【登場人物】
提督(中佐)
子供にアイスぶつけられる程度の覇気
五月雨(秘書艦)
通称、青髪ロング子、結構キレ易い
今年は雪が降る気配すらないなと感じつつなんやかんやでもう二月も終わり気味の春の気配すら感じる執務室…
鳴るとだいたいロクな話しかない軍の回線を使った電話にイヤな予感を覚えつつでると、イヤな予感は確信に変わった…
『そーゆーワケだ、わかったか?』
「わからん、まったくわからん」
『わからんかいダボが、まぁいい……これは既に決まった話だ、ワシにもどーしょーもない』
「それをどうにかするのが大将様じゃねーのかよ、なんなんだよ大将様ァ〜…無敵のマグマパンチで気に入らねーヤツはズドンしちまって下さいよぉ〜」
電話してきた大将様からのイヤな話を聞きつつ、これからの予定をどうしたものかとカレンダーにメモを書き込み、話の最後に“もしやらかしたら命はないと思えよ”と釘を刺され電話は切られたので俺も受話器を電話器に叩きつけた
「何事ですか?」
「何事だ」
青髪ロング子は消防機器関係の書類を纏めたファイルを俺の机に置き、コーヒー飲みますかと尋ねてきたので丁重と断ると若干イラっときた顔をしたがすぐにニュートラルに戻った
「………今度、例のお嬢様がキュウシュウに来るらしい」
「…はぁ?」
「で、わざわざ時間を作ってウチを見に来るらしい」
「はぁ?」
はぁ?じゃないのだよこの子は………ったく、そもそもあのお嬢様もなんでまたウチなんかを見に来るんだよ、佐世保とか行けよ、佐世保、ウチじゃオージィービーフしか出せないが四大鎮守府の一角、佐世保なら和牛ぐらい用意してくれるだろーよ
「一応、護衛と案内も兼ねてあのクソオヤジも来るそーだ」
「大将殿もですか、これはバ●ターコール待ったなしですね」
「何がバ●ターコールだ」
だがあのクソオヤジのコトだ、正しくなければ生きる価値は無し!生き恥を晒すぐらいなら容赦なくズドンするだろう…
「でだ、とりあえず俺はこの件を穏便に片付け植物のように穏やかに生きたいわけなのだよ」
「はぁ?」
「間違ってもだ、基地に来たお嬢様にいきなりガンくれたりメンチ切ったりするようなクズどもが居てはならないのだよ」
「はぁ…?」
「もしだ、お嬢様に対して何かしらの失礼働こうものなら即バ●ターコールと考えていいだろう」
「そうですね、ってか、むしろ門とか壁の掃除した方がいいでしょうね」
特に、駆逐艦のアホガキどもの寮はバキハウス並のヤンチャぶりだしな
「あと、明石の店も余計なモノは全部撤去だ」
「そうですね」
◆◆◆
バカどもとは生物としてのステージが違い過ぎる生粋のお嬢様を迎えるにあたり、何がセーフで何がアウトなのか、その、アツい議題を徹底討論するべく、やはり糖分は欠かせないと俺と五月雨はマミーヤに場所を移していた…
「ちなみに、有馬のお嬢様はただ職場見学するだけなんですか?」
「一応そうらしいが、まぁ、もしかしたら演習ぐらいするかもしれんとかクソオヤジが言ってたな」
「演習…?梶輪大将とですか?」
「バカ言うんじゃないよこの子は」
今や第一線の戦場から身を退いてはいるがあのクソオヤジは常勝の天才と讃えられた事もある実力派だ、間違っても俺に花を持たせようなどと考えないだろうし、練度170オーバーの最精鋭を集めてガチでくるだろう…
「とりあえずだ、俺達はお嬢様が心より喜んでくださる真心のこもった催し物を用意する必要がある」
「はぁ?催し物ですか?」
「サミヒアイス、卿に何か良い案はないか?」
「そうですね、歌でも歌ってみますか?あと、五月雨です」
「歌、か…」
なるほど、シンプルで真心を感じる催しの一つだ…さすがは我が頼れる秘書艦、俺の想像を遥かに超えてきおるわい
「よし、では歌の上手いヤツを…」
「歌の上手い……NAKAさんですかね?」
「大却下だ」
まさかお嬢様に見る者全てが呪われる川内型地獄の人文字を見せるワケにはいくまい…
「じゃ、KAGAさん」
「アイツもトンガってるからなぁ~…却下だ」
まさかお嬢様に1秒間に10KAGA発言で度肝を抜くワケにはいくまい…
「仕方ない、こうなれば俺、天龍、木曾のスーパーハンサムボーイズが…」
「あ、それもナシで」
「なんでだよッ!」
グゥゥゥム、こやつめ、どうやら俺達の歌声が
「自分で言ってみたものの、歌は難易度高そうなのでナシの方向が良さそうですね」
「然り」
となると、あと思いつくのは“油風呂”か“竹林剣相撲”か“撲針愚”ぐらいしか思いつかんな…
「フロイラインサミーンドルフ、卿に何か妙案はないか?」
「そうですねぇ、正直、相手はあのお嬢様ですし、むしろ必要ないかと……あと、五月雨です」
五月雨はチーズケーキをモサモサ食べつつ興味なさげに頬杖をついた
「バカヤロウ、備えあれば嬉しい嬉しいって言葉を知らないのか!」
「憂いなしは知ってますけど………まぁ、どんな小細工弄しても憂いますよ、きっと」
「なんてコト言うのかねこの子は」
だがこやつの言うコトも一理はある、例え俺の溢れる知性をもってしても100%の勝利はない、可能性が低いと言うコトは0ではないように未来は常に
俺はティラ・ミスにかぶりつき、コーヒーでその甘さと業を流し込んでいると、マミーヤの扉を開き、新たなる客が入って来てこう言った…
『コイツに“スパゲティ”を食わせてやりたいんですが!かまいませんね!』
小綺麗でおっぱいデカい女の名はアクィラ、小汚い子供の名はルイージといった…
そんなアクィラの問いかけに、奥のテーブルに居た仲間らしい女は、特に何か言うワケでもなく、同じくテーブルを共にする姉、イタリアに運ばれて来たスパゲティの皿を小汚い子供の前に差し出した
『あ、ローマ…それ私の』
ルイージは差し出されたスパゲティ、そしてアツアツのピッツアも嬉しい嬉しいとガッついた…
ちなみに、ピッツアもイタリアが注文した皿だった…
『………ひどい』
何故、あの妹は姉の皿を子供に与えたのか………俺はその姿に気高き“覚悟”と漆黒の“意思”を感じた
「………ま、なんとかなるだろ、なぁオイ?」
「そうですね、最悪、提督のクビ一つで許して貰えますよ」
「なんてコト言うのかねこの子は…」