僕はアリアさんに言われてからずっと自分の戦う意味というのを考えていた。ただ武偵として戦うというだけでは参加させてくれないらしい。それもそうだ、ただ武偵としてならそんな危険なものに参加しなくてもいいのだから。だが何も考えが出てこないまま次の日になった。
そもそもこういうものは考えて出てくるものじゃなくて元から持っているものだろう。今更考えても無駄な気がするが…極東乱戦に参戦するためにはとにかく見つけるしかない。
~武偵高~
キンジ「どうだエイジ、あれから考えはまとまったか?」
永二「いや…僕には守るものなんて見つからないし、みなさんを守るっていっても僕が守られる側だろうし…」
僕はどこか悲しい気持ちで答える。
永二「そういえばキンジさんはなんでこんな戦いに参戦してるんですか?キンジさんってこんな危ない戦いに出たがるイメージないんですけど…」
僕はふと疑問に思ったことをキンジさんに聞いた。
キンジ「俺か?まぁ俺は強引に参加させられたんだよ。ちょっと俺がいろいろとやらかしちまってな。それでバスカービルとして極東戦役に出ることになってしまった。」
そんなことが…キンジさんも大変なんだな。
キンジ「でも、何度後悔しても思うんだ。もしかしたらこれは俺の人生で決まってたことなんじゃないかって…」
永二「決まってた…こと?」
キンジさんが不思議なことを言う。キンジさんはあんまり運命だとかそういうことは言ったりしないのに。
キンジ「俺はアリアと出会ってから本当に苦労することばかりで命がいくつあっても足りないくらいだった。本当に今でも後悔している。けど、アリアと出会ってなかったらそれ以上に後悔してたかもしれないんだ。アリアと出会ったことで兄さんのことや自分のことで助かったこともあった。」
永二「なるほど…そんなことが。ってキンジさん、お兄さんいるんですか!?弟と妹は知ってますがお兄さんまでいたんですね…」
キンジさんは語ってくれたが僕はそこに驚いてしまった。キンゾーさんにかなめちゃんに…さらに兄も!どんな人なんだろう…やっぱりメチャクチャ強い人なのかな?キンジさんみたいに向かってくる銃弾を自分が撃った銃弾で逸らしたりするのかな…うわぁなんかすんごい化け物みたいな人が想像できてしまう。
キンジ「ああ…そういえば言ってなかったっか?一応、兄が……姉……いるぞ。」
永二「今の間なんだったんですか!?しかもなんか性別を考えてましたけど!?」
キンジ「なんというか複雑な事情があるんだよ。まぁ兄だ。」
なんか僕のキンジさんのイメージが「とんでもない化け物」から「何がとは言えないが不穏な感じの怪しい人」になってしまった…なんということだ、聞かなきゃよかった…
キンジ「自分の戦う理由なんて自然と出てくるものだ。そんなに深刻に考えるなよエイジ。おっとそろそろ一限目が始まるぞ。」
永二「はい、ありがとうございます。」
キンジさんはこう言ってくれたけど僕は内心焦っている。もちろん考えて出てくるものではないとわかっていても焦るのだ。みなさんと戦えないということや何も知れないまま終わるということが嫌だから。
アリア「……。」
そんな僕の焦っている姿をアリアさんは無言で見つめていた。
~昼休み~
永二「う~ん、結局なにも見つからないまま昼休みか…。僕には何があるんだろうか…?」
昼休み、屋上で1人パンをかじりながら考えていた。でも、ずっと考えていても見つからない。親はいないし、僕の居場所は武偵高くらい。その武偵高も僕より強い人ばっかりだから僕が守るなんておかしいだろう。う~ん、これマジで何もないんじゃ…
あかり「あれ?エイジ先輩ですか?1人でどうしたんですか?」
僕がずっと1人で考えていると屋上にあかりちゃんがやってきた。あれ?今日は佐々木さんと一緒じゃないのかな?
あかり「今日は志乃ちゃんやみんな用事であたし1人なんです。こんな偶然ってあるんですね…あはは…」
あかりちゃんは苦笑いでそう言った。あかりちゃんって友達多そうでいいなぁ。でも、今日は偶然にみんな昼休みに予定があったって…そんなことあるんだなぁ。
あかりちゃんはパンを持っていて僕の隣ではむはむとパンを食べ始めた。なんか可愛い。
永二「あかりちゃん、食事中のところ悪いけど1つ質問していい?」
あかり「え!?は、はひ!う!?うぐ!喉につまった…!」
あかりちゃんは僕が急に声をかけたせいかパンを喉につまらせていた。あかりちゃんは急いで持っていたお茶で流し込んだ。
あかり「えほっ!えほっ!すみません…変なところお見せして…なんでしょうか…?」
僕に変なところを見られたのがよほどショックだったのかズーンという音が聞こえそうなほど落ち込んでいた。
永二「えっと、おかしい質問なんだけど…あかりちゃんにはどうしても守りたいものって…ある?」
僕はあかりちゃんに聞いてみた。あかりちゃんにはそういうものがあるんだろうか?
あかり「もちろんありますよ!いっぱいあります!」
あかりちゃんにもやっぱりあるのか…。なんだか僕が本当に無価値な人間に思えてしまう。いや、ネガティブに考えすぎだとは思うけど守りたいと思えるもの1つも無いなんて人間として悲しく思えるんだ。
あかり「『志乃ちゃん』や『ライカ』や『麒麟ちゃん』、『桜ちゃん』や『高千穂さん』に『かなめちゃん』に妹の『ののか』。武偵高の先生だってそうです。アリア先輩や遠山も……遠山先輩もそうですよ。とにかく!武偵高のみんなが守りたいものです!!」
あかりちゃんは笑顔でそう僕に言ってきた。でも僕はそれに疑問を持つ。
永二「でも、その中にはあかりちゃんよりも強い人だっているじゃない?そんな人を守りたいって言うのは…どうなんだろう?」
あかりちゃんの友達の強さはわからないけど武偵高の先生やアリアさんやキンジさん、それに武偵高のみんなって言うんだったらあかりちゃんより強い人だっていっぱいいるだろう。そんな人たちは僕やあかりちゃんが守るって言ったって必要ないって言うに決まってる。
あかり「え?自分より強い人を守りたいって思っちゃったらダメなんですか?」
あかりちゃんはポカーンとした表情で僕を見た。
永二「え?」
それは僕の中でも思ったことがないものだった。
あかり「守りたいものって…自分が守りたいっ!って思ったらもうそれはそうなんじゃないですか?」
永二「守りたいって…思うもの?でも、もし…それが無かったら?」
あかり「きっとそんな人いないと思いますよ?人生って生まれてから守りたいものと出会う連続だってあたしは思うんです。その…さっきは言ってませんでしたけど…エイジ先輩だって…その…守りたいって思います。」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かがはじけた気がした。一気に曇り空が晴れたような…そんな感覚だった。
永二「そうだ…そうなんだ。あかりちゃんありがとう!僕なんとかなりそうだよ!」
僕はあかりちゃんの手を取って喜ぶ。
あかり「え!?あ!は、はい!なにかわかりませんけどお役に立てたならよかったです!」
あかりちゃんも顔を赤くしながら喜んでくれる。
永二「じゃあ、僕はもういくね。」
あかり「はい!」
~放課後~
強襲科の時間も終わりいつもなら残っていろんな特訓をしているが今日は違う。キンジさんの家に呼ばれていた。
そこにはアリアさんたちバスカービルのメンバー、ジャンヌさん、誰か知らないけど中性的な少年という感じをした人がいた。あと少し不思議に思ったのが理子さんの影が少し変だ。理子さんの制服がフリルだらけだからいつも影は変な感じになっているのだが今回は特におかしい。理子さんは両手を後ろに回しているはずなのだが影は一方の手を腰にあてていて一方の手には扇子みたいな物を持っているような形になっている。何故だ…。
アリア「さて…エイジ、答えを聞いていいかしら?あんたは何のためにこの極東戦役に参戦するの?」
そう…僕がこのメンバーに呼ばれたのはもちろんこの答えを聞くためだ。僕が極東戦役のこのメンバーに参加していいような人物かどうかを。でも、僕の答えは決まっている。
永二「僕は…僕の唯一の居場所である武偵高を守りたいです。そして武偵高のみんなを守りたい。もちろんアリアさんたち皆さんも含めて。」
アリア「………別にあたしはあんたに守られなくても大丈夫よ。それにここにいるやつらはあんたよりも数段強いし、武偵高にはあんたより強いやつなんかいくらでもいるわよ。」
アリアさんはやっぱり僕が思っていたことと同じことを言ってきた。前の僕ならここから何も言えなくて引き下がっていただろう。でも、あかりちゃんの言葉のおかげで目が覚めた。
永二「はい。…でも、僕が『そうしたい』からじゃダメでしょうか。僕は弱くて出来ることも少ない。足手まといで迷惑をかけることもあると思います。それでも!僕は武偵高を、皆さんを守りたいんです。」
アリア「……。」
そう、守りたいものに理由なんて本当はそれほどいらないんだ。いろんなことを理論立てて結果として大事だから守りたいと思うんじゃない。どんなものでもただ『守りたい』と思えればそれはもう自分にとって『大切なもの』なんだ。
アリア「なるほどね。でも、それじゃ参戦は認められないわ。」
永二「ダメ…ですか?」
アリア「守り『たい』じゃ、あたしたちと一緒に戦えないわね。」
永二「!」
そういう…ことか。これからの戦いは願望だけじゃ戦い抜けないって。そうアリアさんは言っている。つまり…僕はもうこの極東戦役に…
永二「はい、すみません言い直します。僕が……武偵高のみんなや皆さんを絶対に守ります!」
僕は言い切った。これからの戦いに身を投じるために。
アリア「よく言ったわ。これからは厳しいわよエイジ。」
永二「はい!」
こうして僕はとうとう『師団』に入り、極東戦役に参戦した。そしてアリアさんからこの極東戦役のこと、今まであった戦いのこと、僕たち『師団』のメンバーの紹介、そして…アリアさんが抱えている問題も聞いた。
永二「緋緋神…ですか?それでアリアさんは眷属に奪われた殻金…でしたっけ?それを取り返すために戦っているんですか…。」
アリア「そう。こんなこと言っても信じられないかもしれないけどね。この極東戦役はあたしにとっても大事な戦いなの。」
たしかに話はすごいぶっ飛んでいる。でも、こんな場所で嘘はつかないだろうし皆さんも知っているみたいだった。それにしても色金か…。この世界にはそんな不思議なものがあるんだな。超能力も信じられないがそれを超えた超々能力なんて何ができるか想像もつかない。
アリア「エイジ、あんたの情報は少なすぎてまだ眷属には十分には知られていないと思う。あんたはいうなればトランプでいう『ジョーカー』みたいなものよ。といってもあんたは弱いからこれからの成長次第だけど。」
ジョーカーか…。たしかに僕は弱いから全然ジョーカーとして効果は薄いだろうけどもし僕が強くなれば…その効果は絶大だ。これから起こる極東乱戦を優位に戦えるだろう。僕は一気にプレッシャーを感じた。
アリア「だからエイジ、あんたは自分の強化を急務とすること!みんなもそれは同じことよ。これから来る欧州戦線の眷属はヤバイやつばかりだろうし。」
ワトソン「ああ。アリアの言う通りさ。実際に戦ったから言えるけどこれからの戦いは気を引き締めないとすぐ死ぬよ。」
さっきの中性的な少年の感じを持つ人―ワトソンさんもそう言う。やはり戦ったことがある人というものはどこか説得力がある。特に僕なんかは気を付けないといけないだろう。
永二「でも眷属はどうするんですか?いつまでも攻められてばかりじゃさすがにキツくないですか?」
アリア「たしかにそうなんだけど強襲する側の情報っていうのは実は掴みづらい物なのよ。相手の拠点の情報だってわからないし、下手にメンバーを割いて移動したらその隙に逆にこっちの拠点を眷属に叩かれて守備役のメンバーだけで眷属の全メンバーと戦わなくちゃいけないなんてことがあったら最悪だし。だから日本に戦線を置かれるといろいろと厄介だったのよ。」
なるほど。相手の拠点の情報が掴めないし、たとえ拠点がわかってもそこ1つと限らないからメンバーをどう割くかも難しいってことか。それに罠にもかけやすい。それもこの『極東乱戦』の恐ろしいところだったんだな。それに強襲する側の方が戦いは有利だし。
アリア「それとエイジ、あんたにもう1つ!とにかく眷属との戦闘を避けること!交戦しても絶対に逃げることよ。今は力をつけなきゃいけないんだし。」
何度も言われるがやはり僕はまだ心配されてるんだろうな。この中では一番頼りないしね。
そして『師団』での話は終わった。僕は自分の寮の部屋に帰ってからはずっと銃の整備や戦闘のことを考えたりしていた。アリアさんも僕に気を遣って『ジョーカー』だなんて言ったんだろうけど僕が強くなれば戦闘が楽になるのは確かだし。まぁそんなすぐに戦うことはないと思うけどね…。そんなことを思いながら寝床についた。
僕はこの時少しだけ気を抜いていた。それだけは認めよう。でも、こんな戦いを経験したこともないから無理もないだろう。本当に『後悔』というのはよくできた言葉だ。後から悔やむのだから…