鶴となったヲ級は何を思う   作:鶴の花嫁

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プロローグ

 「――ハァ、今回任サレタ相手、トッテモ厄介ナノヨネェ……」

 

 ここは深海の何処かに存在されるとされる深海棲艦たちの本拠地――のうちの一つ。

 自分たちを従えるリーダーは、まるで玉座のような形状をした艤装に座るように体を預けながら、めんどくさそうにそう告げた。

 

 「大和型二艦ニ正規空母モ揃イブミ。ソレニ率イルハ百戦錬磨ト知ラレル大将クラスノ提督。次期元帥ニナルトモ噂サレテイルワ。練度ノ低イ艦隊デモ確実ニ戦果ヲ上ゲテ来ルノダカラ、アル意味大和型ヨリモ厄介ナ存在ナノヨネェ……」

 「……」

 

 そんな主の姿を見ていた一人の深海棲艦――空母ヲ級は、猛烈に嫌な予感がした。全ての空母の王とさえ称されるリーダー――空母王妃は、とても優秀だし、頼れることも間違いないのだが、同時にとてつもない変わり者としても有名だった。

 

 (コノ流レダト確実ニ厄介ゴト頼マレルパターンダ……)

 

 ちなみに今回、呼び出されたこの空母ヲ級は建造されて間もない、いわゆる新米と呼ばれる部類の者だった。

 無論、分類では正規空母に属される空母ヲ級は新米だとはいえ、決して侮れぬ存在だが、それでも姫や鬼と呼ばれる猛者たちと比べれば、その戦闘力は劣る。量産艦であるこの空母ヲ級は、空母王妃からしてみれば、あくまで駆逐イ級を始めとする一介の深海棲艦の一艦にしか過ぎないのだ。

 

 そんな一介の兵士でしかないヲ級をわざわざ呼び出してきたというのなら――建造されて間もなく、褒められるような事をしていなければ怒られるようなへまもしていないヲ級からしてみれば――嫌な予感しかしない。加えて短い間ながらも聞いた話ではこのリーダーははっきり言って変人&無茶ブリをかましてくることで有名。――尚更嫌な予感しかしない。

 

 ヲ級は緊張のあまりゴクリと唾を飲み込む。

 

 「ソレデサァ、新米ノアナタニオ願イゴトガアルンダケド」

 (……ヤッパリ)

 

 続けられた空母王妃の言葉はヲ級の想像通りの言葉だった。

 しかし、さらに続けられたお願い事の内容までは、ヲ級の想像を遥かに超えていた。

 

 「――アナタ、艦娘ニナッテ、鎮守府ニ向カイナサイ。スパイニナッテ、敵ノ情報ヲ私ニモタラシナサイ」

 

 

 「……ゑ?」

 

 突拍子もない空母王妃の言葉の内容はやはり突拍子もないことなのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 「チョチョチョチョチョット待テ! 何ヲ……何ヲ言ッテルンダ、オマエ!!?」

 

 一瞬の間を置いて、そして相手が自分の仕える主であることも忘れて、ヲ級は空母王妃に詰め寄る。しかしそんなヲ級の無礼は気にしないのか、空母王妃は、何ら変わらぬ様子でヲ級に告げる。

 

 「ソノママノ意味ダケド?」

 「ソウイウコトジャナクテ!!」

 

 思わずわ゛-っ、と頭を掻き乱したい思いをどうにか押さえて、ヲ級は叫ぶ。

 

 「解ッテイルノカ!? 自分ガドンナコトヲ言ッテルノカ!! 鎮守府ニスパイ!? ムリムリ、何ヲ言ってるんだ、オマエ!?」

 

 もはや完全にキャラが崩壊しているヲ級であったが、そんなヲ級をおもしろおかしそうに見据えながら空母王妃は口を開く。

 

 「大丈夫ヨォ、チャント、準備期間ハ用意シテアゲルシ」

 「ソウイウ問題ジャナイダロ!! ッテ言ウカ、準備期間ガアッタトコロデドウニカナル問題ジャナイダロ!!」

 

 咄嗟に突っ込みを入れてしまってから、ヲ級をはぼそぼそと愚痴るように呟く。

 

 「……大体、艦娘ニナレダナンテ、ソノ時点デムリニ決マッテルダロ……ワタシノドコヲドウ見テ、イケルト判断シタンダ……」

 「トコロガドッコイ、イケナイコトモナイノヨネェ」

 

 パチン、と指を鳴らすとどこともなく表れたヒトガタの深海棲艦二体が、ヲ級に絡みついてきた。

 

 「ナ……ナニヲスル! ヤ……ヤメロ!?」

 

 抵抗する間もなく、頭部の巨大な艤装を外され、肌にピッタリと吸い付く仕様の衣装も簡単に脱がされてしまう。

 代わりに着させられたのは、白い弓道着を思わせる衣服。本来ならば袴の組み合わせが正しいのだろうが、この度履かせられたのは緋色の袴を模した膝丈上のスカートだった。加えて、頭に赤い鉢巻を巻かれる。

 

 「ウン、ヤッパリカンペキ」

 「……」

 

 成すがままにされ、ぐったりとするヲ級を余所に空母棲妃は着替えさせられたヲ級を見やって満足げに笑みを浮かべる。

 

 「ナンダ……コノ恰好ハ……」

 

 水中に映りこんだ自分の姿を見て、ヲ級は戸惑いの声を上げる。

 そこに映りこんでいたのは、深海棲艦特有の病的な色白さは際立つものの――深海を思わせる禍々しき蒼き瞳は異質であるものの――そして()()の流れ落ちるような銀のロングヘア―とは異なるショートヘア―であるものの、その姿は()()()()()そのものだった。

 

 「――翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴。ソレガ今日カラノ新シイアナタノ名ヨ」

 「……」

 

 空母王妃のその言葉に、ヲ級は一瞬だけ体を硬直させる。

 チリ、と頭の片隅で何かが弾けるような感覚。どこか懐かしいような、それでいて決して思い出すことのできない、歯がゆい感覚。

 

 『翔鶴』。ワタシハ何処カデソノ名前ヲ聞イタコトガアルヨウナ気ガスル――。

 

 しかしそれは刹那のことで、すぐにヲ級の思考は別のものへと切り替わる(切り替えられてしまう)

 

 「……本気デ、ヤル気ナノカ」

 「エエ、ヨリ手堅イ勝利ヲ確実ナモノニスル為ニネ……」

 

 自らの仕える主がここまで言うのだから、ヲ級にはもはや反対する理由はなかった。

 最初はいったい何の冗談かと思ったが、わざわざ艦娘の装備まで用意してきたのだ。

 容姿はまさに瓜二つ。それならば後は中身の問題だ。

 

 「……ワカッタ」

 

 一度、深海に堕ちたのなら、この身は全てを水面の底へ沈めるまでは、留まることを知らぬのだから。

 空母ヲ級はあくまでも、空母ヲ級なのだ。

 

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