不健全鎮守府   作:犬魚

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猛獣注意

【登場人物】

提督(中佐)
愛煙家、必殺技のホワイトランチャーは駆逐艦のキッズから特に嫌われている、暁ちゃんからオヤジ臭いと言われちょっと傷ついたガラスの心

球磨(長女)
球磨姉妹の長女、食物連鎖における絶対捕食者

多摩(次女)
球磨姉妹の次女、よく見ると恐ろしく可愛い


提督と球磨と不器用さらば

「提督はいるクマァ!!」

 

「ヒィッ!!く、球磨姉さん…ッ!?」

 

特に大した用事もない11月に突入した秋の執務室、大してやる事のない俺は、自分の机でチャ●プロードを読みつつ大した雑誌だと大した缶コーヒーを飲んでいると、執務室の重厚な扉が勢いよく開き、猛獣が現れた…ッッッ!!

 

「な……なにかね?突然」

 

「ちょっとツラ貸せクマ」

 

「えー…」

 

マジかよ……?俺、なんかした?いやいやいや、心当たりとかないよ?マジで、えー……ってなんでこの猛獣、こんな気が立ってんの?なんでいきなりキレてんの?キレてるチーズだってこんなキレてないよ?

 

しかもツラ貸せって、完全に執務棟の裏で殴られる流れじゃんコレ?どう考えても告白イベント的な呼び出し方じゃないじゃん?これタイマン張ろーぜかリンチの呼び出しじゃん?

 

「あの……何か俺に話が?」

 

「あ゛?いいからとっとと来いクマ」

 

なんだよコイツ超怖ぇぇぇ!!間違いない…!狩る気だ!今日!ここで!俺を!

 

球磨姉妹の頂点に君臨する絶対強者、球磨…

その実力は並の軽巡を遥かに凌駕する驚異の高性能艦娘、当基地のダブルエースと名高い実力派雷巡コンビである北上と大井ですらビビって影すら踏めねぇと怖れており、その、ハジける獣性はまさに獣の王(キング・オブ・ビースト)、絶対捕食者のそれだ…

 

そんな球磨姉ちゃんとタイマンを張る…

 

それはもう、自殺に等しい行為だ…

 

そんな世界で一番危険な生物にッッッ!!タイマンを張ると言う勇気ッッッ!!

 

「五月雨、付いて来なさい」

 

「はぁ?」

 

…とりあえず、最悪2対1ならなんとか生き残りの目もあるかもしれない、俺は椅子から立ち上がり、ごく自然な流れで自分の机でシレッとクロスワードパズルをやっていた秘書艦の青髪ロング子に同行を促した

 

ーーー

 

球磨姉ちゃんと共に執務室、そして執務棟を出て歩いて数十分………一体どこへ向かっているのだろうか?

 

「あの…球磨姉さん、どこまで?」

 

「いいから付いて来いクマ」

 

男には余計な言葉など必要ない、グゥゥゥム!俺たちの前を歩く球磨姉さんの背中にそう書いてあるようじゃわい

 

そんな事を考えつつさらに数十分ほど歩き、基地施設の外れにある倉庫の近くへとやって来た俺たちは、球磨姉ちゃんからそこで止まるクマと指示され、さらに茂みにしゃがむように指示された

 

「なんなんだよ…」

 

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねークマ、アレを見るクマ」

 

「アレ?」

 

アレと言われて茂みから頭を出すと、球磨姉ちゃんから万力のような力で頭を抑え込まれたッッッ!!

 

「ナニやってるクマァ!!もっとこっそり見るクマァ!!」

 

「痛いッッ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 

なんなんだよ!?球磨姉ちゃんの後頭部式万力アイアンクローから解放され、茂みから倉庫の方を見てみると…

 

『ここでターンッッッ!!』

 

『いいぞォ!freedom!freedomだ!4回転イケるぜ!』

 

………ナニやってんだ?アイツら

 

「天龍と木曾じゃねーか…」

 

天龍と木曾はラジカセをズンドコ鳴らしながらHey!Yo!Hey!と歌って踊っていた…

 

『クソッ!!コンテストの結果はまだなのかよ!まさか一次通過すらしてねぇってのか』

 

『落ちつけよTEN-RYU、コンテストにはキュウシュウ中から応募がある、まだ審査が終わってないだけさ、それに…』

 

『それに?なんだよ…』

 

『オレ達が一次審査なんかで落ちるワケないだろ』

 

『ヘヘッ!そりゃそーだ!』

 

天龍と木曾はガッチリと手を組み、さぁ!練習を再開しよーぜ!と再びラジカセのスイッチを押した

 

「あー…そういやアイツらロックに生きてるんだっけか」

 

「…」

 

…そう言えば、球磨姉ちゃん、前に木曾がアイドルになってメジャーデビューしてぇとか言ってケンカになり、木曾を部屋から叩き出したんだっけか

 

そしてこの球磨姉ちゃんの野獣の眼光、今、視線の先でfreedom!freedom!してる末妹を見る眼はあまりにも鋭い…ッ!

 

「あの…?球磨姉さん?」

 

「ナニクマ?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

狩る気だッッッ!!球磨姉ちゃんと言えばまさに男の中の男、アイドルなんてチャラチャラしたものは絶対許せない生まれついての大和男児!たとえ可愛い末妹でもここまで堕落した木曾を許して……いや、生かしておけるハズがないッッッ!!木曾を殺して自らも命を絶つ!この人はそーゆー人だッ!!

 

そんなとびきりの野生、球磨姉ちゃんは、やがてスッと立ち上がると、帰るクマと言ってさっさと歩き出した…

 

「え?え…?殺らないのか?」

 

「ハァ?ナニ言ってるクマ」

 

「え?いや、球磨姉さん、俺はてっきり木曾を殺るんだと…」

 

「なんで球磨が木曾を殺るクマ、ただ、今の木曾がちゃんとやってるか見たかっただけクマ」

 

そう言って球磨姉さんはさっさと歩き、もう提督に用はねぇクマ、付き合わせて悪かったクマねとポケットに入ってた小銭を俺の手に握らせ去って行った…

 

「なんだったんだ…?一体」

 

「アレじゃないですか?部屋から叩き出した木曾さんの様子が気になるけど、一人で様子を見に行くのはなんか恥ずかしいから提督を付き合わせた的な…」

 

「球磨姉ちゃんが?まさかぁ!ガハハハハハ!ありえんだろ?あの硬派が服を着てる球磨姉ちゃんだぞ」

 

「そうですかね」

 

「バカなコト言ってるじゃないよこの子は、よし!ジュースでも買うか、小銭あるし」

 

「そうですかね〜…」

 

こうして、球磨姉ちゃんの謎の行動に付き合わされた俺たちは野生にはやはり謎が多いと納得しつつ、執務室へと戻った………

 

 

………後日

 

 

「フーッ〜………あ〜」

 

「タバコ臭いにゃ」

 

「よぉ、多摩ねーさん、元気?どう最近?魚、殺してる?」

 

喫煙所でタバコを吸っていると、オシャレなカーディガンみたいなのを着た多摩と会ったのでつい先日の球磨姉ちゃんの謎の行動について聞いてみた

 

「あー…まぁ、球磨姉ちゃんはそーゆートコあるにゃ、なんやかんや言っても木曾は可愛いにゃ」

 

「えー…マジでそーゆー感じなの?」

 

多摩曰く、部屋から叩き出したものの、やはり木曾の事は気になっている素振りがチョイチョイ感じられるらしいが、多摩を始めとして北上も大井もあえて触れないようにしているらしい

 

「ウチは複雑な家庭の事情で北上と大井は育ちが違うから球磨姉ちゃんは昔から木曾のコト特に可愛いがっていたにゃ、木曾も昔はクマねーたんクマねーたんってそれはそれは本当に可愛いかった時期もあるにゃ」

 

「ふ〜ん」

 

しかしそんな可愛いかった木曾もいつしか成長し、悪い友達もでき、漆黒を纏うブラックナイトとか言い出す気難しくて多感な時期に差し掛かった結果か…

 

「普段は国会中継か巨●戦しか見ない球磨姉ちゃんがMス●見て木曾はまだ出ないクマと言ってたぐらいにゃ」

 

「気にしすぎか!反対押し切って実家を飛び出した娘をに気にする昭和の頑固オヤジか!」

 

「まぁ、球磨姉ちゃんはあーゆー気質だから仕方ないにゃ」

 

ちなみに多摩はちょいちょい木曾の様子を見に行ったりしているらしく、こないだもファミレスに連れて行ったりしたそうな

 

「で、そんな時は球磨姉ちゃんがボソッと多摩に木曾はどうだ?って聞いてくるにゃ」

 

「頑固オヤジかッッッ!!」




次回はVSグレカーレ、わからせが必要…

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