【登場人物】
提督(深緑の智将)
そりゃムチムチでバインバインが好きですよ、当たり前でしょう?
朝潮(不動巨人)
朝潮姉妹の長女、真面目
由良さん(惨劇の王者)
長良姉妹の四女、暴君
自販機コーナーで缶コーヒーを買い、喫煙所にでも行くかと歩いていると、執務棟の入口付近に魔女みたいなのがウロついていたので声をかけてみた…
「なんだァ?テメェ…?」
「あ、司令官、コンニチハ」ペコォ
「こんにちは」ペコォ
…誰だコイツ?ウチにこんな可愛いリトルウィッチーさん居たっけか?
「お菓子をください、さもなくばこの棒で殴ります」
「オイオイオイ、こいつぁはとんだリトルウィッチーさんだよ」
…嗚呼、アレか、ハーロイーンってヤツか、トリックもしくはトリートを問い、菓子を貰うお祭りだったな、たしか
ウチのバカどもはナニを解釈したのか、合法的に菓子をカツアゲしてOK、断られたら暴行しても許されるイベントと勘違いしているらしく、毎年地域のケーサツに厳戒態勢を強いられている…
「え~…キミは、アサ……アサシ、いや」
アサシは違うな、アサシはもっとこう……バカそうな顔してるしな、誰だっけコイツ?名前をド忘れしたのだよ
「朝潮です」
「コレクト!朝潮クンだ、そう、朝潮クン」
そうそう朝潮クンだ、朝潮姉妹の長女であり、先日の作戦海域では集積地攻略戦にて内火艇と陸戦隊とランチャーの対地よくばりセットでクチャクチャの挽き肉みてーにしてくれたっけな、うん
そしてこの朝潮クン、アホな駆逐艦の中では比較的真面目な方で、待て!と命じられれば命尽きるまでその場を動かぬ程の“覚悟”を持ち、そして、その小さな身体に似合わぬ不動の意志はまさに巨人!小さな巨人!“不動巨人”と仲間達から評されているらしい
「ふむ、お菓子か…」
「あるんですか?」
「コレでいいかね?」
俺はポケットに入っていたオールシーズンチョコを取り出し、リトルウィッチー朝潮クンに渡してやった
「ありがとうございます、もっとないですか?」
「ねぇよ」
いやだわこの子ったら、オールシーズンチョコ5粒では満足はしない、もっと出せと…?
「ないなら仕方ありません、少し痛めつける必要がありますね」
「オイオイオイ、トリートを渡したのにトリックだよ、コイツぁとんでもない条約違反だよ」
「仕方ないんです、今日は姉妹みんなでお菓子を集めて来てパーリーするって決めてるんです、それなのに………長女の私がオールシーズンチョコ5粒なんて情けない収穫を持ち帰るワケにはいきません!」
「なるほど」
己の為、そして姉妹の為か…その気高い“覚悟”を提督は評価しよう
俺は財布から紙幣をスタイリッシュに取り出し、それを朝潮クンに渡してやった
「それでマミー屋に行って美味しいケーキでも買いなさい、キミの分と、姉妹の分をネ!」
これで朝潮クンも情けない戦果に後ろめたさを感じる事なく堂々と恥じない姿で姉妹達のところへ帰る事ができるだろう…
まったく、良い事をした後は気分が良いと思わず鼻歌でも唄ってしまいそうじゃないと思っていたら、朝潮クンは微妙な顔をして紙幣を俺に突き返してきた…ッ!!
「これは受け取れません!」
「なんと!?な……何故かね?もしかして、足りないのかね?」
オイオイオイ、さすが高級スイーツ店マミー屋、まさか2万で足りないとは…
「違います!司令官から貰ったお金を使い、マミー屋でお買い物してもそれはトリートをしたとは言えないからです!」
「なん……だと?」
「貰ったお金で美味しいお菓子を買い、それを持って帰ると事情を知らない妹達はたしかに喜んでくれると思いますが、トリートを成立させる事が出来ずお金で解決した!……と、私の心に後味の良くないものが残ります!」
「なるほど…」
真面目かッ!!真面目なのか駆逐艦朝潮ッ!なんて融通性の無さ!これまさに不動!不動巨人とはよく言ったものよ…
「つまり、そのお金で提督が自ら菓子を購入し、それをトリートしなければならないと?」
「それなら大丈夫です!朝潮もトリートできます!」
…うわ、面倒くせぇ、マジめんどくせぇ、え?ナニ?今から俺はこのリトルウィッチーにトリートさせる為にマミー屋に言って甘いモン買ってその場でトリートさせないといかんのか?正直、面倒くさいんだが…
「トリートできます!」
…だが、この妹想いのリトルウィッチー朝潮クンの気高い“覚悟”!無下にするワケにもいくまい、俺はリトルウィッチーに付いて来な、この世で二番目に強ぇトリートにしてやるぜ…と言ってスタイリッシュに歩き出した
◆◆◆
「いらっしゃいませ、今日のオススメは~…」
「ここからここまで1個づつ、全部くれや」
甘いモンも辛いモノも売ってる高級スイーツ店マミー屋…
リトルウィッチーを連れた俺はカウンターに立っている店主のムチムチボインにさっさと包めと言って紙幣を置いた
「プレゼント用ですか?」
「ゴチャゴチャうるせぇんだよデブ、早くしろや」
「伊良湖ちゃん、そこの棚に日本刀あるから持って来て、早く」
…間宮との生と死の狭間を感じずにはいられない極限の死闘を経て、無事、目的の甘いモン(税込み¥21800)を購入し、俺は甘い匂いがプンプンする箱を手に取ってカウンターから離れた…
「やぁ、待たせたね朝潮クン」
「大丈夫です!いつまでも待つ覚悟でした!むしろ司令官の頭部から流れる出血が大丈夫に見えないのですが」
「ありがとう、だが問題はないのだよ」
あやうく、せっかくのラムレーズンがストロベリーチップになっちゃったネになりかけたが、購入したスイーツは無事らしい
「では改めまして………お菓子をください、さもなくばこの棒で殴ります!」
「はいはいトリートね、トリート、はい、コレでいいか?」
「はい!たしかにトリートを頂きました!ありがとうございます!」
俺は今し方購入した菓子箱をリトルウィッチー朝潮クンに渡し、朝潮クンは丁寧に頭を下げてお礼を言った
まったく……朝潮クンは最高だな、その純粋さと素直さに照らされて俺も頑張ろうって気持ちになってくるのだよ、ただ、マミーヤの野郎がドン引きした目と小声で“…ロリコン”とディスっていた気がするが俺には関係ない事だ、何故なら俺はロリコンではないのだから…
そんなロリコンではない俺はガハハハと気分良く笑っていると、マミー屋の扉を開き、新たなる客が現れた
「あ、提督じゃない?ナニしてんの?ね?」
「ゲェーッ!お、オマエはーッ!」
「人の顔見てゲェーッ!は無いでしょ、ゲェーッは」
あからさまに不愉快そうに顔をしかめるのは、長良姉妹、狂乱の四女!かつて惨劇の王者とまで呼ばれ、敵味方問わずドン引きさせた絶対なるエース、由良さん…
「あ、お菓子だ、ナニそれ?提督が買ってくれたの?ってか誰コレ?魔女?」
由良さんは目ざとくリトルウィッチー朝潮クンが持っていた菓子箱に目を付けた
「いえ!コレは司令官からトリートしたお菓子です!あと、朝潮です!」
「トリート…?へぇ」
俺は知っている、由良さんのあの邪悪な笑みを……おそらく、由良さんはこの僅か数秒で俺が朝潮クンにトリートさせる為にお菓子購入した解答を導き出しただろう、そして、自分にもお高い菓子を買わせるべく行動を起こすハズだ…ッ!
「それでは、提督は失礼す……」
「ドコに行くの、ね…っ?」
即座に離脱しようとした俺にノーモーションからの直突きを放ち、どこ行くの?ね?と言って邪悪な笑みを浮かべている、どうやらコイツはタフな戦いになりそうだ…
「たしかハーロイーンはこう言うんだっけ?“発狂”か“死”か、ね?提督さん」
「そんな物騒な祭りがあってたまるか、オモテに出な、由良さん、ここじゃ狭くてお互いにやりにくいだろ?」
「ん~?由良としては別に構わないけど、ま、提督さんからせっかくのお誘いだし、ね」
由良さんはニコニコ笑いながら入ってきた扉を開けるべく背を向け、俺はその一瞬を決して見逃さない!マミー屋の椅子を即座に掴み、全力で由良さんの背中に叩きつけた!!
ドンッ!!(椅子アタック)
「っしゃあッ!!」
「ぐっ…!!!」
「誰がテメェとマトモにやり合うかボケェ!!日和ってんじゃねーゾ!ギャハハハハハ!」
「へぇ……提督さん、その気なんだ、へぇ…なら由良さんも遠慮はいらない、ね…?」
この後、俺と由良さんはマミー屋を飛び出し、血で血を洗う、おそらくは金的以外は全て使用された死闘を演じ、お互いにこれ以上は不毛じゃないかとの結論に至り、俺は由良さんとファミレスに行き、由良さんはドリンクバーの無料チケットを出す平和的解決に終わった…