午前中におおよそのことは決め、これから村の住人に決定事項を伝えるため広場に集まってもらった。
この目的としては意識の統一のほかに適材適所で役割を分担するためでもある。
トロールとの戦いでは村を放棄し、背水の陣で挑むためオークの総力で事にあたったが、本来であれば村の防衛や維持のために半数以上は村に残す必要がある。
そこで村を拡張、発展、維持させるためにそれぞれが闘うこと以外にも仕事を決め文化的にも成長してもらおうと考えた。
村の最初の拡張と発展に勲司も力とアイテムを貸すが、あくまで一時的な処置にすぎない。
勲司自身がいつ元の世界に戻ってしまうかわからないためだ。
元に戻る手段がわからないと同時にある日当然なにかの拍子でこの世界から消え元の世界に戻ってしまうことだって考えられる話だ。
そうでなくとも状態異常を無効化しているとはいえこの世界にのみある病原菌で急逝してしまうことだってありえる。
そのために防衛や農作、
そこで勲司は(すでに手遅れな気もするが)貸すアイテムも行き過ぎた力を極力使わないようにしようという結論に至った。
幸いにもこの世界のゴブリンは手先が起用なようであり、大雑把で細かい作業が苦手なオークをフォローするにはうってつけとも言えた。
元が弱い種族でもあるため才能も個体差があり、中にはオークにはほとんど居ない魔法の才能を見せるものもいる。
そしてグルムが言うにはオーガは食事さえ保証してやればゴブリンと協力し、裏切ることもないため、
「以上が村の今後の方針である。役割分担については後ほどグルムからそれぞれに通達があるためそれに従って欲しい。質問があればこの場で遠慮無く言ってくれ。」
勲司は一方的な告知のはずが質問をその場で受け付けた。
なぜかといえば答えは簡単。人は大衆が集まる中で上の存在に発言をしにくいのである。
声を出せば周りから注目されてしまうし、内容によっては反感すら買いかねない。
そして質問がでないことをわかっていて質問を受けつることによってこの場以外での、つまり勲司が一人でいるときなどに答えの困る質問を持ってこさせないためでもあった。
我ながら完璧な作戦だと勲司は考えたが
「ゴブリン達は奴隷として扱うのでしょうか。」
まったく気にせず質問が飛んできた。
そもそも人間(日本人)とは人種どころか種族や考え方が違うのだから当然である。
幸いにも勲司の独断で決めたゴブリンの吸収にたいしての質問だったためこれは答えるのに困ることない。
「そんなことはしない。あくまで村人と同じように扱う。」
その言葉にオーク達はどよめいた。
「隷属させることは力関係からして難しくはない。しかし彼らも我らと同じトロールの被害者だ。ならばそこは汲みとってやるべきだと私は考えた。奴隷は我々が順調なときは便利な存在だが少しでも我らが外敵との戦いで不利になれば内部から牙をむかれることになる。」
外側からの攻撃には耐えれても内側からの崩壊には耐えれないなんてことは珍しいことではない。ユグドラシルでも小さないざこざから内部崩壊が大きくなり、解散を余儀なくされた大手ギルドも決して少なくはなかった。
「幸い食糧事情も共存できるほど確保できる目処が立っている。ならば無理に隷属させるのではなく、平等な民として扱い心から忠誠を誓ってもらおうと思う。
「そのようなことが可能でしょうか。」
当然の疑問である。
人間の世界でも人種が同じで言葉が通じるにも関わらず共存できない世界があった。
人種どころか種族すら違えば共存なんて無理だろうと考えに至っても不思議ではない。
「我らが可能にするのだ。」
この世界は『
ここに至って勲司はユグドラシルプレイヤーなら『
そしてその異種族による共存共栄というのもまた『
ならば自分たちがその『
「反対するものは正直に言ってほしい。」
返ってくる答えも反対する空気もすでにそこにはなかった。
「他に質問はあるか?……ないようなので最後に皆に言っておくべきことがある。すでに気になっている者もいるだろう。部族名だ。」
~数刻前
「部族名ですか?」
「そうじゃ。新しい部族として生まれ変わった。これは族長としての最初の仕事でもある。」
昨夜グルムから族長の位を移譲された。
そして新しい族長になったとき、族長が部族名を決める。
その部族名が名前の下につき、人で言えば苗字のような機能を持つ。
これによって部族は血こそ繋がっていなくても家族のような強い絆が生まれるとグルムは語っていた。
「それと同時に部族としての象徴も決めねばなるまい。」
象徴の絵を村の旗に立てる必要があるためそれも同時に決めろと言ってきた。
「また急ですね。」
「本来ならば昨夜の時点で話しておくべきじゃったがお主が酔いつぶれてしまったからのう。」
誰のせいだ。と勲司は言いかけたがすでに終わったことを掘り返しても仕方がない。
「では部族名は.........でどうでしょう。象徴は........こんな感じで。」
「うむ、悪くないの。では早速旗を1流作るとしよう。」
「では決まりですね。」
.
..
......
............
勲司はグルムからできたばかりの旗を掲げた。
旗には
「部族名は『ヤドリギ』。これに属する者は、疲れた時、心が折れそうになったとき、安らぎの場所であってほしいという意味が込められている。」
かつて勲司のクランマスターが設立時に言っていた言葉だった。
クラン自体大きくならなくてもいい、強くなくてもいい。ただユグドラシルにログインしたときぐらいは、みんなの安らぎであってほしい。と「宿り木」という字から連想した思いだった。
そしてその言葉通り勲司はクランの存在が心の安らぎであり、それは今でも忘れずその時の記憶を鮮明に覚えている。
クランマスターが引退し、それから何度かクランマスターは変わったが勲司にとってクランマスター設立時の彼女以外クランマスターと呼びたくなかった。ゆえに古参の彼は一度もクランマスターになろうともしなかった。
「またこの旗の絵は
そして口には出さなかったが、勲司は再びこの場所が自分にとっての安らぎであってほしいという想いと、またあの楽しい日々を迎えたいという叶わぬ願いも込められていた。
「良いか。これからは我らはヤドリギ。ヤドリギと名乗るがいい。そして我らオークはかつて無い繁栄を手にするだろう。」
この瞬間、勲司はクンジ・ヤドリギとして、ヤドリギの族長として一歩を踏み出したのだ。