「勲司様。逃走したトロールとゴブリン共の拠点を確認しました。」
捕らえたトロールとゴブリンへの質問が終わると同時にノエミが帰還した。
「どうだった?」
「はい、その場に居たのを確認した限りではゴブリン88匹、トロールが45匹、それとオーガが32匹居ました。」
「さきほどのゴブリンが話ことに嘘はなかったようだな。」
「はい、この世界でもオーガとゴブリンは共存関係にあるようです。」
MMORPGにおいて敵から攻撃プレイヤーに攻撃してくる条件は大きく分けて2つある。敵の索敵範囲内に入って仕掛けてくるアクティブ。もう1つはMOBに設定された同族意識のようなものであり、一定範囲内の同族が攻撃を受けると仲間を助けるために攻撃者を攻撃するシステムである。
基本的には仲間から駆けつけるが、一部の敵は攻撃を受けた瞬間に仲間を呼ぶタイプも居る。
ユグドラシルにおいてゴブリンとオーガは相互リンク関係にありどちらかが一定範囲内で攻撃を受けるともう片方が助けにはいる関係であった。
それがこの世界では共存という形で現れているようだ。
「そこはユグドラシルと同じということか。ではトロールは共存関係ではないと。」
「はい、引きこもりの勲司様は私よりお詳しいと思いますが、私の知る限りではトロールはどちらとも助けるという行為はしません。それと勲司様が最初のトロールを攻撃したとき仲間もトロールはすぐさま攻撃に転じましたが、ゴブリンは勲司様を攻撃するのを躊躇っていました。恐怖もあったとは思いますが、トロールのために命を捨てるようなことに抵抗を覚えたためではないでしょうか。」
勲司は最初の余計な一言を敢えて無視して話を続ける。
「……つまりは強制されている。共存ではなく隷属されているということか。」
「おそらくは。そしてそれはゴブリンと共存するオーガにも及んでいると考えられます。ついでに逃げたゴブリンが報告していたトロールを見る限りその一団の大将と思われましたので
「なるほど、ご苦労だった。」
「お褒めに預かり光栄です。ところで外に転がっている肉はなにか話ましたか?」
「いくつかな。戦闘前にここから西に向かってオークが逃げたということは聞いていたと思うが……」
「3時間ほど前のやりとりですので聞こえる範囲でしたら勲司様が覚えていらっしゃることでしたら私も当然覚えています。」
「……オークが逃げた原因はどうもこいつらトロールがもっと東に居たみたいだが人間の集団に集落を追われ、ここにたどり着くまでに居たゴブリンとオーガを吸収し、オークを襲ったためだ」
「民族大移動のようなものですね。頭が悪く力しか取り柄がないオークではトロールと相性が最悪と言っても過言ではありません。同レベル以下ではジリ貧になって追いやられるのは当然ですね。」
「……トロールを追いやった人間達というのが気になるな。もしかしたらこちらに飛ばされた同じプレイヤーかもしれん。」
「なぜそうお考えになられるのですか?」
「ユグドラシルプレイヤーはやはりヒューマンを選ぶ人が多かった事もあるが、我々の民族性から考えてこういった災害のような危機的状況になると一箇所に集まり団結する傾向が強い。」
「我々の民族性とおっしゃいますが、勲司様はオークではありませんか。鏡を見ていただければ醜いオークしか映っていないことをご確認なさいませ。」
「……ああ、そうだったな。」
どうやらNPCはプレイヤーにとっての現実世界というのが理解できないようであり、こんな姿をしていても中身は人間であるということがわからないらしい。
「とにかくだ、プレイヤー達ではないかとも考えたがそのためにはトロールの群れを抜けなければならず、我が家が危険な状態で放置されるのはどうも不安だ。そこで……」
「そこで、西に逃げたというオークに会いに行き、この土地の支配権を握らせ安全を約束させるのですね。」
「……理解が早くて助かる。それにこいつらがこれを持っていたからな。」
「それは?」
血に染まった。なにかの動物の骨と石で紐で通し輪にしたものを目の前に出した。
「ただの装飾品だよ。魔法的効果もなにもない……な。だがこいつらが食ったオークが身につけていたものらしい。トロールは腕に巻いていたが恐らく首飾りだろう。これをオークに返して恩を売ろうと思う。」
「それで恩が売れるのでしょうか。」
「売れるさ。オークは仲間意識が非常に強い。それを同族の俺が危険を顧みず取り返し、持ち主の遺族に返したとなればな。」
ユグドラシルではオークは他のどの種族より仲間意識が非常に強い。リンク範囲も他の種族の倍はあり、また大抵が2体以上で固まって行動している。
「もちろん、私と同じ種のオークとは限らないがな。」
(それにこの首飾りのデザインを俺は知ってる気がする……)
ユグドラシル時代。オークの村に居た族長の証の首飾りの記憶に酷似していると勲司は思った。
偶然か必然かそれも確かめたいと考えてのことだった。
「では西に向かうとしよう。今度は我が家に幻術を展開し知覚できなくする。、そして無意識に近づきたくないと思わせるようにしよう。ノエミは逃げたやつらが戻ってきた時すでに我々が撤退したと思うようにあの肉を西へ移動させてくれ。目印になる地形がわからないから1kmぐらい離れても死体があればそこが現場だったと勘違いするだろう。」
「畏まりました。」
「それと家の周囲にトラップを貼ってくれ。できれば殺傷能力を抑えて生け捕りにするもので。罠が発動、または破壊されたらノエミにもわかるようになっているよな?」
「はい、MPを使用して設置した罠にはそういった効果がございます。」
「よし、ならばそれを使ってくれ。」
「畏まりました。それでは作業にとりかかります。」
「少し待て。」「?」
すると勲司は先ほどまでの軽装からローブに着替え詠唱を始めた。
そしていくつかの魔法を唱え終え
「スキル発動速度向上、スキルクールタイム短縮、魔法詠唱速度向上、加速の魔法をかけておいた。これで作業も早く終わろう。」
するとノエミは目をパチクリさせていた。なにやら本気で驚いたようだ。
「わ、私ごときのためにそのような魔法を使っていただきありがとうございます。」
と、片膝をつき、頭を垂れそのようなことを言い始める。
その言動に今度は勲司が驚いた。
普段は事あるごとに毒を吐くノエミが本気で敬意を示し、感謝の言葉を述べているのだ。
このとき勲司は普段のノエミが設定に基いてああいった言葉を使っているだけで、本心ではやはり製作者である自分に忠誠を誓ってくれているのだと確信が持てた。
たった5種類のバフをかけただけでこの態度の変化は本心だとわかるのには十分すぎた。
「う、うむ、では作業を始めるぞ。」
ノエミの態度に驚き、テンパった状態で自分でも偉そうと思える態度で返事をしてしまう。
そして一通りの作業を終え二人は西に向かった。
あの程度のトロール如きが支配できる土地ならば大した危険はないと思うがなにがあるかわからない世界。念のため戦闘系のバフを使い移動しようとすると、また感謝の意を示すノエミが居た。
「お前の強化は私のためでもある。それに私の種族特性上お前にもバフがかかるのは当然なのだから一々感謝の態度を取らなくても良いぞ。感謝したいというなら言葉だけ十分だ。」
戦闘前にバフをかけ終え、感謝の言葉と同時に狩りの開始というのがユグドラシル、いやMMORPGというゲームの常識だった。
一々頭を垂れて感謝をされたらヒーラーからヒールをもらったら感謝、タンクが攻撃を受け止めたら感謝しなければいけなくなってしまう。
バフをするのがバッファーの役割なのだから礼自体必要ないと勲司は考えていた。
そんな一幕もあったが、二人は西に進路を向けたのだった。