最後は陸奥と、短めのトクベツ編
【修羅の花嫁】
【続・喫茶五月雨軒】
ですって
【修羅の花嫁】
かつて、戦争があった…海軍が誇る最大の戦力と深海棲艦の精鋭達による総力戦は熾烈を極め、最終決戦の地“終わりと始まりの地”にて海軍大元帥と深海大首領との戦いは周囲の地形と生態系すら変える文字通りの頂上決戦となった
激闘の末、海軍大元帥の最終決戦奥義が深海大首領の身体を貫き戦いは海軍の勝利と終わった…
そして、大首領の敗北を知った深海棲艦達は世界中の海から姿を消し世界の海に平和が戻った………とはいかず、深海棲艦の姿を消した海は、今度は人類同士が飽くなき争いを続けているが、それは俺には関係のない話…
「今期の目標達成できそうね…」
「新製品が当たったからな」
「まぁ、それもあるけど営業努力もあるわね、あの子らにご褒美用意しないとね」
書類を片手に悪戯っぽくウィンクする陸奥は上機嫌に愛用のコーヒーカップを手に取った…
深海棲艦との戦いの後、軍を辞めた俺は元部下である陸奥と共に化粧品事業をはじめた…
高い女子力と磨き抜かれた美貌を持つ陸奥の眼は侮り難し、時代と女子の求めるコスメを次々に開発し、今やM2のブランドは女子にとっての必須アイテム、その信頼度たるやエクスカリバーに等しいとまで噂されている…
「ご褒美ねぇ、ま…いいんじゃね」
「フフッ、アイスでも買ってあげようかしら?」
「ガキの遣いかよ…」
「冗談よ、ジョーダン」
陸奥はニヤニヤ笑いながら書類をケースに収めると今日は美味しいものでも食べに行きましょうかと上機嫌に言った
「いいな、肉でも食うか、肉」
「…肉ねぇ、ま、悪くないんじゃない?」
「たまにはガシッと肉食わないとな」
「そうねぇ、あ、そうだ、ちょっと待って」
陸奥はスマホをスタイリッシュに操作し、なにやら連絡メール的なものを打ってスマホのケースを閉じた
「なんだ?」
「お肉食べに行くから来れる子は来なさい、ってね」
「オイオーイ、ハニー、ディナーは二人っきりじゃないのかーい?」
「そうねぇ、アナタが事前に小粋なレストランでも予約してたなら今のメールは取り消すわ」
このヤロウ、俺がそんなマメな男じゃないと知ってのコトだよ、陸奥はじゃ行きましょうと言って愛用のハンドバッグを手にしてさっさと歩きだしたので俺も戸締まりを確認して後を追った
‐‐‐
陸奥の呼び出しで集まった睦月姉妹どもは他人の金と思って、ここぞとばかりに食った…
コイツら、こーゆーところは軍に居た時と何も変わってねぇな…
「サーロインにゃしい」ナポォ…モニュ…
「大した健啖家ですね」ナポォ…
「いい感じぃ~」ナポォ…
どいつもこいもワイルドに食いやがって…
「お前ら他人の金だからって遠慮なさすぎか、少しは遠慮しろ、遠慮」
「イヤにゃしい」
「スイマセぇ~ン、調味料くださ~い、全部♪」
まぁ、こうなるコトは想定内と言うヤツだ、たぶん現金足りないな、カードでいいか…
そんな俺の心配を余所に、陸奥はワインを片手に上機嫌にニコニコしてやがる…
「コレ福利厚生費か交際費でいいよな?」
「?、あら?今日は提督の奢りって聞いてるけど?」
「ハァ!?」
「みんなぁ~…今日は社長の奢りだから遠慮とかしちゃダメよ~」
このアマなんてコト言いやがる…っ!ありえない…っ!常人には出来ない発想……っ!悪魔じみている…っ!
そして、そんな悪魔的タダ飯を悪魔的睦月姉妹は悪魔的注文をここぞとばかりに繰り返す、コイツら普段一体何を食ってるのか…?
「………はぁ」
「社長が暗い顔しないの、ほら」
陸奥は自分のワイングラスを俺に勧め、俺はそのグラスを受け取ってイッキに呷った
「ブハァ!!……マズい、毒にも薬にもなりゃしねぇ」
「あらそう?結構イケると思うけど?」
「俺ワイン苦手なんだよ」
「ふ~ん」
「ところでどうだ?この後、やらないか?」
「どストレートなお誘いアリガト、でも残念、今日は気分じゃないの」
あと、どストレートすぎて今のはマイナスねと言って陸奥は小さくウィンクした
「お前に一目惚れじゃあ、抱くぞ」
「微妙な変化つけてきたわね、マイナス30点」
そんな俺と陸奥のやりとりを見ていた睦月姉妹のクソガキどもは“また提督が振られておるぞー!”とか言ってゲラゲラ笑い、別腹のデザートを注文しだした…
「いい加減諦めるにゃしい」
「テートクに陸奥さんはオトせないですよ」
「うるせぇよ、オトせるわい!なぁオイ!」
「そうねぇ、諦めが悪いのは嫌いじゃないわ」ニコッ
「ほらぁ!」
「完全に遊ばれてるにゃしい…」
「バカだ、バカがいる、ギャハハハハ!」
コ、コイツらぁ……誰がこのクソガキどもを雇ってやっていると…
「そうねぇ……ま、バカと言うより、大バカかしらね」
「誰が大バカだ!」
「フフッ…ウチの家系は昔からバカに弱いのよ、それも、大バカにね」
「マジか!」
いや、この顔はいつもの冗談言ってるツラか…?陸奥は可笑しそうに笑ってテーブルに頬杖をつき…
「…さぁ?どうかしら?」
………まったく、付き合いだけは長いがこの女だけはわからん、だが、一つだけ確かな事がある、それは………
コイツはかなり“イイ女”ってコトだろう
【続・喫茶五月雨軒】
「コーヒーです」
「うむ」
キュウシュウのとある市街地、その市街地の雑居ビルに店を構える本格珈琲専門店、五月雨堂…
その、些かユニークな味は飲む者の心に暗い影を落とし、世の中にはこんなので金取る店もあるのかとある意味感心させている…
「………不味い」
「失礼な」
「相変わらずお前の淹れるコーヒーは不味いな」
「不味くありません、こだわり抜いた本当のコーヒーの味です」
その、クソマズコーヒー専門店を経営する店主の五月雨は俺の感想に若干イラっとしつつもすぐにニュートラル状態に戻り、カップを拭き始めた…
「ところで最近、向かいのビルにス●バが入ったらしいな」
「そうらしいですね」
「…よし、行くか」
クソマズコーヒーを飲んでひと心地ついたところで口直しでもするか…
「ス●バに行くのなら店内にゴ●ブリがいないか血眼で探してください、むしろ落ち度を見つけたらそこを徹底的に突いてください」
「なんてコト言うのかね、この子は」
「ウチの客奪ってデカい顔しようなんて甘いんですよ、チョコ・ラテみたいに」
奪われてない、お前は何も失ってない………その言葉を飲み込み、俺はクールに苦く笑った
「相変わらず卿に冗談のセンスはないな」
俺は椅子を引いて立ち上がり上着を手に取ると、五月雨は一枚の紙を差し出してきた…
「380円です」
「毎日飲むお得意様へ一杯無料とか始めたらどうだ?」
「考えておきます、380円です」