新しい朝がやってきた。(オーク村にとっての)希望の朝だ。
トロールを使っていた拠点をそのまま村として活用する考えは元からあり、トロールの匂いさえ我慢すれば前の村よりも立派な造りになっている。
午前中は各々が勝手に決めた住処の補修や清掃をし、昼には今後の方針を通達する予定だ。
そのために午前中には大まかでもいいから舵取りを決めなければならなない。
「おはよう。族長。昨夜はお楽しみじゃったの。」
そんな事を言うグルムを勲司は睨みつけた。
「なにもしていませんよ。襲われましたがなんとか魔の手から逃れることができたのでこの身は清いままです。」
「なんじゃお主、まだ経験したことがないのか。」
「そういう話ではなくてですね。」
「タナーピほどの別嬪を拒否するとはお主よほどの面食いじゃったか。」
オークに面食いなんて言葉があるのか。そもそも村に訪れたときにも思ったがこいつらの醜美の感覚はどうなってるんだとなどと思ったが、まずは言うべきことを言った。
「たとえどんなに村の皆が思う
「もったいないのう……。」
「族長、グルム様、それも大事なことですが今は村の方針について話し合いましょう。」
ハガンが仲裁に入ってくれたおかげでこの話を終えることができた。
「そうじゃな、この話はまたあとでな。」
(お断りだ。)
口に出すとまた蒸し返すことになるので心の中だけに留めることにした。
「その前にまず、この場に同席させたい人を紹介します。」
「ほう、誰じゃな?」
「お二人はすでに一度会っている者です。ノエミ、入れ。」
「失礼いたします。」
勲司の言葉に従い一礼してその場に現れる。
「あの時の従者のエルフか……初めて会った時喋ることもなかったが覚えているぞ。ただでさえエルフは珍しいのに、その奇抜な格好は嫌でも忘れられん。」
「儂も覚えておるぞ。クンジ殿の後ろで静かに待っておったの。存在が非常に希薄だったためあまり気にも留めなんだが……。なぜこの者を同席させるのじゃ?」
二人はやはりエルフに対してあまり良い感情がないのがわかる口調だった。
あくまでクンジの従者だからこそその感情を露骨にだそうしていないだけだ。
「ハガンには先にも述べたようにノエミは私の従者であり、非常に優秀な人物です。先の戦いにおいてもノエミの力があればこそあれだけ早く作戦行動が取れたのは間違いありません。また個の実力においても私に比肩しうる実力を保持しています。」
「勿体なきお言葉……。私はただ勲司様の命に従っただけでございます。今までも、これからも私は勲司様の目となり耳となり、身命を賭して尽くします。」
「そしてご覧の通りノエミは私に忠誠を誓い、私も彼女を誰よりも信頼しております。」
事前にノエミと打ち合わせをしておいたやり取りを見せつけた。
自分にとってノエミは必要不可欠な人物であり、彼女を否定することは自分を否定するも同義であるということを言外に匂わせた。
「クンジ殿がそこまで言うのなら儂はなにも言わん。じゃがオークとエルフは決して友好的な関係ではないということは覚えておくといいぞい。」
「俺もグルム様と同意見です。」
同席し、自分の側に侍ることを許可させることができた。種族間の感情や先入観いうのは今日明日で簡単に拭いきれるものではない。
ましてはこの世界の歴史をまったくといっていいほど知らない勲司があれこれ口出しして良い問題でもない。
「おふたりとも、ありがとうございます。それでは村の方針を決めましょう。」
「今上がっている問題はこちらじゃ。」
「居住地の不足、防衛力の強化、食料の不足。ですか。」
「細かくあげればまだあるが、すぐに手を打たねばならないのはこの3つだ。」
「ではまずひとつ目からいきましょう。居住地の不足ですね。」
「現在では1つの建物につき、8人ほどで住んでいる。トロールは巨体ゆいえ1軒あたりはでかいがゴブリンとオーガを受け入れたため不足してる。」
「土地は足りているんですよね。では旧オーク村の建物を解体し運んではどうでしょう。」
「出来んことはないが距離があるため片道で半日近くかかるぞ?」
「そこはまず頑丈で建築材料を大量に載せれる荷台を作ってください。」
「それは可能だがどうするのだ?みんなで牽くのか?」
「いえ、これを使います。」
取り出したのは革紐の付いた角笛で宝石の装飾が施されていた。
「これは『セントサイモンの角笛』というマジックアイテムです。これを使えば1日3回、2時間ほど馬を1頭召喚できます。ただこの馬はとても気性が荒く馬力がとてつもないため召喚者以外の命令を聞きません。ハガン殿に預けましょう。」
「すまない。これはとても貴重なものではないのか?」
「そうですね。二度と手に入れるのは難しいので貴重といえば貴重ですね。」
「では資材解体用の人足を数人連れて行こう。」
「おそらくそれで解決できると思います。」
勲司はもっといい角笛を持っていることはいう必要はないため貴重なものを貸したという事実だけ作ることにした。
「次に防衛力の強化ですね。これは先程の居住区の拡張を視野に入れて防衛網の決めた上で作らなければなりませんね。」
「防衛用の柵を作るにもこちらも資材が足りていない。」
「こちらも旧村の柵を解体して使いましょう。」
「それでも足りんぞ。」
「今の柵を解体して張り直します。」
「一時的に無防備になるぞ。危険ではないか?」
「もちろん危険なタイミングがあります。しかも資材が届くまで柵を従来より低くします。これは周辺を調査した結果トロールのような大型生物が確認できていないことから今や昔ほど高い柵はすぐには必要ないため一時的に低くしても問題ないと判断したためです。資材が届き次第補強して高くしていけば十分です。」
「万が一ということがあるのでは。」
「それに備えてノエミが罠を張らせます。彼女は優秀な『
そういうと懐に手を入れ見えないようにインベントリに手を突っ込みスクロールを取り出した。
「これには幻術の魔法が込められています。これで完成予定の塀と同じものが見えるような幻術を造りましょう。視覚を騙すだけですがノエミの罠と合わせれば十分な抑止力になると思います。」
「そんなことが可能なのか。」
「防衛能力はありませんけどね。」
「いや、十分じゃ。」
満足そうにグルムとハガンは頷いた。
「最後に食料ですが……。この数で全員雑食というのは困りましたね。」
「昨日宴でそれなりに消費してしまったからな。」
「まあそれは……しかたのないことなので置いておきましょう。」
「この辺りは気候が厳しいわけでもないのに作物が育ちにくいんだ。」
「みたいですね……。」
今日までみたこの周辺は荒野が続き、丘も岩肌が露出している。
また南のかなり遠くには森が見えるが遠すぎてとてもじゃないが2、3日で帰ってこれる距離ではない。
「気候で作物がまともに育たたいのは土壌の問題ではないでしょうか。」
いままで黙って聞いていたノエミが口を開いた。
「そうか。水はけが良すぎるのかはたまた栄養がほとんどないかのどちからの可能性が高いな。」
「どういうことだ?」
原始的な文明のものに栄養の話をして伝えにくい上、勲司自身聞きかじった程度の知識なのでぼかした言い方をした。
「土も健康な土とそうでない土があります。不健康な土では種を植えでも育てる力がないため作物が育ちません。また水はけがよいと土が水を溜め込むことができず、雨が降っても作物を育てるのに必要な水が不足してしまいます。それぞれの土でも育てることのできる作物は確かに存在しますが、この辺りで私は見たことがないのでないと思ったほうが良いでしょう。」
「そうなのか。どこでソレを知ったのだ。」
純粋に疑問に思ったのだろう。当然の疑問を投げかけられて勲司は答えを窮した。
「勲司様はここにたどり着くまでに様々な土地を旅してまいりました。その中に自然の知識に長けたドルイドが居る村で教わったのでしたね。」
ノエミがすぐにフォローを入れてくれたためそれに乗ることにした。
「そ、そうですね。私も簡単に教えてもらっただけなので詳しいことはあまりわかりませんが。」
これ以上突っつかれたくないので予防線を張った。
「いやいや、十分じゃ。儂らでは考えもつかんかったでな。」
「こればかりは考えてもいますぐどうにかできるものではありませんが……ドルイドが居れば可能でしょう。」
「族長はドルイドの魔法が使えるのか?」
期待を込めた声でハガンは質問をしてきた。
「残念ながら私自身はドルイドを覚えていません。が、ドルイドの魔法使える者を召喚することはできます。」
「お主、召喚魔法も使えるのか。」
「本職ではありませんけどいくつかは使えます。『
「戦であれだけの加護を使えたのじゃ。いまさら驚きはせんがお主、第5位階魔法が使えるとな?」
「ええ……、まあ……。」
オークとトロールたちとの戦いでこの世界の住人たちがどれほどの強さか把握しつつあったが、使用できる位階魔法まで考えてなかった。
「儂でも第2位階までしか使えないというのに……なんということじゃ。お主がきてから自信を失くす一方じゃなの……。」
そんなことを言い拗ね始めるグルムをよそに話を続けることにした。
「で、ですので食料は比較的早く解決できると思います。あと、昨日捕獲したトロール達はちゃんと逃げられないようにしていますよね?」
「ああ、戦列に加えるというのなら反対だぞ。ゴブリンやオーガは結局は同じトロールにいいようにされた被害者だがあいつら紛れも無く俺たちの敵だ。」
「もちろんそれは理解しています。奴らを取られたのはあの再生能力を利用するためです。やつらはどんな身体を切り落としてもすぐに傷口から新しい肉が出てきた修復するでしょう。では切り落とした肉はどうなるか……。多少まずいかもしれませんが調理次第で食えると思いますよ。」
「「……。」」
グルムもハガンも返事はなくなにか思考を巡らせた。
やはりトロールの肉は気持ち悪いと感じたり、憎き敵の肉など口に入れたくないのかもしれない。
事実勲司自信が気持ち悪くて食べたくないと思っていた。
「トロールの肉か……食ったことないがグルム様は?」
「いや、そもそも俺らが食われる立場じゃったからの。どんな味がするか楽しみじゃわい。」
「あれだけ肉が多いと食いごたえがありそうですね。」
勲司の思いは杞憂だった。
「も、問題なければそれでいきましょう。大きな問題の解決案はこれで出ましたね。では他に緊急性はないが早めに手を付けておきたい細かい案件に移りましょうか。」
午後の報告に向けて打ち合わせは昼食時まで続いた。
『セントサイモンの角笛』
名馬セントサイモンをモデルにした馬を召喚する。
非常に気性が荒く、多くの伝説を残しているが優秀すぎるのが仇になりその父系の血統はほぼ途絶えてしまった。
気になる人はセントサイモンでググってみよう。
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