夫婦転生 二度目の人生を彼女と ~異世界にヲタク夫婦が兄妹で転生するらしいです~ 作:リムル=嵐
イヴの部屋で三人で寝た次の日、いよいよ合宿まで今日一日。
出発は明日、もう持ってく物の準備は終わってるし、今日は歩と二人っきりで出掛ける予定になってる。
今は待ち合わせ場所の公園で、一人ボーッとしてる。
前世の学生の長期の休みと言えば、大量の宿題が出てくるのがお約束。
今世でも、長期の休みで宿題が出たけど、その日の内に特待生皆で学校の図書館で終わらせた。
図書館が便利何だよな、国立だけあって広いし、本の状態を保つ為に、空調がガンガン効いてるから、快適だし。
宿題は復習の部分しか出ないから、俺達特待生組みはすぐに終わらせられた。
妹組みが若干怪しかったけど、咲さんと
その後は、意外な事に皆で好きな本を見付けての、読書だった。
印刷技術はあるから、本は娯楽の一つ。
体育会系の脳筋も、有名な英雄譚とか、知ってるやつ多いし、この国の人達は文字を読める人たちが多い。
そもそも国外に居たのに、特待生になれるレアギフト姉妹組は、あれ多分咲さんの影響だよな。
あの人本当に十六か分かんない位博識な時あるし、
日本列島は何万メートル級の山々が連なり、平地がほとんど無くて、八割以上が森という名の危険地帯に覆われてるって話なんだ、そんな過酷な環境に、子供だけで生き残るって事がまず有り得ない。
例え日ノ本の近くだろうと、国境の外と内は天と地ほどの差がある。
天皇のギフトの一つ
これがあるから、中級以下の魔獣しか、許可なく結界に侵入することは出来ず、中級以下なら国境付近に在中している軍隊に、討伐される。
つまり、中は余程の事がない限り、壁が無い原っぱでも、夜も寝ずの番なんて要らない位、安全性が高いのに、外は寝ずの番してても、運が悪けりゃ死ねる。
安全面では雲泥の差があるんだけど、一体どうやって暮らしてるんだ?
俺が、あーでもないこーでもないと、ぶつぶつ呟きながら考えてると、肩を叩かれて、そっちを見ると、歩が珍しく、機能性より見た目重視の格好で、恥ずかしそうにこっちを見てきていた。
膝上のちょっと短めのスカートに、ノースリーブのシンプルなワンポイントのシャツ、上から薄いジャケットを羽織ってる。
「えっと、待った?」
俺が驚いて何も言わないと、歩がちょっと棒読み気味に、王道染みた台詞を言う。
「いや、全然待ってない。それより今日はおしゃれだな、いつもより気合い入ってる?」
後半、ちょっとにやけながら言うと、歩は恥ずかしそうに目を逸らした。
「別に、いつもこんなんでしょ?それより、今日はどこに行くの?」
照れ隠しなのか、話題を逸らしてきた歩。
え?
そっちが決めてたんじゃないのか?
誘ってきたの、そっちだし、俺はてっきり買い物の荷物持ちだと、思ってたんだけど?
「いや、俺今日荷物持ちだと思ってたんだが?」
「約束破った埋め合わせなのに…………………何も決めてないんだ、へぇ。」
俺が考え無しだって分かると、歩が冷めた目で見てきた。
なんだその目は、まるで『デートなのにノープランで誘ってきたダメ男』見るような目で見てきやがって。
良いだろう、その目は俺への挑戦と受けとるぞ、前世で散々初音と出掛けてるんだ、プランの一つや二つ、即興で作ってやろうじゃないの!
「あ~、じゃあなんか要望とかあるか?」
俺が聞くと、歩が即答してきた。
つか少し声被ってた、速すぎだろどんだけ行きたいんだよ。
「初音と一緒に行った事の無い場所。」
つかなぜそんな条件?
ううむ、歩の考えがよくわからんなぁ。
まぁ、でもその条件なら何ヵ所かあるぞ。
「なら、何ヵ所かあるな、運動と静かにゆっくり出来る所、どっちが良い?」
「運動だな、昨日は一日部屋に居たから、身体動かしたいんだ。」
なら、あそこで簡単なの一つ受ければ良いか。確か、害虫駆除のなら、常に出てたしな。
「よし、なら良い所があるぞ。」
そう言って歩き出した俺の後を、歩がついてくる。
二十分位歩いただろうか、武家屋敷みたいな、大きな屋敷の門の隣に、安っぽい立て看板で『営業中』の文字が、達筆で書かれた目的地に着く。
「………なぁ、初、ここってもしかして。」
「ん?
あ、もしかして来たことある?
国外に行くことがあるなら、登録ぐらいしてるか、ここの登録出来れば、中級魔獣位なら、対処出来る証明になるからな。
そこからは、努力次第になるけど。
「ボソッ二人っきりで来る所じゃ無いじゃん。」
「何か言ったか?」
「いや、確かにここには、初音は連れて来ないだろうなって。」
あ~、うん、ここの奴等は、色々癖が強い奴多いからな、国外に出られるって事は、それだけ強いって事だし、この世界、強い奴等程、個性もキツくなるからなぁ。
「ここは、初音には刺激が強すぎると思う。せめて成人してからだな、それでも不安だけど。」
せめて幼女趣味の奴等の、射程圏内からは外さないと、死人が出るぞ、誰のせいでとは言わないが。
「私は良いの?」
「お前は男との方が取っつきやすいだろ、それに歩が巻き込まれるなら、先に俺が巻き込まれてる。」
俺は初音曰く、面倒事が向こうから走ってくるような人種らしいからな。
「それもそっか、何か良い依頼でもあるの?」
「いや、適当に良さそうなの無いかと思ってな。俺ら二人なら、一日護衛とか、家庭教師とか」
それを聞いた歩が、露骨に嫌そうな顔をする。
いや、分かってるよ?
家庭教師って事は、同年代に教えることになるし、一日護衛とかは、俺達より身分の低いやつの護衛になるし、完全にあべこべな構図になる事はさ?
でも、運動出来る所で、一日時間潰すってなると、こうなるよなぁ。
「せめて、護衛にしてよ、それか魔獣の討伐とか。」
「あれ死体の処理大変で、やりたくないんだけどなぁ。」
歩の嫌そうな言葉を聞いて、昔の苦労を思い出す。
ヘトヘトになるまで魔獣と殺し会いして、殺した後はクタクタになりながら、皮と肉とかの素材を別けて、残りを埋めるか焼くとかして、処理する必要がある。
魔獣の討伐は、旨味はデカイけど、その分死ぬ可能性も高くて、討伐専門にしてる人間じゃないと、危険過ぎる。
世の中、絶対は無いんだ、だからこんな無理しなくていい時は、安全第一で動こう。
そう考えながら、門を潜って屋敷の中に入ると、玄関前で見知ったおっさんが、あくびしながら掃き掃除をしてた。
「暇そうだなおっさん。」
俺が声を掛けると、おっさんが物珍しそうにこっちを見てきた。
あ、これ気付かれて無いな。
「んあ?ここはガキが来る所じゃねぇよ。ほれ、飴玉でもやるから、外で遊んでろや。」
「ほれ、歩。」
「ふあ!?…………ん、いきなりするの止めろ。」
飴玉を歩の口に放り込んで、呆れた目でおっさんを見る。
「俺だよ俺、雪姉の後ろをいつも歩いてた。」
「うぅん?………………ああ!!お前か坊主!?大きくなったなぁ!!!」
俺の言葉に数秒固まった後、気付いたみたいで驚いた表情で、頭を乱暴に撫でながら笑うおっさん。
「相変わらず撫でんのが下手だなおい。」
「お前は口が達者になったな!」
お互い笑いながら、軽口を叩く。
その後、軽くお互いの近況を報告する。
おっさん、未だ近所の子供に怖がられてるんだな。
子供好きなのに、ギフトのせいで怖がられてるとか、悲しいなぁ。
「お、おい初?」
その言葉で、歩が置いてきぼりになってた事に気付く。
歩が置いてかれてるから、そろそろおっさんを紹介しないとな。
「そういや、そっちの嬢ちゃんは?またえらく
「私は、鮎川 歩。今は訳有って、初の家の世話になってる。」
「俺は
おっさんこと、千奉はこの武家屋敷の管理人みたいな人で、武家屋敷の一部を万事屋に貸し出してる人だ。
万事屋は、国営施設の『魔獣案件対処部門兼職業斡旋所』……………ハローワークと
日雇いの派遣社員も、近いかもしれないな。
昔は毎日のように、通ってた場所だった。
「それで、今日は二人して依頼か?」
「いや、仕事探しに来たんだよ、護衛とか、身体を動かす仕事がしたいんだ。」
おっさんがそれを聞いて唸る。
俺の実力はしってても、歩の力は分からないだろうからなぁ、悩むのは仕方無いか。
「身体を動かす仕事ねぇ、討伐の仕事は、ここ最近は多いが?」
「討伐は、今日は準備してないから無理だ。」
「そうかぁ、奥でちょっと待ってろ、店長と仕事連れてくるからよ。」
おっさんが箒を玄関横に立て掛けて、屋敷の中に入る。
俺らも屋敷の中に入って、奥の部屋に向かう。
廊下の奥には、巨大な両扉があり、中に入ると畳張りの大広間に出た。
中にはもう既に飲んで、出来上がってる大人や、真面目そうに算盤弾いてる青年等、ざっと見て十人ちょいの人が、各々好き勝手に過ごしていた。
空いてた卓袱台に座って、卓袱台の上にあった水差しと湯呑みで、歩と自分の分の水を注いで一気に飲み干す。
「ふぅ、ほら、歩も飲めよ。」
「ん、ありがと。」
水差しの中の氷が、良い仕事してるお陰で旨い。
水差しから湯呑みに水を注いでると、歩が話し掛けてきた。
「なぁ、さっきの雪姉って、誰の事だ?」
あぁ、そう言えば、説明してなかったか。
「俺の昔の知り合いだ、半年だけ、稽古付けてもらった事がある。師匠みたいな人、かな。」
話ながら、雪姉こと、裏松雪奈の事を思い出す。
あの人は正常な種族進化をしないで、魔獣になったんだ。
確かあの人の話だと、
それなのに何故進化出来たのか、実はゴッド・エフェクトって言われても、納得の強さだった。
でも、事実として国にはロイヤル・エフェクトで認識されていたし、本人もそうだって言ってた………
戦闘向きなギフトではない
相性次第で、複数体相手でも平気だった。
なのに、
雪姉は俺を置いて消えた。
あの人は、いつも俺の失敗を笑い飛ばして、お気に入りの出店のたい焼きを食べるのが日課で、何でもかんでも新しさを求めてきて、ワサビ苦手なのに強がって寿司をワサビ入り食べて、涙目になって、年相応に騒げるのに、その癖妙に達観してたり、
あの日、俺が助けを呼びに行ってる間、何かあったのは確実なんだ。
相手は確かに特級魔獣だった、俺らがいつも利用してた森にはいない種族だった。
見たことない魔獣だったし、特徴的だったから、あの後調べたんだ。
女帝蜂、外来種の魔獣だ。
この島、日本列島の本島にはいない種族、
「待たせたな、仕事の件なんだが」
おっさんが、分厚い書類を抱えた青年を背後に連れてきてた。
書類を卓袱台に置いて、俺達の対面に、二人は座った。
店長と会うのも久しぶりだなぁ。
「初君、久しぶり、元気にしてたかい?」
「のんびりはしてたよ、俺は。店長はどうだ?」
「そうか、僕の方は忙しくてね、最近はずっとここで寝泊まりしてる位だ。仕事の話なんだが、要望は討伐は無しと、それでいて肉体労働か、駆除と捕獲、後は撃退の任務は沢山あるよ」
あのなぁ!
「それ全部魔獣関係じゃないか!今日はそっちの依頼は無理だ。」
「まぁまぁ。最近魔獣関係の依頼が増えててね。特に高難易度の依頼は、請けられる人間が少ないんだ。」
悪びれもなく言いやがって、こちとらデートだっちゅうに。
「だからってなぁ!」
「そちらのお嬢さん、登録証は持ってるかい?初めてなら作る事になるけど。」
人の話聞けやぁ!!
「忘れました。今日は元々来る予定じゃなかったので。」
「おいこら店長!」
「落ち着け坊主。」
むう、店長が強引なのはいつもの事だけどよ、一人ならまだしも、今日は歩とのデートだし………いや、歩の方が強いんだがな?
やっぱり男的には、なんつうかこう、リードしたいっつうか、優位に立ちたいっつうか、カッケェ所見せたいっつうか。
……………今更ながらこれ、初音にバレたら怒られるのでは?
いや、今日の事は知ってるし、初音は歩に何故かこっち方面で黙認状態だし、平気平気。
怒ってたら素直に土下座だな!
「それなら、登録した万事屋と名前を、ここに書いてくれるかい?借り発行した証明書を出すから、代金は依頼金から引いとくよ。」
そう言って出してきた書類に、すらすらと書いていく歩。
国外に出るだけなら、同行者が登録証を持ってれば良いんだけど、依頼となると、身元確認の為に必要だから、忘れた人間は書くことになってるんだよな。
因みに依頼を請けるのが一人の時は、トンボ返りして取りに戻るか、新しく登録証を作るしか無い。
「店長、魔獣関係以外の依頼は?」
「間に合ってるよ、どの依頼も緊急性が無いし、人手はあるからね。」
こいつ、依頼書出す気無いな?
ええい、こうなったら今日はどこか別の所で暇を潰せれば……………
「私は魔獣関係で大丈夫だ。」
は?
いや、ちょ、歩お前なぁ!
「そうかそうか、今はある種族が大量発生しててなぁ、レアギフト持ちじゃないと対処出来ねぇから、困ってたんだ。」
おっさんも
くそう、信じてたのによぉ!!!
「報酬は?」
「初君の実力なら、君の力添えも含めて、一体五千の歩合制の依頼はどうだい?群れの長を討伐で更に三万だ。」
そう言って書類の束から出してきた依頼内容に、仕方無く目を通す。
何々、ここから二時間の所にある森に、大量発生してる昆虫型の兵隊蜂、更にそれを率いる女帝蜂の討伐。
「なにこれ、難易度に報酬が釣り合ってない。」
歩が呆れて言う。
俺はそんなことより、この魔獣が気になる。
「陸軍国境防衛隊、北西部隊大隊長、跡部中佐?」
「未だ二十代の若手なんだけどね、軍隊指揮の才能がずば抜けてるってことで、上に行けた人だよ。」
「あそこら辺は、前の戦争でレアギフト持ちが少ねぇから、少人数じゃなくて、基本的に中規模の行動が多いからなぁ、他の所で少人数の指揮に慣れてる奴等じゃ、かえって邪魔だからな。」
女帝蜂って、本当に?
いや、でもそんなはず無いだろ、だって……この種は……………
「なんか怪しくないか?この依頼。……………初?」
!?
「どうした?」
「いや、この依頼怪しくないか?って、どうしたんだ?考え込んで。」
俺が喋ろうとしたら、先に店長が話し出した。
「あ、そういえば!魔獣殺しの最後の獲物って、確か…ッッッ!?」
俺が出した殺気に、店長が身構える。
無意識で出てた殺気を抑えて、軽く深呼吸してから店長に謝る。
「すまん店長、その話題出すと
「ついで軍人でもビビるような殺気を出すか普通!寿命が縮むわバカ坊主!!」
おっさんに頭叩かれて、もう一回頭を下げる。
すまんすまん、もう条件反射の域なんだよ。
「初、その話気になる。」
げ、歩が食い付いた、でも外で話したくないし、仕方無い、この依頼請けるか。
魅華月さんの里は、この国の通貨を使ってるから、お土産ように少し稼ぎときたかったし、丁度良いと思おう。
「この依頼、請けるからよ、さっきの話、もうすんなよ?」
俺の目の前でされると、条件反射で殺気飛ばすからな、その度にビビられても困るし。
「分かったよ、もうしないからさ、その代わり、場所が近いし獲物も同じだから、この依頼達も請けてってよ。」
そう言って目の前に二~四枚の依頼書が置かれる。
これ全部で多分、日が暮れるぞ?
簡単な依頼一つのつもりだったんだけど。
「最初から、辺り一帯の奴等は討伐するから良いよ………そうだよね?初。」
…………………はぁ、今日はお前の機嫌取りが目的だし、文句は無いがな?
「お前虫大丈夫だっけ?」
「触れなきゃ平気平気、多分。」
自分で聞いといてあれだけどな?それで良いのか元男よ。
最初は男らしかった歩が、もうすっかり女の子やってて、なんとも言えない気分になりつつ、今回の獲物の情報を思い出す。
あれは因縁深い魔獣だから、直ぐに思い出せた。
女帝蜂
名前と違い両性で、一体だけで卵を作る事が出来る。
女帝蜂から産まれた蜂は、兵隊蜂と言い、一体一体が上級魔獣程の能力を持つが知能は文字通り虫並。
本来は地中に巨大な巣を造り上げ、中でひたすら卵を産み、そして成長した兵隊蜂を
原理は良く解らないが、女帝蜂は成長した兵隊蜂を捕食する事によって、強くなる。
そして一定以上の強さを得ると、女帝は兵隊蜂とは別の卵を産む。
卵から産まれた蜂は、兵隊蜂を捕食して育ち、新たな女帝蜂として、巣を旅立つ。
繁殖方法はゲテモノの一言だ、だけど寿命は更にゲテモノ、確認された個体の中だと、実に数百年生きた固体もあるらしい。
この世界で、基本的に永くても百年程の虫の中では、一、二を争う長命種だ。
つかこれ以上は、種族じゃなく特異個体の領域になる。
災害級は、特異個体ばかりだから、寿命とかの衰弱死なんて、期待出来ないのが辛いわ。
で、そんな長命な女帝蜂は、その生涯の殆どを、産卵と捕食に割り振る。
機械的に卵を産み出して、義務的に兵隊蜂を捕食する、そうであることが決められた、何かの装置のように。
ま、虫なんてどれもそんなもんだろうけど、意思の欠片もないのは、正直気持ち悪い。
「請けてくれるみたいで良かったよ、必要な物はこの際だ、千奉に言えば用意してくれるから、遠慮なく言ってくれ。」
「何勝手に押し付けてやがる。別に良いけどよ…………無茶な物じゃなきゃ、用意してやるよ。」
じゃあと、遠慮なく必要な物を言ったら、皆が引いてた。
何故だ、解せぬ。
来月は下旬を予定してます。
それでは一ヶ月後にまた。