した部屋で、チーズを口に入れつつ新聞を読んでいた…
「モォ!mon amiral!アナタ、ちゃんと聞・い・て・る・の?」
「はいはい聞いてる聞いてる、アレだろ?ブラックホールに落ちると時間が止まるんだろ?」
「言ってないわよ!むしろブラックホールなんて行けないわ!」
「バカ言うんじゃないよこの娘は、ブラックホールなんてテニスしてたら普通に設置するだろ」
「しないわよ」
ボロ納屋に似つかわしくないキラッキラの豪奢なキンパツをぶわぁっと流し、この家の家主である美女は机をダァン!と叩いた…
かつての部下、フランスから来た自称最強戦艦リシュリュー、地元じゃ最強最強言われてちやほやされてたせいか、ニホンに来た当初はお高くとまっていたが、ニホンのチンピラ戦艦どもにボコられて自信を失い、謙虚な性格に変わってしまった過去を持つ…
欧州での活動拠点を探していた俺は、リシュリューからウチの田舎……実家の納屋でよければ下宿させてあげてもよくってよ!と提案され、即飛びついた、まぁ、その提案した本人は“なんか違うな…”みたいな顔をしていたが、アレだろう、本来なら俺が“納屋…?冗談じゃない!まるで家畜の扱いだわ!こんな屈辱…!本当に最低よ!”と反抗してくるコトを考えていたのだろう
「まったく……mon amiral、食事の時はJournalはやめなさいな」
「あ?なんだって?」
「モォ!食事が冷めるって言・っ・て・る・の!ほら!貸しなさい!」
リシュリューは俺から新聞を奪うと、グルグルと手で巻いて壁にブン投げた、まだ4コマ漫画読んでないのに…まぁいいや
「今日はCèpes à la Bordelaiseにしたの、どう?」
「ふ〜ん、いいんじゃね?」
「そう?そうよね!」
しかしこのリシュリュー、家主様なのにわざわざこの汚い納屋まで食事を持ってきてくれる暇人だ
昔、こんな片田舎イヤよ!私はパリでスーパーモデルになるのよー!と言って飛び出して行った娘が心を入れ替えて帰ってきて、実家の家業を手伝い、両親も安心と言ったところだろう
「しかしオマエ、パリっ子はいいのか?パリっ子は?」
「は?ナニよ、急に…」
「オマエ、地元じゃ敵なしのスーパーモデルなんだろ?なんかたまにそれっぽい仕事来てるらしいじゃねーか?」
「………キョーミないわ」
「ふ〜ん」
フッ、大人になったな、リシュリュー…
「パリに行ったらさぞかしモテモテなんだろ?ちょっとそこらでイイ男引っかけてきたらどーだ?」
「は?」ギロッ!
「なんでもないです」
まぁ、コイツに釣り合う男などそうはいないだろう……しかし、こんなコイツは片田舎で葡萄踏みつけるにはあまりにも惜しい美を持っている、美とは実に罪なものだな
「mon amiral、それはなぁに?」
「ん?」
リシュリューは俺の後ろに立て掛けてあった画板を目ざとく見つけた
「ご覧の通り、画板だが?」
「画板は見たらわかるわよ、ナニ描いてるの?」
「秘密なのだよ」
「は?」
「は?じゃねーよ、完成したら見せてやろう、完成したらな」
「ふ〜ん………ま、いいケド…」
ちょくちょく描いてみてはいるが、やはり真実の美を描ききる技量は俺にはないらしい、悲しいコトだ
「と、見せかけて…ッ!!見せなさい!」
コイツ!!フェイントを!なんて高度なテクを…!まるでマルセイユルーレットの如きスピンで俺を抜き去り、画板を手に取ったリシュリューはそれを見て……
「………え?えっ〜……え?コレ、え?わ・た・し?」
「下手くそだろう?まだだ、まだ真実の美を再現しきれない己が憎い…ッ!」
「え…?い、いえ、と…とても良く描けてると思う気が…」
「まだだッ!!」
俺はテーブルをダァン!し、己の心のままを未だ表現できないコトを呪った!
「すまない、今の俺にはあるがままの美を表現するには難しいようだ」
「…え?えぇ…?」
「だが約束しよう、いつか必ず俺はオマエと言う“美”を描き切ると!それまで待っていてくれ!」
「え…?えぇ…?えぇ!Je l'ai eu、えぇJe l'ai euよamiral、えぇJe l'ai euです、えぇ…」
なんかリシュリューのヤツ、ドン引きしているようにもみえるが……っーか顔が紅いな、おそらくは風邪気味なのだろう、今夜は暖かくして寝なさいと伝え、リシュリューはなにやらヘラヘラしながら納屋を去って行った…
後に、一人の無名な東洋から来た美の信奉者がボルドーで数枚の作品を残し、この世を去った……しかし、彼が最後に遺したとされる“至高の美”と呼ばれた作品は未だに見つかっておらず、一説には、美は美と共にあるべきとモデルになった女性の手に渡り、最期は女性と共に天に召されたと言う…
次回はたぶん黄金のように爽やかな死闘と、提督の心臓を狙う話、たぶん