拠点の中に戻るとすでに宴の準備は終わり、全員がすでに各々の席で勲司の到着を待っていた。
そしてグルムは手招きをして勲司を呼び寄せる。
「主役がやっと来たわい。」
「主役?」
「そうじゃろ。此度の戦、仕掛け人はクンジ殿であり、作戦を考えたのもクンジ殿、神の加護を分け与えてくれたのもクンジ殿。それを主役と言わずなんという。」
「しかし私は戦っておりません。私はあれこれ口出ししただけけでであり、直接戦ったのは村の皆さんではありませんか。それに敵の指揮官の
「私は一戦士として刃を振るっただけだ。クンジ殿の力添えがなければ今ここに場所に立っていなかった。おそらくまだ前の村の門と家を往復しているだけの生活だっただろう。来ることのない救世主を期待してな。」
「ハガン殿……。」
「それにあのときの私はクンジ殿の剣でしかない。その剣が
どんな理屈だ。と勲司は思ったがオークの考えなんて(自身がオークにも関わらず)わかるわけがなく何も言えなくなってしまった。
「納得してくれたかの?では音頭は儂が取るがええかの?」
なにやらさっきからグルムの口調が以前より堅苦しさがなくなっていた。
「ではお言葉に甘えて……お願いします。」
「ではこれを持って隣に立っててくれぬかの。」
「わかりました。」
そういうとグルムから空の小さな杯を受け取った。
「これはなんですか。」
「杯じゃよ。」
「見ればわかりますよ。」
「すぐに飲ませてやるから今は我慢せよ。」
「いや、飲みたいわけじゃなく……。」
杯に「飲む」という言葉に酒を連想してしまい、勲司は現実世界の酒にまつわる嫌な思い出を思い出し苦笑いをしてしまった。
しかしグルムはそんなことはお構いなしに全員に聞こえる声で続ける。
「皆の者。今日まで苦渋の日を耐え、偲び、よくやってくれた。数は減ってしまったがそれでもこれだけの同胞が生き残ってくれたことに感謝の言葉もない。仇をうち、土地も取り戻せた。神の御下に旅だった同胞も心休まることじゃろう。」
その言葉にむせび泣く者も多かった。
それは
「そしてその偉業は、この者無くして決して成し得なかった。パラブシオ神の加護を身に宿し、分け与え、その叡智を持ってして皆を指揮しだれ一人欠けることなく強敵を打ち破った。この者は土地と、誇りと、仲間の魂を我らに取り返させてくれた。すでにこの者の名前を知らぬ者はこの中におるまい。クンジ殿じゃ。」
えらい仰々しい表現を使うなと思ったが他のオークはウンウンと頷くばかりでその言葉に疑問符を付ける者は一人も居なかった。
「クンジ殿。皆に言葉を。」
(そんなの聞いて無いんだけど!)
するとグルムは皆の前でクンジが持つ杯に酒を酌をすると小声でこういった。
「杯を掲げたら乾杯の合図じゃ。そしたらみんな一斉に飲むので好きなタイミングで乾杯の合図を出すのじゃぞ。」
「そんな無茶な。」
「任せたぞい。」
無茶振りがすぎる。
広場での決起集会は事前に打ち合わせてたので言う内容も覚悟も決まっていたが、今回は今はじめてきいた。
しかし周りの目をすでに自分に集まっており何を発するか期待の眼差しで見つめている。
「う……。み、皆は本当によく戦ってくれた。グルム殿は私のおかげだと言ったがそんなことはない。私はただ力添えしただけにすぎない。皆の闘う意思と力がなければ私が力添えしたとしても成し得なかっただろう。」
それは紛れも無い事実である。たしかに単騎で殲滅はできた。だが今回望んだ戦果を果たせたのは村の皆の闘う意思があったからだ。どんなに強力な武器や力を与えても、本人に立ち向かう意思がなければ宝の持ち腐れである。
「この勝利は皆の勝利である。祖先に、同胞に、これから生まれてくるであろう新しい兄弟に。」
そう言うと勲司は杯を掲げ、皆も釣られて盃を上に掲げた。
それを確認したところ一気に酒を煽ろうとしたが……
(うう……酒って苦手なんだよな……あのあと二日酔いでひどい目にあったし……)
「なにをしておる、はよ飲めぃ。」
飲むのを躊躇っているとグルムから飲むように急かしてくる。
意を決っして酒を一気に煽った。
「ええい!ままよ!……あれ?」
それに続いて全員が酒を煽る。しかしいま勲司は別のことを考えていた。
それは酒の味が勲司が以前飲んだ酒とは別格の味だった。
化学薬品とオイルを混ぜたような匂いはせず、口の中にも苦さがなく透き通るような辛さがあった。
胸は熱くなるが以前のようにいつまでも残らず、すぐに消え心地いい。
(酒ってこんなに美味かったのか……)
「皆の者!これより新しい族長の誕生じゃ!」
「ウオオオオオオオオ!」
鬨の声が鳴り響いた。
いや、その前に聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。
「え?今なんて?」
「クンジ族長よ。これからよろしく頼むぞい。」
「え?なんで?」
「儂の酌した酒を飲んだんじゃ。当然じゃろ?」
そう言うとニヤリといままで見たこと無い嫌らしい笑い方をした。
(ハ、ハメられたー。)
話の流れから察するに族長から杯に酌をしてそれを飲むと族長継承の儀のようなものだったのではないかと考えられる。
周りの反応からしておそらくオークにとって常識であり知らない方がおかしいような事なのだろう。
しかも全員が喜びの声を上げているのをみると……
「いつ……。」
「うん?」
「いつ皆を説得したんですか……。」
先日広場であんな言葉を全員に向かって吐いたのだ。不満がある者が居ないはずがない。
「さっきお主がここを離れていた時じゃ。」
「あんな短い時間で……。圧力をかけたんじゃないんですか?」
「そんなことするわけないじゃろ。一人一人聞いたわけじゃないがここお主以外が集まった時点で皆に聞き、不満がある者は決して責めぬから言うように言った。がなかった。罰せられても不満があれば平気で言うのが我らじゃがな。」
「なんで不満がでなかったんですか。」
するとそれを聞いていたハガンが割って入る。
「当然だろう。クンジ族長よ。我らオークは最も強いものが族長になる。そして族ちょ……グルム様以上の力を持ち、単騎でトロールを打ち倒し、皆にもその力を分け与え、此度の勝利を導いたクンジ族長が族長になってなんの不満がある。」
さも当然のように族長になる基準を語るハガン。
それよりもすでに勲司を族長呼ばわりして(そんな意図はないだろうが)逃げられないようにしてきている。
そして周りはすでに新しい族長の誕生とこれからの明るい未来に期待を馳せ異を唱えることができない空気になっている。
(こういうとき無駄に空気を読んで壊せない自分の民族性が恨めしい!)
すでにオークになっているのにも関わらず元日本人としての残滓が何も言えなくしてしまっている。
そして先ほどのノエミとのやり取りが思い出される。
(「では、責任を最後まで果たすということでよろしいですね。」)
民を扇動し指揮した責任。
先ほどノエミが言っていた意味がいまやっと正しく理解できた。
民を戦に駆り立て(戦闘種族だが)扇動し先導して簡単ではあるが指揮までした。
それで勝利したからあとは知らない、勝手にやっててね。では無責任というものだ。
それを理解してしまったが最後、感情では族長を辞退したいが、理屈で納得してしまいすでに辞退できる理由を失ってしまった。
「わ…かりました……。事前になんにも相談がなかったのは納得いきませんが自分がやらざるを得ないということだけは理解しました。」
そういうと満足な顔でグルムとハガンは頷く。
「それでは皆。新しい族長を祝い好きに飲み食べるがよい。」
こうして宴は始まりオーク全員が飲み食べ、歌い大いに楽しんだ。
たったひとりのオークを除いては。
そんなオークに向かってグルムは声をかける。
「そう気を落とすな。俺らもちゃんと補佐するのじゃ。丸投げするわけじゃないから安心せい。むしろお主には毅然とした姿で立っているだけでもよいのじゃ。」
若く強いオークが新しい族長になったというのが一番重要だということらしい。
「長になったのならそうもいかないでしょ……。やれることはやりますが手伝ってくださいよ。」
「やる気があるようでなによりじゃ。」
どうやら勲司は自分がこの爺さんを侮っていたのだと後悔した。
生命力と力に溢れるが知能が低い種族。そんなことはなく十分強かな種族だった。
そういうと再びグルムは勲司に酌をしてきた。
「こんな美味い酒を飲んだのは初めてですよ。」
「そうかのう。こんな状況じゃったからそんなに質のいいのは持ってこれなかったんじゃが。」
これで質がよくないということに驚いた。
かつて飲んだ酒は職場の上司に連れていかれた化粧でガチガチに顔面を固めたお姉ちゃん達がいる場所だった。
飲んだことのない酒を初めて飲み、そのまずさに吐きそうになるが上司の手前吐くことは許されず、湯水のごとく持って飲ませようとさせる上司とお姉ちゃんを前に意識を失い、目を覚ました頃にはすでに閉店時間だった。
お金は上司がすべて払ってくれたのだが気持ち悪く、視界も定まらないまま帰路についたが家についてからがまさに地獄だった。
吐きたいのに吐けない。横になっても目が回る。トイレに立ってもまともに歩けない。
それ以来酒は二度とごめんだと心に誓ったのだが……
そしてある誘惑が勲司を襲う。
(こんな美味い酒で酔ってみたい。)
かつて酔いで痛い目を見た勲司はいま美味い酒を飲んだことでそのことを忘れてしまった。
アンデッドのような状態異常無効のパッシブを持っていれば恐らく酔うことはできなかっただろう。
しかしオークは恐怖や毒、出血といった逃走、ダメージといった状態異常は無効化するが、誘惑、魅了、混乱、睡眠といった行動不能や敵味方の区別をつけなくするような精神攻撃に弱い特性があった。
しかし勲司はそれを無効化するための指輪を装備していたが酔ってみたいという誘惑に負け(無効化装備をしているのに)指輪を外し酔いに身を委ねることにした。
「プハァー!これは本当に美味いな。まだまだ行けそうだ。」
「では俺からも一献。」
そういうと次はハガンからの酌があった。
「おっとっとっと……。ん…ふぅ。」
「いい飲みっぷりだな。」
「ああ、こんな美味い酒は初めてなんだ。」
「そう言ってくれるとうれしいな。一族の誇りだ。ところで族長。村の皆が酌をしに来るんだが。」
「それも儀式の一貫か?」
「ああそうだ。民が酒を注ぎ、長がそれを飲み干すだけだ。要は民の挑戦を長が受けて立つという強さを見せる儀式だ。」
「そういうことなら仕方ないな。どんどんこい!」
美味いと断ずる酒なため元々断るつもりはなかった勲司は受け入れる体制に入った。
「族長、おめでとうございます。」
「これからもよろしくお願いします。」
「今度訓練を付けてくれませんか。」
「私達のすべては貴方のために。」
「ふん、まだ俺はお前を認めたわけじゃないからな。」
等々、少しおかしなの言葉もあったが老若男女、39人全員が一言ずつ述べて酌をしていった。
そしてその酒は決して弱い酒ではないためオークになって酒に強くなり、許容量も増えたとはいえ合計42杯も飲めば当然意識が朦朧としてきた。
「ハガンよ。」
「はい。」
「族長はどうやらお疲れのご様子じゃ。寝床まで連れて行って差し上げなさい。」
「畏まりました。」
「皆の挨拶が終わり、族長はこれよりお休みになられるが皆の者はそのまま続けてかまわん。休みたいものから順に休んでよいため、ゆっくり楽しむがよい。」
そう伝えるのを意識の端で聞いていたがすでに自分の足で歩けないほどになってた勲司では意味を理解することはできなかった。
、
、、
、、、、、、、
宴も終わり、夜も寝静まった頃に飲み過ぎた気持ち悪さから勲司は目を覚ました。
「うっぷ……気持ち悪い……久しぶりの二日酔いの感覚だな……。」
見たことのない寝床で周りには誰もいない。
「誰か……水を持ってきてくれ……。」
「ただいまお持ちします。入ってもよろしいでしょうか。」
誰もいないと思っていたが部屋の入り口の外に誰かが居たようだ。
意識がはっきりしないがそんな準備がいいのはノエミ以外に勲司は知らない。
「いいぞ、入れ……。うっぷ……。」
差し出された水が入った器を一気に煽り爽快感が喉を駆け抜ける。
「ふぅ…少し楽になった。ありがとうノ……え?」
ノエミに礼を良い器を返そうとした時、ソレはノエミでないことに気づいた。
身長は2mを超え、3サイズは測定不能、敢えて表現するならボン、ドン、ギャインである。
しかし笑みを浮かべるその顔には見覚えがあった。
先ほど酌をしてきた中お一人である。
(「私達のすべては貴方のために。」)
たしかこんなことを言ったオークだった。あの時はすでに十分な酔いが回っており意味がわかっていなかった。今でもわかっていない。
「なんで貴方がここに?」
「貴方だなんてそんな……。タナーピって呼んでください。」
質問対して正しい答えが帰ってこなかった。
「なんでタナーピ…殿がここに?」
再度同じ質問をする。
「私、自分で言うのもなんですが見てのとおりこの村一番の器量良しと言われております。」
またもや望んだ答えが返ってこなかった。
しかしこの流れは……。
「でも私に釣り合う雄がこの村に居なくて……あのままでトロールにこの美しい肢体を弄ばれて食べられてしまうところでした。二重の意味で。」
倒置法を使うなんてなかなかボキャブラリーがあると感心してしまった。
「そんな初めてなんて私も嫌でした。……いざとなったらこの身が捕らわれる前に命を絶つつもりでいました。でもあの日、クンジ様が村に居らしてすぐにピンときました。この人しかいないと!」
ピンと来るのは犯罪者の顔だけにして欲しい。
「そして今日、私は初めてを迎える時がやってきたのです!」
「待て待ってくれ、なんか色々とおかしい。」
一気に間合いを詰めるタナーピ。後ろに逃げて距離を取ろうとするが背後は壁で逃げれなかった。
「いいえ、おかしくなんかありません。グルム様もお許ししてくださいました。種をもらってこいと。」
「あの糞爺ー!」
「声を出しても無駄です!村の者全員の了解をとっていますから!隣に住むサムシーなんて日頃から私の肢体を舐め回すように見てたから私の初めてを奪えず悔しそうにしていましたよ。」
「いいから、俺はいらないからサムシーに上げてこい!そして二度と来ないでくれ。」
「これが俗にいうツンデレというやつですね。」
そういうと上にのしかかるように襲いかかってきた。
「く、レベル100の俺に力で……駄目だ!二日酔いで力が出ねぇ!」
跳ね除けようにも二日酔いで力が入らず、その巨体を組み敷かれてしまった。
「大丈夫です。じっとしていればすぐ終わりますから。天井のシミでも数えていてください。」
「いーやー!犯されるー!助けてー!」
勲司の初めてが奪われるかと思った時、身体の上の巨大な肉の塊は急に力を失い倒れるようにそのままのしかかってきた。
「は、初めてだからやさし……あれ?」
「勲司様……アレほど忠告しておいたのになにをなさっているんですか。」
肉の塊の奥には見慣れた美しいメイドが立っていた。
「死んでおりません。気絶させただけです。」
「ありがとう。助かった……。オークって恐怖の状態異常無効じゃなかったのか?うっぷ……。」
「状態異常にかかってから指輪を付けても意味がないため、万能薬を煎じたものを用意しました。これですぐに二日酔いも解けると思います。」
「なにからなにまですまないな……。」
水と薬を受け取って一気に飲み込んだ。
「先ほどあれほどハメを外さないように注意したではありませんか。」
「すまない……。」
「しかも責任を取る意味をわかっていなかったようですね。」
「はい……。」
従者に説教をされる新米族長がそこに居た。
「族長にさせられるのはわかっておりました。にも関わらず勲司様はそれに気づいておらず覚悟もなくあの爺の奸計に嵌まり族長に就任しました。まだそこまでならかいまません。あろうことか酔いを防止する効果があるマジックアイテムの指輪を外し全員からの酌を受ける暴挙。村人は激減したこの村で優秀な種を欲しがるのは当然ではありませんか。」
「仰る通りです……。」
ノエミが言っていることは少し考えればすぐにわかることだった。実際に彼女はわかっているものだと思って遠回しに忠告をしてくれたのだ。
「ハメられ、ハメを外し、ハメようとされるとは。さすがに勲司様ですね。私もそこまで考えが及びませんでした。」
「……はい。」
「それでこれからどうなされるおつもりですか?」
「寝直そうかなと。」
「そうではなく、このまま族長を続けられるおつもりですかと問うているのです。」
「ノエミさん……なんか怒ってる?」
「ええ、知能が低いとは思っていましたが、ここまでの頭の悪さを見せつけられて私も珍しく怒りがこみ上げてまいりました。」
「ほんとすみません……。」
もう謝ることしかできなくなってしまった勲司に再び質問をぶつける。
「それで、どうなされるんですか。」
「どのみちこの村を放り捨ててどこかに行くわけにはいかなかったんだ。むしろ自由に増強できる権限を得たと思えば悪いものではない。」
「それでしたら結構です。てっきり族長に任命されてオロオロしてるばかりかと思っておりました。」
「とりあえず明日、村の運営に関してはグルム達と話すとしよう。その時ノエミも紹介したい。悪いが立ち会ってくれ。」
「よろしいのですか?」
「族長になったんだ。これ以上隠す必要もないだろう。」
「畏まりました。それでこの肉はどうされます?」
「ここに置いておいても後々面倒だ。どこか空き家にでも放り込んでおいてやれ。」
「畏まりました。」
そういうと気絶したタナーピを担ぎ外へ向かう。
そして寝直そうとする勲司を見てノエミが去り際に教えてくれた。
「忘れているかもしれませんが、童貞族長には睡眠不要のマジックアイテムを再度装備したので寝直す必要がないと思われますが。」
「……童貞はやめてくれないかな……。」
必死のあまり童貞宣言をしてしまったのをしっかり覚えられてしまったようだった。
今回は書いてて8巻のアインズ様を押し倒したアルベドを思い出しました。