とうとう僕も武偵庁での特訓が始まる。いったいどんなことをするのか…。僕、七子永二はヤジマさんの前に立って言葉を待っていた。
ヤジマ「そうだなぁ…。俺がお前を見て思ったことは足りないものが多すぎる!ってことだ。」
永二「足りないものが?」
一応、毎日アリアさんに言われたような基本的な筋力トレーニングや射撃訓練に戦闘の型を確かめるなどの鍛錬は積んでるんだけどなぁ。やはりまだまだ量が足りないということか?
ヤジマ「お前今、鍛錬の量がどうとか考えてたんじゃねえのか?ちげぇよ。つか、体に関してはお前は良くできてる。問題は……『戦闘スタイル』と『自分の強み』だな。」
戦闘スタイルと…自分の強み?
ヤジマ「戦闘スタイルっつうのは例えば服部みてえなヒット&アウェイとか。キンイチなら近接戦闘と銃技による戦闘ってところだな。自分の得意とする形のことだ。それがあれば相手を自分の土俵に引きずり込んで有利に戦いを進められる。」
たしかに僕にはそれがない。ただ基本的な攻め方で相手を攻撃している、良く言えば正攻法なのだが悪く言えば個性がなく誰でも対応が可能というところだろう。自分の戦い方に関して何も考えてこなかったのがここで問題となったのだ。ヤジマさんみたいな人と戦うと僕みたいな戦い方じゃ通用しない。
ヤジマ「あと『自分の強み』。これは『戦闘スタイル』と少しだけ似ているんだが…要するに自分の持ち技ってところだな。例を出すと俺がお前にくらわせた『死刻』みたいな技のことだ。まぁプロを相手にするとそう簡単に使わせてはくれねえけどよ、そういうのを持ってるやつと持ってないやつじゃ大きく差が出る。それが決め手になったりするからなぁ。」
簡単に言えばゲームでいう『必殺技』みたいなものか。さっきも言った通り僕の戦い方は基本の形だけなのでそんなものはない。今考えてみると自分には決め手がない。僕が持ってる『L―ブレイカー』による体の限界強化とか永人がその体で使う超人的な技ならそういうものになるんだろうけどそんなことは僕にはとてもマネできないし『L―ブレイカー』をもう使うつもりもない。つまり僕がそれを身につけなきゃいけないのだ。
ヤジマ「もう新しい何かを見つける時間はないからな。今回は特別に俺の戦闘スタイルと技を教えてやる。つってもそれを習得できるからはお前次第なんだけどよ!まぁ全部身につけるのに最短で1年ってとこじゃねえか?ま、無茶だよな。はははは!」
永二「……やります。」
ヤジマ「は?」
ヤジマは大きく笑っていたのだが永二の言葉に素に戻った。
永二「1ヶ月で全部身につけます。だから全部教えてください。」
ヤジマ「それマジで言ってんのか?」
ヤジマは真剣な顔で永二に聞く。なぜなら今から教えるものとはこんなヤジマが血のにじむような鍛錬を積んで手に入れたものだ。たしかな戦闘スタイルを手に入れるのに10カ月。そして様々な技を身につけるのに全て合わせて総合で1年。その状態になったのは武偵高の2年次の途中でその時に強襲科のSランクを取ることが出来た。そこからは作戦の寝坊はあったものの自らの鍛錬は休まず、武偵庁にいる間はひたすら今持っている技を磨いていた。そして今の実力を手に入れることができたのだ。ヤジマは自分に才能こそあるとは思っていないがこれでも努力により意外と早く身につけることができたなと思っていた。
永二「はい。もう僕にどうするかの選択肢なんてありません、力が手に入るならなんだってする。…だからどんな苦しいことだってやりますよ。」
永二は本気だった。もちろんヤジマも永二の目を見てそれはわかっていた。それと同時にヤジマはそこに例の『永二の心の中にある狂気』を感じた。
ヤジマ「お前、何を考えている?お前は『力』を手に入れたらいったい何をするつもりなんだ?それだけは聞かせてくれ。」
ヤジマは自分が感じた『狂気』に関係する質問をした。この異常なほどの永二の力への執着。いったい力を得たら何をするつもりなのか。それをヤジマは聞いておきたかった。いや、武偵として聞かなければいけないと思った。
永二「何って……大したことじゃないですよ。仲間を守るための力が欲しい。それだけです。他にもありますけどそれが大きい理由ですよ。」
永二はそう答えた。だが引っかかったのは『他にもある』と言ったことだ。ヤジマの武偵としての勘はそこに反応した。
ヤジマ「他にもあるっていうのは……なんだ?答えろ。」
ヤジマはかなり真剣な顔で聞いてくるのでちょっと怖かった。
永二「いや、そっちも本当に大したことじゃないですから。凶悪な犯罪者に勝てるくらいの力が欲しいなぁって。そう思ってるだけです。」
ヤジマは永二の目を見てその答えを聞いた。一応、嘘は言っていない。嘘は言ってないが…どこか怪しいと感じてしまう。今は仕方ないのでこれは自分の考え過ぎだろうと片づけることにした。
ヤジマ「まぁそれならいい。じゃあ、こっちも本気でいくぞ。ついてこれなければ放っておく。それでいいんだなエイジ?」
永二「はい!よろしくお願いします!」
ヤジマ「よし、よく言った!じゃあ早速、戦闘スタイルの話になるが…俺と戦ってみて疑問に思ったことはなかったか?」
ヤジマは試すように永二に聞いてきた。
永二「1つありました。拳銃を発砲するタイミングが…なんて言いますか…相手が行動する前にそれを潰すかのような感じで未来でも見てるのかって思ったくらい早かったです。」
永二は自分なりの言葉で伝えようとするがうまく言葉にならない。なぜなら永二自身、どういうことになっているのかがわからないからだ。ただ発砲スピードが『速い』のではなく相手の行動前に発砲しているため『早く』感じるのだ。そして自分はその未来視のような攻撃のせいでこっちの行動は起こす前にことごとく潰されたのだ。
ヤジマ「そうそう。お前もそこは気づいたんだな。この芸当のタネは簡単に言えば人間が発する『気』とも言うべきものを感じ取って相手の行動を先読みしてるんだ。まぁある種の未来予知って言えるのかな…?まぁそこはわからん。」
永二「『気』…ですか。」
僕はヤジマさんの言ったことがピンと来ないので頭の上に?マークを浮かべている。
ヤジマ「『気』っていうのはなぁ。わかりやすいので言えば『殺気』とかのやつな。それだけじゃなく日常にはいろんな『気』があるし人間は何か行動する時にどうしても『気』を出しちまう。例えば誰かに見られているって感じることがあるだろ?それが『気を感じる』っていうことだ。』
あ!それはある。武偵高でも視線を感じたりなどそういうことを感じることが。大抵、振り向いても誰もこっちを見ていなかったりなんだが…。それでもこれは『気を感じている』と言えるのだろうか?
ヤジマ「さっきあげた例は気を感じる力を鍛えていないやつの感じ方だ。これを鍛えればさっきの例で言うと『どこから見られているのか』『その眼差しに敵意はあるか』とかまでわかる。これを戦闘に使えるレベルまで鍛えると相手の攻撃などを相手の『行動前』に感じ取ることもできる。ある意味、未来視に近いことができるんだ。そうすれば相手の攻撃を事前に潰すことができるだろ?」
そんな仕組みだったのか…。だから僕が銃を抜こうとする前にヤジマさんは銃撃を感じていて僕よりも先に拳銃を抜ける。そして僕が拳銃を抜いて構えようとした時にはすでにヤジマさんは発砲までいっているということになるのだ。結果、僕は拳銃を構え終わる前にヤジマさんの銃弾を受けるといったことになる。これは…すごい!
ヤジマ「相手が行動を起こす前にそれを潰す銃撃。俺はこれを『未来視の銃弾』(アヴニール・バール)って呼んでる。なかなかシャレてるだろ?どうよ?」
ヤジマさんってすごいんだけどそれを自分で言うって……。なんかどこか変だよなヤジマさんって…。
永二「でも、『気を感じる』なんてどうやって鍛えるんですか?」
そもそもそれの鍛え方がわからない。感覚的なものなのではたして鍛えられるのかと疑問に思うのだが。
ヤジマ「こればっかりは実際に殺気を感じて鍛えるしかない。実戦訓練とかを重ねることで身につけることができる。身につけることができなければそれまでだ。わかったな?」
もちろんNoとは言わない。できなければダメなんだ。
永二「あと…技はどうするんですか?」
ヤジマ「ああ…そうだな。それも平行して教えといた方がいいか。まぁ、その話は後でな。とりあえず今は殺気を感じるのを鍛えろ。日常的なもんは別に感じ取れなくてもいい。でも殺気だけは戦闘に関係してくるからな。」
ヤジマ(まぁ、その殺気を完全に感じ取れるようになるのに俺は5カ月かかったけどな。それも何度も何度も凶悪な犯罪者との戦いに身を投じる中で。こんな平和で死ぬこともない実戦訓練だけじゃ身につけるのに1年はかかるんじゃねえか?こればっかりは仕方ないから何かきっかけを掴むくらいで終わってくれれば良い方か。)
永二「殺気ですか…。でも実戦訓練だけで身につくんですかね?」
ヤジマ「おっ!そこに気づいたか。たしかに相手が自分を殺そうとしてなかったら殺気はどうしても薄くなるからな。そこは勘弁してくれ。ちなみにキンイチにも教えたことがあるがあいつは実戦訓練だけで3カ月かかった。ま、そんなところだ。1ヶ月じゃさすがに無理があるだろうからこれだけは武偵庁を出た後に戦いの中で手に入れろ。」
ヤジマは笑いながら永二にそう伝えた。
永二「そうですか…。どうにか殺気に晒される方法ってないですかね…。」
なかなか物騒なことを永二は言った。日常の中に殺気なんかあるわけないので殺気に晒されるなんて難しいと永二はわかっていたがどうにかして1ヶ月で『殺気を感じる方法』を手に入れたかったのだ。
ヤジマ「まぁ、無い物をねだってもしょうがねえだろ。まずは練習だ。お前は目隠しをしろ。そんで装備も武偵高でいうC装備だ。」
そう言われて布を渡されたので永二は目隠しをする。C装備は武偵庁に同じ物があったのでそれを装備した。
ヤジマ「いいか。この練習もかなり危険で本来ならやろうとは思わなかった。けど、お前がどうしてもって言うからやることにした。もう退くことはできないぞ。」
ヤジマは念のため聞いてきた。退くなら今だと。
永二「何をするかは知りませんけどいいですよ。今ならどんな過酷なものでも構いませんから。」
永二はこう言うのでヤジマは練習内容を話すことにした。
ヤジマ「わかった。今から俺が目隠しをしたお前の周りをグルグルと回る。距離は半径10m。それで俺が好きなタイミングでお前に発砲する。お前は俺の発砲する瞬間の殺気を感じ取り射撃線から逃れてみろ。」
なるほど。たしかにかなり危険な練習方法だ。もし殺気を感じて避けることができなければ銃弾を受けることになる。C装備をするのも頷けるというものだ。
永二「わかりました。お願いします。」
僕はさっそくこの練習を始めることにした。
ヤジマ「よし。じゃあ今からスタートだ。」
その声と同時にヤジマさんはスタスタと僕の周り半径10mを歩き出す。僕は目隠しをしているので音でそれがわかる。
意識をもっと集中させる…。予想で動いたってなんの意味もない、むしろ危険だ。だから何かを感じ取って動かなきゃ練習にならないんだ。もっと、もっと意識を…集中。
そして僕の後ろ辺りで足音がピタッと止んだ。止まったのかと思えばまたスタスタと歩き出す。きっと音にもフェイントを入れてきているのだろう。その中で音に惑わされず殺気だけを感じ取って避けろというものなんだろう。
そしてそこから数秒後に―ドォンッッ!!!!
急に発砲音がした。その音とほぼ同時に僕の背中に銃弾の衝撃が襲い来る。
永二「ぐっあぁ!!!」
まったく身構えていない状態で後ろからバットで思い切り殴られたかのような衝撃。いくらC装備でも痛いものは痛い。
永二「くっ…!」
殺気なんて微塵も感じなかった。こんなに難しいとは思わなかった。
ヤジマ「どうだ?最初だから何もわからなかっただろ?これを続けると変わってくるんだが……どうだ?まだやるか?」
ヤジマさんの声音は僕を心配しているかのようなものだった。僕はやめるつもりはない。むしろここからだ。
永二「全然大丈夫です。次、お願いします。」
ヤジマ「ほう…。よし、わかった。」
ヤジマはそれならとまた永二の周りを歩き出す。
永二(何かを感じ取れるまで続けてやる。力を得られる道はこれしかないんだ。それなら喜んで進む。たとえ僕が………死んだとしても。)
永二の中で何か狂ったものが顔を覗かせた気がした。もちろん永二の心の中のことなので誰もそのことには気づかない。永二の中で何かが少しづつ狂っていく。永二自身もそれには気づかない……。それが永二が心に持つ『狂気』の一部だということに。
その日のトレーニングルームの一室は銃弾の音が鳴り続けた……。
~10日経過~ sideキンジ
キンイチ「レヴェリを使うのにも慣れてきたんじゃないか?今じゃ2分半ってところか?その調子だ。」
キンイチの目の前にはヒステリア・レヴェリを発動させたキンジがいた。
キンジ「ああ。連続でなるのはさすがに今でもキツイ。けど慣れてきた感覚はある。」
キンジがやっているのはレヴェリになりキンイチとの簡単な徒手での訓練。そしてレヴェリが切れたらまた発動。またレヴェリになれたら今度は軽い銃撃戦を。これを繰り返していた。
キンイチ「今日で十日目だ。そろそろ本格的に戦うか。」
キンイチはそう言うと目を閉じ集中した。そして少し時間が経つとHSSを発動させた。HSS・レヴェリだ。
キンジ「? いつも通りの軽いものじゃないのか?」
キンジは疑問を聞いてみた。キンジはてっきり今日も軽くやってまたレヴェリの練習だと思っていた。だがキンイチの答えは
キンイチ「全力でこいキンジ。今どれだけやれるか見てやる。俺も今出せる限りの全力を出そう。」
キンジ「!」
兄さんと本気の戦い…!いつぶりだろう。たしか台場沖で一度戦ったことがある。あの時は俺が勝った。けどあの戦いは俺が「不可視の銃弾」を攻略できるかという戦いだった。近接戦闘なども含めた本当の戦いではない。そうなると俺は兄さんに……どこまでやれるのか。
キンイチ「台場沖で戦って…あれから数カ月。どこまで成長したか俺も見ておきたい。ルールは服部とやった時のでいいな?」
キンジ「ああ構わない。俺も今、兄さんにどこまでやれるかは気になってたからな。負けても言い訳ナシだぞ。」
キンジはそんなことを言ったが正直に言うと「勝てるか負けるか」ではなく「兄さん相手に勝負になるのか」ということを思っていた。そんな風に考える時点で勝負には勝てるわけない。そんなことはキンジもわかっている。だがキンジは兄の事を尊敬している。かつてのキンジの目標はキンイチのような正義の武偵だったのだ。その目標であった存在に対して勝利のイメージが掴めずにいた。
キンジ(戦いの中でこの考え方を払拭しなきゃ勝てない。台場沖戦で『鏡撃ち』を思いついた時みたいに何か俺に勝てる要因があればそう思うことができるかもしれないが……)
お互いがトレーニングルームの中央に立ち、そして……遠山兄弟の戦いは始まった。
始まった瞬間に―
パァァンッッッ!!
という銃声がなる。その銃声はキンイチの銃―コルトSAA・ピースメーカーのものでキンイチの手元でマズルフラッシュが光った。銃が視認することができないスピード。「不可視の銃弾」だ。
やっぱりきたか!
兄さんはいきなり「不可視の銃弾」を放ってきた。これで様子を見るというものだろう。だが俺はそれが予想できていた。戦いが始まる前にベレッタを例の3点バーストに切り替えており、ヒステリアモードが見せるスーパースローの世界で俺は「不可視の銃弾」を「鏡撃ち」で対処した。これは台場沖戦の再現である。
「鏡撃ち」で返した銃弾がキンイチの拳銃に向かっていく。だがキンイチはさらにそれを予想しておりもう一発銃弾を「不可視の銃弾」の後に撃っていてキンジの「鏡撃ち」で自分に向かってきた銃弾を「銃弾撃ち」で逸らした。
キンイチ(やはりもうキンジに「不可視の銃弾」は通用しないか。それよりも銃撃戦ではキンジに追いつかれつつある…。「銃弾撃ち」を教えたのは俺だが…そこは成長したなキンジ。ならこれならどうだ?)
そうしてキンイチはキンジに接近した。キンイチの得意な近接戦闘にキンジを持ち込むつもりだ。
なるほどな。けど近接戦闘は俺も得意な方だ。それに接近してくれば俺には「桜花」がある。さすがに兄さんでも亜音速の一撃を受ければ…
キンイチが桜花の間合いに入った時、キンジは肩、肘、手首の3点連結で桜花を作る。マッハに届く亜音速の拳がキンイチの顔にカウンター気味に迫る。だがキンイチは、
キンジ「なっ!」
なんとキンジが桜花を放つ瞬間にバックステップをした。桜花は途中でキャンセルできず空を切る。亜音速の拳はキンイチに届かなかった。
そこからキンイチは伸ばし切ったキンジの腕を掴み思い切り引いた。キンジはそれで体勢を崩してしまう。そしてキンイチは手を掌底の形にして―
キンイチ「羅刹!!」
キンジの腹に向けて全体重を乗せて掌底を打った!
キンジ「うっ!」
その威力は俺の体を少し浮かすほどで血も喉からせりあがってきて口に溜まり吐いた。内臓が完全にやられたのかと思ったが…大丈夫だったか。だがそう思うほどの威力だったぞ。俺は打たれた力を利用して兄さんから離れたが羅刹のせいかフラフラとする。
キンイチ「まだ真剣さが足りてないんじゃないか?今の技はお前も知っていると思うが遠山家の奥義だ。『羅刹』―本来は敵の心臓に打ち一撃で葬り去る技。俺はこれを武偵として使うために相手の腹部に打つ技に改良した。これがどういう意味かわかるな?」
つまり兄さんの言いたいことは「お前はさっきの一撃で死んでいた」ってことだな。相手が兄さんだからと思っていた部分は否定しないがここまでエグイ技を使われるとは思っていなかった。まぁ俺もマッハで殴りつけようとしたから人のこと言えないけど。ただ1つ疑問に思ったのは…
キンジ「『羅刹』?俺は知らないぞ。俺が知ってるのは『絶―… 」
そう言いかけたところでヒステリアモードの俺の頭は気づいた。まさか、兄さんと俺の知っている奥義が違う…?たしかに父さんから教えられた技は兄さんと俺で違うことは知っていた。兄さんが攻撃寄りの技で俺が防御寄りの技。けど、奥義は一緒のものを習得しているのかと思っていた。父さんからそのことを伏せられていたのだ。つまり、そこから導き出される答えは―
キンジ(兄さんは「絶牢」を知らないのか!?)
見えたぞ…勝機が。勝つイメージができたぞ。いくら兄さんでも「絶牢」を初見でどうにかするのは無理だろう。それにこの技は知っててもどうにかするのは難しい。兄さんはこの後も近接戦闘をしかけてくるだろう。その中のどこかでタイミングを見計らい、兄さんの一撃にさらに俺の桜花を乗せて返してやる!
キンイチ「………。」
キンジは勝つイメージができたこともあり自分からキンイチに向かう。バタフライナイフを使おうかと思ったがそうするとキンイチは「サソリの尾」を使うと思ったのでやめておいた。刀剣を相手に「絶牢」は使えないのだ。徒手の戦いに持ち込むしかない。
キンジはキンイチに下半身で作った桜花で接近する。しかし、キンイチはキンジから離れるように移動する。
キンジ(警戒されている…?)
兄さんの動きが急に変わった。さっきまで俺に近接戦闘をしかけてきたのに今は俺から距離をとろうとしている。けど兄さんは絶牢を知らないはずだ。カウンターを狙っているのをバレたわけではないはず。構わず俺から接近するぞ。さすがの兄さんでも俺の桜花を使っての接近にはいつまでも逃れられないだろう。
そうしてキンジが追い、キンイチが何かを考えながら逃げる。という行動が何回か繰り返された。その中でキンイチは逃げながら「不可視の銃弾」を撃っていたがキンジは追いながら「銃弾撃ち」や「弾丸逸らし」を使ってしのいだ。そしてとうとうキンジはキンイチに攻撃をしかけるところまできた!
よし…!このまま俺が桜花でしかけて絶牢で決めてやる。
そう考えキンイチにさっきと同じ肩、肘、手首で桜花を作りキンイチに亜音速の右拳を放つ。キンイチはそれを頬をかすめながらもすんでのところで避け、キンジに右の掌底を左肩めがけて打ってきた。きっとそれでキンジを離し距離をとるつもりなのだろう。だがそれはキンジにとって待っていたとも言うべき一撃。
きた!これを兄さんに返す!!
キンジは即座に重心を中心に置き、その一撃が左肩に当たった瞬間、その撃力を左肩から右腕に流す。そうして流れてきた撃力と同時に今度は肘・手首・指で亜音速を作る。これが絶牢と桜花の合わせ返し。まとめて受けろ兄さん!
俺のその拳は兄さんの顔面に向かう。そして兄さんに当たった!というところで俺は異変に気付いた。
キンジ(兄さんの重心が……中心にある!これはまさか……絶牢!?)
キンジはキンイチの行動の意味に気づくも一瞬遅かった…。キンイチは上半身と下半身の絶牢を使い顔を後ろに引きながら受けた桜花の撃力をそのまま自分の下半身―右脚に流しそのまま…
ヒュッッ!ズドンッッッッッッ!!!!
バク転するような形で回転しながらそのまま右脚でキンジの体を思い切り蹴りつける!桜花の撃力を持った右脚で体を蹴り飛ばされたキンジは何mも吹っ飛ばされ、地面に着いた後もゴロゴロと転がりトレーニングルームの壁に当たりなんとか止まったところでぐったりと倒れる。
キンジ「うっ……ゴホッ!くそっ…、」
桜花の撃力を真正面から受け、たまらず血を吐いて倒れたまま動けない。そしてそのまま3秒が経過した。
キンジ「勝て…なかった。はぁ…はぁ…絶牢が…バレてたのか?」
兄さんが使った技は間違いなく絶牢だった。兄さんは知らないんじゃなかったのか?いったいどうなってる。
キンイチ「なるほどな。今のがお前が習得した奥義か。お前は疑問に思っているかもしれないが…俺はちゃんと初見だったぞ。」
兄さんは俺に向かってそう言ってきた。とりあえず俺はなんとか立って兄さんに疑問をぶつける。
キンジ「初見だった?ならなぜあんなにうまく対応できたんだ。しかも俺の絶牢に絶牢で返すようなことまで…!」
絶牢返しなんて俺もまだしたことはない。もしかしたらぶっつけ本番で兄さんの絶牢も返せたかもしれないが「兄さんは『絶牢』を知らない」という情報が油断をまねいた。おかげで俺も咄嗟に行動することができなかった。橘花を使えず桜花をそのまま受けてここまでひどくやられたわけだが。
キンイチ「キンジ、お前は本当に成長した。レガルメンテを覚醒させジーサードまで凌ぎ、銃撃戦ではもはや俺と同レベルと言ってもいいほどだ。だがハッキリ言ってやる。お前は戦いというものがまったくわかっていない。」
兄さんは厳しい言葉を俺にかけてくる。俺は精一杯やったし、兄さんをあと一歩というところまで追い詰めたと思ったんだが…何がいけなかったっていうんだ。
キンイチ「初見なのになぜ対応できただと?そんなのは戦いの中で当たり前に求められる力だ。相手の技を知らないということなど当然。それを踏まえて行動し、一瞬の攻防でそれを攻略する。チャンスは一度。失敗は下手をすれば死に直結する。」
兄さんの言葉に俺は何も返せない。いつもの戦いなら俺もそう思っていたのかもしれない。けど兄さんとの戦いではまさにそれができていなかった。俺は甘すぎたんだ。楽観論に楽観論を重ねて戦っていた。そんな状態で戦っていて勝てるわけない。
キンイチ「『羅刹』を初見のように反応したお前を見て俺は『キンジが知っている奥義は別のものかもしれない』という可能性に気付いた。そこで俺は逃げながらお前がどんな奥義を父さんから受け継いだかを推理していたんだ。条理予知でな。」
条理予知。そうだ、兄さんにはそれがあった。シャーロックみたいに完全なものじゃないみたいだがそれでも卓越した推理力には変わりはない。シャーロック戦の時だって俺の桜花は初見なのに防がれた。でもあの時の俺はそこから次の行動に移すことができた。そしてシャーロックに勝つことができたんだ。なのに俺は今回それができなかった。兄さんを舐めていたわけじゃない。ただ俺が「勝ち急いだ」。その1つだけの判断ミスで俺は……負けた。
キンイチ「お前が学ぶことはまだまだある。俺がそれを残りの期間で徹底的に叩き込む。今回の戦いはそれをお前に教えてやるつもりで行った。」
キンジ「ああ。俺は本当に…まだまだだ。今回でそれを痛感したよ。正直に言うと兄さんにはやっぱりまだ敵わないな。」
キンジの言葉はまるで「やっぱり俺の目標の武偵だ」と尊敬をあらためるようだった。
キンイチ「………やめろ。そんな風に言われると気恥ずかしい。それにお前の資質は俺以上だ。お前はいつか俺を超えるほど強くなれる。」
キンジ「俺がか?全然想像つかないなぁ。」
やはりキンイチはまだまだ自分の憧れでもあるためキンジにそんな自分の姿は想像できなかった。今でもここまで力の差があるのだから。
キンイチ「そうか?俺はお前の資質には気づいていたがな。」
キンジ「本当か?そんなこと言いながら過去、一度も組んでくれなかったくせに。」
チームを組むというものは自分と力が似ているもので組むものだ。シャーロック戦の時以外、過去に一度も組んでくれなかったため自分はまだ仲間としてはお荷物程度にしか思われていないと思っていた。
キンイチ「あの頃のお前は今よりも未熟だったからな。俺はそこまで甘くないぞ」
キンジ「あの頃は兄さんに聞いても連れて行ってくれなかったからたまにカナになった時を狙って聞いたこともあったなぁ。」
俺は懐かしいことを思い出すように兄さんにそんな話をした。
キンイチ「それは俺も知ってる。……って、カナの話をここで出すな…!!」
兄さんは戦いが終わったばかりなのに拳銃を抜こうとした。もう俺はボロボロなので今発砲されたら逃げられる自信はない。ここは大人しく黙っておく。
それよりも…久しぶりに兄さんとこんなに話したな……。
キンジはそんなことを思いながら、怒るキンイチを……少しだけ苦笑いで見ていた。
そこから少しだけキンイチとまた話をした。もう死んで戻ってこないと思っていた兄との時間を取り戻すように…。
~15日経過、夜~ side永二
永二「う~ん。少しは殺気がわかるようになってきたけど…もうあと一押し。何かきっかけが欲しいってところだな…」
永二はあれからヤジマとの特訓で少しだけ効果が現れ始めた。ヤジマの撃つ銃弾の3分の1くらいは殺気を感じ取れて避けられるようになっていたのだ。この吸収力、成長スピードにはヤジマも驚いていた。だが永二からすればそろそろ完全に身につけておいて「技」の方の練習を充実させておきたいところだった。
今はヤジマとの特訓が終わり、夕食を済ませて夜、トレーニングルームに1人こもって練習しているところだった。大体の武偵はもう帰っていてキンジも今は練習を切り上げていた。かといって1人ではできることが限られる。ヤジマとやっている練習も2人でやるもののため自分1人ではできない。う~んと困っていた永二のところに、
服部「あれ?エイジくんまだやってたんすか?あんまり遅くまでやると体に悪いっすよ?少しは休まないと。」
服部が現れた。永二は少し驚いた。もう帰っていたと思っていたためキンジが来ることは予想していたが服部が来ることは予想していなかったからだ。
永二「服部さんはまだ帰らないんですか?」
永二は服部がまだいたことに疑問を感じたためそう質問した。
服部「エイジくんたちは知らないと思うっすけどねぇ…ヤジマさんとキンイチ先輩と俺の交代で武偵庁に泊まって君たちの管理をしているんすよ。武偵庁には大事な書類がたくさんあるんすから2人だけで泊まらせるわけにはいかないっすからね。まぁ見張りみたいなもんすよ。」
見張りと言われても自分とキンジさんは書類を盗むようなことしないと言いたかったが、向こうがそれを心配する気持ちもわかる。武偵高の人間なのに入らせてもらって泊まらせてももらえているのだから文句など言えない。食事に関しては自分たちで何とかしなければいけないのだが…。
余談だが永二はお金を実は武偵高から月ごとに少しばかり貰っているのである。記憶もなく、どこから来ているのかもわからないということで武偵高が保護という形をとっているため金銭面も少し助けてくれているのだ。永二はそこから毎日考えて使っている。戦闘に使う物もそこから出しているのだ。
永二「それはそれは…迷惑かけちゃってますね。」
服部「別にいいっすよ。それにちょっとくらいなら練習に付き合ってもいいっすよ?なんか俺に出来ることがあるならっすけど。」
申し訳なさそうに言う永二に対して服部は気にしてないという感じで返したのだが永二は今の服部の言葉に反応した。
永二「練習…付き合ってくれるんですか?」
服部「え?ああ、うん。なんか手伝えることがあるなら。」
服部は変わらずOKの意を永二に伝える。
永二(………あ、いいこと思いついた。)
永二はヤジマとやっていた練習を服部に手伝ってもらおうかと思った。ただ永二はその練習をさらに工夫したある方法を思いついたのだ。
永二「じゃあ服部さん。これはヤジマさんとやっている練習なんですけどね…」
と、服部にヤジマとやっている練習内容を伝える。
服部「へぇ~、ってそんな危ない練習やってるんすね。大丈夫すか?」
服部はヤジマの考えた練習の過酷さに驚き少し永二を心配する。
永二「全然大丈夫ですよ。むしろもっと過酷なのを今考えましたから。それを服部さんに手伝ってもらっていいですか?」
永二は笑顔でそう服部に聞く。
服部「もっと過酷なのっすか?は、ははは。まぁいいっすけど俺にも手伝えることっすかね?」
ちょっと服部は苦笑いで永二に承諾を合わせた質問で返した。その服部に…
永二「大丈夫ですよ……。すごく…すごく簡単なことですから…。」
永二は笑顔でそう言った。その笑顔はどこか……例の『狂気』が混じっているかのような怪しい色を含んでいた…。
この時、服部はまだ気づいていなかった。永二の考えた練習内容があまりにも過酷で……狂った内容だったことを…。