今日はとうとう静刃君とアリスベルさんの武偵高研修最終日。どことなく僕たちの間では寂しい空気が流れる。そしてその日はあっという間に放課後になった。惜しむときほど早く感じるというやつだ。
キンジ「とうとう…この時が来たか。」
理子「せー君みたいにゲームしてくれる友達が減るのは理子りん悲しい。」
永二「なんだか少し寂しくなりますね。」
僕たちは思い思いの言葉を静刃君にかける。
静刃「ありがとうな。ここでの日々は最高に楽しかった。」
静刃君も悲しそうだ。でも、出会いがあれば別れも来る。もう会えなくなるわけじゃないんだ。だから僕たちは決して涙は見せない。
アリア「アリスベル、あんたも元気でね。」
白雪「また武偵高に来てね。」
レキ「………。」
アリスベルさん側にはアリアさんだけでなく別のクラスの…バスカービルのメンバーの人かな?たしか…星伽さんとレキさんが来ていた。レキさんは無言だったけど。
アリスベル「はい、ありがとうございます。アリア、あなたは私の親友です。」
アリア「し、親友…?あ、あ、あたしが?」
アリアさんは真っ赤な顔でアワアワと口を動かしていた。
アリスベル「ダメでした…?」
アリア「いや!そんなことない!そ、その…あ、あたし親友とか初めてだったから!」
アリアさんはすごく嬉しそうだ。良かったなぁ…こういうのを見ると微笑ましいな。
アリア「ちょっとエイジ!何、ニヤニヤしてんのよ!」
あ、やべ!顔に出ていたか。
永二「に、ニヤニヤしてたのはアリアさんじゃないですか~!」
アリア「そ、そそ、そんな顔してないわよ!風穴!風穴!」
そう言ってアリアさんはガバメントを発砲しながらプンプンと怒っていた。でも…やっぱりどこか顔に嬉しさが見えていた。
すごく物騒…だけど、これが僕たちの日常だ。みんなも見慣れた光景なのか僕たちを見て笑っている。あんまり笑わないキンジさんも苦笑いだけど笑っていた。本当に僕たちは良い仲間だ。こう思っているのは僕だけじゃないはずだ。
静刃「まぁ、なんだ。こんなことしか言えないけど…ありがとうな。」
アリスベル「そうですね。皆さん、ありがとうございます。」
泣かないって決めたけどこれには心にくるものがある。ちょっとウルッときてしまった。
理子「そうだ!今日の夜、みんなでお別れ会しよーよ!キー君の家で!」
キンジ「だからなんでいっつも俺んとこで…。まぁ、いいか。今日くらい。ちょうど玉藻やジャンヌも来ると思うぞ。」
静刃「へぇ…ジャンヌは知っているが…玉藻っていう人は知らないなぁ…」
と、どこか探る感じでキンジさんに聞いてきた。
キンジ「あ、そうか。まぁ知らないのも無理はないか。えっと…なんていうか子供みたいな姿してるやつなんだが…う~ん、それ以上なんて言えばいいのか…」
キンジさんはどこか説明に困ってるようだった。そういえば僕も知らないな。このお別れ会で知り合いになれるといいんだけど。それを聞いた静刃君は…
静刃「いや…大丈夫だ。それだけ聞ければ…。な、アリスベル。」
アリスベル「………はい。」
アリスベルさんに確認をとるように言った。すごいな…さっきの言葉だけで大丈夫だなんて。子供みたいな姿って言われたら僕、あかりちゃんやアリアさんしか思い浮かばないよ。こんなことアリアさんに言ったら絶対撃たれるし、あかりちゃんに言ったら…ショック受けるかな?なんにしてもこういうことは心の中だけだ。まぁ、僕の場合は良く顔に出るらしいからダメなんだけど。
理子「じゃあ、みんな8時にキー君の家に集合ね~。」
そう言って僕たちは別れた。なぜ8時という少し遅い時間なのかというと、これは後から静刃君たちに内緒で理子さんから伝えられたんだけど、1人1人プレゼントを買おうという企画があったからだ。う~ん、僕は何を買おうかな?
と、浮かれていたけど僕はその前にやることがあるのだ。それは…
永二「あの…聞きたいことがあるんですが。」
綴「あぁ?」
僕は今、武偵高の教務科にいる。そして綴に会いに来たのだがもちろん用があって来た。
永二「『二重人格』ってどんな感じなんですかね?」
僕が聞きたいことは『永人』…僕のこの体にあった元の人格にかかわることだ。正直、わからないことが多すぎる。まだ『心の部屋』だの信じられるわけないし。あれは夢だったんじゃないかと考えてる僕もいる。でも、永人が言っていたことはちゃんと筋が通っていたようにも思える。そんなことからもう色々とわからなくなったから、こんな時こそ教師の手を借りようと思ったわけだ。今は『二重人格』についての情報ならなんでも欲しい。
綴「そんなの知るわけねえだろ。そういうのは救護科とかSSRとかの範囲に入るんじゃねえか?なんでも知ってるわけじゃねえんだから一々聞いてくるな。」
綴は心底面倒くさそうに言ってきた。はいはいそうですか。でも、じゃあ誰に聞こうか。救護科に知り合いなんていないし。SSRなんか近づいたことすらない。なんか星伽さんがSSRらしいけど…最初聞いた時はすっごいビックリした。ああいう人こそ救護科っぽいんだけどなぁ。
永二「誰に聞けばいいですかね?僕も武偵高に入ってまだ浅いんでそういうことを誰に聞けばいいのかわからないんですよね。」
僕のこの言葉を聞いた瞬間、綴がまた面倒くさそうな顔をした。あなたどんだけ面倒くさがりなんですか…。まぁ、ここは武偵高だ。生徒が変わっていれば教師も変わっているというものか。
綴「ちっ!今回だけだからな。こっちで1人用意してやるよ。だからそいつのとこには直に会いに行ってこい。まったく…こっちだって忙しいのに。それにお前、強襲科だったっけ?どうせ蘭豹や神崎あたりから言われてるんじゃないのか?『自立しろ』って。」
永二「うっ…。はい、言われてます。」
僕は痛いとこを突かれた感じになる。たしかに僕は人に頼り過ぎなのかもしれない。はぁ…本当に僕なんかが自立できるものなのかな?まだ自分の事でも困ってるようなやつなのに。
綴「そいつは今、SSRにいる。名前は時任ジュリア。3年生で卒業後はモスクワ大学の超心理学科に推薦入学が決まってるやつだ。きっとお前の助けになるだろ。」
ああ…SSR。あそこに行かなきゃならないのか…。正直に言っていいですか?メチャクチャ嫌です!だって、1回専門科を回ったことあるけどあそこは入った瞬間、別世界って感じがした。みんな魔法陣(?)みたいなものの中でブツブツと何かを言ったりしていたし。人によっては『ギャアアアアアア!』とか言って地面をのたうち回っていた人もいた。周りの人はまったくそれを気にしてなくて、それを見ている人でも『あ、あいつ失敗して呪われたな』的な目で見ている。もう何が何だか。武偵高でも普通の人からしたら別世界だろうにその中でもさらに別の世界があるんだ。もう『異常』の一言につきる。
永二「え?でも心理学って二重人格と関係あるんですかね?」
綴「まぁ、そこは行ってみたらわかる。おら、早く行け。」
もうこれ以上時間をとったら綴もキレそうだったのでここで退散しよう。
永二「ああ…とうとう着いちゃったか~。あ~、今から帰っちゃってもいいかなぁ?」
もうすでに入口の時点で『帰りたい』という気持ちがこみ上げてくる僕。いやぁ、誰か助けてください。
だが、そうやって入口付近で溜息をついていると僕でも知っている人がやってきた。
白雪「あれ?たしか…エイジ君…だよね?」
永二「あ…星伽さん。」
まぁ、星伽さんはSSRに入ってるからもしかしたら会うかな…と思っていたけどね。僕たちはクラスが違うからあんまり会わないんだけど、アリアさんからバスカービルメンバーの話はよく聞かせてもらったから星伽さんのことは知っている。星伽さんの方も僕の事はアリアさんから聞いてるらしいし。それに今日も会ったしね。それにしても…星伽さんもやっぱり僕が見た光景のようなことをするんだろうか?魔法陣(?)の中でブツブツ言ったり、地面をのたうち回ったりするんだろうか?星伽さんがそんなことしてたらもう僕は人を信じられなくなるかもしれない。
白雪「えっと…エイジ君?何かここに用があった?」
おっと!いけないいけない。いろんなことを考えすぎて固まっちゃってたか。
永二「はい。時任先輩に用があって来たんですけど…」
白雪「へぇ~珍しいね。中々、先輩に会いたいって人はいないからビックリしたよ。」
永二「そうなんですか?」
なんか綴も隠してるみたいだけど時任先輩ってなんかあるのかな?相当な変人なのか?会って開幕、地面をのたうち回ってたりするのか?ってもうこのネタはいいか。
白雪「先輩はここにいると思うよ。じゃあ、またね。」
星伽さんはSSRの入ってすぐの所にあった館内図のようなもので教えてくれた。
永二「はい。ありがとうございます。じゃあまた静刃君たちのお別れ会で。」
僕たちは手を振って別れた。星伽さん、美しい人だな。そういえばキンジさんの幼馴染って聞いたけど、あんな人が幼馴染っていいなぁ。キンジさんが羨ましい。
って、星伽さんのことは置いといて!まずは時任先輩に会わなきゃ。たしか…ここか。
また魔法陣みたいなものの中で叫んでいるSSR生徒の横を通り過ぎゲンナリしながら星伽さんに教えてもらった部屋に着いた。う~ん、普通にノックして入っていいのかな?
永二「あ、あの!綴先生から聞いてると思うんですけど、『七子永二』です。ちょっと聞きたいことがあって来ました。」
僕はドアをノックしてとりあえず名乗った。
ジュリア「ああ、聞いている。入っていい。」
お許しが出たので入ってみると…そこまで変わった人ではなかった。そこに驚いた。いや、SSRが全員おかしいとかは思ってないけど。なんか普通に綺麗な人だなぁという感想しか出なかった。
ジュリア「私に用っていうのは?」
永二「あ、はい。あの…先輩に『二重人格』のことについて聞きたいと思いまして。綴先生が時任先輩を指名してましたので。」
ジュリア「なるほど、それでか。にしても私のところに来るとはよっぽど切羽詰まっているのか?」
うん?どういうことだ?
永二「あの…それはどういう意味で?」
きっと綴が隠してることなんだろうけど思い切って聞いてしまうことにした。
ジュリア「私の『超能力』は『脳波計(スキャンメトリー)』と言ってね。接触した人間の脳波から思考を読み取ることが出来るって能力。普通ならこういう能力を持っているやつのところになんか来ないと思うけど。」
す、すごいな。超能力ってそんなものまであるのか…。綴もそんなこと隠してたのかよ。
永二「でも、失礼ですがその能力のことを聞いても二重人格が関係するとは思えないんですが…どうして先輩は先生が指名するほど詳しいんですか?」
疑問に思ったことを素直に聞いてみたが、時任先輩は少し言いづらそうに言った。
ジュリア「まぁ、そう思うか。この能力には実は弱点…というか欠陥があってね。どうやら二重人格の人に触れても思考は読み取れないんだ。どうやら二重人格の人間は普通の人間の脳波とは少し違うみたいでね。それで私はそのことについて研究するうちに詳しくなったって感じだ。」
なるほど。そうなると筋は通るな。ってことは時任先輩は僕に触れても…
永二「あの…先輩、僕に触れてもらっていいですか?」
ジュリア「君…本気か?今までそんなやついなかったが…。もしかして君は…」
僕はあの時あったことが夢ではないかと思っているんだがこれではっきりしたい。自分のことは何にもわからない僕だけどせめて自分が今置かれている状況くらいは把握しておきたい。
そして時任先輩は僕に触れた。
ジュリア「これは驚いた…たしかに君から思考をまったく読み取れない。」
つまり、僕が見たあの光景や永人は僕の中に本当にいるってことか。
永二「僕は記憶喪失でいろいろと事情があって僕の中に『過去の僕』の人格もあるみたいで。もしかしたら今の僕の人格はいつか消えてしまうかもしれないんです。」
ジュリア「それは穏やかではないな。ふむ…そうだな。では、二重人格がどうというよりも君には対抗策でも教えておくか。」
永二「え?対抗策?そ、そんなものがあるんですか!?」
時任先輩の意外な言葉に僕は驚く。
ジュリア「別に対抗策というほどのものじゃないが、私も君のようなケースは何人か見たことがあるからね。簡単な話だ。そのもう1人の人格が話してくることに耳を貸さなければいいんだ。そうすれば君は絶対に消えない。」
耳を貸さなければいい…か。そうすれば僕は消えなくて済む。けど、本当に僕は彼の言葉を無視できるのだろうか?僕には力が無い。アリアさんの「いつかL―ブレイカーを使う時が来る」という言葉の通り、僕はいつかは彼と向き合わなければいけないのかもしれない。今の僕は…ただ逃げているだけなのかもしれない。
ジュリア「あまり思い詰めるな。悩めば悩むほどもう1つの人格は君に囁いてくる。…おっと、すまない。この後は少し用事があるから私は出させてもらう。詳しい話が出来なくて悪い。君の役に立てたならいいんだが…」
永二「あ、大丈夫です。その…ありがとうございます。」
そうして僕もSSRから出た。先輩が多忙で詳しい話は聞けなかったけど自分の状況がわかっただけでも収穫だ。思い悩んでいても仕方ないから僕はまず今日ある静刃君たちのお別れ会で渡すプレゼントでも買いに行くことにした。
~男子寮のキンジ家で~
玉藻「おう遠山の。くつろがせてもらっとるぞ。」
キンジ「なんでもうすでに俺の家の中にいるんだよ…」
家に帰るなり、玉藻が寝っ転がっていた。お前、どうやって入ったんだよ。まぁ、ここの鍵は俺の把握を超えてるくらいの人数が持ってるからなぁ。ほんとこれどうにかなりませんかね?
キンジ「あ、おい玉藻。今日はここでパーティを開くことになってるからパーティ中は師団やら眷属やら物騒な話は出すなよ。」
玉藻「なんじゃ、ここには眷属の傭兵の話をすると思うて来たんじゃがの。遠山、お主今日に傭兵の顔写真がここの『ぱそこん』に『めーる』で届くことを忘れておるのか?」
玉藻はあまり機械やらは知らないのかパソコンやメールの言い方が変だったが…。そういえばジャンヌが言ってたなぁ。はぁ、やだやだ。なんでパーティやる日に俺のパソコンに傭兵の顔写真なんか届くのか。せめて俺のところになんか送るなよな。
キンジ「ああもう、わかったわかった。その傭兵の話はまた今度でいいだろ?今日は写真を見るだけで話はまた今度。とりあえずパーティ中に眷属の傭兵のことなんか考えたくない。」
玉藻「そんな考えではいつか痛い目を見ると思うのじゃが…まぁ今日はかまわん。存分に友好を深めよ。戦士にも休みは必要じゃ。」
玉藻はたまには話がわかるな。これがブラック企業ならぬ、ブラック武偵アリアだったら『あんたもう十分休んだでしょ!敵は待ってくれないのよ!』とか言いそうで嫌だ。
そんなことを考えていると…
ピンポーン!
インターホンが鳴った。…この鳴らし方はアリアでも白雪でもない。あの2人はあまりにも特徴がありすぎて1発でわかるんだが…誰だ?そこでドアを開けてみると…
静刃「ようキンジ。ちょっと早めに来たぜ。」
アリスベル「お、おじゃまします。」
静刃とアリスベルだった。早いというか早すぎるな。30分も前に来ている。2人とも楽しみにしてくれていたのか?それなら嬉しいんだが。
静刃「…キンジ、そこにいるのが玉藻か?」
静刃が部屋に入り玉藻を見つけるなり俺に聞いてきた。
キンジ「ああ、そうなんだが…驚かないんだな。」
静刃もアリスベルはまったく驚いている様子はなかった。思いっきり尻尾やら獣の耳やら生えているのに。こんなん見たら普通、今見ているのが夢かどうか疑うようなものだと思うんだが。
静刃「あ~そうだな…ま、可愛くていいんじゃないか?なぁ、アリスベル。」
アリスベル「そうですね静刃君。」
2人は苦笑いしながらそう言った。え?なに?静刃、これを可愛いってマジか。お前は知らないかもしれないがこいつは人に賽銭ねだるようなやつなんだぞ。しかも全然、ご加護無いし。
玉藻「これは見たことない顔じゃのう。ほれ、お主らも納めるのじゃ。」
そう言い、玉藻は静刃たちに持っていた賽銭箱を向けた。こいつさっそくやりやがった。
静刃「ははっ!じゃあ、ありがたく納めさせてもらうぜ。」
静刃とアリスベルは賽銭箱にお金を入れていた。あ~あ、やっちゃったよ。これでお前たちもこの疫病神の加護を貰ったってことだ。本当に良いことないぞ?
静刃「それにしてもやはり早く来すぎたな。キンジ、そこらへんを散歩でもしないか?」
静刃がそう提案してきた。まぁ、断る理由もないし散歩は嫌いではない。ただ皆を待っているよりはいいだろう。
キンジ「いいぞ。じゃあアリスベル、玉藻と一緒に留守番していてくれないか?おい玉藻、迷惑かけるなよ。」
玉藻「お主は儂をなんだと思っておるのじゃ…。まったく今代の遠山は失礼じゃの。」
失礼で悪かったな。そういうのは兄さんに全部持ってかれてるだろうから俺に期待はするな。
そして俺と静刃は家を出た。
~女子寮アリアの部屋~
アリア「ふう…プレゼントはこれでいいかしら?」
アリスベルのためにイチゴ大福5個とももまん5個を用意した。それでプレゼント用の包みに入れてもらってプレゼントの完成だ。かなりシンプルなプレゼントでしかもプレゼントの用の包みが透明だったため中身が丸見えでサプライズ要素が皆無だがきっとアリスベルなら喜んでくれると思う。
しかし、やはり不安もある。アリアは今まで友達に贈り物などしたことも無かったのでどんなものを送っていいのかわからないのだ。しかもアリスベルは自分のことを親友だと言ってくれた。それが嬉しくてプレゼントは良い物にしようと思ったのだがこれ以外思い浮かばなかったのだ。
アリア「イチゴ大福は好きだって言ってたし、ももまんは前に食べた時『おいしい』って言ってくれたからこれで良いわよね?あかりか理子あたりに聞いてみるべきだったわね…」
普通は食べ物は送らないと思うのだが、そこはやはりわからないアリアだった。
アリア「今更悩んでも仕方ないわ。きっと喜んでくれる!そうだ、早めにキンジのとこに行こうかしら。せめて早めに行ってサプライズみたいにしたいし。」
アリアはそう決めて、ワクワクしながら男子寮のキンジの家に向かうのであった。
アリスベル「あの…玉藻。私は少し面白い芸を見せられるのですが見てみませんか?」
キンジのパソコンの前でメールを今か今かと待っている玉藻にアリスベルは急に話しかけた。
玉藻「なんじゃ急に。そうじゃの…やることもないからのう。見せてみい。」
アリスベル「ありがとうございます。」
そう言ってアリスベルは立ち上がりスカートを少し翻した。その瞬間、スカートの中に仕込んであったと思われるいくつもの刃物のような物が組みあがっていき、フラフープの形になりアリスベルの手に収まった。そしてアリスベルが少し集中すると…小さな光の玉がそのフラフープのような物の上を走り出した。
玉藻「ほう…お主、異能であったか。それにしても…なんじゃこの式は?見たことない式じゃのう。」
アリスベル「どうですか?」
玉藻「うむ…用途はようわからんがキレイじゃのう。中々面白い式じゃ。」
玉藻は不思議な物でも見るかのようにそう答えた。その時に、
ピコーンとパソコンから音が鳴った。メールが来た音だ。送り主は不明になっていたが間違いない、眷属の傭兵の顔写真を送ると言っていた『リバティー・メイソン』からのものだろう。
玉藻「おっと、悪いの。『めーる』が来たようじゃ。えっと…これはどうやって開くのじゃ?えーっと…」
アリスベル「大事なメールなんですか?」
玉藻があまりに重要な案件のようにパソコンに食いついたのでアリスベルはそう聞いた。
玉藻「うむ。詳しくは言えんが…我らのとある敵の傭兵の顔写真が届いての。」
アリスベル「そうですか………。」
アリスベルはどこかやはりと言った感じの声だった。
玉藻「えーっとこれかの?う~む。これか?おっ!これのようじゃ!どれどれ…………なに!?これは……お主、まさか―」
玉藻はメールの内容と添付されていた顔写真を見るなりアリスベルの方を振り向いた。だがその瞬間、
アリスベル「荷電粒子砲(メビウス)」
そう1言だけ言い放ち、さっきまでフラフープのようなもの―魔法陣環剱(サークルエッジ)の上で回していた光の玉を玉藻に向かって撃った!なんとその光の玉はさきほど見た時はごく小さなものだったが今向かってきたものはバレーボールほどの大きさになっていた。
バリバリバリバリバリバリィィィィ!!
玉藻「あ…あ…お、お主は…『魔剱(まけん)』か…!!」
玉藻は衣服などが全て剥かれた姿となり床に倒れ、力なくアリスベルに言った。
アリスベル「一応、そう呼ばれています。申し訳ありませんがこれも上からの命令ですので。本当に申し訳ありません。」
アリスベルの顔は演技などではなく本当に心から苦しそうだった。だがその時、アリスベルの背後、部屋のドアのところからドサッ!と何かを落としたような音が聞こえた。アリスベルは何かと思い振り向き、落としたものを見た。それは透明なプレゼント用の包みに入れられたイチゴ大福と……アリアが大好きな『ももまん』だった。
それを見た時、アリスベルの顔はこれ以上ないほど真っ青になっていた。まるで…絶対に見られたくない人に今の光景を見られたかのように。
アリア「あ、アリスベル…なんで…。どういうことよこれ…。なんで玉藻に…そんな…」
アリアは今見たものが信じられないといった気持ちだった。アリアはいつも通りにキンジの家に鍵を使って入った。そこでアリスベルの靴があったのを発見してサプライズのつもりで音をたてないように入ってきたのだ。だが、目に広がった光景はあまりにも耐えがたいものだった。
アリスベル「アリア…これは…」
アリスベルは何も言うことができなくなっていた。弁明することなど何もない。誤解ではない。だからこそアリスベルはアリアに見られた今の状況が絶対に来てほしくなかったのだ。アリアが…親友と呼べるほどの友達にまでなっていたから…。
玉藻「アリア!その者は眷属の傭兵…『魔剱』じゃ!こやつの謎の式の攻撃で儂の式力が全部無くなった。『鬼払結界』も無くなってしもうた!このままでは…マズイ!」
玉藻がアリアにそう叫んだ。アリアはそれを聞き、さらに絶望を感じた。あの親友とまで言ってくれたアリスベルが自分の師団の敵である眷属の傭兵であるなんて…。
そしてアリアはあまりのことに受け止めきれずその場で足が崩れた。そして呆然となりアリスベルにもなんと言えばいいのかわからなかった。その目には涙さえも流れていた。
アリスベル「アリア…すみません。短い間でしたが今まで、本当にありがとうございました。」
アリスベルはアリアの涙を見て、耐えられなくなりアリアの横を通り家を出ていった。アリアはそんな簡単に泣いたりするような人でないのはアリスベルもわかっている。だからこそ、悲しかった。自分がそのアリアを泣かせてしまったことに。
アリアは横を通るアリスベルを止めなかった。いや、あまりの絶望に止められなかったのだ。ただ、自分の持ってきたプレゼントに涙を落としていた。
玉藻「アリア!何をしておる!早く魔剱を追うんじゃ!」
アリア「アリスベル…なんで…」
アリアにそう叫ぶ玉藻だったがアリアには声が届いていないようだった。
玉藻「アリア…!よく聞くのじゃ、このままでは遠山が危ない。遠山は今、眷属の傭兵、魔剱の片割れである『妖刕(ようとう)』原田静刃と出かけておる!早く、遠山のところに向かうのじゃ!」
ずっと俯いて泣いていたアリアだったが玉藻のこの言葉に顔を上げた。
アリア「キンジが…?それに…『原田静刃』って…」
やはり自分の直感通り静刃は普通ではなかった。だが今回ばかりは外れてほしかったことだ。落ち込む暇はない。今も悲しい気持ちに変わりはないがこのままではキンジが…!
アリア「わかったわ!今からキンジを探す!」
そう言ってアリアはキンジの家を飛び出した。キンジに電話をかけたがつながらなかった。きっと家の中に置いていると思われる。
キンジ、お願い!無事でいて…!!
~永二side~
あれ?今からキンジさんの家に行こうと思ってたんだけど家とは真逆の方向に歩いているキンジさんと静刃君を見つけた。どうしたんだろ?もうそろそろパーティが始まる時間なのに…。
永二「そうだ。2人を尾行してみようかな。武偵として尾行の1つはできるようにならないと。前は隠れてもキンゾーさんやかなめちゃんにすぐバレてたし。ここで驚かせてキンジさんに成長を見てもらうか!静刃君もビックリするだろうなぁ。」
そう思い、キンジさんたちから十分すぎる距離をとり(念のため)、2人の尾行を始めた。この時、僕はすごく呑気なことを考えて尾行をしていたんだが………これが僕の戦いの始まりを告げる号砲を聞いてしまう…最悪の入り口だった…。
~Go For The Next!!!~ 善と悪で断たれる者たち
キンジ「なあ静刃。もうそろそろ戻ろうぜ。パーティの時間が来るぞ。俺、ケータイ持ってきてないから誰にも連絡をとれないんだ。だから…」
キンジは散歩を切り上げようと提案した。もうかれこれ、20分は歩いている。今から戻るには走らないとパーティには間に合わない。だが静刃は何も答えなかった。
静刃「なぁキンジ。お前は俺と一緒にいて楽しかったか?」
答える代わりにそんなことを聞いてきた。どうしたんだ静刃?なんか様子が変だが。それになんか恥ずかしいな。面と向かってそういうことを言うのは。
キンジ「何言ってるんだよ。まぁ…その…なんだ、楽しかったぞ。俺はあんまり男友達とあんな風に遊んだことはなかったからな。エイジも楽しかったって思ってるだろうな。」
キンジは恥ずかしそうに静刃に答えた。
静刃「そうか…ありがとなキンジ。エイジにも『ありがとう』と…そう言っておいてくれ。」
静刃はキンジの『友達』という言葉を嬉しく思うように笑顔でキンジに言った。
キンジ「ど、どうしたんだよお前。ほ、ほら!もう帰るぞ。今頃、皆が待ってる。エイジにもお前の口から言ってやれよ。」
今のこの空気は恥ずかしくて耐えられない。きっと静刃も寂しい思いが出てきてそんなことを聞いてきたんだろう。
キンジはさっさと帰ろうとするが…
静刃「悪いキンジ。俺は…もうそっちへは行けない。ここでお別れだ。」
キンジ「静刃?」
『そっちへは行けない』?『お別れ』?どういう意味だ…静刃?
キンジは聞き間違えかと思った。だが静刃の顔は笑顔だが…悲しんでいるような顔していた。武偵高でも何度か見た静刃のこの顔だが今回はどこか違うような感じがした
静刃「キンジ、俺な…『眷属』なんだ。」
キンジ「え……?」
眷……属。どういうことだ?静刃が…眷属?ダメだ、頭が回らない。そんなことは信じられないが、なら何故、静刃が『眷属』の名前を知っているのかという疑問も出てくる。
静刃「俺は『眷属』所属の傭兵の『妖刕』、原田静刃だ。イヴィリタの命令で『鬼払結界』を取り除くためにここに来た。」
また静刃が極東戦役に関わっていないと知らないはずの単語を出した。イヴィリタという名前は聞いたことないが、この静刃の言葉を信じるなら眷属の中でも発言力が高いメンバーなのだろう。
キンジ「お前…なんで…そのことを俺に…話すんだ?」
さっきから嫌な予感がする。作戦を喋るってことはもうその作戦は…!
静刃「さっき、アリスベルから連絡があった。作戦は完了した。玉藻にはひどいことをしてしまったから後で伝えてくれ。『すまなかった』と…。それに…友達のお前に嘘をついて逃げる形になるのは嫌だった。エイジには…話すかどうかはキンジが決めてくれ。」
そう言って静刃はキンジとは逆の方向に向かって歩き出した。さっき一瞬見えた表情はすごく…苦しそうだった。まるで友人との別れを…苦しむように。
キンジ「待て…行くな。行かないでくれ静刃…。お前は…なんで眷属に…」
静刃、お前とは短い間しか一緒にいなかったがそれでもわかるんだ!お前は悪事を働くようなやつじゃない。お前は…!
キンジはこの1週間、ともに遊んで、学校生活を過ごして、エイジも含めた3人で笑いあった日々を思い出しながら声を振り絞って…静刃を引き留めた。
静刃「なぁ…キンジ。お前と一緒に武偵高を見て回ったときに俺に話してくれたよな?『善と悪は見方次第』って。」
キンジ「ああ…話した。」
忘れもしない、俺と静刃が友達になったきっかけでもある武偵高の学校案内だ。その時、俺はたしかに静刃に『善と悪は見方で変わる』と話した。
静刃「キンジ、また1つ聞いていいか?お前から見て…俺は……眷属は『悪』か?」
そう言って、静刃は持っていた布に包まれた棒のようなものからくくっていた紐を解き、そこから本体―刀を取り出した…!
キンジ「眷属は悪だ静刃!今からでも遅くない。そんなところに身を置くな!」
静刃「そうか…。やっぱりお前はそう言うんだな。師団、『哿(エネイブル)』遠山キンジ。だが悪いなキンジ、俺にもやらなければならないことがあるんだ。それを邪魔するなら俺から見ればお前は…『悪』だぜ。」
キンジの『悪』という言葉のおかげで吹っ切れたのか、静刃はもう苦しんでいるような顔はしていなかった。そして手に持っていた刀の鯉口を切った…!
その瞬間、静刃の右目が光った。紅く。―紅く、紅く、紅く紅く紅く―!
これは…!孫の…『如意棒』なのか!?いや、違う、どこか違う感じがする。静刃の右目の光は強くなっていったのだが途中で輝きは落ち着いた。孫の『如意棒』による光の輝きは落ち着くことをしらず放たれるまでずっと輝きを増していた。つまり、これは『如意棒』とはまた別の物になる。
静刃「キンジ、今日は良い月だな。」
静刃は空を見上げた。月を遮る雲は少なく、月が煌々と俺たちを照らしていた。
キンジ「静刃…お前は一体…!俺はお前と戦う気なんてない!」
静刃「よく見ておこうぜキンジ、この月を。これが俺たちの別れとなる日の月だからな…!」
そう言い、月に照らされ紅く光る目を携えた怪人と見紛うような静刃は俺に刀を向け、走り出した…!!
Go For The Next!!!
2話「怪人は夜に舞う(オープンアクト)」終了。次回3話「風を駆ける1発の銃弾(ダイレクトライン)」(予定)に続く。
緋弾のアリアNo nameどうでしょうか?pixivに出しているものの2話までを出してみました。これはちょうど0章「名無しの武偵」編の終了までの話です。現在pixivの方では3話の2弾まで出しています。pixivで4話の途中までいったらここに3話を出していきたいと思っています。次の3話からは1章「極東乱戦」編が始まります。話の続きが気になる方はpixivで最新話まで読むことができますのでそちらで。自分のTwitterに貼ってますのでそこからでも見ることが出来ます。Twitter情報はプロフィールにのせていますので。ではまた!