永人「さてと…今度はこっちが攻める番だな。」
今、七子永二はL―ブレイカーを使い永人と代わって眷属のスナイパーを相手にしているところだ。
実は永人の頭の中にはすでに相手を倒す算段がついていた。永二が戦っている間にも永人は色々と考えていたのだ。と言っても永二が考えついていたホテルの中に入り相手がいる屋上に行き接近戦をしかけるものだが。永二だと逆に足手まといになるという理由でその作戦を避けさせたが…永人にとってはこれ以上ないくらいシンプルで効果的なものだ。矢はレキの手を借りずとも自分なら防げる。だからレキには防御に専念させることもできるからレキの身も心配ないということだ。七子永二が強ければ全てが解決する。改めてそう思った永人だった。
永人はこれからホテル内に入るために今からの作戦をレキに伝えようと思い電話をかけた。
永人「おいレキ、聞こえるか?」
レキ「はい。」
レキは1コールで出た。そこですぐに永人はレキに作戦を伝える。
永人「今から俺はホテル内に入る。そこで俺が屋上に着いたらこの俺を援護しろ。俺が屋上に着くまでは攻撃に出ず、身を隠しておけ。ああ、相手が逃げないよう牽制くらいは頼む。だが、援護用に2発くらいは残せ。わかったな?」
レキ「構いませんが私の戦力分析ではエイジさんほどの実力では相手には敵わないと思われます。相手の近くまで行かれると私もエイジさんを守ることも困難になります。今からすぐに退避してください。」
と、レキは逃げるように促す。その時、
ヒュッ!!!!
銀髪のスナイパー、セーラは5射目を永人に放った!矢という特性上、発砲音がないため気づきにくい。レキは一瞬遅れて狙撃しようとするが、
永人「撃たなくていい。」
永人は通話状態のケータイに一言だけそう言い、ケータイを耳元で固定するように肩と耳で挟み、藍色に光る右目を矢の方に向けた。今、永人の右目に見えているのは実は矢だけではなく、その視界内にある超能力的な力の流れも見えているのだ。永人は永二と違い、永二の失っている記憶を全て持っているため自分のこの『眼』の力を全ては把握しているし、どういうものかも知っている。この目は空間把握力を上げるのとは別に普通の人間には決して見えない超能力的なエネルギーも目で捕らえることができるのだ。
永人の右目は矢に絡みつくような超能力の力…いや、『超能力によって作用している風』を捕らえた!
永人(なるほどね。矢を風で操作していたわけか。なんで拳銃を使ってないのか疑問だったけど納得だ。銃弾を風で操作することは難しいだろうしな。)
と、永人はそんなこと思いながら空いた左手で自分に向かってきたその矢を―
バシッッッッ!!!!!!
掴んだ!それもいきなり変化してきた矢を一瞥しただけで涼しい顔で掴み取った。風が矢をどのように変化させようとしているのかは右目ではハッキリと見えていた。タネがバレた手品を破ることなんて容易い。それでも飛んでくる矢を軽々と掴んで止める時点で普通ではないのだが。
右手に刺さっている矢はまだ抜いていないので左手しか空いてなかったのだが、通話中に片手間にやったような感じで矢を止めたため相手にショックを与えるには十分だった。
永人「おいレキ、聞こえてんのか?こっちも色々あって防御面でお前の援護はもう必要なくなった。わかったら俺の言う通りにしろ。さっきも言った通り俺が屋上に行くまでは相手が逃げないように牽制だけだ。そして…『ダイレクト・ライン』を見つけろ。」
「ダイレクト・ライン」というのは一般に狙撃手にとっての勝負を決める狙撃のことだ。狙撃とはそのほとんどが一撃で相手を葬り去ることができる。だが、武偵のように相手を殺してはいけない場合などでは「狙撃で相手を殺さずに無力化する」というかなりの無理難題を出される。通常の狙撃と比べて撃ってはいけない場所が発生し、どこを撃てば相手を無力化できるのかを考えさせられ、より正確な狙撃が求められるからだ。つまりそういった状況での「相手を殺さず、かつ一発だけで相手を確実に無力化することのできる狙撃」それをダイレクト・ラインと言うのだ。
レキ「……わかりました。」
そして通話を切り俺はホテルの中へと入った。ホテル内では怯えている客が何人かいた。そりゃ、自分が泊まっていたホテルの前に矢が撃ちこまれたら誰でも怖いわな。きっと誰かが外の様子を見て叫びでもしたんだろう。下手に外に出られるよりマシだ。
俺はそんなホテル客の中を素通りしてエレベーターのボタンを押して屋上へと向かう。このホテルは階の数もかなりのものなのでエレベーターを使っても屋上へは少しだけかかるだろうなと永人は溜息をついた。
俺が見たものや永二が見たものはお互いの記憶に共有される。つまり永二が銀髪の女と出会っていることも知っているし顔も覚えている。さて…あの銀髪の女の子と感動の再会といこうかね…。
永人はそんなふざけた調子で屋上に向かうのだった。
セーラは今の状況がマズイことになっているとわかっていた。まだ七子永二の強さのデータは取り切れていないがこのまま戦いを続行すれば自分が危ないということもわかっていた。だがさっきから逃げようにも敵の狙撃手が退路を塞ぐように銃弾を撃ってくる。矢で銃弾を撃ち落とせるのだが、こちらの矢の本数は自分を狙っていない弾も撃ち落とすほど余裕もない。かといって相手を狙おうにも完全に身を隠しているため確実に射抜けない。きっと相手の狙撃手は七子永二がこの屋上に来て優位な状況ができるまで弾を温存して自分も撃たれないようにしているのだろう。七子永二が下にいたなら相手の狙撃手も身を隠さずに永二が私に狙われていないか確認しなければならなかっただろうが今は状況が変わってそんな必要もない。
セ―ラ「残りの矢は5本…うん…3本までならいいかな。」
2本だけなら相手の狙撃手への攻撃に使ってもいいと考え、相手が自分の牽制に撃つために出てきた瞬間に矢で相手を射抜くことを考えた。セーラの視力は眷属の中でも飛びぬけている。これはセーラの知るところではないがレキと同等ほどである。そんなセーラはたとえ自分から1kmほど離れているビルだろうとくっきりと見える。レキの姿も何度か視認しているのだ。
そしてセーラはわざと逃げるように移動する。その瞬間にレキが逃すまいと発砲しようとする。
セーラ(かかった…!)
セーラは相手の顔が見えた瞬間に矢を撃ち放った!だがレキは顔色を1つ変えず…
タァァン!!ギィィィン!!!!
狙撃銃による『銃弾撃ち』でセーラの矢を撃ち落とした。それだけでは永二を守っていた時とやったことは同じだが今回はそれだけではなく、セーラの超能力である風を使っての矢の変化を考慮に入れ、変化ができないくらい自分の近く―ギリギリまで矢を引きつけて自分からわずか3mというところで矢を撃った。
セーラ(撃ち落とすだけならなんてことないけどあんなに引きつけて自分に当たるギリギリで撃ち落とすなんて…)
さすがのレキの度胸にセーラも舌を巻いた。
自分も恐怖には疎いところがあるが相手も相当なものなのだろう。
セーラがそう思った時、
……!エレベーターが上がってくる音?そろそろ来る!
セーラは音と気配を感じ、屋上に通じる入口を見て身構えた。だがこれは相手のミス。普通、屋上に通じる入口は1つであり、この屋上も例に漏れず入口はたった1つなのだ。つまりはそこから七子永二が出てくることは必然であり自分にとってはいい的だ。入口のドアが開いた瞬間にそこに矢を撃てばいいのだから。他の入口が無い以上、そうなることは避けられない。
セーラは七子永二が屋上に来ることで不利になり自分の身の危険を感じつつも七子永二をここで葬り去る自信と算段だけは持っていたのだ。
セーラはレキからの狙撃を気を付けながらも七子永二が出てくる入口に矢を向けた。即座に矢を放てるように。そして少しでもレキからの狙撃を感じればそれに対して対応もできるように。
そして少し時間が経ち、エレベーターの止まる音がセーラの耳で微かに聞こえた。
セーラ「来る……!」
セーラは入口のドアをキッと睨むように集中して見た。開く瞬間を逃すまいと。しかし…
セーラ「……。……………あれ?」
セーラは集中を少し解いた。なぜなら七子永二が現れないからだ。今の状況ならすぐに屋上に入ってくるだろうに、入口のドアはピクリとも動かない。それどころかそこからまったく気配が感じられないのだ。予想外のことにセーラは首をかしげながら弓矢を下した。
その瞬間だった…
永人「おい、どこ見てんだよお嬢ちゃん。……こっちだよクソ野郎。」
なんと入口とは逆側のセーラの背後からそんな声が聞こえた。その声にすぐさま反応しセーラは後ろを向くと今にも襲い掛かってくる七子永二の姿があった。入口の逆側には何もない。この男は空中を浮遊して屋上まできたとでもいうのか。
セーラ「なっ!なんで………!」
永人「さぁ、なんででしょうかねぇ!」
永人はそう言い、矢が刺さっていない左の拳でセーラに殴りかかろうとした。セーラも即座に弓矢を構え、七子永二の頭を狙い矢を放った!矢が勢いよく永二(永人)に向かってくる。だが永人はセーラが矢を放つ瞬間に右手に刺さっていた矢を引き抜き…
ガッッッッッッッ!!!!!
向かってくる矢の鏃に、自分が手から引き抜いて持った矢の鏃を正確に当てて防いだ!セーラは自分の見た光景が信じられなかった。
セーラ(ありえない…高速で飛んでくる矢の鏃に正確に合わせるなんて…動体視力がいいとかそんな話じゃない。どこに飛んでくるかがわかっているような…まさか超能力!?)
セーラは驚きながらも自分の背負っていた矢筒から新たな矢を取り出そうとするが…
タァァン!!ヒュッ!ドッッ!!
セーラの背中に向けてレキが発砲した!弾は見事にセーラが矢を取る前に矢筒を破壊し、矢もバラバラになっていた。セーラは自分に襲い掛かってくる七子永二に気をとられレキの狙撃が一瞬だけ頭から離れていた。
セーラ「あっ……!くっ…!」
永人「本当に使える女だな。ナイスだぜレキ。そしてお前はバカだ。行動パターンが同じなんだよガキが。それにどっかの校長も言ってたぜ。『意識を外された部分に対して人間はとても無力』だってなぁ!」
永人の拳がセーラに向かってくる。セーラは反射的に手を横に薙いだ。その時、暴風がセーラの手を振った方向に吹き、永人の体を横殴りに暴風が吹いたため拳も外れ、そこからふっ飛ばされた。それほどメチャクチャな強さの風だった。
永人「テ…メェ……!!」
永人は屋上から落ちないように踏ん張る。
セーラは永人が退いたことで空いたところへ走り出した。それは―何もないところだった。つまり、屋上から飛び降りようとしているのだ。セーラは空気をクッションのように作ることでどんな高さから飛び降りても無事に着地できる。その気になれば空気のクッションを連続で作ることで空中をフワフワと浮くこともできる。
セーラが用意していた緊急時に逃げる方法は屋上から飛び降り、空中を空気のクッションを使って移動してこの場から離脱するという常人には想像もつかない方法だった。
セーラは飛び降りる瞬間に1つ下の階の窓から屋上の壁にワイヤーが張ってあるのが見えた。
セーラ(…なるほど。1つ下の階でエレベーターを降りて窓からワイヤーを使って屋上にやってきたというわけか。入口のドアとは前後の位置になっているからその方法を使えば入口に警戒している私の不意をつけると…。でも、七子永二は右手に矢が刺さったままここに来ていた。ということは片手だけでワイヤーを使って登ったってこと?それこそありえないことだし、そんなことして落ちる恐怖はないの?)
自分の背後に現れた方法のタネはわかったがそのぶっ飛んだ方法に戦慄した。だがこれでわかった。七子永二は危険だ…と。
そうしてセーラはとうとう屋上から飛び降りた。レキは発砲してこなかった。予想されるのは……弾切れといったところだろう。ここまで追い詰められるとは思ってなかったけどここは運がよかった。それに七子永二の方もここまでは追えないだろう。
そう思っていたセーラだったが、さらに驚くことが起こった。
永人「おい待てよ。逃げんなって。」
なんと永人も屋上を飛び降りたのだ。なんの躊躇もなく、むしろ悪魔的な笑みさえ浮かべて。自分には超能力で助かる方法があるがこの男にはないはずだ。見たところパラシュートも持ってない。なのになぜこの男は平気で飛び降りる?セーラは得体のしれない物を見たかのように驚愕の表情だった。レキが発砲しなかったのも七子永二が自分の元に飛び降りてきたからだろう。
そうして永人は空中でセーラを捕まえた。……半ば抱き着くように。
永人「つ~かま~えた♪」
セーラ「うっ…!抱き…着くな…。う、うわっ……!」
急に永人が自分に抱き着くように来たため1人用に作っておいた空気のクッションを通過して急降下する。セーラは急いで超能力で空気を多く集め再度、空気のクッションを作った。そのおかげでフワフワとゆっくり2人は降りていく。
セーラ「ちょっと……離して……。」
セーラは心底嫌がるように抱き着く形で自分を取り押さえた永人をグイグイと離そうとする。だが永人は、
永人「うるせぇクソガキ。このまま暴れて俺を離そうとするなら拳銃でお前の頭吹っ飛ばすぞ。それが嫌ならこのまま着地しろ。」
そう言って、片手でセーラの肩を抱くように掴み、もう片方の手でショルダーホルスターからコルトガバメントを取り出しセーラの頭に向けた。永二との約束もあるためあくまで脅しだけだが。
セーラ「本当に……武偵?人でなし、鬼畜、悪魔。」
セーラは青ざめた顔で永人に対して思いつく限りの言葉をぶつけた。
永人「おうおう、なんでも言えや。負け犬の遠吠えにしか聞こえねえんだよ雑魚。」
永人はまったく気にしていないという涼しい顔でむしろセーラを罵倒した。
セーラ「……。ムッツリ、スケベ、変態、ピー(規制)ピ―――(規制)」
永人「おいゴラ!!マジで頭吹っ飛ばすぞクソガキ!」
さすがにこの罵倒には耐えられなかった永人だったが…。
そんなこんなで無事に着地した2人。
セーラ「もう…離せ~。」
セーラはいい加減離せという嫌がる気持ちを顔に思いっきり出して永人を離そうとした。それでも他の人から見れば無表情に近く、変化は些細なものだったが。顔色だけ青ざめたままだった。まぁ普通に女の子が好きでもない男から捕まえるためとはいえ抱き着かれるのは良い思いはしないんだろう。
永人「今離したらお前逃げるだろうが。ちょっとでも無理やり逃げるようなことしたり超能力使ったりしたら撃つからな。大人しくしろ。……あー、あいつ(永二)はなんか相手を捕まえるような物持ってないのかよ?武偵なら手錠の1つ持っとけよ。クソッ!」
永人はイライラしながらも仕方なくセーラをさっきと同じく拳銃を頭に向けたままそこから移動した。はたから見ればどっちが犯罪者なのかわからないし永人が武偵高の制服を着ていなければ、か弱そうな銀髪の少女を人質にとる凶悪な犯罪者に見えてしまうような感じだった。そんなことにも永人はイラついていて、ただでさえ自分には時間制限があるため早くレキと合流したかった。と、そう思っていた時1匹の白い大きな犬(?)のようなものがやってきた。その犬は口に手錠を銜えており、永人にその手錠を渡してきた。その手錠も超能力用の物でありそれには永人も驚いた。
永人「なんだこの犬。手錠なんか持ってきやがって。ははっ!中々気が利く犬じゃねえか。」
永人はその手錠を受け取りセーラの片手にかけ、もう片方を掴んだ。その時にポケットの携帯電話が鳴った。相手は…レキだ。
レキ「もしもし。」
永人「おい、この白い犬お前が飼ってんのか?俺のとこに手錠なんか送り付けてきやがったぜ。」
レキ「はい武偵犬です。エイジさんが手錠を持っていないと不便するだろうと思いましたので届けさせました。あとちなみに犬ではありません、コーカサスハクギンオオカミです。名はハイマキといいます。」
レキは淡々と永人に伝えた。
永人「オオカミ?んなこと知るかよ…。まぁ助かったぜ。それに…なんだ?『ハラマキ』?やけに温かそうな名前じゃねえか。」
レキ「……ハイマキです。」
電話でレキは訂正したが永人にはどうでもいいことだった。
そんな時、当のハイマキはというと永人の足にすり寄ってきていた。
永人「おい犬、『ハラマキ』っていったか?ウゼェからすり寄ってくんな。ぶっ殺すぞ。」
永人は威嚇するようにそう言うがハイマキはどこ吹く風で気にせず永人の足の周りを回っている。
レキ「懐かれているのではないでしょうか?」
通話状態のままの携帯電話からレキのそんな言葉が聞こえた。
永人「マジかよ…。」
永人は心底嫌な顔をしながらもハイマキをそのままにしておいた。もういいやという感じで。
そこから少し歩いて、永人は腹が減ったので
永人「おい銀髪のクソ女。なんか食い物持ってねえか?狙撃手なら非常食の1つくらい持ってんじゃねえのか?あったら寄越せ。」
永人は頼みではなく強奪という形でセーラに向かってそう言った。
セーラ「クソ女じゃない…セーラ……セーラ・フッド。一応、あるけど…全部はあげない。」
永人「おお!お前も気が利く女だな。何持ってる?カロリーメイトか?」
レキはカロリーメイトを持ってるらしいので(永二の記憶から得た情報)狙撃手の持つ非常食はカロリーメイトあたりなのだろうと思っていた永人は次の瞬間ゲンナリした。
セーラ「ん、ブロッコリー。」
セーラはポケットから小さいパックを取り出し、その中には茹でてあり小さくカットされたブロッコリーが何個かあった。
永人「お前……バカだろ?」
セーラ「……失礼な。私の超能力で接種しなきゃいけないものはブロッコリーで全部とれる。それにブロッコリーはおいしい。」
永人の本気でバカにしたような言葉にセーラは無表情の顔に珍しく怒りのマークがついたような感じだった。仕方なくブロッコリーでもいいやと1個受け取り口に放り込むが…何の変哲もないただのブロッコリーだ。溜息をこぼす永人だった。
そこから時間も経ち、制限時間の15分がきて、
永人「ここまで……だな。」
永人は急に倒れた。
セーラ「!? ちょっと…倒れられたら困る…。」
2人は手錠で繋いでいるため永人が倒れるとセーラは動けないのである。ハイマキも困ったように永人を顔をつついていた。だが、すぐに…
永二「う、うん?イタタ…体中が痛い。ううっ、よい…しょっと!」
体中の痛みを堪えなんとか立ち上がった。もう永人ではなく永二だ。一応、永人がどんな戦い方をしたのかは永二の記憶に残っている。新たに得た記憶に関してはお互いで共有なのだ。二重人格というものも案外便利なものである。でも、だからこそ今回の永人の戦い方は永二にとって衝撃だった。教科書のようなキレイなやり方じゃない。どこまでも実戦的な戦い方に永二は自分の今までやってきた訓練が無駄だと言われたような感じだった。
永二「クソ…やっぱり僕じゃ…なんにもできないじゃないか。」
あまりの自分の無力さに歯ぎしりする永二。だが急に頭が割れるように痛み出した。
永二「うっ!な、なんだ…。頭が痛い…!」
セーラ「こ、今度は何…?」
セーラは何が起こっているのかわからず狼狽えるが、永二はその頭痛に覚えがあった。
永二「そう…だった。『L―ブレイカー』はリミッターを外すだけじゃなくて記憶を取り戻す機能もあるんだったか…。前回もそうだったし…今回も?」
永二の思った通り、次の瞬間に頭に映像が流れ込んできた。
目の前には白衣を着た男。見た目は20代後半か30代前半といった感じの男だ。自分に何かを語り掛けてきている。
?「素晴らしい。成功だ。実験は成功した。」
実験?なんのことだ…?この男は何者だ?
?「乗能力者にも…超能力者にも負けない、完璧な戦士の出来上がりだ。これなら…次のステップに進めることができる…。」
何を…言っているんだこの男は。完璧な戦士?意味が分からない…
?「あとは…超々能力者を超えるだけだ。超々能力者―色金保有者か…そこまでくると神の領域だが…それも考えがある。もう少しで…もう少しで実現する。待っていろ―――。」
ぐっ!最後の『待っていろ』の後の部分は何を言っているのか聞き取れなかった。誰に向けた言葉なのかを知れたのに…!ここまでか…。
永二「はぁっ…はぁっ……」
今回戻った記憶は…僕を武偵高に送り込んだ張本人なのか?わからないけど…その男の言っていたことはどこか狂気じみていた。『完璧な戦士』か…。もし僕がそうなのだとしたら僕にそれほどの潜在能力があるのだろうか?とてもそうとは思えないけど。永人は何かこのことについて知っているのかな?僕の失った記憶を持っているみたいだし。でも、永人とはもう話せなくなった。どうやら話すことに関しては永人の方に優先権があるみたいだ。こういう時は不便だと思う。
セーラ「倒れたり、頭痛になったり、変な男…。」
さっき永人に名乗ってたから知ってるけど…セーラちゃんが僕を変なものでも見るかのような目でそう言った。ううっ、傷つくけど実際こんな男いたら引くよな。それに永人がこの女の子に対してかなりメチャクチャやったみたいだし。それに屋上から飛び降りるとか何してんだよホント…。死んだらどうするんだ…記憶が僕にも共有されているから僕まで飛び降りた感覚がある。今でもゾッとするよ…。
永二「あはは…変な男でゴメンね。」
セーラ「…? あれ?そんな性格だったっけ?」
セーラちゃんは頭に?マークを浮かばせて僕を見ていた。きっと永人のことを言ってるんだろう。本来、僕はあんなに暴言は吐かないしビックリしているだろうなぁ。
そんなこともあり数分歩くとレキさんと合流できた。
永二「あ、レキさん!やっと会えました~助けてくれて本当にありがとうございました!」
レキ「構いません。それよりもエイジさんの実力には驚きました。聞いていたものと大きく違っていたので。」
永二「あ…、それは…僕じゃ…ないんですよね…。」
レキ「?」
まぁ、通じないよな。二重人格のことを知っているのは一部の人だけだ。キンジさんやアリアさんに…綴と佐々木さんもか。正直、必要じゃなければこのことは話したくないのだ。皆には…知ってほしくない。僕が昔こんな人間だったって。アリアさんやキンジさんも話だけで実際に永人を見ていないからピンときていないのだろうけど、もし見てしまったら…嫌われるだろうか?それだけは…怖い。
そんな暗いことを考えていたが今はそんなこと気にしている場合じゃない。とりあえず、セーラちゃんはレキさんに任せた。僕じゃ、眷属をどうすればいいのかまだよくわからないし、アリアさんの話によれば眷属の中にアリアさんの母―かなえさんだったかな?その人の冤罪に関係しているやつもいるかもしれないからここからは事情に詳しいアリアさんたちに任せることにした。僕は早く、今回のことをアリアさんたちに報告しなきゃいけない。アリアさんに電話しようか。
電話は3コールほどでつながった。
アリア「はい、もしもし。」
永二「あ、アリアさん。僕です。永二です。あの…」
アリア「ああ、レキからある程度のことは聞いているわ。眷属を倒したらしいじゃない。」
永二「あ、そこまで聞いていましたか。師団の中で情報を共有した方がいいと思いまして報告をと…」
僕はこれから師団で集まって今回起こったことから新たに作戦会議でもと思っていたのだが…
アリア「その…エイジ。こっちも報告というか…話があるんだけど…今すぐ~~病院の~号室に来てもらえる?」
永二「え?病院?いいですけど…」
僕はこの時、本当に呑気だった。事態は良い方向に動いてなどいなかった。この戦いは極東「乱戦」だったということを忘れていた。
~Go For The Next!!!~ 死神の選定者
アリアさんから指定された病室に行ってみると、そこには師団のメンバーが揃っていて…ベッドには…星伽さんと理子さんがボロボロの姿で横たわっていた。
永二「なっ!何があったんですか!!」
アリア「あんたがレキと一緒に戦っている間に…白雪と理子も眷属に襲われたのよ。『砂礫の魔女』パトラと『厄水の魔女』カツェに。それも不意打ちの形で。」
ヒルダ「こんな昼遅くに襲撃してくるなんて。かつての仲間でもあまりいただけないわねぇ。おかげで理子を守れなかったわ。」
ッ…!最悪だ…。そうだこの戦いは1つだけじゃない。向こうは攻めてくる側だから僕らに複数の攻撃をしかけることができるんだ。だから…極東乱戦、全メンバーによる乱戦なんだ。でも…なんだこの違和感は…なにか引っかかる。アリアさんは僕にレキさんという護衛をつけてたってことは今の時期に攻めてくるってわかってたんだよな…。あれ?これって…
永二「あの…アリアさん。これって…………僕のせいじゃないんですか?」
アリア「え?な、何を言いだすのよ…急に。そんなこと…ないわよ」
アリアさんは否定してくる。けど、その声音は確かなものじゃなかった。
永二「もし、レキさんが僕なんかについてなかったら…もし、外出していた星伽さんと理子さんのところについていたら…こんなことにはならなかったんじゃないですか?」
アリア「そ、それは…。で、でもアタシや他の師団メンバーは用事があって救援にすぐに向かうことができなかったの。それを言うならアタシたちがこんな時に動けなかったのが悪いし、それにこういうのは誰が悪いとかないのよ?起こってしまったことなんだからそれで揉めていたら自滅もいいところじゃない。」
アリアさんはそう言うけど…違うこれは僕のせいだ。もし僕が師団になんかにいなかったら…もし、僕が強かったら…こんなことにはならなかったんじゃないのか?
永二「いや、僕のせいだ。僕がもっと…もっと強かったら。強かったらこんなことにはならなかった。僕が…強ければ…!!僕に…力があれば!」
力が欲しい力が欲しい力が欲しい。永人のような力が。眷属を退けられるような力が。力がないとまたこんなことが起きる。なんで僕はこんなに…無力なんだ。皆を守ると誓っておいて、いざ眷属と戦えば仲間に守られて、永人の力を借りて、眷属を倒したかと思えばその裏で仲間の足を引っ張っていた。最悪じゃないか…。
アリア「エイジ…そんなに思い詰めないで。あんたのせいじゃないわよ。そうだ、あ、あんた眷属倒したんでしょ?よくやったじゃない。驚いたわよ、まさかあんたにもうそこまでの力が―」
永二「僕じゃないッ!!!!」
ずっと溜めてきた苦しみがアリアさんの言葉で決壊してしまう。
アリア「え…?」
永二「僕じゃないんですよッ!! 僕はあれを使った!『L―ブレイカー』を使ったんですよ!相手は倒せたけど、僕にあるのは無力感や苦しみばかり!こんなちっぽけな僕じゃ眷属には勝てない!師団が必要としているのは僕じゃない…僕の方じゃない…。『彼』の方だ…。」
僕は涙を流しながらアリアさんに向かってそんなことを言ってしまい病室から飛び出してしまう。
アリア「待ちなさいエイジ!ちょっと!……やっちゃったわ…まさか永二が『L―ブレイカー』を使ったなんて…。」
アリアは『永人』という存在が永二の中にいることを知っている。永二にとって1番デリケートな問題だってことはわかっていた。わかっていたのに…そこで地雷を踏んでしまった。永二はずっと悩んでいたのだ。自分ともう1人の自分のあまりの実力差を。自分じゃ守れないものが永人になら守れることを。永二はそこから必要とされているのは自分じゃなくて永人の方だと思い込んでしまっている。自分は不必要な存在だと思ってしまっている。
キンジ「アリア、俺が追う。事情なら俺も知っている。今はアリアが出るよりいいだろう。」
アリア「ゴメン…お願い。」
キンジもまた「永人」の存在をアリアと同じく永二の口から聞いていた。二重人格というものはわからないが…キンジのヒステリアモードも二重人格ではないが似たようなものだろう。過去、キンジもずっと昔、素の自分とヒステリアモードの自分の差には考えさせられた経験もある。自分の方が話に乗りやすいだろうと思っていた。
永二「はぁ…何やってるんだ僕は。」
永二は後悔していた。まさか自分がアリアさんに対してあんなことを言うなんて。でも、思っていることは確かだ。僕は…こんな自分が嫌だ。師団には僕よりも永人がいた方が絶対にいい。それじゃ…僕はなんなんだ?これじゃ僕は…ただの「邪魔者」じゃないか。僕は…消えた方がいいのかなぁ。
そんなことを思うと、また涙が流れる。ダメだな、本当に僕は泣き虫だ。よし、アリアさんに謝ろう。そうして病院の中に戻ろうとするといきなり背後から強烈な気配を感じた。どこか普通じゃない、あきらかに只者じゃない気配を。永二はバッと背後を振り返ると自分の近くに男が立っていた。髪の長い、コートを着た男。僕に突き刺すような視線を向ける。それで思い出した。こいつだ…僕を見ていたのは。最初、僕が寮を出た時に感じた視線は1つだけじゃなかった。きっと1つはレキさん。2つ目は…セーラちゃんだろう。そして3つ目、確証はないけどこいつも僕を見ていたはずだ。
永二「お前、何者だ。眷属か?」
?「……見させてもらったが、中々いい戦いをしていたぞ。筋がいい。鍛えればもっと強くなれる。それと、キンジはいるか?お前は師団なんだろう?この病院の中にいるのか?」
なんだこいつ…キンジさんに用があるのか?
永二「はい、わかりましたでキンジさんに会わせるわけないだろ。お前、眷属だな。今度はキンジさんを強襲しに来たのか!」
僕は戦闘態勢に入る。ただこの男、見ただけでわかる。メチャクチャ強い。僕じゃあ絶対に敵わない。永人でも…この男に勝てるのかどうか…。でも、逃げるわけにはいけない。
?「何か勘違いしていないか?俺は眷属じゃない。まぁ師団でもないが…。キンジに用があってここに来たが戦う気はない。そうだな、キンジには『キンイチ』と伝えればわかる。」
男に戦う気はないらしいが戦闘態勢は解かない。それにキンイチだって?名前なんて偽名をいくらでも語れるんだ。きっとキンジさんの知り合いの名前なんだろう。そうやってキンジさんを油断させた状態でここに呼び出して強襲するつもりだ。しかもこいつは白状した通り極東戦役のことを知っている。怪しすぎる。そんなやつをキンジさんに簡単に会わせられない。
キンジ「おいエイジ!」
だがそんな僕の思いを裏切るかのようにキンジさんがここに現れる。マズイ!僕は相手が発砲してきた時のためにキンジさんを庇うような形で相手との位置をとる。だが少しすると…
キンジ「兄さんか!?なんでここに兄さんが……いるんだ…?」
あれ?キンジさんが知っている?え、ってことは…マジで知り合いだったのか…。しかも兄って。ええ…。嘘だろ、僕思いっきり失礼なことしちゃったじゃないか…。
永二「本当に…知り合いだったんですね。その…なんかすみません…。」
僕は一気に力が抜ける。とりあえず謝らなければ。っていうか僕、アリアさんに続き失礼なことしすぎだよ…。
キンイチ「別に構わない。極東戦役中ならそれくらい警戒していい方だ。…それよりキンジ、お前に話があってここに来た。」
キンジ「なんだ?俺に話って?」
キンイチ「極東戦役の戦いの地が日本になったことはもう知っているだろう?今のままでは師団は確実に敗北する。キンジ、お前も死ぬことになるかもしれん。だからお前は今より強くならねばならん。…俺についてこいキンジ。昔のように稽古をつけてやる。幸いにも眷属はここから1ヶ月は動かん。」
キンイチさんはとんでもないことを言ってきた。このままじゃ…負ける?
キンジ「ちょっと待ってくれ!いきなりすぎる。それに1ヶ月は動かないってどこの情報なんだ?」
キンイチ「眷属の方に情報を流してくれるやつがいる。お前の方でも察しはついているだろう。おかげで俺は今回の襲撃の件も知っていた。」
今回のことも…知っていた!?
キンジ「知っていたのに…白雪や理子を助けてくれなかったのかよ。兄さんはどっちとも知り合いだろ。」
キンイチ「俺は師団ではない。守るのはお前たちのやることだ。」
キンジ「さっき、稽古をつけるとか言ってなかったか?俺たちの味方のように聞こえるが…。」
キンジさんとキンイチさんは一触即発という感じになっていた。
キンイチ「聞き分けろキンジ。こっちにも事情があるんだ。無所属で動かなければいけない理由が。」
キンジ「言ってくれなきゃわからないだろ。イ・ウーの時だってそうだった!何も言ってくれなきゃ何もわからない…。」
キンジさんには昔、キンイチさんとの間で何かあったみたいだ。まぁ、僕はそのことを聞いたりするほど空気が読めないやつではない。
キンイチ「なら少しだけ話すが…アリアの『緋弾』絡みの事情だ。お前を強くさせなきゃならないのもそれ関係と言っていい。」
キンジ「…! 緋緋神と関係しているのか…。クソッ!」
キンイチ「今はそれしか言えん。それに強くなれば師団のメンバーも守れるだろう。この極東乱戦を早く終わらせたければ俺についてきて…強くなれキンジ。」
キンジ「………少し考えさせてくれ。急すぎて、なにがなんだか。」
キンイチ「選択は待ってくれないぞ。この場で決めろ。今から始めるのだから。」
キンジさんはあまりにも急な話だから迷っている。いや、どうするべきか迷ってるんじゃない。キンイチさんの意図がわからないから迷っているんだ。でも、こんなの迷う余地なんてない。
永二「キンイチさん、僕も…僕も連れて行って下さい。僕も…強くなりたいんです。」
キンジ「エイジ!?」
キンイチ「……いいだろう。お前も見込みはある。」
こんな最高のタイミングで強くなれる機会が来るなんて思いもしなかった。僕は運がいい…。そうだ、「僕」が不必要なら…その「僕」が永人を超えれば…!僕が永人より強くなればいい。そうすればもうあんな苦しい思いしなくて済む。
永二「キンジさん、何を迷うんですか。こんないい話、断る理由がないじゃないですか。強く…強くなれるんですよ?」
キンジ「エイジ…お前、本当にエイジなのか?」
永二「? なんのことです?」
キンジ「い、いや…なんでもない。…わかったよ兄さん。俺も行く。」
キンジさんも決心してくれた。そうだ、強くなれるのにデメリットなんてない。力があればできることが増えるんだから。僕も永人なんかの力を借りずに仲間を守ることができる。これは「僕」のためでもあるんだ。「僕」が「僕」であるために。もう永人の力なんか借りない。
キンジ「それで…どこでその稽古ってのはするんだ?兄さんが武偵高に勝手に出入りするわけにはいかないだろ。」
それは僕も疑問に思った。都合のいい場所がないのだ。唯一、訓練に適している武偵高だがキンイチさんが勝手に出入りしていいわけない。
キンイチ「それなら問題ない。今日からお前たちは…武偵高じゃなく、武偵庁に来い。武偵庁で1ヶ月ほど鍛えてやる。武偵高の方にも後で話はつける。」
キンジ・永二「な!?武偵庁!?」
武偵庁といえば武偵のプロがいるようなところだ。そんな場所に…僕たちが!?一体、この訓練…どうなるんだ…!
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