不健全鎮守府   作:犬魚

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全三回の二回目、今回のお話は

【我儘な美女】
【My little“lucky”girl】

…二本立て、二本挿しじゃないよ、二本立て


提督とルート分岐のエンディング⑫

【我儘な美女】

 

かつて、戦争があった…

海軍、深海棲艦、ネオ海軍の三つ巴のドロ沼の戦い、血で血を洗う戦いは、戦争を遊びにしている海軍の上級将校、南風提督と戦艦レ級は壮絶な一騎討ちを繰り広げ、怒りに震え、魂をパワーに変えた戦艦レ級により南風提督は討ち取られが、南風提督最後の執念により、戦艦レ級もその心を壊し、その果てに戦いは終結した…

 

…刻は、まだ涙を流し尽くしていないのかもしれない

 

ーーー

 

深海棲艦との戦いが終わり、早期退役制度を利用して軍を抜けた俺は多少色がついた退職金を元手に、軍在籍時からザラ姉ぇからちょいちょい作り方を教えて貰っていたピッツア、ボルチーニ茸ものっけたアツアツのマルゲリータを出す本格ナポリ窯の店を始めたワケだが…

 

「おかわり」

 

「おかわり、じゃねーよ、金払えよテメー」

 

「払うわ、天城が」

 

…店を始めて二週間ぐらいだっただろうか、新規オープンの効果も多少薄れてきたなぁ〜と感じていたある日、なんか見覚えのある白髪の美女がフラフラと店に入ってきた

 

美女は“1人でコレ食うのか?ウソだろ”とドン引きする量を注文し、それを食べ………ついで、さらに追加した

 

しかし!!女は金を持っていなかった

 

ドン引きする量をたいらげた女はゲーップと美女にあるまじき汚いゲップを吐き、じゃあねと店を出て行こうとしたが、そうは問屋が卸さない、たとえ美女だろーがおっぱいデカかろうが逃すワケにも許すワケにもいかない

 

『うるさいわね、お金ならないわよ』

 

『…金がないなら身体で払え』

 

…こうして、軍在籍時に部下だった無銭暴食犯、雲龍はウチの店で働くコトになった

 

働くコトになったのだが…ッッッ!!この女!マジで最悪だったッ!!接客はまぁ一応ギリギリ許せるとして、この女、ちょっと俺が目を離したら商品を平然と口に入れやがる!!しかも何の悪びれもなく!

 

「ただいまー!配達終わったよー!」

 

「おう!お疲れ!」

 

そんなデカパイだけがとりえの雲龍に頭を痛めていると、ウチで働く雲龍三姉妹の三女、葛城がデリバリーから帰って来た

 

「葛城だけ?天城は?」

 

「天城姉ぇ?今日は老人会の集まりに呼ばれてるけど?」

 

「そう、じゃあ葛城でいいわ、このクズが金払えってうるさいのよ」

 

「あー…」

 

葛城はとても哀しい目をし、おいくらでしょうか?と尻ポケットから財布を取り出したが…

 

「心配ない、コイツの給料から天引きする」

 

「そ、そう…」

 

俺は絶対に雲龍に身体で払わせてやる、そう、絶対

 

「オラ、テメーも食ってないで働け、働いたら食わせてやる」

 

「うるさいわね、はぁ…」

 

よっこらしょとか言いながら気だるげに立ち上がった雲龍はイラッシャイマセーと言いながら男性客のいるテーブルへと行き…

 

「それじゃ少ないわ、もっと注文して」

 

「ハヒィ!!」

 

「あと10枚!あと10枚追加しますー!お持ち帰りでーッ!」

 

…各テーブルを周り、注文を取ってきた雲龍はオーダー票をカウンターに叩きつけた

 

「早く焼いて」

 

「クッ…!コイツ…!」

 

この雲龍、やる気だけは人一倍なさげだが人気だけはある…っ!ウチの客に、圧倒的に男の客が多いのは間違いなくこの雲龍のおかげであろう…

見た目だけは美女でそしてあのデカパイ、近所の学校の男子高校生が毎日ギンギンになって食べに来るのはモチロン、近隣で働くサラリーマンだって昼間からギンギンだ

 

しかし、ただデカパイだけのウェイトレスならそこまでだが、雲龍はさらにそのナナメ上を行く!

 

「………それ、美味しそうね」ジュルリ…

 

「よ、良かったら…どうぞ」

 

「そう?悪いわね」

 

接客中にもかかわらず、雲龍は客の座るソファーに自分も座り、今、自分が出したピッツアに遠慮なく喰らいつく!

 

「アナタ達も食べたら?美味しいわよ」ニコッ

 

デカパイ美女が己の隣なり正面なりでサービスを提供する悪魔的商法…っ!並みの中高生ならカチンコチンになる…っ!常人にできない、これを天然かつ自然にやってのける悪魔的風俗営業…

 

「…葛城ぃ」

 

「なに?テンチョー」

 

「オマエのねーちゃん、なんなの?」

 

「オマエのねーちゃんって…どっち?雲龍姉ぇ?それとも天城姉ぇ?」

 

「デカパイの方」

 

「どっちもデカいんだけど…」

 

そこに気付くとは…大した葛城だ、そんな葛城は若干イラっと感じで保冷器からコークを取り出して瓶の蓋を歯でワイルドに開けると、丁度店の扉が開き、売れない演歌歌手みたいなのが帰って来た

 

「ただいまー…って、なんか忙しそうね」

 

「おう、早速で悪いがオマエも入ってくれ、あのバカなんとかしてくれや」

 

「えー……ちょっと休ませてくれても…あ、コレお土産の幕の内弁当ね」

 

雲龍姉妹の次女、天城、姉妹の良心とも言える常識人であり、ウチで働く傍ら、主に、スーパー銭湯や旅館などでたまにステージに呼ばれて演歌を歌っており、近所のジジババからそこそこ人気があるらしく、最新シングルの限界突破☆サイババーは意外と売れたそうだ

 

天城から余り物らしい幕の内弁当の袋を受け取り、とりあえず冷蔵庫に入れ、俺は再び窯の前へと移動した

 

「まぁいいや、天城、葛城、オマエらは真面目に頼むぞ、真面目に」

 

「はいはい」

 

「はーい」

 

 

俺が目指したのは本格ナポリ窯でバエル感じのオシャレなお店だったのだが、ネットでウチの店を検索すると、美人でデカパイ三姉妹のいるピザの店との評価が書かれており、軽くヘコんだが………まぁ、これはこれでアリなのかもしれない

 

おわり

 

■■■■■

 

【My little“lucky”girl】

 

かつて、戦争があった…

人類と深海棲艦、決して相容れぬ、分かり合えない存在同士の最終決戦は互いに甚大な犠牲を出す激戦となった、しかし、そんな最終決戦の中、それでも、人類と深海棲艦は分かり合える!と信じる者がいた…

互いに武器を捨て、心を開き、言葉を交わす、あまりにも簡単なコトであると同時に、あまりにも難しい…

だが、人と人、人類と深海棲艦は分かり合える…!それは、まさに奇跡だった………不思議な光の中、さっきまで互いに武器を持った者同士が、穏やかな心でそれを理解したのだった…

 

そして時は流れ、人類と深海棲艦の共存、平和の道を歩み出す…

 

ーーー

 

………共存、そして平和、そんな世界に過剰な武力など必要ない、世界は脱兵器へと舵を切り、各国に存在していた軍隊は緩やかに、しかし確実に解体、軍縮され、人間のプリミティブな部分を集めた最低最悪の海軍大佐である俺も職を失った…

 

イイトシこいて無職になりはしたが、これは良い機会だと前向きに考え、かつて夢だった“西欧文明ドナウ起源論”を研究するべく、俺はニホンを出て活動の場を英国へと移した…

 

「Darling!紅茶飲ムー?」

 

「そうだな、アツいヤツを淹れてくれないか?」

 

「OKー!任せテー」

 

北欧ヨーロッパ、グレートブリテン島、スコットランドの郊外にあるやたらとデカい石造りのタフな建物……ゴキゲンな住宅だ…

 

………さらにゴキゲンなのは、この住宅には、頼んでもないのに安心のセキュリティを提供する聖なる騎士と、これまた頼んでもないのにオハヨウからオヤスミまで身の回りの世話をしてくれるリトルメイドさんが居るコトだが…

 

「ハイ!紅茶ー!」

 

「ありがとう」

 

「Jervis、私にもteaを淹れてくれないか?」

 

「は?死ね」

 

軍を離れ、国を離れた俺が何故こうなったのか、そこには深い理由があった…

 

英国へと渡る際、ある“高貴な御方”が我が国へといらっしゃるのでしたら是非私の下で仕え……働きませんかと有難い申し出を頂いたが、そこは丁重にお断りした

たとえ国を離れたとしても心はサムライ、KNIGHTにはなれませぬと…

 

その大和男児の心意気に、ある“高貴な御方”はいたく感激したらしく、ならば私からせめてもの贈り物をさせてくださいと言って、この住居と、そして…………面倒くさい女騎士とグイグイくる小淑女を押し付けてきた…

 

「ってカArk、サッサと国に帰ったラー?」

 

グイグイくる小淑女こと、ウチで働くリトル・メイドのジャーヴィス…

 

「フッ、帰るも何もここが自宅だからな」

 

面倒くさい女騎士こと、陛下のセ●ム、アークロイヤル…

 

…何故陛下は俺にこいつらを押し付けたのだろうか?もしかしてアレだろうか?私に仕えなさい!って話を断ったから実はスゲー怒っていたんだろうか?

 

…だとすれば、断頭台に上がらなかっただけマシと考えるべきか

 

「Admiral、そろそろ小麦の収穫時期になるが…」

 

「そうだなぁ〜…今年はなかなか出来が良いって話だな」

 

水路の改造やら土の改良やら色々あったが、まずまずの成果といったところか…

 

「あぁ、領民もこれも新しい領主のおかげだと喜んでいる、街にも活気が出てきた」

 

「ふ〜ん」

 

「Darling!アトで買い物付き合っテー」

 

「あ〜…はいはい、買い物ね、買い物」

 

今日も平和だ、そして今日も何気ない日常のヒトコマ…

 

 

……………おかしい

 

 

何かがおかしい、俺はこの国に、かつての夢であった西欧文明ドナウ起源論を研究する為に来たハズなのに、何故か近所の人達から領主様領主様と慕われている…

 

やはりアレだろうか?陛下がくれたこの家、やはり一小市民が住むにはデカすぎる………そう、デカすぎ…

 

 

っーか、城じゃねーかァァァァァァ!!

 

 

どう見ても城ッ!castle!!圧倒的…城っ!!

 

そりゃ近所の人だって誤解するし、俺だって誤解する

 

しかもさらにタチの悪いコトに、たまに外に出ると、このリトルメイドがやたらと俺にグイグイくるのを街の皆様に見せつけているせいか、領主様はロ●コンである疑惑もある…

 

「あ、そーだDarling!コレにサインちょーだい」

 

「あー?」

 

ソーソーとか言いながらジャーヴィーくんが取り出した一枚の紙キレにサインをしたが………よく見たら右下あたりに女王陛下の国璽が捺印されているのを、俺じゃなきゃ見逃していただろう

 

「…ジャーヴィーくん、それ、なんの書類だ?」

 

「エ?婚姻届ー♪」

 

「へー…婚姻届かー………へー」

 

って!!デキるかあァァァァァァァァァァ!!認められるか…っ!通るか…っ!そんなもん!無効!無効だ…っ!

 

…だがヤバい、あの書類はヤバい、女王陛下の国璽が押された本物っ!しかもこのジャーヴィーくん、女王陛下が可愛がるだけあって、マジで良いトコのお嬢様だったらしい…

 

「アトはコレをLadyに渡せば〜…」

 

「まぁ待ちたまえよジャーヴィーくん、まぁお茶でも飲んで、話でもしよーや、ほら、ここ座って」

 

「お話?エヘヘ〜…いいよー!あ、Ark、コレLadyに届けテ、大至急ぅ!」

 

チイィ!このガキぃ!!クソッ!こうなったらアークロイヤル!お前だけが頼りだ!オメーならデキるってオラ信じてっぞ!

 

俺はアークロイヤルの目を見て…“頼む!”と全てを伝え、アークロイヤルは“わかった!私に任せておけ!”と右手の親指をグッと立て…

 

「Jervis、残念だがこのArk RoyalとAdmiralは既にSteadyな関係でな、モチロン毎晩身体を重ねている!」

 

「ハアアァァァァァ!!?」

 

オマエもナニ言ってるんだァァァァァ!!オマエ全然わかってねぇじゃねぇーか!!ナニが任せておけだよ!よりややこしくなったじゃねーか!!

 

「ウ、ウソ…?ウソよ!!ArkとAdmiralが…!」ガタガタ…

 

いや、だがジャーヴィーくんには効いているらしい…ちょっと考えりゃすぐバレるウソだが

 

「フッ…モチロン、ウソだ………だがそう焦るなJervis、コレは私が預かろう、いつか、だがそう遠くない未来、オマエが真の淑女になった時、これは我が女王陛下へと渡そう」

 

「Ark…」ポロポロ…

 

騎士と姫との約束だ、そう言ってアークロイヤルはジャーヴィーくんの頭に手をポンした、やだ…ナニこのイケメン騎士様、惚れてしまいそう!

 

「なるワー!真の淑女に!Darling!真の淑女って身長どれくらい?Arkくらい?」

 

「え?あぁ、そうだなぁ〜…156㎝ぐらいじゃねぇかな?たぶん」

 

 

…後に、この地方には156㎝の姫君の波乱に満ちた人生、そして邪悪なオークの群に神に祝福された装備の力を過信してたった1人で立ち向かった赤い髪の騎士、遥か東の国から来たミスター・サムライの逸話が幾つか残り、後世歴史家の間で語られることになった…

 

おわり





次回の二本は

【高嶺、の花】

【タイトル未定】

ですって

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